コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐   作:ライト鯖

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Archive-025 ヒビ割れた硝子細工

 

「では、改めて、正確に自己紹介をするとしよう。

私は、カイザーコーポレーション、カイザーローン、そして、カイザーコンストラクションの理事だ。今は、カイザーPMCの代表取締役も務めている」

 

カイザーの理事は余裕綽々に肩書きの羅列を披露した。

 

だが、そうした権威を誇示しようと怯む人間がわざわざこんな砂漠くんだりまでは来ない。

「それはどうでも良いけど」とシロコが理事に詰め寄る。

 

「要は貴方がアビドス高校を騙して、搾取した張本人ってことで良い?」

「ほう…」

 

しかし、理事の方も、シロコ達から向けられている敵意や圧等、感じていないかのように振る舞う。

 

「そうよ!ヘルメット団と便利屋を仕向けて、ここまで私達を苦しませてきた犯人があんたたちってことなんでしょ?!」

「ふむ…?」

「あんたのせいで…私達は…アビドスは…!」

 

セリカの怒りも、理事に届くことはない。

 

「やれやれ…最初に出てくる言葉がそれか」

 

ため息を付きつつ、理事は冷たい視線をアビドス生達に向ける。

 

「勝手に私有地へと侵入し、善良なる我がPMC職員達を攻撃し、施設を散々破壊しておいて…くくっ、面白い」

 

だが、と彼女達を見下す、冷たい笑い声と共に理事は言った。

 

「口の利き方には気を付けたほうが良い。ここは、カイザーPMCが合法的に事業を営む場所。

まず君達は企業の私有地に対し、不法侵入しているのだということを理解するべきだ」

「…!」

「っ!」

「さて、話を戻そうか。アビドスの土地だったか?」

 

フンと、理事は鼻を鳴らす。

 

「ああ、確かに買ったとも。だからどうした?全ては合理的な取引。記録もしっかり保存している。

まるで私たちが不法な行為をしているかのような物言いは止めてもらおうか。わざわざ挑発をしにきたわけではないのだろう?」

「勿論だとも。しかし、ならば我々が悪意を持って不法侵入をしにきたかのような物言いも止めてもらおうか」

「何を言うかと思えば。ここが誰の土地か分かっているか?」

 

ああ、とルルーシュは頷く。

 

「我々に全く非がない、とは言わないさ。だが、しっかりと此方で記録している。

君の言う"善良"なる職員は、施設へ足を踏み入れた訳でもない私達に、ろくな警告もなく発砲して来たが?」

「私有地に無断で近寄る不審者に警告したまでだろう」

「であるならば、銃弾よりもまず言葉による警告が必要となる筈だ。

我々は突然発砲された為に反撃せざるを得なかったまで」

 

理事はやれやれ…と身体を揺らす。

 

「そのような言い訳が通ると?第一、明らかに私有地と分かる場所に不用意に近付く事が間違いだろう」

「何を言う。彼女達はアビドス自治区の代表者達だ。その彼女らと、依頼を受けた私が、自治区の砂漠にいつの間にやら建てられていた正体不明の施設の存在を知った以上、調べるのは当然と言えないか?」

「君達が代表者?笑わせてくれる。殆ど土地の所有権も持っていないというのに」

 

おいおい、とルルーシュは嘲りの笑みを返した。

 

「そっちこそ笑わせてくれるじゃないか。

君達が幾ら土地を所有していようと、アビドス高校が存続する限り、自治区の土地は全て、連邦生徒会に籍を置くアビドス高校の管轄に含まれている。当然だろう?」

 

ここは、名目上"アビドス自治区"なのだからな。

ルルーシュの口八丁に、理事は面倒そうに顔を歪める。

 

「まさか、私有地ならばどんな事をしても咎められない、なんて子供みたいな発想をしていないよな」

「…言ってくれる。だが?当然、調査に来た、というのであれば令状はあるんだろうな。それが無ければ、"名目"は成り立たん。違うか?」

「先にも言ったが、そも、我々は君達の施設に足を踏み入れてはいない。勿論、必要とあらば出しても良いがね」

 

苛立たしげに、理事は僅かに声色を荒っぽくさせる。

 

「施設だけではなく、周辺も我々の私有地だ」

「そうか。それで、何処かに明示的に侵入を禁じる掲示をしているか?それとも、柵でも用意しているのか?

