コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
「建物を壊した件について、セミナーの所に行ってきたんだけど…」
ユズの報告に、ゲーム開発部の一同は空気を張り詰めさせ、その先の言葉に耳を傾ける。
「部活動中の"事故"として処理してもらえたよ…」
「嘘っ!凄い!ユズそれどうやったの?!部が存続したとしても弁償として部費は諦めなきゃと思ってたのに!」
モモイがぴょんぴょんと飛び跳ねながらユズを労うが、ユズは「私じゃないよ」と自らの功績ではないと明かした。
「C&Cの方が処理してくれたみたい」
それで…とユズはアリスの方にも目を向け、微妙な表情を作る。
「ネル先輩から伝言…。また会おうって…」
「ひいっ?!」
アリスはビクリと身体を震わせ、普段ユズが隠れているロッカーへと逃げ込んだ。
「アリスちゃん!ロッカーに隠れちゃダメ!ユズちゃん見て変なこと覚えちゃったよ!」
ま、まあでも、とミドリは苦笑する。
「そっちは問題なさそうで良かったよ…あとは…」
その先は、皆、言わずとも分かっていた。
ミレニアムプライス。
ここで何かしらの賞を得られねば、最早、ゲーム開発部に未来はない。
しかし、もう彼女らに出来ることは何もない。
ただ、結果を祈るばかりである。
「…どうやら始まったな」
丁度部室へ戻って来たルルーシュが携帯の画面を眺めつつ、部室のテレビのスイッチを入れる。
「…もし受賞したらクラッカーならそっか。
でも、もし、そうじゃなかったら…
直ぐに荷造りしないとね…」
神妙なモモイの言葉をミドリが引き継ぐ。
「私たちはさておき、ユズちゃんとアリスちゃんは…」
モモイらは、ぐっとこみ上げるものを堪える為か、目を床に向け、各々が、思いを巡らせる。
『これより、ミレニアムプライスを始めます!
司会、及び進行は私、コトリが担当致します!』
エンジニア部のコトリはカメラの前で司会としての任を果たしていた。
『今回はこれまでのミレニアムプライスで最多の応募数となりました。
恐らく、セミナーの方針変更により、部活動維持のために"成果"が必要になった影響かと思われます!』
「コトリちゃんたちの方も、無事だったみたいだね…」
「エンジニア部は元々、ミレニアムの中でもかなりの功績が認められてる部活な事もあったし…でも、本当に良かった…」
「ああ。C&Cと直接戦闘もした以上、そこを突かれてしまえば、言い訳も出来なかったろうからな。C&Cとセミナーが寛容で良かった」
それにしても、史上最多、か。
皆、ゲーム開発部程に切羽詰まった部活は少ないだろうが、それでも部の維持の為には何かしらの実績となる程度の結果は欲しいところだろう。
TSC2、決して悪いゲームではないし、むしろ、良いゲームの部類に入るはずだ。
だが…恐らくクオリティの高いエントリー品ばかりのミレニアムプライスにおいて、埋もれることのない存在かと言えば…。
何とも言えんな。他のエントリー品を知らないのだから、当然ではあるが…。
ルルーシュも無意識的に、僅かに力が入る。
彼女らの努力が遅すぎなかったことを願うばかりであった。
今回もまた、個性的なエントリー品が出揃っている。
万一の時は…アリスの事はシャーレで預かるしかないだろう。
まあ、元よりそのつもりはあった。
危険性が分からない以上、シャーレで軟禁するべきかと考えたこともある。
しかし、ゲーム開発部での彼女を見る限り、むしろ無理に離す事の方が危険に思えた。
それに──。
『ミサイルが内蔵された護身用の傘!ネクタイ型モバイルバッテリー。光学迷彩下着』
エトセトラと、コトリは何とも個性的な出品リストを抜粋して紹介していく。
『そして!丁度数日前よりキヴォトスのインターネット上でセンセーションを巻き起こしている、スマホでマルチプレイが楽しめるレトロ風ゲーム、"テイルズ・サガ・クロニクル2 "などなど!』
コトリの職権濫用でなければ、代表物として紹介される程度には注目されているわけだ。
まあ仮にコトリが気を利かせてくれたのだとしても、名前が出た、という事実だけで他の出品物の多くを凌駕している、と強弁する余地は生まれた。
ありがたい限りだな。
ルルーシュの思案を余所に、ゲーム開発部の皆は、受賞七作品に選ばれるだろうか、という不安と、一抹の期待を胸に、画面を見据え、生唾を呑み込んでいた。
『それではまずは7位から発表致します!
