コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
「それで、今日は何の用向きだい?」
「んー?」とミカは可愛らしい笑顔を浮かべたまま、ルルーシュの方へ一歩歩み寄る。
「先生は上手くやってるかな、って思って」
「視察、と言うわけか?」
「あはは。そんなお硬いものじゃないよ〜」
ミカはわざとらしくキョロキョロと周囲を見渡し、「にしても」と話題を切り替えた。
「ナギちゃん、随分入れ込んでるみたいだね〜。こんな施設まで貸し出しちゃって」
「ああ、本校舎から随分離されているんで、それはそれは、静かな環境で勉強が出来るているよ」
ルルーシュもわざとらしく皮肉で返したが、ミカはそれに気付かなかったかのように振る舞い続ける。
「ところで、合宿の方はどう?遠いのを良い事に、何か楽しそうなことしてたりしない?
例えば皆でプールパーティとか!」
「………」
「あはっ。…そこまで警戒されちゃうのは心外だなあ。私こう見えて繊細で、傷付きやすいんだよ?」
ミカのおふざけに対して反応を一切示されなかったことで、彼女も流石に折れたようで、気付かないフリを止めた。
「…先生も長い前置きはあんまり好きじゃない感じなのかな?…本題に入ろっか?」
「そうだな。補習授業部の皆も待っているだろうし」
あ、とミカはまた本題には入りそうにない前振りを呟く。
「次は何だ」
「ごめんごめん!これは大事なやつだから。
私がここにいることについて、ナギちゃんは知らないよ。付き添いもなしの単独行動!」
「分かった分かった。ナギサには言わないよ」
「言質取ったからね!オッケー。じゃ、本題行こうか」
ミカの騒がしい笑顔は静まり、微笑みこそ浮かべているが、至って真剣な眼でルルーシュを見つめる。
「ナギちゃんから取引とか提案されなかった?」
「取引?」
「例えば…そうだなあ。"トリニティの裏切り者を探して欲しい"とか」
友人どうしだから二人は繋がっていると疑っていなかったが、秘密に来たことといい、今のセリフといい。
ミカとナギサは一枚岩ではないのか。
「…だとしたら?」
「…やっぱり。もう、ナギちゃんったら、予想通りなんだから」
心底から呆れたようなため息を吐くミカ。
そうしてから、再びルルーシュの方へと身を乗り出すようにして近寄る。
「何か詳しい情報とかは?そういうのは何も無しでただ"探して"って言われた感じ?」
「理由とか、目的とかは?どうして補習授業部がこういうメンバーで構成されてるのか、とか。
ナギちゃんは教えてくれなかった?」
ルルーシュはまくし立てられる中、思考する。
彼女に何処まで話して良いものか、と。
一枚岩ではなさそうとは言え、彼女らは友人どうし。
迂闊な事を口走るわけにもいかない。
しかし、情報は頂きたい所だ。
ここは曖昧に答えておくべきだろうな。
「…まあ、余り詳しくは聞けていないな」
「そっか〜。もー。それで先生にこんな重荷を背負わせるなんて」
まあ、しかし、この情報は隠す意味はないか。
少なくともナギサの側はミカとある程度情報を共有している事は、最初に同席しさせていたことや、裏切り者探しを知っていたことからも明白。
その内ナギサ経由で知ることになるだろう。
「とは言っても、その提案は断ったから、問題はないよ」
「え。そうなの?どうして?」
ミカは不思議そうに首を傾け尋ねる。
「自分の生徒たちを疑いたくないから?それとも──」
「ふむ……まあ、私の役目からは外れていると思ったのでな」
「へえ…?」
ナギサの懸念は理解しているし、場合によってはキヴォトス全土に関わることにもなるのだろう。
だが、彼女のやり方では彼女自身が後悔してしまう。きっと──。
とは言っても、裏切り者探しは必要だろう。
だから、俺は俺のやり方で探ると決めたわけだが…。
ナギサと何処まで繋がっていて何処から独自で動いているのか、全く読めない彼女に、今、詳らかにする理由はない。
「私は一応、"シャーレ"の所属だからね」
「そっかそっかあ。…確かに、先生は本来トリニティとは無関係な第三者」
「そういうことだ。"シャーレ"として請け負ったのはあくまでも補習対象者の成績向上、補習授業の実施。
トリニティの政治劇への介入は約していない」
なるほどね、とミカはプールの水面が作る水鏡に揺れる別館の姿へ視線を向けた。
「まあ、私たちにとってはずっとトリニティそのものが世界の中心みたいな感じだからアレだけど…」
小さく頷き、ミカはルルーシュへと視線を戻す。
「面白い考えだね。新鮮かも。…それはそれで、正しいよね」
「でも、そしたら」とミカはルルーシュを覗き込む。
「先生は誰の味方?
