コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐   作:ライト鯖

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Archive-028 "大人"の時間

 

「ムツキは前進!アルは指定したポイントへ5秒後に狙撃!」

 

ルルーシュの指揮の下、便利屋の四人はカイザーPMC兵らを次々無力化していく。

 

「カヨコはそのまま。10時の方向にいる敵を処理してくれ」

 

カイザーPMC、数は多く、質も、ヘルメット団なんかとは比べ物にならない精鋭だ。

しかし、隙もある。完成された軍人というほどでも無い、と言うべきか。

所詮は傭兵。賃金以上の働きも、賃金以上の強さも彼等には不要なのだろう。

 

それに加え──。

 

「ハルカ。D-2」

 

ルルーシュが出した合図を聞いたハルカは所定位置にある爆弾を起爆する。

 

それによって、時には援軍を阻みながらPMC兵らの戦術行動をも妨害していく。

 

それに加え、ハルカの爆弾が大きい。

これで戦場を絶えず混乱に落としつつ、此方有利の状況を維持することが出来ている。

 

「ムツキはそこの正面にいる敵軍をいなしつつ、その場で待機。

カヨコは次にハルカが起爆をしたら即座に9時の方向にあるビルの路地を周って敵部隊の背後を取れ」

 

良し。カヨコが敵援軍を妨害してくれたおかげで随分やりやすい。

これなら勝てる。

後は──。

 

「アル!ポイントΘに向け発砲後、此方に戻って来てくれ」

 

アルの狙撃によって、1台のPMC兵を載せた軍用車がタイヤを破裂させ、横転する。

そして、歩道と車道の境目にある電柱に激しくぶつかり、炎上。

積載されたPMC兵らは逃げ出したものの、その後方を走っていた車両達は横転した車両が障害となり、前進不可能となった。

 

「ハルカ!」

 

そして、ハルカによる起爆。

ムツキは爆破に気を取られるPMC兵部隊の背後へと周り込み、撃破。

 

これで、条件はクリア。

 

「さて、理事よ」

 

調子に乗って前線へと出て来ていた理事は、周囲をこそ護衛に囲まれているものの、次々撃破され、孤立していく一方という状況に置かれてしまっていた。

そんな中で、ルルーシュから水を向けられた事で、理事周辺を固めていた護衛達はギクリとすくみ上がる。

これまではいなす程度にしか相手にされていなかった中、にわかに注目をされたのだ。

嫌な予感が走ったのだろう。

しかし、今更逃げ出すことも能わない。

 

「くそっ!お前達!撃て!」

「は、はいっ!…うわあっ!?」

「ぐうっ…!?」

 

数少ない健在の護衛、それがまた二人ほど銃弾を受け、倒される。

そのついでとばかりに、理事も一発、狙撃されていた。

 

「良いタイミングだ。アル」

「ふふっ。当然でしょう?」

 

ルルーシュの下へ狙撃ポイントから戻って来たアルが、がっちりとルルーシュの脇を固めた。

 

「まだやるつもりか?君の方は、通信も封じられていて不便だろう?」

「っ…!貴様…!」

「通信妨害と、その対策位は用意しておくことだな」

「……!!便利屋、貴様らもだ!飼い犬の分際で!」

「うるさいわね。そんなの知ったこっちゃないわよ!あなたなんかより先生の方が一緒に仕事がしやすかった!それだけの話!」

 

理事の恨み節にアルは反論し、そこに丁度合流したムツキも参戦する。

 

「あはっ。雇い主を裏切るくらい、悪党としては当然でしょ!そんなことも予想出来なかったの?」

「確かに、悪党としては正解」

 

シロコを始め、アビドス対策委員会の面々はアル達の檄と戦いによって、気勢を取り戻したようだった。

 

「お陰で目が覚めました。私達に今、こうして迷っている時間はありません」

「そうだよ!何よりまず、ホシノ先輩を取り戻さないと!