…7位はエンジニア部、ウタハさんの"光学迷彩下着セット"です!
これは身につけてもその下の素肌が見えてしまうため、着ているのかそうなのか分からないというエキセントリックな作品なのですが…』
……エンジニア部は本当に変わっているな…。
ルルーシュは思わず、自らが依頼したナイトメアフレーム製作の未来に不安を過ぎらせていた。
『露出症の患者さんが合法的に生活を営めるという点で大変高い評価を…とにかく7位!』
モモイらは、ツッコミどころ満載の発明品にツッコミを飛ばす余裕はなく、ふぅーっと深い息を吐く。
「まっ、私たちのゲームは7位に相応しくないよね」
『続いて6位…!』
モモイは強がったが、しかし、6位、5位、4位とTSCの名が呼ばれない事で、どんどんと萎びるようにして背を縮めつつる。
しゃんとして画面に向き合っていた背筋は、いつの間にか丸まり、不安げにただ、運命を待つかのようになってしまった。
「呼ばれないね…」
『さあ!ここからはベスト3です。第3位!』
「も、もう心臓がもたない…!」
「お、お願い。お願い…!」
……。さすがに3位以内となると。
決して彼女らの作品が悪いわけじゃない。
しかし、ミレニアムプライスのコンセプトからして、TSC2は若干ズレているようにも思う。
勿論、受賞可能性は充分にあった。
ゲーム自体、多くの人にプレイされ、好意的な評価も獲得しているのだから。
しかし、トップクラスとなると…。
有用な発明品を押し退けられるものではない。
『僅差で2位を受賞したのは──』
「お願いします…。私たちの名前を…!」
彼女らは成長した。
モモイもミドリも。ユズも。そして、アリス。
残してやりたい気持ちはある。
──彼女らの居場所を。
どうにか公開後の数字と公に紹介されたという事実でもって、猶予期間を稼ぎ、今度こそゲーム専門の賞に応募するしかない、か。
別の賞までの時間を稼ぐくらいならば、どうにか勝ち取れるだろう。
「くっ…2位でもない…!っていうことは…」
『最後に、今回のミレニアムプライスで、最高の栄誉を受賞した作品です!』
モモイ達はまだ、ほんの僅かな希望を抱き続けていた。
ゼロか百か。栄光か、転落か。
二つに一つ。
その可能性に。
『映えある1位は……』
『CMの後で!』
ためにためたコトリのセリフに、モモイらはズッコケる。
テレビの典型的なやり口ではあるが、状況が状況だけに、そんな常識も頭から完全に抜けていたのだろう。
長ったらしい、今の彼女らにとっては永遠にも感じられる2分半を耐え抜き、映像がミレニアムプライス会場へと戻るのを待ち続けた。
そして──。
『待望の1位は……"新素材開発部"!』
瞬間、銃声が部屋に響き、同時にテレビの液晶が数個の穴を空け、ショート。
画面を真っ暗に変えてしまった。
「きゃあっ!お姉ちゃん!本当にディスプレイを撃ってどうすんの!」
「どうせ全部持ってかれちゃうんだし、もう関係ない!」
目に涙を浮かべながらやけっぱちにモモイは言い捨てた。
「うえええん!今度こそ終わりだあああ!」
「うう…結局こうなっちゃうなんて…」
ユズも目尻を潤ませ、俯く。
「落ち着いてお姉ちゃん…でも…」
ミドリに窘められ、少しだけ落ち着きを取り戻したモモイは、しかし、悔しさ、だけではない様々の感情を抑えきれはしなかった。
「わかってるよ!…全部が否定されたわけじゃない!ネットの評価も悪くなかったし、クソゲーランキング1位のあの時から、ちゃんと成長した!
