コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
「いや〜無事戻ってこれたねえ」
ミレニアムへと戻ってきた一行は、その足でモモイのゲームガールズに移されたデータの解析を行うべく、"ヴェリタス"に依頼をしに向かっていた。
「あ、ハレ先輩!」
「モモイか。どうしたの?また何か探し物?」
ヴェリタスの部室は薄暗い空間に所狭しとモニタやPC、サーバーラックが所狭しと並べられた如何にもな空間である。
そこでエナジードリンクの缶を片手にモニタと睨めっこしていた薄灰色の髪と身に纏う白衣によって白っぽい印象を受ける少女は、ハレと名を呼ばれて初めて、部屋にやって来ていた気配を知覚したようだった。
「ううん。前教えてもらった座標で見つけてきたんだ!」
「本当に合ったんだ。それでここに来たってことは、何か問題があったの?」
「さすが話が早いね。実は…」
モモイはゲームガールズを取り出し、ハレに経緯を説明する。
「──何で廃墟にそんなシステムがあったんだろうね…」
「先輩も行ってみる?」
「…遠慮しとく。ロボット兵がいないなら考えたんだけど」
ところで、とハレはルルーシュの方にも目を向けた。
「会うのは初めましてだね。先生」
「ん?ああ。初めまして。しかし、会うのは、というのは?以前に連絡を取った記憶もないが…」
「──あ〜。話だけは聞いてるからさ」
「?…なるほど。まあ、よろしく」
ルルーシュは目を逸らされた事に違和を覚えつつも、無難な挨拶を交わし、本題へと戻る。
「それで。どのくらい時間がかかりそうだ?」
「明日までにはとりあえず目処は立てるよ。
1日でどうにかなるものならそれで済むし。
まあ、皆にも手伝って貰うから何かしら分かると思うよ」
「早いな。噂に違わぬ、というわけだ」
「お世辞はいいよ。じゃ、また明日」
─翌日。
「結論を単刀直入に言うと」
ハレは再び集まったルルーシュとゲーム開発部一行に、前日からの解析の結果を伝える。
「モモイ。貴方のセーブデータを復活させるのは無理」
「──うわあああん!もうダメだあああ!!」
モモイが膝から崩れ落ちる。
「いや、そっちじゃないでしょ?!G.Bibleのパスワード解除はどうしたのさ!」
ミドリは横で地に伏せるモモイを無視し、ハレにツッコミを入れた。
「それなら、マキが作業中ですよ」
昨日はいなかった金髪の、均整の取れた真面の少女、コタマが眼鏡を揺らしてマキ、ツインのお団子ヘアで赤毛を纏めているもう一人の少女を指す。
「マキちゃんが?」
「あ、おはよう!ミド!来てくれたんだね。ありがと」
朗らかな挨拶の横でなおもモモイは激しく打ちひしがれていた。
「うぅ…私のセーブデータが…汗と涙の結晶が…」
「モモはどうしてこんな泣いてんの?」
「気にしないで大丈夫。…それよりG.Bibleはどうだった?」
冷たく捨て置かれるモモイ。
マキも特に気に留めることなく、ミドリの問に頷く。
「うん。ちゃんと分析出来たよ。あれはかの伝説のゲーム開発者が作った神ゲーマニュアル…G.Bibleで間違いないね」
「や、やっぱりそうなんだ!」
「ファイルの作成日や最後に転送された日時、ファイル形式から考えても確実。作業者についても、噂の伝説のゲーム開発者のIPと一致してた。
あのデータはこれまで一回しか転送された形跡がない」
「…ってことは」
「うん。オリジナルのG.Bibleだろうね」
「す、すごい!」
漸く面倒事が一つ終わる、とルルーシュは安堵しかけていたが、マキのでも、と続いた言葉に、安堵は消え去り、思わずため息をつきかける。
「問題があって…ファイルのパスワードについてはまだ解析出来てないの」
「ええっ!じゃあ結局見られないってことじゃん?!ガッカリだよ」
モモイさいつの間にか復活しており、折角の苦労が無駄になりそうな事に憤り始めていた。
「うっ!だってあたしはあくまでクラッカーであってホワイトハッカーじゃないし…
とにかく!そうは言っても方法がないわけじゃない」
「そうなの?」
「あのファイルのパスワードを直接解析するのはほぼ不可能。でも、セキュリティファイルを取り除いて丸ごとコピーするって手段なら、きっと出来るんじゃないかな…」
で、その為に、とマキは続ける。
「Optimas Mirror System…通称"鏡"って呼ばれるツールが必要なの」
「ぜ、全然話についていけない…」
「つまり、G.Bibleの中身を拝むには、その"鏡"とかいうプログラムが必要、というわけか」
「それは何処にあるの?」
マキのみならず、部室にいるヴェリタスメンバーが若干気まずそうに視線を逸らし、言いにくそうにマキが切り出す。
「あたしたちヴェリタスが持って……た」
「過去形ってことは…」
「そう今は持ってない!生徒会に押収されちゃったの!もう!」
つい最近にユウカがやって来て「不法な用途の機器の所持は禁止」と押収したのだと憤るマキ。
それにコタマも同調する。
「"鏡"もそうですし、色々と持っていかれましたね。…私の盗聴器とかも」
盗聴器?
