コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐   作:ライト鯖

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第2.5章 幕間-①
Archive-033 シャーレの当番


 

 

「さすがに、L.Lとしての業務が膨らんで、時間が足りなくなってきているな…」

 

ルルーシュは時計を一瞥してから残るタスクをざっと計算し、呟いていた。

 

既にエンジェルマートの業務効率化と安定化は完了しつつあり、投資などによって得た財も用い、小売業以外の業種にも企業の触手を伸ばさせていた。

個人的な投資のみならず、信託会社を立ち上げ、そこで自身の資産も運用させ始めている。

銀行はまだ開業出来ていないが、消費者金融を立ち上げ、カイザー等の悪徳とは異なった良心的な利息と、高利の割に無駄に審査の厳しいカイザーやブラックマーケットのそれよりは緩い基準で運用する事で急激に勢力を拡大していた。

 

基準の緩さは焦げ付きにも繋がるが、代わりに客の数を獲得する事でカバーしつつ、カイザーローンからシェアを奪うことを優先している。

 

 

まだ一部の地域でしかその看板を掲げられてはいないものの、乗っ取ったとは言えルルーシュは僅か一月と少しで、L.Lとしてもキヴォトスにその名を知らしめつつあった。

 

そして、その代償としてルルーシュは仕事に忙殺される毎日となっていたのだ。

 

 

…シャーレの仕事もそれなりに多いのが厄介だ。

 

量は日によるが、忙しい日はシャーレの業務にかかりきりに近い状態になることもある。

生徒のお悩み相談のようなものから、連邦生徒会から提出を命じられている種種の手続き上の書類。

前者はまだ良い。後者もアビドスでの一件が落ち着くまでは、俺自身が撒いたようなものだったから仕方なかった。

 

だが、こうも毎日となると、さすがに辟易させられる。

 

確かに連邦捜査部、キヴォトスの超法規的機関故に、様々な情報が集まるのも、それを確認する必要があるのも認めるが、判を押せば済むだろうモノに何故こうも煩雑な手順が必要になるんだ。

数字も含め手書き?お役所仕事にも程がある。

 

これなんか訳が分からない。

アラビア数字ではなく漢数字で?

幾ら日本語が使われているとは言え、数字まで漢字にせずとも…。

 

「はぁ…」

 

ルルーシュは既にこの日何度目かとなった溜息を吐き、ペンを取る。

 

『お疲れみたいですね…』

 

アロナが気遣わしげに端末越しに声をかける。

 

「アロナか…。疲れはまあ大したことはないんだが、物理的な時間の問題がな…。

シャーレの仕事を少しでも減らせれば良いんだが」

『会社の方を減らすのは難しいんですか?』

「各事業がもう少し落ち着けばそれも出来るだろうが…。まあ少なくとも、数カ月は先だな」

『でしたら、シャーレの仕事を手伝ってもらえば良いのでは?』

 

ああ、とルルーシュは頷く。

 

「それは考えていた。事務員でも雇おうかと」

『え?事務員さんって市民の方を雇うんですか?』

 

アロナの疑問形を、ルルーシュはうん?と訝しむ。

 

「それ以外ないだろう?」

『生徒さんに手伝って貰うのはいかがでしょう?』

「生徒に?」

 

数秒程考えてから、ルルーシュはしかし、と余り乗り気ではない反応を返す。

 

「生徒の中には学園で地位を持つ者もいる。

それはつまり、政府の人間に、他所の政府の機密を知られかねないということだ。

それは火種になりかねない」

『確かにそんな可能性が全くないとは言いきれませんが…。でも、生徒さん同士や先生と生徒さんが交流する機会になりますよ!』

「交流…?」

 

…なるほど。そうか。様々な学園の人間に来てもらえれば、其々が互いの学園の情報を知り得る立場となり、状況はある種のイーブンとなる。

となれば、迂闊にそれを利用する、という選択肢は無くなる。

その上でここでの交流は、すなわち外交の契機になるだろう。

話し合いの場を提供するというわけか。

 

