コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
「何──?」
ある日の夕方。
アロナからの報告に、ルルーシュは怪訝に眉をひそめていた。
『ヴァルキューレ警察学校の生徒さんがお見えです』
よく聞こえなかったと勘違いしたのか、アロナはそっくりそのまま先程の言葉を繰り返す。
「ヴァルキューレ…分かった。応対する」
何だ?何の用だ?
何かバレてしまったのか?
ゼロ?それともL.Lの方で何か?
いや、早計だ。単にシャーレへ何かしらの協力を求めに来たのかもしれん。
内心の僅かな動揺を悟らせないよう意識して表情を作り、ルルーシュはヴァルキューレ警察学校から来たという生徒を出迎える。
扉を開けた先に立っていたのは、朗らかに微笑み、敬礼をする白髪の、長い髪を細く三つ編みに纏めたおさげ姿の少女であった。
「はじめまして!本官、ヴァルキューレ警察学校生活安全局の中務キリノと申します!」
「………生活…安全局…?」
ルルーシュは公安局の名が出なかったことに内心安堵しつつ、気を取り直す。
「はい!生活安全局です!」
「はじめまして。シャーレの顧問、ルルーシュ・ランペルージだ」
「よろしくお願い致します!それで本日お伺いさせて頂いたのはですね──」
「立ち話もなんだ。中へ入ると良い」
「あ、ありがとうございます。それではお言葉に甘えて」
キリノを応接間に案内し、ルルーシュは茶を出しながら尋ねる。
「あ、いただきます。すみません。お気を使わせてしまって」
「何。そろそろ暑くなってきているしな。
それで、話の続きだが、今日来た理由ってのは?」
「はい。実はですね、近辺で発生した盗難事件の捜査を行っておりまして」
「盗難?」
シャーレへの依頼でもなく、ルルーシュは一瞬拍子抜けを感じてしまっていたが、直ぐに、それならばむしろ良かったか、と思い直す。
「はい!しかも連続盗難事件なのです」
「何が盗まれているんだ?」
「財布やスマホの類ではないようで、ええと…なんだったかな…流行っているカードゲー厶の、所謂トレーディングカードなのですが」
「ふむ…」
「子供からもカードを強奪しているという事で、許せません!大変凶悪な事件なのです。
それで、先生は何か目撃されたりしていませんでしょうか。
怪しい人物とか…。見かけない人がこの辺を歩いていた、ですとか」
一応ルルーシュは記憶を辿るがそれらしい人物の記憶はない。
「すまないが、役に立てそうにはないな」
「…そうですか。残念ですが、仕方ありませんね。
お忙しい中でのご協力、ありがとうございます。お茶もごちそうさまでした」
立ち上がり敬礼するキリノ。
ルルーシュも席を立ち、見送ろうとした所で、はた、と一つ思い付く。
「保障は出来ないが、一人、私よりこの近辺に詳しい人に心当たりがある」
「本当ですか?!是非、ご紹介頂ければ…!」
勿論、とルルーシュは階下のコンビニへと向かう。
「コンビニ…!そっか!」
キリノの納得したような声を背に受けながら、ルルーシュは扉を潜る。
「やあ、ソラ」
「あ、いらっしゃいませ。先生。何だかお久しぶりですね」
「漸く落ち着けてたのでね。ソラの方は、どうだ?問題ないか?」
「はい!おかげさまで学校にも問題なく通えていますし、勉強も出来ています!
入ってくれたバイトのお二人も、すっかり一人で業務をこなせるようになりましたし」
それは良かった、とルルーシュは微笑みつつ、キリノの方へ手を差し伸ばす。
ソラの視線も、それに合わせて動く。
「業務中すまないが、彼女に協力してやってくれないか?」
「はあ…。え?!ヴァルキューレの…!?」
「ヴァルキューレ警察学校、生活安全局の中務キリノです!」
「え、ええと…?」
突然の警察の来訪に、ソラは少々混乱した様子を見せた。
「ソラ。大丈夫だ。この店が、というわけでもない。目撃証言を集めているそうなんだ」
「あ、な、なるほど…」
目に見えて力の抜けたソラはキリノの方に目を向け、すみません、と頭を下げる。
「あ、いえいえいえ!此方こそ申し訳ありません!突然押しかけてしまって」
それでですね、とキリノはルルーシュにしたような説明をもう一度行う。
「盗難ですか…うーん。ごめんなさい。銃撃とかが日常茶飯時だから、あんまり記憶には残ってなくて…」
「まあ、ですよね…」
恐らく似たような話を何度か聞いてきたのだろう、キリノは苦笑していた。
「それか、何か変わったこととか無かったか?