非公認だかなんだか知らないし、不法組織だって構わない!そんなの今は、関係ない!」

 

セリカの言に、シロコ達は頷いた。

 

「くっ…この期に及んで無意味な抵抗を…!よくも…!」

 

理事は苛立たしげに、そして、悔しそうに宣うが、ルルーシュはそれに冷ややかな目を向けていた。

 

「よくも、か。

それは此方の台詞だな。…よくも。

虚仮にしてくれたものだ。─我々を」

「!!」

「三流の悪党よ。ホシノを返してもらおうか」

「ふ、ふさげるな!貴様に何の権利が──!」

 

食って掛かる理事だったが、ルルーシュは冷めた様子で理事を見下ろす。

 

「何の権利、か。フッ──。

では、改めて正確に自己紹介をしておこうか。

私はキヴォトス連邦生徒会直轄、連邦捜査部"S.C.H.A.L.E"の顧問。

ルルーシュ・ランペルージだ。

権利なら、十全に持っている。それが分からない低能ではあるまい?」

「ぐ、ぐうっ…!──だ」

「理事…?」

 

残った護衛の一人が、理事の様子を伺う。

 

「退却だ!一度退却して兵力の再整備に入れ!」

 

ヤケクソ気味に理事は叫び、部下たちに命じた。

プライドを傷付けられようと無駄な戦いを続けない点はさすがに大企業の理事にまでなった男と言うべきだろう。

 

「覚えておけ…!この代償は高くつくぞ…!」

 

しかし、捨て台詞は小物のそれであった。

カイザーPMC兵達が素早く退却するのに合わせて、理事も護衛らとアビドス市を後にするのだった。

 

「組織だった均一化された動きはさすがだな。撤退もスムーズだ」

 

言いつつ、ルルーシュは対策委員会の皆へと目を向けた。

 

「皆ケガは…。シロコ。大丈夫か?顔に傷が付いているじゃないか」

「ん。大丈夫。ちょっと擦りむいてるだけ」

「そうか。他の者も、大丈夫か?」

 

全員に大きなケガのないことを確認すると、ルルーシュは便利屋へと目を向ける。

 

「ありがとう。助かったよ」

「良いよ良いよ〜。にしても、"覚えておけ〜"なんて実際に初めて聞いたよ。本物の三流悪党って感じ」

「だね。でも、大体想定通りうまくいった。

風紀委員会相手でも通用すると良いけど…」

 

さて、とルルーシュはアルに向き合う。

 

「アル。今回の報酬の事だが」

「え?ああ。そうね。…今回はいらないわ」

「しかし──」

「こんなの、私達にとっては朝飯前だもの。

ねえ?」

 

アルがムツキ達に同意を求めるが、数秒の無言が返ってくるのみだった。

 

「あ、あれ…?」

「受け取っと来なよ〜アルちゃん。

今お金ないんだしさ」

「そうだよ。風紀委員会用に準備してた爆弾も使っちゃったから買い足さなきゃだし」

「……うっ」

 

で、でも、とアルは心中で反駁した。

 

折角先生に良い格好出来るチャンスなのに…!。

この前のお返しをする絶好の機会が…!

それに──。

 

「わ、私達は仕事で協力したわけじゃないんだから!…そう、一緒にご飯を食べた仲じゃない?!」

「アルちゃんってたまに素で結構恥ずかしいこと言うね?」

「言わないで!口にした後でちょっと思っちゃってたから!」

 

ハハッとアルの調子に思わずルルーシュは笑い声を漏らしていた。

 

「ちょ、先生まで?!」

「悪い。だが、分かったよ。ならば、今回は甘えさせてもらうとしよう。ありがとうな。アル」

 

何か気を遣ってもらった気がするわ…。

 

「うう…!そ、その代わり、先生!協業の話、良い話を期待するからね!」

「ああ。その件については、前向きに検討している所だ。悪い返事はしない。また後日連絡するよ」

「あ、あら。そ、そうなの?」

「悉く格好つかないねえ。アルちゃん」

「う、うるさいうるさい!」

「私は格好良いと思いますよ!アル様!」

「はあ…」

 

