コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
「シャーレへの相談件数は107件。その内お悩み相談的な軽いものが八割。一部に部室の奪還等少々骨を折りそうな内容が含まれている。か。
…まあ調子は悪くないな」
ルルーシュはシャーレの現状、寄せられる要請の全てをアロナに依頼し、分類してもらった結果のリストを見る。
「やはり、優先度や危険度で分類し、仕分を行って正解だったな」
シャーレの仕事に一区切り付けたルルーシュは続けざまに、先程エンジェルマートグループから送られてきたばかりのL.Lとしてのレポートに目を移す。
「ふむ…D.U地区でのエンジェルマート店舗総売上が前月比17%増加、か。
良い傾向だな。他の地区も悪くない。ドラスティックな改革を施したが思ったよりそれによる被害が小さかったおかげか」
これなら、とルルーシュは次なる新企業の設立に動こうと、パソコンに向き直った時だった。
けたたましいリングトーンがシャーレのオフィスに響き渡る。
「何だ?…ああ」
ルルーシュは今まで出番の全く無かったそれの存在を思い出し、手を伸ばす。
シャーレに設置されている固定電話。
それの番号は連邦生徒会によって公表されていたな、と思い起こしつつ、受話器を取った。
「はい。こちら連邦捜──」
『あ、本当に出ちゃった…!どうしよう?!』
電話口の向こうからは慌てたような声が響く。
『落ち着いて!深呼吸デス!部長!スー!ハー!』
恐らく受話器の近くにいるのだろう、電話をかけてきたのとは別な誰かの声も微かに届く。
『わ、分かった…。スゥ…ハァ…』
『えっと…もしもし!
その、こちらは、シャーレのルルーシュ先生の電話番号で間違いないでしょうか?』
ルルーシュはそれを聞き、先程に遮られてしまった名乗りを再開した。
「ああ。こちらは連邦捜査部シャーレだ」
『あ、合ってた…!良かった…』
安堵したような息を付いたかと思うと、『じゃなくて!』と忙しない情緒で電話相手は続ける。
『すみません。その…』
「ゆっくりで良い。用件は?」
ここまでの通話内容からして、害意のある相手でない事ははっきりしており、ゆったりと構えながらルルーシュは彼女の言葉を待つ。
『あ、えっと…んん。よしっ…』
気合いを入れるような呟きの後、電話相手の声色は1オクターブ程上がって、朗らかな調子の声が続く。
『改めまして、初めまして!シャーレのルルーシュ先生!
私、シズコって言います!
シズコ実は、"百鬼夜行連合学院"に所属している"お祭り運営委員会"の委員長で…なんと!』
シズコは一瞬もったいぶってから何処か自慢げな調子も混ぜ込んだ。
『同時に百夜堂の看板娘だったりします☆』
『そ、それで、今回お電話させていただいたのは…』
ルルーシュは話を聞きつつも、素早く指をキーボードに走らせ、シズコから聞いたワードを検索にかけていた。
百鬼夜行連合学院。
D.Uからはかなり遠いな。
トリニティとはまた違った形で複数の学園が連立している学園自治区、か。
百夜堂、は…どうやら百鬼夜行内外でそれなりに有名な店舗のようだな。
『百鬼夜行連合学院で開かれる春のお祭り、"百夜ノ春ノ桜花祭"に先生をご招待するためです!』
「百夜ノ春ノ桜花祭…」
キヴォトスでもかなり有名な祭りのようだ。
なるほど。自治区全体協同して催す大規模なものなのだな。
『はい!お忙しいかと思うのですが、よろしければお越しいただけませんか?