これからも、きっと成長していける」
次こそは──。
モモイは拳を握り締め、堪えるように目を落とす。
「次こそは、もっと良い結果を出して、今より立派な大きい部屋だって貰えるはず…!でも…!」
ミドリも、モモイの言わんとする所はよく分かっていた。
「うん…だってここを追い出されたら、ユズちゃんとアリスちゃんは…」
目の合ったユズは、「心配しないで」と小さく首を振る。
「わたし、寮に帰る」
「えっ?」
「もうわたしを、クソゲー開発者って呼ぶ人はいないと思う。…もし、仮にいたとしても大丈夫」
だって…と不安を抑えるように上着のジッパーを強く握り締めながら泣き笑いを浮かべていた。
「今の私には、この三人と、先生がいるから」
「ありがとうございました。先生」
ユズが、ゲーム開発部の部長としてルルーシュに頭を下げる。
「先生が来てくれたおかげで、私たちは変わることが出来ました…」
「ああ。皆よく成長したと思う」
「…でも、アリスちゃんは…」
勿論、とルルーシュは頷く。
「その時は、任せてくれ。だが、まだ──」
ルルーシュは自らの耳に装着していたイヤホンを指さし、可能性はある、と皆に伝えようとしたが、彼女らは悲壮感に包まれており、ルルーシュの呼びかけには気付けなかったようだった。
「…ごめんね」
ミドリの言葉に、アリスは「いえ…」と寂しげに微笑む。
「先生のことは、信じられますから…」
ですが…とアリスは潤んだ瞳で、部屋を見る。
「もう皆とは…一緒にいられないんですね…」
「いや、だから、お前達」
「…ごめんね!ごめんね!アリスちゃん…!」
ルルーシュの呼びかけはまたも掻き消されてしまう。
彼は頭に手を当て、はぁーとため息をついた。
「私、毎日シャーレに行くから!本当に!絶対毎日行く!何処に行っても、一緒にゲーム作ろ!」
「うううっ…」
モモイは苦しそうに慟哭し、ルルーシュに縋り付く。
「先生!やっぱりアリスを連れてっちゃダメ!
わ、私の部屋に連れてく…!ベッドも一緒に使おう…!」
「いやだから、まだそれは早計──」
ルルーシュが再び口を開いたのと同時、ゲーム開発部の部室、その入口が勢いよく明け放たれ、結果的に彼の言葉はまたも遮られてしまった。
「モモイ!ミドリ!アリスちゃん!ユズ!」
ルルーシュは満面の笑顔で入ってきた彼女。
ユウカの姿に、苦笑する。
どうやら、漸く話が出来そうだ。
しかも…この様子ならば、やはり──。
だが、モモイらはユウカの表情には気付いてか気付かずか、震え上がっていた。
「ひいっ!ユウカ!」
「ちょ、ちょっと待って。そんな直ぐになんて…!」
「悪魔め!生徒会に人の心はないわけ!?」
しかし、ユウカの次の言葉に、彼女らは唖然とするのだった。
「おめでとうっ!」
「……え?」
全く事態の呑み込めていない様子のゲーム開発部に、ユウカは困惑を浮かべる。
「え。何この反応。
結果、見てなかったの?」
「結果…?」
「私たち、7位以内には入れなくて…」
「はあ?」
ユウカは意味がわからないというように首を傾け、テレビのリモコンを探し始まる。
「何言ってるの。今も放送中なんだからちゃんと見てみなさいよ。…あれ?テレビは?」
「お姉ちゃんがディスプレイを吹っ飛ばしちゃって…」
「ええ。本当に何してるのよ。ほら。私もスマホで見てて途中から走ってきたの」
音量を上げて、ユウカは自らのスマホを皆に見せた。
『ミレニアムプライスはこれまで、生徒達の才能と能力で作られた作品に対して、"実用性"を軸に据えた授賞を行ってきました。
これはより良い未来を求め、実現していくという趣旨に基づいています』
審査員が話している映像が画面には映し出されていた。
