コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
「眠っているのか…?」
ルルーシュは機械仕掛けの椅子に眠る少女の様子を伺いながら注意深く近付く。
「…返事がないただのしかばねのようだ」
ルルーシュの後にぴったりと付き同じく少女を見るモモイがボソリと呟く。
「洒落にならないからやめてくれ…」
「そうだよ!不謹慎なネタ言わないで!」
注意されシュンとした様子のモモイを他所に、ミドリがあれ。死体っていうか…。と何かに気付いたのか少女を指さした。
「…この子、なんていうか…ケガとかじゃなくて、電源が入ってないみたいな感じがしない…?」
「そう?確かに言われてみれば何だかマネキンみたいだね。どれどれ…」
モモイはミドリの言を受け、そっと手を少女へと伸ばす。
「あ、おい。あまり不用意に…」
「すごい。肌もしっとりしてるし柔らかい…」
人なのか?いや、しかし、モモイやミドリの言うようにマネキンのようにも見える。
人に似せて作られたもの、か?
「…あれ?何かここに文字が書いてある」
「文字?」
モモイの指差す場所にルルーシュが目を向ける間、モモイがそれを読み上げる。
「AL-IS…アル、イズ…?エーエルアイエス?
どう読むのか分からないけど、この子の名前?
…アリス…?」
むむむと唸るモモイ。
「いや、Iではなく1ではないか?AL-1S…。
まあどちらにせよ意味はわからないが…」
「え、1?そうかなあ?」
モモイはう〜ん?と首を捻ったが、ルルーシュもミドリも、既にIか1かを深く考えてはいなかった。
「この子は…」
「ああ。この場所もだな。一体なんの施設なんだろうな。限りなく人間に近いように見える少女だけが遺された廃工場、か。
ひょっとすると、工場などではなく、研究所か何かだったのだろうか」
「この子に聞いてみたら良いんじゃない?」
唸るルルーシュらに、モモイは簡単じゃんとばかりに言う。
「起きて、話してくれるなら良いんだけど…とりあえずこのままじゃかわいそうだし、服でも着せてあげよっか」
ミドリが言いつつ荷物を探る。
「へえ、予備の服なんて持ってきてたんだ…
っそれ私のパンツじゃん?!」
ミドリの取り出したものにモモイが驚愕の声を上げると、ルルーシュはぎょっと一瞬目を剥いてからわざとらしく目を逸らした。
「違うよ。これは私の。猫ちゃんの表情が違うでしょ」
それはそれでもう少し恥じらいを持ったほうが良いんじゃなかろうか、と過ぎるルルーシュだったが、当然口には出さない。
まあ、そもそも俺しか異性はいないのだし、先生という立場である俺をある程度信頼してくれていると考えれば…問題は、ない…のか?
眠る少女にミドリは慎重に服を着せていく。
ルルーシュはというと、じっくり見るわけにもいかず、別の機械を調べて時間を潰していた。
どうにも、キヴォトスの技術の全貌をまだ知らない以上断定は出来ないが、些か異なる、異質な部分を感じるな。
廃墟と言うがここの設備は一部生きていたし、どうにも妙な感じだ。
「…よし。これで良いかな」
ミドリの満足気な声に、一旦ルルーシュは調査を中断し、視線をミドリ達にと戻した。
直後、ピピッ、という断続的で、小さな機械音が3人の耳に響いた。
「ん?」
「な、何?この音?!」
「ミドリ!直ぐにその子から離れろ!恐らく音はそこから聞こえた!」
「え?ま、まさか…」
ミドリがルルーシュの声量に驚き、おっかなびっくり少女の方に目を落とす。
『状態の変化、および接触許可対象を感知。
休眠状態を解除します』
電子音声が続き、ミドリはビクリと身体を震わせた。
「…っ!」
何が起きる?休眠状態の解除といいことは、つまり…。
この少女が敵対的ではない保証等何処にもない。
万一の時は…。
「目、目を覚ました…?」
ゆっくりと、閉じられていた少女の目が開かれ、その青い目をキョロキョロと動かし、周囲を見る。
そして、暫しの沈黙の後、感情を感じさせない平板な声色で、少女は口を開くのだった。
「状況把握、難航…。会話を試みます」
くるりと目を動かし、ルルーシュ達を見る。
「説明をお願い出来ますか?」
「え、えっ?説明?!なんのこと?!」
「せ、説明が欲しいのはこっちの方!貴方は何者?ここは一体なんなの?!」
モモイもミドリも訳がわからない状況に困惑しているようであった。
ルルーシュとしても説明の欲しい所であったが、どうにも少女も要点を掴めていなさそうであり、それは期待出来そうにない。
「本機の自我、記憶、目的は消失状態であることを確認。…データがありません」
「ど、どういうこと…?いきなり攻撃してきたりしないよね…?」
少女はミドリの問に首肯する。
「肯定。接触許可対象への遭遇時、本機の敵対意志は発動しません」
接触許可対象。
そう言えばこのAL-1Sが名称か?が起動する直前にもそんな音声が流れていたな。
誰のことだ…?いや、この場で特殊なのは間違いなく俺。
二人の可能性も無くはないのだろうが、不可思議な技術と言えば、心当たりがある以上、俺である可能性の方が高い。
それとも他に何か…。
それにデータがない、というのはどういう…。
起動が想定外のタイミングだった?
