コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
「では、改めて。補習授業部の顧問、ルルーシュ・ランペルージだ。よろしくな」
「はい。よろしくお願いします」
ヒフミ以外は伺うような視線をルルーシュに向けるのみだった。
「…何か分からないことがあれば何でも──」
「大丈夫だ。これからは普通の授業に加えて、毎日放課後に特殊訓練がある、ってだけでしょ」
「まあ、訓練と言えば訓練だな。
君等はこれから行われる特別学力試験で"全員同時に合格すること"を目指してもらう」
全員合格、ではなく、全員同時に、か。
ナギサの意図はやはり、単なる成績不振者救済になどはないな。
ルルーシュは自分で説明しながら、その条件設定に改めて強い違和感を覚えていた。
まだ情報が不足している以上、断定は出来ないが、彼女の狙いは恐らく、ここにいる者達全員の退学、だろう。
妙な条件設定からして、合格させるつもりを感じない。
合格、救済が目的なら全員同時合格なんて条件は不要だ。
まだ他の可能性もありはするが、今のところ一番可能性は高そうだ。
しかし、ヒフミは友人と聞いていたが…。
「それで…試験は合計3回ある。
その内一度でも全員が同時に合格ラインに達していれば、補習授業部もそこで終わりだ。
私はスケジュール調整や、補講を担当させてもらう」
ルルーシュの説明に、アズサはコクリと頷いた。
「理解した。3回のミッションの内、一度でも良いから全員で成功を収める。そのために毎日ここに集まって訓練を重ねる。…それほど難しい任務じゃない」
「この集まりはつまり、各自のリタイアを防ぐための措置。私としては特にサボタージュする気も理由もない」
アズサの若干物騒さを感じる個性的な言い回しへの反応に困ったような眉の下がり方をしているヒフミだったが、「そ、そうですね!頑張りましょう!」と当たり障りのない返しをした。
「えっと、アズサちゃんは転校してから余り時間も経ってないんですよね?
まだこの学園に慣れてなかったせいもあるでしょうし、皆で頑張れば直ぐに何とかなると思います!」
「そういえばアズサは転校生だったか」
「トリニティに転校だなんて、珍しいですね…?」
ハナコが訝しむような目をアズサへ向けた事をルルーシュは見逃さなかった。
トリニティに転校生というのは珍しいのか…?
アリスが転校生という設定で割と通っていたから、キヴォトスでもままあるものかと流していたが…。
「あ、書類上はそう書いてあって…。ごめんなさい。私もしかして余計なこと言いましたか…?」
「いや、別に隠すことじゃないから気にしないで良い。れっきとした事実だ。
こう言われるのは慣れるべきだし、そのための努力もする」
アズサは特に気にした様子もなく、すました顔で言ってのける。
ハナコはそれを見て何を感じたのか、ルルーシュには判別出来なかったが、一先ず警戒を解いたのか、「それでは私もアズサちゃんって呼んでも良いですか?」とアズサへ笑いかけた。
「…?別に良いけど…」
「では、アズサちゃん、ヒフミちゃん。それからコハルちゃん。うふふふ、何だか良い響きですね。
私達はこれから補習授業部の仲間、ということで」
うふふふ、と笑うハナコだったが、はた、と自身に向けられている視線に気付き、その主、コハルへと目を向けた。
「あら、どうしたんですかコハルちゃん。そんなに憎悪の籠もった目で」
「…言っておくけど、私は認めないから…!」
鋭い眼光で彼女はそう強く言う。
「あら、何のことですか?」
「わ、私は正義実現委員会のエリートだし!
私の方が年下だからって、あんたたちを先輩だなんて呼ぶつもりはないから!」
それに、と彼女は自身の境遇に納得がいっていないのだろう、全身に怒りを滲ませながら言う。
「こんな部活さっさと抜けてやるんだから!