今回の百夜ノ春ノ桜花祭、通称、桜花祭では、以前になかった新しい試みも行う予定なんです!』
それから、とシズコは僅かに声のトーンを落とす。
『ちょーっとだけ、大したことではないのですが、先生にご相談したいことも有りまして。
来てくださると、シズコ、とても嬉しいです!ではでは!』
そこで電話は切られ、ルルーシュが返事をするまもなく、忙しないままに通話は終わるのだった。
「行く、とは答えれてないんだがな…」
やれやれ、とルルーシュが受話器を置くと、アロナがそれを見計らって『先生!シズコさんからメールが届いてますよ!』とメールの着信を報せる。
「ああ、ありがとう」
此方も公開しているシャーレのメールアドレスに届いたもので、1枚の、桜が映える写真が添付されていた。
[会場までの案内図も兼ねているので、桜花祭のポスターをお送りします]
[シズコは先生が来てくれるのをすっごく、すーっごく楽しみにしていますね!
では、百夜堂でお待ちしておりますので!にゃんにゃん♪]
にゃん♪?…キャラ作り、といったところか…?
さっきの電話、最初の感じからして、この文面が素ではないだろうしな…。
ルルーシュは素面で若干困惑しつつ、ポスターを拡大する。
「ふむ…。行ってみるとしようか。百鬼夜行連合学院へ」
三大学園とアビドス以外とは然程交流のない現状を鑑みると、百鬼夜行と人脈を築いておくことに損は全く無い。
それ故、ルルーシュは百鬼夜行へと向かうことを決めるのだった。
──百鬼夜行連合学院。
まるで100年前の日本のような光景だな。
ルルーシュは百鬼夜行連合学院の自治区。
その街並みを眺めながら、祭りで賑わう通りを進んでいた。
そうして百夜堂を目指す途上、何処からか聞こえてきた可愛らしい声に、ルルーシュは足を止める。
その声色に、ではなく、その内容によって、周囲を見回さざるを得なかったのだ。
「あ、危ないですーーっっ?!」
ドシン!とルルーシュは何かのぶつかった衝撃と共に倒れる。
──何だ?!敵か?
思わず身構えたルルーシュだったが、彼の身体を押し倒した存在も「いたた…」と間の抜けた声を上げていることから、そうではないと理解し、ゆっくりと起き上がった。
「はっ…!すみません!ええっと、大丈夫ですか?おケガはありませんか?」
「ああ…。なんとかな…」
「そ、そうですか…。それは良かったです」
ほっと胸を撫で下ろしたのは、セーラー服と和装が混ざり合ったような制服に身を包む、狐耳の少女であった。
「待てー!逃さないんだから!」
「カ、カエデちゃんもちょっと待ってください…はあ…はあ…早すぎます…!」
しかし、遠くから誰かを追いかけるような声が聞こえてくると同時、狐耳の少女は安堵からたちまち焦燥へと表情を塗り替える。
「もうこんなところにまで!えっと…!ええっと…どうすれば!?」
「…助けが必要かな?」
「そ、それは…えっと…」
テンパる少女にルルーシュは苦笑しつつ尋ねるが、彼女は動転しているようで、どちらともスッパリと答える事が出来ずにいた。
─まあ、事情は後で聞くとするか。
ルルーシュは仕方がない、と狐耳の少女の手を引く。
「わ…」
目に付いた茶屋の赤い布がかけられた縁台の下に彼女を隠し、ルルーシュはその縁台に座る。
「いらっしゃい。何になさいます?」
目ざとく店頭の気配に気付いた店主がやって来て、ルルーシュに注文を尋ねた。
「…では、三色団子を2本いただけますか?」
「かしこまりました。少々お待ちを」
そんなやり取りをしている所に、狐耳少女を追っていたと思しき少女達が店の前の道を通りすがるのだった。
「何処に行ったのでしょうか…」
「くそ〜っ。見失っちゃった!」
ヘルメット団やスケバン、その類には見えないな。
となると…。いや、まだ断定は出来ないな。
──"先生"としては、これが正しいのだろうか。
余計な首の突っ込み方をしてしまった気もするが…。
今更考えても仕方がない、か。
「お待たせしました〜」
「ありがとう」
早速団子を持ってきた店主に代金を支払い、ルルーシュは息をついてから、真下に呼びかける。
「もう行ったぞ」
「……た、助かりました…」
おっかなびっくりと慎重に少女は縁台の下から這い出て、ルルーシュに向かって頭を下げた。
「助けてくれてありがとうございます!」
「気にしなくて良い」
「そんな訳には!…あ、私、イズナと申します!あなたは…」
ルルーシュはシャーレの所属を示すネームタグを胸の内ポケットから取り出し、見せる。
「はじめまして。ルルーシュ・ランペルージ。"シャーレ"の先生だ」
「シャーレ…先生…?」
不思議そうに小首を傾けてから、はっと思い出した、とばかりに「あ!」とイズナは声を上げた。
「聞いたことあります!シャーレにはキヴォトスの色々なことをズバッと解決してくれる、すごい大人の人がいるって!」
「何処にでも現れて即座に解決…まるで、忍者みたいです!」
「ニンジャ…?」
ニンジャというと、日本の昔に存在したエージェントだが…。"ここ"は見た目だけではなく、中の文化も日本的なのか?
