コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
「先生。監視…いえ、監査の依頼をしたいのですが」
「どうした藪から棒に」
ある日、ユウカがシャーレの当番として来ていた折、スマホに来た通知を目にしてから数分後、思わず漏れ出たのだろう「はあっ?!」という叫びの後、仕事も手につかない様子で苛立たしげに何やら思案していた彼女は突然そう言い出したのだ。
「メイド部…C&Cは覚えておられますよね?」
「忘れたくともだろ。彼女らがどうかしたのか?」
「彼女達の任務に同行していただきたいんです」
ルルーシュは彼女の意図を測りかね、訝しげに首を傾ける。
「構わないが…何故だ?」
「C&Cは依頼を失敗したことは"殆ど"ありません」
殆どの部分はルルーシュの方に視線を向けながら強調されており、彼は僅かに目を逸らす。
「そ、それは頼もしいことじゃないか」
「ええ…そこだけを…依頼に対する結果だけを見れば…その通りです。…問題はその後!」
余程腹に据えかねているところがあるのか、少し声を荒げるユウカ。
「"静かに処理して"ってお願いしているのに…毎度毎度物を壊すわ、建物を吹っ飛ばすわ…請求書の山を見せてあげたいくらいですよ」
はあ…と深くため息を吐きながらユウカは憂鬱そうに言う。
「先月も本来の予算の六倍はかかってましたし…それでも頼りにしてる…せざるを得ないのですが…」
そこでユウカはハッと我に返ったように顔を上げてから、コホン、と照れ臭そうに咳払いをした。
「と、とにかくですね。私もただ、請求書の山に頭を抱えているわけにはいきません」
「なるほど。それで私に?」
「はい。先生にはブレーキ役といいますか…そうでなくとも、毎度のごとく膨れ上がる被害額が本当に仕方のないものなのか、その確認をしていただきたいんです」
まあ、断る理由もないか。
むしろ…。
「良いだろう。考えてみれば、君には借りがあることだしな」
「…どのことでしょうね」
わざとらしくとぼけられ、ルルーシュは苦笑した。
「忘れてくれていると助かるよ」
「依頼を果たして頂けるなら、私は机にしまっている抗議文を失くしてしまうでしょう」
「…因みになんだが、任務の内容は?」
「──ある人物の捕縛です」
翌日。
──とある港。
ジロリ、とルルーシュは美甘ネルの睨みつける視線を受けながらも、にこやかな笑みを作りながら挨拶をしていた。
「今日はよろしくな」
「あんたが一緒にいるのが一番納得いってねえんだよ」
「一番、ということは他にも?」
「当たり前だろ!あの会計に従うのも…コソコソしろなんて言われてんのも…!」
「まあまあ部長。セミナー側の事情で先生は来ているわけで」
「うん。先生に言っても仕方がない」
宥められても尚、不満は収まらないようで、ネルはむしゃくしゃした様子で苛立たしげに叫ぶ。
「あーーっ!腹立つ!こっちのやり方に一々口出してくるんじゃねえよあいつ!勝手にさせろっての!」
「まあ、仕方ないですね」
「うん。発端は私たちのせいじゃないと言えば嘘になるし…」
アカネとカリンはそう諦めたように現状を受け止めていた。
「ちょっと物とか建物とか壊したくらいでよ〜。思い出したら何か腹立ってきた。
わざと色々ぶっ壊しながら進むか?」
「さすがにそれは…ここはミレニアムの管轄外だし」
「そうですよ。学校間のトラブルになるのは不味いです」
「んなことこっちの知ったことかよ。いざとなれば全部吹っ飛ばしてそれで解決。終わり」
不貞腐れているのか、強硬な姿勢を崩さないネル。
「ふむ…」
「んだよ。先生。何か文句あんのか?
