コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
「ふふっ。今やこの生徒会専用フロアは私の思うがまま〜。もう少しで差押品保管所に──」
最後のシャッターを解除し、意気揚々と進むモモイ達。
『モモイ、伏せて!』
そこに、ハレからの通信音声がモモイの耳をつんざくようにして飛んでくる。
「え?!」
驚きつつも咄嗟に身を屈めたモモイの頭上を何かが掠め、背後の壁に轟音と共に巨大な穴を生んだ。
「い、今なんか凄まじい威力のものが?!
壁に穴が空いてるんだけど?!弾丸?!」
「対物狙撃用の49mm弾?!良かった。お姉ちゃんの身長があと5センチ高かったらおでこにクリーンヒットだったよ…」
「ヒューッ。確かに、小さくて良かった…じゃないよ!」
チッ。思ったよりも早かったな。
厄介だが…彼女らは間に合うだろうか。
最悪の場合、此方もやり辛くはなるが、あの手を…。
ルルーシュも窓外、弾丸の襲ってきた方角にあるビルの頂点を睨んでいた。
「この辺りはもう狙撃ポイントに入ってるって事だね…」
「!ミドリ、伏せて!また来るよ!」
あたふたと騒がしいモモイだったが、次弾を気取るや否や、ミドリを庇うようにして身を屈める。
隣のビルの屋上──。
C&Cのコールサイン02。角楯カリンは逃げ惑うモモイらをスコープ越しに覗いていた。
「筋は悪くない…。小さくて、すばしこいく当てにくいな」
でも、とカリンは呟きながら狙いを定め直す。
「速度とパターンは把握した。風も少ないし、遮るものもない…。次は、100%命中させる」
引き金に指をかけ、タイミングを計るカリン。
「それはどうかな?」
しかし、その頭上から降ってきた声に、彼女は狙撃を中断せざるを得なくなった。
「誰だ?!」
「私の計算結果は少し違う。君の弾丸があの子達に届く可能性は、ゼロ%だ」
声と共に塔屋から現れたのは、妙な、頭が平板なタツノオトシゴめいた形状をしたロボットであった。
「は?」
その妙ちきりんな存在に一瞬フリーズしたカリンを、ロボットは狙う。
カタパルトから放たれた弾がカリンを襲った。
「な、何だそれは?!」
「紹介しよう」
そして再び塔屋から、今度は人影が姿を現した。
「エンジニア部の新作。全ての天候に対応可能な二足歩行戦闘用の"椅子"。雷の玉座、さ」
自慢げな微笑みを湛えながら、ウタハはカリンの前に立ちはだかる。
「なんで椅子を歩かせ…いや、なんでカタパルトまで付いてる?!」
「この雷ちゃんの魅力を理解してもらえないとは…残念だね」
本当に心底残念そうに息を吐くウタハに困惑しつつもカリンは言う。
「理解は出来ないけどおよそ把握は出来た。
ずっと気になっていたんだ。どうしてゲーム開発部がセミナーのセキュリティを突破して、ここまで来ることが出来たのか」
カリンは臨戦態勢を取り、"雷ちゃん"と向き合った。
「あなたたちが、あの先生に協力していたのか」
「ヒマリの情報も私たちを混乱させる為の罠だった?」
そう独り言ちてから、カリンは何かに気付いたのか、ハッと目を見開いた。
「…ということは!」
そのまま飛び上がることで雷ちゃんの照準から外れる。
雷ちゃんが再び照準を向け直すよりも早くに彼女は弾丸を浴びせた。
しかし、雷ちゃんは完全に破壊されることはなく、衝撃によってバランスを崩し、転ぶのみであった。
「これで貫通しないとは…硬いな。転んで何か足をバタバタさせているけど。
銃を撃つ椅子か…面白い」
だけど、とカリンはウタハに狙いを向ける。
「私を本気で止めるつもりなら、奇襲で来るべきだった。その椅子があるとは言え、遮るものもないこの広い屋上で正面から挑んでくるなんて…それは計算ミスだろう。ウタハ」