もし、トリニティの味方じゃないのだとしたら、ゲヘナの味方?連邦生徒会の味方?
それとも…誰の味方でもない、とか?」
それは簡単だよ、とルルーシュは笑ってみせる。
「私は、生徒皆の味方さ」
「あ、あぁー…。なるほどそっかあ。
生徒達皆の…それは予想外だったなあ」
本当に想像の外だったのだろう。
反応に困ったように誤魔化し笑いを浮かべるミカであったが、はた、と何かに気付いたのか、一瞬、動きを止めた。
「っていうことはさ…その…。
先生は一応、私の味方である…って考えても良いのかな?」
「勿論だとも。ミカの味方でもある。大切な生徒だからな」
「…わーお」
ルルーシュに臆面もなくそう言ってのけられ、ミカは気恥ずかしさを覚えたようだった。
「さらっと凄いことを言ってのけるね。先生…」
「そうかな?」
外面の良いルルーシュ・ランペルージとしての仮面。
ルルーシュが被る仮面は優しげな雰囲気を醸し出す。
だが、決して嘘を吐いているわけではない。
「大人だねえ。そういう話術?って気もあるけど」
まあ、間違ってはいない。
流石に政治をやっている立場なだけある、悟られてしまうか。
「…でも、うん。ちょっと純粋に嬉しいかも。
えへへ…」
それでも嬉しそうに笑ったミカだったが、直ぐに困ったように眉を寄せる。
「ただ、それを額面通りに受け取るのもちょーっと難しいなあ…。
だってそれは同時に、誰の味方でもない、って解釈も出来るよね」
やはり、聡いな。
簡単には誤魔化せそうにはない。
仕方がない、とルルーシュは心の中で息をついた。
「だからそのまま受け取るんじゃなくて、私から取引を提案させてもらおうかなって」
「取引、か」
「うん。補習授業部の中にいる裏切り者が誰か、教えてあげる」
「……!!」
ある程度の推測は出来ている。
実質的に消去法ではあるが、まあ間違いはないだろう。
だが、彼女がそれを知っているということはつまり──。
「ナギちゃんが必死に探して退学させようとしている"トリニティの裏切り者"」
「何故、それを私に?」
「実際のところ、もう少し複雑で大きい問題もあるんだけど…。
今、このまま先生がナギちゃんに振り回される姿をただ見てる、なんていうのはちょっと申し訳ないかなって」
その言葉を額面通りに受け取るルルーシュではないが、ミカもそれで完全に納得してもらえるとは思っていなかったのだろう、「そもそも」と更に話を続ける。
「先生を補習授業部の担任として招待したのは私だからね。このことは知ってた?」
「いや…。しかし、そう言えば言ってたな。新聞で私のことを見てこれだ、と思ったと」
「よく覚えてるね〜。ナギちゃんはずっと反対してたんだけどね。
折角の貸しをこんな風に使うのはどうとかこうとかで。
丁度あの時も似た話をした気がするけど、先生はナギちゃんと色々あったんだね?」
「まあ、ちょっとな」
あの時の借りを補習だけで返させて貰えるとは思っていなかったが、どんどんと話が大きくなっている気がするな。
ルルーシュは心中、そんな事を思いながら苦笑する。
「私の方も色々あって。トリニティでもゲヘナでもない第三の立場が欲しかったの」
「ふむ…?」
「ああ、裏切り者の話だったね」
ミカはまだ取引を受けるとは言っていないルルーシュが有無を言う前に、提示する。
補習授業部に在籍する"裏切り者"の名を。
「白洲アズサ」
「………」
ルルーシュは腕を組み、少しの黙考を挟む。
そうしてから、呟くようにして口を開いた。
「やはりか」
