コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
Archive-053 何処 かの 楽園
つまるところエデン条約というのは、"憎み合うのはもうやめよう"という約束。
トリニティとゲヘナの間で長きに渡って存在してきた、確執にも近い敵対関係。
そこに終止符を打たんとするもの。
互いが互いを信じられないが故に、久遠に集積していくしかなかった憎悪を解消するため、それに代わって新たな信頼を築き始めようとするプロセス。
より簡単に言おうか。つまりは、ゲヘナとトリニティの平和条約だ。
ただ、連邦生徒会長の失踪をきっかけに、この条約は何の意味も持たなくなってしまった。
"エデン"…それは、太古の経典に出てくる楽園の名。そこに、どんな意味を込めたのかは分からないけれど、まあ連邦生徒会長のいつもの悪趣味だろうね。
キヴォトスの、"七つの古則"はご存知かい?
その5つ目は、正に、"楽園"に関する質問だったね。
"楽園に辿り着きし者の真実を、証明する事が出来るのか"
他の古則もそうであるように、少々理解に困る言葉の羅列だ。
ただ、一つの解釈としては、"楽園の存在証明に対するパラドックス"であると見ることができる。
もし、楽園というものが存在するのならば、そこに辿り着いた者は、至上の満足と喜びを抱くが故に、永遠に楽園の外に出ることはない。
もし、楽園の外に出たのであれば、つまりそこは、真の悦楽を得られるような、"本当の楽園ではなかった"ということだ。
であるならば、楽園に到達した者が、楽園の外で観測されることはない。
存在を捕捉されうるはずがない。
存在しない者の真実を証明する事は出来るか?
つまるところ…この5つ目の古則は、初めから証明する事の出来ない"不可解な問"なのだよ。
しかしここで同時に、思うことがある。
証明出来ない真実は無価値だろうか?この冷笑にも近い文章を通じて、何か真に問いたい事があるのではないだろうか?
エデン…経典に出てくる楽園。
どこにも存在せず、探すことも能わぬ場所。
夢想家達が描く、甘い、甘い、虚像。
どうだい?そう聞いてみると、この"エデン条約"そのものが、正しくそんなもののように聞こえてこないかい?
「私にはむしろ、とても現実的に思えるよ」
ルルーシュは静かに応える。
意外だな。先生はそういった人には見えていなかったよ。
しかし、とても現実的には思えない。
理想論の、夢物語じゃないかい?
「楽園の存在証明。
言葉遊びで真理を語るつもりはない。
しかし、だからこそ、私は言える。
楽園を知り、大切な人達を共に招きたいと考える、利他を持ち合わせる者がきっといるだろう、と」
そして、とルルーシュは続ける。
「そうでなくとも問題はない。
楽園が実在するのか分からないのであれば──」
驚いた。本当に。
君という人間への理解が誤っていたようだ。
しかし、そうなるとむしろ──。
これから始まる話は、君には適さないかもしれない。
不快で、不愉快で、忌まわしく、眉を顰めるような…。
相手を疑い、前提を疑い、思い込みを疑い、真実を疑うような…。
悲しくて、苦しくて、憂鬱になるような…それでいて、ただただ後味が苦い…そんな話だ。
しかし、紛れもない真実の話でもある。
どうか背を向けず、目を背けず、最後までしっかり見届けて欲しい。
「それが"真実"というのであれば…」
そうか。それならば、問題はないのかもしれない。
それは、先生。"この先"を選んだ、君の義務だ。
─トリニティ総合学園 とある教室─
「もう嫌っ!こんなことやってらんない!分かんない!つまんない!めんどくさい!」
ありったけの不満を乗せた声が教室中に響く。
「それもこれも、全部先生のせい!」
小柄な、濃いピンクの髪を二つに束ね、正義実現委員会の服に身を包む少女による凄まじい責任転嫁に、ルルーシュは思わず、大きなため息を吐きそうになるが、どうにか呑み込む。
「あのなあ…」
「もうコハルちゃん。そんな無茶苦茶なこと言ったら、先生が困ってしまうでしょう?」
呆れたようなルルーシュの横からスッと出て来たのは、同じくピンク色の、小柄な少女よりは薄めの長い髪。それを留める白い蝶にも見えるリボンの目立つ、少々、否、かなりサイズがギリギリそうなセーラー服の少女であった。
「あくまで先生は私達を助けるために来てくださっているんですし…そもそも、勉強がわからないのも、試験に落ちたのも、先生ではなくコハルちゃん自身のせいで…」
「うっ…!」
痛い所を突かれた、と一瞬、反論に窮した様子の小柄な少女、下江コハルはしかし直ぐに言い訳を並べ始める。
「わ、私は正義実現委員会の一員だから!