ん?話だけは聞いて…。まるで初対面ではないかのような反応が…。
いや、まさかな…。
コタマの発言と、先日のハレとの会話が結び付き、嫌な予感を覚えつつも、推測に過ぎないその可能性を単なる妄想に過ぎないとルルーシュはひとまず切り捨てることとした。
そもそも利害も面識もなかったんだ。
わざわざそれをするメリットがない。
単に噂を聞いたとかの意味だったのだろう。
「その"鏡"って、そんなに危険なもの?」
「そんなことはないよ。ただ暗号化されたシステムを開くのに最適化されたツールってだけ。
…ただ、世界に一つしかない、部長が直々に製作したハッキングツールで」
微妙な表情でハレがそう説明する。
「部長っていうと、ヒマリ先輩?」
「ヒマリ…?」
初めて聞く名に、アリスが首を傾けるのを見、ミドリは彼女に説明を入れる。
「アリスちゃんはまだ会ったことないよね。ヴェリタスの部長さんなの。ちょっと身体が不自由で車椅子に乗ってるから、見かけたら直ぐに分かると思う」
明星ヒマリ。
ミレニアム史上、三人しか得ていない学位、"全知"を授けられているという天才。
直近の動静が殆ど掴めなかった少女。
少なくともオープンソースにはなっていない。
誰かが消しているのか?
だが、ヴェリタスの部長であり、"全知"となると、何かしら秘密の業務を行なっていても不思議ではないだろう。……しかし、気になる存在だ。
「その先輩が作った装備をどうして取られちゃったのさ!」
「私はただ、先生のスマホのメッセージを確認したかっただけです。その為に"鏡"が必要で…。
不純な意図は全く無かったのですが」
コタマがさらりと述べた経緯に、ルルーシュは先程感じた違和が考え過ぎではなかった事を悟った。
…キヴォトスに突然やって来た"先生"。強大な権限を持つシャーレ。
そこの人間に興味を持つのは自然なことだし、不純な意図がない、というのもあり得ない話ではない。諜報目的ということもあるだろうからな。
しかし──。
「まさかピーピングされかけていたとは…
いや、本当に未遂か?」
「スマホは見れませんでしたが、ミレニアムに来てからの先生の発言は記録していますよ」
「……聞いていてなんだがそういうことは本人の前で堂々とは言わない方が良いぞ」
とにかく、と息を吐き、ルルーシュは一旦その問題を捨て置くこととした。
防犯カメラの映像は逐一チェックしているし、建物への来客も全て管理している。
少なくとも、まだシャーレのビルには侵入された形跡もないから、大した情報は取られていないだろう。しかし、今後は注意すべきだな。
シャーレに帰ったらセキュリティの強化を行うことを強く誓いつつも、一先ず優先度が高くはない事と考え至ったからだ。
「その"鏡"があればG.Bibleを見れる、ということだな」
「うん。そして、私たちも"鏡"を取り返したい」
「早く取り返さないと部長に怒られちゃう!」
「なるほどね…大体分かったよ」
モモイはこの先するべきことを理解したようで、頷いていたが、ミドリも、理解はしたようだったが、信じたくないと言わんばかりに「え、も、もしかして?」戸惑いをその顔に浮かべていた。
ルルーシュも、また妙なことに巻き込まれてしまったことに頭を抱えんばかりに苦々しい様相となっている。
「さすがモモ。話が早いね」
「目的地が一緒なんだし旅は道連れってね」
マキとモモイはそんな二人を気に留めてはいなかった。
「あの、お姉ちゃん…?
