コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
「ねえ、お姉ちゃん。いつまでこうしてれば良いの?」
物陰でじっと息を潜めて何分経ったか分からないくらいには長く身を隠すモモイ、ミドリ、ルルーシュの三人。
痺れを切らしたミドリがそう漏らしたが、モモイは「しっ!静かに」と指を手に当てるジェスチャーを混ぜて小声で伝える。
その三人の隠れる場所から、ほんの数メートル先を、機械兵がガチャガチャと音を立てながら巡回をしている。
そこに、もう一つの機械兵がやって来て、両者が互いを認識すると、「■■■…」「■■■ ■■」と、ルルーシュらには聞き取ることのできない未知の、或いは、壊れてまともに駆動しなくなった声帯機構が絞り出す雑音による、言語で会話を交わしてから、何処ぞへとバラバラに去って行った。
「ひゅーっ。行ったかな?」
辺りを確認し、物陰から這い出るモモイ。
「よし。じゃあ行こうか」
モモイに言われたミドリだったが、この状況に、「うん!」などと元気よく頷くわけもなく、「良し、じゃない!」と歩き出そうとしていたモモイを引き止める。
「いったいここはなんなの?!あんな謎のロボットが数え切れないくらい歩き回ってるし!」
「何って、もう何回も言ってるじゃん。"廃墟"だよ」
モモイはサラリと自信満々の様相で答えた。
そう、彼女らは廃墟に到達していた。
ミレニアムの現代的な都市風景を思わせる建造物が建ち並んでいるが、その何れも、苔むし、或いは崩落し、瓦礫の山が至る所に散乱している。
正に廃墟と言うべき光景だ。
「でも出入り禁止の区画って言うからある程度覚悟はしてたけど、いやー、冷や冷やするね」
モモイは言葉ではそう言いつつもまだまだ余裕の感じられる調子で言う。
「あのロボット、一体なんなんだろ…」
ミドリはううん、と小さく頭を振る。
「それより、あんなのが幾つも徘徊してるこの"廃墟"って…一体なんなの?」
「ここは連邦生徒会長によって存在を隠匿され、立ち入りを制限された地区だったのだが、連邦生徒会長失踪の混乱で連邦生徒会の兵力も撤収し、現状放置されている」
モモイよりも先にルルーシュはそうかいつまんで説明をした。
「先生、めっちゃ知ってるじゃん…」
「まあこれでも連邦捜査部の人間だからな。
知っておくに越したことはない」
「だからかあ。
…まあ、とにかく、連邦生徒会の警備がいなくなってヴェリタスの助けも得てここまで来られたわけだけど…」
モモイは思い出すように目を閉じ、続ける。
「ヒマリ先輩によるとここは、"キヴォトスから消えて忘れ去られたものが集まる、時代の下水道みたいな場所かもしれない"って」
「いつもRPGの賢者みたいに"私はなんでも知ってますよ"って感じのヒマリ先輩が、かもしれない、なんて言葉を使うのも珍しいね。
…それぐらい、未知の世界なんだ」
ミドリはうーん、と少し不安げな様子で呟く。
「でも何でこんな所にG.Bibleが…あれ?ちょっと待って」
ミドリはバっと顔を上げ、モモイに目を向ける。
「まさかとは思うけど…お姉ちゃんがここにG.Bibleがあるって言ったのは、キヴォトスから消えて忘れ去られたものが集まるって聞いたから?!
そ、それだけの理由でこんな所に?!」
慌てるミドリを、いやいや、とモモイは否定した。
「それだけじゃないよ。ヴェリタスにG.Bibleの捜索を依頼したら、座標を教えてくれたの。
"最後にG.Bibleの稼働が確認された座標"をね」
で、とモモイは言う。
「その座標が指してたのは、"普通の地図には存在しない場所"だった」
「っていうことは…?!」
「そう。その二つを合わせると、G.Bibleはきっとここに…ずっと存在が隠されてた"廃墟"にあるはず」
「完全な山勘というわけではなさそうで良かったよ。
で、ヴェリタスというのは?」
ん?とモモイは首を傾けてから、ああ、そっか。と口にする。
「ヴェリタスっていうのは、まあ簡単に言うとハッカー集団みたいな感じなの。
あ、ハッカーって言っても、身代金要求したりたいな悪いのじゃないよ!
なんて言うんだっけ、えーっと…」
「俗に言うホワイトハッカーという事か」
「そそ!ホワイトハッカー!色んな企業とかの依頼でセキュリティ構築とかもしてるんだって」
「そんな所の情報なら頼もしいな」
モモイは少しムッとしたように頬を膨らませる。
「私は信用出来ないってこと?」
「そうじゃ…なくはないが、それだけ優秀なハッカー集団が突き止めたというなら、確度は上がる、って話さ」
茶々を入れられたモモイは「ひどい!」と抗議するが、ミドリに苦笑されながらまあまあ、と宥められる。
「さっきまでの私達を見て信用しきる人の方がおかしいと思うよ…」
「うっ。それは…」
「というか、本当にG.Bibleなんてあるのかな。
最高のゲームを作れるなんて、ゲームクリエイター学校の広告みたいなのが」
「あるよ!読めば最高のゲームを作れるようになる"ゲームの聖書"はある!
