コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
「売上が30%低下?」
ルルーシュはゲーム開発部との騒動やC&Cとの任務を終え、二週間ぶりに乗っ取った後、代役と配下に置いた幹部陣に経営の多くを委ねていた、エンジェルマートグループへと出社していた。
そこでまず耳にしたのは、不可解な報告であった。
「申し訳ありません…!しかし、決して我々の不手際というわけでは…」
「言い訳は良い。まずは説明をしてくれ」
「は、はい!直ちに!」
ふむ?とルルーシュは手渡された資料を見るや、訝しんだ。
「ウチの直ぐ近く…だけではないな。カイザーコンビニエンスだったりの近くにも急速に出店してきている店があるな」
「はい。その店…"チープマート"が厄介で…」
「ふざけたネーミングだ」
「全くです。しかし、侮れません」
「分かった。詳しく頼む」
ルルーシュは促され、資料を捲った。
「…ふむ」
「お分かりになられましたか。連中、名前の通り、信じられない程にあらゆる商品を安く売っているのです」
「…これでは原価を割っているのではないか?
この数週間の間で同時多発的に出店を行い、ダンピングをしている、という所か」
暫くすれば、とルルーシュは肩をすくめる。
「向こうが限界を迎えるだろう。カイザーコンビニエンスはともかく、我々には、私が立てた計画があるし、貯えもある。
こんなバカみたいな、拳銃がこっちのアイスやらの値段と同じ設定を続けて、此方より長く保つはずがない」
「いえ、それが…」
幹部陣の困ったような反応に、ルルーシュはまさか、と顔を上げる。
「どうもこれで利益を上げているようなのです。
L.L様が用意下さっていた諜報要員からの報告によれば、各店舗、着実に黒字となっているようで…」
「バカな…。こんな値段で利益を上げるなど…運送費や管理費をケチったところではどうにもならんだろう…」
「ええ。我々もそう思うのですが…何にせよ、利益を上げているという事実がある以上、このままでは危険かと…」
「確かに。放っておけば、音を上げるのは我々になりかねない、か」
分かった。とルルーシュは頷き、立ち上がる。
「これは私の方でより詳細に調べておく」
諜報要員とは言っても、本職のスパイではない。
ギアスで支配下においた小悪党共。
つまりは、敵に寝返ることがないから適当に下働きやバイトとして潜入させられる程度の存在。
それで得られる情報には限りがある。
ならば──。
─翌日。
「こんにちは。突然すみません。道をお尋ねしても?」
ルルーシュは"チープマート"の諜報要員が潜入していたとある店舗の店長が店を出るタイミングを狙って声をかけた。
「まあ、良いけど…」
「ありがとうございます。実は小兎タウンに行きたいんですけど…」
「…?もしかして、D.Uは初めてか?
ここからじゃ、地下鉄乗っていかないと遠いぞ」
「ええ?そうなんですか?!それは知りませんでした」
「地下鉄の駅はあっちにあるから、そこで駅員にでも聞くと良いと思う」
「ありがとうございます。それでは…あともう一つお願いしたいことが」
「は?───…」
ルルーシュは、声が聞き取られる範囲から人のいなくなったことを見ると、店長の目へ自らの目を合わせた。
「私の質問に、答えて貰えますか?」
「………ああ。何だ?」
「貴方はそこの店舗の店長で間違いないか?」
「ああ。そうだ」
「自分の店が、バカみたいに安く商品を売っていることは理解しているか?」
「勿論だ」
「では、それで何故利益を上げることが出来ているのか、理由は知っているか?」
「──知らない」
チッ、とルルーシュは小さく舌打ちをする。
「知らないのに何故この値段でモノを売るような、いかにも怪しげな店で店長を?」
「……給料が、良いから」
「バカな。人件費も削っていないだと?」
