コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐   作:ライト鯖

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Archive-048 前夜祭

 

それからの1週間弱、ゲーム開発部はこれまでにない程に働いた。

 

自分達の居場所を守る為に。

そして、自分達の大好きなゲームを皆に届けるために。

 

「ミドリ!ラスボスのグラフィック、出来た?」

「な、なんとか…!お姉ちゃんはどう?」

「シナリオは大丈夫。文字化けも直ったし…」

 

また別の日──。

 

「うわあ?!進行不能バグだ?!」

「ど、どこで…?」

「ここ!村人との会話中に"いいえ"を選択した後、ダメ押しで頼まれてから"はい"を選ぶと…」

「こ、こんな分かりやすいとこにまだこんなバグがあったなんて…」

「ミドリ!こっちも大変です!」

「な、何…?」

「ボスのグラフィックが街の司祭になっています!」

「嘘ぉ?!ファイル入れ違えた?!」

 

その翌日も──。

 

「い、今更設定の矛盾なんて言われてもお…押し通さない?」

「ダメだよ!多少は仕方なくても、今度は腹違いの友人みたいのは許されないでしょ。ミレニアムプライスに出すんだよ?せめて気付いた潰せるツッコミどころは潰しとかないと!」

「うう…分かった…今日中に見直すよ…」

 

翌日も──。

 

「モモイ。ミドリ。ここ、村長と主人公とヒロインのセリフが混ざっています」

「うわあああ?!村長が主人公に惚れてる?!」

「また立ち絵間違えちゃってた?!」

「いや私がネームタグ入れ間違えてた…?とにかく修正!」

 

そして、締切当日──。

 

「お姉ちゃん!まだ?!」

「ま、待って…!急かさないで…!あとこれだけ入力すれば終わりだから…!」

「あと2分だよ?!急かさずにはいられないって!」

「正確には96秒です。そう言っている間に残り92秒…」

「わ、分かった分かった!もう出来たから!」

 

ゲーム開発部の一同は忙しなく動き、後僅かに迫った締切に間に合わせるべく、最後まで苦闘していた。

 

「こっちは簡単なテストだけして…うんっ。

エラーは出てない。モモイ!」

 

ユズがチェックを済ませたデータをモモイは頷き、アップロードを開始する。

 

「ファイルアップロード完了までの予想時間15秒。…アリス、後何秒?!」

「残り19秒です…!」

「お、お願い…!」

 

ほんの数秒、もしもネットワークに問題が出れば全てご破算。

その僅かの時間、彼女達は、尽くした人事を思いつつ、天に祈った。

 

「て、転送完了…」

 

"ミレニアムプライスへの参加受付が完了しました"

 

「間に合ったああああ!!」

 

画面に完了表示が現れたのを確認し、モモイは飛び上がる。

 

「ギリギリ…心臓止まるかと思った…」

「あとは…3日後の発表を待つだけ、だね」

 

ミドリとユズの安堵。

達成感によって、一瞬、部室の空気が弛緩した。

 

モモイはしかし、余勢をかってか提案をする。

 

「提案なんだけどさ、先にweb版の"テイルズ・サガ・クロニクル2"をアップロードしてみるのはどう?」

「ど、どうして?」

「3日間って結構長いじゃん?そんなに待てないよ!それに審査員の評価よりも先に、ユーザーの反応を見たくない?」

「うーん、でもちょっと怖いかも…低評価コメントも心配だし…」

 

モモイの言う所にも頷く所はあるものの、とミドリは及び腰な様子だ。

 

「何言ってるのさ!そもそもミレニアムプライスに出品するため"だけ"に作ったゲームじゃないでしょ!

