コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
──アビドス市内。
メインストリートを進軍するカイザーの先頭集団は、突然の奇襲を受けて倒される。
アビドス高校を完全に奪還し、市民の避難をあらかた終えた対策委員会が到着したのだ。
「こんにゃろ!」
セリカが最後に残った一人を打ち倒すが、後続の部隊は警戒こそしているものの、発砲をしてくることはなかった。
「……」
その様子に違和感を覚え、面々は周囲を警戒する。
そこに、アヤネが通信を飛ばしてくる?
『前方から何者かの接近を確認…カイザーの理事です!』
我が物顔で道を闊歩し、理事は対策委員会の前で足を止めて、皮肉げに小さく鼻を鳴らしてみせた。
「ふむ。学校まで出向うと思ったのだが、お出迎えとは感心だ」
「これはなんの真似ですか?企業が街を攻撃するなんて…幾らあなたたちが土地の所有者でも、そんな権利はありません!」
「それに、学校はまだアビドスのものです!進攻は明白な違法行為!連邦生徒会に通報しますよ!」
「スカウトなんて、最初から嘘だっだてこと?
…いや、それよりもホシノ先輩はどこ?」
「この悪党め!ホシノ先輩を返して!」
対策委員会の抗議に、理事は鷹揚に構え、クツクツと嗤いを漏らした。
「何を言っているのやら。連邦生徒会に通報だと?面白いことを言うじゃあないか。今直ぐにでもやってみたらどうだ?」
「君達は今まで何度も連邦生徒会に抗議してきたのだろう?それで、一度でも動いてくれたことがあったか?」
「……」
無かったはずだ、と理事は余裕たっぷりに言い放つ。
「何せ、連邦生徒会は今、動けないからな」
連邦生徒会は会長不在で混乱しており、行政機構としてはめちゃくちゃとも言える状態だ。
しかし、それだけではないことを、ルルーシュは先日の諍いで推察していたが、実際、カイザーに便宜を図っている連邦生徒会の役員はいる。
だが、その情報を伝えた所で、アビドスの生徒達には如何ともしがたい事であり、昨日の怒涛と混乱にわざわざ更なる絶望を供することもないだろう、とルルーシュはその推察を共有していなかった。
「連邦生徒会でなくとも良い。今まで他の学園が、君達のことを助けてくれたことがあったか?…そろそろ分かっただろう」
「誰一人、君たちに手を差し伸べる者はいない」
無言。
対策委員会の皆の気勢は、萎んでしまっていた。
「アビドス最後の生徒会メンバー。小鳥遊ホシノが退学した。アビドスの生徒会は最早存在しないも同然。君達はもう、何者でもない」
理事は対策委員会の皆を順に見渡し、言う。
「公的な部活、委員会、生徒会、自治区すらも無いアビドスは学園都市の学校としての自立・存続が不可能と判断。
…仕方ないな。この自治区の主人である我がカイザーコーポレーションがあの学校を引き受けるとしよう」
「…!」
「なっ…」
「くくっ。そうだな。新しい学校の名前は、"カイザー職業訓練学校"にでもしようか?」
「な、何を言ってるの…?」
セリカが困惑しつつも反駁する。
「生徒会がなくても、アビドスには対策委員会がある!私達がまだいるのに、そんな言い分が通じるはずないでしょ!」
しかし、そのセリカの言葉は、アヤネの暗い表情によって、誤りであると明らかになる。
「アヤネちゃん…?」
『対策委員会は、公式に許可を受けている委員会じゃない』
「えっ…!?」
『対策委員会ができた時には、もうアビドスには生徒会がなかったから…』
「え、えっ…?!」
そうだ、と理事は鷹揚に頷く。
「所詮は非公認の委員会。正式な書類の承認も下りていない。つまり、君たちの存在を示すものは何もない」
だが喜べ、と理事は嘲りを隠しもしない。
「アビドス高校がなくなれば、君たちはもうあの借金地獄から解放されるのだからな」
PMC兵達は、理事と対策委員会の周辺では一時的に動きを止めていたが、他の場所ではその限りではない。
砲弾の音が虚しく響き、ビルの一つが消し飛ばされる様をホシノはアビドス砂漠のPMC基地、その地下にある暗い司令室に届けられる映像で観ていた。
「な、何で…?何をしてる?!