とりあえず、と一段落したところでルルーシュは言う。

 

「今日の所は帰ろう」

「─はい。先生。きっと次は、これまでで一番大きな戦いになると思います」

 

ルルーシュは首肯する。

 

「ああ。ホシノを助ける為には情報も必要だし、戦力も整えねばならん。

焦っても、前回の二の舞になるだけだ。

周到に行こう」

 

ルルーシュは対策委員会、便利屋と別れた後、暗くなった、灯りの乏しいアビドスの市内を一人、歩いていた。

 

戦闘中には気付いていなかったが、一つの通信がルルーシュの端末に入っていたのだ。

その相手の送ってきたアドレスへと彼は一路、向かう。

 

そして、一棟の、変哲のない、強いて特殊性を上げるならば、空きテナントの多いアビドスにおいては珍しく、殆どの窓から光が漏れ出ている位のビルディング前で立ち止まる。

 

唯一の例外足る、薄暗い最上階の方へ、ルルーシュは不愉快そうな目を向けてから、ゆっくりとビルのエントランスへ入った。

 

案内に一瞥もくれることなく、ルルーシュは真っ直ぐにエレベーターを目指し、乗り込む。

最上階のボタンを押してから、彼は腕を組み、到着を待つのだった。

 

 

ポーンと目的階への到着を報せる音に合わせて、扉が開かれる。

薄暗いフロアを、エレベーターの煌々とした明かりが一瞬、照らす。

そして、扉が閉じると、再び外の宵闇に混じり合うような、空間が現出する。

星々の一つとしてあるような僅かな照明のみがルルーシュを照らし、彼は窓に影を写す存在へとゆっくり、近付いた。

 

「─お待ちしておりました。ルルーシュ先生。

貴方とは一度、お話してみたいと思っていたのですよ」

 

影が言う。

ルルーシュはその影に向けて、皮肉げに笑ってみせる。

 

「ほう。では、招待状をどうもありがとう、と言うべきかな?」

 

なるほど。確かにこれは──。

ルルーシュは影の全貌を目にすると同時、ホシノの言葉を思い出していた。

 

黒服、だな。

 

席を勧められたが、ルルーシュは座ることなく、着座した黒服と立ったまま向かい合う。

 

「ゆっくり腰を落ち着けて話したかったのですが、まあ良いでしょう。

──さて、ルルーシュ先生。あなたのことはよく存じています。

連邦生徒会長が呼び出した不可解な存在」

 

不可解さに関してはルルーシュとしても同意するどころか、彼自身ここに来てから考え続けているところである。

特に否定も反応もすることなく、先へと耳を傾ける。

 

「あのオーパーツ。"シッテムの箱"の主であり、連邦捜査部"S.C.H.A.L.E"の先生。

あなたを過小評価する者もいるようですが、私達は違います」

「……」

 

黒服の意図を読まんとするルルーシュの視線に気付いてか気付かずか、黒服はまず、と机に付けていた両肘の片方を上げ、掌を上に向けて広げてみせた。

 

「はっきりさせておきましょう。私たちは、貴方と敵対するつもりはありません。

むしろ、協力したいと考えています。

私たちの計画において、一番の障害になり得るのはあなただと、考えているのです」

「私たちにとって、アビドスなんて小さな学校は全くもって大した問題ではありません。

ですが先生。あなたの存在は決して些事とは言えない。敵対する事は避けたいのです」

 

ルルーシュは努めて冷静に口を開く。

まずは、情報収集だ、と。

 

「貴様らは何者だ?」

「…ああ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。

私たちは貴方と同じ、キヴォトス外部の者。

…ですが、貴方とはまた違った領域の存在です」

 

外部の──。

それを信じるなら、確かに俺とは違う存在であるのも事実なのだろうな。

何せ、見た目からして人間離れしている。

 

「適切な名前がありましたので、今はそれを拝借して使っております。

我々のことは"ゲマトリア"とお呼びください」

 