自信を持って、見てもらおうよ!私たちはベストを尽くしたんだから!」

「それはそうだけど…」

 

尚も及び腰のミドリ。

しかし、意外なことに、ユズがモモイの言に頷いた。

 

「…うん。アップしよう」

「え?」

「作品っていうのは、見てくれる人、遊んでくれる人がいてこそ、完成されるものだと思うから。

私は…私達のゲームを、ちゃんと完成させたい」

「ユズちゃん…」

 

大丈夫、とユズは目で頷いてみせる。

 

「もし前みたいに低評価のオンパレードになったとしても、全力で頑張ったから…みんなが一緒だから、きっと受け止められる」

 

「わたしはもう、大丈夫」

ユズはそう微笑むのだった。

 

「随分変わったな」

 

声に、ゲーム開発部の皆が振り向く。

 

「あ、先生!」

「すまない。急用で遅くなった。

しかし、その様子だと間に合ったみたいだな」

「勿論!後は待つだけなんだけど、折角だからweb版を──」

「ああ。アップロードして反応を見るんだろ。

良いじゃないか。頑張っていたんだ。ユズの言う所とは少し違うが、きっと大丈夫だろう」

 

正直、とルルーシュは言う。

 

「私がスケジュール管理をしないと行けなくなるかと思っていたが、不要だったしな」

「いくら私達でもここまで来てサボったりしないよ!」

「悪い悪い。しかし、だからこそ、よく頑張ったと思う」

 

ささやかだが、とルルーシュは手に下げていた袋を掲げる。

 

「差し入れだ。アップロードしたら皆で食べると良い」

「おおっ!さっすが先生!気が利くねー!

じゃ、早速アップロードっと」

 

モモイは素早い動きでポチッとエンターキーを押し、アップロードを開始させた。

 

「待って?!心の準備が…!」

「残念。転送完了したよ!ま、感想貰えたりするのは早くても数時間後だろうし、早速先生が持ってきてくれた差し入れ食べよう!」

「…はあ。そうだね」

 

脱力と共にミドリは息を吐き、モモイと共に着座するのだった。

 

だが、アリスは無言でコンピュータの前から動こうとしない。

 

「アリス?どうしたの?」

「待機します。…皆さんがダウンロードを始めたようです。気になります」

「これからプレイするのにまた時間かかるだろうし、待っててもそんな直ぐに来ないと思うよ?」

「はい。それでも待ちます」

 

アリスは新しいゲームを始める時のような、ワクワクした期待を浮かべながら、笑う。

 

「わ、わたしも…どっちにしろ、緊張で食べ物も喉を通りそうにないし…」

 

ユズもそれに続いた。

 

「うん…。ダメ。私もドキドキしてきちゃった」

 

ミドリも、二人の後ろから画面を見始める。

 

「私は心配でドキドキが止まらないよ…。

ううっ。自分で言い出したのに緊張でおかしくなりそう…」

 

そう言いながらも、モモイもまた、画面の前に身を寄せる。

 

ルルーシュはそれに、やれやれと息を吐きながら微笑し、差し入れは部室に置かれている小型の冷蔵庫に仕舞うこととした。

 

何処か、懐かしい気分を抱きながら、ルルーシュも彼女らに付き合う事とし、着座した。

 

丁度そこに、通知が一つ、現れる。

 

「あっ。初コメ」

「なんて?!なんて?!」

 

期待に満ちた彼女らに浴びせられたのは、前回の事績が作り上げてしまった、負の遺産だった。

 

"わお。これ前回クソゲーランキング1位になったあれの続編?もうゲーム作りは辞めたと思ってたけど、懲りないな"

 

「あ、アリス…こういうのはあんまり気にせず…」

 

コメントそのものよりも、真面、かつ無言で文章を見つめるアリスの方に、モモイは注意が向いていた。

 

「マキに連絡。該当IPアドレスの方角に対して最大出力のビーム砲を食らわせてきます」

「そ、それはダメ!」

「他所の学園の生徒だったら戦争になってしまう。ダメだぞ」

「例えミレニアム生でもダメだよ?!」

 

ミドリのツッコミが冴え渡る中、ユズが静かにアリスに目を向けて、言う。

 

「…大丈夫。ゲームをやってもいない人の発言だから…気にしないで。ね?」

 

アリスは不満げながらも渋々座り直し、再び反応を持ち始めた。

 

そこに、再び通知がやってくる。

 

"前作は確かに、手放しで賞賛出来る作品ではなかったかもしれませんが、新鮮味があり、少なくともありふれたものではありませんでした。

今回はどんな目新しさを見せてくれるのか、楽しみです"

 

それを皮切りに、比較的まともなコメントが現れるようになる。

 