最低でも、私有地とそうでない土地とを分ける境界線程度はあって然るべきだが…」

 

そんなものはなかった、とルルーシュは指摘する。

 

「砂漠、砂漠。どこを見ても砂の山。

私有地を隔てる境目などなかったんだ。それで不法侵入と相手方の非だけを鳴らすことは出来ないだろう。

君達は少なくとも、砂漠に関しては侵入を拒む意思を見せていない。

にも関わらず、無警告に発砲をされた事実は、敵対意思と錯誤してしまってもおかしくはない。そうは思わないか?」

 

つまり、と理事は舌打ちでもせんばかりに言う。

 

「我々の防衛措置に不手際があったと、そう言いたいわけか。

そして、君達がここに来たのも、あくまで"自治区"の責任者として、謎の施設の調査の為でしかなかった、と」

 

ルルーシュがそうだ、と頷くと、セリカが「そうよ!」と同調し、気勢を上げた。

 

「砂漠で何か企んでるんじゃないかって情報があったのよ!それをアビドス高校が調査に来るのは普通のとこでしょ!」

「それで?君達は何がお望みなのかね?謝罪でもして欲しいのか?」

「違うな。理事よ。君達がここで何をしようとしているのか、教えてもらいたいだけだ。

言っただろう?調査、と」

 

それに、とルルーシュはこうも言った。と続ける。

 

「記録している、とな。君達の過剰な防衛、というより、殆ど先制攻撃に近しいが。ともかく、こいつを公表して、連邦生徒会に介入してもらう手もある。

それは君達も困るんじゃないか?折角誰も来ない砂漠の一角に施設を建てたのに、注目を浴びてしまうのは」

 

しかし、理事は鼻で笑い、ルルーシュの揺さぶりを一蹴する。

 

「果たして、そうなるだろうかな。我々が困るような事は起きないかもしれんぞ?」

「へえ…?随分な自信だな。まあ良いさ。

それなら、お望み通り、試してみるとしよう」

 

暫しの沈黙。

理事は面倒そうにため息を吐き、口火を切った。

 

「…はあ。全く。面倒な連中だな。分かった分かった。ならば、教えてやろう。我々がここで何をしているのかをな」

 

それで満足か、と言わんばかりに理事はルルーシュの方に苛立ちと嘲りを混ぜた目を向けた。

 

「"宝探し"だよ」

 

数秒前までの丁々発止からは想像も付かない、現実離れしたワードが飛び出し、ルルーシュ含めアビドス生達は一瞬、言葉の理解が追い付かなかった。

 

「我々はアビドスの何処かに埋められているという、宝物を探しているのだ」

「…そんなでまかせ、信じるはずがないでしょ!」

 

セリカの反射的な反駁に、シロコが頷き、言う。

 

「もしそうだとすると、このPMCの兵力について説明が付かない。この兵力は私たちの自治区を武力で制圧する為。違う?」

「…数百の戦車、数百名の選ばれた兵士たち、数百トンの火薬に、弾薬。たった5人しかいない学校の為に、これ程の用意をするとでも?」

 

──確かにそうだ。そのつもりならば、便利屋などに無駄に金を割かずとも、所属を示す紋様を消した自社兵で一挙に攻め落とすのが一番合理的だ。

 

「冗談じゃない。あくまでこれは、どこかの集団に"宝探し"を妨害された時のためのもの。

ただそれだけだ。君たちの為に用意したものではない。

君たち程度、いつでもどうとでも出来るのだよ」

 

理事は言いつつ胸ポケットから取り出した携帯で、何処かへと電話をかける。

 

「…例えばそう…こう言う風にな。

─私だ。そうだ、進めろ」

「な、何?急に電話?それに進めるって何を…」

 

ふう、と理事はわざとらしく肩をすくめて見せた。

 

「残念なお報せだ。どうやら、君たちの学校の信用が落ちてしまったようだよ」

 

校舎に待機するアヤネはタイミング良く着信を受けた電話に出ていた。

 

