コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐   作:ライト鯖

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Archive-026 砂塵舞いし学舎

 

「…おはようございます」

 

アヤネは対策委員会室の扉を開け、憂鬱そうな表情のまま挨拶をする。

しかし、その日はいつも返ってくる返事がなかった。

 

彼女は顔を上げ、教室を見回す。

 

「あれ?私が一番乗り?」

 

ペンや資料、地図等が雑多に置かれたままの長机。

そこに、昨日にはなかった紙が数枚、新たに置かれていることに、アヤネは気付いた。

 

「これは…?」

 

数秒、思考がそこに書かれた文字を理解する事が出来ずにフリーズする。

そして、「嘘…」と小さく漏らしてから、漸く視覚情報に脳が追い付いた彼女は叫んだ。

 

「何でっ?!どうして!!?」

 

三十秒としない内、部屋の扉が勢いよく開け放たれる。

 

「どうした?叫び声が聞こえたが」

 

ルルーシュは、アヤネに問いつつも、うっすらと感じていた予感と、部屋にいない彼女の姿から、その理由を察していた。

 

「……っ!」

「先生…」

 

ルルーシュはアヤネのいる方に駆け寄り、彼女が青ざめ、混乱した表情のまま持つ紙束を受け取る。

机に置かれていたのは、小鳥遊ホシノの退部、退会届。そして、『アビドス対策委員会の皆へ』と始まる、対策委員会への手紙だった。

 

"まずは、こうやって手紙でお別れの挨拶をすることになったこと、許して欲しい。おじさんにはこういう、古いやり方が性に合っててさ。

 

皆には、ずっと話してなかったことがあって。

実は、私、ずっとスカウトを受けていたんだ。

カイザーPMCの傭兵として働く。その代わり、アビドスの背負う借金の大半を肩代わりする。

…そういう話でね。

…中々良い条件だと思わない?おじさんこう見えて、結構能力を買われててさ〜。

借金のことは私がどうにかする。直ぐに全部、とは行かないけれど、まずはこれでそれなりに負担が減ると思う。

 

ブラックマーケットでは急に生意気な事を言っちゃったけど、あの言葉を私が守れなくてごめんね"

 

ホシノは数時間前に対策委員会への手紙を書いたその手で以て、黒服の待つ執務室で契約書にサインをしていた。

 

「…これで良い?」

「…はい、確かに」

 

ホシノの直筆を確かめた黒服は丁寧に書類を整え、ホシノに目を向ける。

 

「契約書にサインも頂けたことですし…これで、ホシノさんがお持ちの生徒としての権限は、私の元に移譲されました。

これで正式に、アビドス高校が背負ってる借金の大半は、こちらで負担することにしましょう」

 

平板でありながらも何処か上機嫌にも感じられる声音で黒服はそう宣するのだった。

 

"これで対策委員会も少しは楽になるはず。

アビドス高校からも、キヴォトスからも離れることになったけど、私のことは気にしないで。

勝手なことをして、ごめんね。

でもこれは、全部私が責任を取るべきこと。

私は、アビドス最後の生徒会だから。

だから、ここでお別れ。じゃあね"

 

次の便箋は、ルルーシュに向けられたものだった。

 

"ルルーシュ先生へ。

実は私、大人が嫌いだった。あんまり信じていなかった。

借金を将来的に肩代わりしてくれるって話の時も、何か裏があるんじゃないかと疑ってたんだ。

でも、今は、そんなつもりじゃなかったってことくらいはわかってるよ。

 

心配してくれてたんだって、そう思える。

 

だけど、先生もあの時、時間はかかると言った。

副会長として、私が責任を取るべきことだけど、もし、先生に頼ったのだとしても、三億円なんて直ぐには用意出来ないってことだよね。

 

…だから結局、これしか方法は思い浮かばなかったんだ。

それでも、奇跡を起こすつもりだって、臆面も無く答えてくれたのは、嬉しかったよ。

先生みたいな大人と、最後に出会えて私は…

いや、照れくさい言葉はもう良いよね。

 

先生。最後に我儘を言って悪いんだけど、お願い。

シロコちゃんは良い子だけど、横で誰かが支えてないとどうなっちゃうか分からない子で。

悪い道に逸れちゃったりしないよう、支えて上げてほしい。

先生なら、きっと大丈夫だと思うから"

 

「さあ、乗れ」

 

ホシノは、PMC兵に促され、待機している大型のバンが開け放つ扉へと向かう。

 

「…何処に行くの?」

「アビドス砂漠だ」

 

兵はぞんざいに一言、そう答えると、黒塗りの、高級車でありながら、その見目から如何にもという雰囲気を感じさせるバンの扉を勢いよく、音を立てて閉めた。

 

ドン!