関係性があるかどうか分からないことでも」
「変わったこと…変わったこと…」
あ、と暫しの思案の後、ソラは声を上げる。
「な、何か思い当たることが?!」
「盗難…ではないんですけど…そのカード、多分、"バトルキング"ですよね」
「…はい!そうです!そんな名前でした!」
「それを大量購入した方ならいましたね。
こんな、客の少ないコンビニにまでわざわざ来て、ボックス買いしていったんですよ」
強いて言うなら、とソラは言う。
「変わったことといえば、それくらいで…」
「ふむ…」
「コレクターさんだったのでしょうか」
さして、気に留めた様子のないキリノとは正反対に、ルルーシュは何やら思案顔で考え込む。
「とにもかくにも、ご協力、ありがとうございました!」
「いえ…すみません。あんまりお役に立てなくて…」
「いえいえ!そんなことは──」
「キリノ」
「は、はい?どうなさいましたか?」
偶然にしては出来過ぎていないか?とルルーシュは指摘する。
「盗まれているカードと大量に買われたカードが同じゲームのモノである、というのは単なる偶然の一致とは片付けられないんじゃないか」
「ですが、盗難するような人達がわざわざボックスで購入するでしょうか?」
「ふむ…確かにな」
だが、とルルーシュは目に付いたカードの入った袋を手に取る。
「名前を聞いて思い出したが、これはレアカードが高値で取引されているような奴じゃなかったか
?」
「レアカードには百万に到達するものもあるとか聞きますね」
ソラも知っているようで、不安げにカードを見つめる。
「だから気が気じゃないんですよね…強盗にでもあったら、と」
「その点は安心してくれ。物騒な話を聞いたんだ。臨時の警備の依頼を出しておこう」
「あ、ありがとうございます!」
礼には及ばんさ、と微笑みつつ、ルルーシュはキリノに言う。
「レアカードを集めているのだとしたら、ボックス買いの人間と、盗難の犯人、繋がりがありそうじゃないかな?」
「むむむ。…しかし、もし関係があるのだとして、盗難の犯人ならば強盗でもしそうですけどね」
「一理ある。だが、もし、別の連中がたまたま同じ地域でカードを集めていたのだとしても、何処かで繋がるかもしれないぞ?
ただのコレクターが集めている類のものじゃなく、転売市場が形成されているようなものなのだし」
それは…とキリノは唸る。
「確かに、その可能性はありそうですね。
何処かで繋がるかも…バイヤーとかがいるのだとすれば…」
思案するキリノにルルーシュはもう一押しをかける。
「それに、無関係なのだとしても、転売の為に買い占めなんてのは余り褒められたことじゃない。
買い占めは別に違法ではないが…」
「…お店としても、売上的には問題ないんですけど…何処にもないと知った時の子供達…いえ、私と同じくらいの生徒もいるんですけど…残念そうな顔を見るのは、悲しいです」
「調べてみる価値はありそうだろ?」
「はい。そうですね…。確かに、子供達の笑顔を奪うなんて許せません!立派な迷惑行為です。
調査してみます!」
キリノは敬礼をし、ソラに改めて礼を伝える。
「お仕事中、お邪魔しました!」
「い、いえ…。すみません。余りお役に立てず…」
「いえいえ!参考になりました!早速、戻って検討してみます!買い占めした人が分かれば、何処からか売買ルートを辿って、盗難犯にも辿り着けるかも…!」
失礼します!と去ろうとするキリノを、ルルーシュは呼びとめる。
「私も付いていって良いか?」
「え。いえ、ですが先生は…」
「少し気になる事があってな」
「気になること、ですか」
「盗難の発生件数の推移を集めた資料が見たいんだ」
キリノはえ、と困ったような顔になる。
「で、ですが先生はヴァルキューレの人間ではありませんし…お見せするわけには…」
「私は超法規的機関、シャーレの先生だ。閲覧に必要な権利はあると思うが?」
「うっ…。確かに…?それなら、良い…のかな?」