困惑するルルーシュを他所に、それに、と興奮気味にイズナは言う。
「私を縁台に隠してやり過ごしたのも、ドラマとかで見たことがある気がします!」
「そ、そうか…」
「でも、まさか本物の先生に会えるなんて…!」
「ですが、シャーレの先生がどうしてここに?」
ああ、とルルーシュは賑わう通りに目を向ける。
「この、百夜ノ春ノ桜花祭を見に来たんだ」
「なるほど…!そうだったんですね!」
イズナはニッコリと笑い、ぴょんと跳ねる。
「折角の桜花祭ですし、よろしければイズナに、このお祭りを案内させてください!」
ふむ…。まあ約束の時間よりはかなり早く来たことだし…。丁度良いか。
「そうか?助かるよ。なら、お願いしようかな」
「お任せください!」
「まあ、その前に…」
勇むイズナに、ルルーシュは自身が座る縁台の隣を指す。
「腹ごしらえと行こう。ほら、君の分だ」
「良いのですか?!」
「ああ。まあ、店主も此方に気付いてしまっていたし。それで使っておいて注文しないままはさすがにな」
「ありがとうございます!」
イズナは嬉しそうに団子を受け取り、頬張る。
「ずっと走っていたので染み渡ります…」
「それは良かった」
ルルーシュは隣でエネルギー補給に勤しむイズナを見つめた。
彼女が追われていた理由。
その如何によっては───。
イズナを追っていた者達が不良には見えなかったことから、ルルーシュは、イズナを多少なりとも警戒せざるを得ないままであった。
「ふう。ごちそうさまでした!
…では、お腹も膨れましたし。先生、此方です!」
そうして、イズナに案内されるまま、ルルーシュは桜花祭の百鬼夜行自治区を巡るのだった。
様々な名産品や屋台名物を紹介される。
しかし、ルルーシュとしては大喰らいな質ではない為、途中からは殆どイズナが紹介してイズナが食べるような状況になってしまっていた。
「そうだ!折角ですし…百夜ノ春ノ桜花祭と言えば、アレを見に行かなくては!」
思い出したように言ったイズナは、ルルーシュの手を「こっちです!」と引き、案内する。
街並みを一望出来る高台。
そこの景色には、巨木、と表現するだけでは足りない程に、常識離れした、街のどんな建物よりも高く、巨大な、道すがらルルーシュもチラチラと見えてはいたが、漸く全景を拝むことの出来た桜の木も収まっていた。
「巨大な木だとは思っていたが…これ程までとは…凄いな」
思わず素直な感嘆の漏れたルルーシュ。
イズナは嬉しそうに笑い、遠くに写る、桜の木へと目を向ける。
「えへへっ。ですよね?ちょうどこの時期に一番綺麗に咲く、百鬼夜行の自慢です!」
「正に、桜花祭、というわけだな」
街中に桜吹雪をハラハラと届ける巨木。
例え、百鬼夜行に存在する桜の木があの巨木一本だけしか無かったとしても、この祭りは桜花祭と名付けられただろう。
そう思う程に、存在感を放つ、雄大さがそこにはあった。
「はい!御神木と百鬼夜行の街並みが同時に見渡せるこの場所が、イズナは大好きなんです」
「確かに、とても綺麗だ。ここは」
アリエスの離宮のように特別な場所以外であっても、ブリタニアに、ルルーシュの記憶に残る美しい景色は幾つもあった。
しかし、それらは基本的に人工的に整備されたある種の、計算された美しさ。
ブリタニアのみならず、文化の近いユーロピアもその傾向はあっただろう。
ここはそれらとは全く異なる情景である。
神秘的なまでの自然の美しさ。
計算によっては成り立たない、奇跡の調和。
「こういうのも、悪くはないな」
「そうでしょう!イズナはよくここに来て、この景色を見るんです。
ここの景色をみていると、夢の為にもまだまだ頑張らなきゃって気持ちになります」
「夢?」
はい!とイズナは勢いよく頷く。
「イズナには夢があるんです!」
「キヴォトスで一番の忍者になるという夢が…!