我々?つまりは、こいつのような、或いは更に異なる存在が複数いるということか。

正体不明のどんな力を持っているかも分からん連中が複数、か。

厄介だな。

 

「そして、私のことは黒服とでも。この名前が気に入っていましてね。

私たち(ゲマトリア)は観察者であり、探究者であり、研究者です。

貴方と同じ、"不可解な存在"と考えて頂いて問題ございません」

 

さて、と黒服は小首を傾けながら、感情の読めない声で言う。

 

「一応お聞きしますが、私たちと協力するつもりはありませんか?先生」

「断る」

 

ルルーシュは間髪入れずに拒絶を示した。

 

「…左様ですか」

 

今度は少し残念そうなことは読み取れる声音で黒服は息を吐いた。

 

「真理と秘儀を手に入れられるこの提案を断ってまで、あなたはキヴォトスで何を追求するおつもりなのですか?」

「…どうしても、と言うなら、まずはホシノを返してもらおうか」

「クックックッ…。あなたの行動には正当性がないことにお気付きですか、先生?

今の貴方に何の権利があってそんな要求をされているのでしょうか?」

 

ホシノは、と黒服は書類を取り出し、ルルーシュの前に出す。

 

「もうアビドスの生徒ではありません。写しですが、この届け出、先生は原本を確認されているでしょう?

ホシノはもうあなたには関係のない事なのですから、引き換えの条件にすらなりませんよ」

「そっちこそ、書類をよく読んでいないんじゃないか?」

「……ほう?」

 

ルルーシュは書類を180度回転させ、黒服へと突き出す。

 

「顧問である私がサインを、まだしていないが?」

 

ルルーシュは写しを取り上げ、言う。

 

「私が承認していない以上、ホシノはまだ対策委員会の所属で、アビドスの副生徒会長。

…そして、私の生徒だ」

 

数秒の沈黙。

黒服は小さく、「なるほど…」と呟いた。

 

「貴方が先生である以上、担当生徒の去就には貴方のサインが必要。…そういうことですか」

「なるほど…なるほど…」

 

ふむ、と黒服は顎、らしき部位に手を当てる。

 

「学校の生徒、先生。…ふむ。中々に厄介な概念ですね」

「貴様らは困窮している彼女達を騙し、踏みにじり、利用した」

「ええ。確かに仰る通りです」

 

ルルーシュは怒気を滲ませていたが、黒服の方は至って平板に、そして、平然と、認めるのだった。

 

「他人の不幸よりも、私たちは自分達の利益を優先しました」

 

否定はしませんよ、と黒服は言ってのける。

 

「私たちの行動は、善か悪かと問われれば、きっと悪なのでしょう」

「しかし、ルールの範疇です。

そこは、誤解しないで頂きましょうか」

 

黒服は尚も、感情の見えない、物静かな雰囲気を崩すことなく、続ける。

 

「アビドスに降りかかった災難は、私たちのせいではありません。

アビドスを襲ったあの砂嵐は、大変珍しいこととは言え、一定の確率で起こり得る現象です。

明確な悪役がいるわけではない。天変地異とはそういうものでしょう」

「私たちはあくまで、その機会を利用しただけ。

砂漠で水を求めて死にゆく者に、水を提供する。

…ただし、一生奴隷として働いても返せない額で」

 

ただ、それだけのことです。と黒服は事も無げに言ってのける。

 

「さして珍しくもない、世の中にはありふれた話でしょう?何も私たちが特別心を痛め、全ての責任を取るべきことではありません。

私たちが初めて作った事例でもなければ、私たちがそれをしなかったところで消えるものでもないのですから」

 

「ありふれている。当たり前の事だからやった。か、"探究者"を名乗る癖に付和雷同とは。下らんな」

 

ルルーシュの嫌味に、「おや、これは手厳しい」と黒服は余裕を崩さず返す。

 

「ですが、持つ者が、持たざる者から搾取する。知識の多い者が、そうでない者から搾取する。

大人なら誰もが知っている、厳然たる事実ではありませんか?」

 