"鬼が出るか蛇が出るか。…どうせなら中庸なんかじゃなく、どちら側にしろ、振り切った体験をしたいね"

"前作はやったけど、良い思い出としては残ってない。それどころか苦しい記憶が鮮明に出る。

でも、どうしてかな…続編だってのに、ついダウンロードしちゃった"

 

「す、凄い!私達のゲーム、何かめちゃくちゃ期待されてない?!」

 

モモイが驚きの声を上げるが、ミドリは微妙な表情であった。

 

「どちらかと言うと、時限爆弾を楽しそうに解除しようとしてるっていうか…」

「怖いものみたさ…みたいな」

「良くも悪くも注目されているようだな。

だが、凡百のゲームに埋もれてしまうより余程良い初動だ」

 

ルルーシュの言に、モモイも頷く。

 

「だよね!後は…プレイしてどう思われるか…だね」

「こう言っては何だが、前作の結果からして期待値のハードルが下がってはいるだろう。

凡庸なものでないことは、開発中の情報からも分かった。

つまり、後はある程度のクオリティさえあれば、一定以上の評価は得られるだろうさ」

「でも、そこそこじゃ、部活の方は絶望的…」

「そればかりは、祈るしかあるまい」

 

幾つものコメントが届き、ゲーム開発部のある種の注目度は彼女らの想定を遥かに上回っていたようだった。

 

「ダウンロード数がもう2000を突破…!?

さすがにおかしくない?!」

「ふむ…どうも名のあるポータルサイトに君らのゲームリリースの情報が載ったようだな」

「うわぁぁ…!無関心じゃなければ良いな。なんて思ってたけど、こうなってくると急に怖くなってきた!」

 

モモイのパニックっぷりを余所に、アリスはソワソワと画面を見つめ続ける。

 

「ワクワクします」

「期待と不安で胸が爆発しそう!」

 

モモイが叫んだ瞬間、殆ど同時に、本当に爆発音が部室に響く事となった。

 

「うわあ?!何?!」

「ほ、本当に心臓爆発しちゃったんですか?」

「ち、違う。私の心臓じゃない!」

 

埃と煙が立ち込める部室は混乱する。

 

「何の爆発?!ゲーム機?!」

「え、長時間やり過ぎた?」

「違う、この爆発は…砲撃!」

「カリンの46mm砲だ…!」

 

再びの爆発。

どうやらまたも狙撃されたらしく、部室が揺れる。

 

「遠距離攻撃を確認。部室正面に対して、11時の方角!距離約1km!」

 

アリスが弾道を分析し、報告する。

 

何故カリンが…?。

いや、カリンだけではないだろうな。これは。

C&Cが…。となると──。

 

「ぜ、前回の仕返し…!?」

「反撃を開始します…!」

 

アリスが光の剣を構えようとするが、モモイはそれを押し留める。

 

「アリス、一旦出よう!ここだと先生を巻き込んじゃうし、それにここで戦ったら私達の部室が壊れちゃう…!」

 

しかし、外への扉を開けると、そこにはセミナーが待ち構えていた。

 

「ま、まさか鏡の件の報復…?」

「そ、そりゃ申し訳ないとは思ってるけど…!」

「ともかく突破する必要がありそうだな」

 

とうに俺も共犯扱い…というより、まあ実際その通りではあるんだが。

一緒に仲良く狙われた以上、一先ずここを逃れるしかあるまい。

 

「…仕込んでおいて良かったよ」

 

ルルーシュはリモコンを取り出し、スイッチを押す。

 

「わあっ?!」

 

廊下のセミナーの生徒達が驚愕の声を張り上げる。

 

「水?!」

「スプリンクラーだ!」

「こんなもので…!あ、待って冷たい?!」

「きゃあっ?!なんでこんな水温なの?!ほぼ氷じゃん!」

 

セミナーの混乱ぷりもさることながら、ルルーシュの繰り出した一手そのものにも、ゲーム開発部の面々は唖然としていた。

 

「いつの間にそんなもの仕込んでたの…?」

「襲撃の後。仕方がないだろう。

報復はあり得た事だし、まあゲームが完成するまでは一応引き受けた仕事ではあるからな。

時間稼ぎ用のトラップを幾つか仕込んでおいたんだ」

「先生が敵じゃなくてよかったよ…」

「さあ!セミナーが混乱している隙に突破する!」

 