今日も今日とてそのために日々…」
「ニンジャ?」
想像の斜め上な内容に、ルルーシュは思わずオウム返しに聞き返してしまっていた。
そう言えば、さっきもニンジャと言っていたな。
「…はっ?!」
ルルーシュの様子に気付いたイズナはあわあわと眉を下げてしまった。
「す、すみません。その…こんな夢を持っている人なんて今時いないことは知っているのですが…で、でも…!」
「良いんじゃないか?」
「え?」
「ニンジャと言えばスパイのようなもの。別に現実離れしているわけじゃあない」
要するに、とルルーシュは外行きの顔で微笑んでみせる。
「叶えられるさ。きっと」
「…余り…普通の学生が言わないような夢でも、ですか…?」
「周りと違う事が何かを諦める理由にはならないだろう?
人が求めるものはそれぞれだ。微力ながら、応援しているよ」
大それた夢、目標、或いは理想を掲げて、守りたい人の為に世界を敵に回した彼としては、ニンジャ位、諦めるべき夢とは思えなかった。
少々想像から外れて驚いたが、世界を変えることに比べれば、大したことじゃあない。
「そ、そう言っていただいたのは先生が初めてです!えへへっ…そうですか…!」
イズナは嬉しそうにはにかみながらも、ルルーシュに向き直り、宣言する。
「イズナは、立派な忍者になってみせます!」
そこで彼女は、あっと声を上げた。
「雇い主の依頼を終えていないのを忘れていました!すみません!先生。イズナはこれで失礼します!」
「ああ、任務中だったのか。じゃあ、気を付けてな」
「はい!依頼が終わったら、また先生と桜花祭を楽しめたら嬉しいです!」
そう言い残し、イズナは軽快な身のこなしでその場から走り去るのであった。
「約束までには、良い時間だな」
──百鬼夜行連合学院自治区 百夜堂
百鬼夜行の街並みの中では比較的洋風な趣を感じられるカフェーのような建造物の、シックな扉を開くと、カランコロンとドアベルが鳴り、それを聞きつけたルルーシュの下へ、一人の少女が駆け寄ってくる。
「お頭ァァ!ようこそいらっしゃいマシタ!
わざわざシャーレ組からいらっしゃると聞いて、このフィーナ!心よりお待ちしておりましたァァァ!」
「なっ?!…私はゴクドウではない!」
なんなんだこの自治区は、と言う言葉も喉元まで出かかっていたルルーシュは代わりと言うべきか、ヤクザの舎弟のように構える金髪の少女へのツッコミが口から出てしまっていた。
「ちょっとフィーナ!先生が困ってるでしょ!」
聞き覚えのある声が、金髪のフィーナと呼ばれた少女を諌める。
そして、その声の主、和装とメイドの洋装を融合させた、和風メイドとも言えそうな衣装に身を包んだ可愛らしい少女もルルーシュの前に姿を現した。
「エ、でも…先生が来たらびっくりするくらい盛大にお出迎えの挨拶をって、さっき委員長が」
「いやいやいや!それはあくまで百夜堂の従業員としての、第一印象的な話だから!」
「そう、第一印象。
第一印象をとびっきり可愛くしておくことで最初から先生の好感度MAXで行こうというこの…」
ルルーシュは「んんっ」とわざとらしく咳払いをし、注意を引いた。
「…はっ?!」
恐らく思わず狙いが漏れ出てしまったのだろう。
少女はまずい、とばかりに飛び上がる。
「え、えっと…今のは、その…つまり…
てへぺろっ…!」
「いや今更…」
ルルーシュはつい、ツッコミを入れてしまっていた。
「こ、こほん!!えーと…」
ふうと息を吐いてから彼女は笑顔をとびきりの作り直し、言うのだった。
「いらっしゃいませ、先生!私、シズコです!
