コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐   作:ライト鯖

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Archive-023 ありふれた悲劇

 

ルルーシュは便利屋を見送った後、病院でセリカ達と待ち合わせていた。

 

「こんにちは。大将、お見舞いに来ました」

「大将、大丈夫?」

「やあ、セリカちゃん、アヤネちゃんも、わざわざありがとう」

「おかげんいかがですか?大将」

「ああ、先生まで。大丈夫大丈夫。ちょっと擦りむいただけさ」

 

擦りむくだけで済むのはやはり、キヴォトスの異質さだな。

 

「でも…お店は…」

 

セリカが小さく切り出した。

 

「ああ、バイト出来なくなっちゃってごめんな。セリカちゃん」

「そういう問題じゃないわよ…」

「…まあ、そもそも店を畳む予定だったからな。予定がちょっと早まっただけだ」

「店を…?」

 

確かに、繁盛しているとは言い難かったが、それなりに客はいたし、遠方からも足を運ぶ常連がいるほどだというのに。

客足以外の別の理由、か?

 

「ちょっと前から退去通知を受け取っていてね」

「た、退去通知って、何の話ですか?アビドス自治区の建物の所有者はアビドス高校で…」

 

アヤネの困惑した様子に、大将は「そうか。君等は知らなかったんだな」と小さく言った。

 

「何年か前、アビドスの生徒会が借金を返せなくて、建物と土地の所有者が移ったんだ」

「えっ!?」

「う、嘘?!アビドスの自治区なのに?!じゃあ一体誰が?!」

「──カイザーコーポレーション、ですか?」

 

ルルーシュは殆ど確信を持って尋ねる。

 

「そんな名前だった気もするが…悪いな。はっきり覚えてねえや」

「そんな…でも、そういうことなら…」

 

数秒程、アヤネは熟考してから再び口を開いた。

 

「セリカちゃん、先生。お二人は先に学校へ戻っていてください。私は確認したいことがあるので、ちょっと別の所によってから戻ります」

「ん?なんのこと?よく分からないけど…私も一緒に行く!」

「では先生は教室へ戻っていてください!私達も直ぐに戻りますので!」

「……了解だ。私からも情報がある。また後で共有しよう」

「分かりました」

「大将、まだ引退なんて考えないでよ!分かった?!」

 

去り際、セリカがそう強く大将に言う。

 

「お、おお。……あっ。そうだ。セリカちゃん。最後に、店のところに大金の入ったバッグが置かれてたんだけど、何か知ってるかい?」

 

それには、心当たりのあったルルーシュが答えた。

 

「お店の再建に使ってください。多分、大将のラーメンが好きな誰かが置いていったんでしょう」

「お、おお?」

 

じゃあ、とアヤネがセリカを呼ぶ。

 

「行こう!セリカちゃん!」

「うん!…先生、また後でね!」

 

慌ただしく去る二人を見送ってから、ルルーシュはバッグを手に取り、大将を見る。

 

「入院中、ここに置いておくのも不用心だ。私が預かっておきましょうか?」

「え?うーん…。確かに。まあ、先生なら安心だな。頼んでも良いのかい?」

「ええ。退院される時にお返ししますよ」

「お返しつっても、誰かの落し物かもだけどな」

「ははっ。それはないと思いますよ。それじゃあ、預からせて貰います」

「悪いね。ありがとう」

「ええ。それでは、お大事に」

 

さて、洗浄(ロンダリング)しておくか。

大将が無用のトラブルに巻き込まれないようにせねばな。

 

バッグに入った大金を一瞥したルルーシュは、瓦礫の上でオロオロしていたアルを思い出し、吹き出すようにして小さく鼻を鳴らすのだった。

 

アビドス高校から少し離れた場所で、ルルーシュは呼び出した部下にバッグを預けて指示を出し、そのまま学校へと向かう。

 

ブラックマーケットを経由せずに洗浄するには、か。

一先ず俺の資産を現金化して入れ替えるとして、入れ替えた後は──。

そう言えば、ちょうど良さそうな学園が一つあったな。

今度行ってみるとするか。

 

