コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
ユメ先輩が遺してくれた…皆のおかげで支えられて、笑えていた学校は…私のせいで無くなってしまう…。
選択を誤った私のせいで…。
ちゃんと向き合えてたら、変わったのかな…。
大人に騙される前に、違う手段を思い付いてたら、こんなことにはならなかったのかな。
力も足りなくて、結局、私は正しい選択を出来ていない。
どうして間違えちゃったのかな…。
どうしてちゃんと、信じなかったんだろうな。
あんなに、気にかけてくれたのに。
ちゃんと信じていれば…。
口はちょっと悪いし、ちょっとズレてる時もあって、何を考えてるのか分からないこともあるけど…。
でも、そうだ。
先生は一度だって言わなかった。
なのに、私は──。
──未だ沈黙を続け、外の喧騒など無関係かのように鎮座し続けるゲートの前。
シロコは指を常人離れした速度で操るルルーシュを暫く見つめていたが、ごめん、と謝りながら声を出す。
「どうした。シロコ」
「邪魔しちゃってごめん。…でも、一つ、聞いておきたい事があって」
「今じゃないとか?」
「うん。出来れば今聞いておきたいの」
「何だか怖いな。手短に頼むよ」
「ありがと。…先生はさ」
シロコはルルーシュと出会ってからの事を思い返しながら、その問いを発した。
「一度も言わなかったよね。私達に」
「アビドスを離れたら、って」
シロコは、カイザーの理事を過ぎらせながら、言う。
「私達の事情を知った大人は、皆言う。
そんなに大変なら、アビドスを諦めて転校でもしたらどうだ?って」
多分、と彼女は目を落とした。
セリカやノノミも。
「多分、それは正しくはあるんだと思う。
私達が被らなくて良い借金なのかもしれない。
だけど、先生は一度も、そうは言わなかった。」
「正直…先生は言いそうな人に思えるのに…」
やや罰が悪そうに、しかし正直に付け足されたひと言に、ルルーシュは苦笑しつつ顔を上げた。
「どんなイメージを持たれてるんだ私は」
「…ごめん」
「別に良いさ。当たってるしな。そうだな。他人から話だけを聞いて、だったりしたら、私もそう思っていたかもしれない」
「…じゃあ、どうして?」
簡単な事だ。とルルーシュは小さく微笑した。
「居場所は、大切だからな」
「…!」
ルルーシュは端末に目を戻しながら続ける。
「その人に取って大切な居場所というのは、当たり前だが人によって異なる。
その重要性も。…それは、他人が簡単に推し量れるものではない」
その居場所は、唯一無二。
何処にいるよりも楽しく、何処にいるよりも、安心出来る。
ルルーシュはかつての、アッシュフォードの生徒会を脳裏に過ぎらせていた。
「しかしそれでも、君達にとって、アビドスがどれだけ大切かなんてのは、見ていて充分に分かった。
こうして自ら捕らえられてでも守ろうとするほどに。或いは、銀行強盗をしてでも。
そして、帰り着いた途端、張りつめていた気を緩ませて、気絶してしまう程に安堵出来る空間」
「…蒸し返さないでよ」
「悪い悪い。しかし、事実だろう?
そんな君らを見てたからこそ、嫌でも分かる」
それが、君達にとっての幸せだということも──。
"私は、幸せとはガラスのような形をしているのだと思っている"
"普段は気付かない。けれど、見る角度を少し変えれば、光が入り、様々な姿を映し出す。
そこにある、と雄弁に存在を主張する"
"私には、彼女達の幸せを理解しきることは出来ない。何故、あそこまでアビドスに拘るのか、恐らく真に理解出来ることはないのだろう"
それでも、とルルーシュはヒナに向けて言った言葉を、反芻する。
俺には、そのガラスは透明にしか見えない。
けれど、彼女達の表情が、行動が、俺に教えてくれる。
アビドス高校というガラスに映る光が、どれだけ美しく、尊いものかを。
「誰にも、"居場所"の存在そのものを否定する権利なんてない。
"居場所"がぶつかり合って、争いになることはあるかもしれないが、しかし、それでも、居場所を求める人の気持ちそれそのものを、否定することなんて出来やしない」
ルルーシュは静かに断言する。
「そんな権利は、神ですら持ち得ない。
…ただ、それだけのことだよ」
