コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
「アコ、この状況、説明してもらう」
空崎ヒナは、身体の小柄さを感じさせない迫力でもって、白いロングヘアを静かに揺らしながら佇んでいた。
『そ、その、これは…素行の悪い生徒たちを捕まえようと』
「便利屋68のこと?どこにいるの?今はシャーレとアビドスと対峙してるように見えるけど?」
『え、便利屋ならそこに…』
アコの指した先には誰もおらず、便利屋はいつの間にか忽然と姿を消していた。
『い、いつの間に?!さっきまでそこにいたはず…!』
「………」
『え、えっと、委員長。全て説明致します』
慌てるアコと反対に、ヒナは落ち着き払った様子で、「いや、もういい。だいたい把握した」とアコを遮った。
「察するに、ゲヘナにとっての不安要素の確認及び排除。そういう政治的な活動の一貫ってところね」
『……』
「でもアコ。私達は風紀委員であって、生徒会じゃない。シャーレ、ティーパーティー、連邦生徒会。そういうのは
「詳しい話は帰ってから。通信を切って校舎で謹慎してなさい、アコ」
『…はい』
すっかり気勢の萎んだアコは静かに返事をすると、大人しく通信を切るのだった。
ヒナはそのまま、アビドス生、そしてルルーシュ達と向き合う。
空崎ヒナ。ゲヘナ学園風紀委員会委員長にして、恐らくゲヘナの最高戦力。
先程までの戦いは彼女の意図するところでは無かったようだが、かといって、このまま大人しく引き下がる保障があるわけでもない。
矜持、組織としての威信。これが為に、この膠着にケリを付けて来る可能性も否定は出来ん。
だが、此方から動くのは悪手。
…さて、どう出るか。やはり、交渉を前提として──。
「じゃあ、改めてやろうか」
ルルーシュの思惑を他所に、シロコが好戦的な姿勢を見せる。
「なっ…!待て!」
『待ってください!ゲヘナの風紀委員長といったらキヴォトスで匹敵する人を見つけるのが難しい強者ですよ!ここは下手に動かず一旦交渉するのが吉です!どうしてそんなに戦うのが好きなんですか!』
「ご、ごめん…」
全部言ってくれたな。さすがはアヤネ、と言ったところか。
シロコの扱いも手慣れている。
一瞬泡を食ったようになったルルーシュであったものの、アヤネがシロコを引き留め、更に同じ考えを共有していたことを知り、安堵する。
『此方はアビドスの対策委員会です。ゲヘナの風紀委員長ですね。初めまして。
この状況については理解されていますでしょうか』
アヤネの問いに、ヒナは、もちろん、と頷く。
「事前通達無しでの他校自治区における無断兵力運用、及び他校生徒達との衝突」
けれど、とヒナはアビドス生達を見渡す。
「そちらが風紀委員会の公務を妨害したのも事実。違う?」
『…っ?!』
いいや、違うな、とルルーシュは反論に窮したアヤネに代わって介入した。
「へえ…?」
「アビドスの生徒達は単にアビドス自治区で突然武力行使を行った武装勢力から自治区を防衛しようとしたに過ぎない。
その勢力がゲヘナの風紀委員だったというだけのこと」
「そうね。"便利屋68を捕らえるためにやって来た風紀委員会"を貴方達は攻撃した。
事前通告はしてなかったけれど、さすがにそのくらいはアコからも聞いてるでしょ?」
「ああ。聞いている。それで?ヴァルキューレでもない限り他校自治区での警察権行使が無条件で認められる訳ではないだろう。
便利屋68に対する警察権の行使もここではアビドスの一存だ」
つまるところ、とヒナは息を吐く。
「無断で武力行使を行った風紀委員会の行為は公務として認められるものではない、と貴方は言いたいわけね?」
「君達のロジックでは公務になるのかもしれんが、アビドスの視点で言えばそうと認められずともおかしくはない。違うか?」
「その通りよ!」
「どちらにせよ、私達の意見は変わりませんよ?」
セリカ達がルルーシュの論に乗っかる形で気勢を上げる。
『ちょ、先生。皆も、待ってください!挑発しては…』
「この程度で暴発するようなら、風紀委員長なんてやれていないだろうさ」
『そうかもしれませんが…!』
「シャーレはアビドスの肩を持つ、と認識して良いのかしら」
「この件に関してはな。君達の方に理があるなら違っただろう」
「………」
ルルーシュは、ある種の確信を既に抱いていた。
ヒナが強攻策に出ることはないだろう、と。