あんまり馴れ馴れしくしないでもらえる?!」
「なるほど…確かに補習授業部の中でまで先輩後輩なんて扱いにする必要はないと思います。
私としても何の問題もありません」
ハナコはにこやかに、サラリと頷く。
「私も別に…そもそもそう言う文化は不慣れだし。
それに、仲良くする為に集まってる会じゃない。あくまでお互いの利益の為なんだ。親しいふりをする必要もないはず。違う?」
アズサも淡々と同調した。
「そ、それはそうなんですが…あ、あうう…」
誰も否定はしなかったので、コハルは「じゃあ決まり!」と勝ち誇ったように言うのだった。
そして、彼女は尚も、抗議するように続ける。
「そもそもの話、私が試験に落ちたのはあくまで、飛び級の為に、一つ上の2年生用のテストを受けたせいだから!」
「あら、飛び級?どうしてそんなことを…?」
「ど、どうしても何も、私はこれから正義実現委員会を背負う立場になるわけだし」
コハルはそう言い並べる。
しかし──。
「補習授業部行になる程度には何度も受けて落ちている、ということになるが…」
「ええ。一度試しに、と言うことであれば理解出来ますが」
コハルは顔を真っ赤にしながらうるさいうるさい!とハナコ、ルルーシュの追求を打ち消す。
「私が言いたいのはそういうことじゃなくて!
つまり私は今まで、本当の力を隠してたってこと!」
ルルーシュは迸る嫌な感覚から目を背けようと資料に目を落としていた。
「今度のテストはちゃんと、一年生用のテストを受けるから!そうすればちゃんと優秀な成績を収めてはい終わり、ってわけ!分かる?」
ええっと…とハナコとヒフミは困ったように笑う。
「それでこんな補習授業部なんてすぐに辞めてやるんだから!」
「えっと…個人で優秀な成績を出したとしても、それでこの部活を卒業出来るわけじゃなくって…」
……はあ。
なるほど試験に落ちるわけだ。
説明した筈の事が全く理解されていないこと。
ルルーシュにとって先行きの不安を増させるには充分であった。
「短い付き合いで残念だけど、あんたたちはそういう感じじゃなさそうだし?
じゃあね!精々頑張って!」
「い、いってしまいましたね…」
「うふふ。コハルちゃんはテンションの上下がすごくて、見ていて面白いですね。
アズサちゃんは対照的に一貫して全然ブレないですし。…これから、楽しみですね」
微笑むハナコとは対照的に、ルルーシュは補習授業部に来てから何度目になるか分からないため息を呑み込むのだった。
そして、翌日。
放課後。
「ふむ…」
ルルーシュは意外な想いを抱いていた。
「ハナコ、この文章はなに?」
「古い叙事詩の冒頭部分ですね。"怒りを歌え、神性よ──"という」
「ああ、アレか。理解した」
問題児に見えたハナコが、アズサの質問に答え、勉強を教えていたのだ。
それも、間違った答えを教えている、なんてこともない。
嬉しい誤算、か。
杞憂だったのなら良かった。
──となると、問題は…。
ルルーシュはチラリとコハルの方を見る。
「…?」
「コハル。何か分からないことがあったか?」
「いっ、いやっ?!別に?!」
「…因みにそこは今回の試験範囲ではないが」
「えっ?!うそっ?!」
ギョッとしながらページをめくろうとしたコハルだったが、手を止め、首を振る。
「ち、ちがっ…!知ってるし!今回の範囲は余裕だから、先の範囲を予習してるだけ!」
「……。一先ず、試験合格がまず優先だ。余裕ならば復習をしておいてくれ」
恐らくプライドが邪魔しているな。
はあ…。まあ、チャンスは3回ある。
一回目はこの様子だと諦めるしかなさそうだ。
まあ、他のメンバー、アズサやヒフミも一朝一夕とは行くまいし、仕方がないと割り切るか。
コハルの虚勢を論破して来なくなっても困る、とルルーシュは話を合わせつつの軌道修正を図りながらも、一回目のテストは半分諦めていた。
「ハナコ、これは…」
「これは古代語を重訳したものですね。原文を理解するには辞書がないと…。
ちょっと待って下さいね」
古代語と聞くと、アズサは辞書を待つ間でもなく、合点がいったと頷く。
「なるほど。なら、これは恐らく"Gaudium et Spes"…喜びと希望、か」
「えっと…はい。そうみたいですね。これは第二回公会議における…いえそれより、アズサちゃん、古代語が読めるんですね?」
「ああ、昔習った」
古代語に精通している…?