「それに、事件が解決するならそれに越したことはないだろ?」
「まあ、それは…そうなんですが…」
──ヴァルキューレ警察学校
「この資料で問題ないですか?」
「ああ。正に、だ。ありがとう」
キリノに見せてもらった資料。
盗難発生件数の推移。
それは、ルルーシュの予想通りの動きをしていた。
やはりか。
発生初期の頃から指数関数的に増加し、ある時を境に件数は急降下しているな。
そして、最近になって、僅かに増加。
後は微増減を繰り返している、か。
「これで犯人に繋がるのでしょうか」
「犯人を特定は出来ないが、行動を読むことは出来る。
やはり、買い占め連中と盗難犯は同一犯、若しくは同じ組織の人間だと思うよ」
「な、何故分かるのですか?!」
「これはさっきのエンジェル24店舗の売上表なのだが、発生件数のグラフと時期を重ね合わせてみると…」
ルルーシュはここに来るまでにL.Lとして社の人間に送らせていた売上表をグラフ化したものをスマホに映し、キリノの資料と見比べさせる。
「…盗難件数低下と殆ど同時に、店舗の玩具類の売上が急上昇していますね…」
「ああ。これでもまだ、偶然の一致で片付けるか?」
「いえ。確かにこれは、無関係ということはなさそうですね…」
キリノは、そうと分かれば、と息り立つ。
「人を集めてきます!きっと戦力が必要なはず…!」
「それはそうだが、まだ犯人を特定出来ていないだろう」
「……あ」
キリノはあはは、と誤魔化し笑いをしつつ、ストンと腰を下ろす。
「…とりあえず、犯人の特定だな。しかし、買い占めと同一存在であると推定出来る以上、店やシャーレ近辺の監視カメラを追えば直ぐに見つけられるだろう」
「ですね!情報を共有したら直ぐに確認に行きましょう!」
キリノは取り急ぎの報告をしに部署へと戻る。
「ちょ〜っと。何で私なのさ〜」
「フブキしか手の空いている人がいなかったんだから、仕方がないじゃないですか」
「いやいや、私だって忙しいんだよ〜?」
「本当ですか?」
「本当本当」
「ドーナツを食べていたのにですか?」
「休憩だよ〜」
気の抜けた、やる気のなさそうな声と、それの主を引きずるようにして戻ってきたキリノ。
やる気のなさそうな声の主は、ドーナツ片手にもう片方の手はキリノに引かれて、ルルーシュのいる部屋へとやって来た。
「先生!紹介します!こちら、同輩の合歓垣フブキです」
「よろしく。シャーレのルルーシュだ」
「シャーレ…?シャーレって…あの?」
「ああ。連邦生徒会直下の超法規的機関だ」
ええ、とフブキは顔を歪ませる。
「めっちゃめんどくさそうな事に巻き込まれてる?私」
「先生には例の連続盗難事件の捜査を手伝ってもらっているんですよ!」
「盗難…?ああ…カードのやつね。
で、私、必要なの?」
「はい!これからシャーレに戻って監視カメラの映像を確認するので、人がいた方が早く分析出来ますしね」
「監視カメラのチェックか〜。眠いんだよね、あれ」
また随分とやる気のない子がふ来たな…。
キリノとの関係は悪くなさそうに見えるが、真逆にも思える熱意の差があるというのに、よくケンカにならないな。
妙な感心をしつつ、ルルーシュはフブキに笑いかける。
「ドーナツ、好きなのか?」
「うん?まあね。三度の飯より好きかも」
「協力してくれたら、ドーナツをご馳走しよう」
「子供じゃないんだけど。そんな単純な釣り針に引っかかるとでも?」
「さすがに駄目か」
ルルーシュが苦笑しようとした時だった。
フブキはガタリと、席を立つ。
「何してるの?早く行こうよ」
「………お前」
「先生!あんまりフブキを甘やかし過ぎたらダメですよ!」
「あ、ああ。了解した」
まあ良いか、とツッコミを諦めたルルーシュはキリノらと共にシャーレへと戻るのだった。
「ヘルメット団、か」