「アビドスは君達にとって、砂の一粒だって奪われたくない。そんな、何ものにも代え難い場所なんだろう?」
シロコ達が頷くのを見て、だから、とルルーシュは言う。
「私は、君達の居場所を失わせない。絶対に」
そう、対策委員会皆が揃わなければ、同じ光は取り戻せないだろう。
だからこそ、何としてでも、絶対に。
俺はもう、失わない。
「さて」とルルーシュは最後に端末をタップすると、一度だけ息を吐いた。
同時に、これまで静かに居座っていたゲートが上昇を始める。
「丁度良いタイミングだな。お喋りはおしまいだ」
ルルーシュはゲートを潜っていく対策委員会の後は追わない。
「ここをルート通りに進めば実験室に行けるはずだ。後は頼む。私は予定通り、単独で暫く動く。
その間、通信は一時的に遮断する。
此方から連絡するか、何かイレギュラーが発生するかしない限りは使わないでくれ」
「了解…先生」
「ん?」
「ありがとう」
シロコが礼を言い、他の者達も想いは同じとばかりに頷き、走り出した。
「絶対に、取り戻すぞ」
対策委員会の皆はルルーシュへと目を向けて頷き、ゲートの向こうへと駆けていく。
その姿が、廊下の突き当たりに消えていくまで見送ってから、ルルーシュは一人、踵を返すのだった。
「くそっ!アビドスの奴等どこに消えた!」
「カメラはまだ全部復旧せんのか!」
「後少しです!」
基地の司令室は混乱の渦中であった。
ゴリアテと出撃した理事は風紀委員と便利屋に押されており、基地にはアビドスが侵入し、現在見失っている所なのだ。
当然、動揺も生まれるだろう。
「た、大変です!」
「なんだ?!」
「Dブロックのゲートが開けられた模様です!」
「何?!実験室への通路じゃないか!」
もうそんなところに…。と理事の代理で指示を出していた隊長は焦りを募らせる。
理事に指示を仰ごうにも、彼も冷静さを欠いている事は明らかで、まともな策が出てくるとは隊長も思えなかったのだ。
「おや。随分と忙しそうだな」
司令室の喧騒は、その嘲笑を滲ませた声に、ピタリと動きを止めた。
その声は、正に先程、彼等のモニターに割り込み、挑発を行って来た声と同じものだったからだ。
「…!バカな!」
全員の視線が一斉にルルーシュの方へと向けられる。
「何故ここが分かる?!…いや、そんなことより」
「捕らえろ!」
兵達は俊敏に動き、ルルーシュの下へと向かう。
だが、その目的が達されることはない。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる」
ルルーシュの左目が紅く光る。
「"全員、私に従え!"」
一瞬、司令室内の時間が止まる。
その1秒後、兵達は皆、均整の取れた動きで気を付けの姿勢を取り、一斉に敬礼をした。
「イエス・サー!何なりとご命令を!」
「フッ…。よろしい。それではまず、そこのお前は記録装置を止めて、今あったことを消去しろ」
「はっ」
「そして、他の者。お前達にはこの命令書に従って貰う。良いな?」
「了解致しました」
機械的な動作でルルーシュから文書を受け取った隊長は他の者達に回覧させていく。
「私は他にやることがあるのでな。通信は受けない。作戦終了後はカイザーPMCに残留し、そこの指揮官を通じて新たに指示を出すまで潜伏」
以上だ、とルルーシュは指揮官に使い捨ての連絡先の一つを渡し、ルルーシュの命を実行するべく動き始めた司令室を後にするのだった。
「意外と敵が多いわね…」
「実験室が近いからかも」
対策委員会の皆は、広い廊下を駆け、実験室を真っ直ぐに目指す。
「シロコちゃん!」
「ん」
幾つかの通路との交差点になっている場所へ差し掛かった時、皆はその双方から迫ってくる気配を察知し、ノノミはそこから即座にルルーシュの考案したフォーメーションの一つを思い起こしていた。
シロコもノノミの意図を察し、飛び上がって壁を蹴り、ノノミの射線を空ける。
脇道から押し寄せていた複数のPMC兵らはノノミの連射によって撃ち倒された。
シロコはそのまま天井をも蹴り、もう一本の別れ道から迫っていた敵達の足下に着地する。
「なっ…!?」
下方からの攻撃に反応しきることが出来ず、此方も倒される。
『!セリカちゃん。後ろ…!』
「…!」
アヤネの通信に一瞬で反応し、セリカは即座に跳躍し、宙から背後で対策委員会へ狙いを付けていた兵を狙った。