「はい。此方アビドス高校対策委員会」

『カイザーローンです。いつもお世話になっております。誠に勝手ながら、現時点をもちまして、アビドスの信用評価を最低ランクに下げさせて頂きます』

「…!?」

『変動金利を3000%上昇させる形で調整。それらを諸々適用した上で来月以降の、利子の金額は9130万円でございます。

それでは引き続き、期限までにお支払いをお願い致します』

「はいっ!?ちょ、そんな急にどうして…?!」

 

アヤネが電話口の相手を引き留めようとしたが、そこで一方的に電話は切られてしまうのだった。

 

「9000万?!」

「……貴様。そのような不当な処置が─」

「おや?君達が当然に、普通に、ここへ調査に来たように、我々も"普通に"営利活動を行わせてもらったまでだ。

"先生"よ。そうは思わないか?たった5人の学校に借金等返せるはずもない。信用評価は低くなるに決まっている」

 

ギリッとルルーシュは歯を食いしばり、怒りを滲ませる。

 

「汚い大人が…!」

「くっくっくっ!これで分かったかな?君たちの首にかけられた紐が今、誰の手中にあるのか」

「ちいっ!」

 

こうも露骨な手段に出るとは。

便利屋やヘルメット団をけしかけてきている以上、カイザーが直接介入した、という証拠を可能な限り残したくないのだろう、と踏んでいたが、読み違えたか?

こんな直裁的な介入を躊躇なく実行するとは。

 

つまり、アビドス高校は間もなく、存在が本格的に邪魔になってくる、ということ?

或いはカイザーが関わっている痕跡の有無すら気にしなくて済むようになるナニかが…。

何れにせよ面倒だ。そして──。

 

「ちょっと、嘘でしょ?!本気で言ってんの?!」

「ああ、本気だとも。しかし、これだけでは面白みに欠けるか」

「…そうだな。借金に対する保証金でも支払ってもらうとしよう。1週間以内に、我がカイザーローンに三億円を預託してもらおうか」

 

勝ち誇ったようにして、理事は嗤う。

 

「この利率でも返済が出来るということを、証明してもらわねばな」

『そんな…!』

 

そして──舐めた真似をしてくれる。

 

ふつふつと腹の底から湧き上がるものを抑えながら、ルルーシュは、内心で、自身に対しても含めて憤然としていた。

 

幾ら偵察だけのつもりだったとは言え、もう少し手札を用意しておくべきだったか。

 

とは言っても、此方にも収穫はあった。

理事のあの自信。恐らく、連邦生徒会内にそれなりの人脈がある、ということだろう。

この程度の告発ならば簡単に握り潰せるような地位の人間がいる。

 

しかし、そいつに無駄に恩を作る事も、避けられるなら避けるべき、という所か。

そうでないなら、私が公表を断固敢行するかのような言い方をしてから、"宝探し"を口にする理由はなかった筈だ。

一方的な関係ではなく、契約関係にある者がいるのだろうな。

突けばボロを出すと踏んでいたが、それが推察出来た事は、予想以上の収穫と言えるだろう。

 

だが、こうも子供から搾取することに躊躇がない連中であると分かっていて、嫌がらせのような不当な措置を取ることを許してしまったのは、俺の落ち度だ。

──ふざけてくれる。拝金主義者め。

 

……現状、今の俺に取れる報復措置は三つ。

①手駒を使用し、連中の株価を下落させる。

②ブラックマーケットとの取引記録を開示し、奴の言う"合法性"を突き崩す。

③ギアスで奴隷にしてしまう。

 

③は論外。余りに不自然で、どう言い繕ってもシロコ達から不審を買うだろう。

②もダメだな。まだその時ではない。こんな所で奴にやり返すためだけに切るべきカードではない。

もっと証拠を固めて、よりベストなタイミングでやるべきだ。

 

では①か?。

──この方法ならば確かに理事に、そしてカイザーグループにダメージを与えられるだろう。

しかし、深刻ではあるが、質としては安っぽい嫌がらせに対してこの手を使ったとして、それは単なる子供っぽい嫌がらせに過ぎない。

 

同じ土俵に落ち、嫌がらせを仕返した所で、今この場の大勢を覆せるわけでもないんだ。

 

