コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐   作:ライト鯖

34 / 40
Archive-034 仮面(記号)の意味

 

ルルーシュはその日、数日前に来ていた陸八魔アルからの招待を受け、彼女ら便利屋68の新事務所を訪ねていた。

 

「やあ。アル。カヨコ、ムツキ、ハルカも、久しぶり。息災ないか?」

「ようこそ。先生。我が便利屋68の新たなオフィスへ!」

「やっほ〜先生。元気そうだね〜」

「ど、どうも…」

「どうも…って、暑くないの?そのコート。

もう寒くないと思うけど…」

「ん?ああ。これは気にしないでくれ」

 

一通り挨拶を済ませたところで、ムツキは目ざとく目に入ったルルーシュの大きな荷物に触れる。

 

「じゃあこっちは〜?その大荷物。

もしかしてお土産とか?」

「仕事に使うかもと持ってきただけだよ」

「なーんだ。つまんないの」

「だが、お土産はあるぞ。…アル」

 

代表者たるアルにルルーシュは手土産の菓子折りを手渡す。

 

「あ、ありがとう…。そんな気を遣わなくても良かったのに」

「親しき仲にも、と言うだろう」

「親しき…。ふふっ。それなら、ありがたく受け取っておくわ」

 

ルルーシュは小さく頷いてから部屋を見渡し、少しいたずらっぽく言う。

 

「それにしても、野宿でなくなって何よりだ」

「…あ、あれはたまたま!たまたま予算に合う空きがなくてああなってただけ!」

「先生が高価な兵器を譲っ……いえ、処分を依頼された兵器を捨てるついでに、偶然、稼げたおかげでここを借りられたの!」

「幸運だな」

「そうね。私は運が良いわ。特に対人運が良いみたい。

だから、先生、感謝しているのよ。ありがとう」

 

フッとルルーシュは笑った。

 

「私は特に何もしていないさ。…さて、それで」

 

ルルーシュはアルに勧められた椅子に座り、切り出す。

 

「オフィスを自慢するためだけに呼んだのではないのだろう?」

「ええ!勿論よ!先生、協業の話は覚えているかしら?」

「ああ。無論だ」

 

そう。とアルは一度口を閉じ、一度息を吐いてから、ルルーシュに目を合わせた。

 

「それで、返答は…」

「アルちゃん不安がりすぎ〜。震えてるんじゃない?」

「う、うるさい!黙ってなさい!」

 

ムツキにおちょくられ、ペースを崩したアルだったが、勢いそのままにルルーシュに言う。

 

「先生の手腕はよく分かっているつもりよ。

先生さえよければ、ウチの経営顧問になるとかでも…」

「ふむ…。折角の申し出だが、悪いな。"私"としては断るしかない」

「ええっ?!」

 

アルは頓狂な声を上げ、椅子から飛び上がった。

 

「前はあんなに前向きだったじゃない!な、なんで?わ、私達何かしたかしら…?」

「そういう訳じゃないんだ。興味深い申し出だったと今でも思っている。しかし、"シャーレの先生"である以上、アウトローを名乗り、裏社会で活動する君達と公に組むことは出来ない」

「うっ…。それは、そうね…」

 

残念そうに肩を落とすアル。

ムツキも、え〜と不満そうであった。

 

「そう落ち込むな。"先生"としては無理だ、というだけのこと」

 

だから、とルルーシュは鞄を開けながら立ち上がり、外気温からすると暑そうと殆どの人間が思うだろうコートをマントを翻すようにして脱ぎ捨てる。

そのコートに顔が隠れる一瞬に、"それ"を装着した。

 

「我が名は…ゼロ!」

 

紫を基調とし、金色の装飾に彩られた燕尾服のようなスーツにマントを翻す、フルフェイスの、前面を紫色のシールドで覆った仮面の姿でルルーシュは名乗りを上げた。

 

そして──。

 

便利屋事務所の時間が一瞬、静止する。

 

「え〜と…。何、それ…?」

 

ムツキが困惑しつつも尋ねたことで、一応は時間は動き出した。

 

「要するに、その格好でなら良いってこと?」

 

カヨコは何と反応するべきか迷っているのか微妙な様相で言う。

 

「…ああ。まあ凡そカヨコの言う通りだ。

"ゼロ"としてなら、アル。君の提案を受けられる」

「……先生」

「ん?」

「中々センスの良い格好ね」

 

めっちゃ格好良い…!