彼女達はコンビネーションの妙で、兵を蹴散らしながら確実に、ホシノの囚われる場所へと近付いていくのだった。
──ルルーシュは一人、通気口と配管等が通るパイプシャフトを兼用したエリアをひた走っていた。
フッ。結果的に、コンストラクションに手駒を確保出来て良かったやもしれんな。
カイザーグループは自ら建設会社足るコンストラクションを有しているのだから、こうした機密性の高い基地も一切外部委託することなく、自社で建設可能。
そして当然、その設計図はコンストラクションに保存されている。
あの部長に閲覧権限があったのは僥倖だった。
黒服の言っていた実験室の存在が事実であることも、詳細な位置も。
そればかりか、おかげで侵入も容易となったし、こんな抜け道まで見つけられて、基地の構造を把握出来たことで、作戦の幅も広がった。
ルルーシュはあらかじめ設計図から分析した所定ポイントにプラスチック爆弾を仕掛けながらどんどんと道を進む。
そして、突き当たりに到達した時、「ん?」と足を止めた。
ここは所定ポイントではないが──。
そういえば設計図上だと、"あそこ"の近くだな。
良し。
ルルーシュはそこにも爆弾を設置し、次のポイントへ向かうのだった。
──地上。
「理事!」
「おお!来たか!」
既に満身創痍の理事が操るゴリアテと七割程数を減らしたPMC歩兵達の前へ、新手のゴリアテ達が立って、ヒナ達の行く手を阻む。
「このデカいの、まだいるのね…」
アルは理事のしぶとさを思い、眉を僅かに歪めた。
「はぁ…面倒ね」
ヒナはため息を付きつつ、銃を持ち直す。
「でも、やるしかないでしょ!ハルカちゃん!」
「!は、はい!」
ムツキとハルカが飛び出し、ムツキが爆弾をゴリアテへと投げ付ける。
「ぐっ?!その程度、この機体の前には──ん?!」
腕部装甲で爆弾を防いだゴリアテの一つは、しかし、爆煙に紛れたハルカを見失う。
「もう一人は何処へ…!!?」
「ん〜?上、かな」
「上…?」
頭部が上空へと向くが、既に遅い。
ハルカはゴリアテの肩へと着地し、コクピットの方に銃口を向ける。
「待っ──!」
早速に一機が落とされ、PMC兵達、特に歩兵達は勝ち目のなさに最早怯えを感じ始めているようで、理事からの怒声があるまでは、動けなくなってしまっていた。
「お前達!見てないで行け!行かんか!」
「くそっ!たった4機では心許ない。まだ他は来れんのか?!」
言いつつ理事は理解していた。
今やって来た4機は、自らの乗る最新型に近いモノで、起動準備にかかる時間も、他のタイプよりは早いものである、と。
つまり、他はまだ後少し時間を要するのだ。
動ける分だけでも投入されただけ、マシと思うしかなかった。
しかし、その後少し、はもう直ぐ、になろうともしていた。
「副隊長!準備完了です!」
第二陣のゴリアテ部隊として出撃するべく、格納庫で進められていた準備がついに完了してしまったのだ。
数十機はあるゴリアテが地上へと上がる事を今か今かと待ち構えている。
「良し。…司令室。聞こえているか?」
『…ああ』
「準備完了だ。エレベーターを起動して、ゴリアテを地上へ」
了解、の言葉の来ることを疑っていなかった彼は、次に自らの耳に届いた言葉を一瞬理解する事が出来なかった。
『断る』
「………は?」
『用件は以上か?』
「おい。ふざけているのか?そんな場合じゃないことぐらい分かるだろ。早くエレベーターを上昇させろ。理事が追い詰められているんだぞ」
『分かっている。だから、断る』
「おいおいおい。冗談が過ぎるぞ!早くしろ!」
『断る。そういう命令だ』
「そんな命令此方は聞いていない!誰の命令だ?!理事か?!」
『理事ではない。だが、命令だ』
埓があかないと副隊長は通信を切る。
「何だ?一体どういう…」
数秒の熟考の後、ギアスの事を知る由もない彼であったが、彼の常識の範囲内で考えられる可能性に思い至り、顔を青ざめさせることとなった。
「まさか──」
「おい!」
ゴリアテ部隊に向け彼は声を張り上げる。
「お前達!半分は降りて私と共に来い!司令室が敵に占拠されているのかもしれん!」
あの不自然な拒絶。
敵に制圧され、脅されているのかしているのならば理解出来る。
そうであるならば不味い。他の増援や、基地周辺で傭兵を相手にしてる仲間への指揮も…!
