コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
Archive-006 砂漠の出会い
【こんにちは。私はアビドス高等学校の奥空アヤネと申します。
今回、どうしても先生にお願いしたいことがありまして、こうしてお手紙を書きました。
単刀直入に言いますと、今、私達の学校は追い詰められています。
それも、地域の暴力組織によって、です。
こうなってしまった事情は複雑ですが…。
どうやら私達の学校の校舎が狙われているようなのです。
今はどうにか食い止めていますが、そろそろ弾薬等の補給が底をついてしまいます…。
このままでは、暴力組織に学校を占領されてしまいそうな状況です。
それで、今回先生にお願い出来れば、と思いました。
先生。どうか、私達の力になっていただけませんか?】
ルルーシュが手紙を読み終えて直ぐ、アロナが口を開く。
『うーん…アビドス高等学校ですか…。昔はとても大きい自治区でしたけど、気候の変化で街が厳しい状況になっていると聞きました』
「ああ。今でも面積だけなら中々のものだ。
…ただ」
ルルーシュは地図を睨む。
アビドス自治区、その大半は砂漠であると、地図は無表情に示している。
『昔は街の真ん中で道に迷って遭難する人がいたくらいだそうです!』
『あはは。まさか、そんなことあるんでしょうか…?幾ら何でも街のど真ん中で遭難だなんて…』
「まあ、誇張表現の一種だろうな。…今は砂漠で遭難してしまえそうだが」
『そうですね…。それより学校が暴力組織に攻撃されているなんて…ただ事ではなさそうですが…何があったんでしょうか?』
「さあ。まあ、行ってみれば分かるだろう。
どうせまだ急ぎの仕事なんて殆どないんだ。
さっさと出てしまおうか」
『直ぐに出発ですか?!さすが大人の行動力!』
「別に大したことじゃない。一度現場を見なければ何が必要かも分からんだろうからな」
ルルーシュは言いながらビジネスバッグを手に取り、"シッテムの箱"を懐へ仕舞う。
まだキヴォトスへ来て日も浅いルルーシュは荷物自体が少なく、かなり身軽である。
「じゃあ。行こうか。アロナ…とその前に一応買っておこうか」
ルルーシュはそのまま、アビドスは砂漠化が進んでいるようだしな、とシャーレビルの一階に設置されたコンビニへと顔を出した。
「……あ!先生!?いらっしゃいませ!」
ぼんやりとした様子であった、ぶかぶかのエプロンを付ける店員は、ルルーシュに気付くと、慌てて背筋を伸ばし、マニュアルを叫んだ。
「やあ、ソラ。おはよう」
「お、おはようございます」
ルルーシュはレジに立つ、その娘に挨拶をし、店内の物色を始める。
ソラ、サイズの合っていないエプロンを付け、売店にずっと、殆ど常駐しているようにも思えるその女の子とルルーシュは、彼がシャーレに来た翌日に出会っていた。
─二日前。
「…ここにコンビニを置いても余り客は来ないんじゃないか?」
シャーレ初出勤日、ルルーシュはまだ外が薄明かりに包まれている頃、煌々とビルの一角が明るく道を照らしている事に気付き、店の存在を知った。
「やっぱりそう思いますよね…」
店の前でボソリと漏らした声に反応があり、ルルーシュは背後を振り返る。
「あ…。君は…店員か?すまない。聞かれてしまっていたか」
着けているエプロンのデザインとコンビニの看板が一致していることからそう当たりを付けたルルーシュの予想は正しかった。
「本当のことですから大丈夫です。お客様が3日ぶりのお客様なんで…」
「シャーレが開く前からやっていたのか…」
一体どんな経営者が運営しているんだ、と思いつつ、これで帰るわけにもいくまいと店内へ入る。
「品揃えは悪くないな」
「はい。だから廃棄の商品もいっぱいあって…」
「まあ、だろうな…ところで、君はバイトなのか?」
「はい。ここのバイトです。…とはいってもここの店員私だけなんですけどね。だから発注とかも私がやってて…」
とんでもない労働環境だな。
店長業務までバイトにやらせるとは。
「随分疲れているように見えるが、休めているのか?」
「休み…?休み…。今何日の何時でしたっけ…」
「おい、まさかずっとここにいるんじゃないだろうな」
「エンジェル"24"ですから」
「シフト制だろう!普通は!」
思わずツッコミが口から飛び出るルルーシュ。
「ですよねえ…しかも売上少ないから給料も良くはならないんですよ」
「他の職場を探したらどうだ?これはあまりにも…」
「私中学生で…雇ってくれる所が少ないんですよ。でも、お金は必要で…」
「しかし、これでは本末転倒…」
暗く顔を伏せるソラの様子を見、ルルーシュはそれ以上追及はしなかった。
