コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
「いっただきまーす!」
ムツキの元気な声が店内に響く。
便利屋68の面々は今日も今日とて柴関ラーメンへと来ていた。
大将の"ミス"により具材マシマシとなっているラーメンを啜りながらムツキは難しい顔をしているアルを見る。
「どうしたのさ、そんな暗い顔して」
「……何かひっかかるのよね…」
「何が?今何か悩む様な問題あったっけ?作戦の準備もバッチリじゃん」
「そうね…」
「ハルカちゃんが爆弾を設置したゾーンでアビドスをコテンパンにする、って」
「ええ…」
「それともお金のこと?でもあの鞄のお金のおかげで随分余裕が出来たじゃん」
アルはそれで持ち直すどころかなおも深いため息を吐く。
「うーん?もしかしてホームシック?ゲヘナに帰りたくなっちゃった?」
「違うわよ!」
「まあ、そうだとしても今ゲヘナに戻るのは難しそうだけどね」
「風紀委員会が面倒だもんねえ」
カヨコの言にムツキも頷く。
「まあ、ヒナさえどうにか出来れば勝機はあるだろうけど、まだまだ準備も足りないしね」
「今更ゲヘナに戻るなんて有り得ないわ…。はあ…」
うーん、とムツキは唸ってから、まあ良いや、とラーメンに向き直る。
「とりあえず食べちゃお。伸びちゃうよ、麺」
「で、ですが一人につき一杯なんて…良いんでしょうかこんな贅沢…」
ハルカは目の前にある4つのラーメンを信じられないものを見るように眺めていた。
「アビドスさんとこのお友達だろう?替え玉が欲しけりゃ言いな」
大将が朗らかに厨房から声をかける。
アルはその言葉にピクリ、と反応していた。
「こんなに美味しいのにお客さんはあんまりいないよね」
「場所が悪いんじゃない?廃校寸前の学校近くだし」
「かもね。…とりあえずいただきま…」
麺を口に運ぼうとしたカヨコであったが、ポツリと漏れ出たアルの呟きに気付き、手を止める。
「社長?」
「…じゃない」
「アルちゃん?」
「友達なんかじゃないわよーー!!」
アルはガタリと椅子から弾けるように立ち上がった。
「わっ?!」
「分かった!何が引っかかってたのか分かったわ!問題はこの店!この店よ!」
「どゆこと?!」
突然の事に困惑するムツキ達。
しかし、アルはそのまま興奮した様子で捲し立てる。
「私達は仕事しにこの辺りに来てるの!ハードボイルドに!アウトローっぽく!」
「なのになんなのよこの店は!お腹いっぱい食べられるし!あったかくて親切で!和気あいあいでほんわかしたこの雰囲気!」
ここにいると、とアルは頭を抱えながら叫んだ。
「皆仲良しになっちゃう気がするのよ!!」
「…それに何か問題ある?」
「ダメでしょ!めちゃくちゃでグダグダよ!私が一人前の悪党になる為には、こんな店は要らないのよ!
私に必要なのは冷酷さと無慈悲さと非情さなの!こんなほっこり感じゃない!」
「いやそれは考えすぎなんじゃ…」
ムツキもさすがに苦笑せざるを得ず、アルをどうどうと落ち着けようとする。
しかし、一人、ハルカだけは、アルの言葉を全て、額面通りに受け取ってしまっていた。
「それって…こんなお店はぶっ壊してしまおうってことですよね。アル様…」
「…へ?」
「良かった。ついにアル様のお力になれます」
ハルカは、何処からか装置を取り出して来て、ボタンに指をかける。
「ハルカ、ちょ、ちょっと待っ…」
カヨコは事態を察し、ハルカを止めようとしたが遅い。
ボタンにかけられた指は、そのまま勢いよく起爆装置を押下した。
「…へ?!」
─アビドス高校 対策委員会室─
アヤネはシステムによる警告を受け、端末から得られた情報を皆に共有する。
「半径10km以内で爆発を検知!近いです!」
「市街地…?!まさか、襲撃?」
「衝撃波の形状からC4爆弾の連鎖反応と思われます。砲撃や爆撃ではないですね…もう少し確認してみます!」
アヤネは端末を操り、詳細を分析していく。
そして。
「爆発地点、やはり市街地のようです。
詳細な場所は……え?!柴関ラーメン?!」
アヤネは空撮映像を困惑しつつ皆に見せた。
「柴関ラーメンが跡形もなく消えてしまいました!」
「はあ?!どういうこと?!何であの店が狙われるのよ!…まさか私を狙って!?」
「推測は後だ。敵が奇襲を狙っているのならば迅速に行動する必要がある。
アヤネはホシノに連絡を。他の者は柴関ラーメンに向かうぞ!」
ルルーシュは作業に使っていたシッテムの箱を懐にしまい、皆に指示を出す。
何者だ?交通の要衝でも戦略拠点でもないというのに…。
アビドスに何かしらの怨恨を抱く者がいるのか?