「ん?」

 

ルルーシュは丁度、ノノミと校門前で鉢合わせた。 

 

「あ、先生。思ったより早かったですね★」

「ノノミもな。今日も掃除を?」

「はい。なんだかじっとしていられなくて…。

大将の容態はどうでしたか?」

「身体の方は元気そうだったよ」

「…そうですか。それは良かったです。この目でご無事を確認したい気持ちはありましたが、余り大人数でもご迷惑になりますものね」

 

でも、とノノミは眉を下げる。

 

「身体の方は、ということはそれ以外の所で、問題があったということですよね?」

「ああ。その件については後で話そう。皆も知っておくべきことだしな」

「気になりますが、そうですね。後でみんなで話しましょう」

「そうだな。では教室に…ん?どうしたノノミ」

 

ルルーシュはじっと顔を見つめられていることに気付き、そうノノミへと尋ねた。

 

「いえ…まだそんなに経っていないのに、思えば先生がいらっしゃってから急激に色々な事が変わった気がします」

「たくさんの良いこと、嬉しい事がありました。色んな問題を解決出来ました。…なのに、新しい問題が、次々に立ちはだかって…」

 

ノノミは不安げに、呟くように言う。

 

「次は、何が来るのでしょう…」

 

すみません、と不安を打ち消すようにしてノノミは笑った。

 

「暗いお話をしてしまいました。それでも、私達はアビドスの為に進むしかありませんし…先生も一緒にいてくださいますか?」

「ここまで来て、今更知らんふりなど出来るわけもない。勿論、最後まで付き合うよ」

「ふふっ。心強いです」

 

二人が会話を区切り校門に向き直った時、丁度背後から声がかかった。

 

「ノノミ、先生」

「あ、シロコちゃんも早かったですね」

「うん……ホシノ先輩は?」

「ホシノ先輩は多分校舎の何処かでお昼寝中かと…」

「…そっか」

 

シロコは何か考え込むように黙ってから、ルルーシュの方を向き、話題を変える。

 

「先生。大将の容態は?」

「身体は元気だったよ。ただ幾つか問題が出てきてな。アヤネ達が今調べている所だ。

後で纏めて話すよ」

「…分かった」

「シロコ。何かあったのか?」

「…先に行って待ってるね」

 

妙な様子のシロコにそう尋ねるも、シロコの方はそれに答えることなく、そそくさと行ってしまった。

 

「どうしたんでしょう…」

「……。様子がおかしかったな」

「先生もそう思いましたか?…何でしょう、ちょっと不安そうというか、焦っているようにも見えました」

「…私達も中に入ろうか」

 

校舎に入り、廊下を歩くルルーシュ達の耳に、何かを叩きつけるような音が届く。

 

「ん?」

 

そして、微かに声も聞こえる。

 

「いたた…痛いじゃ〜んシロコちゃん。どしたの?」

「…いつまでしらを切るつもり?」

 

「うへ〜。何のことを言ってるのか、おじさんには分からないな」

「…嘘つかないで」

「嘘じゃないって〜…ん?」

 

ホシノは気配に気付き、目をシロコの背後に向けた。

 

「ホシノ先輩!シロコちゃん!どうしたんですか?!」

 

音を聞きつけたノノミが丁度駆け込んでくる。

 

「…どうした?」

 

ルルーシュも後を追って教室へと入る。

 

「ん…その…ホシノ先輩に、用事があるの」

「悪いけど、二人きりにして」

 

シロコはいつになく険しく眉を歪めて言ったが、ノノミに「ダメです★」と一蹴されてしまう。

 

「対策委員会に"二人だけの秘密"みたいなものは許されません。何と言っても、運命共同体ですから」

「…でも」

「ですので、きちんと状況の説明もしてくれない悪い子には…お仕置き★しちゃいますよ?」

「う、うーん」

 

シロコは困ったようにホシノとノノミを交互に見る。

 