それとも、あの会計の肩を持つつもりか?」
まあ、実際経営もしている身としてはユウカの側ではあるが…と言う内心は隠しつつ、ルルーシュはにこやかに、しかし、少しばかり挑戦的に言葉を向ける。
「君ほどの実力があれば、静かに任務をこなすことも出来るだろ?」
「…はぁ?」
「違うのか?」
「………あぁーっ!くそっ…!分かった分かった!大人しくやればいいんだろ!」
予想外の言葉に、ネルは一瞬戸惑ってから、怒るに怒れない言い方に怒りのエネルギーが奪われ、言葉にならない叫びをあげたのだった。
「まあ、それに、邪魔にはならないようにするさ。むしろ、ある程度役立てると思うよ」
「…はあ?それはさすがに」
ルルーシュは訝しむネルにニヤリと笑ってみせる。
「オデュッセイア海洋高等学校。幾つもの船、つまりは船団を学校としている特殊な学園。
その船の中でも、オデュッセイアの管轄を殆ど受け付けない独自のルールが罷り通っている船、"ゴールデンフリース号"」
港に停泊している船をチラリと見ながら解説するルルーシュに、C&Cの皆は意外そうな目を向けていた。
「お詳しいですね…」
「まあな。因みに…アカネ、侵入経路は?」
「え?あ、はい。
…侵入経路としては一先ず隠密で潜入出来るルートを選定してあります。
その後は、偽造した乗船証で乗り切りつつ、対象を捜索します」
なるほど、と頷いてから、ルルーシュは船へと向かう人混みの方に足を向けた。
「え、先生?」
「準備してくれていたところ悪いが、正面から行こうか」
「いやいや、静かにやれっつったばっかだろあんた!」
「だからこそだ。最も、自然かつスマートなやり方で入ろう」
ルルーシュは乗船客を確認している受付のロボ市民の下へと堂々とした足取りで向かう。
C&Cのメンバーも、こうなった以上、ルルーシュの後を追うしかなくなっていた。
「おや!アラン様。お久しぶりでございます」
「調子はどうかな?」
「やはりアラン様がおられないと盛り上がりに欠けますね。本日は対局に?」
他の乗客らに対するそれとは全く違う腰の低い態度で話始めた受付のロボ市民。
アカネらは想像だにしていなかったその光景を唖然として見ていた。
「悪いが今日は別件でね。人と合う予定があってな」
「そうでございますしたか!残念です。
もしも、お時間ありましたら…!」
「今日は無理だろうが、また直ぐに来るよ」
「ありがとうございます。…ところで」
受付はルルーシュの後ろに控えるC&Cの皆に目を向けた。
「お連れの…?」
「ああ。私のボディーガードだ」
「失礼ながらバニーガール・ガードが我々にはおりますが…」
ああ、とルルーシュはすまなさそうな顔を作り、笑う。
「君らを信頼していないわけじゃないんだ。
ただ、合う予定のある相手も、な。
ここのルールだと。分かるだろう?」
「!…なるほど。そういうことでしたか。大変失礼をば…。ではお連れ様共々、お部屋へご案内致します。直ぐに人をお呼びしますので少々お待ちを頂けますか?」
「勿論だとも」
受付は無線機に直ちに連絡を入れる。
「アラン様がお見えになられた。
そうだ!"ブラック・ナイト"様だ!直ちに人を寄越せ。…はあ?スイートに決まってるだろ。空きはあるだろう!一部屋じゃない。お連れの方がおられる。二部屋だ。…ああ。直ちに、だ。十分以内!早くしろ!」
受付はくるりとルルーシュに向き直り、へりくだった姿勢でにこやかに笑う。
「それと、失礼ながら、アラン様。お連れの皆様の服装なのですが…いえ!無論、アラン様がお望みになるのであれば、構わないのですが…!」
「ふむ…どうする?皆」
ルルーシュに問われても、何のことか、とポカンとした表情のアカネ達。
ルルーシュはそこまでは調べていなかったのかと気付き、説明をする。
ゴールデンフリース号において、生徒は皆、乗客含めバニーガール姿となる事がルールであることを。
「無論、私が拒否すれば例外には出来るが」
「悪目立ちはしますね…」
アカネの冷静な分析に、カリンも頷く。
「だね。皆がその格好をしているのなら…」
面倒そうな表情をしているネルこそいたが、異論は出なかったため、では、とルルーシュも目で頷く。