ゼロって何よ。何でゼロなのか意味は分からないけど何かすっごくかっこよく聞こえるわ! 

 

アルのセンスにはハマったようであったが、カヨコやムツキは嘘でしょ、と言わんばかりに二人を見る。

ムツキは目線だけでなく「アルちゃんマジで言ってるの?」と口に出してしまってもいた。

 

「フ、フフフ。アル。やはり君は分かってくれるか」

「その仮面もイカすわね!

顔と名前を隠してるのもなんだかアウトローっぽいわ」

 

カヨコとムツキは顔を見合わせ、ムツキは面白がりつつも苦笑し、カヨコは溜息を吐くのだった。

 

「えっと…じゃあ、先生…いえ、ゼロは私達と提携するってことですか?」

 

ハルカが恐る恐ると質問を飛ばす。

 

「ああ。そういう事だ。皆もハルカのように、この格好の時はゼロと呼んでくれ」

「了解よ。…それで、つまりゼロ、貴方は私達の経営顧問になってくれるのよね?」

「そうだ。君達の事を邪魔するつもりはない。

…が、そうだな。折角だ。君らの手腕を改めて把握しておきたい」

 

言いつつルルーシュ、ゼロは、鞄から書類の束を取り出した。

 

「とある闇オークションの調査依頼だ。

より正確に言うなら、かつて不良共に奪われた骨董品が出品されているから奪い返したいという事らしい」

「落札ではないんだね」

「そりゃあ、自分のものを取り戻すためにもう一度バカみたいな大金を払う理由はないだろう。因みにそれが依頼者のモノである証拠もある。しっかり調べたからそこは間違いない」

 

これがそれだ、とルルーシュは数年前のオークションの記録を出した。

 

「なっ…!三千万…!?」

「ああ。かなり貴重な品だ。成功報酬は五百万円」

「それでも充分な大金じゃない?」

 

ムツキのツッコミを、ルルーシュも否定はしない。

 

「まあ、それでも一人ではどうしょうもない以上、多少のコストは受忍する、ということだろうな。金を全く使わず取り戻す方法など無いのだし」

「…でも、よくこんな依頼を取ってこられたね」

「ああ。実は裏掲示板のような所を探ってな。

請け負う人間が中々見つからず困っていそうだったから丁度良いと、持ってきたんだ」

 

カヨコの探るような言い方にもルルーシュは平然と返す。

そして、その様子を見ていたアルは決めるのだった。

 

「なるほど。…分かったわ。その依頼、受けようじゃない!」

「良いの?社長」

「ええ。せんせ…ゼロの持ってきてくれた依頼だもの。疑いはしないわ」

「では、決まりだな。

早速、今晩会場の下見に行くとしようか」

 

ルルーシュは、アル達と出会った時から考えていた。

そして、ブラックマーケットでの経験を通し、必要であると確信した。

 

ルルーシュ・ランペルージ、先生としての顔と、L.Lという企業家としての顔。

それだけでは足りないと。

生徒を守ることも、連邦捜査部としての責務を果たし切ることも難しい。

そう感じていた。

 

故に彼は、仮面を被ることを決意したのだ。

 

"ゼロ"の仮面を。

 

彼は元いた世界ではゼロを平和の象徴とした。

人々を奇跡によって纏める記号。

それが、仮面に与えられた意味。

 

ルルーシュにとっても、ゼロの仮面は単なる記号。

仮面に意味があるのではない。

意味が仮面に与えられる。

 

その意味は、固定化されたものではない。

ルルーシュとしては、必要に応じて、その意味を変えるだけであった。

 