百夜堂へようこそ!にゃんにゃん!」
「に、にゃんにゃん…?
その、さすがに無理がないか?」
ルルーシュの指摘をスルーし、シズコはフィーナを呼ぶ。
「フィーナ、1名様!」
「はいっ!不肖フィーナ!お頭を全力でおもてなしいたしマスッッ!」
「だからそういうのじゃなくって!!」
紆余曲折ありながらも席に案内され、腰を落ち着けたルルーシュに、シズコは「来てくださってありがとうございます」と改めての挨拶にやってきた。
「ああ。折角招待してもらったからな」
「えへへっ。─では、改めて。
私は河和シズコ。百鬼夜行連合学院のお祭り運営委員委員長であり、この百鬼夜行自慢の伝統的な喫茶店"百夜堂"のオーナー!」
それと同時に、と胸に手を置き、自慢げにシズコは言う。
「それと同時に百夜堂の看板娘でもあって、つまりは皆のアイドルみたいなものです!」
フィーナもそこに入って、自己紹介をする。
「そしてワタシは百夜堂の従業員!任侠の道を究めんとする、フィーナと申します!」
ニンキョウ。なるほど。ヤクザ、ゴクドウに憧れているのか。
それでさっきの…。得心は行ったが…。まあ一先ず置いておこう。
「よろしくな。二人とも」
それで、とルルーシュはシズコに言う。
「相談したいことと、というのは?」
「本当は先生に純粋に私達百鬼夜行の誇る。
そして、私達お祭り運営委員会が企画、運営をするこの祭りを楽しんでいただきたかったのですが…」
シズコは口惜しそうに視線を落とす。
「邪魔をしてくる奴らが現れまして…
今朝もいきなりあちこち荒らされたし…。ほんっとに…」
「つまり、私への相談というのは、その邪魔者の対処、というわけだな」
「はい。そういうことになります」
ふむ…。とルルーシュは一拍だけ間をおいてから、頷く。
「分かった。協力するよ──」
ルルーシュが言い終えるよりも早くに爆発音が百夜堂に響いて来た。
遅れて店の窓が僅かに衝撃で揺れ、通りが騒がしくなってくる。
「委員長!敵襲デス!」
「ああっ!もう!言ってるそばから!やってらんない!」
苛立たしげに言ってから、シズコはハッとしてわざとらしく怖がる素振りを取る。
「えっ、と、きゃーシズコこわーい。…なんちゃってー…えへっ」
「……可愛らしい猫だな」
「なっ…!と、とにかく!詳しいことは現場に向かってからで!」
爆発の起きた騒ぎの中心では、天狗の仮面を付けた小集団が暴れていた。
「ふはははっ!あたしらは、百鬼夜行の路上に屯する魑魅魍魎!」
「その名も…
「さあ皆!ご要望通り、荒らして荒らして、荒らしまくりな!」
「あれも祭りの一環、なんてわけではなさそうだな」
「当然です!こんなお祭りがあってたまるもんですか!いや、キヴォトスは広いしあるかもだけど…とにかくあれが、邪魔者です!」
「折角の桜花祭を邪魔しようとするなんて、許せまセン!」
ルルーシュはシッテムの箱を取り出し、指揮の準備を取る。
「はっ!たかだかお祭りの運営委員会如きがあたしらの相手になるとでも?!」
魑魅一座の嘲笑に、ルルーシュは挑発を返す。
「チンピラ如きに、私達の相手が出来るとでも?」
「なにっ!?このっ!全員、突撃!!」
挑発を受け、怒った魑魅一座路上流は怒りに任せた突撃を命じる。