『しかし、今回、とある作品の中に、新しい角度から"実用性"を感じさせてくれるものがありました。
そのゲームは、実際に懐かしい過去をありありと思い出させ、未来への可能性をも感じさせてくれたのです』
よってこの度、と審査員は隣に居並ぶ、他の審査員らと目を合わせ、続ける。
『私たちは異例の選択をすることとしました』
『今回設けた"特別賞"はこの作品を讃える為にある、と言っても過言ではありません。
これまでの評価軸とは異なる存在であるからと、我々には無視する事など、出来ませんでした。
…それでは、改めまして、その受賞作品を紹介致します。
──特別賞"テイルズ・サガ・クロニクル2"』
「ええっっ?!」
「嘘…?!」
全く予想もしていなかった展開に、モモイらは喜び等よりも、驚愕が先に来ているようだった。
『レトロ風という時代を超えたコンセプト。常識に縛られず次々と想像を越えていく展開。
一見してそれらとマッチしそうにない不思議な世界観、と最初は困惑の連続でした』
『しかし、新しい世界を旅して、絆を結びながら魔王を倒しに行く…。
そういったRPGの根本的な楽しさが、しっかり込められた作品だと思います』
ユズもモモイも、ミドリも、アリスも、審査員の言葉に聞き入っていた。
彼女らの作品が、確かに、心を、そして、未来を動かした確かな証として。
『プレイしながら、かつて初めてゲームに夢中にった思い出を、鮮明に思い出しました。
そういった点を評価し、今回、この作品にミレニアムプライス"特別賞"を授与致します』
異論無し、と言う様に、審査員から始まった拍手の波。
その音が画面越しに、彼女らにも伝わる。
「本当におめでとう!…その、実は私もプレイしてみたの。決して手放しに面白かったとは言えないけれど…良いゲームを遊んだ後の、あの独特な感じを味わえた」
そこに、マキも駆け込んでくる。
友人らの快挙に、居ても立ってもいられなかった、というような興奮ぶりであった。
「モモ!ミド!あたしもTSC2やってみたよ!すっごい面白かった!今ネット上でも大騒ぎだよ!」
「ほ、ほんとに…?」
まだ現実感のないミドリ。
アリスは多少冷静なようで、検索を自らかけていた。
「確認しました。テイルズ・サガ・クロニクル2は先程まで7705回。計1372のコメントが付いていましたが、ミレニアムプライスでの発表から26秒間でダウンロード数が一万を突破しました」
「?!」
「コメントも500件追加。言葉のニュアンスからして、否定的、疑惑のコメントが242。肯定、期待が191。残りは不明、若しくは評価保留のコメントです」
「え、あれ…?そしたら私たち結局ダメってこと…?!」
ミドリが直感的そう思うのも無理はなく、確かに、コメントの数だけを見れば、否定的なものの方が多いのだろう。
しかし──。
「そんなことはないよ」
「ユズちゃん…?」
「見て。今同率で一番多く共感を貰ってる二つのベストコメント」
"実際にプレイするか散々迷いました。…でも今はこう思っています。このゲームに出会えて、良かったです"
"これまでミレニアムに対して偏見を持ってしまっていました。冷静さと合理性しかないというミレニアム生への偏見は、今回のミレニアムプライスと、この"TSC2"で払拭出来たと断言できます"
ミドリともモモイは顔をパッと明るくさせる。
そして、モモイは、ユウカに目を向けた。
「…ってことは、廃部にはならないんだよね…?」
「ええ。そうよ。あ、でもあくまで、"臨時の猶予"だから。正式な受賞ではないし、セミナーとしてはまた来学期まで…ゲーム開発部の部室没収及び廃部を"保留"することにしたの」
