コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐   作:ライト鯖

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Archive-004 シッテムの箱

 

不可思議な空間に飛ばされてきたルルーシュ。

そこはまるで、教室のようで、しかし、壁は青空に向けて開かれていた。

 

その教室の机の一つには、突っ伏して居眠る一人の少女がいる。

ルルーシュはその存在を知覚し、そちらへ近寄ると、彼女の状態に気が付いた。

 

「寝てる…」

 

何とも気の抜けた寝顔で気持ちよさそうに水色の髪をした、青を基調とした学生服の少女は寝息を立てている。

 

「むにゅ…カステラにはぁ…いちごミルクより、バナナミルクの方が…」

 

何の夢を見ているんだ…。というか甘すぎないかそれ。

いや、そんなことはどうでも良いんだ。

この場所は何なのか情報が欲しい。

この少女を起こすか?起こしても良いのだろうか。

何か不味いことになりやしないだろうな。

しかし、それ以外にやれることもなさそうだ。

 

「えへ。まだ沢山ありますよお…」

 

近寄ったタイミングで少しだけ顔を横に向けた少女の幼さを感じる顔と、余りの幸せそうな声色に毒気を抜かれたルルーシュは、フッと諦めたように鼻を鳴らしてから、優しげな微笑みを浮かべる。

 

「悪いな。起きてもらわなくちゃ行けないんだ」

 

ゆっくりと肩を揺らし、起きてくれないか?と声をかける。

 

「まだですよお…しっかり噛まないと…」

「全く。呑気なものだ」

 

少しだけ強めに揺らす。

 

「あうん…でもお…」

「まだ起きないか…」

 

根気強くルルーシュはもう一度肩を揺らし、「おい。起きてくれ」と声量を上げて語りかけた。

 

「うぅぅぅん」

 

 

ガタリ、と机を揺らしてから、少女はむくりと顔を上げた。

眠そうな目で辺りをふらふらと見す。

 

「…んもう…ありゃ…?」

 

ルルーシュとパチリと目が合うと、少女は視線を止め、徐々に目を見開き出す。

 

「ありゃ、ありゃりゃ…?」

「え?あれ?あれれ?」

 

少女は椅子から飛び跳ねるようにして立ち上がった。

 

「せ、先生?!」

「この空間に入ってきたということは、まさか…ルルーシュ先生?!」

「ああ。ルルーシュ・ランペルージだ。君は?」

 

俺のことを知っている?。

どういう事だ。いや、"シッテムの箱"も俺を認識していた。

この少女がA.R.O.N.Aであるとするなら当然か?

リンも箱は普通のタブレットではないと言っていたし、これも箱の力なのだろうか。

 

心中の考察をお首にも出さず、外向けの笑顔で少女にそう尋ねた。

 

「う、うわああ?!もうこんな時間?!」

「うわ、うわああ。お、落ち着いて」

 

ふうと息を吐いてから、少女はえっと…とルルーシュに向き直る。

 

「そうだ!まず…自己紹介から」

「私はアロナ」

「この"シッテムの箱"に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれから先生をアシストする秘書です!」

 

常駐?どう見ても人間にしか見えないが、メインOSだと?

人間ではない、プログラムが見せているアバターのような存在、ということか?

そういえばさっき"この空間"と彼女は言ったな。

 

Cの世界のように、キヴォトスがある空間とは別の次元、世界ということか?

そこに常駐し、"シッテムの箱"を管理する人間?

それに、俺の秘書とも言った。

まさかこれだけの超常を持ってしてスケジュール管理だとかタスク管理だとかだけをする存在ということもあるまい。

 

そうであるならば、"シッテムの箱"を通じて此方側に干渉出来る存在でもある、と言ったところだろうか。

 

「やっと会うことが出来ました。私はここで先生を、ずっと、ずーっと待っていました」

「随分と気持ちよさそうに寝ていたが」

「あ、あうう…も、もちろんたまに居眠りしたりしたこともあるけど…」

「フッ。ああ、よろしく頼む」

 

敵対的な存在でないばかりか、秘書、つまり協力的な存在なんだ。

今、変に波風を立てる必要もあるまい。

疑問点はまた後々聞いていくとして、今は彼女に合わせよう。

 

「はい!よろしくお願いします。

まだ身体のバージョンが低い状態でして、特に声帯周りの調整が必要なのです」

 

バージョン。

やはり人間ではないのか?