それを読めば、最高のゲーム、"テイルズ・サガ・クロニクル2"が作れるはず!」
息巻くモモイが二人を先導し歩みを進める。
しかし、瓦礫の山の陰から偶然にも出くわしてしまう。
壊れたロボット兵に。
「あ゙」
「■■■!…■■ ■■!」
ロボット兵が不可解な雑音を放つと、聞きつけた他のロボット達が続々と集い始めてしまう。
「な、何か狙われてない?!集まってきてるよ!?」
「ヤバ!このままじゃ包囲されちゃう!」
「チッ。多勢に無勢だな。あっちに見える工場のような建物に向かうぞ。他よりはまだ頑丈そうだ。包囲されきる前に退避し、身を隠す!」
「こ、工場?!」
「あれか!先生ナイス!」
「指揮を執る!二人は私の指示に従ってくれ」
「オッケー、というより、その為に先生を頼ったんだしね!」
全く、と言いつつルルーシュはシッテムの箱を起動する。
「包囲は完成していない。ロボット共の集まってきた方向を分析し、最も数の少ない方角──。
モモイ!5時の方角だ!そこが最も薄い!」
「了解!」
「ミドリは迫ってくる敵に威嚇射撃を行い、モモイの援護」
「はい!」
モモイがロボット兵の手薄な一角へと突撃し、ミドリがその周りにいる他のロボット兵達へ薄く弾幕を張るようにして連射する。
兵達はミドリの動きに注意が向き、モモイが突撃した方にいるロボット兵の援護には回れなくなった。
「ミドリ。後背の敵に対処する。
向こうの崩れかけているビル、分かるか?」
「あれですか?」
ミドリが確認の為に指を差し、ルルーシュと認識を擦り合わせる。
「そうだ。あれの5階部分。左端から4つ目の窓の辺り…そうだ。
そこの窓枠の少し下辺りに全力で三いや、四発ほど撃ち込んでくれ」
「分かりました…っ!」
ミドリの威力が通常よりも増した銃弾が外壁の一部、ガラスの消えた窓枠を上方に鎮座させる壁に穴を凡そ横並びに四つ空ける。
すると、壁のその部分はヒビでも入っていたのか、歪んでいたのか、ミドリの銃弾によって穴が空けられた衝撃で、バキバキと音を立てて崩れ始めた。
そうして、壁だった瓦礫達は重力のままに落下していき、ミドリ達を追いかけるロボット兵の頭上に落下した。
何体かは、不運にも直撃し、沈黙。
掠っただけであったり、どうにか直撃を免れたロボット達も、上からの攻撃と錯誤したのか、まるで同期しているかのようなタイミングで、一斉に上方へと警戒を向ける。
その隙を付き、ミドリもモモイの側に加勢し、一気呵成に包囲の一角を突き崩し、押し通るのだった。
目標であった工場に逃げ込み、地下へと通ずる階段を下って、階段や狭い通路を利用して守りやすそうな場所でルルーシュは二人を陣取らせ、警戒に当たらせる。
しかし。
「あれ?」
ルルーシュが、妙だな、と違和に気付いた頃、モモイもそれを口に出した。
「急に追ってこなくなったね…?」
「だな。さっきまでは凄い勢いで追跡されていたのだが…」
「ま、何にせよラッキ〜、で良いのかな?」
モモイの楽観に、ルルーシュは頷くことが出来なかった。
特段こちらから攻撃をしかけたわけでもないのに追いかけてきたロボット達。
凄まじいまでのあるはずのない執念を感じさせる追跡をかけてきたロボット兵が、突如、追跡をやめた理由。
「近付いてはいけない何かがある…?」
「ちょ、先生。怖いこと言わないでよ!」
「うわああん!もういや!なんでこんな所でロボットに襲われなくちゃいけないの!しかも、もっとヤバいのもいるかもしれないなんて!」
「いや、私のは単なる推測だから…」
「それでも怖いですよ!」
「落ち着いてミドリ。生きてればいつか良い日も来るよ」
叫ぶミドリをモモイはそう言って宥めるが、当然効果はない、どころか逆効果である。
「今日の話をしてるの!そもそもお姉ちゃんのせいでしょ!」
「ま、まあ、とにかく…本当にここ、何するとこなんだろ」
まだ不安と不満を浮かべながらであったが、ミドリも一応は落ち着き、首をかしげる。
「あのロボットがいるから連邦生徒会は立ち入りを制限してたのかな…?」
「あのロボット達、実は連邦生徒会が非常時に使うための秘密兵器で、とか考えてみたけど、そういうのじゃない気がするし、何だろ…」
「仮にそうだとしても、秘密兵器にしては弱過ぎるな。単なる敵であれば脅威だが、連邦生徒会に限らず、何処かしらの秘匿兵器ではなさそうだ」
ルルーシュも実態の掴めない敵に、釈然としないものを感じていた。
「まあしかし、立ち止まっていても仕方ない。
追われなくなったなら、進むしかないだろう」
ルルーシュに促され、モモイとミドリも歩き出す。
『接近を確認』
三人が通路を少し進むと、突如として機械音声が何処かから鳴り、一行は足を止めた。
「何だ?!」
ルルーシュは辺りを警戒し、見渡すが、目立った位置にマイクらしきものを発見は出来なかった。
いや、というよりこの声──。
「部屋全体に、音が響いてる?」
ミドリも気付いたようで、ルルーシュの思考とほぼ同時に言葉を発していた。
『対象の身元を確認します。
才羽モモイ。資格がありません』
「え!え?!何で私のこと知ってるの?!」
困惑するモモイに、しかし機械音声が答えることはない。
『対象の身元を確認します。
才羽ミドリ。資格がありません』
「私のことも…?一体どういう…」
『対象の身元を確認します。
ルルーシュ・ランペルージ……先生…』
機械音声は数秒程停止する。
まるで、何かを考えているかのように。
『資格を確認しました。入室権限を付与します』
「ええっ!?」
「え?どういうこと?!先生はいつこの建物と仲良しになったの?!」
混乱するモモイとミドリ。
しかし、ルルーシュも当然、困惑していた。
「廃工場と友誼を結ぶ趣味はない」
全く身に覚えがない。
一体どういうことだ…?