「妙案だな。アロナ」

『?…え、ええ!そうでしょう!先生もやはり生徒さんと仲良くした方が良いですから!』

 

アロナの思惑とは全く異なる形であったが、ルルーシュはシャーレの職務を生徒に手伝ってもらう事の有用性を納得した。

 

「…機密に触れかねない情報のある仕事はさせないように細心の注意を払うとして、後は単に事務員を雇う事のメリットをどの程度上回るかだな」

 

幾ら、互いが互いの情報を知り得る、知っているかも、という膠着が期待出来るからと言って無防備にする訳にもいかない。

ルルーシュは、機密性の低い職務を割り当てる方法に思考を巡らしつつ、試験的に実践してみる必要があるな、と独り言ちる。

 

「誰に頼むべきか、だな。能力がある程度担保されていることが前提になるが、候補は…」

『アビドスの生徒さんはどうでしょう?』

「アヤネなんかは間違いなく頼りになるだろうが、彼女らは5人しかいない。1人を引き抜いてしまうと、緊急時の対処能力が著しく低下する。

まだ実施の決まってすらいない試験に動員は出来ない」

 

それに、とルルーシュは言う。

 

「折角なんだ。これまでに余り関わりのなかった学園の方が良いな。バランスの面からも、今後のことを考えた時…も…」

 

ルルーシュは1人、能力も申し分ないであろう、まだ交流の少ない学園の生徒を1人思い出した。

 

 

早瀬ユウカは会議が終わり、廊下に出てからスマホを取り出し、溜まった通知を確認していく。

その内の一つに、見慣れない、しかし、彼女の目を引く送り先からのメッセージ通知があった。

 

「…先生?」

 

[やあ。久しぶり]

[すまないが、少し話したいことがあるんだ。

時間のある時で構わないから、返信をくれると嬉しい]

 

先生。一月ほど前に、シャーレへと護衛し送り届けた彼と一応交換していた連絡先。

それにユウカは返事を返しすのだった。

 

[お久しぶりです。一月ぶりですね。

今なら大丈夫ですよ。先生の方はいかがですか?]

 

ユウカは廊下の壁にもたれかかり、メッセージを打ち込む。

 

それから一分も経たずにレスポンスがあり、ユウカは再びルルーシュとのトーク画面に戻った。

 

[此方も大丈夫だ。ありがとう]

[早速だが、少し頼みたいことがあるんだ]

 

シャーレの先生が、私に?

いやそれとも、ミレニアムに?

 

[どういった内容でしょうか]

[ユウカに、シャーレで手伝って欲しい事があるんだ]

[手伝って欲しいこと、ですか。どのようなことですか?]

[文面で全部を説明するとなると長くなるかもしれない。

詳しくは会って話したいんだが、直近2週間位で空いている日はあるかな?]

 

ユウカは即座にスケジュール管理アプリを起動し、予定を確認する。

 

[明後日のお昼前からなら空いていますが]

 

返事を返しつつ、ユウカはルルーシュの頼みの内容はまだ分からないものの、その如何を問わず無関係に、受けるべきと決めていた。

 

 

報告によれば、先生はゲヘナ学園と交流を持っているという。トリニティとも関係を持ちつつあるという噂も聞こえてくる。

 

キヴォトスの三大学園が一つのここ、ミレニアムサイエンススクールだけが未だ、シャーレとの関係が殆どない。

それこそ、私が先生をシャーレに送り届ける一団にいた程度。

 

しかし、シャーレの権限はかなり巨大で、その上すでに、アビドスという廃校寸前の自治区を悪徳大企業カイザーコーポレーションから守った実績もある。

 

私達だけ、取り残される訳には行かない。

これは好機ね。先生の頼みが何かは知らないけれど、協力しない手はないわ。

 

[そうか。助かるよ。折角のオフになっただろう日に申し訳ない]

[お気になさらず。それでは、当日はシャーレに向かいますね]

[ああ]

 

その肯定の返事が返ってきて、ユウカがモモトークを閉じようとした時、[いや]とルルーシュからのメッセージが続いた。

 

[昼前になるんだったな。食事でもしながら話さないか?]