ますます不気味だ。
一体何処にカラクリがあるというんだ。
ルルーシュは他にも幾つか、細かな質問を重ねたが、結局、重要な情報はそれ以上増えはしなかった。
「最後に、貴様の所の社長…いや、上司でも構わん。連絡先はあるか?」
「…上司…エリアマネージャーの連絡先ならば…」
一先ずこれで辿るしかないか。
ルルーシュは仕方がない、とそのエリアマネージャーを次の狙いに定めるのだった。
しかし、それでも全てが明らかになることはなく、分かったことはと言うと、他のエリアマネージャーの連絡先だけであった。
「…順繰りに上へと上がっていくわけではない…?」
つまりこれは…。
ルルーシュは嫌な予感を覚えつつ、エリアマネージャー達を辿っていく。
そうして行くと、何人もいるマネージャーの内の一人だけが、次の上長へと繋がっていたことが分かった。
「細胞組織…」
一定以上の階層とそれ以下の階層では限られた連絡手段しか持たない。
しかも、エリアマネージャー達は自分達以上の階層の人間の名前等も知らない。
単に、連絡手段を有しているというだけ。
「匿名メッセージアプリでの連絡とはな。
これではまるで、犯罪組織やテロ組織のようじゃないか」
とても、正常な企業のそれとは思えない組織構造。
怪しさしかないな。
これは、本腰を入れて調査するべきか。
ルルーシュは事態が想像よりも複雑で、かつ、裏に潜む闇の深そうなことを悟っていた。
そうして、数日後──。
「久しぶりだな。アル」
「数週間ぶりね。せんせ…いえ、ゼロ」
ルルーシュは再び仮面を被り、便利屋68へと姿を現していた。
「調子はどうだ?仕事の量は…」
「も、勿論!順調よ!い、今はたまたま暇があるけれど!」
「アルちゃん…」
横にいたムツキの苦笑。
ルルーシュ、ゼロもそれが見栄であることは何となく分かるようになっていたが、わざわざ触れることはしない。
「良ければ、受けて欲しい依頼があってな」
「何処からのものかしら」
依頼と聞き、飛び付かんばかりの勢いで顔を向けたアルだったが、コホンと誤魔化すように咳払いをし、落ち着き払った様に見せながら、鷹揚に尋ねた。
「友人の経営している会社からのものだ。
とあるライバル企業の調査をして欲しい、というものだ」
「…その人は、探偵じゃなく、何でわざわざ私達に?」
カヨコが訝しむように言う。
「…皆は、"チープマート"という店を聞いたことがあるか?」
「あ、知ってる〜。最近オープンした何かハチャメチャに安いとこでしょ?」
「そう。しかし、余りに安すぎる。原材料費、運送費、施設の管理費、人件費、光熱費、全てを考慮した場合、明らかに赤字になる筈の値段設定」
「…ダンピングってこと?」
「私も最初はそう思った。しかし、入手した情報によると、利益を出しているらしい」
「それは…」
「不自然ね」
ゼロは頷き、続ける。
「ああ、不自然だ。特定の商品だけを利益度外視の安さで売り出し、客を集めるという手法ならともかく、殆ど全商品がキヴォトスの最安値から更に割増しで安い、なんてことある筈が無い」
「…もしかして、背後に何か…ブラックマーケットみたいな裏社会が関わってる可能性がある、って睨んでいるってこと?」
「さすがだな。カヨコ。
私や、依頼主はそう考えている。少なくとも、正当な手段では利益を生み出せる訳がないんだ」
なるほどね、とアルは訳知り顔で頷き、笑った。
「キヴォトス一のアウトローである私達ならば背後関係も調べられる、と見込んでのこと、というわけね!」
「…まあ、そういうことだ。報酬は、これだけある。成果次第では上乗せもあり得る」
久しぶりに見た巨額が記載された書面に、アルは目玉をひん剥かんばかりであったが、既の所で我に返り、虚勢を維持する。
「ま、まあ?これだけの報酬を払ってくれるというのなら?当然受けるわよ。ええ。任せてちょうだい」