いや、それにしては若干回りくどい。
たった5人なんだ。あの規模の爆破を成し得るなら直接狙った方が利は大きいだろう。
このキヴォトスならば、事故という線もあり得るか?
何れにせよ、敵対勢力の攻撃であった場合、最優先は大将の安否確認と救出。
それと、敵の規模の把握だな。大勢力ならば一旦学校まで退くしかないが、小部隊であれば
ルルーシュは様々な状況を推測し、それらの状況に沿った行動方針を組み立てていく。
「ど、どうなっちゃったのよ!!大将…無事でいて…!」
セリカは不安げに漏らし、それに押されたアビドス生達のスピードは心なしか速まるのだった。
─ 柴関ラーメン跡地
「ゴホッ…ゲホッ…!うわあ、建物がなくなっちゃったよ」
「これは…」
「ゲホッ…」
ムツキとカヨコがまず起き上がり、辺りの惨状を認識する。
ついで起き上がったハルカは目をぐるぐるとさせ、縮こまる。
そして、最後に瓦礫を押しのけて出てきたアルは、混乱を顕にする。
な、何これ?何が起きたの?
事態を呑み込めていないアルに、ムツキが近寄る。
「アルちゃん…マジで?マジでぶっ潰しちゃったの?」
「え…え…?」
「情にほだされるからってあんなに優しくしてくれたラーメン屋さんをぶっ飛ばしちゃったの?
やるじゃーん!」
よっとムツキはアルを持ち上げる。
「これぞ正に血も涙もない大悪党!そんじょそこらの雑魚には出来ない鬼畜の所業!悪人中の悪人じゃん!」
「え?う…あ…」
「これがハードボイルドなアウトローってやつだね!すごいよアルちゃん!」
困惑の収まらない中、唐突な称賛を浴びせられたアルは、半分ヤケになったように笑った。
「あはははは!と、当然でしょう!冷徹無比!
情け無用!金さえ貰えれば何でもオッケー!
それがウチのモットーよ!」
「そういうことだったのね!」
誤魔化すような高笑いに被さる怒りの叫び。
「あんたたち…よくもこんな酷いことを…!」
セリカが怒気を含む震え声で便利屋の前に立ちはだかっていた。
『大将の無事を確認しました!幸い軽傷でしたので、近くのシェルターに案内済みです!』
"ヘイロー"を持たない市民もそれなりに頑丈なようだな。
不幸中の幸いというべきか。しかし…。
ルルーシュはチラリとアビドス生の顔色を伺う。
暴走しかねないな…。統率を取れると良いが…。
「つまり…大暴れしても良いってことよね?」
取れなさそうだ。
ルルーシュはセリカの気迫を見、手綱を握ることを半ば諦めた。
まあ、便利屋はアビドス高校を狙っているのだし、遅かれ早かれだったか。
「あんたたち、許さない。…ぜーったい、許さないから!」
アルは戸惑いを隠せていなかったが、ムツキ達はやる気満々といった様子である。
「噂をすれば」
「タイミングはズレちゃったけど、どうせいつかは白黒付けなきゃいけない相手だし…
確保してる傭兵をこっちに呼ぶ」
そこでアルは漸く気勢を取り戻し、あはははとわざとらしく笑って見せた。
「……こ、これで分かったでしょう!アビドス!わ、私がどんなに悪党かを!」
「何か無理をしてないか…?」
「し、してるわけないでしょう?!」
ルルーシュの苦笑混じりの指摘に、アルはたじろいでしまう。
「アハハ。アルちゃん分かりやすいもんね〜」
「ええい!うるさいうるさい!真のアウトローを見せてあげるわ!覚悟なさい!」
憤慨しつつ、彼女は銃を取り、構えた。
「それはこっちのセリフよ!便利屋68!!」
仕方がない。やるしかなさそうだ。
アルの妙な様子から何か事情があるのやも、と感じ取っていたルルーシュであったが、双方やる気満々といった様相であったため、一先ず戦うしかない、と割り切ることした。