「君の言う通りだ。ここには遮るものなんてない。…そう、天井すらもね」
ウタハの言葉に数瞬遅れて、風を切るような音をカリンの耳は捉えた。
「この音は…?!」
回避行動を取るカリンの近傍に、着弾したそれは炸裂し、周囲のコンクリートを抉る。
「曲射砲…?!一体どこから…!」
「ウチのヒビキがミレニアムタワーの反対側から、ね」
「…っ!」
「君がヒビキを狙撃する為には幾つもの壁や天井を貫通させなきゃいけない。君も同じように曲射でもしない限りは、ね。
さて、私を目の前に、そのどちらかが出来るかな?」
「くうっ…!?」
ウタハは変わらず微笑を浮かべながら、「もう一度言ってあげようか?」と勝利を宣言するかのように言うのだった。
「計算通りだ」
ミレニアムタワー、最上フロア──。
モモイ、ミドリ、ルルーシュは狙撃から一旦身を隠すべく物陰に身を潜めていたが、狙撃の止んだことに気付き、様子を伺いつつ身を出していた。
「ウタハ達が上手くやってくれたようだな」
「ですね!急ぎましょう!」
三人が駆け出した時、階下から地響きのような揺れが伝わり、幾つもの壁や天井を隔てているにも関わらず、僅かながら爆発音も最上階へと届く。
「じ、地震?!」
「爆発、みたいだけど…まさか!?」
階下、隔壁に閉じ込められていたアカネであったが、隠し持っていた爆薬を殆ど全て使い切り、無理矢理に隔壁を破壊した。
「ひーっ。死ぬかと思った。一体どこにそんな爆弾を隠し持ってたのさ…」
アカネと対峙していたコトリもマキもその余りの量に止めようがなく、起爆を許してしまったようである。
「…あまり学校の設備を壊したくはないのですが…。
ユウカ!申し訳ないですがシャッターは無理矢理破壊しました。ゲーム開発部の現在の位置は?」
『さっきまでカリンが足止めしてたけど見失ったわ。…けど、どこに向かってるのかは分かる』
アカネもユウカの言葉に頷く。
そう、狙いが分かっている以上、最終目的地は簡単に割り出せてしまう。
ゲーム開発部が向かう先は当然──。
「ええ。差押品保管所の方ですね。では、直ぐにエレベーターで向かいます」
アカネは対峙する二人を警戒しつつ、離脱してエレベーターへ向かおうとジリジリと動き始める。
しかし、異変が起きる。
ユウカと繋がっていた通信が突然遮断されたのだ。
「ユウカ?ユウカ!」
周囲を見渡し、襲撃対策として明かりは元々かなり落としていたものの要所要所を照らしていた電灯も光を発しなくなっていることに気付く。
「!…まさか、電力を遮断した?!
ここまでするとは…!」
ウタハ達が成功させてくれたようだな。
計画通りのタイミングで発生したタイミングにルルーシュ達は策の成功を確信していた。
「二人とも、足元には気を付けるんだぞ」
「先生もお気を付けて」
「ここを抜ければ…!」
そう。もうすぐ生徒会の差押品保管所だ。
あと少しで目的は達成。
しかし、未だ消えていない懸念事項がある。
一之瀬アスナ──。
結局ここまで出くわすことはなかったが…。
「お。やっと来たね」
声。
ルルーシュはまさか、という驚愕と、やはりか、という思考を同時に有していた。
不気味な程に気配を見せていなかった存在。
ここまで来るといないのではないか、という考えが強くなってしまうことは否めなかったが、それでも警戒も抱いていた事が、二つの感情を同時に呼び起こしたのだ。
「遅かったね〜。だいぶ待ってたよ〜?」
ようこそ、と楽しげな笑顔で三人の前に立ちはだかったのは、コールサイン01。
「一之瀬アスナか…」
「そうだよ〜。やっぱ知ってるんだね。
ま、何はともあれ、ようこそ、ゲーム開発部と…えっと…」
あれ?と小首を傾けてから、あっ!と声を上げた
「思い出した!"先生"だ!