 

長机が揺れる。

ルルーシュの拳は、固く握り締められ、その硬い表面に叩きつけられていた。

 

"シロコちゃん。ノノミちゃん。セリカちゃん。アヤネちゃん。

お願い。私達の学校を守って欲しい。

砂だらけのこんな場所だけど…私に残された、唯一の意味のある場所だから。

 

それから、もし、この先何処かで万が一、敵として相対することになったら…。

その時は──"

 

"私のヘイローを壊して"

 

『よろしくね』と締められたその手紙を読み終えると同時、セリカは、怒り、困惑、焦燥、様々な感情が入り乱れたままに、弾けるようにして立ち上がっていた。

 

「ホシノ先輩っっ!!」

「何なのっ?!あれだけ偉そうに話しておいて!切羽詰まったら何でもしちゃうって!自分で分かってたくせに!

……こんなの、受け入れられるわけないじゃない」

 

最後の方は、何かをこらえる様に小さく、声が萎む。

 

「…助けないと」

 

シロコはもう、答えを出しているようだった。

直ぐにでもホシノの下へ向かおうと、既に銃を手に取っている。

 

「私が行く。対策委員会に迷惑がかかるし、私一人で…」

「落ち着いて下さい!今はまず足並みを揃えないと…」

 

アヤネがシロコをたしなめるが、シロコの方は今にも飛び出さんばかりであった。

 

しかし──。

 

校舎全体が揺れるような重低音が連続して響き、全てが無理矢理に中断させられてしまった。

 

「爆発?!」

「近いです、場所は…?」

 

アヤネが場所と、そして敵の正体を調べ始めるが、ルルーシュは結果を見るまでもなく、悟ってしまっていた。

 

そうか。連中、ホシノを狙っていたのは、単に彼女を戦力とするためだけではなかったのか。

そうだ。対策委員会は確かに──。

 

しかし、昨日の今日。いや、ホシノと別れたのは夜だ。

つまり、この数時間で、ということ。

余りに拙速。しかし、それ故に此方は態勢が整っていない。

くそっ。ホシノもいない中、この人数であれだけの大軍は…。

せめて少しでも応援がいれば──。

…そういえば。

 

「…そ、そんな…」

 

情報を集め、愕然とするアヤネ。

彼女も、そして、それを見たアビドスの皆も、敵の正体を知ったようだった。

 

「カイザーPMCが学校に向かいつつ、市街地にも無差別攻撃をしています!」

「何でこのタイミングで…?!」

「お、応戦しないとです!何はともあれ、アビドスが攻撃されてるのを見過ごすわけには…!」

「すぐに行こう!」 

「で、ですが、私達だけで相手するには余りに数が…。

と、とにかく、市民の皆さんの避難を優先させましょう…!」

「行こう」

 

ルルーシュはそんな、不安に支配されながらも、抵抗を、出来ることをしようと抗う彼女達に、忍びない思いを抱きつつも、必要な事だと、言わざるを得なかった。

この余りに早い破局に対抗する為に。

 

「先生、どうしたの?早く──」

「すまない。皆。全ての説明をしている時間が惜しい。だが、私は──」

 

 

──アビドス市内

 

「行け!行け!進め!」

 

カイザーPMCの兵達がアビドスの街を、時折砲撃も交えつつ、進軍していく。

 

治安も悪化したアビドスに、それでも残っていた市民達もこれには驚き、慌てているようで、右往左往しながらカイザーの隊列から逃げていく。

 

「は、はやくっ!早く逃げろ!」

 

蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う市民達に、カイザーPMCの兵の一人が宣言する。

 

「この自治区には退去命令が下った!」

 

そして、その傍にはカイザーの理事がいた。

 

「フフッ。フフフッ。ついに、条件は全てクリアした。

最後の生徒会がアビドスを退学。…これで実質的にアビドス高校は消えた!」

 

上機嫌に、理事は高笑いをしてみせる。

 

「後は我らカイザーコーポレーションが、アビドスを吸収合併するのみ!

さあ、アビドス高等学校を占拠せよ!」

 

 

──アビドス高校。

 

対策委員会室の扉が乱暴に開けられ、ズカズカとPMCの兵士が一人、押し入った。

そして、無線に向かって言う。

 

「対策委員会を発見!こっちだ!

…ぐあっ!?」

 

しかし、彼は机の下に身を隠していたシロコの急襲によって、倒される。

 

「もうこんなところにまで斥候が」

「アビドス高校周辺に多数のPMC兵を確認!既に校内にも多数侵入されています…!」

「とりあえず、学校に侵入したやつらからやっつけよう!アヤネちゃん、お願い!」

「はい!今は先生がいないので、私達だけでやるしかありません。学校に侵入した敵を撃退します!