どうして、アビドスを攻撃するんだ!」
「どうしても言われましても…」
黒服は、そうわざとらしく肩をすくめて見せる。
「何もおかしいことなどありませんよ。ホシノさん」
茫然とするホシノに、黒服は、勿論、と声を向ける。
「あの借金の大半はきちんと返済させて頂きますとも。それが、私達の間に交わされた約束ですから」
「それはそうとして…貴方が退学してしまい、残念ながらアビドス高等学校にはこれ以上、公的な生徒会メンバーが残っていないようですね。
それでは、学校は成り立たないでしょう」
「…!!」
黒服は忙しなく傭兵らが行き来する司令室の片隅で滔々と語る。
「私たちが何故、あんな下らない企業の詐欺まがいの行為を支援していたのだと思いますか?
自治区の土地を奪った所で、ブラックマーケットのような無法地帯が一つ増えるだけです
そんな場所はこのキヴォトスに幾らでもあります」
しかし、と顎に手を当て、黒服は独り言のように言う。
「もし、企業を主体とした新たな学園が誕生したら…?」
「アビドスに現れるその新しい存在は、果たしてこのキヴォトスにどんな影響をもたらすのでしょうか?
とは言っても、これは単なる余興に過ぎません」
黒服は一歩、ホシノの方へと歩み出る。
「ホシノさん。私たちの目的は最初から貴方でした。
貴方に契約書にサインしてもらうこと。あなたに関する全ての権利を頂くこと。
その目的への利害が一致したので、カイザーコーポレーションに協力していた。ただそれだけのことです」
ホシノは嫌な感覚に襲われつつ、昨晩のルルーシュの言葉を過ぎらせていた。
「そのスカウトマン、本当にカイザーの人間か?」
黒服はわざとらしくネクタイを締め直す動作を挟み、「何か、勘違いされていたようですね」とわざとらしくいけしゃあしゃあと言う。
「誤解を招いたのなら、謝罪しましょう。
しかし、私は最初からカイザーの所属ではありません。"私共の企業"がカイザーコーポレーションだとは一言も言っていないはずです」
黒服は面白くないものを見るように、せかせかと目線の先で動き回るPMC社員を一瞥した。
「あなたのようなキヴォトス最高の神秘を手に入れたというのに、まさか、傭兵などという勿体ない形で消耗させるなんてことは致しません。
あなたを実験体として、研究し、分析し、理解する」
「この興味深い実験こそが」と、黒服はホシノに、研究対象に対する興味と、慈しみの目を向ける。
「私たちが観測を渇望していたもの。
つまりは──そういうことです」
ホシノは黒服の合図とともに脇をPMC兵に固められ、連行される。
そっか…。
私は…。
また、大人に騙されたんだ…。
…ごめん。皆。私のせいで、全部。
そうしてホシノは、深い、深い闇へと、繋がれた。
シロコちゃん。ノノミちゃん。セリカちゃん。アヤネちゃん。
…………ユメ先輩。
「ごめん」
光のない空間に、その小さな呻きにも似た謝罪は、消えていった。
理事は、これまでの努力が、と嘆くノノミにほう?と小馬鹿にした視線を向けていた。
「まさか本気だったのか?
本気で何百年もかけて、借金を返済するつもりだったと?」
「これは驚きだ。てっきり最後に諦める時、"でも頑張ったから"と自分達を慰める言い訳をするために、ほどほどに頑張っているのだと思っていたが」
「……!!」
「いったい君達はどうしてあんな努力していたんだ?何のために?」
「あんた…それ以上言ったら…!」
「撃つよ」
セリカとシロコは怒りを顕に、銃口を理事へ向ける。
しかし、ノノミとアヤネの気勢は二人のようには行かなかった。
「ですが…」
『…今ここで戦って…何か変わるんでしょうか?』
「アヤネちゃん?!」
『今も、すごい数の兵力がこちらに向かってきています…。
たとえ、戦って勝ったとしても…その後はどうすれば…』
『学校がなくなったら、もう戦う意味がありません。学校をどうにかして取り戻せたとしても、私たちには大きな借金が残ったまま』
「…アヤネちゃん」
『取引された土地だって戻ってきません。
何より、ホシノ先輩もいない。生徒会もない。こんな状態で…。