「悪いが、部屋に用意しておいてくれ。サイズもある程度幅をもたせてな」
「かしこまりました。ご協力に感謝致します」
そうして部屋へと通された一同、パタリと扉が閉じられると、ネルを筆頭に困惑混じりのC&Cにルルーシュは質問攻めに合うこととなった。
「どういうことなんだ?!この部屋も何か凄え豪華だし!」
「な、何故検査もなく私達まで通されたのですか?!」
「それに、ここで結構な権限を持っているみたいだった」
「先生の言ってたルールって、他にどんなのがあるの?」
ある程度落ち着くまで待ってから、ルルーシュはまず、と説明を始める。
「君らはここの詳細までは知らないんだな?」
「はい。何分一刻を争う事態になってしまいましたので…。詳細は現地調査、という形に…」
「なるほど。
私の方は、皆もある程度知っているものと思って別に言っていなかったんだ。すまないな」
それで、とルルーシュは改めて口を開く。
「ここ、ゴールデンフリース号は端的に言うならばカジノだ」
「カジノ?…ということは賭け事でこの船は独自の採算を…」
「だろうな。そして、ここではランクという概念がある。DからSまでの称号だ」
「ギャンブルの結果で上下するってことだ」
「そういうことだ」
この船は、とルルーシュは手を広げて、彼らのいる客室へ皆の視線を誘導する。
「ランクが上がれば、こういう贅沢も可能になる。Sランクは殆ど存在しないが、この船のスタッフを私兵のように扱うことも可能になってくる」
「とんでもねえな…」
「…もしかして先生はここによくおいでに?」
「まあな」
「先生がギャンブルなんて、良いの?」
「禁止はされていないさ。…まあ、余り良くはないだろうから名前を変えている」
ルルーシュが淡々と、余りに当然のことのように言うので、アカネ達はむしろ深くは追及する事が出来なかった。
「ああ、それと、Sランカーは校則も無視出来るんだ。」
「校則もですか?!…あ、だからさっき」
「ああ。だから別にバニー衣装を断ることも出来たが…」
「いえ、そうですね。先生の仰っしゃりたいことは分かります。私達の追う彼女…コードネーム、"白兎"。元セミナーの黒崎コユキはC&Cメンバーの顔もよく知っています」
ルルーシュはああ、と頷き、言う。
「バニー衣装の中に浮いた"メイド服"。目に着けば否応なく警戒されるだろう。
しかも、顔を知られているならば尚更」
「であれば、やはり着替えた方が良さそうですね」
「では、私は私の部屋へ行くとしよう。着替え終わったら来てくれ」
ルルーシュは腰を落ち着けていたソファから立ち上がり、部屋を出た。
そこに、丁度通りかかった雇われの警備らしきロボ傭兵が二人。
丁度良い。
ルルーシュは二人に声をかける。
「失礼」
「?どうされましたか。お客様」
「いえ、ちょっとお願いしたいことがありまして」
「ご案内でしたら、バニーガール・ガードの方をお呼びしましょうか?大変申し訳ないのですが、我々は単なる傭兵で、余り詳しくはないもので」
フッ、とルルーシュは親しげな笑みを浮かべる。
「いえいえ、貴方達だからこそ、なんですよ」
ルルーシュは自らのランクを示す証明書を提示した。
「!…これは」
「大変失礼を!何なりとご命令下さいませ!」
ここは殆どギアスを使う必要もなくて、便利だな。
ルルーシュは少し前の自分に感謝しつつほくそ笑む。
彼のランクはこの船において、ギアス程ではなくとも、絶対的な効力を発揮する権能だ。
「一先ず、この少女を捜索して欲しい。居場所が分かれば連絡を」
「承知しました」
「ああ、それと、バニーガール・ガードも何名か呼んでもらおうか」
「はっ!」
ルルーシュはC&Cの着替えと、バニーガール・ガードの到着までの間、脳内で情報の整理を行うのだった。
黒崎コユキ。
元セミナー。
ユウカによれば、反省部屋に閉じ込めていたところをつい先日脱走され、それが発覚した頃には惨事が起きていたという。
セミナーの名前で債権を刷り続けている。
債権額が膨らんでいき、このまま事態を収拾出来なければ、セミナー破産の危機。
債権発行システムをどうやって私物化してしまえたのか。
そこが彼女の能力の所以ということか。