「さすがはアルだ。頼りにしているぞ」
「フフッ。依頼主に伝えてくれる?私達便利屋68に万事お任せを、と」
正式に依頼を受けた形になった便利屋68とゼロは更に詳しく協議する事となった。
「まずは、安さの裏を調べないとね。せんせ………ゼロ…は、何処まで調べてるの?」
若干気恥ずかしそうにゼロ、と呼び直すカヨコ。
ルルーシュは全く気に留めることもなく、調べた情報を開示した。
「…本格的な犯罪組織みたいな構造だね。
それか、革命組織かってぐらいの」
「ああ。しかし、どうにかエリアマネージャーの上との接触は取り付けた」
「さすがはゼロね」
「へえ!どうやったの?」
「"説得"したのさ。エリアマネージャーの一人をな」
「説得って…そんなのでどうにかなる相手だっまの?」
「フッ。何、ちょっとした魔法を使ったのさ」
「あはっ。なにそれ。深く聞かない方が良さそ〜」
何にせよ、とゼロは写真を取り出す。
「こいつが、その突き止めた上司。本部長、と名乗っていた」
写っていたのは、恰幅の良いロボット市民であった。
「後を追ったんだが、ブラックマーケットに入った所で追跡は断念した。万一ということもあるからな。一人では追わない方が良いと判断した」
「それが正解でしょうね。でも、姿と場所が分かるなら話は早いわ。こいつが何処にいるのか」
「こいつのいる場所を見つけて爆破すれば良いんですか?」
「まあ、ブラックマーケットに出入りしてる時点で後ろ暗いことはありそうだもんね〜」
「むしろそれだけで済めば話は早そうだね」
確かに、それが可能なら爆破でもしてしまった方が良いかもしれない。何せ──。
「ハルカの言うことも一理あるかもな。
追跡の後、ついでに少しばかり聞き込みをしたんだが、つい数ヶ月前にブラックマーケットで工場が新設されたそうだが、それ以来、不良やブラックマーケットに入り浸っているような市民がしょっちゅう姿を消しているらしい」
「工場…。数ヶ月前ってことは…タイミング的に数週間前からオープンした"チープマート"と関係ありそうだね」
「ああ。偶然、と言い捨てることは出来はするが、余りにタイミングが良すぎる。
何かしら関係があると見るのが妥当だろう」
「…確かに、爆破で済めば一番かもね」
アルも神妙な表情で納得したように頷いた。
「まあ、何はともあれ調査だ。君達にはブラックマーケットでの調査をお願いしたい。
勿論、悟られないように気を付ける必要はあるが…不良達が姿を消している、というのも気がかりだ。注意してくれ」
「私達を誰だと思っているの?大丈夫よ。私達の手にかかればこの程度──」
「どうしてこうなったのよおおお?!」
二日後、アルの叫びがブラックマーケットに響いていた。
「こっちに逃げたぞ!」
「さっさと追いかけろクズ共!怠慢で報告してやるぞ!」
「ひっ!は、走れ!全速力だ!」
路地を逃げ回り、追っ手の視線から逃れると、便利屋の面々はアクロバットな動きで建物の外壁をつたい、雑居ビルの屋上へと逃れる。
そして、息を殺して追っ手らの様子を上から覗き込む。
「まさかこんなことになるなんて…」
「すみませんすみませんすみませんすみません。私のせいでこんなことに」
「いや、貴方が悪いわけじゃないわ。大丈夫よ」
追い詰められたような表情で平謝りするハルカを宥める。
「そうだよ〜。私達はちょ〜っと応戦しただけなんだし」
「ちょっとだったかな…まあ、でも先に手を出したのはあっちだよね」
事の起こりは数時間前。
アル達は昨日に引き続き、ブラックマーケットでそれとなく、工場の噂やらを聞き込みしつつ、その工場周辺を見回っていた。
すると、騒ぎに出くわす。
「おら!さっさと戻れ!逃げやがって!諦めろ!」
「嫌だ!やめてくれ!金なら用意するから!」
「それで二月経っただろ!契約通り、働いてもらうからな!」
「聞いてない!そんなの聞いてないって!