かつては救世主、奇跡の象徴としての意味が必要であったから、仮面にその記号を与えた。

今度は、先生という自らの役割から外れた行為を代替し、正攻法では太刀打ち出来ない事象に対する対抗。

裏社会を渡り歩くための仮面が必要となったのである。

だから彼は、仮面に与える。

まずは、便利屋68に現れた正体不明の経営顧問、という意味を。

 

そして何れ、キヴォトスにおける"ゼロ"の仮面には裏社会の帝王、という記号が与えられる事になるだろう。

 

「さて、見取り図は覚えたか?」

「ええ。…でも、いつ出品されるのかしら」

「さあな。少なく共今日ではないと思うが…。

一応確かめておきたくはあるな」

 

ブラックマーケットの一角。

ルルーシュ達はオークション会場となっている、とても裏社会のそれとは思えないほどに堂々とした豪奢な建物を遠目に観察しつつ、ひっそりと相談をする。

 

「予定でも入手出来れば良いのだけれど」

「ああ。──む?」

 

ギアスをスタッフの誰かにでも使って予定を把握するべきか、と思考していたルルーシュは、はたと人混みの中に、見つけた人影、或いは犬影を見て、ニヤリと笑った。

 

「運が良い。皆はここで待っていてくれ」

 

ルルーシュは素顔のまま身を潜めていた物陰から目立たぬように出で、その人物へと向かっていった。

 

「やあ。秋田さん。偶然ですね」

「?……?!?!。っ…ル、ルルー…」

 

飛び上がらんばかりの声を上げかけた彼はルルーシュが静かに、というジェスチャーをしていることにギリギリで気が付き、息を飲み込んだ。

 

秋田八。

俺がキヴォトスに来て直ぐの時、ギアスが使えるかを試した相手。

 

あの時かけたギアスは"私の質問に答えろ"であり、"誰にも言っていない秘密を教えてもらおう"とも命じた。

 

だが、こいつはその時、ブラックマーケットでのオークションのことなど一言も言っていなかったな。

しかし、見る限りオークションに参加しに来たように思えるが…。

今回が初参加?いや、それにしては向かう先にも迷いが無かった。

 

つまり、こいつがブラックマーケットに関わった事案は実際の所、経営難を解消するために武器を横流ししたにとどまらなかった、というところか。

 

それでも何故、あの時話さなかったのかは解決しないが…。

 

いや、そうか。単純な話だ。

ここは一種の社交場でもある。

オークションについて参加者同士一言二言話すことぐらいは当たり前にあるだろう。

 

つまり、ギアスの条件を満たさなかった。 

 

逆に横流しの件はわざわざ裏の人間に自らの弱みを僅かでも見せてやる理由はない。

それだけのことなのだろう。

 

「しかし、驚きましたよ。貴方がこんな場所に出入りしているなんてね。ブラックマーケットとの関わりは、やむにやまれぬモノ、ではなかったわけだ」

「ま、待って…」

「そう怖がらないでください。秋田さん。

この程度で通報なんて……しませんよ」

 

ただ、少し、お願い事をしたいだけです、とルルーシュは彼の耳元に口を近づける。

 

「無論、断れば…言う必要はないでしょう」

「は、はいっ…!なんでございますか?!」

 

動揺から口調のおかしくなっていた秋田にルルーシュはニッコリと笑いかけた。

 

「二つ、やってもらいたいことがあります。

一つは、今日の出品予定、参加者なら知っているでしょう?教えてください。

もう一つは───」

 

──十分後。

 

「次の方〜」

 

建物の正面入口前、マーケットガードを始め、オークション側の雇った私兵や傭兵達が防備を固める中で入場者のチェックが行われている。

 

秋田八は、列を抜け、受付の前に立った。

 

「おや、Mr.A.H。お久しぶりですね。お変わりなく?」

「あ、ああ。君の方も変わりなさそうだね」

「おかげさまで。…ところで、そちらの方々は?」

 

秋田の後ろを固める4人の女性を指し、受付が問うた。

 

「か、彼女らは私のボディーガードだよ。

じ、実は今日、狙い目があってね。ほら、この通り、大金を持ってきたから、守ってもらおうとね」

 

秋田は手持ちのアタッシュケースをポンと叩き、そう説明をした。

 

「なるほどなるほど。賢明なご判断です。

確かに、頼もしそうな方達だ」

「ああ。…それで、もう良いかな?」

「ええ。…しかし、その前に大変失礼ながら、ケースの中身を見せていただいても?