[構いませんよ]

[では、後で場所を送る。

それじゃあ、明後日に。ありがとう]

 

ユウカは思わぬ誘いに僅かに身体の動きを止めたが、何でもないように返事を返し、今度こそ会話を終えた。

 

 

「よし」

 

ユウカとしてはトリニティやゲヘナに遅れを取る訳には行かないという心理が働くだろうから、断られることはほぼないと踏んでいたが、二つ返事で受けてくれるとは。恐らく予想通りだったのだろうな。

 

店の予約を済ませてから、ルルーシュは再び山積みの仕事へと戻るのだった。

 

─翌々日。

 

 

早瀬ユウカは送られてきた位置情報を頼りに、D.Uの郊外、シャーレから徒歩で数分程離れた場所にやって来ていた。

 

雑踏の中、目的の人物を探し、キョロキョロと辺りを見渡していると、背後から声がかかる。

 

「やあ、おはよう」

 

振り向き、姿を確認したユウカは、軽く会釈して返した。

 

「おはようございます。先生。

すみません、待たせてしまいましたか?」

「いいや。時間丁度だ」

 

ルルーシュはにこやかな、ルルーシュ・ランペルージとしての仮面を意識しつつ、ユウカの目を見る。

 

「それじゃあ、行こうか」

「あ、はい」

 

そこから直ぐの場所にある、目立ちはしないがそこはかとない上品な雰囲気を醸し出す店に入ると、二人は個室へと通される。

 

「なんだか…お洒落な雰囲気のお店ですね。

先生はよく利用されるんですか?」

 

まさか個室のある店でしかもそこに通されるとは思っておらず、ユウカは無難な感想を述べつつ、ルルーシュの頼みの内容が思っていたよりも大変な事なのでは、という危惧を過ぎらせていた。

 

「たまにな。こういう時の為に下調べをかねて」

「こういう時って…」

 

ルルーシュはフッと曖昧に笑いつつ、手に取ったメニューを机上に置き、ユウカの方へ向ける。

 

「さすがにコースだと時間がかかりすぎてしまうし、君の好みも知らない。だから、何でも好きなものを選んでくれ」

「あ、ありがとうございます」

 

注文を終え、店員が去ってから、ルルーシュは早速だが、と本題の口火を切る。

 

「頼みたい事というのは単純だ」

「シャーレの仕事を手伝って欲しいんだ」

 

ユウカは拍子抜けしたようにパチパチと何度か瞬きをしてから、「手伝い?」と思わず聞き返していた。

 

「ああ。まあモモトークで言っても良かったんだが、まだ正式なものではないからね。変な噂に発展したりする可能性を減らしておきたかった」

「なるほど…」

 

ユウカは自校の、デジタル上の会話を盗み見ていてもおかしくないメンツが過り、ルルーシュの説明に納得する。

 

「勿論、無報酬ではない。しっかりと時給換算で報酬は支払わせてもらうよ」

「…事務員を雇えば良いんじゃ?」

「それも考えたが、何というか。…シャーレの仕事には波があってね。恒常的に雇っておくのも大変なんだ。

雇われた側も、此方も」

「人1人雇っておく負担が大きい、と?」

「恥ずかしながら、な。

だからといってシフトの安定しないパートタイマー事務員なんて、募集をかけても集まらないだろうさ。他の仕事ができないのだから」

「なるほど…それでシャーレの仕事を…」

 

本来の目的としては、ユウカの言うように事務員を雇うのと何方が良いか、という話だが、わざわざ全ての事情を話す理由も必要もない。

そして、ルルーシュの説明は嘘でもない。

実際、仕事もないのに職場に来る日がそれなりに生まれるだけの雇用は両者にとってのメリットが薄い。

 

引退寸前の人間をそうした役に就けるのは理にかなっている場合もあるかもしれないが、そうでない場合のそれは明らかに単なる時間と金の浪費である。

 

 