それで授業に出られないことも多くて…そう!そのせいなの!」
「それは他の正義実現委員会メンバーも同じだ。でもここに来ているのはコハルだけ」
もっともな指摘を入れたのは薄紫の瞳と、同じく白い髪にうっすらと紫が混じったような、淡い髪色の少女、白洲アズサである。
「なるほど。つまりアズサちゃんが言おうとしているのは、ただただコハルちゃんがおバカさんだからですよ、ということで合っていますか?」
アズサは否定することもなく小さく頷いた。
「まあ、それも強ち間違ってはいない。仕方のないものは仕方ない。人生は往々にして虚しいものだ」
「確かに人生は苦難の連続ですからね…そういうこともあります」
「ああもうっ!うるさいなあ!?そんなこと言ったらあんたたちも皆一緒じゃん!私がバカならここにいる全員バカでしょ、バーカ!!」
爆発するコハル。
しかし、その反発も一理あると言えるだろう。
何せ──。
「あ、あはは…えっと、それはその…」
最後の一人、阿慈谷ヒフミは苦笑することしか出来なかった。
「な、何も間違ってないでしょ?!バカだからここにいるんでしょ?!あんたたち全員!」
ヒフミは、アズサ、ヒフミ、そして浦和ハナコ、最後に何故かルルーシュにも指を差し、言い切るのだった。
「いや、私は一応先生なんだが…」
そう、俺は彼女らに勉強を教えるためにここへ来ていた。
まあ、キヴォトスに来てからこのかた、先生らしい仕事とは中々縁がなかったが、ある意味本来あるべき先生の仕事、と言えるのだろう。
だが、事は些か単純とも言い難い。
「あう…こ、コハルちゃん。ちょっと落ち着いて…」
「落ち着いてなんていられないわよ!みんな仲良く退学になりそうなこんな状況で…!」
コハルはプンスカという擬音が聞こえてきそうな怒り方でヒフミに詰め寄る。
「も、もし退学になったら…せ、正義実現委員会のメンバーじゃ、な、なくなっちゃう…」
彼女も不安なのだろう。
今度は顔を曇らせ、気勢の喪われた声で俯く。
事は単純ではない。
彼女らの退学が、かかっているのだから。
始まりは数日前に遡る。
ルルーシュはトリニティ総合学園の生徒会である"ティーパーティー"に呼び出されていた。
トリニティ総合学園の敷地を見渡せる広く、美しいテラス。
その真ん中に設置された机は、会議の為に使われるとは思えない、何方かと言えば、茶飲みに使われるような柔和な装飾とその上に幾つもの茶菓子が積まれていた。
そして、その席には二人の少女が座って、ルルーシュを迎える。
「へー、これが噂の先生か〜。あんまり私達と変わらない感じなんだね?」
元気の良さそうなピンク髪の少女が、興味深そうにルルーシュをマジマジと見、笑顔で頷く。
「なるほど〜。うん!私は結構良いと思う!ナギちゃん的にはどう?」
ナギちゃんと呼ばれたのは、ティーパーティーの桐藤ナギサである。
彼女は紅茶カップをソーサーに置き、ため息を吐く。
「…ミカさん。初対面でそういった話はあまり礼儀がなっていませんよ。
愛が溢れるのは結構ですが、時と場所は選びましょうね」
「うぅっ。それはまあ、確かに…」
僅かなやり取りでルルーシュは何となく彼女らの関係性を伺い知ることとなった。
「先生、ごめんね?まあとりあえず、これからよろしくってことで!」
「あ、ああ。よろしく。まあ活発なのは良いことだ」
「…お気を使わせてしまい、申し訳ありません」
「ちょっとナギちゃん?」
ミカの微笑みを無視し、ナギサはルルーシュの方に視線を向け、話を切り替える。
「…トリニティの外の方がこのティーパーティーに招待されたのは私の記憶では先生が初めてです。
普段はトリニティの一般の生徒達も簡単には招待されない席でして…」
「へえ。そいつは光栄だな。どうもご招待頂き、と言っておこうか」
「あー!ナギちゃんが恩着せがましく言うから皮肉言われちゃってるじゃん!」
ミカの歯に衣着せぬ物言いに、ルルーシュとナギサも一瞬、黙り込む。
「失礼しました。先生。そうした意図はなかったのですが」
「ああ、無論、私の方もな」
ニッコリと二人は笑顔を向け合う。
「…ミカさん?」
ルルーシュのそれも代弁するようにナギサが睨みを利かせると、ミカは「あー…」と察したように苦笑した。
「ごめん。大人しくしてるね。できるだけ」
ンンッとナギサは仕切り直すようにルルーシュに向き直る。
「…では、改めて。こうして先生をご招待したのは、少々お願いしたいことがありまして」
「お願い?」
ナギサが口を開きかけた所に、ミカが「おおっ?!」と割って入って来た。
「いきなりだね。ナギちゃん!もうちょっとこう、アイスブレイクとか要らないの?