まさか、ヴェリタスと組んで生徒会を襲撃するつもりじゃ…?!」
──同時刻。
ミレニアムサイエンススクールの敷地を見下ろす屋上。
人気のないその場所で、ユウカはメイド服姿に身を包む、銀髪の少女と会談していた。
彼女はメイド服の部員。単にメイド服を纏っているとか、そういった部ではない。
見目に反し、恐らくミレニアムで最も恐れられている部活だ。
メイド部、C&C。
ミレニアムサイエンススクールの実力組織。
最強の呼び声高き、"掃除屋"。
「ゲーム開発部とヴェリタスから差押品保管庫を守る。…依頼である以上、私たちはお受けするつもりです。しかし、一つ問題がありまして」
「問題?」
「ええ…実は──」
「メイド部の部長、コールサインダブルオー。
つまり、美甘ネル先輩が、今、ミレニアムにはいません」
相手がメイド部──C&C。ミレニアムサイエンススクールの実力組織であり、数多の問題集団を"清掃"してきた彼女達であると知り、先程までの乗り気さとは打って変わって逃げ腰となっていたモモイを説得するヴェリタス。
そんな中で出された、コタマ曰く「盗ちょ…ではなく"情報網"」によって手に入れた情報は、モモイの逃げの姿勢を一先ず留めるのに十分な効果を発揮していた。
「正面衝突を避けて"鏡"だけ奪って逃げる…うーん」
モモイはそれでも難度が高過ぎる事を考え、悩んでいた。
「やってみよう。お姉ちゃん」
しかし、ミドリは先程までの戸惑った様子からは正反対に、覚悟を決めた目をしていた。
状況を呑み込み、方法が他にないのだと、腹を決めたのだろう。
「でも相手はネル先輩がいないとはいえ、あのメイド部だよ?!」
「分かってるよ。でも、このままゲーム開発部を無くすわけには行かない」
「ボロボロだし、狭いし、時々雨漏りもするけれど…。
もう今は、ただ、私たちがゲームをするためだけの場所じゃない」
ミドリはモモイ、アリス、ユズを順に見る。
「皆で一緒にいるための、大切な場所だから。
だから、少しでも可能性があるなら、私はやってみたい」
「……」
「ううん。もし、メイド部と対峙することになっても、どれだけそれが危険なことだとしても。
守りたいの──」
私たち、全員の為に…!というミドリの想いに、モモイもハッとしたように視線を上げる。
そして──。
「ミドリ…」
「私たちなら出来ます!」
アリスが勇ましく宣する。
「アリスは計45個のRPGをやって、一番強力な力を知りました」
「一番強力な…あ、レベルアップ?それとも装備…」
「盗聴ですか?」
「EMPショック?」
明らかにズレた答えにアリスは困ったように眉を下げつつ「ち、違います…」と否定した。
そして気を取り直し、その力を口にする。
「仲間です。一緒にいる、仲間です!」
「アリス…。……うん。よし!」
モモイは気を入れ直すように力強く頷き、腹を決める。
「やろう!生徒会に潜入して、"鏡"を取り戻す!」
そして──ミドリの言葉によって、僅かにでも考えを動かされた者が、もう一人いた。
「全く。もっと早くにその想いに至る…いや、気付けていれば、話はここまで拗れなかっただろうに」
「うっ…それは、そうなんですけど…」
「…だが、まだ手遅れというわけでもない」
ルルーシュはハレ達、ヴェリタスの方へと目を向ける。
「ミレニアムサイエンススクール全体のマップはあるか?」
「勿論。先生も何か作戦を考えたの?」
「ああ。その口ぶりからすると、ハレもか」
「まあね。でも、実行の為には幾つか準備が必要」
「そりゃあそうだろうな。因みに、必要なものは?」