「ふっ。…シズコは2メートル後退。フィーナは正面の敵に対処。
シズコ。その位置で右前方40度に向かって斉射」
ルルーシュはチラリ、と周辺を窺い、使えそうなものを脳内にリストアップしていく。
「フィーナ!11時の方角にある箱の山の後ろへ回れ!」
「了解しまシタ、お頭!」
フィーナが箱の後ろに隠れたのを何人かの魑魅一座が追いかける。
「良し。フィーナ!箱を押し倒せ」
「ハイ!」
「う、うわああ?!」
倒れ込んできた箱の雪崩に巻き込まれ、フィーナを追いかけていた魑魅一座数人が一度に倒される。
瞬間、ルルーシュは視界の端に、素早く動く影を捉えた。
「ん?…!シズコ、屈め!」
「え、はいっ!」
一瞬、影に気を取られたタイミングでシズコが挟み撃ちに合いそうになっていたが、むしろ挟み撃ちを狙っていた魑魅一座達は互いを撃ち合う格好にされてしまうのだった。
「ど、同士討ち…!くそっ!」
再び影。
「…フィーナ。四時の方向へ5秒後に手榴弾を投擲」
「?ダレもいまセンよ?」
「分かっている。だが、頼めるか?」
「分かりまシタ!お頭の命とあらば!」
えい!と投げられた手榴弾の爆発。
戦場を飛び跳ねていた影はその爆発に突っ込んでしまい、「ぎゃんっ」という悲鳴と共に落ちてきた。
「イズナ?!何故こんなところに?」
煙幕の中でルルーシュは影の正体がイズナであったことを知る。
「あれっ?!先生?!
そ、それはイズナの台詞です!どうして先生が私たちの邪魔を?!」
いやむしろ何故君が、と言いかけたルルーシュだったが、イズナはそれには気付かず、一人、言葉を続けていた。
「まさか先生は、最初からイズナを誘い出すために近付いて来たのですか?!…全ては仕組まれていた…?!」
「おい待て。聞いてくれ」
「イズナの夢を応援するって言ってくれたのに!本当は悪い大人だったんですか?!」
「待て待て。落ち着け。周りが見えてなさすぎだ。
むしろ何故君は魑魅一座なんかと一緒にいる?」
「イズナは忍びとして命令に従ってるだけです!」
「命令…?」
となると、誰かに雇われているわけか。
確かにニンジャと言えば殿様だとかに仕えて汚れ仕事をやるような存在だ。
しかし、イズナの雰囲気からしてそれが望みとは思えなかったが…。
ルルーシュとイズナの問答の間にも戦闘は進み、ルルーシュの指揮に基づいた戦術がハマって、魑魅一座の小集団は既に殆どが打ち倒されていた。
「どうよ!お祭り運営委員会を舐めないで!」
「一網打尽、デス!」
「くっ…強い。何かあいつら前より強くなってる…?」
「あそこにいる大人の指揮のせいっす!前とはお祭り運営委員会の動きが違ったっす!」
魑魅一座の動ける者達は倒された仲間達を担いだり肩を貸しながら、その内の一人がイズナにも声をかけた。
「イズナ殿!一旦戦略的撤退だ!」
「せ、戦略的撤退…?ですが、イズナは…」
イズナは問答を遮られてしまったが、彼女の視点では敵対者となってしまったかもしれないルルーシュの方へ困ったような目を向けたが、魑魅一座の「立派な忍者は引き際を弁えてるもんだよ!何かの本で読んだ気がする!」と言う説得によって、なるほど、と頷く。
「そういうことであれば!