ちょっとした小粋な雑談とかは?
ほら、ティーパーティーって基本的に社交界なんだし?」
ナギサから睨みつけられても今度はミカも直ぐには折れなかった。
「そんな綺麗な目で睨んでもダメー!これはティーパーティーの在り方の問題なんだから、きちんとしないと」
その反論に、ナギサはニッコリと貼り付けた笑みを作る。
「ミカさん。そういったことは貴女がホストになった時に追求してください。今は、一応私がホストですので、私の方法に従ってくださいな」
ミカもその、全く笑っていない笑顔を前にして更に食って掛かることはしなかった。
「まあ、お客様の前でこのような論争を繰り広げることもまた、望ましい姿でないことは確かですね。
…そうですね。ミカさんの言う通り、ここは少し話の趣向を変えましょうか」
「…いや、私としてはこのまま本題に入ってもらっても構わなかったんだが…。
いや、そうだな。
であれば…君らがトリニティの生徒会長達、という認識で問題ないんだよな?」
ルルーシュとしてもさっさと本題に入りたいところではあったが、折角ナギサが話の趣向を変えた所で、その腰を折るのもな、とルルーシュは雑談に乗ることとした。
「おおっ?!先生よく知ってるんだね!」
「さすがは先生。私達トリニティ総合学園のことにもお詳しいのですね」
「然程でもないさ。多少は調べているが、何せ──」
言いかけ、ルルーシュは口を噤む。
正に、トリニティのトップ層による情報統制と思わしき制限に引っ掛かり、調べ切ることができなかった、とは言えなかったのだ。
トリニティの事を調べていた時には苦労した。
トリニティが禁書だのと指定している書籍も多く、トリニティ外でそうした本を手に入れる事も余り出来なかったからな。
とは言っても、その張本人であろう者達を前に言うわけにもいかないが。
「まあ、各学園の機構だとかは大体頭に入れているつもりだ」
「では、このティーパーティーの源流もご存知なのでしょうね」
「ああ。トリニティ総合学園誕生以前からのものだそうだな。各分派の代表らが紛争を解決する為の場とした、とか」
「はい。パテル、フィリウス、サンクトゥス。
それら三つの学園の代表を筆頭にティーパーティーを開き、和解への流れが生み出されたのです」
「それが所以となって、というわけだな」
ええ、とナギサは頷く。
「だから、今でも各派閥の代表が順番に"ホスト"を務めているのです」
ルルーシュとしては知っている情報でしかなかったので、そろそろ本題に、という気持ちがあった。
それを察してか、ナギサは雑談を切り上げる。
「…それではそろそろ本題に入りましょうか。
先生にお願いしたいことというのはですね、簡単なことです」
「簡単だけど、重要なことだよ」
ミカの補足を、ナギサも「そうですね」と肯定する。
「"補習授業部"の顧問になっていただけませんか?」
「補習?」
「はい。つまり、落第の危機にある生徒たちを救っていただきたいのです。
"部"という形ではありますが、正確には顧問というより"担任の先生"と言ったほうが良いかもしれませんね」
ルルーシュは聞いた限りではそう難しくはなさそうな依頼に内心胸をなで下ろしていた。
アビドスの件、その恩義がある以上、多少の無茶は呑み込む必要があるかもしれない。
そう覚悟していたが、単に成績不振の生徒を教えてくれ、というのであれば、容易いことに思えたのだ。
「トリニティ総合学園は昔から文武両道を掲げる歴史と伝統が息づく学園です。
それなのに、あろうことかよりにもよってこの時期に、成績の振るわない方が四名もいらっしゃいまして」
「私たちとしてはちょっと困ったタイミングで、っていうか…
エデン条約の件で今はちょっとバタバタしててね」
なるほど、とルルーシュは察する。
「人手も時間も足りないから、私を、と」
「そう!困ってるときに丁度見つけたの!新聞に載ってた"シャーレ"の活躍っぷりを!