「えっとねえ…実はおじさんがこっそりお昼寝してたのがバレちゃったんだよね〜」

 

ホシノがわざとらしい苦笑を浮かべつつそう宣う。

 

「おじさんが怠けてるのはいつものことだけど、ここんとこ酷いって怒られちゃったのさ〜」

「あ、う、うん…」

「まあ、あんな怒られるとは思わなかったけどね〜。それより、皆集まる時間でしょ?ほら、いこいこ」

 

不自然に話題を切り上げ、ホシノはさっさと対策委員会の教室へと行ってしまうのだった。

 

「…行ってしまったか」

 

シロコもそれに続いて教室を出る。

 

セリカ達を待つ対策委員会の部屋は、これまでにないほど重苦しく、気まずい雰囲気が漂う。

殆ど言葉も交わされず、無言の時間が続いた。

 

そんな空気を打ち破るようにして、扉を勢いよく明け放ってセリカが戻ってくる。

 

「大変!皆!これ見て!」

「自治区の関係書類を持ってきました。これを……?」

「あれ?」

 

飛び込み、興奮した様子の二人だったが、他の皆の静けさに違和を感じ、首を傾けた。

 

「な、何?この雰囲気」

「何かあったんですか…?」

 

ルルーシュはホシノを一瞬チラリと見てから、小さく息を吐き、口を開いた。

 

「一先ず気にするな。それよりもお疲れ。何か分かったのか?」

「う、うん…。いや、それよりも!」

 

とんでもないことが分かったの!とセリカは書類の束を机に広げる。

 

「はい。衝撃の事実です。まずはこれを見て下さい」

 

アヤネがめくったファイルに綴じられていたのは、地図だった。

地図ではあるが、それが示す情報は、建物の位置だとかそういう類いのものではない。

 

ルルーシュは一目でそれが何か理解し、凡そ事態の察しも付いていた。

 

「直近までの取引が記録されている自治区の土地台帳、"地籍図"です」

 

…なるほど。完全にノーマークだったな。

もっと早くに気付くべきだった。

カイザーの弄する策にばかり気を取られてしまっていた。

 

ルルーシュは、苦虫を噛み潰したように歯を噛み締める。

初歩的、と彼自身は考えたミスに、自分自身に、憤っていた。

 

「土地の所有者を確認出来る書類、ということですか?」

 

何が何やらという様子のノノミが言う。

 

「でも、書類なんて見なくても、アビドスの土地は当然アビドス高校の所有で──」

「…カイザー。恐らくコンストラクションか?」

「う、うん…。何で分かったの!?」

 

セリカがルルーシュの呟きに驚きを見せる。

 

「むしろ、今まで気付かなかったのは、私の失態だ」

 

そも、アビドス生達が把握しているだろうと、思考から外してしまっていた。

第一、キヴォトスの常識から考えてそうそうあり得ない事象。

 

だが、そんな常識や、ルールを無視した取引が可能な存在が、アビドスには、いや、キヴォトスの学園自治区には存在する。

しかし、そんな特殊なものだからこそ、知っているはずだと、高を括っていた。

それに、書類を見る限り、私有地という形ではなく、そもそもの所有を塗り替えるような転籍。

 

明らかに異常だ。

まるで行政かのように柴関ラーメンという大将の私有地に退去を命じていることからもそれは分かる。

だからこそ、気付けなかった。

単に土地を所有している、というだけではなく、事実上支配しているとはな…。

 

…いや、これは他責だ。

思い込みで可能性の一つ、それの追及を怠っていたことは事実。

やはり、俺のミス。俺の失態だ。

くそっ。もっと詳細に土地を調べておくべきだったか。

 

「大将から話を聞いた時点でもしやとは思っていたが…これは…酷いな」

「せ、先生?どういうことですか?」

 

困惑するノノミに、ルルーシュは地図を指差し、説明する。

 

「アビドスの土地、その殆どは、アビドス高校の所有ではなくなってしまっている」

「えっ…!?」

 