こんな場当たり的に感情に支配されたままに報復をする必要はない。

 

「払えないというのなら、学校を諦めて去ったらどうだ?」

 

理事は意地の悪い言い方、ではなく、まるで当たり前の事を言うかのように、そう言い放つ。

 

「自主退学して、転校でもすれば良い。それで全て解決するだろう。そもそも、君達個人の借金ではないのだからな。

学校が責任を取るべきお金だ。何も君達が進んで支払う必要はないのではないか?」

 

───。

 

「そ、そんなこと出来るわけないじゃないですか!」

 

ノノミが勢いよく反発し、それを皮切りに、アビドスの生徒達はノノミに同調した。

 

「そうよ、私達の学校なんだから!見捨てられるわけがないでしょ!」

「アビドスは私たちの学校で、私たちの街」

「ふん。ならばどうする?他に何か、良い手でも?」

 

──だが、ここは。

彼は一先ずの撤退を考えていた。

そもそもが偵察に来たに過ぎず、装備もそれ用でしかなく、大規模な戦闘を想定をしたものではない。

その上、包囲され、カイザーの理事が出てきてしまった以上、引くことが最善である。

しかし、ルルーシュは彼の矜持か、意地か、或いはその両方か。

弱者をいたぶる強者、という恥を恥じとも思わないカイザーに対する怒りもあっただろう。

 

即座に撤退をすることはなかった。

それは、彼にとっての痛恨事であったが、こうなった以上、一時の撤退しか選択肢はない。

 

「…みんな、帰ろう」

 

ルルーシュが口にするよりも早く、ホシノがそれを言葉にした。

 

「ホシノ先輩…!?」

「これ以上ここで言い争っても意味がない。弄ばれるだけ」

 

「ほう…副生徒会長。君は流石に賢そうだな」

 

ああ、となおも理事は嘲るように嗤う。

 

「思い出したよ。賢そうな君と一緒にいた、あの全くもってバカな生徒会長のことをな」

「……」

「では、保証金と来月以降の返済については、よろしく頼むよ。お客様」

 

ふふっ。フハハハと何ともステロタイプ的なあくどく高笑いをして、理事は満足そうに言うのだった。

 

「存外、悪くない時間だったな。さあ、お客様を案内してさしあげろ」

 

 

──。

 

 

「じゃーん!ホシノちゃん見てみてー!アビドス砂祭りの昔のポスター!やっと手に入れたよー!この時はまだオアシスが湖みたいに広がってたんだよね〜。あ、このポスターは記念にあげる」

 

願っても見ることの出来ない屈託のない笑顔。

それは、当時の彼女にとっては、余りに当たり前で、余りに楽観的だった。

 

「すっごく素敵でしょ〜?もし何かの奇跡が起きたら、またこの頃みたいに人がたくさん集まって──」

「奇跡なんて起きっこないですよ。先輩。

そんなもの、あるわけないじゃかいですか。それよりも現実を見て下さい!」

 

その能天気な様子に、何度苛立ちを覚えたことだろう。

何度、悩まされただろう。

そして、何度──。

 

「は、はう…」

「こんな砂漠のど真ん中に、大勢の人なんて来るはずないでしょう?!夢物語もいい加減にしてください!」

「うええ…だってホシノちゃーん。ごめんね?」

 

本当に腹が立つ。

 

「そうやってふわふわと、奇跡だの幸せだのなんだの…。もっとしっかりしてください!あなたはアビドスの生徒会長なんですよ!もう少しその肩に乗った責任を自覚したらどうなんですか?!」

 

何処までも能天気に、ふわふわと夢ばかり語る姿に。

 

ホシノはビリビリ、とポスターを破り捨てていた。

 

当たり前にあるはずだった、彼女の笑顔を省みることもなく。

当たり前がガラスみたいに脆いなんて、思いもしなかったから。

 

──本当に、腹が立つ。

何も見えていなかった自分に。

 

 

アビドス高校に戻ってきた一行。

 

「もうっ!何なのよ!」というセリカの憤然と共に、明確な開会こそなかったが、ミーティングが始まった。

 