「お前はここで待機!」
困惑した様子の兵の一人に、副隊長は命じる。
「緊急時個別駆動システムをオンにしてこっちで操作しろ!それでここに残す半分だけでも出撃させるんだ!」
「は、はいっ…!」
副隊長はそうして、ゴリアテを降りたPMC兵を率いて司令室を目指した。
「観念しろ!侵入者め!」
勢いよく扉を破り司令室へと入った副隊長は、しかし、仲間たち以外の姿を認めることが出来なかった。
「…隊長。敵は?」
「ここに異常はないよ。副隊長」
彼の混乱は、最高潮に達していたが、残る理性で叫ぶように疑問をぶつける。
「では、何故拒否したのです!!」
「命令だからだ」
「……まさか、貴様ら裏切っていたのか?!」
副隊長の連れてきた部下達も異常を悟り、武器を構える。
「いやいや。裏切ってなど。…しかしそうだな」
副隊長の相手をしていた隊長の声に続き、副隊長の背後からうめき声が幾つか聞こえる。
「!?」
彼が振り向くと、引き連れていた兵達が何処かに隠れていたのだろうギアスの奴隷となったPMC兵達に制圧されていた。
「邪魔立てするなら容赦はせんぞ?」
「なっ──」
副隊長はわけも分からぬままに捕らえられることとなった。
だが、格納庫に残った兵達はエレベーターの起動には成功していた。
数こそ減ったものの、残った半分のゴリアテが地上へと向かう。
だが、しかし、間もなくハッチという所に辿り着いた瞬間、壁面で小規模な爆発が起きる。
「なっ?!」
煙を上げ、エレベーターは爆発の影響で停止してしまう。
爆発のあった場所には大穴が空き、幾つもの配線や機器、そして配管がぶち切れる形で宙にその姿を露出させていた。
「エレベーターが…!そんな…!何でこんなとこで爆発が…!」
ゴリアテ部隊は地上へと飛び出す事能わず、ただの木偶の坊として、地下にて眠らされ続けるのだった。
──外の爆発音も、銃声も、ホシノを呼ぶ声たちも、一切が届かない暗闇の中、ホシノはその声を、過去の記憶をその耳で捉えていた。
"ねえ、ホシノちゃん"
"私ね、ホシノちゃんと始めてあった時、これは夢なんじゃないかって思って何度も頬をつねったの"
"ホシノちゃんみたいに、可愛くて、強くて、頼れる後輩が傍にいてくれるなんていう夢みたいなことが、本当に嬉しくて──"
"うーん。上手く説明できないかもしれないけど…"
"ただこうしてホシノちゃんといられることが、私にとっては奇跡みたいなものなの"
自らの、何も分かっていなかった愚かな過去が、それに続く。
"毎日毎日、こうして一緒にいるじゃないですか"
"昨日も今日も、明日もそうです。こんな当たり前の事で、何を大袈裟なことを"
違う。当たり前なんかじゃない。
"はう…だって…"
"奇跡というのは、もっとすごくて、珍しいもののことですよ"
"…ううん。ホシノちゃん。私はそうは、思わないよ"
ユメ先輩の、言う通りだった。
どうして私は──。
どうして、失うまで気付けなかったんだろ…。
"ねえ、ホシノちゃん。いつかホシノちゃんにも、可愛い後輩が出来たら、その時は──"
ごめんなさい。ユメ先輩。私は…私は──。
それでも…。叶うなら、もう一度だけでも、夢でも良いから。皆に会いたい。声を聞きたい。
いつもの皆。……奇跡みたいな、あの日々を。
…私はバカだ。
私のせいで壊れたのに、なんて虫の良い。
─そんな都合の良い事、起きるわけないのに。
「…ごめん。ごめん皆。私のせいで、皆を傷付けて…」
「私が、バカだから…皆を──」
彼女の悔悟の声は、頬を伝うものと共に、暗闇へと、何者にも聞き届けられることなく、消えるかに思われた。
「違うな。間違っているぞ!ホシノ!」
しかし、彼女の声は、届いていた。
「…先生?」
「君は悪くない。全ては、決して、間違っても君のせいなんかじゃない。
悪いのは、君達を食い物にしたカイザーだ。黒服だ!…汚い大人達。社会に、見て見ぬふりをさせた、責任を負うべき者達だ」
「何で…」
ホシノが視線を上げると、実験室の上部から漏れ出る光が浮かび上がらせる、彼のシルエットをその滲む視界で捉える事が出来た。
「言っただろう?奇跡を起こすと」
ルルーシュはそう笑い、天に向かって掲げた掌の指を擦り、高らかに鳴らす。
瞬間、轟音と共に、連続する振動が、基地全体を包み始めるのだった。
実験室の壁面の幾カ所かもその発信源となり、火球が膨れ上がるようにして、爆炎がホシノの拘束具の留め具を破壊していく。
先生が、どうしてここに。
それに、拘束が…。夢じゃない。
じゃあ、本当に先生が、これを?
「それと、お迎えだ」
ルルーシュが指差すとほぼ同時に、実験室の大きな、固い扉が吹き飛ばされる。
『「「「ホシノ先輩!」」」』
もう一度と願った、奇跡が、ホシノにとってのガラスが、立ち込める煙を払い除け、飛び出してきた。
──夢みたい。
ホシノには、彼女達を断続的に照らす不規則な爆炎が、まるで、夜の闇を裂き、砂漠を照らす、朝日の様に見えていた。
今回も読んで頂きありがとうございます。
次回、アビドス編最終となる予定です。
更新日は未定ですが、次回もよろしくお願い致します。