「…違うな。間違っているぞ!黒服よ」

 

ルルーシュにとって、最も許しがたい考え方を事も無げに、当然かのように語り、恥ずかしげもない目の前の"大人"に、彼は声を張り上げた。

 

「強者が弱者の弱みに付け込み、搾取することなどあってはならない。それが子供ならば尚更だ。

砂漠で水を欲する者がいて、自らが水を大量に持つのならば、分け与える。

それが強者に課された義務だ。ノブレス・オブリージュも知らないのか?」

「アビドスがたまたま弱っていたから漬け込みましただと?よくも恥ずかしげもなく言えるな。

手を差し伸べる事も出来たというのに」

 

そもそも、とルルーシュは吐き捨てるように言う。

 

「世の中にありふれた話。だから、我々が気にする必要はない?それが現実だと?

バカバカしい。そうやって、醜悪な現実に、仕方のない事と蓋をして受け入れ、目を逸らすばかりだから変わらない、変えられないだけだろう」

「ありふれた話であろうと、悪徳は悪徳だ。

それを変えようとする意志。抗う意志があれば、変えられる。絶対にな」

「もしも現実が、そうであると言うならば、私はその現実を壊し、新たな現実を作るのみだ!」

 

少なくとも、とルルーシュは黒服を睨む。

 

「手を差し伸べるまではせずとも、せめて、強者が強者であることを利用して弱者を利用するなんて真似はするべきではない。

それは利益の追求でも、社会の悪なる現実を受け入れることでも無い。

現実主義(リアリズム)を騙った、悪意を拡散する行為だ!

貴様の言うことは全て身勝手で自己中心的な理屈に過ぎない」

 

それに、とルルーシュは声にこそ出さなかったが、もう一つ、怒りを覚えている部分があった。

 

──ルールの範疇。

こいつのように、身勝手なルールを設定し、身勝手にルールを利用する連中がいるから、スザクは──。

ブリタニアを中から変える。しかし、そのブリタニアのルールが既に腐っていては、出来るものも出来なくなる。

ユフィと出会わなければ、早晩スザクは死地へと追いやられていた筈だ。

 

こいつのような連中のせいで、俺は、スザクは、ナナリーは!

 

「理想論、というやつですね。しかし、そんなものは夢物語ですよ。人は皆、自らの事しか考えていないのですから」

「いいや。きっかけさえあれば、人は変われる」

「それに、貴方の言う醜悪な現実を変えるには、それなりの、これも貴方の言う"悪"が必要になるのでは?

今の貴方が正攻法を取っていないようにね」

「そうだな」

 

ルルーシュはこれを否定はしなかった。

 

「だから私は、悪をなして、巨悪を討つ。

力を持たない人々に、世界を変える力はないかもしれない。少なくともそんな余裕はない。

だから私が、力を持つ私が、変える。変えなくてはならないんだ」

 

黒服は暫し、考え込むように黙りこくってから、ふむ、とゆっくりと口を開いた。

 

「恐らく、これは平行線なのでしょうね。…分かりました。ではこういうのはどうでしょう?

先生さえアビドスから手を引いていただけるのであれば、正確には、ホシノさえ諦めて頂ければ、あの学校については守って差し上げましょう。

カイザーPMCのことについても、私たちの方で解決致します」

「あの子たちもどうにか、アビドス高校に通い続ける事ができるはずです。

そしてこれは、ホシノさんの望むところでもあるはず。

いかがでしょう?