秋田様のことは信頼しておりますが、最近、ブラックマーケットの暗黙を破って暴れ回った覆面水着団だとかいうふざけた連中の存在や、連邦生徒会の捜査の手が少しですが入ったりと、厄介な出来事がありましてね。警戒を強めてるんですよ」

 

秋田はチラリと横目で背後の"護衛"達を見て、彼女らが小さく頷いたのを確認してから「も、勿論だよ」とケースを受付の前で開けてみせた。

 

「ふむ…確かに、これは…」

 

札束が積まれたケースを軽く確認すると、受付はそのまま彼等を通すのだった。

 

「フッ。やはり、一見でもない限り、大して警戒はされないようだな。

下手に疑う真似をして不興を買っては不味いVIPだってあちこちにいる。

そうである以上──」

 

ギアスをかける手間が減った事は幸運だったな。

 

ルルーシュはアル達便利屋が秋田に付いて会場へと侵入するのを見届け、彼自身は裏口へと向かう。

そのついでに出品のリストを見、予定を把握する。

 

「ふむ…出品は…明日か」

 

これまた僥倖だ。

下準備を済ませてしまえば、明日は便利屋68を裏社会に喧伝する場としてオークションを利用させてもらうとしよう。

 

余裕綽々にルルーシュは人が周囲にいないタイミングで仮面を被る。

そして、裏口周辺でたむろし、休息を取るスタッフ達へと近付いた。

 

「何だお前?」

「ここは関係者以外立ち入り禁止だ」

「その変な仮面を取れ」

「怪しい奴め」

 

ルルーシュはピタリ、と全員が視界に収まる位置で立ち止まると、仮面に手を伸ばす。

 

「分かった。取ろう。…しかし、その前に…。

君らにはやってもらいたいことがある」

 

紫色のフェイスシールド。その左目辺りだけがスライドして開き、ルルーシュの肉眼が露となる。

そして、その眼が発する絶対遵守の光により、スタッフ達は彼の手駒となるのだった。

 

「何をすれば?」

「君は私の案内を」

「そっちの君は今から言う仕掛けを舞台にしかけておいてくれ」

「君は──」

 

ルルーシュが暗躍を始めた頃、アル達は、偵察の為に手洗いと称して離れたムツキを除き、会場内で着席し、一先ず開会を待っていた。

 

 

待っている時間が退屈だからと飛び出していったムツキとは対照的に、アルは張り切っている様子だった。

 

フフフ。先生に今度こそ良い所を見せるチャンス。

期待されてるんだもの。絶対に成功させてやるわ。

 

不敵な笑みを浮かべ、どっしりと構えるアルは、退屈さなど微塵も感じていないようであった。

ハルカも周囲の絢爛さに圧倒されながらも、アルの横にぴったりと付き、座る。

カヨコも、周囲の人間たちに目を光らせながら、動きを待っていた。

 

それから十分程経ち、会場が満席近くになると、会場の扉が閉められ、照明が落とされた。

 

『さあ!皆様お待たせ致しました!

只今より、ブラックマーケットでも一二を争う規模のオークション、"リバーシブル"!開催致します!