スプリンクラーの水自体はゲーム開発部が部室を出る前に止まりはしたが、セミナー陣は凍えるような水温の影響で動きも鈍く、殆ど追撃出来ず、開発部を逃がしてしまうのだった。

 

「はあ…はあ…な、何とか逃げ切れた…?」

 

部室棟から離れた所まで駆けてきた一行は、背後に追っ手のいないことを確認し、一旦立ち止まって息を整える。

 

「こ、これからどうする?」

 

ユズが普段の運動不足が祟ってか、肩で息をしながら尋ねた。

 

「ミレニアムプライスへの出品は終わってるし…とりあえず結果が出るまで逃げ続けよう!」

 

ミドリの提案はしかし、一つの声によって否定される。

 

「逃げ切れるとでも思ったか?」

 

鋭く数発の銃声が響き、ミドリに直撃を食らわせる。

 

「きゃあっ?!」

「ミドリ!」

 

何処に姿を隠していたのか、突如廊下に現れた一つの影。

 

「なるほどな」

 

メイド服の上のスカジャンという、ともすれば妙な風貌にしか見えなくなるだろうそれが、余りに雰囲気にマッチし、むしろ彼女の強者足ることを無言で伝えている出で立ち。

美甘ネルが、そこにはいた。

 

「どうりで、一々良い判断だと思ったぜ」

 

得心がいったとばかりに瞼で頷きつつ、ネルはルルーシュに顔を向ける。

 

「さっきセミナーの連中を出し抜いたのも、差押品保管所を襲撃した時も、あんたが指揮を執ってたわけか。先生…って呼べば良いか?」

 

ニヤリと笑うネル。

ルルーシュは、その何処かで聞き覚えのある、挑戦的な声色に、一瞬無意識にたじろいでしまっていた。

 

「アカネが調査した"先生"。…噂は大げさじゃなかったみてえだな」

「…因みに、用件は何かな?リベンジか?」

 

出方を警戒しつつ、ルルーシュは余裕を演出してみせる。

 

「はっ!そんな下らない理由で来るわけがねえだろうが」

 

言いつつも、ネルはユズの方にジロリと視線を向けた。

 

「まあ強いて言うなら、まずは…そこのデコ出してるあんた。

あの時はよくもあたしを騙してくれたな…?」

「ひっ…!す、すみません!」

 

ユズは縮み上がるが、ネルが怒り出したりすることはなかった。

 

「やるじゃねえか。褒めてやるぜ」

「…え?」

「怯えたふりをしてプルプル震えながらあたしを騙すなんてな。大した演技力だ」

 

怯えていたのは演技ではなさそうだと一行は今、正にプルプルと震え始めているユズをちらりと見つつ思うのだった。

 

「まあ、それは良いとして。…そっちのバカみたいにデケェ武器持ってるあんた」

 

アリスの方を指したネルだったが、当のアリスは心当たりがないとでも言うように周囲をキョロキョロと見回す。

 

「あんただよ、あんた!」

「…アリスのことですか?」

「そうだ。てめえには用がある。

C&Cに一発食らわせてくれたらしいじゃねえか?」

 

ネルは背後をくいっと顎で指す。

 

「ちょいと面貸せや」

「あ、アリス、このパターン知っています。

私にあんなことをしたのはあなたが初めてよ…!」

 

フフンと得意げな顔でアリスは笑う。

 

「告白イベントですね。チビメイド様はアリスに惚れている、と」

「ふ、ふざけんなこの野郎っ!てか誰がチビメイド様だ!?ぶっ殺されてえのか?!」

 

ネルの激昂に、さすがのアリスも怯んだようで、「ひっ」と一歩後退った。

 

どちらかと言うと、カツアゲっぽいセリフだったな。等と考えていると、ギロリとしたネルの目が、再びルルーシュの方にも向いた。

 

「今、何か失礼なこと考えてただろ」

「ま、まさか」

「怖っ…!」

 

はあ、と一度息を吐いて気を落ち着けたのか、ネルは少しトーンを落とした。

 