ホシノさんを譲る事は、私共としては出来ませんが、これならば、先生の言う力のない者達を守れますし、妥協点ではないでしょうか」

「………」

 

ルルーシュも暫しの沈黙で返す。

そして、一度瞑目してから、ギロリと紫色の瞳を黒服へと向け、宣する。

 

「もう遅い!」

「既に、これは、俺とお前達との戦争になった」

 

「…どうあっても、私たちと敵対するつもり、ですか。

どうして?あなたは無力です!戦う手段など、ないでしょうに!」

「それはどうかな?」

 

ルルーシュは胸元へ手を伸ばし、内ポケットにしまっていたモノへと手をかけ、一瞬、姿を覗かせる。

 

「…先生。確かに、それはあなただけの武器です。しかし、私はそのリスクも薄っすらとですが知っています。

使えば使うほどに削られて行くはずです。貴方の生が、時間が。

…そうでしょう?」

 

フッとルルーシュは笑い、"カード"と一緒に入れていたモノへと持ち替え、取り出し、そして、構えた。

 

「何の話かな?」

 

それは、連邦生徒会より支給されていた護身用の銃であった。

 

「おや。ひっかけられてしまったようですね」

「しかし、私にそれが効くとお思いですか?」

 

引き金に指を置き、ルルーシュは言う。

 

「試してみるか?」

 

こいつは、キヴォトス外から来たと言った。

つまりは、銃器への異常なまでの耐性は持っていない可能性がある。

少なくとも、それが自然、というわけではないはずだ。

 

無論、キヴォトスで暮らしている以上、俺のシッテムの箱のように、何かしらの防衛、回避手段はあるのだろう。

 

だが、敵対者となった俺に軽々とそれを見せたくはない筈だ。

例え、そうでなくとも問題ない。

 

銃を恐れないと言うのならは、"大人のカード"がある。リスクも承知の上。"情報(アーカイブ)"で把握済みだ。

その上でもなお、"ギアス"という奥の手よりは先に切るべき手札だ。

 

"ギアス"の効果の程が最も不透明。

効くかも分からないし、大人のカードを知っている黒服が、恐らく、俺の目を警戒していないことから知らない、俺の切り札。

 

余り使いたくはない奥の手達だが、まだ強力な手札が2枚も残っている。

 

つまり、黒服がどういう反応をしようと、俺にとってはプラスだ。

銃を恐れるならば、それで良し。奴等にはそれなりに効果があり、要求も通せる。

 

恐れないのであれば、防衛手段があるということが分かるし、大人のカードで押し通せる。

最悪の場合でも、ギアスの実験台にしてやれる。

 

どうあっても、私の"敗北"はあり得ない。

 

「さあ、チェックメイトだ」

「クックックッ。なるほど。…確かに、これは…」

 

黒服も状況をある程度察したようだ。

無論、ルルーシュの手札全てを理解しているわけではないが、大人のカード、という手札一つでも、成り立つ状況故に、黒服も理解したのだ。

ルルーシュの敗北は殆どあり得ない、と。

 

「…何故ここまでしてあの子たちに与するのでしょうか」

 

しかし、と黒服が呟いたかと思うと、本気で分からないと言うように疑問を口にし始める。

 

「貴方の与り知らぬことだというのに、何故?」

「…下らない質問だな。本気で聞いているのか?」

「ええ。何故なのでしょう?何故?何故?何故?何故?」

「理解出来ません。なぜ、私たちの提案を拒絶するのでしょうか。ホシノさえ諦めれば全て解決するというのに。

先生、それは一体何のためなのですか?」

 

ルルーシュは引き金にかける指に、僅かに力が籠るのを自覚していた。

 

「あの子達に手を差し伸べる大人が、あの子達が負うべきでない責任を取れる、力ある者がいなかった」

「…何が言いたいのですか?だから、貴方が、と言いたいのでしょうか。しかし、貴方はあの子達の家族でも、保護者でもありません。

貴方は偶然アビドスに呼ばれ、偶然あの子達にあっただけの他人です」

 

 

どうして、と語る黒服は、最早銃口など気にしていないかのようであった。

 

「取る必要もない責任を取ろうとするのですか?」

「それが"大人"の責務だからだ」

「…大人とは"責任を負う者"。そう言いたいのですか?」

「そうだ。正確には力ある者だがな。大人は、子供よりも力がある。物理的な力はここでは別だが。

しかし、其々が力を持つ範囲に於て、責任を負うことが必要だ」

 

先生、と黒服は反論を口にする。

 

「それは間違っています」

「大人とは、望む通り社会を改造し、法則を決めて、規則を決め、常識と非常識を決め、平凡と非凡とを決める者です。

権力によって権力のない者を。知識によって知識のない者を、力によって、力のない者を支配するのです。

自分とは関係のない話、とは言わせませんよ」

 

あなたは、と黒服はルルーシュの銃が取り出されたのとは反対側の胸ポケットの四角い膨らみを見つめる。

 

「キヴォトスの支配者にもなりえましたよね?