ずっと会えるのを楽しみにしてたんだよ〜?」
「それはどうも」
「先生はあんまり会いたくなかった感じだね?」
「今は会いたくはなかったな」
「あはは。確かにそうかもね!」
「あ、アスナ先輩!どうしてここに…!」
そう言われても…とアスナは僅かに眉を下げつつ、「なんとなく?」とミドリの言葉に応える。
「予感とか直感とかそういうのって、あるでしょ?
ここで待ってたら先生にもあなたたちにも会えるんじゃないかな〜って。
そんな予感がしたから!」
「難しい言葉じゃないけど全然何言ってるか分からない…!」
俺達の狙いはある程度の確実性を持って割れているだろう。
ヴェリタスとの共闘の時点で、殆ど狙いは絞られる筈だ。
だからこそ、この場に陣取るのは理に適った事ではある…。
むしろ、全員でここに張り込まれなかっただけラッキーだ。
恐らく、他のC&Cは無用な設備の損傷を受けないで済むよう、出鼻を挫く事を狙った配備をしていたのだろう。
しかし、アスナはここにいる…。
恐らく、直感だけで最適解を引き当てるタイプか。
そんな相手に…。モモイとミドリだけで乗り切れるだろうか。
「さっ。始めようか」
一抹の不安を抱えるルルーシュを他所に、アスナはウキウキとした様子で銃を構えていた。
「えっと…念の為聞いておきますけど…。何をです?」
「戦闘!私、戦うのが大好きなの!
じゃあ…行くよっ!」
「やっぱりいい?!」
「くっ…仕方ない!モモイ!ミドリ!フォーメーション、B!」
モモイとミドリはアスナにビビりながらも俊敏に動き、左右に分かれる。
そして、射線を交差させ、銃撃を開始した。
「クロスファイア!良いね」
「避けられた!?」
まるで予言していたかのような反応速度で二人の射撃を躱し、アスナはモモイの方へと距離を詰める。
「わわっ?!」
「モモイ!下、Aだ!」
「!」
ルルーシュの声に反応し、モモイは咄嗟にスライディングし、アスナの攻撃を避けつつ、向かってくるアスナ本人をも躱した。
「ミドリ!モモイの退避を援護!」
「おっと!あははっ!面白〜い!
今の指示、もしかしてゲームの?」
察しの良いことだ。
この指示方法も長くは保たないだろうな。
「フォーメーションC!あちらに主導権を握らせるな!」
「はい!」
2人は今度は一緒に固まってアスナへと向かう。
「今だ!」
ルルーシュの合図に合わせて、ミドリだけが側方へと飛び、正面突撃からのフェイントをかけるような形で射撃した。
「そう来ると思った!」
しかし、アスナには看破されていたようで、ミドリの攻撃はいなされ、むしろ反撃を食らってしまう。
だが、その隙を付く形で、モモイの方は飛び上がり、アスナの視線から一瞬、姿を消す。
「あはっ」
それでも攻撃は届くことなく、防がれてしまう。
「うっ…!」
だが、さすがに対応速度が追いつかなかったようで、モモイの方は反撃までは受けなかった。
彼女はミドリを支えながらまた直ぐに距離を取る。
「くっ。バカな…!まるで此方の動きを読まれているような…」
直感に優れていそうだとは思ったが、これ程までとはな…。
下手をすれば無意識的な予知の域に達しているのではないか?