…先生、まさかイズナの夢を応援してくれた先生が立ちはだかるなんて…何と言う運命の悪戯…!」
「いやイズナ、君の夢がニンジャなのは良いんだが、君が目指しているのは本当に──」
「イズナは知っています!忍びの道を行くからにはこういったことも起こり得るのだと!」
ダメだ。聞いちゃいない。自分の考えに正直なのは良いこともあるが、弊害だろうな。こういうのは。
「ドラマで見ましたので!」
最後の一言に、ルルーシュは「ドラマ…?」とオウム返しに呟いてしまっていた。
「望まぬ戦いに巻き込まれてしまうのも、また、忍びの
先生、イズナは諦めません!」
イズナは懐に手を入れ、宣する。
「次に相まみえる時は、今の3倍位強くなっているはずなので!ニンニン!」
「いやニンジャはニンニンとは言わないんじゃ──」
次の瞬間、イズナは懐から取り出し地面に叩き付けたものから煙が溢れ出し、ルルーシュ達の視界を奪った。
「煙幕─?!くそっ!イズナ!」
視界が晴れた頃には、魑魅一座もイズナも姿を消していた。
「…………」
どうも引っかかる。
アレだけ桜花祭を楽しんでいた上、大切にも思っていたイズナがその邪魔を…?
確かに可能性としては、あの時のイズナが演技であった、ということもあり得る。
だが、その可能性は限りなく低く思えもする。
もしもそうであるならば、わざわざあんな時間のかかる高台まで案内する必要性などなかったはずだ。
何なら茶屋で会話を終わらせたって、祭りを楽しんでいる素振りなど充分だっただろう。
そして、実際はそうではなく、高台まで彼女は俺を案内し、夢まで語った。
あの場で真意を隠すために完璧な演技の出来る娘だとすれば、むしろ俺への対応は不自然だ。
だとすれば…。
誰かに利用されている、というのが一番あり得る線、か。
ルルーシュは考えを纏めつつ、シズコらと百夜堂へと戻る。
シズコは戻るや否や、「ああ、もうっ!また!」と繕う事なく苛立ちを声に出した。
「桜花祭が始まってからというもの、こうやって魑魅一座の奴ら、あちこちで悪さをするんです!」
「…魑魅一座というのは何者なんだ?」
「魑魅一座・路上流。百鬼夜行で昔から問題を起こしている奴らデス!」
ヘルメット団のようなものか。
ルルーシュは天狗の面とヘルメット団をニアリーイコールで結び付けつつ、フィーナの後を引き取って話を続けるシズコへと目を向ける。
「確かに以前から問題児だったとは言え、こんな組織的に動くようになったのは最近になってからな気が…」
まるで、とシズコは考え込むようにして俯く。
「組織立って"百夜ノ春ノ桜花祭"を台無しにしようとしてるっていうか…」
組織立って、ね。
イズナと魑魅一座が協力していた以上、魑魅一座、或いはそれを組織として運用しだした誰か、が彼女の雇用者と見るべきだろうな。
つまりそいつが、イズナを利用している可能性が高い、か。
「何にせよ、任侠を志す者として放ってはおけまセン!」
「…今まではなんとか私達だけで食い止められてましたけど、頻度も増えてるしこのままじゃ…!」
シズコは頭を抱え、深く、重い息を吐く。
「このまま桜花祭がだめになったら、私達があちこちから責められるじゃない!たまったもんじゃないわよ!」
一通り言葉を吐き終えた後、またもやすっかり頭から抜けていたのだろうルルーシュと目が合い、シズコはえ、えへっ、とわざとらしく笑顔を作ってから「えっと…」と怖がるジェスチャーを再び取った。
「な〜んちゃって☆シズコ、怖いです〜☆」
「…まだ諦めない姿勢は評価する」
「うっ…」
撃沈したシズコを他所に、フィーナは難しい顔をしながら呟いていた。
「フィーナ、理解出来マセン。どうして桜花祭を邪魔しようとするんデショウ?」
丁度その時、店舗へと入ってきた人影、猫影、がフィーナの疑問に応えるのだった。