この学園都市の権力も権限も神秘も、全てが一時的とは言え貴方の手の中にありました。

しかし、貴方は迷わずそれを手放した。

理解出来ません」

「……言っても理解出来んだろうさ。平行線なのだろう?」

 

力を持つ者は、法則を決め、規則を決められる。

社会を改造し得るからこそ、その力がない者達の方を見なくてはならない。

 

力とは、自らの力を振りかざすばかりで、自らよりも弱い存在を切り捨てる、弱肉強食だとか、そんなロジックで悦に浸る為に使うものではない。

 

力には責任が伴う。

それを行使するのなら、尚の事。

 

そう──。

撃って良いのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ。

 

 

「弱者を踏みにじり、搾取するというのなら、貴様らも同じ目に会う覚悟をしておくことだな」

 

力ある者も、力なき者も、明日を、幸せを求めるのは同じだ。

だが、人は生まれによって立場が異なる。

その時点で全てが決まって、搾取される側とする側に分かれる?

立場や地位の違いで以て、差別を、搾取を正当化する?

 

そんな都合の良い話、放っておいて良いはずがない。

もしもそれが絶対の法則だと言うのならば、俺やナナリーがあんな目に遭うことはなかった。

スザクだってそうだ。

 

そうでなくとも、ブリタニアのエリアに住んでいた人達もそうだった。

 

人は個人ではどうしようもない力によって、全てをひっくり返されてしまう事がある。

その時点で、生まれによる差異でもって、地位や立場の違いでもって、搾取を正当化するロジックは全て欺瞞となる。

 

だから俺は──。

 

「さて、この銃口に、どう答える?黒服よ」

「…良いでしょう。交渉は決裂です。先生」

 

肩をすくめ、黒服は言う。

 

「私は貴方の事を気に入っていたんですが、仕方ないですね」

 

ですが、と黒服は笑う。

 

「先生。この勝負を引き分けに持ち込む手段があるのですよ。

貴方も、気付いていますよね」

「それでも構わないさ」

「でしょうね。そして、私もこんな場所で手の内を晒す訳にもいかない。

まあ、ですので今回は大人しくここで引き下がるとしましょう」

 

ホシノは、と黒服は再び両肘を机に立てる。

 

「アビドス砂漠のPMC基地の中央にある実験室にいます」

「実験室だと?」

「"ミメシス"で観測した神秘の裏側、つまり恐怖。それを生きている生徒に適用する事が出来るかどうか─という実験を始めるつもりです」

 

まだ、ルルーシュも黒服の言葉の全てを理解していたわけではないが、しかしそれでも、怒りを、限界近くまで溜まっていた憤りを、苛立ちを抑え切る事は難しくなっていた。

 

グリップを強く、割らんばかりに握り締める。

 

「─ホシノが失敗すれば、あの狼の神が代わりに、と思っていたのですがどうやら前提から崩れてしまったようですね」

 

そういうことですので、と黒服は立ち上がった。

 

「精々頑張って、生徒を助けると良いでしょう」

「微力ながら幸運を祈ります」

 

黒服はルルーシュに先んじて、薄暗い最上階から姿を消すのだった。

 

「ルルーシュ先生。…ゲマトリアはあなたのことをずっと見ていますよ」

そう、言い残して──。

 

 





今回も読んで頂きありがとうございます。

リアルが忙しいため、次回更新日は少し遅くなるかもしれません。
よろしくお願い致します。
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