「中々イラつかせてくれるじゃねえか。まあ良い。

誤解してるかもしれねえから言っとくが、別にC&Cに一発食らわせた復讐ってわけじゃねえ」

「あちこちに怪しい部分はあったが、こっちとしては正当な依頼の中の出来事だった。

そっちはそっちで、あたしら相手に目的を達成しただけだ」

 

別にそこに恨みはねえが、とネルは二挺一対の短機関銃、ツイン・ドラゴンを手に持つ。

 

「俄然、興味が湧いてな」

「興味?」

「確認って言った方が良いかもしれねえが」

 

さあ、とネルは笑う。

 

「あたしの相手をしてもらおうか。

あたしに勝てたら、このまま大人しく引き下がってやる。

お互いを理解するには、これが一番手っ取り早いだろ?どうだ?」

 

アリスは数秒、思考してから頷く。

 

「一騎打ちのイベント戦闘…みたいなものですね。理解しました」

「イベ…なんつった?」

「あの時は狭かったですし…使命もありましたが。今なら…!」

 

アリスも光の剣を構え、臨戦態勢へ移行した。

 

「魔力充電…100%!」

「ちっ…これは!」

「光よ!」

 

先制攻撃。

レールガンはプラズマを迸らせ、アリスの力もあってか、凄まじい威力を見せた。

壁を貫通させ、当たりの視界を奪う程に瓦礫の生み出す粉塵を充満させる。

 

「わあお!」

「なんという威力…!校舎の壁をこうも簡単に消し飛ばす程の…」

 

いつの間にかネルの後を追って合流していたC&Cの面々も、アリスの光の剣の威力に改めて感嘆を漏らしていた。

 

他のC&C…。なるほど一騎打ちを断る選択肢なんて実質無かったわけだ。

 

ルルーシュは現況に苦笑しつつ、様子を伺う。

 

「…やったか?」

 

アリスのセリフに、モモイとミドリがあっ!と声を揃えた。

 

「そのセリフは無闇に言っちゃダメ!」

「あ、ネル先輩は3年生でした。言い直します。…や、やっつけられましたか?」

「いや敬語の問題じゃなくて…!」

「まだだな」

 

ルルーシュが言うと同時、アリスらも気配を察知する。

しかし、即座に飛んできた銃弾を躱す反応には間に合わず、アリスはその身に攻撃を直撃させられてしまう。

 

「うわぁっ!?」

「確かに、並大抵の威力じゃねえが…。

ただ、それだけだ」

 

ネルはそう言って不敵に笑った。

アリスはぐっと光の剣を構え直し、再びの攻撃を試みる。

 

「魔力充電…」

「待てアリス!それでは間に──」

「遅えよ」

 

飛ぶようにして間合いを詰めたネルは至近から銃撃を浴びせた。

 

「きゃあっ?!」

 

どうにか後退し、体勢を立て直そうとするアリス。

しかし、ネルは手を緩めることなく、再び距離を詰めんとしていた。

 

「うっ!」

 

アリスは光の剣を盾のように構える事で、どうにかネルの至近弾を防ぐが、それはつまり、攻撃の手段を奪われるということでもあった。

 

「てめえの武器は確かに強い。だが、引き金を引いた後、発射まで最低でもコンマ数秒かかる。

その上、その強過ぎる火力のせいで、相手に距離を詰められちゃあ撃てねえ。

爆圧に、てめえまで巻き込まれるからな」

 

そして、とネルは銃撃によって、アリスの動きを止め続け、至近まで迫ると、飛び上がって、背面飛びの要領で光の剣を飛び越した。

 

「この間合いであたしに勝てるやつなんざキヴォトス全体でもそう多くは……いや、いねえ」

 

至近弾を食らう直前、アリスは光の剣を持ち上げると、振り上げた。

 

「っ!」

 

ネルは天井に足を付き、跳躍することでそれを躱す。

 

「その銃身を振り回せんのかよ…!」

「近接戦としては悪くねえ判断だ…けどな」

 

ネルは言いつつ、今度は低い姿勢のまま、突進をした。

 

「相変わらずこの距離じゃ、あたしの方が圧倒的に有利」

「っ!これなら!」

 

砲身をハンマーのように振り下ろすが、素早い動きによって躱されてしまう。

 

「こんなもんか?」

 