「とりあえず、増援に来られては厄介だ」
アヤネ、とルルーシュは通信で呼びかける。
『はい!』
「傭兵に来られては面倒だ。連中の移動を妨害出来るか?」
『やってみます!』
「頼んだ。可能ならば送ったルートに誘い込むようにしてくれ」
『り、了解!頑張ります!まずは煙幕で…』
よし。アヤネに一先ず任せても問題はなさそうだ。
では次は目の前の便利屋だな。
「シロコは突撃!ノノミとセリカは散開し、ノノミは左前方5m!セリカは右前方4mの位置へ飛べ!」
指示通りシロコは便利屋の面々へと突撃していく。
それに合わせてセリカとノノミも動き、これにより、三方から便利屋を取り囲むような陣形となるのだった。
「斉射!」
「くっ…!ムツキ!ハルカ!」
包囲を打破するべく、アルは二人を呼ぶ。
ムツキとハルカは彼女の意図を汲んでおり、即座にムツキは爆弾を取り出し、ハルカはまだ残っている爆弾を起動するスイッチを押下した。
爆発音が辺りに轟き、爆風にアビドス生達は動きを阻害されてしまう。
「カヨコ!行くわよ!」
カヨコとアルがその隙を付いて飛び出し、ノノミを狙う。
「わっ!」
「─シロコ!」
2対1を作ろうとしたアルだったが、シロコがギリギリで割り入ってきた為、一旦後背へと飛び、正面戦闘を避けた。
「アヤネ!そっちはどうだ?」
『煙幕や相手のこちらに対する情報不足からスムーズには移動出来ていません。煙幕弾の着弾ポイントを調整して傭兵達の誘導もある程度上手くは行っています』
「よくやってくれた。助かるよ。…!」
その時、ルルーシュはカヨコが傭兵達に連絡を取ろうとしていることに気が付いた。
「セリカ!カヨコに向けて発砲!ノノミも周辺を撃て!…誘導されていると伝えさせるわけもないだろう?」
「…くっ!」
「ペラペラ策を喋って何の対策も打っていないはずもあるまい」
ルルーシュは一つの機器を懐から取り出してみせた。
「それは…!」
「そう。ジャマーだ。通信妨害さ。
先程のアヤネとの通信後に直ぐ起動させてもらったよ」
「随分と準備が良いんだね…」
「そりゃな。アビドスにはどうやら敵が多そうだったから、用意くらいしておくさ。…他にも例えば…」
ルルーシュは、指を鳴らすと同時、もう片方の手に持つ端末を指でタップした。
すると、何処からかドローンが複数機飛来し、小型のミサイルのような爆弾を便利屋に向けて発射する。
「何処から…!」
「柴関ラーメンは寂れているとは言えアビドス市街地のメインストリートの近く。
そして、この辺りは交通の要衝だからな、廃ビルの一つを依頼して改装させておいたのさ」
カヨコが辺りを見渡すと、人気が無いにも関わらず窓が幾つか不自然に開かれているビルがあった。
「あんな所に…!」
フッ。実験的なシステムを構築していたが、実戦の機会がもう訪れるとはな。
カイザー連中が実力行使に出た場合、間違いなくこの辺りにも侵攻するだろうから、何かしら防衛設備が必要だと進めていたが、これなら更に設備を拡大しても良さそうだ。
武装ドローン程度、普通に買えてしまうことをメリットに感じるとは思わなかったが。
まあ、特定される心配もないのはありがたい。
「カヨコちゃん!」
ムツキが増援として滑り込んだので、ルルーシュはカヨコをマークさせていたセリカを一旦退かせる。
「くっ…傭兵も中々来ないわね…」
「社長!どうも傭兵はあいつらに妨害されてるっぽいよ」
「なんですって?!……不味いじゃない!」
くっ、とアルは銃を手に構える。