それに、確かに声は若干イントネーションが不自然な部分がある。

人工音声、或いは此方の言語に合っていないのだろうか。

 

「これから先、頑張って先生の色々なことをサポートしていきますね」

「あ、そうだ!ではまず、形式的にではありますが、生体認証を行います」

 

そう言ったアロナであったが、少し顔を赤らめ、恥ずかしそうにしだした。

 

「ん?どうした」

「…少し恥ずかしいですが手続きだから仕方ないんです。こちらの方に来てください」

 

ルルーシュは一歩前に踏み出し、アロナとの距離を縮める。

 

「さあ、この私の指に、先生の指を当ててください」

 

指紋認証…なのか?。

まあ、問題はないだろう。既に彼女に敵意がないことは分かっているのだし。

 

ルルーシュはアロナに促された通り、彼女の指に、自らの人差し指を当てた。

 

「うふふ。まるで指切りして約束するみたいでしょう?」

「…指切り、か。…そうだな」

 

"ゆびきーりげんまん嘘付いたら針千本のーます"

 

懐かしい記憶が過ぎり、ルルーシュは懐かしむような、そして、ほんの僅か、寂しさを織り交ぜた微笑を浮かべる。

 

「君の期待に応えられなかったら、針を千本飲まされるのかな?」

「え、ええ?!そんなことはしませんよ!」

「ははっ。冗談だ。…これで認証は出来たのか?」

「あ!画面に残った指紋を目視で確認しますね!」

「目視で?凄いな」

「目が良いので!」

 

自信満々に言ったアロナはじーっとルルーシュの残した指紋を見つめていたが、数秒の間に微妙な表情へと移り変わっていく。

 

うーん。よく見えないかも…。

まあ、これで良いですかね。

 

「…はい!確認終わりました!」

 

ルルーシュはアロナの表情の変化に気付いていたが、あえて触れることはせず、そのままにする。

 

まあ、パスワードを打ち込んだ時点で認証出来ていたようだし、問題はないだろ。

しかし…。

 

ルルーシュは少々気の抜けた感じの少女が秘書としての役割をこなせるのだろうか、と考え込むようにしてアロナをじっと見つめる。

 

「あ、アロナはちゃんと役に立ちますから!」

「…そうだな。頼りにしているよ」

「あ!全然信じてない言い方!」

「そんなことはないさ」

「誤魔化さないでください!本当の本当に役に立てるんですからね!」

「はいはい」

 

何とも不思議な少女だ。

能力も技量も未知数の不可思議な存在。

だが、妙にきさくで、どこか安心感すら覚える。

それこそがアロナというシステムの特徴なのだろうか?  

まあ、ともかく、今はリンに頼まれてもいるし、成すべきことをやるとしよう。

 

「冗談はさておき、アロナ」

「はい?」

「早速で悪いが、仕事の話だ。今の状況を説明しても?」

「あ、はい!お願いします」

 

ルルーシュはかいつまんで、リンから聞いたキヴォトスの現状を、自身の"情報(アーカイブ)"を参考にしつつ纏めて、アロナに伝えた。

 

「なるほど…。連邦生徒会長が行方不明になって、そのせいでキヴォトスのタワーを制御する手段が無くなった…」

「ああ。おかげで今キヴォトスは大混乱のようだ。……アロナは連邦生徒会長について何か情報を持っていないのか?」

「…私はキヴォトスの情報の多くを知ってはいますが、連邦生徒会長については殆ど知りません。

彼女が何者なのか、どうしていなくなったのかも」

 

どうにも、俺の雇用主は秘密主義なきらいがあるようだな。

いや、俺が非を鳴らせる事ではないが…。

しかし、連邦生徒会長についての情報は無い、というのは気になるな。

意図的に消しているのか?誰が?何の目的で?

仮に消されているとして、アロナはそれを認識出来ていない…?

 

認識できているならば伝えてくるか?

いや、まだ何か隠しているという線も…。

 

「因みに、連邦生徒会長以外のキヴォトスの情報はどの程度まで分かっているんだ?」

「え?…うーん。一言では難しいですね。

でも、各学園の概要だとか、概史、後は…美味しいお店の場所とかは入っていますよ!」

「…それは、インターネットにアクセスしているだけじゃないのか…?」

「ち、違いますよ!ちゃんとネットには無い情報だって持っています!」

「そうか。…だが、連邦生徒会長については分からないのだな」

「はい…。お役に立てずすみません…」

 

アロナの言葉を信じるにせよしないにせよ、彼女が持っているだろう情報から推測すれば、連邦生徒会長の名前すら出てこないのは不自然だ。

 