転校生で、か。
めぼしい学校で古代語を必修にしているような学園なんてあったか?
「アズサ」
「どうしたの?」
「……いや、悪い。何でもないよ」
「…?そう。─あ、ハナコ、この問題なんだけど」
前に転校生と話した時にも何処の学校からかは言わなかった。
恐らく敢えてだろう。
何も問題がなければ、言っていてもおかしくはない。
しかし、そこに触れないということは何かしら触れてほしくない事情があるのだろう。
デリケートな話題なのか、それとも、前にいた学校の名前を出しては不都合があるのか…。
何れにせよ、ここで聞くのは良い選択ではなさそうだ。
まあ今は、思っていたよりも順調に行っていることを喜んでおくか。
「何だか安心したよ」
「はい!ハナコちゃんがなんだかとっても凄くって…!それにアズサちゃんも学習意欲たっぷりです!」
ヒフミも今の様子に安堵を覚えていたのだろう。
ルルーシュと共に癖の強い三人の様子を見た後だからこそ、余計に。
「コハルちゃんは実力を隠していたようですし…!」
「………」
「これならもしかして、余裕で合格出来てしまうかもしれません!」
コハルに関しては、今、無意味にヒフミを不安にさせる必要もない、とノーコメントを貫く事にしたルルーシュ。
「本当に良かった…実はすっごく心配してたんです」
「心配?」
「はい。実はもし、"一次試験で不合格者が出てしまったら、合宿をしてください"とティーパーティーから言われてまして」
「合宿」
「そうなんです。…それにもし、三次試験まで落ちてしまったら…あうう…」
「落第者は退学、だったか」
「…と言いますか…いえ、な、何でもありません!心配は杞憂で終わりそうですし、暗い話はここまでにして!」
ヒフミが濁した言葉の先が気にかかるところではあったが、実際ルルーシュとしても、二次試験以上に長引かせるつもりもなかった。
コハル以外は一次で殆ど問題が無くなるだろうし、その上合宿まであるとなれば、まあ二次試験で合格ライン自体には届く、と。
彼は、ナギサが補習授業部を創設した裏の目的があると勘付いてこそいたものの、精々、一次的な隔離、或いは監視の為くらいだろう、と。
まだ、それ程、深く捉えてはいなかったのだ。
「まあ、一応合宿の準備はしておいた方が良いだろう」
「ちょ、ちょっと先生。怖い冗談は止めてくださいよ〜」
「悪い悪い。しかし、一応二回目くらいまでは予想しておくべきだろう」
「う、余り考えたくはないですが…まあ確かにそうかもですね…。私も及第点ギリギリですし…何かあれば、ってことはありますものね…」
しかし、とルルーシュは意気消沈するヒフミに若干バツの悪さを感じ、話題を変えた。
「ハナコは勉強が出来るように見えるな」
「…ですね。どうして落第してしまったんでしょう…。私みたいにテストを受けられない事情でもあったんでしょうか…」
その疑問への答えは、直ぐに明かされる事となる。
放課後の補講を幾度か繰り返し、第一次試験当日──。
「全員揃ってるな。
これから問題用紙と答案用紙を配る。合図があるまで触れないように。
それと、落ち着いて頑張るんだぞ」
「え、エリートの力を見せてやるんだから!」
「あ、あはは…頑張ります」
四人の準備が整っているのを確認してから、ルルーシュは腕時計に目を落とす。
「よし。始め」
一斉に問題を解き始める四人を見送るようにして、彼自身も問題用紙に目を落とす。
ふむ。
問題としては基礎的なものばかりだな。
補習でやったような内容も多い。
これならばヒフミ、ハナコは問題ないだろう。
アズサとコハルもこれなら、及第点くらいは余裕で行けそうか。
身構えていたが、杞憂だったのやも知れんな。
純粋に救済措置で、俺が穿ち過ぎていただけだったのか。
まあ、だとすれば、ナギサには悪いことをしたが、問題は解決、だな。
四人の様子をチラリと伺うルルーシュ。
ヒフミは恐らく、問題ないだろう。
周りの様子を気にかけている程だ。
ハナコも、余裕がありそうだな。良し。
アズサは…表情が読みにくいが、ペンは動いている。
コハル…は、まあ、一応解いてはいるな。
しかし、単に救済措置なのであれば、何故全員合格という条件を──。
"愛"と言うやつか?助け合うことも条件の一つ、という意味だったのだろうか。
それとも──。
やはり、まだ油断するには早いか?