ユウカ曰く、暗号の解読が異様に早いという特殊技能を有しているそうだ。
だからこそ、債権発行もお手の物、ということなのだろう。
"本当なら矯正局行きでも可笑しくないところなんですけど、能力を買ってセミナーに所属していた時期があり、機密を知ってしまっているので送れないんです"と対処に頭を抱えてもいる様子だった。
「機密を持った逃げ上手の兎…それもとびきりの技能を持った、か。中々に厄介そうだ」
しかし、何のためにオデュッセイアの無法地帯とでも言うべきここで債権を刷っているんだ。
ユウカもそこが読めないと言っていたが、実際、可能性は幾らでも挙げられるが、それ以上のものにはならない。
悪徳企業なんかとの結託ならブラックマーケットでも良い。
むしろ、ここよりも自由に動ける可能性すらある。
──ともかく。
「手駒が必要でね」
「はい?」
丁度呼ばれてやって来たバニーガール・ガードにルルーシュは目を向けた。
「君達、乗客の事で聞きたいことがあるんだが」
「…!"ブラック・ナイト"様?!何でしょう…?」
校則すら無視してしまえるSランクの効果は絶大で、普通なら口を割らないだろう情報も収集出来てしまえる。
「黒崎コユキ、という少女を探しているんだ。
知らないか?」
写真を共に提示し尋ねる。
「申し訳ありませんが…乗客全てを記憶しているわけではありませんので…」
済まなさそうにするバニーガール・ガード達。
ルルーシュとしてもそれは予想していた答えだった。
だからこそ、捜索に人手を利用しようとして、呼んだのだ。
「まあ、だろうな。ならばこの写真の少女を探して──」
「結構失礼で、軽薄な子だ。何か無礼を働かれた記憶とかあったら、その子かもしれない」
背後から、カリンの声が追加情報をもたらす。
どうやら着替え終えたようで、C&Cの皆がバニー衣装に身を包み、部屋から出てきたのだ。
「失礼で…軽薄な…」
数人いるバニーガール・ガードの内、一人は暫く考えた後、「あっ」と声を上げた。
「知っているようだな」
「うっ…。本当は顧客の情報を漏らすわけには行かないのですが…」
「校則も無視出来るSランクの私からの命令ならば?」
「…分かっています。…プレイラウンジにいましたよ。その子。思い出しました。
失礼な感じの…ええ、こんな感じの子でしたね」
「ビンゴ、と言うべきかな?」
ルルーシュはアカネらに目を向ける。
「着替えてる間に調査終わりかけになっちゃいましたね…」
「ま、手っ取り早くて良いんじゃねえの。暴れらんねえんだし、早く終わらせるならそれで良いだろ」
「リーダー…」
若干呆れたように息を吐くアカネ。
ルルーシュもハハッと苦笑しつつ、バニーガール・ガードらに再び向き直った。
「それでは、悪いがプレイラウンジ以外の場所でもしも彼女を見つけたら連絡してくれないか?」
「構いませんが…引き留めたりなどはしなくても?」
「大丈夫だ。下手に勘付かれて此方が向かうより先に逃げられたりしたくはない」
「承知しました。それでは」
お辞儀をし、バニーガール・ガードらは去っていった。
「王様みたいだな」
「ここではそうかもな」
一行はプレイラウンジへと足を向ける。
ルルーシュが場所を把握している為、先頭だ。
「そう言えば、先生は何故、というより、どうしてここでSランクになるまでギャンブルをされていたのですか?」
道中、特段問題もなく進めているため、雑談を交わしていた中で、ルルーシュはそれを尋ねられた。
「ああ。ここに来たばかりの頃、正直シャーレの業務内容に比して…まあ予算が少々少なくてね…」
既にユウカにはある程度知られている以上、ミレニアムのトップ層に隠す事でもないと、ルルーシュは事情をそのまま話す。
「金策の一貫で、手っ取り早く稼げる手段としてここに来たんだよ」
「ギャンブルってそんな確実に稼げるものではないと思うんだけど…」
「スロットやルーレットならそうかもな」
しかし、と丁度ポスターを目にし、指を指す。
「例えばポーカー。これは運だけではない。
戦略ゲームだよ。はったりと、読みが物を言う。
弱いペアであろうと、堂々とコールをすれば相手がビビって降りることもある。