表の世界でも高価なモノ。表では決して取引出来ないモノ。

お客まさ方のお望みの品が手に入ること、一同心より願っております!』

 

暗闇で舞台の真ん中にのみ照らされた照明。

その下に立つ、シルクハットと目元を隠す仮面という何ともテンプレートな猫型市民が現れ、開会を宣した。

 

『支配人。ありがとうございます。…それでは!』

 

猫型市民からマイクを受け取ったスーツのロボ市民はうやうやしく彼を暗闇へ見送ると、舞台の端へとライトともに歩いていく。

 

『早速、1つ目の商品をお見せしましょう!』

 

2つ目の照明が舞台中央を照らし出す。

 

『此方!古代文明が遺した遺物!"古代文明のメダル"です!希少性は正直に申し上げて、程々な此方ではありますが、何と今回、5点の同時出品!中々束でお目にかかるかとはないでしょう!』

 

アル達の周辺にいる客数人が興味を惹かれたようで、身を乗り出しているのが彼女らにも感じられた。

 

『まずは50万円から!』

 

まばらではあるが、札が幾つも上げられる。

 

『55万!…60万…!』

『おおっ!一気に跳ね上がりました!85万!』

 

メダルは結局、98万円で落札されたが、まだ会場は熱気に包まれるほどではなかった。

この程度ならば、参加者の殆どの手持ちにあるのだろう。

 

そこから十数分後。

オークション会場では新たな品が提示され、それは好事家の垂涎ものであったため、白熱していた。

それが803万で落札された時は、アルの目は飛び出さんばかりであった。

そして、次の品が出される。

 

それは会場をいっとう沸かせる。

その品は、ブラックマーケットでしかお目にかかれないものだった。

 

──その頃、ルルーシュは会場のダクト内を通り、翌日の為の準備に奔走していた。

 

「…ここは一回降りねばならないか」

 

構造上、人が通れない場所へと行き当たったルルーシュは、一先ず廊下へと静かに降り立ち、周囲を警戒する。

 

「……!」

 

気配を感じ、背後を振り返ると、飛び出す影と銃口が視界に捉えられた。

 

「…あれ?先生じゃん。敵かと思ったよ〜」

「ムツキか…」

 

余りの俊敏さに、反応しきれていなかったルルーシュは、その正体に安堵する。

 

「こんなとこ一人でうろちょろしてたら危ないんじゃない?」

「観察と計算によれば今、ここには誰もいないはずだったんでな。

ムツキこそこんなところにいて良いのか?アル達は?」

「アルちゃん達はちゃんと会場にいるよ。

私は暇だったから偵察でもしておこっかなって」

「…そうか。まあ、ちゃんとオークションの方も視察してくれてるなら良い」

 

それじゃあ、とルルーシュは踵を返す。

 

「私はまだやることが少し残っているのでな。

ムツキも程々で戻るんだぞ」

「はーい。…あ、ちょっと待って」

「ん?何だ」

「先生、出品の一覧手に入れたんだよね?

面白そうなものがあるか見せてよ」

「別に良いが、買えやしないだろ」

「ナチュラルに失礼だね〜」

 

ムツキは笑い飛ばしたが、ルルーシュの方は、自身の失言には痛い目を見てきている故か、ぐっ…と言葉に詰まる。

 

「す、すまん…」

「別にいーよ。実際そうだしね〜………」

 

言いつつ一覧を見ていたムツキだったが、おちゃらけた笑みがどんどんと顔から消えていっていた。

 

「おい。どうした」

「こーれ不味いかも」

「何がだ?」

「これ見て思わない?…多分──」

 

アルは、その"品"を出品した連中のことと、これに興奮する参加者達に酷い嫌悪感を覚えていた。

 

「何よこれ…」

『さあ!次なる品は、此方です!

さる"学習塾"からの出品!!

え〜出品者からのコメントです。

"調整失敗したやつだけど命令はちゃんと聞きます。ただ、複雑なのは無理です"とのこと!』

 

壇上にある、いや、"いる"のは、茫然と何もない場所を虚ろに見つめる、抜け殻、或いは人形のような生徒であった。

制服はよれ、意志を感じさせない"それ"に参加者達は熱狂していた。

つまるところ──。

 

『強さは折り紙付きとのこと!戦闘データもついています!皆様、都合の悪いヤツ、口を封じたいヤツなんて、沢山いますよね!?是非是非、そんな時には彼女を使いましょう!