私たちみたいな非公認の委員会なんかに、これ以上何が…』
アヤネは、恐らく、アヤネ以外の者達も、折れかかっているのだろう。
理不尽をはねのけようとする力を持てず、嘆き、弱音が、口からついて出てしまっていた。
『どうして…私たちだけ…。ホシノ先輩…どうすれば…』
対策委員会の皆が押し黙り、そして、理事が勝ち誇ったように笑いかけたその時。
背後、突如、落雷を思わせる轟音が辺りに響き、空気を震わせた。
鼓膜に響くその音が反響を終えるよりも早く、更に遠方からも同じ音が届き、遠景に黒煙が混じる。
『き、北の方で大きな爆発を確認…!』
PMC兵の狼狽を隠せない報告。
『合流予定のブラボー小隊が巻き込まれて…!』
「何っ?!」
今度は先ほどの2回の爆発よりも更に近くで爆破が起きたようで、空が割れたように感じられる爆音が理事達をも襲った。
『ひ、東の方でも爆発が…!合流予定だったマイク小隊も大量のC4の爆発で!』
「何が起きている?!アビドスの連中はこれで全員のはず…!」
混乱を顕に、明らかに先程までの余裕の消え去った姿を見せる理事は、しかし、直ぐに、爆発犯の正体を知ることになる。
突如、パイプから勢いよく気体が噴き出るような音と共に、灰色っぽい煙が辺りに充満し始めた。
「?!何だ…?視界が…!」
「間違っているぞ。理事よ!」
声。
理事はバっと声のした方を向く。
煙に影が現れ、やがてその影は、一歩、また一歩と実態を顕にしていく。
「貴様は…!」
『─先生…』
「すまない。遅くなった」
そこでは、ルルーシュが、全速力で走ってきた事による息の乱れを隠しつつ、挑発的な目を、理事へと向けていた。
「彼女達の努力が言い訳の為?
フン。そんな程度ならば私はここにはいない。
ブラックマーケットにすら突撃してしまうような懸命な彼女達だからこそ、私は今、ここに立っている」
それに、とルルーシュは理事を睨みつけ、言う。
「差し伸べる手もあるさ。ここにな」
「ちっ。面倒なのが…」
理事はしかし、更に4つの影が煙に映ることに気付き、言葉を止める。
「大人しく聞いていれば、何を泣き言ばかり、言っているのかしら」
コツコツとアスファルトを叩くヒールの音と共に、彼女達は姿を現す。
「目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く──」
それが、と陸八魔アルが対策委員会の横に立つ。
「それが、あなた達覆面水着団のモットーじゃなかったの?」
『…便利屋の!?』
「何をすれば良いのかも、どうすれば良いのかも分からない。やることなすこと、全部失敗に終わる」
続々と煙が晴れていくのも合わさり、便利屋の面々がその姿を完全に理事に向かい合う形で顕にする。
「ここを潜り抜けたところで、この先にも逆境と苦難しかない…」
だから何なのよ!とアルは声を張り上げる。
『え、えっ…?』
「仲間が危機に瀕しているのでしょう?!
それなのに、下らないことばかり考えて、このまま全部奪われて、それで納得出来るわけ?!
あなたたちはそんなに情けない集団だったの?!」
アルの檄に、まあまあ、とムツキが割り入った。
「その辺で勘弁してあげなよ。メガネっ娘ちゃんは繊細なんだから。こういう時もあるって」
『ど、どうしてあなた達が…?』
「んー?先生がお願いに来たんだよ」
──PMC兵らがアビドスを襲撃を始めた頃。
「すまない。皆。全ての説明をしている時間が惜しい。だが、私は─行かねばならない。
だから、暫くはアヤネ、指揮を全て任せる」
「え?!な、何でこんな時に!」
「先生…?」
「勝つために必要な手を打ちに行く。
必ず──必ず戻るよ」
「……」
「約束するよ」
「分かった。気を付けて」
シロコは頷き、ルルーシュの為に道を空けた。
「ありがとう。アヤネも、頼んだ!」
今朝方来ていたモモトークをルルーシュは思い出したのだ。
"今日は仕事でアビドスの辺りに行くわ。…あくまで報告よ!報告!潜在的な顧客でもあり、ビジネスパートナーになるかもしれないわけだものね!"