「カイザーコーポレーションは、あそこで一体何を企んで…?」

「宝物を探している、と言っていましたが……あら?ホシノ先輩?」

「ん?ああ、ごめんごめん。どうしたの?」

 

何処か所在なさげにぼんやりと空の一点を見つめていたホシノはノノミに呼ばれ、ああと反応を返した。

 

「ちょっと、こんな時に昼寝しないでよね?!」

「しないよ〜。おじさんなりに色々考えてたのさ」

 

話を戻しますが、とアヤネは地図を広げながら言う。

 

「あの砂漠には何もないはずです。宝探しなんて、でたらめを言ってるんだと思います。

石油など、お金になりそうな地下資源は何一つ残っていません。…はるか昔に、調査結果が出ているんです」

「どうだろうな」

「え?」

「あの理事の言ったことで、唯一正論があるとすれば、アビドス制圧の為だけにあれだけの大兵力を備える必要はない、ということだ」

 

残念ながら、とルルーシュは続ける。

 

「それは事実だ。5人を抑えるのに、あれだけの部隊と基地を用意する理由がない。

その気があるなら、始めから基地など建てずに攻め込んでいるだろう」

「つまり、他の目的があるのは確かだ。地下資源でなくとも──」

 

例えば遺跡とか、と言いかけてルルーシュは止める。

 

まさか、あるわけもないし、オカルトが過ぎるか。

 

「例えば、宝探しは単なる比喩の可能性。

要するに、あそこが何がしかの研究施設で、宝という名の研究成果を求めているのかもしれん」

「それはさすがに無理がない?」

「単なる例の一つだからな。他の目的があるのは確実なんだ。それも、誰にも知られたくないような、ね」

「なるほど…」

 

って、とセリカは跳ね上がり、捲し立てる。

 

「今はそれよりも借金の方でしょ!3000%とか言ってなかった?!」

「保証金も要求してきましたし…あと1週間で三億円だなんて…」

「…行ってくる。あそこで何をしているのか調べないと」

 

シロコが荷物を取りながら言うので、アヤネが驚きつつ尋ねる。

 

「シ、シロコ先輩!?行くって一体どこへ…!?」

「PMCの施設。徹底的に準備すれば何とか潜入出来ると思う。行って、何をしているのか確認する」

「ま、待ってシロコ先輩!今はそれよりも借金の話のほうが優先でしょ!」

「…借金はもう、まっとうなやり方じゃ返せない。何か、別の方法を…」

「ダメですよ!それではまた…」

「…私はシロコ先輩に賛成!学校が無くなったら全部終わりなんだから、なりふり構ってられない!」

「そんな、セリカちゃん…!?」

「セリカちゃん待って!そんなことしたら、折角ホシノ先輩が止めてくれたのに、犯罪者になっちゃうよ?!」

「で、でも…。私は…」

「ほらほら、皆落ち着いて〜」

 

ヒートアップした対策委員会の空気に、いつもの緩い声色の中に、窘めるような静けさを滲ませたホシノが、セリカ、シロコと、アヤネ、ノノミの間に割って入った。

 

「頭から湯気が出てるよ?」

「……」

「はい。すみません…」

「ごめん。こんな風にしたいわけじゃなかった」

「うん。皆わかってるよ。シロコちゃんもいい子

だからね」

 

ま、とホシノは手を鳴らす。

 

「今日はこの辺にしとこう。

うへ〜解散解散〜。一回頭を冷やして、また明日集まることにしようよ。これは委員長命令ってことで」

「……そうだな。その方が良いだろう」

 

ノノミとセリカ、アヤネが帰った後も、ルルーシュとシロコはホシノを捕まえて対策委員会室に残っていた。

 

「ん?シロコちゃんはまだ何かやることがある感じ?」

「……ちょっと良い?」

「うへ。おじさんと話したいことがあるの?照れるな〜」

「私も、少し。二つほどな」

「先生も?うへ。モテモテだ〜。

…でもさ、今日は色んな事があったし、皆疲れたじゃん?また明日話そう。大体どんな話かは分かってるから」

 

シロコは声色に反して有無をいわさぬホシノの雰囲気に、渋々と頷く。

 

「…分かった。…先生」

「…ああ」

「じゃ、また明日」

 

シロコが目を合わせ、頷くと、ルルーシュも意図を察したようで、首を小さく振り返した。

 

「うへ〜。先生、やるねえ?私の可愛いシロコちゃんといつの間に目と目で意思疎通出来るようになったのさ〜」

「いやいや。やっぱり先生は侮れない大人だな〜。おじさんは流れについていけなくて寂しいよ」

「─。今更私の前で道化が通じると思うか?