さあ、この商品は特別です!まずは200万円から!』

 

「悪趣味…」

「あなた、まさかああいうの買ってたりしないでしょうね?」

 

隣の秋田にアルは疑いの目を向けたが、彼はビビリながらも首を横に振る。

 

「いやいやいや!買いませんよ!高過ぎますし。第一、私は本業は普通の会社やってるんですから、リスクが大きすぎます!」

「リスク…ね」

 

『おおっ!なんと!既に900万円を突破!…990万円!』

「………」

『1100万円!どうでしょう?!』

 

おおっ!と会場がざわめく。

 

『1500万円!!これは…』

 

しかし、まだ札はなくならない。

 

『1800?!これ以上は出るのでしょうか?!』

 

今度は、上がらない。

そして、司会が木槌を振り上げた時だった。

 

「あ〜〜もう!我慢の限界よ!!」

 

アルは声を張り上げ、席を立ってしまっていた。

 

「…社長!」

「カヨコ!貴方は私のこと、よく分かってるでしょう?!」

「──はあ…。分かった」

「ハルカ!」

「は、はい!なんなりと!アル様!」

「悪趣味な連中が邪魔よ。薙ぎ倒しなさい」

 

「はい!」と喜色満面に答え、ハルカは手榴弾を取り出した。

 

『お、お客様?!オークション中は武器の方は──』

「黙りなさい!オークションはおしまいよ!彼女は私達がもらっていくわ!」

 

アルの啖呵に続いて、放り投げられた手榴弾が爆発した。

 

「うわああああ?!」

 

逃げ惑う参加者達がハルカと爆発痕から散り散りに離れたことで、道が空いた。

 

「行くわよ!」

『なっ…!マーケットガード!侵入者だ!捕らえろ!』

 

騒ぎを聞きつけた傭兵らが会場へと一斉に突入する。

舞台袖からも、待機していた護衛がぞろぞろと現れ、"商品"の周囲を固める。

 

「くっ…!カヨコ!」

「…分かった」

 

カヨコとアルは二人で固まり、互いに迫ってくる傭兵を互いがカバーし合いながら座席と座席を飛び越え、駆け抜けるが、しかし、傭兵の壁は厚く、囲まれてしまう。

 

「アル様!」

 

ハルカが飛び込み、一時的に包囲は崩されるも、即座に人員は補充されていく。

 

『貴様らも捕らえて商品にしてくれるわ!』

「…数が…!」

「こんなことのためにこれだけの人間を動員するなんて、正気じゃないわね!」

『こんなことだからこそだよ!正義の味方気取りのお嬢ちゃん達!』

 

息を切らしながらも傭兵を倒し、アルはムッと眉を歪めていた。

 

「正義の味方?違うわ!私達は──」

 

瞬間、会場中の照明が落ち、暗闇に全てが包まれる。

 

「…そうだ。我々は正義の味方などではない!」

 

指を打ち鳴らす乾いた音が、突然の停電にどよめく空気を切り裂く。

 

「キヴォトス一のアウトロー!我々は──」

 

声の主に気付いたアルは、安堵と、パスを手渡された言葉の先悟り、口角をニヤリと上げ──。

 

「便利屋68!!」

 

高らかに、名乗るのだった。

 

アルが名乗りを上げると同時に、壇上で幾つかの悲鳴が響いてから、パッと中央を照らす照明だけがオンになる。

 

『なっ!ど、どこから…!というか何だ貴様は!妙な仮面被りやがって!』

「私か?私は…"ゼロ"。

…卑賤な悪を断罪せし仮面の騎士、とでも言っておこうか」

『ふ、ふざけやがって…!』

「やっほ〜アルちゃん達、大丈夫だった?」

 

壇上にいた数人の傭兵は、暗闇となる直前、場所を把握していたムツキによって倒されたのだった。

 

……。

ルルーシュはここに至るほんの少し前のムツキとの会話を想起する。

 

「これ見て思わない?…多分──」

 

"アルちゃん、暴れるよ?"