そういう具合に、運だけではないゲームってのは幾らでもあるものさ」
後は…とルルーシュは言いかけた所で一同を振り返りつつ、前を指した。
「丁度付いた。あそこが、プレイラウンジだ」
機械音や人の声が混ざり、がやがやとした雑踏となって廊下にまで響き渡る、騒がしさが彼女らの耳にも届いていた。
扉を潜ると、音は一層大きくなり、悲喜交交の叫びやジャラジャラというコインの音、ルーレットの回る音。
無駄に華美なスロットの効果音。
カオスの音に包まれた、豪奢な空間が広がる。
「広いな」
「ここにいたとして、探すのは骨が折れそうだね〜」
「ええ。…あれ?そう言えばアスナ先輩、今回は一緒に?」
アカネは普段なら既に離れて自由に動き回っているだろうアスナが普通に皆と一緒に来ている事に驚いていた。
「うん!先生がいるから多分大丈夫かな〜って」
「はあ…。まあ、先輩が良いなら良いのですが…」
うん?とルルーシュは二人を振り返る。
「どうした?何か気になることでも?」
「あ、いえ、大丈夫です」
「そうか。…ふむ」
おっ、とルルーシュはラウンジの一角に目を向ける。
「丁度やっているな」
C&Cの目も、ルルーシュの視線の先を追う。
「"ゴールド・チェス・トーナメント"?」
「賭けチェスさ」
「それって違法なんじゃ…」
「D.Uやミレニアムではそうかもな。だが、ここはゴールデンフリース号だ」
「先生、これで稼いだのか?」
「ああ」
「でも確実に勝敗を当てられるとは…」
フッ、とルルーシュは笑い、その一角にあるメインモニターを見るよう促した。
「私は観客じゃあない」
「"アラン・スペンサー"…3大会連続優勝?!」
「すごぉ〜い!先生、チェス強いんだ?」
「多少、鍛えていたからね」
アラン・スペンサー。
突如、ゴールデンフリース号の賭けチェス大会においてきら星の如く現れ、無類の強さを見せつける。
その時点での王者に圧勝し、その怒涛の活躍によって、オッズを跳ね上げ、更に躍進。
3大会連続優勝をし、ゴールデンフリース号にはかなりの大金を稼がせた、というわけだ。
その上でポーカー等の遊戯でも圧倒し、その快進撃に付いた異名が"
チェスにおいては不利であるはずの黒を必ず選ぶ事からそう呼ばれているのだ。
「でも勝ちすぎると賭ける側は先生にばかり賭けてしまうんじゃ?」
「だから、大会以外で適当に負けている。
もしかして…という想いを抱かせれば、必ず大穴狙いで私の相手に大金を賭ける人間は出てくるものさ」
「悪どいね〜」
「"たまたま"調子の悪い時があるだけさ」
まあそれで手にしたのが、とルルーシュはラウンジ全体から見渡せる位置にある巨大モニターへ目を向ける。
そこには、乗客のランク情報がズラリと並んでいた。
「"Sランク"ってわけか」
「そういうことだ。まさか、こんな形で使えるとは思いもよらなかったが」
「しかし、コユキちゃんはこんな所で何をしているんでしょう」
「こんなとこで出来る悪巧みなんてあるのかな」
ふむ…とルルーシュも思案する。
一行は一先ずラウンジ全体を捜索するべく、手分けすることとなった。
ルルーシュはネルと組み、ルルーシュ自身は見向きもしたことのないスロットのあるエリアへと足を踏み入れた。
「……」
暫く見回っていた二人だったが、ネルは突然
足を止め、スロットマシーンの居並ぶ列の向こうをじっと睨む。
「ん?どうした…って、まさか」
「…見つけた」
「やはりか」
「あそこだ。…奥のやつ」
ルルーシュが言われた方に目を向けると確かに、貰っていた写真に映る少女がバニー姿に代わっただけの人物がはしゃいでいた。
「やっはー!!今日はまあまあ悪くない感じ!」
ぴょんぴょんと兎のように飛び跳ねる少女、コユキはC&Cの面々に気付きもしていない。
「…じゃあ、今日はこの辺で…いや、この勢いならもう少し行けるんじゃ…」
暫く考えた様子を見せた後、コユキはカッと目を見開いた。
「よし、行くよ!頑張れコユキ!行けるよコユキ!!自分の力を信じて!伝説の"S"はきっともう目の前に!」
しかし、彼女の想いは届かず、スロットの女神は微笑むことはなかった。
「…え、Bじゃん。要らないんだけど?!