いや…この程度ならば言ってしまえば戦闘のプロではない二人の予備動作から察知しているだけなのかもしれん。
「ならば、確かめる必要がある!」
「モモイ、ミドリ!パターンL!」
二人は目を瞑り、滑るようにして身体を伏せると同時、ルルーシュに言われて携帯していた閃光弾を後ろ手で捨てるように投擲した。
真っ暗であった部屋が一瞬、落雷の如き一閃が迸り、白く染まる。
「フォーメーションD!」
モモイとミドリは持ち前のすばしこさで以て、アスナの背後に回り、引き金を引いた。
「わっと!危ない危ない」
背面飛びで二人の攻撃を躱したアスナはそのまま二人と向き合うようにして着地した。
「目を瞑ってたから反応遅れちゃった」
「なっ!…何故閃光弾だと分かったんだ…!」
「何となく?」
モモイとミドリの動きはやはり関係なかったか。
これが、一之瀬アスナの神秘、ということか?
どうする。このままでは此方の手札が…。
「パターンF。二人とも、一先ず攻撃を避けることに注力しろ!」
攻守の逆転。
ルルーシュは事前に侵入する事も出来なかった現状で取り得る数少ない切り札を切るべきかを迷っていた。
ここで使えば、確かに難を逃れる事は出来るだろうが、その後はどうする。
アスナだけではない。先程の爆発から考えて、アカネがここに辿り着くのも、停電込みであっても時間の問題だ。
使うならばせめて敵戦力が集中している時で無ければ、手札が尽きてしまう。
「くっ…!やたらに強い…!直感を抜きにしても、さすがにC&Cのエージェントは違うというわけか」
現況の苦戦に、三人は歯噛みする思いであったが、アスナの方は、「ふーん」とどこか感心したような様子であった。
思ってたより全然悪くない。お世辞にも戦闘力が凄いとは言えないけど…。
チームワーク、って言って良いのかな。
まるで二人で一人みたいな動き。
その点においては間違いなくベテランの…。
彼女の方は、中々決定打を与えられない二人の力を認め、更に楽しげな弾ませた声となる。
「双子のパワーって奴かな?良いじゃん良いじゃん!」
「うっ…!」
「お姉ちゃん!」
くそっ!仕方がない。二人の体力も限界が近そうだ。ここは一旦…。
「戦略的撤退だ!」
「はい!お姉ちゃん…」
「うんっ…!仕方ない!」
撤退しようと踵を返した二人であったが、衝撃音と共に吹き飛ばされてしまう。
「きゃあっ?!」
ルルーシュが目を向けると土煙に塗れた出口付近の床には大穴が生まれており、コンクリートにはヒビ割れが走っていた。
「まさか?!」
「だ、大口径弾?!なんで…!」
「カリンの…!では、ウタハは…!」
隣ビル屋上──。
「…どうして私は横になって」
目を覚ましたウタハは夜空とメイド服のスカートが半々に視界に映していた。
「それにこの大きなお尻は一体誰の…」
「大きくて悪かったな…結構キツイ所に当たったはずだけど、思ったより早いお目覚めだ」
ああ、とウタハは事態を察する。
「まさかヒビキの攻撃の中でも正確に私を狙撃出来るなんてね。
それに君が私の直ぐ側にいるのは…」
カリンは表情を動かすことなく肯定する。
「そう。この状態なら後輩思いの彼女はまさか撃ってこないだろう」
「…はあ。これは計算外だった。あの砲弾の中でどうして私のことを正確に狙えたんだ?」
「視覚でしか敵を捕捉出来ない狙撃手なんてC&Cにはいない。
それより、余り離れないで欲しい。余計な事をしても身体を痛めるだけだ。私も心が痛む」
ルルーシュはハレからウタハがカリンを抑えられなくなった、という連絡を受けていた。
「だろうな」
「先生!マキからも連絡!アカネ先輩がシャッター壊して脱出したって!」
「やはりか…!」
「同時にすごい数のロボットが向かってきてるって…」
「っ…となれば撤退は出来んな。ここの防備がただ堅固になるだけ…」
「あははっ!何がなんだか分からないけど私たちが優勢って感じ?