便利屋の戦力。
ホシノのいない今のアビドスにおける空隙を埋めるには、彼女達の力が必要だ。
その辺のチンピラを金で即席に雇った所で手にはいらない強力な力。
あの四人が合わされば、大兵力相手にも渡り合える戦力たり得る。
そう狙い、彼女達と連絡を取って合流するべくルルーシュは一度、対策委員会から離れることにしたのだ。
そこで、学校へ侵入せんとするカイザーPMC兵ら数名と出くわしてしまう。
「!こいつ…シャーレの!」
「ちっ。…"失せろ"!」
急いでいたこともあり、シンプルかつ確実に敵戦力を削げる命令で兵を退け、人けのない道へとひた走る。
そして、ルルーシュは落ち着いたところで電話をかけた。
「アルか!?」
『先生?!…どうしたの突然?まさか仕事の依頼かしら?だとしたら──』
「ああ。そうだ。アビドスの近くにいるのだろう?緊急の依頼だ。報酬は幾らでも出す。今の正確な位置は?そっちに直ぐに──」
『…何があったの?』
ルルーシュは電話口でかいつまんで説明しようとするも、背後から複数の足音と声がやって来てしまう。
「あっちに逃げたらしい」
「よし。全員一塊になれ。狭い道だ。油断してはいかん」
ちっ、と舌打ちを心中で漏らし、ルルーシュは小声で捲し立てる。
「悪いが時間がない。何処にいるか教えてくれ。どうにか向かう」
キリが無い。ギアスで奴等を退けても、異常を察知した奴等がまた来てしまう。
どうにか離れなければ。
『…どうも、先生も大変なようね?なら、先生の位置を教えてくれる?向かうわ』
ルルーシュは分かった、と自らの座標をアルへと送信した。
その後、暫く追いかけっこ、鬼は時折交代したが─を続けていたルルーシュ。
最後の鬼は、上方からの銃撃によって倒された。
「待ったかしら?」
「いや、助かったよ。本当に」
合流は出来た。
後は早くアビドスの皆の下に…。
いや、まずは…。
漸くルルーシュはアル達に事情を説明する事が出来たのだった。
そして──。
事情を聞いた便利屋はルルーシュと共に爆弾や、諸々の仕込みを済ませて、アビドスに加勢するべく、戻ってきた所で、理事と対策委員会の話を聞くことになったのである。
「…良いことを言うじゃないか。アル」
ルルーシュはアヤネに目を向ける。
「そうだ。意味など考える間も、搾取する者は、支配者は、与えてなどくれはしない。
だからこそ、抗うことは必要だ」
『…先生』
「くふふ。…ま、何にせよさ」
ムツキはルルーシュの言葉の後で、わざとらしいまでににこやかな笑みを浮かべて、理事の方へ身体を向けた。
「私の可愛いメガネっ娘ちゃんを泣かせた罪は重いよ?
だからもうこれは…」
ムツキは、口角は上がってこそいるものの、攻撃的な、激情を内包している目で、大きく口を開けた。
「ぶっ殺すしかないよね!」
「ふふっ…ふふふっ。準備は出来ていますアル様。仕込んだ爆弾もまだまだ沢山ありますので」
「はあ…ただラーメンを食べに来た筈だったのに」
カヨコのため息。
しれっと、アルの見栄がルルーシュにも伝わったが、今この状況でそれを気にする者もいなかった。
「…埋めておいた爆弾で、敵の増援を遮断。
その間に敵の指揮官を無力化させて、指揮体系を崩壊させる」
「これで相手集団を一気に瓦解させる。
本来なら風紀委員に使うはずの戦術だったんだけど…。ま、予行演習ってことで」
へえ。カヨコの立てた作戦なのか。
理にかなっているな。少数で大軍を相手にするのならば、敵の援軍を遮断し、可能な限り敵戦力を先んじて減衰させるかが勝負の要だ。
租界の階層構造を壊し、敵軍戦線を瓦解させる。
敵航空基地を先んじて叩いておく。
或いはゲフィオン・ディスターバーで第5世代以前のナイトメア停止させる。
寡兵でもって大兵力に当たるのは本来、兵法の常識からは外れている。
それでもやらねばならない時に、使うべき手だ。
"ビジネスパートナー"か。
本当に良い提案かもしれないな。
しかし、今は──。
「目を開けなさい。腑抜けた状態のあなた達に今から、真のアウトローの戦い方を見せてあげるわ」
対策委員会の面々の前に立ち、背で語るアルと共に、ルルーシュは立つ。
今は、こいつらを退ける。
「ハルカ」
「はいっ!」
ハルカは、アルからの命令に嬉しそうに応え、握っていたスイッチを押した。
周辺で次々と爆発が発生する。
連続し、重複したそれらの音は、先程までのどれよりも強力で、地面が割れたのかと錯覚する程の地響きと、空に轟く幾つもの轟音。
幾つものPMC兵部隊が爆発に巻き込まれ、一度に大量に無力化されたのであった。
「さあ、今こそ協業の時よ!合わせられるわよね?先生!」
「無論だ」
「そこの腰抜け達に、今こそ、真のハードボイルドの力、見せつけてやるわ!」
今回も読んで頂きありがとうございます。 次回更新日は相変わらず未定ですが、また次回もどうぞよろしくお願い致します。