お返しとばかりにネルは銃身を振り下ろし、アリスを狙う。

 

「うっ!」

 

光の剣の巨体が間に合い、既の所で弾き返すが、ネルは体勢を崩される事なく、衰える事のない勢いで、アリスの懐を狙う。

 

「くっ!ですが今なら…」

 

正面から向かってくるネルに照準を合わせようと光の剣を構えるアリスだったが、その一瞬の隙に彼女の姿を見失ってしまった。

 

「あ、あれ…?姿が…」

「後ろだ!」

 

ルルーシュの声が届くのと同時、アリスは背に、恐怖そのものを感じたような寒気を感知していた。

 

ネルは、アリスが光の剣を構えることを悟り、その瞬間、壁と天井を利用した三角飛びで、まるで瞬間移動かの如く俊敏に、背後を取ったのだ。

 

「くうっ!」

「撃たせねえよ…っと!」

 

ブオンと空を斬る音と共に光の剣を無闇に振り回し、どうにかネルを一旦は追い払うアリス。

 

しかし、攻撃を当てることは出来ず、ジリ貧の様相となっていた。

 

アリスはどうにかネルの攻撃を防御しつつ、打開策を思考する。

 

何か参考に出来るデータは…。

戦術データ…。いえ…。

先生の指揮…!

先生なら…こういう時は…。

 

「このままじゃあ、あんたはあたしに照準も合わせられねえ!」

「照準は必要ありません」

 

アリスは砲身を床に向け、盾としたまま、引き金に指を置く。

 

「おい、まさかてめえ…!」

 

あたしじゃなく床に?!正気か?

 

「そのまま撃ったらてめえも!」

「光よ!!」

 

轟音が響き、廊下を揺らす。

再び粉塵が大量に飛び散る中で、床が崩れ落ちている様子だけはどうにか皆が確認出来ていた。

 

「床がほぼ崩れて…あ、アリス!」

 

下層に落ちないよう寸前で飛び退いていたようで、穴の淵ギリギリに転がっていた。

しかし、さすがに無事とは行かないようで、アリスの苦しそうな声がかすかに届く。

 

「肉体損傷度48%…後退を望みます…」

「私が担ぐ。ここは撤退するぞ」

「お願いします!」

 

ゲーム開発部は隙をついて逃げ出し、戦場を離脱するのだった。

 

「リーダー!」

「だ、大丈夫でしょうか…まさか瓦礫に巻き込まれて…?」

 

アカネは、下層階にまで突き抜けた穴の先に散らばる瓦礫の山を見やりながら心配そうに言う。

 

「さっきチラッとだけど一瞬アリスちゃんも見えたよ。だいぶダメージ受けてたし、今頃きっとうちのちっちゃいリーダーもぺちゃんこに…」

「…誰がちっちゃいって?!」

 

三人の後ろからネルは憤然と叫び、姿を現した。

 

「わ〜お。さすがうちのリーダー。全然ピンピンしてるじゃん!」

「てめえは一体どっちの味方なんだよ…!

ふっ飛ばされて逆に落ちずには済んだんだ」

 

アスナにツッコミつつ、ネルは全く、と一息付いていた。

 

「今のアリスは戦闘力を失った状態だけど、追いかける?今は保健室に向かってるはず」

 

ネルは暫しほ黙考の後、いや、と首を振った。

 

「いい。追撃はなし。もう戻る。

一通り暴れたら、スッキリしたしな」

 

まあ、とネルは本当に満足気に伸びをしていた。

 

「目的は概ね達成した。リオが興味を持つ理由も分かったし」

「それに…」

 

先生にゲーム開発部。楽しみにしてろよ。

あたしをチビ扱いした償い。絶対にさせてやったからな。

 

心中でネルは今度こそ一種の"リベンジ"を狙うのだった。

 

ゲーム開発部はこうして、突如として発生した、正にゲームのイベント戦闘のようなピンチを乗り切り、ミレニアムプライスの結果を待つ事となる。

 

そして、3日後。

 

ミレニアムプライス当日。

運命の日が、幕を開けた──。

 






今回も読んで頂きありがとうございます!
また次回も読んで頂けますと嬉しいです。
よろしくお願い致します。
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