ホシノも目を見開き、身体を前のめりにして地図を覗き込んだ。

 

「どういうこと?アビドス自治区がアビドスの所有じゃないなんてそんなこと…」

「カイザーコンストラクションに、売り払われてしまったようだな」

「……柴関ラーメンも?」

 

シロコの問いには、アヤネが答えた。

 

「はい。随分前から退去命令も出ていたとかで…大将はお店を畳むことを決めていたそうです…。いつかは起きるはずのことだった、と」

「柴関ラーメンが…」

 

ルルーシュは改めて地図を見、概算する。

 

「…砂漠に呑まれた本来のアビドス高校本館と、周辺数万坪の砂漠…のみならず、市内の土地や建物も多くがカイザーの手に渡っているな」

「はい…。所有権がまだ渡っていないのは、この校舎と周辺一部地域だけでした…」

「で、ですがどうしてこんなことに?!学校の自治区の土地を取引だなんて、普通出来るはずが…!」

 

いいや、とルルーシュ、ホシノが同時に首を振った。

 

「出来るだろうな」

「うん。アビドスの生徒会なら」

「学校の資産の議決権は生徒会にある。なら、それが可能なのは、生徒会だけ」

 

書類を握りしめながらアヤネは二人を肯定した。

 

「はい。その通りです…。取引の主体は、アビドス生徒会でした」

「そんな…アビドスの生徒会は2年前にもう無くなったのでは…」

「はい。だから2年前から取引は行われていません」

「そっか。2年前…」

 

ホシノは目を伏せ、黙りこくってしまう。

 

「学校の土地を売る…!?それもカイザーコーポレーションなんかに?!生徒会は何をやってたのよ!どうしてそんなこと…!」

 

対してセリカは、憤懣やる方ない様子で激昂した。

 

「こんな大事に気付かないまま…」

「学校の自治区は、それぞれの学校のもの。余りにも当たり前の常識です。当たり前過ぎて、借金の方にばかり気を取られて、気付くことが出来ませんでした…」

 

アヤネは悔しそうに拳を握りしめていた。

 

「私が、もう少し早く気付いていたら…」

「いや、アヤネのせいじゃあない。借金という大きな問題もある中で、こんな常識外れに気付け、なんてのは無理難題だ。

…これは私が気付くべきことだった。すまないな。カイザーの狙いを調べている時に思い至るべきだった」

 

いやいや、とホシノは、ルルーシュに言う。

 

「先生のせいでもないよ。これは、先生が来る前どころか、アヤネちゃんが入学する前よりも、対策委員会が出来るよりも、もっと前のことなんだから」

「ホシノ先輩は何か知ってるの?」

「あ、そうです!ホシノ先輩も、アビドスの生徒会でしたよね?」

「え?そうだったの?!」

 

ノノミの言に、セリカは知らなかったようで驚きを見せる。

 

「それに…最後の生徒会の副会長だったと聞きました…」

 

アヤネは知っていたようで、神妙な表情で付け足した。

 

「うへ〜、まあそんなこともあったねえ。2年も前の事だし、私もその辺の生徒会の先輩達とは実際に関わりなくってさ〜」

 

いつもの調子を意識しているようであったが、何処か硬い声色でホシノは話し始めた。

 

「私が生徒会入ったときは、もう生徒会の人達殆ど辞めちゃってたから。

その時はもう、在校生も二桁になってたし、教職員もいない、授業なんてものはとっくに途絶えてた」

「生徒会室も、そうと言われなければ倉庫みたいなとこだったし、引き継ぎ書類なんて立派なものは一つもなかった。ちょうど砂漠化を避けようとして、学校の建物を何度も移転してた時期だったしね」

 

それに、とホシノは苦笑を浮かべる。

 

「最後の生徒会って言ったって、新任の生徒会長と私の二人だけだったし」

 

伏し目がちになり、彼女自身気付かない内に声のトーンが落ちていく。

 

「─その生徒会長は無鉄砲でさ、校内随一のばかで…私の方だって、嫌な性格の新入生でさ」

 