若しくは時間が立ちすぎて機械が劣化していた。
バグか何かによる偶然…。
"キヴォトスから消えて忘れ去られたものが集まる"──。
忘れられて、機能が消えた──?
まさかそんな事が───。
いや、今はそんなことよりも、目的も記録も消失しているということは、本来的には危険性のあるモノである可能性も充分にあることになる。
警戒はするべきだろうな。
「うわ。すごい!ロボットの市民ならキヴォトスによくいるけど、こんなに私たちに似てるロボットなんて初めて」
警戒するルルーシュとは対照的に、モモイははしゃぎながら少女へと歩み寄り、しげしげと眺める。
「うーん…先生、どうしましょう?」
「どうと言われてもな…。まだ何とも。
…なあ、君。接触許可対象ってのはどういう意味なんだ?」
情報が不足している。
少しでも何か推測出来る材料が欲しいところだ。
「回答不可。本機の深層意識における第一反応が発生したものと推定されます」
「要するに反射的なもの、或いは本能のようなものというところか…」
結局情報は増えず、ルルーシュは小さく息を吐いたが、このキヴォトスに来てからはこうした不可思議、超常に説明も情報もない事態に頻繁に遭遇しており、またか、という若干の不満は抱いていたものの、慣れも感じ始めていた。
「うーん…」
モモイはそんなルルーシュやミドリと共に考え込むような仕草をし、「工場の地下、ほぼ全裸の女の子、おまけに記憶喪失…」と、現状を列挙する。
そうしてから、彼女は顔をパッと明るくさせ、ニンマリと満面の笑みを浮かべた。
「ふふっ。良いこと思いついちゃった」
「いや…今の言葉の羅列からは、嫌なことしか思い当たらないんだけど…」
「モモイ。何を考えているんだ?」
ルルーシュもモモイの意図を掴めず、困惑を浮かべる。
少女もまた、何が起きているのか、要領を得ないような様子である。
その混乱、というよりも、全く理解不能で、意味不明な状況に思考が止まっている、と言ったほうが近そうな困惑は、"ゲーム開発部の部室に連れ帰られてもなお、続いていた。"
「ねえ、ちょっと?!この子を部室にまで連れてきてどうするの?!」
モモイの強引さと素早さに引っ張られてしまっていたミドリが、我を取り戻しモモイに詰め寄る。
「し、仕方ないじゃん。そもそもあんな恐ろしいロボットたちがいる場所に置いていくわけにも…」
「それは……って!」
ミドリは慌てた様子で少女が口に入れようとしていたものを取り上げに行く。
「私のWeeリモコンを口に入れないで!ぺってして!ぺって!」
「やっぱり放っておくわけには行かないでしょ」
「そうかもだけど…」
モモイの言いたいことも分かるが、とルルーシュが割って入る。
「連邦生徒会かヴァルキューレに連絡するべきじゃないか?