もしかして、もうそっち計画は失敗寸前かな?」
アスナのからかいに、モモイは「…違う」とまだ諦めていない目で、ポツリと呟き、ミドリも「まだ、失敗じゃない…!」と力を込めた。
そう。イレギュラーはあったが、ここまではある程度計画通りだ。
元々ここで詰まる可能性は高かった。
勿論、全て上手くハマれば、これで成功まで行けただろうが。
敵戦力の注意を惹きつけつつ、戦力を分断。
残存戦力を叩き、鏡を確保。
だが、その後、どうやったとて全員捕まってしまう。
シュミレーション上はその可能性が高かった。
そして、アスナが最初からここに張っていたのはイレギュラー。
鏡の確保どころか、防備の突破も出来ず、包囲されつつある。
「計画通りにいかなかった時の事も、計画しておかないと」
作戦会議時でのミドリによる発言をルルーシュは思い出す。
「確かに、大事な事だな。予備プランはあるに越したことはない」
そう。予備プラン。
しかし、可能ならば、誰一人として捕まらない事が理想だった。
そうでなければ、ゲーム開発部がゲームを完成させることは難しい。
だが、こうなった以上、後は彼女に賭けるしかないだろう。
ミレニアムタワーの一角、反省部屋と名付けられている明かりの失われたその部屋で一人座っていた彼女は、扉の鍵の開く音を聞いた。
「電力遮断イベント後、EMP発動。ハレ先輩のハッキングを使った設定変更。…把握しました」
アリスは立ち上がり、その重量故、一時的に隣室へ安置されていた光の剣を回収し、暗闇の中を進み始めるのだった。
「ここからのアリスのクエストは、まず差押品保管所へ向かうこと…」
ここで敵戦力の注意を惹けば惹くだけ、一度捕らえたアリスへの警戒は薄くなる。
最良のパターンでは、別働隊として鏡を回収後、此方の援護に回って貰う予定だったが…。
この状況だ。鏡の回収後、撤退する形が最善だろうな。
「うーん?ちょっとずつ必死さが無くなってる気がするけど…まさか諦めた訳じゃないよね?」
訝しむアスナに三人はギクリとしつつも、気取られぬように向かい合う。
そんな状況で、背後から声が飛んでくる。
「この状況なら、諦めた方が賢明だと思いますけどね」
ユウカがモモイ、ミドリをアスナと挟み込むような位置取りで立っていた。
「うっ!ユウカ…!」
「久しぶりね。とりあえず、ここまで状況を引っ掻き回したことは褒めてあげる。本当に驚いたわ。
でも、こんなありとあらゆる方法を使って生徒会を襲撃するなんて、やり過ぎよ」
はあ、とため息を吐き、ユウカはモモイを睨む。
「猶予を与えたことと良い、ちょっと甘すぎたかしら?