「はあ…仕方ない」
ルルーシュはその日、必要なものは出来るだけ"エンジェル24"で買うようにすることを決めた。
そして、もう一つのことも、決めていた。
時は進み、現在。
「お出かけされるんですか?」
「ああ。数日、シャーレを空けるかもしれない。食品の発注はしない方が良いぞ。…普段から多すぎる位だが」
「最低限の注文数があるので、その分はどっちにしろですね…」
「とんだ悪徳企業だな。エンジェルが聞いて呆れる」
「はは…」
乾いた笑いを漏らすソラ。
ルルーシュは、まだ数日であるが、余りの状況を見かねていた。
彼は誰彼構わず直ぐに手を差し伸べるような聖人君子である、というわけではない。
しかし、だからといって、目の前で起きている悪徳を座視し続けられる程に非情な人間でもないのだ。
強者が弱者を踏みにじるような様は、ルルーシュの虎の尾とも言える。
そして特に、ある程度事情を知った顔見知りの人間のこととなれば。
「後少し頑張ってくれ。きっと、良くなるよ。必ずね」
「…?それはどういう…?」
「お楽しみだ。それじゃあ、悪いが」
ルルーシュは商品を受け取り、シャーレを後にするのだった。
「さて、アビドスへ行くか」
その日の昼下がり──。
「し、失態だ…」
ルルーシュはスーツのジャケットとビジネスバッグを重そうに揺らしながら、灼熱の太陽に焼かれていた。
一応舗装されているアスファルトではあるが、日光によって熱を増しており、体力を奪い続ける。
かといって、道路を外れると直ぐに砂に埋もれた土地があるのだが、そちらへ行けば、足が砂に取られて遅々として進めない。
「こんな…ところで…」
砂漠化が進んでいるとは彼も聞いてはいたが、想像を絶する砂漠っぷりであったのだ。
そう、ルルーシュもまさか街まで砂に覆われ、かつて街だった場所まで砂漠となっているなど、思いもしなかったのである。
水分補給用に飲料水を多少買い込んで来ていたが、それも全て飲み尽くしてもいる。
「暑い…。気候が…違いすぎるだろう…」
くっ、とルルーシュはついに限界を迎え、灼熱のアスファルトに崩れ落ちた。
「せめて…砂地に…」
這いつくばってアスファルトよりはまだ倒れる先としてはマシな砂地を、残った体力で目指す。
「く…そっ…」
力尽きたルルーシュ、その横を、一陣の風が抜ける。
「…ん?」
キィーと何かの擦れたような音の後、カラカラと回る音がし、そして、倒れるルルーシュに影を作るようにして、顔を覗き込む何か。
「あの…」
ルルーシュは意識が曖昧な中、どうにか顔を上げる。
人…?
制服…。生徒か…?
「…大丈夫?」
ルルーシュは倒れ込んでいるというのに、プライドからか、頷き、問題ない、と口に出そうと唇を動かした。
「あ…ああ。問だ…ゲホッゲホッ」
「あ、生きてた。道のどまんなかに倒れてるから死んでるのかと」
ルルーシュは、余り表情の動かないその女生徒の言葉に、返答をする余裕もなく、咳き込む。
渇きと砂埃で痛めた喉を無理矢理動かした事による反射だろう。
「ゲホッゲホッ!」
「えっと…」
女生徒は鞄からボトルを取り出し、ルルーシュへと差し出す。
「これ、ライディング用のエナジードリンク。
…今はそれぐらいしか持ってなくて。
でも、少しはマシになると思う」
コップは…と鞄を探そうとする女生徒。
しかし、判断力の低下と、既になけなしのプライドを守ろうとした結果むしろ醜態を晒して動揺していたルルーシュは、生存本能のままにボトルを取り、一気に喉へと流し込んでしまう。
「あ、それ…」
「ぷはっ…た、助かった。ありがとう…。ケホッ」
フーッと息を吐くルルーシュ。
少し落ち着いてから漸く救世主となった女生徒の姿をしっかりと認識した。
狼やイヌのような耳が頭頂部から生え、それを含めた頭部を守る、白銀の頭髪。
頭上には勿論、水色っぽい"ヘイロー"が浮かぶ。
そして、首元にはこの暑さにも関わらずマフラーが巻かれている。
そして、彼女の目は、左右で色の異なるオッド・アイであった。
「ん…?」
彼女の視線に気づき、ルルーシュは手元の物体に目をやる。
ボトル。ペットボトル等ではなく、市販の簡易的な水筒という類のものだ。
彼は即座に気付く。
彼女の視線の意味に。
「す、すまない。朦朧としていたもので…」
「…いや、気にしないで…」
「そうか…。すまん。本当に助かったよ。ありがとう」
「うん」
若干の気まずさを振り払うようにして、女生徒はルルーシュが胸元につけていた"シャーレ"のネームプレートを指差し、尋ねる。
「見た感じ連邦生徒会から来た大人の人みたいだけど…お疲れ様。学校に用があってきたの?