いや〜、とそこで気が付いたのか、ホシノは顔を上げ、後頭部に手を置き、あはは、と笑った。

 

「何もかも無茶苦茶だったよ」

「校内随一のばかって…それどんな会長よ…」

 

呆れるセリカに、シロコが真面で「成績と役回りは別だよ」と指摘し、アヤネも苦笑しつつ「セリカちゃんも成績はそんなに…」とツッコんだ。

 

「わ、分かってるってば!どうして急に私の成績の話しになるわけ?!」

「うへ〜。でもセリカちゃんの言う通りだよ。生徒会なんて肩書きだけで、おバカさん二人が集まっただけだからね

あの時はあっちにこっちに、色々なところに行ったな〜。

バカみたいに何も知らないでさ」

「ホシノに責任はないだろう。君や、その生徒会長がアビドスに入る前ずっと前から惨状だったようだしな」

 

自嘲するホシノに、ルルーシュは言う。

そして、シロコもそれに同調する。

 

「昔の事情は知らないけど、生徒会が解散になった後、アビドスに対策委員会が出来たのはホシノ先輩のおかげ」

「う、うん…?」

「ホシノ先輩は怠け者だし色々とはぐらかすけど大事な瞬間には誰よりも前に立ってる」

「…そうだな。大事な時はいつも先陣を切っている」

「うへ。そうだっけ?」

 

はぐらかそうとするホシノだったが、シロコは真っ直ぐに彼女を見ていた。

 

「ホシノ先輩は色々とダメな所も多いけど、尊敬はしてる」

「ど、どうしたのシロコちゃん?!おじさんこういう雰囲気ちょっと苦手なんだけど…?!」

 

少し恥ずかしそうにシロコは「いや…」と小さく言う。

 

「なんとなく、言っておこうかと思って」

「ええ…?」

 

妙な空気感になった対策委員会室の雰囲気をリセットするようにノノミは「ですが…」と話を戻した。

 

「どうして生徒会はカイザーコーポレーションにアビドスの土地を売ったんでしょうか?」

「実は裏で手を組んでいたとか?」

「それは違うだろうな。恐らくもっと単純な話だ」

「どういうこと?先生」

「借金を返すため、だったのだろうさ。前の生徒会もアビドスの為に色々とやったんだろう。

しかし、既に借金は膨らみ、砂漠化は止まらない」

 

そうなれば、とルルーシュは淡々と言う。

 

「頼るべくは土地くらいしかなくなってしまう。

そこにカイザーが囁いたんじゃないかな。どうせ砂漠になってしまった土地なら売れば良いんじゃないか、と。

当然、大した値段ではないが、生徒会も借金を僅かでも減らせるなら、と砂漠になった土地を売り払ったのだろう」

「ですが、それでは足りず…」

「ああ。繰り返し同じ事をしてしまったのだろうな。

やがて、砂漠だけでは足りず、市街地すらも売らざるを得なくなっていった、というところだろう」

「何それ。何かおかしくない?最初からどうしようもないっていうか…」

「そういう手口もある」

「…どういうこと?」

 

小首を傾けるセリカに、ルルーシュははっきりとした言葉にする。

 

「アビドスは悪質な罠にはめられたのだろう」

「え…?」

「あ〜。そっか」

 

セリカはまだピンと来ていないようだったが、ホシノとシロコは理解したようだった。

 

「アビドスにお金を貸したのもカイザーコーポレーション」

「…ということは」

「カイザーローンが、学校の手に負えないくらいのお金を貸して、利子だけでも払ってもらう為に土地を売るよう仕向ける」

「そうだ。まともな金融機関なら、返済能力に応じた額しか貸さんが、連中はそうではない。

返済能力を超えた金を、そうと分かって貸したんだ。

そして、土地を売らせた。最初は砂漠、それでは足りず──」

「そうやってアビドス自治区そのものが、ゆっくりとカイザーコーポレーションのものになる…」

 