そして、ユウカとしてはその程度の話ならば尚更断る理由もない。

むしろ、ミレニアムに何ら負担もなくシャーレと関係を持てる美味しい話と考えていた。

 

「頼めるかな?」

「勿論です。是非、お手伝いさせて頂きますね。先生」

「ありがとう。助かるよ」

 

そうして食事を終えると、ルルーシュは伝票を手に取り、会計へと向かう。

 

「先に外で待っててくれ」

「いえ、ご馳走になるわけには」

「生徒と割り勘する先生が何処にいる。

それに、こっちはお願いする立場なのだからな」

 

笑いつつ、ルルーシュはカードで支払いを済ませてしまった。

 

「…ごちそうさまです」

「ああ。それじゃあ、シャーレに行こうか」

 

ユウカはすっかりとルルーシュのペースに乗せられており、ルルーシュとしてはある程度狙い通りといった状況である。

 

ユウカに頼んだのは、能力的に申し分ない点と、学園間のバランスを考慮したからこそだ。

 

だからこそ、良好な関係を築いておきたいのだった。

 

悪くない感触だな。

今まで余り関われていなかったが、その特徴や実績から言って、ミレニアムとの関係は最重要に位置する。

 

そして、ルルーシュはあらかじめ準備していた書類を見せ、ユウカに言った。

 

「これが手伝って欲しい仕事だ」

「分かりました。任せてください」

 

ユウカは書類の束をパラパラと捲り、中身を見てからルルーシュに目を向けた。

 

「何だ?」

「これは…何というか…」

「分かるよ。本当に必要か?という疑問は頭から締め出すようにしているんだ」

「私もそうした方がよさそうですね…」

 

はあと息を吐いてからユウカは再び目を落とす。

ルルーシュも向かいの席に座り、他の業務へと戻った。

 

「…先生。すみません」

「ん?今度はどうした?」

「シャーレの予算、ですよね。これって…」

「ああ」

 

表の、連邦生徒会から割り振られている分のみで付けているシャーレの帳簿。

ユウカが目にしたのはそれであった。

 

そして、表の帳簿は数字を見れば酷い有様である。

シャーレの予算は余りに少ない。

これでキヴォトス中に目を向けろというのは無理があるだろう、と思わずにはいられない程に。

要するに、求められる職務の規模感と合致していないのだ。

 

「先生も大変なんですね…」

「?…ああ、そうか。ユウカはセミナーの会計だったな」

「はい。…ウチは多分先生とは別の理由ですが、毎度毎度悩まされています」

「何処も同じ、なのかもな」

「いえ、先生、シャーレの場合は何というか…」

 

ユウカは無駄遣いらしき支出もなく管理されているにも関わらず、ギリギリ赤字を回避しているような帳簿を隅々まで調べきると、小さく溜息を吐いた。

 

「これだけ節約してギリギリなのは、連邦生徒会の怠慢じゃないですか」

「まあ、彼女らも大変だからな。連邦生徒会長がいなくなった混乱。その連邦生徒会長が置き土産として設置したが、目の上のたんこぶに思っているだろうのも多いだろうシャーレ。

私にかまけている場合じゃないんだろうさ」

「…先生って意外とお人好しなんですね?」

 

ユウカの意外そうな顔と共に出された言葉に、ルルーシュはまたも苦笑することしか出来なかった。

 

そして、思ったより短期間で妙な印象を人は記憶してしまうのだな、と考えるに至っていた。

 

全く、我ながらろくな印象を持たれない。

 

「あれ?」

 

ルルーシュの思考は、ユウカの声によって引き戻される。

 

「これは…」

 

ユウカが手に持っていた帳簿。

ルルーシュはそれを認めるや否や、しまった。と目を見開いた。

 

なっ?!何故、俺の家計簿があんな所に!