「それでもあの少数でいつまでも抑えておけるものじゃないでしょう!ここを耐えれば援軍が来るということでもあるはずよ!」
「そんじゃあ、派手に暴れなくっちゃね」
ムツキは何処か楽しげに笑い、爆弾を投げ飛ばす。
「ハルカちゃんも!」
「え?あ、は、はい!」
「チッ。また爆弾か。セリカ、ノノミ、一旦場所を変えろ!」
そのタイミングで、ルルーシュの端末からアラートのような音が鳴る。
「ん?アヤネか」
『すみません!もう妨害出来る手段がなくなりました!』
「いや、むしろここまで良くやってくれた。助かったよ。
おかげで連中のルートは限定された」
ここはシロコ…いや、面の制圧力ならノノミか。
「ノノミ!ちょうど真後ろの通りへ20秒以内に敵傭兵部隊が姿を現す筈だ!射程に入り次第、マシンガンで斉射!」
「了解です★」
ルルーシュの予想通りの場所から、ルートを絞られた傭兵部隊の殆どが姿を現した。
「よーし。行きますよ〜」
ノノミのマシンガンによる斉射で傭兵部隊は混乱したようだった。
「な、何故分かって…?!」
「おい!下がれ!一旦下がれ!」
アルはその様子を見、内心顔を青くさせ、白目を剥かんばかりであったが、表面上の余裕をどうにか保たせていた。
「や、やるじゃない…中々どうして…でも…!」
瞬間、アルは背後に気配を察知した。
「…!?!」
振り返りざまに銃身を大きく振り、身体は後ろへと飛ぶ
しかし、即座に気配は彼女へと追いついてきた。
「くっ…!」
銃身が掠めたようで、シロコは赤く擦り切れた頬のまま、アルへと突進をかける。
「社長!」
「アルちゃん!」
両者、至近距離での発砲。
"ヘイロー"のないキヴォトス外の住民であれば胴体に大穴でも空いていておかしくないような強力な銃弾を二人とも直撃で受け、身体を仰け反らせた。
「シロコ!」
ルルーシュはそれ故に思わず飛び出しそうになったが、なおも足を踏み込むシロコを視認し、我に返る。
そうか、彼女達は大丈夫だ。
しかし、まだまだ準備不足も否めない。
ノノミも補給が必要になってくる頃だろうし、そうなれば傭兵に合流されてしまう。
ジリ貧であることに変わりはない、か。
「な、なんでこいつら…こんなしぶといのよ…」
しかし、アルにも確かにダメージは入っているようで、便利屋達も勢いを衰えさせつつあった。
また学校まで撤退を?いや、2度も同じ轍を踏んではくれないだろうな。
……やはりホシノがいないと一手足りないな。余りに人数が少なすぎる。
「アヤネ、まだホシノとは…」
瞬間、耳を劈く爆音が連続して辺りを震わせた。
「何だ?!」
「今度は何さ?!」
便利屋の新手か作戦かと過ったルルーシュであったが、予想外、と困惑したムツキから、それは違うと断定する。
では、誰が?
『ほ、砲撃です!3kmの距離に多数の擲弾兵を確認!50mm迫撃砲です!…標的は私達ではなく、便利屋の方みたいですが…』
迫撃砲だと?…しかも、便利屋が標的…?まさか…!
ルルーシュの推論は当たっていた。
アヤネが分析結果を口にする。
『兵力の所属、確認出来ました!ゲヘナ風紀委員会!1個中隊の規模!』
こんな時に、いや、こんな時だからこそ、か?
ゲヘナの指名手配犯を捕まえに来た、といった所か。
だが、ここはアビドス自治区に属する。
にも関わらず事前通告無しのこの攻撃。
──面倒が起きそうだな。
ルルーシュは土煙の向こうに影を現しつつあった、敵対勢力となり得る"イレギュラー"を忌々しげに睨むのだった。
今回も読んで頂きありがとうございます。
次回更新日は変わらず未定です。
次回もまたよろしくお願い致します。