コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐   作:ライト鯖

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Archive-036 桜舞う 百夜ノ祭り 後編

 

「失敗の理由を聞かせてもらおうか。魑魅一座」

 

百鬼夜行自治区の外れ。

寂れた地域に建つ、廃ビルの一つ。

そこには、撤退してきた魑魅一座と、彼女らの雇い主がいた。

 

「今日中には祭りを中止させると約束したはずだが?

大金を払ってまで聞きたいのは"出来ませんでした"なんて言葉じゃないぞ?」

 

そ、それは…と魑魅一座の者が釈明をする。

 

「予想外の伏兵がいたというか…なんというか…」

「シャーレの先生に邪魔されたっす!あの人のせいっす!」

「シャーレの、先生…?……!」

 

雇い主は魑魅一座の口から飛び出た存在に眉を上げる。

 

「はい。先生です!」

 

イズナも頷きながら割って入った。

 

「イズナ殿まで…それ程なのか?」

「めっちゃ強かったっす!いや、本人が、というより指揮がヤバかったっす」

「ふむ…」

「先生は、強く優しく、何よりイズナの夢を応援してくれました!

やっと、頑張って任務をこなして、仕えるべき主君に出会えたと思ったのですが…」

 

雇い主は「それで?」と値踏みするような目で続きを促す。

 

「そんな先生が、何故か邪魔者達と一緒にいました!…はっ!まさか…!先生は、騙されているのではないでしょうか!」

 

イズナの結論に、ふうと雇い主は息を吐きつつ、「まあそれはともかく」と話を戻した。

 

「イズナ殿もそう言うなら、確かに、先生というのは油断ならない相手なのだろう。

今回は大目に見よう。ただし、額面通りの働きはきっちりしてもらうぞ」

「次こそ、成功させてやるよ!」

「ご心配なく!イズナも騙されている先生を倒して、真実を教えてあげます!」

「そ、そうか…まあ、信じよう。イズナ殿」

「はい!お任せください!ニンニン!」

 

上機嫌な様子で去っていくイズナを見送った後、雇い主は腕を組み、うーん、と唸るのだった。

 

「あいつ、本当に大丈夫か?」

 

ほんの少し、時を戻し──。

─百夜堂。

 

にゃん天丸会長が去ってすぐ、シズコは逸る気持ちを抑えきれないようで、「善は急げです!行きましょう!先生!」と引きずられるようにして百鬼夜行連合学院の学舎へと向かうのだった。

 

 

店を出る前、百鬼夜行の事情にはまだ疎い、とシズコは思っているルルーシュへ、百鬼夜行連合学院内で発生したトラブルを相談する先として、他校で言う風紀委員の役割を担う"百花繚乱紛争調停委員会"と百鬼夜行の実質的な生徒会である"陰陽部"の二つを挙げて、後者へ向かうと説明した。

 

「今、百花繚乱は全員不在だそうなので」

「百花繚乱が全員?何かあったのか?」

「どうなんでしょう…分からないんです」

「そうか…。まあ、とにかく、そうであるならば、確かに陰陽部を頼るしかないな」

「ええ。…ただ」

「ただ?」

 

何とも煮え切らないシズコにルルーシュは訝しげな目を向ける。

 

「うーん…ええいっ!実際会ったほうが早い!」

 

最終的には思い切りよくそう言い放ち、シズコはルルーシュを案内するのだった。

 

そして、百鬼夜行連合学院。

─陰陽部。

 

何とも趣のある建物だ。

神楽耶でも出てきそうだな。

 

ルルーシュは到着した陰陽部の風情感じられる和風の、大きな屋敷となっている建造物と、それらが建て並ぶ広大な敷地を見、そんな感想を脳裏に過ぎらせていた。

 

「この奥に陰陽部の部室があります」

 

 

うう…とシズコはげんなりした様相で呻く。

 

「何度来ても胃が痛くなる…」

「胃が?…何か懸念事項でも?」

「陰陽部はかなり腰が重いことで有名で、何かお願いしても中々動いてくれないんです…。

そもそも、そういう実際の対応は殆ど百花繚乱の方で…」

「へえ?それなら、タイミングが悪かった、ということか」

 

いや、もしや不在を狙っての事なのだろうか。

あり得るかもな。イズナを利用している連中、或いは個人が百鬼夜行の事情にある程度精通していれば思い付く程度の事だ。

その可能性も頭に入れておくべきだな。

 