んー、とハレは少しの黙考を挟む。
「盗聴もそうだし、EMPショックもそう。
…それに…後はやっぱり、仲間、かな」
「ほう。奇遇だな。同意見だ。やはり、頭数は重要になる。
それに、恐らく同じ所を思い浮かべていそうだ」
「やっぱり、先生もそう思うんだ。
…まあ、そこは私たちはそこまで親しいわけじゃないから、先生たちにお願いしないとだけど」
「了解だ。彼女ら無しでは難易度が桁違いだからな」
「うん。少なくとも、私の作戦は彼女ら無しでは成立しない」
ルルーシュがそう言ってミドリらを引き連れて向かったのは、エンジニア部であった。
事情を大まかに聞いたウタハは、断ることもなく、「的確な判断だ」と好意的な返答を出した。
「確かに、その方法で行くなら、私たちじゃないと難しいだろうね。
うん。分かった。協力しよう」
なんともあっさりと承諾してくれたことにミドリが「ほ、本当に良いんですか?」と思わず確認を入れた。
「エンジニア部には実績が沢山ありますし、こんな危ない橋を渡る必要は…」
「そうかもしれない」
でも、とウタハの言いかけた言葉を、ヒビキが受け取る。
「その方が、面白そうだから、かな」
「そうだね。それと──」
ウタハはチラリとアリスに一瞬だけ視線を向けてから、「いや…」と首を振り、「今は良いさ」とミドリらに手を差し出した。
「よろしく」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします!」
さて、まあ、ハレの立てた作戦の条件はクリア。
ざっと検討してみたが、勝算は悪くないように思えた。
それに、"先生"である以上、俺が強く介入して生徒の立てた作戦を蔑ろにするのはまあ、良くはないだろうな。
幾つか修正する程度にしておくべきだろう。
別に命がかかっているわけでもないんだ。
条件はクリア出来たことだし、今回は戦略の方は任せるとしよう。
むしろ、C&Cとの戦闘が想定されるならば、戦術レベルでの指揮官が必須になる。
戦術だけで戦争の結果は決まらない。
しかし既に戦略はある。そうであるならば、俺は戦術レベルに注力するべきだろう。
ルルーシュはキヴォトスの学生が立てる戦略というものに興味を抱いてもいた。
今まで相手取ってきたのは戦略も何もないスケバンか、大人の運営する企業ばかりであり、生徒同士の争いでの彼女らの戦略を実際に見たことは殆どなかった。
特殊な状況ではあるが、参考にはなるだろう、と"先生"としても、ルルーシュ個人としても強く戦略に干渉しないことにしたのだった。
「まあ、リーダーは壊す方に特化した人ですから、"守る"ことに特化するならば、私たちだけの方が良いのかもしれません。
何にせよ、改めて、依頼をお受けします。
約束の時間まで、ゲーム開発部、ヴェリタスを差押品保管庫に人を近付けないこと、お約束致しましょう」
ユウカと会談するメイド部の部員、アカネはユウカ、ひいてはセミナーからの依頼を受諾する。
「ところで、一つ伺いたいのですが、ゲーム開発部とヴェリタスが生徒会を襲撃する。…そのことをあなたたちはどうやって知ったのですか?」
情報戦に関してはミレニアムでヴェリタスを超える集団はない。
それ故に、彼女の疑問も尤もであろう。
「ヴェリタスが教えてくれたのよ」
「…はい?」
「私たちにゲーム開発部とヴェリタスがやってることを教えてくれたのは、ヴェリタスの部長、ヒマリだもの」
今回も読んで頂き誠にありがとうございます。
次回更新日は相変わらず未定ですが、また1週間以内には投稿したいと考えております。
よろしくお願い致します、