あんなとこで働かされるなんて!」
屈強な傭兵らしき連中に連れて行かれようとしているスケバンらしき不良生徒、という場所が場所でもあるが故に、アル達の注目を引く場面に出くわしたのだ。
「書類に書いてただろ!知らぬ存ぜぬで逃げれると思うなよ!」
「ルーペでもないと読めねえ字で書いといて!」
「はっ!それでも契約は契約だ。気付かなかったお前が悪い」
「頼むよ!あんなとこで働いてたらおかしくなっちまう!」
「俺の知ったことか!さっさと来い!」
ねえ、という声に、傭兵は力任せにスケバンを引っ張るのを止め、「ああん?」と柄の悪い、ドスを利かせて振り向く。
「その子、何処に連れてくつもり?」
「何だ、お前。何か関係あんのか?」
「尋常じゃないくらい嫌がってるけど」
「で?だから?こっちは仕事でやってんだ。
邪魔してくれるな」
チッと苛立たしげに舌打ちをし、傭兵はアルを無視しようと、身体を再びスケバンの方へと向けた。
だが、逆にスケバンの方はアルへと目を向けて、震えるような声で絞り出した。
「あ…た、助けて…」
「あ?てめえ黙りやがれ。借金したてめえが悪いんだろうが」
「金に、金に困ってたんだ…!だからブラックマーケットに来たのに…」
「そいつはてめえの運を恨むん──ん?」
せせら笑う傭兵は、面倒だとスケバンを黙らせる為か、銃床を振り上げたが、その腕を掴まれ、目をその腕を止めた、アルへと向けた。
「何だ?お前。何故邪魔する」
「黙りなさい」
「てめえ──!」
標的の変わった銃床がアルへ向けて振り下ろされるが、アルは眉一つ動かさず、微動だにしなかった。
「ぐっ?!」
その銃床はアルへと届くことはなく、凄まじい勢いで飛び込んできたハルカによって弾き飛ばされる。
「アル様に手を出そうとしたな?」
「は?何だおま──」
ドゴッという鈍い音。
腹に銃床を打ち付けられ、傭兵はよろめき、数歩後退る。
「許さない許さない許さない許さない許さない」
「ハルカ。あんまりやり過ぎない程度にボコボコにしてやりなさい」
「はいっ!」
しかし、アルの注意虚しく、しっかり気を失うまでやられた傭兵。
本当ならば、適度に弱らせた傭兵から情報を聞き出そうとしていたのだが、騒ぎを聞きつけ、数人の応援が駆け付けて来てしまう。
「くっ…!あんまり大きな騒ぎになると不味いわよね…。
ここは一旦撤退を…」
アルは駆け付けた増援の銃弾を避けながら方針を固めたが、彼女の判断が伝えられるよりも早く、ハルカが、爆弾をぶん投げてしまったていた。
「あっ──」
工場近くで起きた爆発。
さすがにそれを無視される事はなく、ぞろぞろと武装した傭兵が向かってくることとなったのだった。
「やっば──ちょっと貴方!さっさと逃げなさい!」
呆然としていたスケバンを叱咤して逃がしてから、アル達も一時撤退を選択した。
しかし、予想以上に戦力が多く、ブラックマーケットを逃げ惑うこととなってしまったのである。
「ま、まあ、起きてしまったことは仕方ないわ。
でも、収穫もあった。この事をせん…ゼロに報告しなきゃね」
「だね。とりあえず屋上に飛び上がったとは思わないだろうし、暫くは大丈夫だろうから、連絡する?」
「ええ。そうしましょう」
便利屋68の経営顧問としてのゼロ。
彼専用の携帯番号へとアルはかける。