ねー!なんでぇー?!信じらんない!今日幾ら入れたと思ってんの?!そろそろ確定でSが出ても良くない?!」
コユキは不満を顕に怒りの声を挙げる。
「一体いつになったらVIPになれるのさぁ!もう待てないんだけどぉ!」
スロットマシーンをどんどんと叩いたことで、バニーガール・ガードが駆けつけてくる。
「ちょっ、ちょっとやめてください。機械を叩かないで…出禁になりますよ…!」
「うっ…!すみません…」
あの娘か?と目で尋ねるルルーシュに、若干気まずそうにネルは頷く。
「ああ、そうだよ。夢中になってこっちに全然気付いてもないあのガキが、"白兎"。黒崎コユキだ」
「……なるほど」
「ったく、何をしてるのかと思ったら…。
債権の金を、ただ全部ゲームに突っ込んでたってことか?」
はあーと深く息を吐くネル。
「くっだらねえ…そんなことのせいで、わざわざあたしらはここまで…!」
「ま、まあ。悪事に使ってたりするわけじゃなくて良かったじゃないか」
ルルーシュも、予想外のしょぼい債権の濫用具合には反応に困ってしまい、苦笑しか出来ていなかった。
「…はあ。まあ、そうだな。
それならそれであたし好みの展開ではあったけどよ」
ネルは通信機で皆に呼びかける。
「"白兎"を見つけた。位置を送るから集まれ」
『あら、承知しました』
『了解、直ぐ行く』
『はいは〜い!』
コユキが移動したりしないように見張りつつ、皆を待つ。
「リーダー」
「お待たせしました」
そうして全員が揃うと、ルルーシュは一つ作戦があるんだが、と彼女らに提案を話した。
「むう〜!今日は行けると思ったのに〜!結局B止まり!最悪ですよ」
「…やあ」
まだ未練がましくスロットを回していたコユキへ、ルルーシュはにこやかに声をかけた。
「はい?どちら様ですか?」
「黒崎コユキさん、だよね?」
「え。何で知ってるんです?貴方誰です?」
「私はシャーレの先生。聞いたことないかい?」
「せんせい…?先、生…。先生?!おおっ!貴方があの?私先生なんて初めて見ました!」
「そうか。はじめまして」
「はじめまして!それで、先生が何の御用ですか?」
ああ、君を探していたんだ、とルルーシュは一枚の紙を見せた。
「ミレニアムの債権を無断で発行しているそうだね?」
「うげっ…!何でそんなこと知って───」
コユキは何かを悟ったように一瞬、顔を青ざめさせた。
「まさか、セミナーの…!?てことは…!」
キョロキョロと辺りを見渡すコユキ。
既に周囲を取り囲んでいるC&Cの面々を目にし、ギョッとしたように椅子から飛び上がった。
「うわあああああ?!こんにちはあああ?!」
目を白黒させながらも、コユキは声を張り上げる。
「警備員さあああん!ここに侵入者!侵入者がいるよぉぉ!」
即座にバニーガール・ガードが数名飛んできたものの、コユキよりも先にルルーシュが自らのランクを見せつけつつ、口を開く。
「そこの小兎さんを捕らえてくれ」
「あ、え…?ああ!アラン様…!た、直ちに!」
C&Cに矛先が向かうことなく、自らに向かってくる警備に、コユキは混乱を隠せなかった。
「な、何で何で何でぇぇ?!」
「よろしくな。コユキ。私は、ここではアラン・スペンサーという名前なんだ」
「嘘おぉぉぉ?!本物のSランクぅぅ?!」
とんでもない速度で正に脱兎のごとく逃げ出すコユキ。