「陰陽部はその名の通りに、と言うべきでしょうか。自分達は百鬼夜行のバランスを保つために存在していると言っているのですが…」

「過度な介入は避ける、というところか」

「過度な、ならまだ良いんですけどね。

実際の所、何が起きても大抵、ニコニコしながら"私達には権限がないので〜"とか曖昧な態度ばかりで…」

 

特に!とシズコは不満を顕に声のトーンを上げた。

 

「あの部長!こっちが何かクレーム言いに行っても"重要な案件は書面でお願いします〜"ばっかりだし…。

書面じゃ遅いんだってば!」

 

ふむ。官僚主義的、というところか。

バランス…。権限。"連合学院"。

いや、もしや、案外と…。

 

ルルーシュは事前に仕入れていた百鬼夜行についての知識と、シズコからの説明を踏まえ、陰陽部は単にバランスと称して重い腰を上げたがらないだけの組織というわけでなさそうだ、と推測していた。

 

「まあでも、向こうがそういう態度ならこっちだって方法を考えるまで。

何せ今はシャーレの先生がいるんだもの!」

 

シズコに自信満々といった様相で目を向けられたルルーシュは、曖昧に笑い返す。

 

どうだろうか。噂に聞く限りの陰陽部と、俺の予想が正しければ、それなりの理屈によって過度な干渉を避けている可能性もあるが…。

 

「陰陽部の部長だってきっとあの重い腰を上げてくれる筈…!

あのいっつも余裕そうな態度を此方の思うままに使って…ふふっ」

 

普段の不満がここぞとばかりに噴出していたシズコはしかし、漸く我に返り、目をぐるぐるとさせながら誤魔化そうとあざとい声色を作る。

 

「シズコ、お話聞いてくれるか心配〜」

「もうツッコまなくて良いか?」

「せめてツッコんで下さい!」

 

そうして二人は陰陽部の部室へと入るが、二人を出迎えたのは陰陽部の部長ではなかった。

 

「ようこそ、先生。待ってた」

 

額から赤い角が二つ生え、それとは対極の薄青く長い髪を二房に分けて編み込んだ、一見儚げな雰囲気を持つ少女が出迎えであった。

 

「私達が来ることを知ってたの?」

「うん、部長が言ってた」

 

少女は瞑目し、思い出すようにして諳んじる。

 

「二人来る 表裏行き交う タヌキたち」

 

シズコは「なっ!」と憤りを顕に「誰がタヌキよ!」と抗議をした。

ルルーシュの方は──。

 

「へえ?」

 

挑戦状を受け取ったとばかりに不敵に笑っていた。

 

やはり、相当な情報収集能力を有しているようだな。

恐らく、俺の裏の顔、それそのものには辿り着けていないだろう。

証拠が盗聴でもされていない限り無いのだし、確証を得ることはまず無理だ。

しかし、結び付けることは可能。

 

私が来てから台頭したL.L。

突如現れたゼロ。

何方を察知しているのかは分からんが、推測自体は不可能じゃあない。

ここは如何ともしがたいところではあるしな。

 

だが、その推測をある程度確信しているのだろう。手練れがいる。

 

しかし、これで確定したと言えるだろう。

陰陽部はやはり、敢えて動いていないのだ、と。

 

恐らく、複数の学園が連合して生まれた学園自治区である以上、生徒会組織が強権を振るうことは避けるべき事、というのが主要な理由だろうか。

 

いずれにせよ…。

 

ルルーシュは、フッと笑い、目の前の少女を見る。

 

「タヌキの相手はしたくない、と?」

「そうよ!…いや、コホン。

全部お見通しみたいな部長は何処に行ったの?」

「部長は…えっと…」

 

うーん。と少女は首を捻ってから、確か、と呟く。

 

「飼うなら黒猫が良いって」

「ペットの好みは聞いてない!」

 

もう…とシズコはため息をつく。

 

「今日はあの部長に会いに来たの。

もう一度聞くけど、チセ。部長は何処?」

「部長は…下校しました また明日」

 

え?とシズコは目を丸くさせる。

 

「下校?まだ昼でしょ?どういうこと?」

「……どうしてだと思う?」

「さあ…じゃなくて!何で貴方が聞くのよ?!何もかも意味が分からないんだけど?!」

 

「よりにもよって何でこんな大事な時にいないのよ…」とシズコは嘆くが、ルルーシュの方は至って冷静であった。

 

「ふむ…。なあ。部長は君に何か言伝をしていないか?