フルフェイスのヘルメットを被った少女数人がカードをボックス買いしていく様が録画によって確認出来たが、街の至る所に同じような出で立ちのヘルメット団はおり、監視カメラで完全に追いかける事は極めて困難である、ということが分かっただけだった。
「何処のヘルメット団かも判別が難しいですね…」
「じゃあこれで終わりで良くなーい?続きはまた明日、ってことでさ!」
「フブキ〜?」
「いやいや!キリノ、考えてみなよ。追いかける方法がないんなら、今はやれることもないんだから、休憩したっておかしくはないでしょ?」
「確かに、そうかもしれませんね」
「ふむ…まあ実際、今は手詰まりだ。少しばかり休憩をするのも悪くないな」
ルルーシュは休憩室に茶菓子に買い置いていたドーナツを載せてフブキに出した。
「これってコンビニのやつ?」
「ああ。約束通りドーナツだ」
「まあ約束通りだけど、専門店のが良かったな〜」
これはこれで、とフブキはドーナツを口へ運ぶ。
「悪くはないんだけどね」
「フブキ。折角出していただいているんですから、不満なんて──」
「いやいや、構わないさ。また、ちゃんとしたものは用意しておくよ」
すみません、と恐縮するキリノを横目に、ルルーシュはさて、と敵を特定する方法を思考し始めるのだった。
だが、その問題は、直ぐに解決する事となる。
ルルーシュの下へ連絡が入ったソラからの急報によって。
『カードを大量購入に来たヘルメット団の方をレジで相手にしています!』
『直ぐに向かう!悪いが、危険にならない範囲でほんの少しでも良いから時間を稼いでおいてくれ!』
ルルーシュは即座にメールへ返信をしながら、キリノとフブキを呼ぶ。
「件のヘルメット団がまたカードを買いに来たらしい!」
「……!!直ぐに行きましょう!」
「え、マジ…?タイミングよ」
「ええ。フブキ。最高のタイミングですね。
これなら後を追えます!」
「…いや、そういう意味じゃ…まあ良いや」
慌ただしくフロアを降り、コンビニへと向かう。
チラリ、と顔だけを扉を潜り、ソラへ視線を向ける。
ソラは直ぐにルルーシュらに気付き、目でやって来た連中が外へと出たことを示した。
ルルーシュはそれならば、と店へ入り、ソラに直接尋ねる。
「もう行ったのか?」
「はい。ごめんなさい。もう少し引き留められれば良かったんですが…今、正に出ていった所です」
「いや、十分だ。ありがとう」
礼を言い、ビルの外へと繋がっている方の出入り口へ駆け寄り、外を伺う。
見ると、談笑をしながらカード袋の入った箱を丸々運ぶ数人のヘルメット団員と思しき者達の姿を確認出来る。
「奴等か…!キリノ!フブキ!」
二人にも追跡相手を指し示し、店をそっと出る。
3人は余裕綽々といった様子の上機嫌に街を歩いていくヘルメット団らの背後を付かず離れずといった距離感で、慎重に着けていくのだった。
「応援を呼びましょう」
「賛成〜。頭数必要そうだもんね。
面倒も分散出来そうだし」
「…そうだな。兵力は必要になるだろう。頼めるか?」
お任せを、とキリノは軽く敬礼しつつ、本部に連絡を入れる。
『分かった。直ぐに頭数を用意して待機させる。
敵拠点の座標が分かり次第、続報を頼む』
「はい!了解です!」
「敵拠点の位置はちゃんと特定しなきゃか…
はあ、まあ、だろうなとは思ってたけど…面倒だなあ」
フブキのぼやきは捨て置かれ、慎重に追跡し続け、やがて三人は、D.U近辺のブラックマーケットにまで辿り着く。
恐らく、連中は企業やマフィアのような巨大組織がバックにいるわけではない。
やり方が稚拙だし、何より、そうした組織のやり口にしては、やっている事が小さい。
まあ直ぐに見つかるだろうな。
ルルーシュの予想は正しかった。
「いやあ随分稼いだな」
「へへっ。この調子なら億も夢じゃねえな」
「こんなカードが大金に変わるってんだから、"優等生達"の趣味はわかんねえな」
不用意にも、と言うべきか。
いや、彼らからすれば、ブラックマーケットで自分達の"仕事"の話をしていただけなのだから、不用意という表現も少し違うだろう。