さすがに何度も逃げ出した実績のある彼女は、C&Cの包囲に阻まれるよりも早く、ラウンジから逃れるのだった。
「何で何で何でぇぇ?!ズルいじゃん?!Sランクの大人引っ張ってくるなんてー!!」
「引っ張ってきてねえ!勝手に付いてきたんだ!」
「あたしがどんだけお金使ったと思ってるの?!いや、覚えてないけど!でもだいぶ突っ込んだよ?!なのにSランクにはなれてないのにぃ!」
逃げ惑いながらコユキが理不尽かつ身勝手な怒りを叫ぶ。
「たんまり使いやがってたな!てめえどんだけの額刷ったと思ってんだ?!あたしも完全には覚えてねえけどとんでもねえ額だったぞ?!」
「知りませんよ!ちょっとお金が無くなったから債権刷っただけじゃないですか!」
「ちょっとって額じゃねえだろ!てめえ本当に自分が使った額分かってねえのかよ!」
「そうなんですか?ならそれだけぶっ込んだのになんであたしはSになれてないんですか!」
「知らねえよ!」
「運任せのスロットなんかやってるからだろう」
「なっ…!スロットが一番手っ取り早いじゃないですか!」
廊下を跳ねるように逃げ、C&Cやバニーガール・ガードらの攻撃を躱しつつ、時には被弾しながらも全速力で逃げるコユキ。
ルルーシュらと言い合いながらも息を切らさず逃げ惑うその姿は、前科の数を否が応でも想起させる。
「それでミレニアムの金使い切ったらどうするつもりだったんだよ?!」
「他の学校から持ってくれば良いじゃないですか?何でこんなに怒られてるんですか?私?!」
「てめえはそもそも人の金を勝手に使うって事がおかしいとは思わねーのか?」
「いえ別に?お金は巡るものですし、寝かせておく方がどうかと思いますよ?!」
逃げながらもとんでもない論理、というより倫理を披露するコユキ。
ネルは追いつつも呆れながらルルーシュを見やった。
「先生。そろそろ分かってきたと思うが、こういうヤツだ。全然話が通じねえ!」
「それはこっちのセリフですよ!困ったら直ぐこうやって暴力に走る先輩は困っちゃいます!」
「言ってくれるじゃねえか?あん?」
「ひっ!ぼ、暴力反対…!」
「嫌なら逃げてみろ!」
既にルルーシュのランクによって合法的に暴れられる状況にあるネルは楽しげにコユキを追い回していた。
まあ、後で被害額の弁償はせねばならんだろうが…。
大したことはないだろう。
ネルの暴れっぷりが予想以上で、あちこちの壁や床、はたまた天井や備品が幾つも追跡劇と共に破壊されていく様に、ユウカの苦労をしのびつつ、ルルーシュも彼女らの後を追った。
コユキはネルの猛追の中、満身創痍になりながらも、船のデッキにまで逃げてきた。
しかし、直ぐにC&Cに追いつかれてしまう。
「ははっ!ようやく追いついたぜ小兎め。
まあ頑張った方じゃねえか。ちったあ身体を動かせたからな」
「もう逃げ場はない。諦めて」
「まだ抵抗しても良いんだぜ?」
挑戦的なネルの声に、コユキはうっ、とビビりつつも、直ぐにふふふっと怪しく笑ってみせる。
「何か勘違いしているみたいですね!追い詰められたわけではありません!先輩達の負けです!」
にははははー!と特徴的な笑い声で、ネルたちを嘲るように嗤い、「ざーんねーんでしたー!」と楽しげに彼女は言う。
「何だあ?疲れておかしくなったのか?」
「おかしくなったわけじゃないです!