少なくとも、セミナーくらいには」
ルルーシュとしても、廃墟にこの謎多き少女ロボットを残していく訳にも行かない。危険性も何もかにもが不明瞭な存在を野放しすることになる、と連れ帰ることには反対しなかった。
一先ずしっかりと管理出来る環境で、情報を集めるべきだろうと、そう考えていたのだ。
しかし、モモイはルルーシュの意図する所を全く共有していなかった。
コソコソと隠れるように部室へと戻り、そうして今の状況があるのだから。
「それはそうだけど、それは"まだ"。
私達のやるべきことが終わったらね」
「やるべきこと?」
ミドリが小首を傾けるが、ルルーシュはまさか、と一つの可能性に思い至る。
「さて、とりあえず名前は必要だよね。"アリス"って呼ぼうかな」
一人で話を進めるモモイをルルーシュが「待て」と制止しようとするも、先に少女の方が反応を示した。
「…本機の名称、"アリス"。確認をお願いします」
「ちょ、ちょっと待って!それお姉ちゃんが勝手に読んだ名前でしょ?!本当ならAL-1Sちゃんじゃないの?!」
「そんなに長いと呼びにくいじゃん。どう?気に入った?」
ミドリのツッコミも意に介さず、モモイは少女に笑いかける。
「……肯定」
これまで、無表情で眉一つ動かなかった少女──アリスは僅かに頬の端を緩ませて、頷いた。
「本機、アリス」
「あはは!ほら見たか!私のネーミングセンス!」
「うーん…本人が気に入ってるなら良いけど…」
楽しげな輪に、すっかりタイミングを逃したルルーシュは漸く割り入る事に成功する。
「モモイ」
「どったの先生」
「まさかとは思うが、この子を頭数にするつもりじゃないだろうな?」
「よく分かったね!そうだよ!」
元気の良いモモイの返事に、思わずルルーシュは片手で額を抑え、頭を抱える。
「お前なあ…」
「嘘でしょお姉ちゃん?!何考えてるの?!」
「何って…思い出してみてよ。何で私達がG.Bibleを探しに廃墟まで行ったのか」
詰め寄るミドリに、モモイは至って真面目な様相で尋ねた。
「それは…良いゲームを作って、廃部にさせないためでしょ?」
「そう。今一番大事なのはそれ。
良いゲームも作りたいけど、まずは部活の維持が優先。それでそのためには二つの条件の内、どっちかをクリアする必要がある。
ミレニアムプライスで受賞するのは、あくまでもそのうちの一つに過ぎない」
「だ、だからってこの子を!?」
モモイはふふんと鼻を鳴らしたドヤ顔を披露するが、ミドリは信じられないト言わんばかりのままであった。
「この子、生徒じゃないんだよ?もしかして、偽装して部員にしようとしてるんじゃないよね…?」
ニヤリと笑いこそしたが、ミドリの懸念に正面からは答えず、モモイはアリスへと向き合っていた。
「アリス!私たちの仲間になって!」
しかし、アリスはモモイの方を向いておらず、また何かを口に運ぼうとしていた。
「ああっ!私の"ゲームガールズアドバンス"食べちゃダメ!8コア16スレッドカスタムCPUに8K解像度を誇るキヴォトス唯一の16bitゲーム機なんだよ?!」
今度はモモイが慌てて駆け寄り、アリスが食べようとしていたものを取り上げに行くのだった。
「ああ、もう…大丈夫なのかな?」
ミドリはため息を付きつつ喧騒を眺める。
ルルーシュはそんな三人を遠巻きに見るように、一番離れた場所で熟考していた。
現状、謎のロボット、アリスは大人しい。
社会常識、というよりも、人間としての常識に欠けている存在である以外、人間にしか見えない。
そして、敵対意志も、どうやら接触許可対象とやらがいれば問題がない、とは言い切れないが、彼女の言動を信じるなら、それなりに意味を成すだろう。
さっきはああ言ったが、現状を鑑みると、下手にヴァルキューレなんかに通報して強制的な拘束や移動を試みて、それらの刺激によって敵対意志が惹起されても事だ。
現時点で敵対意志がなく、こちらの指示にも従ったことや大人しさ、それらが薄氷である可能性もある。
そうであるならば、今は下手な事をするより、このままモモイに任せる方が得策かもしれないな。
ここまでモモイのやることなすことに一切抗していないわけだし。
幸いにもミレニアムはキヴォトスの技術の粋とも言える学園。
大人しく学園にいてくれれば、調査の機会など幾らでも訪れるだろうし。
一先ず、ユウカに…。いや、そうなるとゲーム開発部が不味いか。
くっ…。連れて帰ってきたのは失敗だったか?
あの場で応援を呼ぶべきだったのだろうか。
ええい!済んだことを今更考えても意味がない。
一旦、この均衡に任せ、様子を見るのが現時点での最善…ではあるはずだ。恐らく、だが──。
「仕方がない、な」
そうして彼は、思考の総括を小さく独り言ち、新たに突然振って湧いてきたような面倒事に、静かに息を吐くのだった。
今回も読んで頂きありがとうございます。
あいも変わらずですが、次回更新日は未定です。
次回もまた、どうぞよろしくお願い致します。