真面目な話だ。ホシノ。聞きたいことと、言っておきたい事がある」

「うへ…。何かな」

 

ルルーシュは、まずは、とホシノの退部、退会届を差し出した。

 

「それって…うへ〜。いつの間に?これ、盗ったのはきっとシロコちゃんだよね?

全くシロコちゃんってば幾ら何でも先輩のカバン漁るのはダメでしょ〜」

「先生、ちゃんと叱っといてよー?!あのままじゃとんでもない大悪党になっちゃってもおかしくないってー!」

「それはこの件が片付いてからだな。本人も悪いとは思っているようだったし」

「やっぱそっか〜…」

 

うへ、とホシノは苦し紛れの笑みを浮かべた。

 

「逃がしてくれそうには、ないよね〜…」

 

はあ、仕方ないな。とホシノは息を吐く。

 

「ここで面と向かって話すのも何だし、先生、ちょっとその辺歩かない?」

 

ルルーシュは目で頷き、ホシノと共に部屋を出た。

 

薄暗い廊下。

月光が窓を通り、僅かに校舎内を照らす以外に、殆ど灯りの存在しない学舎。

言われなければ、ここも廃校舎と言われれば余り疑われなさそうな程である。

人気のなさが、その雰囲気を更に色濃く醸し出しているのだろう。

 

「けほっ。けほっ…ここも砂だらけじゃ〜ん。

…ま、人数に対して校舎が大きすぎるから仕方ないんだけど…砂嵐が減ってくれれば良いんだけどね〜」

「折角の高校生活が全部砂色なんてちょっとやるせないと思わない?」

 

とりとめのない話を続けるホシノ。

ルルーシュも無理に本題に入ろうとはしなかった。

 

「この学校が好きなんだな」

「…今の話の流れでそう思う?」

「ああ。人が情報伝達を行うのは何も言葉だけじゃあないからな」

「…先生はやっぱ変な人だね」 

 

相変わらず、ロマンチックの欠片もない

 

ホシノは長い廊下の奥。

月光だけでは光が足りず、闇へと混ざっていくその向こうを見つめながら、口を開いた。

 

 

「砂漠化が進む前はアビドスってかなり大きくて力もある学校らしかったんだけど、そんな記憶も実感もおじさんには全く無いんだよね〜」

「最初から全部めちゃくちゃで、ちゃんとしたものなんて何一つとしてなかった」

 

懐かしげに目を細め、しっかりと窓の外を見つめた。

 

「おじさんが入学した頃のアビドス本館は、今はもう砂漠の中だし、当時の先輩たちなんてもう皆いなくなってた」

 

「今いるここは」と、ホシノは砂に塗れた机を撫でながら言う。

 

「砂漠化を避けて何回も引っ越した結果辿り着いた、ただの別館」

「…ま、でもここに来てシロコちゃんやノノミちゃん。アヤネちゃんにセリカちゃんとも出会えたから…」

 

少しだけ、照れくさそうにはに噛んでからホシノは、静寂と砂に包まれた教室に目を向けた。

 

「うへ。やっぱり好きなのかもしれないな〜」

 

先生、とそれからホシノは、ルルーシュの方へと身体を向けた。

 

「正直に話すよ」

 

ルルーシュは小さく頷き、目で続きを促す。

 

「私は2年前から、変な奴等から提案を受けてた」

「提案?」

「カイザーコーポレーション…」

「何?連中から?」

「提案というか、スカウトというか…アビドスに入学した直後から、何度もね」

 

そう言えば、とルルーシュはカイザーPMC兵達の姿を思い返す。

 

生徒、いや、元生徒、か?らしき姿もちらほらとあった。

…確かに、ホシノを加えられれば、下手な人間を数十人雇うよりも良い戦力になるだろう。

 