例えば──」

「桜花祭を邪魔しようとする騒ぎの件、とか?」

「やはりか」

「知ってたの?!」

 

うん、とチセは頷く。

 

「部長は言ってた。助けてあげることはできないけど、代わりに、修行部にいけばなんとかなるはず、って」

「…修行部?」

「うん。修行部からも来たの。クレーム。街がうるさいって。

それで部長が、一つでダメなら二つを合わせれば良いんじゃない?って」

「なるほどな。単純だが合理的だ。戦力を強化すれば、追い払うだけじゃなく、捕縛しての尋問も可能になるやもしれんな」

 

しかし、シズコの方はまたも乗り気ではない様子だった。

 

「修行部かぁ…仕方ない。今度は修行部の方に…」

 

一応、とシズコは息を吐きながらチセへ依頼する。

 

「チセ、もし後で部長が戻ってきたらまた連絡してくれる?」

 

チセが頷いたのを確認し、シズコはルルーシュを引っ張るようにして慌ただしく陰陽部の部室を去るのだった。

 

「いってらっしゃ〜い」

 

街へと戻ったシズコとルルーシュ。

シズコはまだ煮え切らない様子であった。

 

「修行部かあ…」

「何か問題があるのか?」

「修行部の生徒達って結構変わり者でして」

「へえ。君の変わり身よりも?」

「それはもう…って変わり身じゃありません!」

「はは。悪い悪い」

「と、とにかく。修行部は修行のためとか言いながらよく分からない活動をしている部活です」

 

例えば、とシズコは幾つか例を挙げる。

 

曰く、修行の一環と称して寝ながらジグソーパズルをやる人がいるだとか、素敵なレディになる為と言いながら街のチンピラを退治してる人、大和撫子の嗜みとか言って読心術を使える部員もいる、などなど。

脈絡の無さにルルーシュもさすがに困惑を浮かべてしまっていた。

 

ヤマトナデシコというと、淑女の事だが…。

確かに淑女を気が利く人間、とするのであれば、心を読めるようなもの、と言っていいのか?

等と栓のない事をつい考えてしまう程に。

 

「まあ私も噂でしか聞いたことないので実際の所は直接確認してみないと分からないんですけど」

「何だ。噂か。ならば実際に会ってみるのが早いだろう」

「…確かに、そうかもですね…。

うーん…。悲観的に考えるのはもう止め!

先生の言う通りですね。行きましょう!」

 

そうだな、とルルーシュはシズコと共に先を急ごうとするが、突如として近傍で発生した爆発に足止めを食らってしまうのだった。

 

「今度は何!?」

 

土煙が晴れると共に現れたのは、天狗面の少女達。

 

「今度こそ桜花祭を台無しにするため、魑魅一座、参上だ!」

「また…!懲りないわね!」

 

シズコは銃を手に取ったが、魑魅一座の数は想像以上に多いことを、煙の晴れるとともに知ることとなってしまう。

 

「数が…!せめてフィーナがいれば…!」

 

ルルーシュもその数の多さに、一旦の撤退を考え始めていた。

 

「そこまでだよ!魑魅一座・路上流!」

 

その時、一つの力強い声が、睨み合う双方に響き渡った。

 

 

「だ、誰だ?!」

「何だ誰だと聞かれたら、答えてやるのが人情ね!」

 

現れた三人の少女。

その中でも最も小柄な黒髪の少女が音頭を取り、他の二人が続いた。

 

「派手に!」

「可憐に…」

「う、美しく…で合ってます?」

「ばっちり!…街の平和を守る為、美少女3人組の修行部!ここに参上!」

「参上〜」

「えと…参上、です」

 

ポーズを取ったあと、ふふん、と音頭を取った少女が隣の眠そうな少女に言う。

 

「完璧な登場だったね!ツバキ先輩!」

「ふぁ…そう?」

「えっと…カエデちゃん?なんだか凄く見られてる気が…」

 

そんな三人を横目に、シズコはルルーシュへ言う。

 

「言ったでしょ?変わり者だって」

「ううむ…。これは…何というか…また個性的だな」

 

というか、とルルーシュは困惑しつつも変わり者三人の出で立ちをじっくりと見つめる。

 

「何処かで見た気が…」

 

あ、とルルーシュは口の中で呟いた。

 

イズナを逃がした時に、追いかけていた子達か。

なるほど…。修行部に追われていたのか。

 

まあ、桜花祭の邪魔をすることに使われている以上、そりゃあそうか。

 

「とにかく!」と、周囲を置き去りにわちゃわちゃとしていた修行部はカエデを筆頭に、戦闘態勢を整える。

 

「修行部の出番だよ!魑魅一座・路上流、覚悟!」

「修行部の三人!」

 

飛び出す彼女らにルルーシュは呼びかける。

 