校内を鎮圧したら、市民の皆さんの避難を!」

 

シロコ、ノノミ、セリカは対策委員会室を飛び出し、学校に足を踏み入れたカイザーPMCへと、その銃口を向けるのだった。

 

「先生…無事にPMCに見つからず行けていると良いのですが…」

 

いえ、今は、とアヤネは頭を切り替え、ドローンの操作を始める。

同時に、ルルーシュが校内各所に設置していた監視カメラを起動する。

防犯カメラ、としては使用されていない。

 

平時は1円でも電気料金を抑えるために使われていないが、こうした事態を想定した特注品をルルーシュが設置していたのだ。

 

そして、更に一つのファイルを開く。

 

"暴徒鎮圧マニュアル─校内Ver─"

 

「想定した状況に完全に合致する現実など殆どあり得ない。

故にあくまで参考でしかないが、学校の設備や構造を利用した戦術を幾つか組んでいる。私がいない時に何かあった時、よければ使ってくれ」

 

ルルーシュからそれを渡された時の言葉を思い返しつつ、アヤネはキッとカメラに映るPMC兵を睨んだ。

 

まずは、パターン-Ω。階下からの敵への対処。

 

「セリカちゃん!1-A教室方向から敵が二人!階段を目指しているみたい。

2階から上ってくるそいつらを狙って!」

『了解!』

 

セリカは階段を駆け上がる。

そして、階段前のポーチと直角に走る廊下、その壁に、階段を上ってくる兵からは見えないように身を隠し、チラリと僅かに目元だけを階段の方へと出し、敵を待つ。

 

「対策委員会は上だとよ!」

「よし。手早く行くぞ。ボーナスはおれんもんだ!」

 

セリカは、兵らが踊り場に姿を現した瞬間、飛び出し、上方から一方的に銃撃を浴びせた。

 

「うわあっ!?」

「しまっ…!」

 

『セリカちゃん!今度は2階の、東廊下の方から敵が!』

「任せて」

 

ノノミは、廊下で真っ直ぐに向けたマシンガンを連射する。

 

PMC兵達は、強行突破ではなく、ノノミの弾切れを待つことを選び、物陰で息を潜めていた。

 

『そう。そこの上にいます』

「ん。分かった」

 

ノノミの狙いは、フォーメーションF。

私は可能な限り素早く、多くの敵を奇襲で引きつける。

 

ぴょんぴょんと身軽に飛ぶようにして階段を上るのはシロコだ。

彼女は踊り場にたどり着く前に、力いっぱい跳躍し、壁に足をつける。

そして、力を込めて更にキックし、三角飛びでもって、PMC兵らがシロコの存在に気付くよりも前に、階の移動を完了させた。

 

「後ろだ!」

 

一人が気付くも、時すでに遅し。

シロコは廊下を縦横に飛び、兵を翻弄しつつ、一人、また一人と倒していく。

 

しかも、シロコに気を取られたPMC兵らは、ノノミへの注意が疎かになり、いつの間にか、彼等のいる場所がノノミの銃口にとっての死角ではなくなっていることに気付かず、背後から銃弾を受けることとなった。

 

『3階の兵は今ので最後です!別館からもセリカちゃんが駆逐に成功。

ですが、体育館から別館へ向かおうとしている集団がいます。

このままではまた侵入をされてしまいます!』

「ん。私が行く」

 

シロコは言うや否や、窓を素早く開けて、足を窓辺にかける。

 

「シロコちゃん?!」

「ノノミ、ここは任せる」

 

シロコはそのまま勢いよく窓から飛び、風を受け、ブレザーと白銀の髪をたなびかせながらながら校舎の3階から落下をする。

 

「いたぞ!飛び降りて来てる!」

 

PMC兵に発見され、彼女を迎える物に銃弾も加わった。

 

「…っ!」

 

落下しながら発砲しつつ、地面を数度、見事な受け身で転がり、着地する。

そうして、シロコは体育館の方へと駆け出した。

 

周囲から銃弾を受けつつも、足を止めることはない。

 

『シロコちゃん!スナイパーが!』

「!?…っ!」

 

一瞬反応が遅れ、顔面にヒットしてしまう。

鼻先を赤くさせ、頬のあたりも傷付いていたが、それでも、勢いを衰えさせることなく、体育館と別館を繋ぐ渡り廊下へとたどり着くのだった。

 

「っ!?何処から!撃て!」

 

別館へと向かってきていたPMC兵らと真正面からかち合う形になったシロコは、銃を前傾姿勢に構えたまま、走った。

連射しながら敵兵との距離を詰める。

 

「こいつ…!」

 

被弾しても止まる気配のないシロコに気圧されたのか、PMC兵らは立ち止まる。

その股下をスライディングで潜り抜けたシロコは、兵らの大部分が振り返るよりも早く、背後から重たい一撃を見舞わせた。

 

校内にまで辿り着いた兵らは、まだそれほど多くはなかったようで、その後、少しの掃討戦を終えると、校舎の奪還自体は完了するのだった。

 

『すぐに市民の避難に移りましょう!』

 

 





今回、文字数が少し多くなってしまったので、2話に分割しています。
予約投稿にて、この話に少し遅れて、2時間後の投稿予約をしています。
どうぞよろしくお願い致します。
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