しかし、その話は耳聡いルルーシュの耳に届いていた。
「聞こえたか?キリノ」
「は、はい…!あの方たちをつけていけば良さそうですね…!」
キリノとフブキはヴァルキューレの制服では目立つ、とシャーレから出る際に、制服の上から上着を羽織っている。
「仲間も呼んくべきだろう」
「だね。連絡は入れとくよ。
ここまで分かれば、さすがに忙しいと言っても、動いてくれるでしょ」
ルルーシュ達が話を盗み聞きしていたヘルメット団員を付けていくと、やがて廃ビルとしか思えない古めかしいビルへと辿り着く。
「戻ったぞ〜」
「お〜。どうだった?」
「レアカード手に入ったぜ」
「でかした!」
ヘルメット団員らはきゃいきゃいとはしゃぎ、成果を競い合う。
「へへっ。最近は盗んだカードで稼いだ金で、ちゃんとボックス買いしてるからな。
ヴァルキューレも追及はしてこねえだろう」
「だな。アイツラはもう発生もしなくなったこんな木っ端事件追う程暇じゃねえさ」
むむむ、とキリノは今にも飛び出しそうな不満顔で聞き耳を立てていた。
「この金で何します?」
「そりゃあ、もっと良い武器買って、戦車とか買ってヴァルキューレや学園もビビる戦力揃えて、好き放題するのさ」
「何しても怒られないし捕まらない生活かあ…楽しみだなあ」
本当にただのチンピラだったな。
さて、後はヴァルキューレの増援が来るまで…。
一旦ビルを出ようかとキリノらに声をかける。
キリノは不承不承、フブキは大賛成とでも言うような様子で頷き、撤退を開始する。
しかし、丁度不運にも、足下にあった瓦礫を、誰かが蹴ってしまう。
コツン、という音がいやに大きく響き、ヘルメット団員らの注目を集めてしまうのだった。
「あっ…」
「誰だ!?」
「なんだお前ら?!見ない顔だな!」
しまった。
二人しか戦力のいない状況でこれは不味い!
何とか増援が来るまで…耐えるか?いや、逃げる方が…。
「くっ…こうなっては…!」
キリノは羽織を脱ぎ捨て、制服を顕にする。
「ヴァ、ヴァルキューレです!全員観念しなさい!強盗の容疑で逮捕します!
子供達から笑顔を奪ったこと、しっかり反省してもらいますよ!」
ヘルメット団員らはざわっと動揺する。
まさかヴァルキューレ警察学校の人間がブラックマーケットくんだりまで追いかけてきているとは全く想像の埒外だったのだろう。
「ヴァルキューレ?!」
「お、落ち着け!三人しかいないんだぞ!」
「た、確かに…!これなら何とかなるか?!」
「こいつら倒して逃げちまおう!」
チッ。思ったよりも冷静な連中だな。
ルルーシュはもう少し混乱が持続してくれる事を期待していたが、残念ながらそう事は上手く運ばない。
「仕方がない!キリノ、フブキ、敵を足止めしつつ一度撤退するぞ!」
「は、はい!」
「やるしかないよね〜。あ、でも先生」
フブキが言い終えるよりも前に、ルルーシュは指示を飛ばしてしまう。
「フブキは右翼ヘルメット団員に向け発砲!」
「キリノは真ん中のリーダー格らしき奴を狙え!」
フブキの射撃は狙い通り団員らの右翼集団、その1人を撃ち倒したが、キリノの銃弾は明後日の方向に飛んでしまっていた。
全く、誰もいない天井付近を掠める音だけがする。
「な…」
「ご、ごめんなさい〜!私、射撃が苦手で…」
「こ、この
さすがに完全な想定外であり、思わずルルーシュはかなりの声量でツッコんでしまっていた。
「キリノの射撃は中々筋金入りだよ〜?」
「…マジか」
「マジマジ」
どうしたものか、とルルーシュは頭を悩ませる。
当然、その間も敵の発砲は続いており、フブキの銃弾以外は全く敵に脅威を与えていない。
キリノの銃弾は精々流れ弾に気を付ける程度にしか注意されておらず、撤退するにも敵の動きを止められないという情勢であった。
「うう…!当たれー!」
もしや、人に当てられないとかそういうパターンか?