だが、問題の簡単さを考えると…。
ルルーシュはナギサの意図が矛盾しているようにすら感じられ、混乱していた。
そうして、結局これといった結論は出ないまま、試験の時間は終わりを告げるのだった。
そして翌日──。
「皆、お疲れ様。試験の結果が届いている。
合格ラインは100点満点中の60点。
半分と少しで合格だ」
「問題も簡単でしたし、これなら…!」
ヒフミは明るい表情で結果発表を待っていた。
「先生、お願いします!」
「ああ。まず、阿慈谷ヒフミ。72点。良いじゃないか」
「あ、ありがとうございま…!何だか無難な点数ですが、良かったです!」
次、とルルーシュは答案を取り出し、そして、結果を知ってしまう。
まあ、予想の範疇だ。仕方ないな。
合宿が決定したこと自体は予想内であり、ルルーシュはまだ、平静を保っていた。
「白洲アズサ、32点」
「はいいっ?!」
「ちっ。紙一重だったか」
「紙一重って点数じゃないですよ?!結構足りてないですよ?!」
ヒフミにとっては完全に予想外であり、困惑した様子でツッコミを入れる。
「まあ、次頑張ろうな。…次」
此方もある程度予想通り、ではあったが、少々予想を下回っていた。
ここまでとはな…。
まあ、察していたことだ。合宿でどうにかするしかないな。
「下江コハル。11点」
「コハルちゃんんんん?!ち、力を隠してたんじゃないんですか?!?!今回はちゃんと一年生用の試験を受けたんですよね?!ま、まさかまた2年生用の…いえ、その点数、3年生用の試験を受けたんですか?!」
「やっ…その…かなり難しかったし…」
「すっごく簡単でしたよ?!小テストみたいなレベルでしたよ?!」
余りの衝撃に、ヒフミは事実とはいえ、辛辣に捲し立てた。
「あらあら」
「うう…合格したのは私とハナコちゃんだけ、ということでしょうか…となるとまた次の…二次試験を受けないと…」
「ヒフミ」
「はい?」
ルルーシュは、顔を若干青くさせながら、ヒフミにも事実を伝える。
彼にとって、直ぐには呑み込めない程、最も予想外な結果が目の前にあった。
そしてそれを、信じられないままに口にするのだった。
「浦和ハナコ……2点」
「2点?!?!?!」
ヒフミが飛び上がらんばかりに叫ぶ。
「2点?!2点ですか?!20点ではなく?!
いえ、20点でもダメなのですが!…むしろ何が正解だったんですか?!
と言いますか、待ってください!ハナコちゃんものすごく勉強が出来る感じでしたよね?!」
「確かに私、そういう雰囲気があるみたいですね。まあ、成績は別なのですが」
ニコリ、と笑うハナコ。
ルルーシュはしかし、それを信じてなどいなかった。
アズサに教えている内容は間違っていなかった。
確かに、アズサは一年用のテストを特別に受けている。
だが、一年の内容をしっかり理解しているのならば、その後が振るわなかったのだとしても、基礎的な内容だった今回のテスト、2、30点は確実に取れる筈。ましてや2点などあり得ない。
そう、真面目に解いていたならば…。
──つまり。
いや、まさか、そうか。ナギサ。君はこれを予想していたな?