……。しまった、そうだ。

昨日付けた後、連邦生徒会から寄越された書類の束が崩れてそのまま…。

 

チッ。疲れていたとはいえ迂闊に過ぎる。

完全に違法な収支は別の裏帳簿にしか書いていないが、此方にも不透明さは無くはない。

 

「この収入、何ですか?」

 

ルルーシュはユウカの指差す場所を正確に見ずとも何を言っているのか理解していた。

 

「…ちょっとした雑収入だよ」

「そうと言うには大きすぎませんか?」

「副業は出来ないから、投資だったりで稼いでるだけさ」

「なるほど…。ん?投資"だったり"?

他に何をされてるんです?もしかして良くない仕事を…」

「いや、"だったり"は言葉の綾と言うべきかな。誓って違法な事はしていないよ 」

「違法なことではない。…なるほど、もしかして、賭け事じゃないですよね?」

「…まさか」

 

妙な間で、ユウカは悟るのだった。

この話は広げない方が良さそうだな、という親切心が働いたのか、はあと溜息を吐いてから、「ほどほどで気を付けてくださいね」とユウカは話題を次へと移していった。

 

それによる、支出の方は…というユウカの新たな追求にルルーシュは無意識に一瞬目を逸らす。

 

それは便利屋にヘリを提供した時のモノだった。

が、それを正直に言うわけにもいかない。

キヴォトスで裏稼業をしている生徒の為にヘリを貸しました、などと言えるはずもない。

 

 

「いや…それは、趣味のだな…」

「…趣味、ですか。こんな大金を?」

 

訝しみつつも、ユウカがそれ以上追求することはなかった。

 

ユウカは恐らく何か事情があるのだろう、と見抜いていた。

他の、シャーレの帳簿の方は丁寧であり、少ない予算をやりくりして赤字にならないように計算され尽くしているモノを見た直後であれば、単に帳簿や金銭の管理に問題があるのではなく、軽々に書けないものである、と推測するのは当然なのかもしれない。

 

むしろ、ユウカは他の帳簿の整いぶりに、しっかりとした金銭感覚に、正確な計算能力によって、妙な親近感をルルーシュへ感じていた。

 

「ふふっ。貸し一、ですよ。先生。これは見なかったことにしておきますね」

「ありがとう。助かるよ」

 

帳簿を受け取り、ルルーシュは自身のデスクへとしっかりと確認してからしまうのだった。

 

「ところで、先生はどういう計算ソフトを使っているんですか?」

「ん?デフォルトでPCに入っていた表計算ソフトを使っているよ。今の所は」

「でしたら、おすすめのモノがありますよ。

ミレニアムの子が開発したものなんですけれどね」

「ほう?…なるほど、こいつは興味深い」

 

ユウカは余り見られたくなさそうな帳簿の事は脇に置き、中々分かち合う者のいない彼女の趣味の一端をルルーシュに見せ、話題を切替えることにした。

 

これ程までに丁寧に帳簿を付け、正確性に拘りがあると帳簿からも分かる先生なら、という思いもあったことは否定出来ないだろう。

 

─数十分後。

 

「─それで、その論文で証明された定理なんですけど、ご存知ですか?それまでとは全く違うアプローチでの解が面白くて」

「ああ。確か半年前に発表された奴だったか?

そう言えばミレニアム発の論文だったな」

 

気が付けば、ユウカは饒舌にルルーシュと話し込んでいた。

二人とも手はテキパキと動きながらも、会話を弾ませている。

 

ユウカはルルーシュがかなり深い所まで数学の話題を把握していることを会話の流れで知り、そのままテンションが上がっていつの間にかこの時間を彼女は楽しんでいたのだ。

 

 

そして、数時間後。

 

「さて、お疲れ様」

 

陽も沈みつつある、夕焼けによって赤く部屋が染まる時間になり、二人の仕事は丁度区切りを迎えていた。

 

「お役に立てたのなら幸いです」

「本当に助かったよ。ありがとう。今日の報酬は後日算出して振り込むよ」

「はい。分かりました。ありがとうございます」

 

しかし、とルルーシュはユウカを見る。

 