首肯しつつ、ルルーシュは「元々そういう計画だったのかもな」と付け加えた。

 

「アビドスにお金を貸した時点でこうなるように全てを…」

「だいぶ前から計画してた罠だったのかもね。それこそ何十年も前から…それくらい規模の大きな計画なのかも…」

 

漸く理解の追いついたセリカは怒りを顕にしていた。

 

「ただただカイザーコーポレーションに弄ばれてるだけじゃん!生徒会の奴等、こんな詐欺みたいな方法に騙されてなければ…!」

「落ち着けセリカ。ゲルマニウムリングも似たようなものだろう」

「うぐっ…」

「それに、騙される側よりも、騙す側に責任がある」

 

弱者の弱みへつけ込んで、いたぶるように搾取する、詐欺まがいのスキーム。

本物の国家でさえ追い詰められればバカみたいな詐欺に騙される事はあるんだ。

その上学園自治区は政府のようなものとはいえ、やはり学生でもある。

引っかかるなと言う方が難しいだろう。

 

「私も分かってるわよ…!たまに先生の言う通り、ゲルマニウムリングみたいなの買ったりしちゃうし。悪いのは騙す方だってことは!」

 

でも、とセリカは悔しそうに唇を噛む。

 

「悔しい。どうして…!ただでさえ苦しんでるアビドスに、どうしてこんなことを…」

「…苦しんでる人達って、切羽詰まりやすくなっちゃうからね〜」

「…え?」

「人は切羽詰まると何でもやっちゃうものなんだよ。ま、よくある話だと思うよ。セリカちゃん」

「─そうだな。よくある話だ。切羽詰まった人間につけ入る悪人も、ありふれている。

人を虐げる事を、搾取する事を何とも思わないような連中はいる」

 

俺はそれが、許せない。

 

アビドスに来てから、カイザーへ募らせていた怒りをルルーシュは滲ませていた。

 

「……そうか。本当に奴等は──」

 

そうして思い至る。今のカイザーの行動の理由にも。

 

「どうしたの先生?」

「奴等は、生徒会が消えてから土地を購入する手段を失った。だが、最早残るはここ周辺のわずかな土地」

「!…その為にヘルメット団や便利屋を…!?」

 

アヤネも気付いたようで、そう声を上げる。

 

「ああ。強硬手段に出ても問題ないと判断したのだろうな」

 

そして、漸く見えた。カイザーがアビドスを狙う理由。

これまで"手段"ははっきりしていたが、"何故"は曖昧なままだった。

しかし、これで繋がった。

カイザーの狙いは土地。

アビドス自治区そのもの。

恐らく、アビドスの土地を手に入れて何かを成す計画があるのだろう。

 

ヒナからの情報も考慮すると、砂漠が対象か。

アビドス砂漠で何らかの軍事兵器やらを建設している?

それとも、別の何かがあるのか。

そこはまだ分からないが、はっきりしたことがある。

 

それは、万が一にも連邦生徒会に察知されたくない事、ということだ。

 

殆ど土地を失ったアビドス自治区の完全消滅に拘る理由。

恐らく、この校舎、か周辺の土地にも何か意味があるのだろうが、それ以上に、連邦生徒会に籍を置くアビドス高校が邪魔なのだろう。

 

完全に消え去ってくれれば、最早カイザーの行動を察知するものは、この自治区からは消え去る。

 

ルルーシュの方では結論が出ていたが、ノノミ達は何故土地を狙うのか、というころは、ヒナの情報がないこともあり、議論が立ち止まってしまっていた。

 

「何故土地なのでしょう。…アビドス自治区は殆どが砂に埋もれた廃墟なのに…」

「ですね…。こんな砂漠を手に入れたところで、何か利益があるとは思えませんが…」

 

「その件で話しておくことがある」、とルルーシュはヒナから得た情報を共有した。

 

「アビドスの砂漠で…」

「カイザーコーポレーションが…」

「何かを企んでる…?」

「ど、どうしてそんな事をゲヘナの風紀委員が?」

「それに、どうして先生に…?」

「さあな…」

 