「へ?誰です?」

「自己紹介は後だ。我々も魑魅一座を追っていた。ここは共闘と行くぞ」

「了解!」

「良し!では、カエデ!早速だがそこで止まれ!」

「な、何でです?!」

 

振り向き、結果的に動きを止めたカエデの真ん前を銃弾が横切った。

 

「なっ?!あいつ、あたしらの動きを読んで…?!」

「偶然だろ!」

 

ルルーシュは周囲に忙しなく目を動かしながら指示を飛ばしていく。

 

「シズコはツバキのカバー!ミモリは右前方40度に向けて発砲!」

 

またもや倒されていく魑魅一座。

路上流のリーダー格も銃弾をその身に受け、「ぐううっ!」とうめき声を上げていた。

 

「くそっ!また強くなってやがる…!」

 

修行部は、ルルーシュに押し切られる形で指揮下に入っていたが、既に不満も疑問もなくなっていた。

 

「戦いやすいですね」

「うん。こんなに早く勝ちが見えてくるなんてね」

 

路上流は苛立たしげに吐き捨て、ルルーシュを睨む。

 

「ちっ…一体なんなんだシャーレってのは…」

「あの馬っ…忍者もどきはまだか?!」

 

イズナ流忍法!と快活な声が直後に届く。

 

「四方八方、もくもくの術!」

「カエデ、ミモリ。仰角上方25度。発砲」

 

煙の中、先んじて敵の現れる場所へと弾が走る。

煙幕が辺りに立ち込めるが、同時に銃声と、「ぎゃんっ!」という悲鳴も辺りを包む。

 

ルルーシュの指示によってカエデらが発砲した弾が、イズナに当たったのだ。

 

「は?」

「おい!忍者もど…忍者!しっかりしろ!」

「ううう…何故、イズナの着地場所がわかったのですか…」

「前に見たからな。最初は敵の正面に堂々と現れる事を目指しているのか、幾らか撹乱に動いてからタイミングを見て姿を現す」

 

どうやら、当たりだったようだ

ルルーシュは言いながらイズナの側で膝をつく。

 

「せ、先生…?!」

「さっきぶりだな。…それで──」

 

何故、路上流に協力しているのか、ボスは誰か、情報を聞き出そうとしたルルーシュだったが、イズナの声にそれはかき消される。

 

「た、たとえ先生が私の夢を認めてくれたかっこいい大人…いえ、かっこよくて悪い大人でも!」

 

イズナはよろけながら立ち上がり、ルルーシュを真っ直ぐに見た。

 

「敵として出会ってしまった以上、先生を倒して説得せねばなりません…!忍者たるもの、どんな任務でも完璧に行うのが忍びというものですから!」

「ふむ…説得か。恐らくそれはそっくりそのまま私が返すべき言葉だろうな」

「…?どういう事です?」

「イズナは桜花祭を中止にしたいのか?」

「そんなわけないじゃないですか。先生は何を言っているのですか…?」

 

ハッとイズナは目を見開く。

 

「まさか先生はイズナを騙そうと…?!

その手には乗りません!」

「騙してるのは君の雇用主だ。何を吹き込まれたのか知らないが、今、君が戦っている生徒達は桜花祭を守るために戦っている」

「イ、イズナは事業の邪魔をする者たちを倒して欲しいと…!先生、変な嘘でイズナの夢を邪魔しないでください!」

 

まだ晴れないイズナの煙幕によってルルーシュとシズコらは分断されており、煙の向こうからは魑魅一座とシズコ達が戦う音が響いていた。

 

「イズナ。ニンジャ、というのはエージェントだ。時に自らの望まない任務をせねばならないことはあるだろう」

 

だが、とルルーシュはイズナに厳しい目を向けた。

 

「自分のしていることはしっかりと理解していなければならない。

現実から目を背けて都合の良いものだけを見ていては、理想は叶えられない」

 

丁度良い、とルルーシュは煙の向こうを指差す。

 

「耳を澄ませてみると良い」

「耳を…?」

 

微かに聞こえるのは魑魅一座の荒っぽい、苛立ち混じりの声と、修行部、シズコの憤りが込められた声。

 

「これ以上失敗できないんっすよ!」

「桜花祭を台無しにしなきゃ、あたしら報酬無しだ!いい加減諦めやがれ!」

「それはこっちの台詞よ!諦めなさい!桜花祭を台無しになんて、させないわ!」

「そうです!さあ、降参してください!」

 

「──。あれ…?え…皆、何を…」

 

恐らくニンジャらしい任務に舞い上がって周りの声もろくに聞いていなかったのだろうな。

 