「そう言えば、ついこの間もあったな〜」

「この前だと?」

「うん。"アビドス高校を退学して、私共の企業に所属する。そうすればアビドスが背負っている借金の半分近くをこっちで負担する"ってね。

破格の条件だよ。誰が見ても」

「…………」

「でも、当時は私がいなくなったらアビドス高校が崩壊するって思ってたからこそ、ずっと断ってたけど…

あいつら、PMCで使える兵を集めているみたい」

 

ルルーシュの予想通り、であったはずだが、彼は、妙な引っかかりを覚えていた。

 

「なあ、ホシノ。そのスカウトマンは、間違いなく借金をこっちで半分"負担する"って言ったのか?」

「え?…うん。そうだけど…」

 

確かに、カイザーローンの利益が減る、という意味では負担する、でも通るだろう。

しかし、わざわざそんな言い方をせずとも、同じカイザーグループの事なのだから、借金を減額する、半額にする、と言うのが普通だ。

 

あえて、"負担する"という言い方をしたことには何か意味が…?

 

「そのスカウトマン、本当にカイザーの人間か?」

「…どうなんだろ。私もあいつの正体は知らない。名前も。

私は黒服って呼んでる」

「黒服?」

「真っ黒なスーツを着てるんだ。きっと先生も見れば納得するよ。

なんとなくぞっとするやつでね。ああいうタイプのやつは見たことがないし…」

「怪しいやつだけど、特段問題を起こしたりはしなかった…。

何なんだろうね。そう言えばあのカイザーの理事ですら、黒服の事は恐れているように見えたけど…」

 

カイザーコーポレーションのトップ…?。

それともまさか、キヴォトスの経済を握っているカイザーコーポレーション以上の存在があるというのか…?

──裏世界の"首魁(ドン)"なんて映画みたいな存在だったりするのだろうかな。

いや、それについては、今は後回しだな。

 

「それなら、この退部届は──」

「…うへ」

 

この期に及んで逃げるつもりはなかっただろうが、それでもホシノは、ついに来たか、と言わんばかりであった。

 

「…まあ、1ミリも悩んでなかった、って言えば、嘘だし。…ちょっとした気の迷いっていうか…」

「…うん。もう捨てちゃおっか」

 

ホシノはルルーシュの手から書類を取り、勢いよく破り、捨てた。

 

「いや〜スッキリした。余計な誤解を招いてごめんね。先生。

でも、こんな話をしてもみんなを心配させるだけで良いことないしさ」

 

でもまあ、とホシノは苦笑する。

 

「可愛い後輩達に隠し事したままなのも良くないし、明日ちゃんと話すよ。

聞かされた所で困らせちゃうだけだろうけど、隠し事なんて無いに越したことないしね」

 

でも、とホシノはふいっとルルーシュから視線を外した。

 

「今はあの提案を受ける以外、他の方法は思いついてないんだけどね…」

「大丈夫だ。私が何とかしてみせる。必ずな」

「うへ。さすがは先生。頼りがいがあるね。

奇跡でも起こしてくれるのかな」

「ああ。そのつもりだ」

 

真面で言ってのけたルルーシュに、ホシノは少々面食らった様ではあったが、真に受けてはおらず、慰めと受け取った様だった。

 

「はは…。本当に、そうなってくれたら良いんだけどね」

 

奇跡。ポツリとその単語を口から漏らし、ホシノはくるりと来た方向へと踵を返した。

 

「…さーてと。この話はこれでおしまい!」

 

じゃあ、とルルーシュの方へは目だけを向ける。

 

「また明日。先生」

 

さよなら、と歩を進め始めたホシノをルルーシュは呼び止めた。

 

「ホシノ」

「ん?」

「また明日、いつもの対策委員会室で待っている」

 

言葉では答えず、ホシノは後ろ手を振って、今度は一度も振り返ることなく、暗がりへと消えていくのであった。

 

 

翌朝。

──ホシノは、その日いつまで経っても、対策委員会室に姿を現すことはなかった。

 





今回も読んで頂き、誠にありがとうございます。

次回更新日も変わらず未定ですが、次回もまたどうぞよろしくお願い致します。
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