ユウカの念を押すような言い方に、静かに見守っていたルルーシュはつい忍び笑いを漏らしてしまっていた。
ユウカはそれに気付き、「何ですか?」と軽く睨むようにして身体を向ける。
「いや。"走って来た"んだな、と」
「!!!…そ、そう言えば先生は、余り驚かれていませんでしたね。先生はご存知だったんですか?」
一瞬、ギクリ、と顔を赤く染め上げたユウカは、明らかに不自然に、逸らした。
「……ああ。イヤホンで聴いてもいたからな」
ルルーシュはフッと必死に誤魔化そうとするユウカの様子をからかうように眺めつつ、話題逸らしに乗ってやる。
「えっ?!何で教えてくれなかったのさ!」
「お前達が聞く耳を持たなかったからだろう」
「いやいや!でもアリスを引き受けるって言ってくれてたじゃん!何でそこで言ってくれなかったのさ!」
聞き捨てならないとばかりにモモイが憤りを顕とする。
「"特別賞"がどういう扱いになるかは分からなかったから、あの段階では万一ということもあった。…し、私はその後で言おうとしていたぞ」
「先に言ってよお!何か恥ずかしくなってきたじゃん!」
「私に言われてもな…」
話を誤魔化せたことに安心しつつも、ルルーシュが巻き込まれる形の混乱を作ってしまったのを収めるように、彼女は再び、祝意を、モモイらに伝える。
「ま、まあ何はともあれ、おめでとう」
それから、ユウカはまたも表情を固くさせた。
何やら言いにくそうに口籠った後、言いにくそうに、言葉を紡ぐ。
「えっと…その…」
「ご、ごめんなさい。ここにあるゲーム機の事、ガラクタって言って…」
ユウカは照れ臭そうにモジモジとしながらも、言葉を続ける。
「あなたたちのおかげで思い出したわ。小さい頃に遊んでた、色んなゲームの事を。
久しぶりにあの頃の…新しい世界を旅する楽しさを感じられた」
「ありがとう」と彼女は礼を言うと、そこからまたも、誤魔化すようにまくし立て始める。
「それじゃあ、部室の延長申請とか部費の受取処理とか必要だから、落ち着いたら生徒会室に来てね!じゃ、また後で!」
そうして、早口で業務連絡を済ませたユウカは、風のように、部室を去っていくのだった。
別に謝る必要もなかったろうに。
本当に、優しいな。君は──。
ルルーシュは彼女の律儀さに苦笑しつつ、その背中を見送るのだった。
「じゃ、じゃあ…!」
「てことは…!」
「やったああああ!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねるモモイら三人。
しかし、アリスはまだ状況を呑み込めきれていないようだった。
「え、えっと…?」と困惑を顕にするアリスの手を、ミドリが握る。
「アリスちゃん!私たち、特別賞を受賞したんだよ!この場所も、私たちの部室のまま!」
「えっと…つ、つまり…アリスはこれからも、皆と一緒にいても良いのですか…?」
「うんっ!」とミドリとモモイが揃って頷き、ユズも「これからもよろしくね…」と照れたような笑顔で、言う。
「私も…私も嬉しいです…!」
「アリスちゃん!」
「アリス!これからも私たち…」
「ずっと一緒だよ…!」
アリスは安堵と嬉しさとが混じった笑顔で、皆に応えるのだった。
「これからも…よろしくお願いします…!」
ルルーシュとマキは盛り上がるゲーム開発部の邪魔をしないようひっそりと部室を出ていた。
「先生はいても良かったんじゃない?」
「長くなりそうなんでな。私の任務はここまでだ。一先ずは、だが」
「?。まあ、ハッピーエンドで良かったよ。
モモもミドが塞ぎ込むとことか見たくなかったし」
「良い友達を持ったな。あの2人も」
「えへへ〜。照れるな〜」
「それじゃあ」とヴェリタスの部室へと戻るマキと別れ、ルルーシュはエンジニア部の部室へと向かう。