ルルーシュはこれまでのイズナと接して感じていたテンションの高さから、そう推測していた。

 

「イ、イズナはただ…」

「ショックなのは分かるが、イズナ。

事実を受け止めた上で、君には二つ、選択肢がある」

「…先生?」

「一つ。洗いざらい私達に全て話し、魑魅一座との協力をやめること。

そしてもう一つ。ニンジャとして請け負った任務を、感情を排してでも貫くこと」

 

因みに、とルルーシュが言う頃には、煙幕も土煙も殆ど晴れていた。

 

魑魅一座は全滅に近く、シズコ達は残る敵である、イズナを見据えていた。

 

「後者の場合、私達とは敵同士だ」

「イズナは…イズナは──忍者として、命令を遂行します!」

「先生」

「待て」

 

ルルーシュの隣に歩み出て来たシズコをルルーシュは制止する。

 

「雇い主のことは、教えてくれない、ということかな?」

「う…。っはい…。忍びとしてやってはいけないことですから。

立派な忍者になる為に…!」

 

ふう、と息を吐き、ルルーシュは仕方ない。と頷いた。

 

「ならば、諦めるとしようか」

「へ?…」

「無理に話さなくても良い。

君が、君の思うニンジャを貫こうと言うのならばな」

「イズナの思う…」

 

ただ、とルルーシュは取り出したシッテムの箱を手にし、イズナの前に立ちはだかった。

 

「此方としては、桜花祭を守る必要があるのでね。

ここで君を止める必要があるが…」

「!…やはり、イズナと先生はそういう宿命(さだめ)!」

 

イズナは気絶している魑魅一座を抱えつつ、煙幕弾を再び放った。

 

「この場はここで失礼します!…次こそは…!」

 

動ける魑魅一座達もそれに合わせて撤退するのだった。

 

「先生、逃げちゃいましたよ?!」

「ん?そうだな」

 

何でもないことのように言うルルーシュに、シズコは、いやいや!と不満を顕にする。

 

「またアイツラの雇用主に私達の情報が報告されちゃうだけじゃないですか!」

「ああ。恐らく、報告に戻るのだろうな」

 

だから、とルルーシュは不敵に笑ってみせる。

 

「私達の、勝ちだ」

 

 

──魑魅一座・路上流拠点。

 

「またやられたのか?それに、イズナ殿は?」

「あいつは役に立たない!何が忍者だ…!来てそうそう撃たれやがって…!」

「何か用事があるとか何とか」

「ふむ…それなりに使えると思っていたが…」

 

雇用主は所詮はこの程度か、と内心、イズナへの失望を浮かべていた。

 

「このままだと桜花祭を邪魔しようにも、あのシャーレの先生とかいうのにやられぱなしっす」

「シャーレの先生、か。それ程の力を持っているとはな…にわかには信じがたいが、まあ良い」

 

雇い主は暫しの黙考の後、路上流のリーダーに目を向ける。

 

「今、どれくらいの戦力が商店街へ来てる?」

「…だいたい120人くらい…?」

「そろそろ仕掛け時、か」

 

 

──路上流と雇い主が密会をしている頃。

 

イズナはこれで良いのでしょうか。

確かに、忍者として、任務を全うしなくてはなりません。

でも、それは桜花祭を邪魔するためで…。

 

いえ!雇い主殿は私の夢を後押ししてくれました!

それならば、その期待に応えねば…!

 

イズナは拠点へと戻り、薄暗い、埃にまみれた廊下を進みながら、曇る思いを振り払い、決意をせんとしていた。

 

しかし、そこで彼女はそうした思考を吹き飛ばしてしまう影を見る。

 

「え。先生…?」

 

影は直ぐに曲がり角へと消えたが、イズナは、はじけるようにしてその後を追っていた。

 

「やあ、イズナ」

「わああ?!先生?!やっぱり!何でここにいるんですか?!」

 

曲がり角を曲がった瞬間、待ち構えていたルルーシュに声をかけられ、イズナは飛び上がってしまっていた。

 

「どうやってここを…!」

「フッ。イズナ。ニンジャなら、敵のそれにも警戒しなきゃな」

 

ルルーシュは端末の画面をイズナの目に映す。

 

「これは…!」

「君が連中を回収する隙に路上流の一人に仕掛けさせて貰った」

「発信機?!う…全く気が付きませんでした…」

 

で、ですが、とイズナはルルーシュを精一杯に眉をつり上げようとしながら睨むようにして見る。

 

「先生一人で乗り込んで来ても…!