プライベート用やシャーレ用とは違い、より強力な盗聴対策を施しているのだ。
『もしもし?』
「あ、ゼロ!報告があるの」
『聞こう』
「実は──」
アル達はブラックマーケットで出くわした光景、そして現状を伝える。
『…よくやってくれた。こっちも、工場と"チープマート"の関係を調べ上げたところだ。
やはり、ブラックマーケットに新設された工場から商品の多くが卸されていた』
「連れて行かれそうだった子は、あんな所で働かされたくない、と言っていたわ」
「まさか…」
『見えてきたな。しかし、加工費だけでどうにかなるものか…?』
いや、とルルーシュは呟く。
『他の要因も、工場を調べれば分かるか』
「私達はどうすれば良い?いっそこのまま工場に突入しちゃいましょうか?」
『いや、今回は撤退してくれ。準備を整えてから行ったほうが良いだろう。聞いた感じでも予想より遥かに戦力が強大だ』
「了解。だ、そうよ。皆」
「ま〜仕方ないか〜。さすがにあの数は難しいもんね〜」
「それに、兵の多くは何か訳ありっぽかったしね」
じゃあ、とアルはハルカに言う。
「道を作ってくれる?ハルカ」
「─は、はい!お任せ下さい!」
屋上より、数名の傭兵らの近くへと降り立ち、向こうが反応するよりも早く攻撃。
増援が来る前に隙を突き、ハルカの突破力、爆発力で道を開きつつ、アルが殿で背後から迫る敵を狙撃し、牽制。
そうして、数時間後、一先ず彼女らは事務所へと戻ることに成功するのだった。
「お帰り。さすがだな。君達を頼って良かった」
「ま、まあ。私達にかかればこの程度、朝飯前よ」
「頼もしいな。…ああ、そうだ。
君達の報告のおかげである程度のからくりは見えた。しかし、まだそれでもあの値段に届くかと言うと、微妙だ。
まだ安すぎるように思う」
ゼロは先に戻ってからふと考え至った可能性を調査していた。
そして──。
「だから、調べてみてな。これで連中の全貌が見えたかもしれない」
「調べたって、何を?」
「キヴォトス内での物流網襲撃事件や、強盗件数だ」
まさかとは思ったんだが、とゼロは先程閲覧した連邦生徒会の統計を見せる。
「物流拠点襲撃が、例年比で数%増加しているんだ。数%ならば誤差、と捉えることも出来るが、タイミングがタイミング。それに、被害額で言えばバカにはならない」
「いや、まさかそんなバカなことがある?」
カヨコが困惑したように言うが、ゼロとしても、それは全く同意する所であった。
「連中は、恐らく金に困った不良やら市民を強制労働させ、人件費が限りなく低くなっている。
その上、原材料には略奪したものも含まれている。
略奪分で、本来仕入れた量から製造出来る数値を越えて製造させて、加工費を浮かせている。
この上で、薄利多売を実践し、"チープマート"を成り立たせている、と思われるな」
「ヴァルキューレが動いてないのが不思議なくらいだね〜」
余りの傍若無人ぶりにドン引きしたような苦笑のムツキ。
「恐らく、時間の問題だろうな」
「じゃあ、私達はもう任務完了かしら?」
「何を言う。作戦を立てて、工場を襲撃するぞ」
?がアルの頭上に浮かぶ。
「いや、まあ戦うのは別に良いんだけど、ヴァルキューレが動くなら、私達が正義の味方みたいになる必要もないんじゃ?