ルルーシュはとりあえず試すべきかとキリノに指示を出す。
「キリノ!ヘルメット団らの奥にある配電盤が見えるか?」
「は、はい…!」
「あれを撃ち抜いてくれ!昼間だが、ビル内だ。電源が喪失すれば多少は目くらましになる」
「わ、分かりました…!」
乾いた音と共に、配電盤は…無傷である。
しかし、全くもって油断していたヘルメット団の一人が、キリノの銃弾を受け、気絶した。
「ええ…」
「あ、当たった…?」
「な、なんだあいつ…!急に当ててきた!」
「まぐれじゃないか?!」
人を撃てないとかそういうわけじゃないな。
これはもしかして──。
「キリノ」
「は、はい?」
「今度は配電盤じゃなく、その手前にいるヘルメット団の奴等を狙えるか?」
「え?あ、は、はい!」
配電盤がショートする。
一瞬、バチッと閃光を小さく迸らせた直後、ビル中に残る電源が喪失。
窓から僅かに供される日光以外の明かりが消え、ビル内は薄暗くなった。
「見えにくい…!」
「でも見えないわけじゃない!あっちにいるぞ!」
ヘルメット団は、完全に視界を奪われたわけでもないため、多少まごつきながらもやはり追いかけてくる。
ふむ…やっぱり、思った通りだったな。
ルルーシュはそんな中、キリノの特性を理解していた。
彼女は全くのノーコンながら、不思議な特性を有している。
つまり、狙いとは反対のものへ直撃させる、というもの。
人質を取られたりしている時なら、人質を狙えば恐らく犯人に当たるのだろう。
にわかには信じられんが今、正にそれを証明するかのような出来事ばかりが起き続ける。
そうであるならば──。
「フブキは悪いが、どうにか敵の足止めを頼む!」
「ドーナツ、コンビニのじゃ割に合わないよ!」
「好きなものを後で買いに行こう!」
フブキはキリノの分までヘルメット団足止めに集中せねばならず、動けない。
だからこそ、ルルーシュはキリノの銃を上手く使わねばならないのだろう。
「さあ!キリノ!まずは、天井の辺りを斉射!」
「は、はい…!」
しかし、銃弾は尽く外れ、空を虚しく斬り続ける。
「うう…すみません…」
「いや、これで良い!つづいてキリノ!フブキのカバーだ!左翼集団に向けて、斉射!」
「え、ええ?先生、私は──」
「構わない。やってくれ」
「──ええい!ままよ!」
当然これも外れる。
しかし、今度は銃弾が虚しく消え去ることはない。
先ほどルルーシュが指定した辺りの天井付近に銃弾が直撃したのだ。
真逆。
警察としては致命的であろう射撃センスの無さが、妙な特性によって一種の特殊能力と化しているのだろうか。
少なくとも、今はこれを上手く利用するしかない。
彼女の射撃は『外れること』そのものを利用するべきだな。
「いたっ!」
フブキ一人ではさすがに止めきれるものではなく、ヘルメット団の銃撃を彼女はその身に受けてしまう。
「フブキ!」
「大丈夫…。やっぱ来るんじゃなかったよ」
「うう…。すみません。私がヘマをしたから…」
さすがにここらが潮時か。
既に周囲を取り囲まれつつあり、フブキもダメージを負った以上、撤退が最優先だ。
ルルーシュはキリノに、再びヘルメット団らに向けて発砲するよう指示を出す。
「は、はい!」
キリノは言われるままに狙いを付け、発砲。
銃弾は天井に着弾し、露出していた配管や電線を損傷させた。
配管から水が噴き出し、電線はそこにぐったりと垂れ下がる。
不用意に突っ込んだヘルメット団員の一人は、片足を水たまりに突っ込んだ瞬間に、飛び上がるように身体を硬直させた。
「あがっっ?!」
感電。
さすがにキヴォトスの人間は頑丈で、意識も問題なく保ってはいるが、しかし、直ぐには動けそうにない、という程度にはダメージを負っていた。
それを見た他の者達は、ルルーシュらとの距離を詰めることが出来ずに、水たまりを挟んで見守るしかなくなっていた。
遠回りをしてこられるよりも早く、ルルーシュらは後背のヘルメット団にのみ集中し、突破を図る。
「キリノ!他に何か武装はないか?」
「え、ええっと…偵察のつもりでしたから…」
ゴソゴソと腰回りを探るキリノ。
直ぐに彼女は、あっ、とそれの存在を思い出す。
「スモーク弾か」
「はい。暴徒鎮圧用ですが…」
「いや、むしろここが使い所だろう。前方へ投擲だ!」
「は、はい!ええっと…」
キリノは安全ピンを抜こうとするが、上手く決まらず、走りながら四苦八苦する。