心苦しいですが、ここで…!」

「イズナ殿?戻っていたのか?何の騒ぎだ?」

 

タイミング悪く、いや、ルルーシュにとっては、ある程度狙っていた通りに、雇用主と路上流の何人かがやって来た。

 

「なっ?!先生だ!?」

「バカな!何故ここが!」

 

雇用主は心底驚いた様子で声を上げた。

彼の姿は、ルルーシュにも見覚えのある姿であったが、ルルーシュの方は眉をピクリとも動かしていなかった。

 

「まあ、ある程度予想はしていましたよ。ニャン天丸会長」

「ほう?私だと気付いていたような口ぶりだが、強がりはためにならんぞ?」

「強がりじゃあないさ」

 

"学生がこんなに金を使って"。"色々と気に食わない連中"。"何かが変わる、というのを誰しも簡単に受け入れらるわけじゃない"

 

「貴方自身がヒントをくれたようなものだ。

それに、シズコ達はポジティブに評価していたが、私には"ツンデレ"、のようなものには見えなかったよ。

一瞬だが、確かに貴様は本当にうざったいような顔で彼女らを見ていたな」

「フフッ。ハハハッ!なるほど!本当にバレていたのか!なるほどなるほど。今後の参考にしよう。

ああ、それと、私の本名はニャン天丸じゃない」

 

儂の本名は…と会長はもったいぶりながら片目に眼帯を付けて、名乗る。

 

「マサムニェ。路地裏の独眼竜、ニャテ マサムニェとは儂のこと!」

 

微妙な反応しか返ってこなかったマサムニェは若干気まずい雰囲気をごまかすように咳払いをした。

 

「しかし、まさか、先生。お主がここまで強いとはね。百夜堂であった時は、そんな風には見えなかった」

「そりゃあな。誰が見ているかも分からない場所で全てを見せるわけもない」

「はっ!この状況で余裕ぶれるとはな。大したやつだ。だが、私は漫画の悪役とは違う。

こいつは没収だ」

 

周囲を固められた状態で、ルルーシュはスマホを没収されてしまう。

 

それから、マサムニェはしかし、とイズナへ目を移した。

 

「まさかシャーレの先生を招き入れるとはな。

あれだけ付き合ってやったのに裏切られるとは思わなかったよ」

「へ?い、いや、待ってください。イズナは…」

「言い訳するのか?!」

「役立たずだと思ったら、裏切ってたのか!」

 

イズナが何かを言おうとしても、マサムニェを護衛する路上流にかき消されてしまう。

 

「全く我ながらバカらしい事だ。

くだらん忍者ごっこに付き合うのがどれだけ面倒だったか」

「え…?」

「お遊びに付き合うだけで役に立ってくれるなら、と茶番を演じてやったと言うのに、恩知らずめ」

「あそ、び…?」

 

イズナはただただ、困惑を顔に浮かべるばかりであった。

 

「君が言うのは幼稚な子供のごっこ遊びだろう。魔法のような"忍術"なんてのはファンタジーだ」

「雇い主としてご命令を」だとか「命令とあらば何でもこなすのが忍びの道」だとか、とマサムニェは低い声で呟きながらイズナを睨み付けた。

 

「笑わないようにするのが大変だったよ。

…だが、どうやら私がコケにされていたようだな?」

「イズナにかけてくれた言葉は、全部嘘だったのですか…?」

「まだ言うか!茶番は終わりだ!終わらせたのは貴様だろう!」

 

イズナは、騙されていた…。

 

衝撃に固まるイズナ。

その後ろでルルーシュはフッと嘲笑をマサムニェへと向けていた。

 

「ごっこ遊び、だったか?」

「ああ。忍者ごっこも役に立つと思っていたんだがな。それがどうした?」

「一つ見せてやろう。"忍者"が、"忍術"が、本当にファンタジーか」

「何?」

 

イズナはハッと顔を上げ、ルルーシュを見る。

 

「先生…?」

「私も、映画の悪役とは違うのだよ。マサムニェ。準備の終わっていない段階で、姿を現すとでも?」

 

ルルーシュは手を高く掲げ、周囲の視線を集中させてからパチン!と指を鳴らす。

それと同時、小さな爆発音が彼らの耳に届く。

 

─1秒後。

近傍の部屋の扉を爆風が突き破り、それと共に真っ白い煙が廊下へと急速に広がった。

 

「な、何だ?!視界が!!」

「"忍法"煙遁の術。…イズナ、こっちだ」

 

手を引かれ、イズナはルルーシュと共に走ることになる。

 