もしその手を取るならば、アコを切る必要はなかった。
しかし、この事態の責任者であるアコを一度切り離した以上、無意味に状況を悪化させる真似を望んではいないと。
それに、確かに此方は限界だが、それを敵方に報せるような弱気を見せる必要はない。
まだ余裕があるかのように、秘策があるかのように振る舞う事で牽制する。
そうでなければ、風紀委員会の言い分をそのまま受け入れざるを得なくなりかねない。
ルルーシュはその考えもあり、あえて強気に出ていた。
しかし、端から見た空気はどんどんと緊迫していっており、アヤネはあうう、と力なく漏らす。
『こんな時にホシノ先輩がいてくれたら…』
「ホシノ…?」
ヒナは、ピクリ、とアヤネの呟いた名に反応した。
『…?』
「アビドスのホシノって、もしかして、小鳥遊ホシノ…?」
『はい?』
アヤネが首を傾けた時、丁度、静かな通りに呑気な声色がやって来た。
「うへ〜…こいつはまた何があったんだか。
凄いことになってるじゃ〜ん」
「!!」
「えっ!?」
「ホ、ホシノ先輩!?」
驚く面々に、ホシノはごめんごめん、と苦笑する。
「ちょっと昼寝しててね〜、少し遅れちゃった」
…昼寝、ね。
ルルーシュは今はあえて目を向けることはせず、ホシノの言を受け流す。
それよりも、ホシノの姿を見るや、目を見開き、驚愕、というよりも困惑を浮かべるヒナの方に彼の注意は向いていた。
「昼寝ぇ!?こっちは色々大変だったのに!ゲヘナの奴等が…!」
「でも、もう全員撃退した」
「まだ全員ではないですが…まあ、大体は」
へえ。とホシノはヒナの方に目を向ける。
「ゲヘナの風紀委員かあ。便利屋を追ってここまで来たの?」
「……」
「うーん。事情はよく分からないけれど、これで対策委員会は勢ぞろいだよ。ということで、改めてやり合ってみる?風紀委員長ちゃん」
嬉しい誤算だな。ホシノが実際に合流したのであれば、これ以上の牽制はない。
恐らくゲヘナの情報部も、
ホシノの強さに関しては間違いなく把握している筈。
元々、その気は無さそうだったし、こうなれば、ヒナとしては──。
「1年生の時とは随分変わった。人違いじゃないかと思うほどに」
「ん?私のこと知ってるの?」
「情報部にいた頃、各自治区の要注意人物たちをある程度把握していたから。
…特に、小鳥遊ホシノ。貴方の事を忘れるはずがない」
…あの様子だと俺がまだ把握出来ていない情報も持っていそうだな。
「あの事件の後、アビドスを去ったと思っていたけど…」
そうか、そういうことか。とヒナは一人、納得したように呟く。
「だからシャーレが…」
恐らく、何か深読みしているようだ。まあ、現況においては悪くは無いだろう。
実際の所はホシノ関係でアビドスに来たわけではないのだが。
「まあいい…私も戦うためにここに来たわけじゃないから」
ヒナはそう言うと、後ろで静かに息を潜めて事態を見守っていた風紀委員の方を振り向いた。
「イオリ、チナツ」
「…はい」
「撤収準備。帰るよ」
「えっ?!」
フッ。やはり、か。
ルルーシュにとっては予想通りであったが、余りにあっさりとした幕引きに、イオリのみならず、アビドス生達も驚いていた。
『帰るんですか…!?』
驚くアビドス生達を一瞥したヒナは、武器を近くにいた部下に一度預けて、ゆっくりと向き直った。
そして──。
これはさすがに予想外だ。
頭を下げる、か。
確かにケリを付けに来たのだろうな。
身内の失態のケジメを…武力にかまけたプライドを優先するような愚劣を用いず、自らの威信でもって。しかもそれが傷付くことを恐れずに。
………。
ルルーシュは自らの
「えっ…?」
ルルーシュのみならず、ホシノにとってもこれは予想外だったのだろう、困惑を浮かべる。
「事前通達無しでの無断兵力運用。そして、他校自治区での武力行使。このことについては、私、空崎ヒナより、ゲヘナ学園風紀委員長として、アビドスの対策委員会に対して公式に謝罪する」
「!?」
「今後、ゲヘナの風紀委員会がここに無断で侵入することはないと約束する。どうか許して欲しい」
頭を下げるヒナに、しかし、ま、待って、とイオリが納得出来ない様子で言う。
「あの校則違反者達、便利屋はどうするんだ?!」
しかし、ヒナにジロリと一睨みされ縮こまってしまった。
「ほら、帰るよ」
そうして風紀委員会は嵐が過ぎ去るかのように、慌ただしくスピーディーに撤収していくのだった。