もう悪戯じゃすまされないわよ。無条件の1週間停学か、拘禁くらいは覚悟することね」
「停学?!拘禁?!」
「そんな…1週間だとミレニアムプライスが終わっちゃう…!」
フッとユウカは勝ち誇ったように笑う。
「アリスちゃんも今は反省部屋に入ってもらってるわ。一人だけで可哀想だったけど、あなたたちが、来ればきっと喜ぶでしょう」
「ううっ…!」
「お姉ちゃん…」
「捕まっても大丈夫だと思ったけど…
このままじゃ例え鏡を奪えたとしても…」
どうにかして…とモモイは銃を握り締める。
「突破しないと…!」
「へえ?突破。私たちを?」
ガチャガチャという幾つもの機械音と共に、息せき切って滑り込んで来る人影が一つ。
アカネも押収品のロボットを率いて到着してしまったのだ。
「…やっと着きました」
「うええっ?!アカネ先輩に戦闘ロボットまで…!」
「ふふっ…。今度こそ本物みたいですね。
改めまして、初めましてモモイちゃん。ミドリちゃん」
息を整えながら、アカネは微笑む。
「マキちゃんとコトリちゃんについてはギリギリ許せる範囲かもしれませんが…ここまで入り込んでしまったあなた達にはもう言い訳の余地はありませんよ」
「それに」とユウカが言葉を引き取り、ルルーシュの方を睨んだ。
「先生も、シャーレに抗議文くらいは送りますので、ご承知置きください」
「ゲーム開発部をよろしくと頼まれたからな」
「限度があるでしょう?!」
尤もだ。
元々ここまで味方をしてやるつもりはなかったんだが…。
しかし、彼女らの熱意。居場所を守りたいという"想い"は本物であると知ってしまったし、あしこで見捨てるの忍びなかった。
まあ、仕方ない。乗りかかった船、と言ったところか。
「ううっ…!ここで、ここで本当に…?嫌だっ…!」
「お姉ちゃん…!」
半ベソをかきながらモモイはルルーシュに向き直る。
「ごめん。ごめんね先生…。先生は色々助けてくれたのに…私達の力不足で…私たちのせいで…!」
はあ…。
全く。だから見捨て辛いんだ。
仕方がない、とルルーシュは最後に残された手札を切ることを決める。
「諦めるにはまだ早い」
「…もう無理だよ…前にはC&C。後ろにはセミナー。ミレニアムの二大勢力…。こんな状況で一体どうしたら…!」
「だからこそ、だ」
ルルーシュは頬に一筋の汗を浮かべながら去勢の笑みを作って見せた。
「敵の戦力は集中している。ここでなら、最大限の効果を発揮するだろう。
…上手くすれば逃げられるかもしれん。
だが、アスナがいる。
上手く行っても、鏡か我々か、二つに一つ」
「それって…」
「何れにせよ、ゲームを完成させられる可能性は限りなく低くなる。
しかし、ゼロよりはマシだ。そうだろう?」
「…うっ。そう、だね…。分かった」
ルルーシュはエンジニア部が納入したセキュリティシステムの遠隔操作用スイッチを取り出した。
たった一つのコマンドを入力する為の特製。
このスイッチでしか反応しない特殊な機能。
煙幕。スモークの噴射。
それが、ルルーシュに遺された手札であった。
敵の視界を奪うことが出来る虎の子。
しかし、相手に気取られぬよう、ルルーシュ達も対煙幕装備を携行していない。
つまり、強行突破、或いは撤退、退避用の目眩ましでありつつ、それ以上の作戦行動を困難にする諸刃であった。
現状で煙幕を放てば、逃げることは可能かもしれない。
しかし、視界が奪われれば鏡の防御に、つまり差押品保管所へと相手は回るだろう。
そうなると、鏡の奪取に動いているだろうアリスが鏡を奪取出来なくなる可能性が高い。
或いは、全力である程度の損害を覚悟で圧倒的火力を用いて逃亡を防ぐだろう。
アスナの能力を考えると、ある程度確実に狙いを付けてくる可能性がある。
もしかすると、アリスは既に鏡を手にしていて、結果として全てを好転させられるかもしれない。
その可能性も僅かにある──。
それ故に、この手はギャンブルであり、最後の手段であったのだ。
そのスイッチに手をかけた時、ルルーシュはピタリ、と指を止めた。
「ターゲットを確認…。魔力充填、100%…」
モータの駆動音が僅かに響く。
「ん?何の音?」
「これって…」
「お姉ちゃん伏せて!」
訝しむユウカ達。
対照的に音の正体を悟ったモモイとミドリは姿勢を低くし、防御体勢を取りながらも、希望をその目に宿す。
ルルーシュも、苦笑混じりに、しかし、その"イレギュラー"に喜色を浮かべていた。
「光よ──!」
再び薄暗い空間に、眩い閃光が、迸る──。
今回も読んで頂きありがとうございます。
また次回も早めに更新できるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します。