やられた、という悔しさを隠しつつ、ルルーシュはハナコの様子を伺う。
しかし、彼女はとんと気にした様子も見せない。
「くっ…ん?」
「雰囲気だけ…そんな…あうぅ…」
ヒフミはくらりと身体を揺らすと、魂が抜けたように脱力し、倒れ込むのだった。
「ヒフミ!?」
「あう…これ…じゃ…皆…退…」
「………ショックで気絶したか」
補習授業部の合宿と二次試験実施が決まったその夜。
ティーパーティー、ナギサの下へとルルーシュは来ていた。
「あら、先生。お疲れ様です。補習授業部の方はいかがですか?」
にこやかに出迎えるナギサに、ルルーシュは皮肉げに笑ってみせる。
「知っているだろう?」
「…ええ。どうやら最初の試験は上手く行かなかったようですね。ですが、まだあと2回残っていますので」
「…そうだな」
息を吐きつつ、ナギサに勧められ、席に着いたルルーシュは机上に置かれた、彼にとっても馴染みの強いチェス盤に目を惹かれる。
「…チェスか」
「はい。趣味でして」
「ふむ。変わった形だな。
黒はキングとクイーン。後は全てポーンだけ」
「白はキング、ルーク、ビショップ、ナイトがそれぞれ3〜4個ずつ。…余り見ない形でしょう?」
「ハンデ戦でも中々見ないな。一人でやってたのか?」
はい、とナギサはソーサーにティーカップを置き、頷く。
「今は私一人で。うるさいミカさんもいないですし」
ニッコリ、とわざとらしく微笑むナギサ。
「今回は先生にお伝えしておきたい事があったのですが…それよりも先に先生の方から何か言いたげな事があるように見受けられますね」
「…3回とも不合格になった場合…3回全部不合格の者だけが退学…というわけではないのだな?」
「…出処は、ヒフミさんでしょうか?」
フッと彼女はカップを再び手に取った。
「彼女はそういうところがありますからね。まあそれが、ヒフミさんの良いところでもありますが」
さて、とナギサはルルーシュに目を向ける。
「質問にお答えしますと、簡単なことです。
試験で不合格を繰り返す。落第を逃れられそうにない。助け合うことも出来ない。…だとすれば、皆さん一緒に退学していただくしかありません」
やはり、建付けとしては助け合いがお題目だったか。
「シャーレの権限を組み込んだのはそういうことか。
本来、無関係の合格者をも退学になどさせられない」
「─ええ。ですが、愛は大切ですから」
「それで?」
「それで、とは?」
「建前は理解した。それで、君の目的は?」
あら、とナギサは怪しく微笑する。
「先生はお気付きになっていたのですか?