「シャーレの、ルルーシュ先生」
最後に残った空崎ヒナは、去る直前、ルルーシュを呼び止めていた。
「ん?」
「…これは直接言っておいたほうが良いかと思って。アビドスに入れ込んでるみたいだし」
「入れ込んでいるわけではないが…まあ、良い。それで、何だ?」
「カイザーコーポレーションは知ってる?」
「…よく知っているとも」
「…そう。これはまだ万魔殿もティーパーティーも知らない情報だけど」
ヒナの前置きに、ルルーシュは興味を惹かれる。
「へえ?そんな重大な情報を私なんかに伝えても良いのか?」
「……シャーレはそういう組織なのでしょう」
「…つまり、アビドスに収まらない問題が?」
「さあ。それも含めて
…アビドスの捨てられた砂漠。あそこでカイザーコーポレーションが何かを企んでいる」
「アビドス砂漠で…?」
なるほど。道理で中々情報が集まらないと。
市街地ではなく、人もいない砂漠に奴等の本命があるのだとすれば、納得が行く。
「そう。…本当なら廃校寸前のアビドスに教える義理はないのだけれど。一応ね。お詫びも兼ねてって事で」
それじゃあ、とヒナは今度こそ背を向ける。
「また。ルルーシュ先生」
「ああ。…そうだ。さっきはすまなかったな。少し言い過ぎたかもしれん」
「…別に、非があったのは私達だもの。気にしてはいないわ」
「そうか。…その内ゲヘナにも行かせて貰うよ」
「ええ」
ルルーシュがアビドス生達の下へ戻ると、丁度ホシノがアヤネに詰められているところであった。
『──そもそもホシノ先輩は今まで一体どこで…!』
「ごめんごめん」
『はあ…なんだかさらに大事になってきている気がします。
慌ただしいことばかりで、分からない事だらけです』
「アヤネちゃん…」
とりあえず、疲れた状態で考えても仕方ないということで、この日は一度解散し、各々休息することに決まる。
「…先生」
シロコは、皆の後ろを歩くルルーシュへ呼びかけた。
「風紀委員長が最後、先生に何か話しかけてたけど、何の話?」
「…そうだな。明日、皆の前で話すよ」
「うん。分かった。それじゃあ、帰ろう。先生」
─翌日、早朝。
アビドス市内某所。
「はあ…」
陸八魔アルは、何度目か分からないため息を吐いていた。
その理由は、たった一つに集約される。
「アルちゃ〜ん、さっきからため息ばっかりだよ。さっさと荷物運ぼう?」
「はああ…」
「あ、あのこれは何処に運べば…」
「ん?何それ…ああ、アルちゃんが天賦の才を発揮した書道の残骸か。あっちの燃えるゴミで良いよ」
「…捨てないでよ!持って行くに決まってるじゃない!」
アルは危うくゴミ袋に纏められそうになっていたそれを奪取する。
「でもこれ、書道の宿題で書いたやつでしょ〜?
ほんとに要る?しかもこれ、"一日一悪"って何?どういう意味?」
「き、きっと10年後には10億円くらいの価値が…はあ…」
「打っても響かないし、元気ないねえ。アルちゃん」
「社長、どうしたの?」
荷物を運び戻ってきたカヨコは覇気がないアルを見て言った。
「アルちゃん。事務所を引っ越すのが嫌みたい。
でも、風紀委員に場所を知られちゃったし、任務も失敗でクライアントからも狙われるだろうし、仕方ないでしょー?」
ムツキの正論に、アルは益々元気を無くしていく。
「そういえば、アビドスとの戦いも中途半端に終わっちゃったね」
「仕方ないでしょ。一緒に背中を合わせて戦った人達を今になって狙うなんて、出来るわけないじゃない!」
はあ、とアルのセリフにカヨコはため息をつく。
「あのカバンのお金も、残り全部ラーメン屋の修理代として置いてきたし、本当にこの社長は…」
「うるさいうるさい!だって…だって…」
意気消沈した様子でうめくようにアルは絞り出す。
「ハードボイルドなアウトローは、私は…」
「本当に、手のかかる社長だ」
「でもこういうのがうちのアルちゃんだもんね?一緒にいてすっごく楽しい!」
「はい、私もそう思います!アル様!わ、私アル様がいなかったら、きっと今こうして生きていられない筈なので…」
ゴミを纏めてきたハルカもそう言って加わった。
「元気出してください!私が一番尊敬しているのはアル様ですから…!」
と、そこに扉をノックする音が割り込む。
「ん?お客さん?こんな時に…?」
「まさかもう追手が…?」
ガチャリと開かれた扉。
ムツキ達は引っ越し作業に邪魔で置いていた銃を手に取っていた。