この近くだとウチの学校しかないけど、もしかして…」
「ん?ということは君はアビドスの?」
「やっぱり、そうなんだ」
「ああ、アビドスへ向かう途中だったのだが、街から外れて砂漠を歩くはめになって、まあ…ああなっていたというわけだ」
濁した言い方は、変わらないルルーシュのプライド故である。
「道を間違えているのかと何度か確認したが間違ってはいなかった」
「そうだね…間違えてはいないんだけど…こっちの方はもうすっかり砂に埋もれてるから、こっちからだとむしろ遠いよ」
「…何?」
「生活道路を抜けていくのが確実。郊外の方は街もあるし…ここを使ってる人はあんまりいないんじゃないかな」
「………そうか。教えてくれてありがとう」
裏道が実質的な正規ルート。
どうやら道選びをかなり前に間違えてしまっていたようだな。くそっ。
「でも、そっか。それなら久しぶりのお客様だ」
シロコは自転車を押し始めてから、ルルーシュを振り返る。
「私が案内してあげる。すぐそこだから」
「何から何まで助かるよ。感謝に堪えない」
そして歩き始めたルルーシュだったが、数百メートル進んだ辺りで、膝を地に付くこととなった。
「ど、どうしたの?」
「問題、ない…」
既にルルーシュの貧弱な体力は限界を迎えていたようで、膝が笑って立てない状態となっていたのだ。
「嘘でしょ…」
「………醜態だ…」
ギリッと歯を噛み、力を足へと込める。
だが、数歩分の前進が限界で、殆ど動かない。
「ええっと…これ一人乗りだから…」
女生徒は暫く考え込んだ後、自転車を路肩に停める。
「ロードバイクはここにおいて…よいしょ」
彼女は、ルルーシュを背負い上げたのだ。
「ま、待て。さすがに悪い。降ろしてくれ。
少し休めば…」
「貴方の調子だと日が暮れちゃうよ」
「ぐっ…」
そうして、ルルーシュを背負い歩き始めた彼女だったが、直ぐに、はたと立ち止まり、ルルーシュへチラリと視線を向けた。
「えっと…さっきまでロードバイク乗ってたから…そこまで汗だくってわけじゃないけど、その…」
「ん?」
「普段は学校のシャワー室を使うんだけれど…」
「!…あ、ああ。気にしないでくれ。いや、気にしていない…?……。
とにかく、だ。問題ない。むしろすまないな」
慌てるルルーシュ。
女性に対して気の利いたセリフをこうした場面で咄嗟には言えない点は、変わらないと言える。
シャーリーに対しての様に、大きな失言を飛ばさなかっただけ進歩したとも言えるだろう。
「ん。…しっかり掴まってて」
そして、陽光が傾き始め、空の色は透き通るような青から、徐々に陽の色を濃くさせようとしている時間帯になった頃、ルルーシュは女生徒の助けもあり、どうにか目的地へとたどり着いた。
「ただいま」
ルルーシュは彼女に連れられ、校舎の一角にある"アビドス廃校対策委員会"と本来の看板の上に手書きの文字で貼り付けられた部屋へと来ていた。
「おかえり。シロコせんぱ…い?」
ルルーシュを助けた娘、シロコを迎え入れたツインテールに、猫耳のついた女生徒は、真っ赤な目を丸く見開き、ルルーシュの方へとゆっくり視線を向けた。
「うわっ?!誰?!その人?!」
「わあ、シロコちゃんが大人を拉致してきました!」
ベージュ色のロングヘアと、黄色いヘイローを持つ別の女生徒が笑顔で物騒なセリフを吐いた。
「拉致?!…シロコ先輩、ついに犯罪に手を…」
黒いショートヘアに、リンと同じような耳、そして赤縁のメガネをかけた女生徒が椅子からガタリと立ち上がり慌てた様子を見せる。
「皆落ち着いて!問題が発覚する前に揉み消さないと!…確か倉庫にシャベルとロープが…!」
シロコはなんとも言えない表情となりながらも、事情を説明する。
「いや、案内してきただけだから。ウチの学校に用があるんだって」
「え…?」
「拉致したんじゃなくて、お客さん?」
「そうみたい…」
ルルーシュはシロコに対する周りの反応からして、自分は運が良かったのか?と自問してしまっていた。
しかし、周りからの視線に気付き、我に返る。
小さく咳払いをしてから、口を開いた。
「ルルーシュ・ランペルージ。シャーレの先生だ。よろしく頼むよ」
いつもの社交的な笑顔を浮かべ、挨拶をする。
だが、周囲はルルーシュの表情を気に留めることなどなく、ルルーシュの言葉に強く反応していた。
「ええっ!?まさか…」
「連邦捜査部、"シャーレ"の先生?!」
「わあ!支援要請が受理されたのですね。良かったですね、アヤネちゃん!」
アヤネと呼ばれたメガネの女生徒は安堵の息を吐き、笑顔を浮かべる。
「はい!これで弾薬や補給物資の援助が受けられます」
ルルーシュが、そのことなんだが、と口にしようとしたところで、アヤネは、あ!とそのまま言葉を続けてしまう。
「ホシノ先輩にも知らせてあげないと…。
あれ?ホシノ先輩は?」
「委員長は隣の部屋で寝てるよ。私起こしてくる」
赤い目のツインテール少女はそう言って部屋を出た。
丁度その瞬間、外から、自動小銃と思わしき銃が、宙空へ向けて連射される音が、敷地内に大きく響き渡った──。
アビドス編本格開幕は次回からになります。
次回も更新日は未定ですが、次も楽しんで頂けたら幸いです。