「逃げたぞ!追え!追え!ゲホッ…!」

「待ちやがれ!」

「こっちは煙ないぞ!」

 

煙の中から飛び出した路上流達は、足下に鋭い痛みを覚えた。

 

「いっっでえ?!」

「なっ!なんでここの壁が崩れてんだよ!」

 

崩れた壁の瓦礫を踏みつけたのだ。

 

「マキビシの術。なんてな。

あらかじめ、煙幕の発生と同時に他の仕掛けたシステムが作動するようにしていたんだよ」

「こ、こんなの忍術じゃないだろ!」

 

いいや?とルルーシュは笑う。

 

「"忍術"は計算と科学に基づいた諜報員のスキルだ。

煙幕は消火器と小型爆弾を。壁の方は無線動作式の爆弾を利用させて貰った。

全ては計算に基づいた技術と結果。

忍術の本質は、そこにある」

 

だが、折角だ、とルルーシュは嗤う。

 

「もっとそれらしい忍術を見せてやろう」

 

忍法、とルルーシュが唱えると同時、彼らを追っていた路上流の背後に複数の影が天井に空いていた穴から降り立った。

 

「口寄せの術」

「は?…!なっ?!」

「しまっ…!?」

「な、何故こいつらまでここに…!」

 

追いついてきたマサムニェは、驚愕の色を浮かべていた。

シズコやフィーナ。修行部の面々が集結していたのだ。

 

「まさか貴方が犯人だっとはね!会長、いえ、ニャン天丸!」

「マサムニェだ!…やってしまえ!お前達!」

 

路上流はしかし、人数も少なく修行部とお祭り運営委員会の手によって一蹴されてしまった。

 

「なっ…!い、いやっ。これもまだ想定の範疇…!この拠点がバレて攻め込まれないことを考えないとでも思ったか?!」

 

マサムニェはなおも諦めはせず、彼の携帯端末のボタンを幾つかプッシュした。

 

一分とかからず、廃ビルのあちらこちらから天狗面が集結をし始める。

 

「あれだけの金が動く桜花祭!貴様ら学生の青臭いくだらん夢物語に預けるには惜しいんだよ!

ここで貴様らを、倒し、桜花祭を潰し、我々が桜花祭の主導権を握らせてもらう!」

「うわあ…」

「ふははっ!もはや貴様らは袋のネズミ!ここに集めた路上流の戦力で貴様らを一網打尽にしてくれる!」

 

シズコらは余りの天狗面の多さに僅かに怯む。

だが、ルルーシュはこの程度の敵に、動じることはない。

 

「さっきまでの潜入捜査中に、敵の人数はある程度把握している。

そして、さっき言っただろう。マサムニェ。

何の準備もないとでも?」

 

ああ、とルルーシュは続ける「こっちは貴様には言ってなかったか?」と。

 

忍術とは、計算だ。

 

爆発。

連続する爆発音がビル全体を揺らす。

そして、天狗面達が集結しつつあるフロアの床。

その一部が一気に崩れ始めるのだった。

 

「うわあああああ?!」

「床が!!」

「なっ!」

 

マサムニェは四割以上の兵力が一瞬にして沈黙させられる様を見せつけられることとなったのである。

 

「忍法、落とし穴の術、ってね」

「ふ、ふざけおって…!しかし、まだ半分近く残っておる!やれ!全員で!連中は少数だ!」

 

修行部、運営委員会と路上流の天狗面達が入り乱れる乱戦へと一気に入る。

 

「先生。イズナ、分かりました」

 

ルルーシュの隣に立っていたイズナだったが、確かな決意を宿した瞳で、そう言った。

 

「イズナの夢を笑わないでいてくれた、応援してくれた、先生の隣ならば、これから先もずっと…夢を見続けることが出来ます!」

 

先生!とイズナは言ってから、いいえ、と首を振ってから、自ら訂正する。

 

「主殿!」

「主…?」

「はいっ!今からイズナは、全てを真の主君たる主殿に捧げ、主殿の為に、戦います!」

 

そして、軽やかな身のこなしで、乱戦の中へと飛び込むのだった。

 

「へえ。中々やるじゃん。忍者の娘」

「ええ!これに免じて、邪魔をされたことはチャラにしてあげるわ!」

 

「イズナ!2メートル後方へ、左の壁をつたって跳躍。着地後、左前方の敵兵を無力化」

 

ルルーシュの指揮も組み合わさり、集まった路上流の戦力は、僅かの時間の間に、壊滅するのだった。

 

「か、会長として、使える限りの資金を全て使って動員した魑魅一座がこんなことに…!」

 

ほうぼうで伸びている路上流の面々を見渡しなが

ら、マサムニェは顔を青くさせていた。

 

「チェック、かな」

 

ルルーシュに詰め寄られるマサムニェだったが、冷や汗を頬に浮かべながらも、尚、目は死んでいなかった。

 

「まだ終わっていない…!儂の年数をかけた計画が、ただの学生と先生如きに壊される?