八面六臂の大活躍!この"シャーレ"にならきっと面倒事を任せられそうだな!って」
「面倒事なんて言ってはいけませんよ。ミカさん」
「ま、まあでも、ある意味本当のことでしょ?」
誤魔化すように苦笑するミカ。
「便利屋ではないんだがな…」
「でも、"先生"なんでしょ?
今は皆、BDで学習する時代だし、学校の職員とか教授ならまだしも、"先生"って概念は珍しいんだよね」
ミカはスラスラと言葉を並べ立てていく。
「先の道を生きると書いて、"先生"。…つまり"導いてくれる役割"ってことだよね?
尊敬の対象。あるいは生きる指針としてみんなに手を差し伸べ、導く。…補習授業部の顧問としてこれはぴったりだな、って!」
なるほど。ミカは少々、言葉を選ばないというか…思ったことが口に出るタイプというだけで、決して頭が悪いわけではないな。
つらつらと俺が断れないように瞬時に彼女自身で作った失言を誤魔化し、俺の逃げ道を塞いできた。
なるほど。ティーパーティー。
噂通り、全員一筋縄では行かない子達、というわけか。
「とにかく!今は忙しいのもあって、先生にこの子たちを引き受けてほしいの!」
「…もう少々説明いたしますと、この補習授業部は常設されているのもではなく、特殊な事情に応じて創設し、救済が必要な生徒たちを加入させるものです。
少々特殊な形ではありますが、急ぎということもあり、シャーレの超法規的権限をお借りしつつ、といった形でですね」
ルルーシュはピクリ、と耳を動かす。
「私が許可する前提で創設した、というわけか?」
「それは…申し訳ありません。正式にはまだ発足していませんが、本質は"成績の振るわない生徒達の救済"の為にあります。
だからこそ、このような特殊な形での創設が許可されました。
後は、先生が同意していただければ、正式に完成、というわけです」
いかがでしょう。とナギサはすまなさそうにしつつもルルーシュに問いかける。
「助けが必要な生徒達に手を差し伸べてはいただけませんか?」
「…なるほどな。少々気にかかることはあるが…」
ふう、と息を吸い、ルルーシュは外向きの、社交的な笑顔を浮かべる。
「私に出来ることがあれば、よろこんで。
ナギサには借りもあることだしね」
「やった!ありがとー!先生!」
嬉しそうに笑うミカ。
ナギサも柔和な笑みを浮かべる。。
「ふふっ。きっと断らないだろうとは思っていましたが…ありがとうございます」
では、こちらを、とナギサはルルーシュへ名簿を手渡した。
「ところで、ナギちゃん。先生。借りって?」
「ああ…それは…まあ、ちょっとした事です」
「えっ?二人って初対面じゃなかったの?」
「初対面だよ」
「ええっ?!どういうこと?!」
ミカは知らない案件だったか、と自ら招いた若干の迂闊をルルーシュは自省する。
「ちょっとした廃棄物処理で協力しただけですよ。
他の方を通しての間接的なものでしたから、ご存知ないと思っていましたが…」
「ああ、後で聞いてね」
「…ふーん。なーんか怪しいけど…まあ、良いか!でもそれなら、丁度良かった、ってことだよね!」
「かもな」
どうにか追求を躱しきり、ナギサとルルーシュは胸をなで下ろす。
「話が逸れましたね。その名簿の方々が対象です」
「つまりトリニティの厄介も──」
ミカが言いかけた言葉をナギサは瞬時に目で制止する。
「その表現は愛が足りませんよミカさん。こう言いましょうか。トリニティにおける"愛が必要な生徒達"」
「まあ、呼び方はなんでも良いけどね〜」
二人のやり取りの横で、ルルーシュは名簿に載る生徒の名前に、見覚えのある生徒が記載されていることに気付いていた。
「ん?何か気になる子でもいた?先生」
「いや…特には」
「?そうですか。では詳しい説明は追ってご連絡致しますね。他に気になる点はございますか?」
ルルーシュはふむ、と数秒思案してから、思考の端でずっと気になっていたことを尋ねることとした。
「もう一人の生徒会長、百合園セイアは何処に?見当たらないが、ティーパーティーの場にいなくても良いものなのか?」
「…それは」
「セイアちゃんは今、トリニティにはいないの。入院中で…」
言いにくそうにミカがそう説明する。
「…本来であれば、今のホストはセイアさんだったのですが、そういった事情の為、私がホストを務めているところです」
「なるほど。それは尚更人手が限定されて大変だろうな。
補習授業部の必要性についてはより強く理解した。