むしろややこしいでしょう」
あくまで、とゼロは言う。
「時間の問題、というだけだ。
私達が調べ上げた証拠を送っても、それを検証し、向こうでも捜査をし、そこから漸く摘発に動けるだろう。
だが、舞台はブラックマーケット。それでもおいそれと手出し出来る場所じゃない」
「まだ結構な時間がかかるってことね」
「ああ。それに、良いか。アル。アウトローってのは、何も悪事をすることだけじゃない」
「え?」
ゼロはそう続ける。
「正規の手順を踏んでいては、生徒達がまだあと何ヶ月も苦しめられる可能性がある。
それでは手遅れになるやもしれない。
だが、私達にはそれを今、どうにか出来る力がある」
「!そう、そうか。正規の手順では間に合わないから自分達の力で…ルールから外れた…」
アルはフッフフッと高揚したように笑いを漏らす。
「正に、アウトロー、というわけね」
「だろう?どうしたって遅くなってしまう正規の方法ではなく、私達の持つ力でもって、素早く状況を改善させる。
それもまた、アウトローの在り方と言えるだろう」
「─良いわ。了解よ。それなら、確かに私達の仕事ね。
ヴァルキューレがさっさとやってくれると思ってたけど、そうじゃないなら…」
皆、とアルは便利屋の一同に声をかける。
「作戦会議よ。追いかけ回してくれたお礼をしに行きましょう」
「良いね良いね。楽しくなってきた」
「まあ、放っておくのも気分悪いしね」
「次は何を爆破しましょうか?!」
──翌日、深夜。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。
全ての異常を見逃せ」
潜入した工場の敷地内。
ゼロは、そこを巡回する警備にギアスをかけ、アル達へ懐中電灯の点滅で信号を出す。
「合図ね。行きましょう」
「凄い。どうやってこんな短時間でこの侵入ルート見つけたんだろう」
「ね〜。警備に全然見つかんない」
「さすがは私達の経営顧問ね」
暗闇を素早く移動し、ルルーシュの作るルートを沿って、便利屋は工場の奥へと潜入するのだった。
───。
「おら!手を止めるな!」
監督官の叱咤が飛ぶ。
既に、休日もなく、二週間連続で15時間労働。休憩は最低限、総計で1時間もない中で労働を強制されている彼女らの体力、集中力は最早限界にあった。
しかし、それでも手を動かねばならない。
殆どの全員、僅かな借金が暴利によって膨らみ、極小の文字で契約書に書かれていたという理由で連れてこられ、働かされている。
皆、多かれ少なかれ脛に傷持つ者たちでもあるため、ヴァルキューレに通報もできず、ブラックマーケットである以上、誰かが通報するようなこともない。
絶望の中で、フロア毎に分けられた工場で彼女達は運ばれてくる材料から銃を組み立て、別のフロアでは何処のものとも分からない食材から食品やお菓子を作る機械を動かし、包装し、また別のフロアでは──。
タダ同然に働かされる彼女らは、地上だけでなく地下にも伸びるこの工場で永遠とも思える時を過ごしていた。
「フハハハ!苦節何年経っただろうな!ついに我が計画が本格的に始動した!」
工場のみならず、"チープマート"の社長でもある視察に来ていたロボ市民は、工場の労働者を見下しながら下品に嗤う。
「ブラックマーケットであれば、余程大規模な強盗を連続ででも起こすか、明確な証拠でも掴まれん限り、ヴァルキューレも動かん!
これで原材料費を浮かし、借金で集めたバカ共を働かせれば人件費もタダ!
傭兵も最低限雇い、バカ共の督戦をさせれば警備費も浮く!」
「これでバカみたいに安く売り出すことで、他の小売業者を壊滅させ、そして、私がキヴォトスの小売業を独占する!
ハハハッ!そうすれば私は大金持ちになるだけじゃない!カイザーグループにも張り合える権力を手に出来る!」
ふう、と一息ついた社長は再び労働者を嘲笑うようにフロアを見渡す。
だが、彼の視界は哀れな労働者達ではなく、暗闇に包まれた。
突如、工場中の電源が切れ、全てが闇に覆われたのだ。
「な、何だ?!停電?!」
工場全体が混乱に包まれる。
「ブレーカーか?!」
「停電ではないのか?!」
「窓から見る限り、他所は無事だ!」
「ならブレーカーに走れ!