ふふっ。認められん!」

「へえ?」

 

ルルーシュの挑戦的な笑みに、マサムニェも同じ笑いでもって返答した。

 

「儂の資金全てを使ったんだぞ?

その魑魅一座がこれで全部だと、本当に思ったのか?!」

「…まさか」

 

シズコ達はマサムニェの言葉の先を察し、銃を構えなおした。

 

「会長の資金力を甘く見るな!」

 

さあ!と彼は声を張り上げる。

 

「まだ街に残る魑魅一座をここに集めよ!

大量の魑魅一座…文字通りの魑魅魍魎を、その目に焼き付けるが良い!これで──」

 

興奮気味のマサムニェにしかし、言いにくそうな様相の天狗面が一つ近付き、小さく、言う─。

 

「あー…実は元々来るはずだった子達が、殆ど"やっぱりパス"って」

「ここで働くより桜花祭楽しみたいって皆行っちゃったんで、もうこれ以上はほぼいないっす」

 

 

何とも言えない微妙な時間が流れる。

 

まあ、他にも仕込みはしていたから、それで敵に対処出来たのだが…。

再利用も可能なことだし、浮いたのはラッキーか。

しかし…。何と言うべきか…。

 

沈黙の中、ツバキが「眠い」と漏らしたことで、停止していた時間が動き出す。

天狗面がええと…と口を開いた。

 

「もうダメかもしんないっすね」

「うん!よし!解散!」

 

リーダー格の音頭が伝わるが早いか、路上流は素早くその場から一斉に姿を消すのだった。

 

「あっ?!ここで抜けるのとかズルでしょ?!」

 

独眼竜マサムニェは、すっと眼帯を外してから、シズコへと目を向ける。

 

「…えっと…諸君。全部水に流すというのはどうだろう?」

「んなこと出来るかあああ!シズコ、本気の(マジギレ)看板娘パーーンチ!」

 

これまでの怒りが乗りに乗った拳によって、マサムニェの意識は沈められ、そのままお縄へとつくのであった。

 

 

そして──。

桜花祭。

 

ルルーシュは祭りの様子と、平和に楽しむ人々を眺めながら、街を歩く。

 

そして、花火が綺麗に見られると噂の展望台へとやって来たルルーシュは、探し人を凄まじい人混みの中でも一瞬にして見つけ出す。

 

「ひ、人が多すぎて酸欠になりそうです〜」

「大丈夫か?こっちは少し空いてるぞ」

「この声は…!先生、いえ!主殿!!」

 

駆け寄ってきたイズナは抱きつくようにしてルルーシュへと飛び付いた。

 

「主殿!イズナが良い場所を見つけておきましたので!あそこが…って!ああ!直ぐに人でいっぱいに!」

「心配ない」

 

ルルーシュは空を指差す。

 

「桜と空ならここからもよく見える。

これで充分だろう。ここで見よう」

「は、はいっ!えへへ…」

「あ、先生!」

 

イズナが指差す方向には、最初の花火が天へと尾を引きながら昇っていっていた。

 

「綺麗…」

「ホログラムでも充分綺麗に見えるものなんだな」

「………」 

 

花火が盛り上がる中、イズナは静かに、言いにくそうに切り出した。

 

「その…色々とご迷惑をおかけして申し訳ありません…イズナは…」

「私は別に気にしていない。まあ、迷惑をかけた生徒達には謝っていたのだし、もう充分だろう」

「主殿…」

 

イズナは花火を背にして、ルルーシュの真ん前に立つ。

 

「──先生は、主殿は、私の夢を応援してくださる方。これから先、イズナは主殿に忠誠を誓います!」

「そうか。ありがとう」

「はい!ですので、これからもイズナを末永くよろしくお願い致します!」

「ああ。頼りにしているよ。イズナ」

 

 

ホログラムだろうと、火薬だろうと、全盛を一瞬で終える天に咲く花々の放つ光に頬を照らされながら、イズナはえへへ…とはにかむのだった。

 

 

 





後日、シャーレへと戻ったルルーシュに、イズナからの連絡が届いた。

曰く。

『忍術研究部への所属が決まりました』、と。

研究部の部員らとの写真と共に──。

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