まさか──。いや、まさかな。飛躍し過ぎだな。それはバカバカしい妄想に過ぎない。

しかし、後々調べたり考えたりしなきゃいけないことばかりが増えるな。

 

「いや、良いさ。雇用主について知れれば、と思っただけだから」

 

少し落ち込んだ様子になったアロナであったが、直ぐに元気を取り戻し、ルルーシュに報告する。

 

「あ、ですが、サンクトゥムタワーの方は私がなんとか解決できそうです」

「それは朗報だ。お願いするよ。アロナ」

「はい!分かりました!…それでは、サンクトゥムタワーのアクセス権を修復します。

少々お待ちください」

 

数分程、アロナは目をつむり、難しい顔をしながら何やら力を込めて念じるような状態となる。

 

「…サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了。

先生、サンクトゥムタワーの制御権を無事に回収出来ました。

これで今、サンクトゥムタワーは私の統制下にあります」

 

サンクトゥムタワーの管理者は連邦生徒会長で、これまで迂回するルートも発見されていなかった、とリンは言っていた。

しかも、リンら他の連邦生徒会メンバーすらアクセス出来ない権限。

それを数分程度で…。

妄想と切り捨てるには、早いのかもしれんな。

 

「今のキヴォトスは、先生の支配下にあるも同然です」

 

アロナの言葉に、ルルーシュは思考の切り替えを余儀なくされた。

 

支配下に?。そうか、サンクトゥムタワーがキヴォトスの中心。

それをアロナが抑えたということは、なるほど、確かに支配も可能か。

 

「先生が承認してくだされば、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管する事もできます」

「よし。では頼む」

 

でも、とアロナは憂うような表情を浮かべて、言う。

 

「大丈夫ですか?連邦生徒会に権限を渡しても」

「ん?ああ──」

 

確かに、連邦生徒会の現状はこの短時間でも問題のありそうなことはありありも理解出来ていた。

しかし─。と、ルルーシュは微笑む。

 

「俺は独裁者になるつもりはない」

 

確かに、短期的に見れば魅力的にも思える話だ。

キヴォトスの全リソースを一手に握り、俺が直々にキヴォトスを制し、俺がここに来た理由を探り、場合によってはその為の問題を解決する。

 

だが、ルルーシュはとうにその考えを自らの中で否定していた。

 

連邦生徒会、リンは俺を敵と認識する可能性がある。

それに、幾ら法的権限や、"シッテムの箱"を通じて正統に権力を手に入れた、と謳っても、突然キヴォトスにやって来た謎の人間が自分達の生命線を握っている状態をすんなり受け入れられる人間など少数だろう。

 

仮にリン達連邦生徒会は俺の側に立ったとしても、その他全キヴォトスが敵対した場合、ただの人間でしかない俺は、ひとたまりもない。

 

そうであるならば、これを握り続けるのは悪手。

元の統治権者である、連邦生徒会に返還しておくのが今はベストとなる。

 

「ああ。お願いするよ」

「分かりました。これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会へ移行します」

「ありがとう。それじゃあ、また後で」

「はい!お待ちしています」

 

──。

地下室の明かりが灯っているな。これも、アロナのおかげか。

 

ルルーシュは、"シッテムの箱"起動前に見ていた景色へと戻ってきていた。

ただし、先程よりも明るく照らされており、同じ場所とは思えなかった。

 

「─はい、分かりました」

 

扉の向こうからの声。

 

どうやら、問題なく終えられたようだな、とルルーシュは悟っていた。

 

「失礼します。先生。サンクトゥムタワー制御権の確保が確認出来ました。

これからは、連邦生徒会長がいた頃と同じように、行政管理を進める事ができます」

「それは良かった」

 

リンは、ルルーシュに向き直り、姿勢を正した。

 

「お疲れ様でした。先生。キヴォトスの混乱を防いでくれた事に、連邦生徒会を代表して深く感謝致します」

「礼には及ばないさ。ここまで来るのにも助けてもらったしな」

「ありがとうございます。…ここを襲っていたスケバン達や停学中の生徒達は、これから追跡して討伐致しますのでご心配なく」

 

それでは、とリンは僅かに肩から力を抜く。

 

「"シッテムの箱"は渡しましたし、私の役目は終わったようですね…あ、もう一つありました」

「ん?」

「付いてきて下さい。連邦捜査部 シャーレをご紹介いたします」

 

リンに付いて地上階へと戻り、彼女の指し示す先を見る。

そこには、閉ざされた扉とガラス窓の向こうには殺風景な殆ど空っぽの空間が広がっている、という味気のない光景が広がっていた。

そして、その光景とルルーシュのいる場を遮るガラス窓には【空き室。近々始業予定】と記された手書きの紙が貼り付けられている。

 