 

ムツキの予想が当たるとはな。

どうやら、何とか間に合ったようではあるものの、明日の為に用意していた仕掛けを即座に使うことになっしまった。

こうなるとは思わなかったが、早めに重要部の準備は終えていて助かった。

おかげで戦況は此方有利に転んだ。

 

詳しい状況は分からんが、出品一覧と現況を踏まえると、ある程度想像は出来る。

 

一先ず、彼女を保護して便利屋と共にこの場を離脱することが優先だな。

 

「全員、目標変更だ!彼女を保護し、離脱する!目的のモノは致し方がない。他の方法を検討しよう」

「…うっ。…ごめんなさい。私のせいで…」

「いや。気にするな。仕方がないさ。これは」

 

ルルーシュとしては、目的を達するついでにオークションの情報を盗み、連邦生徒会を利用してせめて人身売買だけでも止めさせようという算段であった。

 

しかし、アルの爆発と、目の前で虚ろに立ち竦む彼女を見、ルルーシュ自身、怒りを、憤りを増幅させていっていた。

 

「ついでに倉庫も破壊しておくか」

「…良いわね。クライアントのモノも見つかるかもだし」

 

決まりだな、とルルーシュは呟き、指を鳴らす。

 

「ハルカ、ムツキ」

「オッケー!」

「はい!」

 

ムツキとハルカは舞台の機器や装飾を使って跳ね回り、敵を翻弄しつつ、一人ずつ撃ち倒していく。

 

『ぐっ…!その仮面野郎は武器を持っていない!こいつからやれ!』

「フン…」

 

鼻を鳴らし、ルルーシュは護身用のハンドガンを放ち、敵が思わぬ反撃に足を止めた隙に、カヨコへ目配せをした。

 

「……」

 

カヨコの狙撃を、気を抜いた背後からまともに受けたマーケットガード達は、そのまま倒れ伏すのだった。

 

『なっ…なっ…!貴様ら!よくも、良くも我が社のオークションを壊してくれたな!

何が気に入らんのだ!!』

「─何が?」

 

ふんとアルは肩を揺らす。

 

「決まっているじゃない。…"全て"よ。

このオークションのね」

『何をわけのわからん…!』

「そういう所が、気に入らないのさ」

 

アルの言葉の意味が分からないのか、フリをしているのかは誰も判断出来はしない。

しかし、だからこそ、ルルーシュはそう嫌味を飛ばすのであった。

 

アルの命を受け、発砲したハルカの弾を受け、司会はばたりと倒れ込む。

 

 

ルルーシュが用意していた停電とそれに合わせた便利屋メンバーによる混乱を作り出した後の攻撃。

決行日も、様々の計画も全て崩れはしたものの、それでもルルーシュの想定していた作戦通りに近い進みをしていた。

 

それ故に、ルルーシュ率いる便利屋68は突貫ではあるものの、組み立てた戦術によって傭兵達を次々に薙ぎ倒していき、ホールの外、廊下へと商品にされていた女生徒を抱えながらも飛び出すことに成功するのだった。

 

「倉庫はあっちだ」

「待って先生。そっちは死角が多いから、ちょい遠回りだけどこっちから向かお」

 

ルルーシュが先導しようとした所、ムツキにそう止められ、ルルーシュはそうか。と感心した様子を浮かべた。

 

「しっかりと偵察してくれていたんだな。

よし。では、ムツキに従い、向かうとしよう」

 

少々施設を大回りにぐるりと回り、ルルーシュ達が扉を蹴破り、倉庫の一つへと侵入する。

 

整頓はされていないが、万一がないように、か高く積み上げられているというわけでもなく、様々の物品。恐らく、高価な品の数々が、所狭しと並べられている。

 

「む?」

 

ルルーシュが人の気配に気付いたとき、ハルカは既に警戒モードに入っており、敵が倉庫にいやしないか、と倉庫を捜索していた。

 

「見つけた〜!」

 

同じく気配を察知したムツキはバっと勢いよく棚と棚の間に顔を飛び出させ、気配の正体を探る。

 