そして、ちょっとの格闘の後、どうにかピンを外したものの、勢い余ってスモーク弾を取り落としてしまった。
「あっ…!──えいやっ!」
自分達の足下に落としかけたスモーク弾をキリノは蹴飛ばし、前方へと飛ばす。
それが偶然にも上手く決まり、前方のヘルメット団員らはスモーク弾に視界を奪われるのみならず、破裂の衝撃によって少なからず足止めを食らうこととなったのだった。
「結局、戦略も何もあったものじゃなかったな──」
ビルから逃げ出すことに成功したルルーシュはゼイゼイと荒い呼吸をしながら自嘲気味に呟く。
不覚だ。あんな行き当たりばったりでしかも運任せもあった粗雑な戦い方で、しかもたまたま成功までしてしまって──。
いや、成功したのは良いことなんだが…。
まさかキリノが銃撃が下手とは、完全に想定の外だった。
「まあまあ、先生。終わりよければなんとやら、だよ」
「──フッ。そうかもな。確かに、結果としては…」
丁度到着した増援を迎えつつ、ルルーシュは苦笑する。
結果だけを見れば何も問題はない。大成功だ。
しかし、過程の惨状は酷いものだった。
俺も少しは"過程"を気にするようになった、ということだろうか。
ルルーシュはそう自分を納得させる。
確かに、結果の成功とは裏腹に過程は酷いものだったが、ルルーシュがそれを気にするのは、成長によるものか、はたまた彼のプライドか。
それは、ルルーシュ自身も分かっていない事であった。
兎にも角にも、連続窃盗犯は捕らえられた。
窃盗と転売で手にした金で、彼女らヘルメット団は、合法的にカードを買い占め、更に転売をしていたようだった。
それでも窃盗がなくならなかったのは、噂を聞きつけ発生した模倣犯や、ヘルメット団も高いレアカードを手にした者を見つければ、ターゲットとしていたからである。
模倣犯の逮捕は、キリノらが警戒する事で、何れ沈静化させられるだろう。
「先生。ご協力ありがとうございました!」
「いや、私は大したことは…」
「キリノの銃が使い物になっただけでも大した事だよ」
「ちょっ、フブキ!」
「あははっ。でも事実じゃん?」
「うう……。不本意ながら…今度から抜き打ち試験では同じ手を使うしかないかもしれません…」
「まあ、やっている間に上達するさ。きっと」
苦笑しつつ、ルルーシュは一応のフォローを入れる。
「と、とにかく、ヴァルキューレ警察学校を代表して、先生のご協力には感謝を!」
「はいはい。どういたしまして」
「うう…何だか釈然としません…」
「ま、子供達の笑顔が奪われなくなって良かったじゃん?子供達はハッピー、キリノも功績上げれてハッピー。私はドーナツもらえてハッピー。
一石三鳥。気にすることないって」
「そ、そうですよね…」
性格は余り合っているように思えなかったが、なんだかんだ良いバランスをしているのかもな。この2人は。
二人を見送るルルーシュはそんな事を考えながら、シャーレの業務へと戻るのだった。
「ふむ…シャーレの先生が協力して連続窃盗犯を…」
尾刃カンナは回ってきた報告書にふと目を留める。
「…随分と、頭の切れる方のようだ」
シャーレの先生。
はた、と気になったカンナは、シャーレの資料を取り出し、開く。
「シャーレの先生が来た時期と…"ゼロ"の出現時期が近い…」
暫くの黙考。
「二人とも、高い戦術指揮能力を有しているように思える…」
報告にあったシャーレの先生が関わった事件。
特に、アビドス高校の一件等から見えるシャーレの先生、彼の指揮能力は無二のものだ。
そして、"ゼロ"。問題児集団、便利屋68を率いての戦闘では、優れた戦略が見える。
「………いや、まさかな──」
しかし、カンナは、今回の報告書を熟読していくにつけ、その考えを振り払う方向へと思考は進んでいった。
今回の件を見ると、先生は確かに指揮能力は高いものの、"ゼロ"程の周到さには欠けているように思えた。
咄嗟の機転は利くようだが、共に行動したヴァルキューレ生の報告やらも踏まえると、少々ぬけているところがあるようにも思える。
「偶然、か」
キリノのとんでもない特性と、偶然の産物によって、ルルーシュはかなり誤解された、─もしかすると誤解ではないかもしれないが─印象をカンナに与えたようであった。
今回も読んで頂き、ありがとうございます。
また次回もよろしくお願い致します。