「君のおかげで本当にはかどった。

正式にこのシステムを作り上げる事になるだろうが、その時はユウカ。君にもまたお願いする事になると思う」

「構いませんよ。…先生が賭け事にのめり込んでないか、定期的に確認する必要がありそうですしね」

「フッ。…困ったな。

まあ、否定はしないでおこうか」

 

どうやら、総じて言えば悪くない印象、と考えて良いだろうかな。

そうだとするならば、成功だ。

それに、仕事ぶりも素晴らしいものだった。

 

無論、皆が皆、ユウカのようには行かないだろうが、当初想定していた期待値は上回った。

 

アロナのおかげ、か。

 

「それじゃあ、本日はこの辺りでお暇しますね」

「ああ、ありがとう。今度こそ、次はミレニアムの方に遊びに行くよ」

「ええ。お待ちしています。

今日は楽しかったです。ありがとうございました。でも、すみません。私ばかり話してしまいましたね」

「気にするな。むしろまた話を聞かせてくれ。

君の話は興味深い。色々と参考にもなったし、楽しませて貰ったよ」

 

ユウカは、真っ直ぐに目を見て言うルルーシュから思わず目を逸らしてしまっていた。

 

「…そ、それなら、良かったです」

「数理の面でも頼らせてもらうかもしれないな」

「私でよければ、お力になります」

 

ありがとう、とニッコリ笑ったルルーシュの顔に、ユウカは理由の分からない気恥ずかしさを覚えつつも、頭を下げて、シャーレを後にするのだった。

 

「ふぅ…」

 

ルルーシュはユウカの去った後、息を吐き、椅子にもたれかかる。

最初は小夜子の演じていたルルーシュ像を参考にして振る舞おうかと検討していたルルーシュだったが、普段とのギャップが大きすぎると、ふとした拍子にその差から幻滅される危険性や、演じているとバレることによる信頼の低下が危惧された。

 

その為、ルルーシュ・ランペルージとして長年身に付けてきた一番素に近しい仮面を被っていたのだ。

それでもユウカとの会話は、彼女の知識に付いていく必要があり、専門とは言えない数学分野のそれで長時間にわたって頭脳を酷使したことはさすがに疲れへと繋がっていた。

 

「しかし、早瀬ユウカ…。常識人でありながら知識豊富。仕事も出来るし、申し分ない」

 

この疲労に見合う価値はあったな。

 

ルルーシュは手応えを疲労の中に感じていた。

 

『お疲れ様でした。先生。いかがでしたか?』

「アロナの言う通りだ。これは生徒との交流なにも役立ちそうだし、やはり、良い案だったよ。ありがとう」

『もっと褒めてくれても良いんですよ!』

「はいはい。すごいな。アロナは」

『適当はダメです!』

 

 

早瀬ユウカはミレニアムへと戻る帰路。

ルルーシュとの雑談の様を思い返していた。

 

「─しかし、それは確か反証があった筈だ。

幾何学的な美は感じるが、指摘されている問題点は無視できない」

「確かに2年前の彼の論文ではそうですね。

でも、その後に彼の出した論文。これは最近のものなのですが、此方で実は以前の問題点の多くを克服しているんですよ」

「ふむ…。それはまだ把握していなかったな。

──これか。なるほど。……確かに、ざっと見ただけだが、面白い。これならば議論もまた変わってくるな」

 

あれだけの知識を有している人は、ミレニアム基準で見ても間違いなく平均以上。

しかも多分、先生は数学は専門ではない。それを踏まえると凄まじい知識量だった。

 

しかも知らないとわかると直ぐに調べて要旨を把握してくれて、調べても分からなければ正直に聞いてくれたおかげで、会話にストレスも全く無かった。

 

 

……楽しかったな。

 

ユウカは改めて、素朴に感じた、趣味を共有出来た喜びを、彼との会話の快さを、1人、噛みしめるのだった。

 

 






今回も読んで頂きありがとうございます。

次回以降ももう少しやりたい事があるので、メインストーリーに沿った形ではない幕間が続きます。
また、次回更新日は相変わらず未定です。

次回もどうぞよろしくお願い致します。
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