…それとも、かまをかけられたのでしょうか。
まあ、もう隠し立ては致しません」
そもそも、補習授業部は、とナギサからはこれまで浮かべ続けていたアルカイックスマイルが消えた。
「生徒を退学させるために、作ったものですから」
やはり、か。
ルルーシュもその意図は試験結果を知った時に推測出来ていた。
問題は、その理由だ。
「理由は?」
「あの中に、トリニティの裏切り者がいるからです」
「裏切り者…。条約絡みか?」
「…さすが、先生は良くお調べになっているんですね」
少し驚いたように目を開き、ナギサは言う。
「そうです。裏切り者の狙いは、エデン条約締結の阻止」
「なるほどな。読めてきた。
トリニティとゲヘナの敵対関係を終わらせる条約。話し合いで対立を終わらせられる、というのは喜ばしいことだ、が…。
それを良しとしない連中がいる、というわけか」
「…そうですね。これは元々連邦生徒会長が提示した解決策でもありました。
恐らく、トリニティとゲヘナの敵対関係を終わらせ、キヴォトスの力のバランスを保つ唯一の解決策。
彼女の失踪によって空中分解しかけましたが、どうにかここまで立て直しました」
トリニティの派閥争いの激しさは聞いていたが、予想以上に深刻なようだ。
恐らく、対ゲヘナ強硬派とでも言うべき集団が条約を良く思っていない、という所か。
まあ、よくある話だな。
「この念願の条約が締結される直前、このタイミングで、妨害しようという者達がいる、という情報を耳にしました」
「誰かまでは特定出来なかったが、あそこにいる、と」
「先生はお話が早くて助かります。
ええ、次善の策として、容疑者を一つの箱に集めたのです」
だが、そうなるとナギサの意図とは…。
「いざという時、全員をまとめて切り捨てるつもりか」
「……はい。おっしゃる通りです。
先生にはその"箱"制作にご協力いただきました」
凡そ、合点がいった。
単に成績不振というだけではない生徒だけが集められている補習授業部。
3回以内に全員合格でなければ退学。
そして、一次試験の結果。
ナギサの意図も、その信憑性も納得は行く。
しかし、それを理解していてもなお──。
「…ごめんなさい。こんなことに先生を巻き込んでしまいました。…私を罵って頂いても構いません」
「別に、私には謝る必要はない。
私とて、こういう手は使うしな」
それで、とルルーシュはナギサを見据える。
「私にも裏切り者探しに協力しろ、と言いたいのだろう?」
「流石ですね…。何故、分かったのですか?」
「そうでなければ、話す理由はない。違うか?」
「その通りです。補習授業部にいる裏切り者を、探しては頂けませんか?」
ナギサは姿勢を正し、続ける。
「先生を、トリニティを騙そうとする者がいます。平和を破壊しようとするテロリストです。
私たちだけでなく、キヴォトス全体の平和を、自分達の利益と天秤にかけようとしているのです」
「裏切り者を探し出すことが、キヴォトスの平和に直結します。
いかがでしょう?連邦捜査部、シャーレとしてご理解頂けますと幸いなのですが──」
ふう、とルルーシュは息を吐く。
彼女の言うことは嘘ではないだろう。
そうであるならば、協力するべきだと、そう考えているルルーシュ。
そして、それは"先生"として正しいのか、と考えるルルーシュ。
彼の思考は二つに分かれていた。
「……話し合いで争いを解決しよう、という条約。素晴らしい事だ。
平和を破壊されるわけにも行かない」
「でしたら…」
「…………ナギサ」
迷うだけでは何も進まない。
ルルーシュは一つ、賭けることにした。
「一局、勝負しないか?」
「…はい?」
「私が黒で、君は白で打つ。このままな」
「ええと…?」
「君が勝てば、君の望む通り、協力しよう。
私が勝てば、私なりに対処させてもらう。…どうかな?」
ナギサは面食らったように目を見張る。
そうしてから、困ったように眉を下げた。
「先生。このままでは余りに結果が見えています」
「何、多少、腕に覚えはある」
「私も、自信はありますよ?」
それに、とナギサは真面になった。
「私に、受けるメリットはあるのでしょうか。
仮に先生のご協力を頂けなくとも、余り言いたくはないですが、万一の時は──」
「なら、他にも何か一つ言う事を聞こう。
どうだ?」
数秒の思考の後、ナギサは「良いでしょう」と頷いた。
「先生が勝った場合の条件は、変更ないですか?」
「ああ、私は私の好きにやらせてもらう。
それだけで良い」
分かりました、それでは、とナギサはまず、本来ポーンの位置にあるナイトを手に取り、ルルーシュ陣に向けて進ませた。
ルルーシュは、これまで己に課し続けてきた信念のままに、キングを手にする。
「キングを…?後手不利なのを分かっていて、更に一手譲るつもりですか?随分と…」
「譲ったつもりはない。これは私の、覚悟だよ」
彼は、自らの思考の迷いを打ち切るように、真っ直ぐと盤上にキングを、振り下ろした──。
今回も読んで頂きありがとうございます。
また次回も是非よろしくお願い致します。