ナイトメアフレームの進捗が、少しでもあったのか、と確認する為に。
エンジニア部の扉を潜るそのルルーシュの姿を、ひっそりと観察する目が一つ──。
ピピッとデータを送信するような音をごく僅かに、人間には殆ど聞き取れない程度の音量で漏らす以外は静かなそれは、ルルーシュの後を付けて、エンジニア部の部室へと入る。
予め設置していても、どうせしょっちゅうある爆発や、開発の結果として偶然電波が妨害されたとか、エンジニア部の部室の"カメラ"は殆ど任を果たせず破壊されてしまう。
だからこそ、重要人物がエンジニア部を訪れた時のみ、潜伏させているロボットで潜入、監視をさせているのだ。
さすがのルルーシュも、特製のロボットを使ってでも、その足跡を追われている等とは思っておらず、そのままロボットを、部室へと招き入れてしまうのだった。
「やあウタハ。受賞おめでとう」
「ありがとう。先生。
けれど、1位となれなかったのは残念だ」
「あ、ああ。そうだな…」
それで、とルルーシュは話題を逸らす。
さすがに光学迷彩下着について語る事は、彼には出来ない事だろう。
「ナイトメアの方はどうだ?」
「残念ながら、まだまだだね。こっちは進捗20%ってところかな」
「重畳だ。むしろ、詳細な設計図もないのによくやってくれている。
本当に感謝しているよ」
「感謝はありがたいけれど、やはり悔しいね。
再現は中々出来ない」
ルルーシュは、確かに、専用のロボットに監視されている、とまでは思ってもいなかった。
だが、それでも、万一の情報漏洩の可能性は否定出来ない。
監視や情報漏洩の可能性を、全く考慮していない、などということもなかった。
「"ガウェイン"タイプの研究は、やはり殆ど進まない。"ブレイズ・ルミナス"やそれに類するものはまだまだ先になるだろう」
「そうか…。まあ、気長に待つさ。引き続き頼む」
ああ、それと、と予定調和的に、しかし不自然とならぬよう、ルルーシュは続ける。
「ウタハ。次、"シャーレ"にはいつ"来れる"?」
「…"故障"かい?」
「いいや。今度は前のような"開発"をお願いしたくてね。
是非とも業務を効率化したいところだし」
「分かった。近々向かうよ」
壁に耳あり障子に目あり。
可能な限り直接的な話題を出すのは控えるべきだろうな。
誰も聞いていないかもしれないし、聞いているかもしれない。
しかし、前者であった場合、後者の場合に一人相撲をしていたとなる方が余程マシだ。
ガウェイン・タイプは、まだまだ時間のかかる事は明らかであった。
それ故、此方はエンジニア部の完全に設備の整った場所で作って貰わねば、いつまでも完成しないだろう。
だからルルーシュは"ガウェインタイプ"の方はエンジニア部に置いてもらうこととしていたのだ。
しかし、もう一つの方は──。
ルルーシュはその後ウタハと暫く話し込んでから、挨拶を済ませ、ゆったりと、大量の仕事が待つシャーレへの、帰路へとついた。
データ復旧率98.000%。
機動…。
夜中、闇に包まれたゲーム開発部の部室。
そこに安置されている、モモイのゲームガールズアドバンスであった機体が、誰にも知られることなく、ひっそりと赤く輝いていた。
プログラムをセット…。
…完了。
DiVision。
その文字列を映し出したそれは…彼女は…孤独な部屋で、呟くように、言葉を漏らすのだった。
AL-1S…いえ…アリス…。
私の…私の大事な…。
今回も読んで頂きありがとうございます。
次回更新日は変わらず未定ですが、次回から再び幕間として、色々な短めのエピソードを入れたいなと考えております。
また、是非ともよろしくお願い致します。