万一に備え、非常用電源もだ!」
そこに、銃声が入り交じる。
「なっ!誰だ?!」
「ぐわっ?!」
社長は混乱に包まれる社員達に苛立ちながら叫ぶ。
「何でも良いから明かりで照らせ!スマホでも構わん!」
声に漸く多少我を取り戻した傭兵や社員らがスマホや装備にあった懐中電灯で周囲を照らし始めた。
特に、銃声のした、中二階部分へとライトが集中する。
しかし、そこには銃を構えた人間はいなかった。
代わりに照らし出されたのは、黒いマントに身を包む、仮面の者であった。
「侵入者!侵入者だ!」
「だ、誰だ貴様は?!」
バッと仮面の彼はマントと共に両手を広げる。
「我が名は、ゼロ!」
「ゼロ…?」
皆が正体不明の仮面の人間に集中し、上方へと注意が向く。
「私は、非人道的な搾取によって金を稼ぐ"チープマート"に、天誅を下すべく来た!」
「何をふざけたことを…!此方には大兵力があるのだぞ…!」
「フッ。バカめ。何の準備もなく、こうして姿を現すとでも?」
ゼロは、そう言って指を鳴らす。
同時に、ゼロへと銃口を向けていた傭兵らの背後が銃弾によって襲われ始めた。
「あがあっ?!」
「いつの間…に…」
ゼロへと照明が集中する直前に、アル達は中二階から飛び降り、一階でゼロの合図があるまで潜伏していたのだ。
混乱の中、銃火が飛び交う。
傭兵らは暗闇の中で敵を中々捉える事が出来ず、追い詰められていく。
とは言っても、そろそろ闇に目が慣れてくる事だろう。
だからこそ──。
「作戦をフェイズ2に移行する!」
ゼロの命令に合わせて、アル達は暗闇の中でナイトビジョンゴーグルを脱ぎ捨てる。
直後、工場中の照明が再点灯した。
「ぐうっ?!まぶしっ…!」
「目が…!」
漸く暗闇に順応してきた目に、最大光量で点灯した照明。
傭兵らの多くと、無理矢理働かされている警備兵らはまともに敵を認識する事が出来なくなった。
「後は、督戦隊をのみ集中的に排除!」
「勿論よ!」
"チープマート"に正規で雇われている傭兵。
つまり督戦隊要員はこうした襲撃を真面目には想定していなかったのだろう、それと分かる目印を付けており、アル達にとっては簡単な事だった。
督戦隊が次々と排除されていく様子に、戦わされていた兵達は、徐々に気付き始める。
これが、チャンスであると。
この奴隷労働から逃れる好機だと。
「君達は自由だ。さあ、共に戦おう」
ゼロもそれを狙っていた。
彼の言葉が最後の一押しとなり、労働者らの暴動が始まる。
「うおおおお!ぶっ壊せ!」
「倒せ!連中を倒せ!」
「ここから出るぞ!」
体力にまだ多少でも余裕のあった者達は、正に力の限り暴れ回り、最早、社員達には収拾がつかなくなっていた。
「くっ…!くそっ!なんなんだ!貴様ら!
私の完璧な計画を!!」
「何処が完璧だ。粗雑で、幼稚な計画の間違いだろう」
「そうよ!悪趣味な方法で人を集めてバカみたいなやり口で安いものを売るだけなんて、倫理観抜きにしても思い付いたってそうそうやらないわよ!」
「なっ…!貴様らに何が分かる!学生風情が!」
「黙りなさい!私達は単なる学生じゃないわ。
便利屋68。依頼されればどんな任務でも引き受ける。キヴォトス一のアウトロー。
私達と関わったこと、後悔しなさい」
拳を握り締め、社長は怒鳴り散らす。
「つまるところ"ごっこ遊び"だろうが!バカが!どんな任務も引き受けるだあ?!なら金ならやるよ!ほら!幾ら欲しい!さっさとこっちに協力しやがれ!」
「"ごっこ遊び"…?」
ふぅと、落ち着けるように息を吐き、アルは冷たく言い放つ。
「一つ、補足しておくわ。
どんな仕事も、私達は引き受ける。
ただし、私達が"仕事"かどうかは判断するの」
「やっぱりごっこ遊びじゃないか!ガキが!」
「それと、金で釣ろうと思うなら、ゼロを増やすべきね」
「……なっ」
「そんなだから、こうなるのよ」
社長は、背筋に突然、言いしれようのない寒気を感じ、振り向き、背後を見る。
彼は、凄まじい形相で銃床を振り下ろすハルカの姿を知覚したか、それよりも早く、気絶させられ、床にバタリ、と倒れ込むのだった。
「アル様をバカにしましたね?今、アル様を」
「ハルカ。気を失ってるからもう大丈夫よ」
「あ、は、はい…!」
「さて…」
アルはゼロの横に並び立ち、社員らや傭兵らを倒し、追い出した労働者らを見渡した。
「皆、もうここはおしまいよ。皆は自由!さっさとこんな所、出ていきなさい!」
「あ、ありがとう!」
「助かったよ!」
「なんてお礼を言えば…」
皆が口々に礼を言う。
ゼロはそのタイミングを狙ってか、再び両手を広げ、ポーズを取った。
「彼女らは、便利屋68!