「お前は──」

 

ルルーシュは下調べの段階で把握していたが、ムツキにとっては、はじめましてであり、アル達にとってもさっきぶりと言える猫型市民が倉庫でひっそりと商品を掻き集めていたのである。

怪しさ満点と言う他ない。

 

彼は、幾つもの骨董品らしき品々を抱え、逃げ出そうとしていたところだったようだ。

 

 

「あら。どこへ行くつもり?支配人さん?」

「…くそっ…!」 

 

恐らく彼の想像の倍は事態の展開が速かったのだろう。

支配人もただ混乱しているばかりであった。

骨董品を抱えながら殆どフリーズする様は、滑稽ですらあった。

 

そして彼は混乱のままに、便利屋68に討ち取られるのだった。

 

「あ!先生、これ!」

 

支配人が抱えていた品々の中から、ひらりと紙の舞い落ちた事にアルに指摘されたルルーシュは気が付き、拾った。  

 

"レヒニッツ写本"の新しいページ、か。

 

確かに、これは貴重だな。

 

幸運なことに、便利屋68はオークションを破壊しながらも、どうにか目的を達することが出来たのだった。

 

 

──数日後。

便利屋68事務所。

 

「おおっ!ありがとうございます!これぞ!私の買い取った写本!」

 

事務所に招かれたクライアントに写本を手渡すとクライアントは満足そうに頷きながら礼を述べる。

そして、報酬を詰め込んだアタッシュケースを便利屋に向けて開けた。

 

「ふふっ。お礼なんて不要よ。

こうして報酬を頂いたんだもの。ギブアンドテイクはもう完了しているわ」

「そう言っていただけますと…。いや、本当にありがとう。この恩は忘れません!」

 

クライアントを見送った後、ルルーシュはアルを呼んだ。

 

「アル。今回はありがとう。君らのおかげでブラックマーケットのオークションも一つ、潰せた事だしな。

俺だけではなせなかった事だ」

「ありがとう。それで、先生。彼女は?」

 

アルの言う彼女とは当然、抜け殻のようにされていた商品化された女性ということになる。

 

彼女は、入院こそ必要になったが、あの場を逃げ出してから直ぐに診てもらった所、時間は少しかかるが完治はさせられるかも、という事だった。

 

今はもう、少しは喋られるらしい、と報を受けたアルは、心底安堵したように、胸を撫で下ろす。

 

ルルーシュとしても、もし医学による治療の見込みがなければギアスで無理矢理精神を呼び起こす事を考えていたので、安堵の想いは同じ所であった。

 

「良かったわ…。

──ところで、なら、気兼ねなく聞けるわね」

 

アルはそこで一区切り付け、深呼吸を行い、新鮮な空気を自らに入れたがってしまう。

 

「先生。…経営顧問のことだけど…」

「─ああ。そうだな。君達の腕前はしっかりと見させてもらった。

しかし、作戦は危うく全てが台無しになりかけた」

 

う、とアルは小さくなってしまう。

 

「とはいったものの。あれは仕方のない事だとも思う。

きっと、むしろ、ああしなくてはならなかったのだろう」

 

そして、ルルーシュ、ゼロはマントをはためかせながら、宣言するのであった。

 

 

「私は便利屋68の経営顧問、"ゼロ"だ。

改めて、以後よろしく」

 

結果としては、ブラックマーケットのオークションを突如として破壊し、商品を奪い去った"アウトロー"として、便利屋は裏社会でその知名度を大幅に伸ばすことに成功したのであった。

 

これも、結果だけを見れば、ルルーシュにとって当初の狙い通りではある。

まさか、その過程の殆どは計算がズレたにも関わらずここまで結果が合致するとはルルーシュ自身、全く思ってはいなかったが。

 

そして、キヴォトスでの活動において、"先生"の役割だけではカバーしきれない事象に対する要素。

それが、ゼロの"誕生"によって、一応の完成を見たと言えるだろう。

 

彼の名もまた、便利屋68と共に広がっていくことになる──。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。