私が無策でこんなとこまで来たと思えます?」
コユキは訝しむC&Cを挑発するような微笑みを浮かべながら、デッキに安置されていたプロペラの付いたドローンを素早く手に取り、背中に装着していた。
「じゃーん!個人用の脱出ドローンです!」
全員が呆気に取られいてる間─それは、想定外の出来事に、というよりもコユキは本気で言っているのか?という困惑によってではあったが─。
に、起動準備も完了させていた。
「にははははは!バーカバーカ!先輩達のバーカ!
この大海原に出ちゃえば、幾ら先輩達とはいえ、追いかけられる筈もありません!」
それでは!と彼女に合わせてドローンがふわりと飛翔する。
「改めて今回はこれにて!」
船のヘリを超え、大海原へと飛び出したコユキ。
ルルーシュが言うよりも早く、ネルはカリンへと目で指示を出していた。
「…カリン」
「……了解」
カリンの狙撃によって、コユキを抱えるドローンはプロペラと本体の付け根を撃ち抜かれ、飛翔能力を突如として破壊され、そのまま重力に任せて、コユキと共に海へと落ちた。
「ぶべっ?!ごぼっ…!がっ!はっ!やば…!やばいですって!助けて!先輩達!私…泳げな…ごぼっ!先輩っ?!先輩っ?!」
必死にアカネやネル達を呼ぶコユキ。
その声に、一同は完全に呆れていた。
「そろそろ助けてあげよう」
「ええ…どうしてこの展開が予想できなかったのでしょう」
「はあ…あんな奴のためにここまで走らされたのかと思うと…すっげえ気が抜けた…」
ネルの大きなため息。
その後海へと飛び込み、"白兎"こと黒崎コユキを捕らえるのだった。
後日──。
「スーッ。はーっ。ふぅーっ」
アカネから顛末の報告を受けたユウカは、怒りを抑え込んでいるような、震えた声色となっていた。
「え、ええ。ですがご心配なく。"学校間のトラブル"にはなりませんでしたし…先生のおかげでスムーズに事も運びました。
発生した費用も、先生がSランクであったので、最小限で済みましたし…」
「ああ。ユウカが問題視していた費用も問題ないし、学校間のトラブルにもならなかった。
何なら、向こうの決まりの中では全く合法的なやり方で行けた。
これならば良いんじゃないか?」
ユウカは何度か深呼吸してから「先生」と全く笑っていない笑顔で言う。
「確かに仮に先生がいなかったとしたら、船の協力を得られなかった可能性もありますものね。
……先生が帯同してこの結果なら…これ以上何か言うつもりはありません…が…
本当は結果というより、過程をみたかったんですが…いえ…ふう」
ユウカは小さく息を吐く。
「因みにですが、白兎、コユキは収監しました。
暫くは大人しくしておいてもらいます。脱獄の心配もありません。
電子ロックは排除して、紙とペンで管理し、あらゆる電子機器を排除しているので、あの子もおいそれと逃げ出すことは出来ないでしょう」
「厳重だな」
「それは勿論。何度も逃げられてますから。これでも優しい方です」
はあ、とまたもため息を吐き、独り言ちるようにユウカは呟く。
「どうして私はこう、先生と前でこういうことばっかり…。
弁明があるわけではありませんが、またどこかでお時間下さいね」
「私の方こそすまない。また何処かで詫びをさせてくれ」
結果よりも過程を見たかったというユウカのボヤキをルルーシュは聞き逃していなかった。
またやってしまったわけか。
結果的に費用がかからず、問題にもならないから良い、と思っていたのだが…。
「それに、何も気にすることはない。
ユウカはユウカの仕事をしているだけだ。そうだろう?」
「!…そうですね。ありがとうございます」
「こちらこそ。それじゃあ」
通信を切り、ルルーシュは息を吐く。
やはり、気を付けないと行けないか。
人はそう簡単には変わらない。
それを自らの行いで実感してしまうとはな。
ついつい、いつの間にやら結果的に良ければ、と考えてしまっていたのだろう。
結果だけではダメだと、学んだというのに。
俺は、もう、同じ悲劇を起こすわけには行かないのだから──。
今回も読んで頂きありがとうございます。
また次回も読んで頂けますと嬉しいです。
次回もまだ幕間を続ける予定です。
次回もよろしくお願い致します。