「ここが、シャーレのメインロビーです。長い間空っぽでしたが、漸く主人を迎えることになりましたね」

「このフロアとさっきの地下がシャーレの占有部分か?」

「いいえ。このビル全体がシャーレの管轄ですよ。

ビルの看板も一つだけでしたでしょう?」

「そういえば。…しかし、そうなるとかなり広いな」

「確かに、お一人だと広すぎるかもしれませんね。でも、生徒達を加入させることも出来ますから。…次は上へ向かいます」

 

続いて案内された場所は、幾つかのデスクと、コンピュータ、その他、ある程度オフィス空間として整備された状態となっていた。

 

「ここがシャーレの部室です。ここが先生の仕事場となります」

「ほう。必要な設備は既に殆ど揃っているんだな。至れり尽くせりだ

…それで、俺はここで何をしていけば良いんだ?まさか、"シッテムの箱"とにらめっこする為だけに呼ばれたわけではないのだろう」

「…シャーレは権限だけはありますが、目標のない組織なので、特に何かをやらなきゃいけない、という強制力は存在しません」

 

ふむ、とルルーシュは考え込むように唸る。

 

「どんな学園の自治区にも出入りすることができ、先生が希望するどんな生徒の自由な加入も可能です」

「どんな生徒でも、か。連邦生徒会でも言っていたな。例えば、ワカモという娘でもそれは適応されるのか?」

「…はい。権限上は。勿論、反対する組織もあるでしょうが」 

 

リンは、「…面白いですよね」と本当に面白がっているわけではない、と一目で理解出来る真面で続ける。

 

「捜査部とは呼んでいますが、その部分に関しては、連邦生徒会長も特に触れていませんでした。

…つまり、何でも先生がやりたいことをやっていい、ということですね」

 

考えれば考えるほど、妙な組織だな、シャーレとは。

権限は巨大過ぎる程だというのに、目的は曖昧。 

…まあ、この部分に関しては連邦生徒会長には構想があったのかもしれんが、何れにせよ、自由度も高い。

 

やはり、劇薬だな。

キヴォトスを害することも簡単だ。

俺なら、破壊する事も出来るかもしれない。

 

しかし、いや、だからこそ、誰かを助ける事も出来るのだろう。

このキヴォトスでは暴力が日常茶飯事となっている。

幾ら簡単に死にはしないと言っても、恐らくこんな世界では、虐げられている者も多いだろう。

それに──。

 

「本人に聞いてみたくとも、相変わらず連邦生徒会長は行方不明のまま。

…私達は、彼女の捜索に全力を尽くしており、キヴォトスのあちこちで起きる問題に対応出来るほどの余力がありません」

「今も、連邦生徒会に寄せられてくるあらゆる苦情、支援要請、環境改善、落第生の特別授業、等々」

 

統治者たる連邦生徒会がこの状況だ。

きっと、この世界にも、手を差し伸べられるべきなのに、差し伸べられていない─。

或いは、差し伸べるべき人間が、逆に足で踏みつけにしているような事が、起きていてもおかしくはない。

もしも、そんな人間が、生徒がいるのなら、俺が成すべきことは──。

 

「時間の有り余っているシャーレならこの面倒な要請の数々を解決できるかもしれませんね」

 

そうだ。"先生"に求められている役割とは、きっと。

 

「その辺りのこと含め諸々を纏めた資料も、そこに準備してありますので、ご活用下さい。

全ては、先生の自由ですので…それでは、ごゆっくり」

「ありがとう。世話になったな」

「いいえ。また、必要な時にはご連絡致します」

 

リンはそう一礼をし、シャーレのオフィスを後にするのだった。

 

世界が、或いは、連邦生徒会長が俺に求める事とは、"先生"に求められていることとは。

 

まずは、生徒の問題を解決していくべきなのだろうな。

だが、この世界についての情報も調べねばならんし、数日は現状の整理と調査に割くとしよう。

 

ルルーシュは用意されたオフィスチェアに腰掛け、窓外に目を向ける。

空には、巨大な"ヘイロー"が浮かんで、或いは映っており、ルルーシュへ強力に、強烈に、彼自身の立ち位置を、現在地を教えているかのようだった。

 





今回でメインストーリーのプロローグ部分は終了です。
次回は幕間、次々回からアビドス対策委員会編へ入るつもりです。
更新日は未定です。
よろしくお願い致します。
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