「何だ。引っ越し中か?邪魔をしてしまったようだな」
「せ、先生?!」
扉から顔を出したのはルルーシュであった。
「何でここに?!」
「様子を見に来ただけだ。昨日は世話になったからな」
「こ、此方こそ…昨日はありがとうございました…!」
「大したことはしていないさ。結果的に、ではあるものの、君の仕掛けた爆弾に助けられたのは事実だしな。ハルカ」
しかし、とルルーシュは事務所を見渡した後、そうか、と納得したように小さく頷いた。
「風紀委員に居場所が割れたから、というところか?」
「別の任務を求めてちょっと移動するだけよ!」
「そうなのか?では次の移転先を教えてもらいたいのだが」
「え…?い、いやそれは…」
言葉に詰まるアルを可笑しそうにムツキは楽しんでから、ルルーシュに言う。
「あははっ。変に見栄はるからだよアルちゃん。
風紀委員もだし、任務失敗ってことでクライアントにも狙われるかもだからさ」
「ああ。そうか、なるほどな。それなら仕方ない。ならせめて連絡先を教えてくれるか?」
「え〜?先生積極的じゃ〜ん」
ムツキのからかい。
ルルーシュと言えどさすがにこの程度で慌てることはない。
「単に、依頼を出すことがあるかもしれないからだよ」
「へ?依頼を…?誰に…?私達!?」
「ああ。何でも屋なんだろう?近々、頼むかもしれん」
「……ふ、フフフッ」
数秒程、呆気に取られていたアルだったが、我を取り戻し、怪しげ─に見える笑みを浮かべた。
「ウチは高いわよ?」
「問題ない。なんなら前金を払おう」
「いいえ。前金は受け取らないの。ウチはね」
「へえ?理由を聞いても?」
「クライアントに縛られることになっちゃうでしょ。私達は私達のやり方で依頼を達成する。
それが便利屋のポリシーよ」
ふむ、とルルーシュは顎に手を置き、呟く。
「なるほど…。ああ、そうか。万一失敗して世間に知られたとしても、クライアントは知らぬ存ぜぬを切り通せる。双方にメリットのある手法、というわけだな」
中々考えられている。というルルーシュの感心に、アルは内心では、た、確かに─!とそんな事は全く想定していなかったという反応をしていた。
「え、ええ。そうよ!アウトローとして当然の事ってわけ!」
「分かった。それでは君達のやり方に合わせよう。しかし、依頼料は問題ない。此方の予算としては1千万」
「いっ…!?!?」
これにはアルのみならずカヨコやムツキも目を見開いていた。
「ん?少なかったか?
無論、依頼内容次第で更に上乗せすることもあり得る。ブラックマーケットの相場と、昨日までに見た君らの実力も踏まえた一先ずの概算だ」
「さ、最初に提示する額としてはま、まあまあね…それなら内容によるってとこかしら」
「そうか。それは良かった。なら、また連絡する。その時に詳しい条件や依頼内容を話そう。
まだ、確定ではないことだしな」
へ、平然としてる…。
これが大人の余裕ってやつ…?!
1千万をとりあえずって!とりあえずの額ではないでしょ!
カイザーでやっとそのくらいの提示だったわよ?!
内心での動揺を隠しつつ、アルは笑う。
「ふふ。フフフ。勿論よ。またその時に連絡をちょうだい。…それに、先生。貴方とパートナーとして協業するのも悪くなさそうね」
「ふむ。クライアントとコントラクターの関係ではなく、ビジネスパートナー、か。面白い提案だな。考えておくよ」
「い、今はウチが忙しくしてるから、また今度だけれどね」
「ああ。分かっているよ。忙しい所の邪魔をしてしまって悪かったな」
それじゃあ、また。とルルーシュは扉を潜る寸前、そうだ。と、アル達の方へ振り向き、笑いかけた。
「シャーレにもその内遊びに来ると良い。いつでも歓迎するよ。お礼もしたいし」
ルルーシュの去った後、アルは呆然と彼の消えていった扉を見つめていた。
か、カッコいい…。
何か全体的にスマートだったわ。
ずっと平然としてたじゃない。
1千万もだけど、少しぐらい意趣返しになるかと思ったのに協業の話も何かすんなり受け入れられちゃったし!
──あれが大人…。参考にしなくちゃ。
「あー。アルちゃんがまた…」
「はあ…。とりあえず暫く放って作業進めようか」
「だね〜」
数時間後、便利屋一行は荷物を大量に載せたトラックと共にアビドスを去るのだった。
今回も読んで頂きありがとうございます。
次回更新日は変わらず未定ですが、早めに出来るよう頑張ります。
次回もよろしくお願い致します。