キヴォトスを股にかける、アウトロー集団だ!
この名を、記憶するが良い!」
「うおおおお!ゼロ!ゼロ!ゼロ!」
「便利屋68!68!68!」
口々に歓呼の声が上がり、熱狂がフロアを包む。
「な、何か凄いことになったね〜…」
「しかし、良い宣伝になっただろう?これで便利屋の名前はブラックマーケットに轟く事だろう」
「さすがはゼロね。宣伝のチャンスも逃さないなんて」
「何、このくらいのこと」
こうして、強制労働と略奪によって成り立つ激安コンビニ、"チープマート"は数日の内に全店閉店し、その姿をキヴォトスから消すのだった。
数日後──。
ヴァルキューレ警察学校、公安局。
「局長!」
「何だ」
「例の、"チープマート事件"の追加資料が纏ったので、お持ちしました」
「ご苦労。それで、"チープマート"を潰した者の正体は掴めたか?」
「はい。先ずは便利屋68と名乗る組織」
「確か、ゲヘナの問題児集団だったな」
「はい。そして、彼女らと行動を共にしていた謎の人物の報告が上がっています」
「名前はわかるか?」
「証言によると、"ゼロ"と名乗って仮面を被っていたそうです」
公安局局長、尾刃カンナは前髪で右目の隠れる金色のロングヘアを揺らしながら資料を捲る。
「ゼロ…。彼…いや、彼女か…?ともかく、こいつが現れたのは今回が初めてか?」
「調査中です。ですが、前にブラックマーケットのオークションが吹き飛んだ事件、あの時に謎の仮面の男の目撃証言があり、その時点から確実に活動が確認出来ると言えるでしょう」
「……ブラックマーケットでも目立つ悪どい連中を狙っているのか?」
カンナはゼロの狙いに想いを巡らせる。
「少なくとも、我々ヴァルキューレにとっては、諸手を上げて歓迎出来る人物ではないな」
「ですね」
「我々が手出ししにくいブラックマーケットでの自警団的行為、か。それとも、単にライバルを排除しているだけのアウトサイダーか。
或いは、もっと異なる目的があるのか…」
まだ分からないことが多い。
しかし、単に野放しも出来ないだろう。
ゲヘナの風紀委員にも警戒されているという便利屋68と行動を共にし、ブラックマーケットの悪事を裁くかのように姿を現す仮面の者。
まるで、ヴァルキューレ警察学校に挑戦状を叩きつけているかのようだ。
「正体含め、調査を続行してくれ。
ゼロの正体、目的次第では、大きな脅威となりかねない」
「はっ!では、ゼロ捜査班を結成し、動向を追わせます!」
「ああ。よろしく頼む」
ゼロ、貴様は一体、何を望んでいるんだ。
カンナは報告書を机に置き、コーヒーカップを手にする。
温くなったそれを口に運びながら、ブラックマーケットの"チープマート"工場で撮影された、ゼロ、仮面の者が人々に向かって救世主のように腕を広げている写真を見つめるのだった。
今回も読んで頂きありがとうございます。
また次回も読んで頂けますと嬉しいです。
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