ルルーシュとしても、話してくれた理由に関してははっきりとした解を持ち合わせてはいなかった。

しかし、何故彼女が知っていたか、についてはある程度予想は出来る。

 

カイザーは、他の学園でもしっかりとマークされ、動きを追われている、というこだろう。

 

そう。だからこそ、アビドス自治区を制圧し、完全なるブラックボックスを作り上げたいのだろう。

 

しかし、ルルーシュがそれを話すよりも早く、セリカの声が響く。

 

「そんな難しいこと考えるより、先にやることがあるでしょ!アビドスの砂漠はウチの自治区なんだから、実際に行ってみれば良いじゃん!

何が何だか分からないけど、直接確かめた方が早いって!」

「…ん。そうだね」

「いや〜セリカちゃん良いこと言うね〜。こんなに逞しくなってママは嬉しいよ。泣いちゃいそ。ティッシュちょうだい」

「な、何よこの雰囲気!私がまともなこと言ったらおかしいわけ?!」

「あ、あはは。…ですが、セリカちゃんの言う通りです」

 

いや、とルルーシュは慎重さを崩さず、水を差す。

 

「確かにセリカの言う通りだ。しかし、カイザーが巣食ってもいる。今回は一先ず偵察に行くだけといっても、ある程度準備はしていくべきだろう」

「だね。しっかりと銃弾も補充しとかないと」

 

一先ず準備の為に散会した対策委員会。

ルルーシュも、戦闘になった場合に備えて戦術の想定パターンを練りなおそうと一人、端末を取り出したが、シロコがやって来たので中断した。

 

「シロコ…?どうした」

「出発する前にちょっと時間がほしい」

「……ああ。構わないよ」

「ありがとう。相談したいことがあって」

 

シロコはそう言ってから黙って、ルルーシュを先導し、使われていない教室の一つへと入った。

 

そして、その教室の机の一つに隠すように入れていた書類を、ルルーシュへと手渡した。

 

「ホシノ先輩のバッグの中から見つけたの」

「退会、退部届──」

 

なるほど。今朝のあれはそういうことだったのか。

 

「…先生にしか見せてないし、言ってもないけど…そもそもバッグを漁ったことはホシノ先輩にはバレてる気がする」

「まあ、あの態度からして十中八九気付いてるだろうな。やはり、ホシノの様子がおかしかったからか?」

「うん。ホシノ先輩があんなに長い時間席を外すなんて今まで無かった。

それに風紀委員からあれだけ追い詰められるまで、先輩が来ないなんて。

…それがどうしても引っかかって…先輩のバッグを漁ってみたの」

 

ごめん。とシロコは小さく呟く。

 

「これが悪いことなのは分かってる。ホシノ先輩からは勿論、生徒として、先生にも怒られても仕方ない」

「…………人のものを漁るのは確かに良くないが」

 

時刻表と写真がチラつくルルーシュは歯切れ悪く退部届を見つめる。

 

「…まだこれに関しては分かっていることも少ない。事情が事情だし、一旦これは、秘密のままにしておこう」

「…うん。…先生もわかってるよね。ホシノ先輩は何か隠し事をしてる」

「そうだな」

 

ルルーシュとしては、深く踏み込むつもりはなかった。

少なくともこれまでは。

ホシノが何かを隠している事は、最初から感じていたことであった。

だな、彼女が何も話さない、話したくないのであれば、無理に聞く事もない。

そこまで踏み込む必要もない、そう考えていたのだ。

 

だが、事がここに至ってしまった以上、どうしても踏み込まざるを得ないのかもしれない。

 

 

ホシノは、二人のやり取りを聞いていたわけでも、察知したわけでもない。

しかし、ただ静かに、校庭に佇み、校舎を目に焼き付けるようにして見つめていたのであった。

 

 






今回も読んで頂き、ありがとうございました。
次回更新日は未定ですが、またよろしくお願い致します。
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