心当たり…。
シャーレ、いや、連邦生徒会か?
連邦生徒会が権限を有して…?
若しくは、シッテムの箱…。というより、オーパーツが関連しているのか?
『才羽モモイ、才羽ミドリの両名を先生の生徒として認定。同行者である"生徒"にも資格を与えます。承認しました』
機械音声はルルーシュの思考を待つこともなく、独りで何やら手続きを済ませてしまっていた。
"先生"と"生徒"。
やはり連邦生徒会関連が?
…いや、待て。
俺の、先生としての役割、生徒という存在、役割。
これらを認知しているのだとすれば…。
もしや、連邦生徒会長か…?
分からんな。…仕方がない。
情報を集める必要がありそうだ。
『下部の扉を開放します』
「下部?目の前の扉じゃなくて?」
彼女らの真ん前に立つ大きな扉ではない何処かを開くと言われた事に疑問を持った二人だったが、それに該当しそうな場所を見つけることは出来なかった。
「え?もしかして下部って…」
「いやいやまさか…」
ガコン、と機械音が響き、そのまさかを現実にする。
床が抜け落ちるようにして開き、三人を落とすのだった。
「うわあああっ?!」
「なっ…!」
「お姉ちゃん、先生!きゃあああ!」
地下、先ほどまでいた地上の光が漏れ入る場所ではなく、更に深くへ落とされた三人。
「あれっ?!お姉ちゃん!先生?!」
「いやー、流石に死ぬかと思った…」
モモイとミドリは目を覚まし、当たりを見渡す。
「あれ?先生は…?…!」
周辺の冷たそうな無機質な床とは正反対に温度を感じる足下が気になり目を向けたミドリは飛び上がらんばかりの勢いで驚き、飛び退く。
「ひゃあっ!?なっ、なんで?!どうして私たちの下にいるんですか?!」
「どうしてって、落ちる時先生がとっさに私達を守ろうとしてくれたからでしょ」
「あっ…。ご、ごめんなさい…びっくりしちゃって、てっきり先生にそういう"趣味"があるのかと…」
「いや、今の言葉に対してもう一度謝ったほうが良いと思うけど…」
ツッコミを入れるモモイと、冷静になったミドリに謝られながら助け起こされたルルーシュは、苦虫を噛み潰したようになっていた。
「…二人共ケガがなさそうで何よりだが…醜態だ…」
ルルーシュ自身、女生徒の下敷きになる以外取れる手がなかったことに歯噛みしていた。
「そんなに深い所まで落ちたわけじゃないみたいだけど…。うん…?」
殆ど明かりのない地下空間に僅かながら三人に視界を提供しているぼんやりとした光の方へ目を向けたモモイ。
「えっ…?!」
と驚愕の声を上げ、そちらを凝視する。
それにミドリも釣られて、「どうしたのお姉ちゃん」と目を向けた。
「えっ!?」
「どうした?…?!」
ミドリも驚いた様子であり、ルルーシュも警戒をしつつ、そちらへと視線を動かした。
そこには、何処から入ってきているのかも分からない、陽光を思わせる柔らかな光に当てられ、根性草達が生き生きと栄える円形の空間。
その中心にモニターの備え付けられた機械が鎮座する。
ここまでならば三人共、驚愕の声を上げることなどなかっただろう。
その機械の側には、これまた機械仕掛けと思われる椅子が。
そして、そこには黒く、長い髪を纏う少女の姿をした何者かが、或いは、何かが、目を閉じ、恐らく、眠っていたのであった。
今回も読んで頂きありがとうございます。
次回更新日は未定です。
また次回もどうぞよろしくお願い致します。