後は、おいおい聞いていくとするよ」
分かりました、とナギサとミカは席を立ち、ルルーシュを見送る姿勢に入る。
「それでは、また後日。準備が整い次第、先生にはトリニティ総合学園に派遣、という形で来て頂ければ、と」
「了解だ」
「ご協力、感謝致します」
「じゃっ、またね先生。また会えるのかどうか分からないけれど!」
「そうですね。特に今は忙しい時期ですし、ティーパーティーの生徒会長がこうしてまた、直ぐに集まれるとも限りませんから」
フフッと、ミカはナギサの顔を覗き込む。
「やっぱり忙しいんだ?ま、でも、先生のおかげでこうしてナギちゃんの顔を見られたし、良かった良かった」
「はい。私もですよ。ミカさん」
柔らかく微笑むミカとナギサ。
二人はかなり、いや、随分と仲が良いようだな。
幼馴染と調べは付いていたが…。
想像以上だ。まあこれならば、妙な対立で派閥抗争が激化するようなこともあるまい。
余計な事は考えずに一先ず補習授業部の成績向上に集中出来そうだ、とルルーシュは型通りの挨拶を済ませつつ、思うのだった。
あくまで、一先ず、ではあるが。
補習授業部という存在。更にシャーレの介在。
そして、エデン条約。
種々の要素から、ルルーシュは、補習授業部という存在に、まだはっきりとはしていないものの、確かな違和を感じ取っていたのだ。
しかし、とにもかくにも成績不振をどうにか出来なければ退学。
既に崖っぷちと言える4人を、ルルーシュは教えていかなければならない。
「勿論、私も退学になるつもりなんてない。
何をしても、惨めな思いをしようとも、乗り越えてみせる」
アズサはそう決意を滲ませたが、ハナコはコハルやアズサとは真逆の楽天的な調子で言う。
「退学になったからといって何もかも終わり、というわけではありませんから、気楽に行きましょう。むしろ…」
「あ、あのっ!」
最後の一人、ヒフミは大きな声を挙げ、皆の注目を集めた。
「あ、えっと…その、こうして集まっているのは、そもそも退学にならずに済むためですし…
とりあえずその…皆で知恵を寄せ合って何か良い方法を探さないと…」
そうしないと、とヒフミは小さく身震いする。
「本当に仲良く全員退学…なんてことに…」
ハナコはうんうん、と訳知り顔に頷きつつ、ずいっとヒフミの方へ身体を寄せる。
「知恵を寄せ合う…なるほど悪くないのですが、余りグッと来る感じじゃありませんね。もう少しこう…何か…そうですね…"弱くて敏感な部分を寄せ合う"とかでいかがでしょうか?」
「い、いきなり何言ってんの?!
下ネタは禁止!死刑!び、敏感な部分って、何をどう寄せ合おうってわけ?!」
コハルがハナコの怪しげな言い回しに過剰とも言える反応を見せる。
「ああ、わかりにくかったですか?では、実際にやってみせましょうか、もう少し足を開いていだいて…」
じわりじわりと近寄ってくるハナコに、コハルは困惑ばかりで、後退りこそしたものの、逃げる選択を取るまでには間に合わなかった。
「や、やめて近付かないで!まだ知りたくもないし分かりたくもないから!」
「えいっ♡」
ハナコに組み付かれ、コハルは情けのない声を絞り出すことしか出来なくなるのだった。
「や、やめっ…!やめてえっ!助けて先生…!
わ、私が悪かったです!先輩相手にタメ口すみませんでした!もう許してやめてっ──!」
ヒフミが、困ったような、今にも泣き出しそうにも見える表情で、「せ、先生ぇ…」とルルーシュに助けを求める。
「はあ…」
誰だ。勉強を教えるだけなら簡単だ、などと考えたのは。
俺だな。俺だ。
単に勉強が出来ないだけなわけがないだろうとは思っていたが──。
ルルーシュは教科書で軽くハナコの頭をはたいてから、教壇へと上るのだった。
確かに、先生らしい仕事ではある。
恐らく、今までの何よりも。
しかし、この妙な胸騒ぎはなんだ。
単に彼女らの厄介さによるものだけではない気がする。
俺は何か、見落としているのか?
「ルルーシュ・ランペルージ。君達の顧問となった。よろしく頼む」
「よ、よろしくお願いします」
ヒフミだけは丁寧に頭を下げる。
「本当にお願いします。先生。
このままだと、私たち本当に退学に…」
「安心しろ。退学になどさせないさ。
だからこうして、"先生"がいるのだから」
今回も読んで頂き、ありがとうございます。
また、次回も更新日は未定ですが、どうぞよろしくお願い致します。