「知ったこっちゃないが、色々と気に食わない連中がいるんじゃないのかい?」
「あっ、にゃん天丸会長!」
ルルーシュが振り返ると、身なりの良い和装の猫型市民が腕を組み、シズコ達の方へと歩み寄ってきていた。
向こうもルルーシュに気づいたようで、立ち上がったルルーシュに軽く会釈をする。
「どうも、百鬼夜行の商店街の会長だよ」
「始めまして。シャーレの先生。ルルーシュと申します」
二人の挨拶を見届けてから、シズコは「一体何が気に食わないんでしょうか…」と小さく言った。
「さあね…ただ強いて言えば、今回は昔から祭りの最後に打ち上げていた伝統的な花火、アレを変えるんだろう?新たな試みだとかなんとかで」
「はい…今回の桜花祭の為に、特別に準備したものが…」
シズコの指した先には、何かの装置が置かれていた。
「今回のお祭りのフィナーレの為に、ミレニアムにお願いした特別な装置です」
「ホログラムで花火を再現する、SpecialでCoolな機械だと聞きました!」
なるほど、とルルーシュはにゃん天丸の言う所に得心が言っていた。
「確かに、風情とかなんとかで不満を抱くのは出てくるでしょうね」
「ああ、何にせよ、何かが変わる、というのを誰しも簡単に受け入れらるわけじゃない」
「それはそうですけど…。それが理由で桜花祭を邪魔するなんて…。
私はただ、桜花祭を今まで以上に素敵にしたくて…」
シズコは沈んだ様子で押し殺すような声を漏らす。
「あくまで推測だ。それに儂だって今更この事を蒸し返したいわけじゃないんだ。
ただ、気に食わん奴らもいるだろうなって話だよ。
学生がこんなに金を使って、ってな」
「はい…。ですが、私達も趣味や道楽でやっているわけじゃありません!
全てはお祭り運営委員会の運営委員長として、桜花祭を素敵なものにするために!それだけは自信を持って言えます!」
「ふん。そうかい。そんならそれで、頑張りな」
ぶっきらぼうに会長は言い捨て、くるりと踵を返そうと、足を外へと向ける。
「そうやってぶっきらぼうですが、会長はいつも手伝ってくれますし、今回も色々と心配してくれてますもんね?」
だが、背後からのシズコの少しからかうような声に、彼は足を止めた。
「フィーナ知ってマス!ツンデレ、というやつですね!」
「違うわい!…しかし、それで、どうするつもりなんだい。そろそろ連中を止めないと、桜花祭がむちゃくちゃになっちまう」
「それは…」
「助けを求めるってのはどうかな?
別にお祭り運営委員会だけで対処しなくてはならない、ってわけじゃないんだろ?
なら、同じ学園の仲間に助けを求めるのむしろ必要なことだ」
助け、ですか。とシズコはルルーシュの提案に対し、悩ましげに眉を歪める。
「どこもかしこも、真っ当に手伝ってくれるかどうか…」
相変わらず、どの学園も一癖も二癖もあるな。
ルルーシュは若干呆れつつ苦笑を浮かべてしまってもいた。
「まあ背に腹は代えられないですし、心当たりも幾つかあります。一度行ってみましょう」
ただ、とシズコはルルーシュへ条件を付ける。
「ただ?」
「先生の力が必要です。協力してくれますよね?」
私の仕事は説得と言ったところか。
ルルーシュは自らの役割を理解し、頷いた、
「決まったのかい。そんじゃあ、儂は屋台の方戻るんでな」
会長は話が纏ったのを見届けると、今度こそ踵を返し、少し忙しげに、店舗から去っていった。
──気に食わないと思っている連中、ね。
ルルーシュはまだ僅かに揺れる、来客を告げるドアベルのある正面入口、その先の白い陽光の反射に包まれた未来を見つめるのだった。
今回も読んでいただきありがとうございます。
最近はリアルが忙しく更新が遅くなってしまいましたが、可能な限りスピーディに更新出来るよう頑張って行きます。
次回もまた、よろしくお願い致します。