「……気付いてたんだ?」
「確証はなかった。消去法で推測していただけだがね」
「流石は先生、って言うべきかな?」
「別に大したことじゃない」
反ゲヘナの急先鋒。正義実現委員会の成績不良者。
わざと低い成績を取り続ける学内最高峰の者。
前の学園のことを一切話さない転校生。
3人、確かに三様の理由は考えられた。
だが、コハルとハスミのラインは昨日のことで切れた。
ハナコに関して言えば、スパイだとすればもう少し上手くやれるだろう。
少なく共、彼女程の知能を持つ者が、こうも目立つやり方をするはずもない。
そうであるならば、消去法で一人に絞られる。
そして、それは正解だった、と言うだけのこと。
「あの子が転校生ってのは、もう知ってるよね?」
「ああ」
「随分前にトリニティから分かれた分派…"アリウス分校"出身の生徒なの」
アリウス。
名前はちらほらと幾つかの史書で見かけたが、詳しく掴むことは困難だった学校。
トリニティ外でも余り情報を見かけなかった上、トリニティでは該当しそうな書籍の類は禁書扱いが殆ど。
恐らく、意図的にトリニティ総合学園が隠してきたのだろう。
「どうりで、裏切り者云々抜きにしても転校前の事を話したがらないわけだ」
「先生は、アリウスのことも知ってるの?」
「いや。名前と、大昔の歴史くらいだ。
公会議の云々で名前を見かけた気がするな。
今の生徒の事は知らない。
というか、現存するとも思っていなかった」
「生徒…」
「どうした?」
ミカはうーん、と迷ったような、微妙な表情を作る。
「よく考えると生徒って呼んでいいかもわからないんだよね。
"何かを学ぶ"ってことが無い生徒のことを、"生徒"って呼べるのかな」
「…………」
アリウスの現状は良い状態とは言えなさそうだ。
そこも気になる所ではあるが、先ずは──。
「それで、何故それを私に教えたんだ?」
「…ふふっ」
「取引、なのだろう?君の望みは?」
「良い眼だね。本当、期待しちゃうな」
フッ、とミカは口元を緩ませる。
「あれこれ誤魔化しても仕方なさそうだし、うん。端的に言おっか」
一瞬の静寂──。
陽光を反射し、光るような水面が揺蕩う。
「あの子を、守って欲しいの」
「守る…なるほど。そうか。彼女をトリニティに転校させたのは君か。
トリニティとアリウスの和解の為、という所か?」
ミカは驚いたように目を見開いた。
「わーお…。ちょっと吹っ飛ばした単刀直入過ぎたかな?って思ったのに…。
何でそう思ったの?」
「簡単なことだ」とルルーシュは言う。
アリウス、いや、君等の所属するパテルだとかの派閥もそうだな。
数多の学園が、今のゲヘナとトリニティのようにかつては争い合っていたが、その争いを止めよう、と話し合いをした。
その第一回公会議において、大多数の派閥に反して、合流に反対したのがアリウス。
現在のトリニティにある派閥群と同じく、分派の一つ。
「うん。経典に関するちょっとした解釈の違いがあったくらいで、結構似ていたんだって。
チャペルの授業もあったし、見た目も殆ど一緒で…心底ゲヘナの事を嫌っていた」
ルルーシュを補足するようにミカは説明を加える。
「しかし、アリウスは連合には反対し、そこで争いがあった。
そこまでは史書でも読み解けた。が、その後の事は曖昧だな。
強大な力となったトリニティにアリウスが敵わなかった、という所は共通していたが…」
濁したルルーシュの言い方に、ミカは苦笑しながら頷く。
「そう。トリニティ総合学園はその強大な力で、アリウスを徹底的に弾圧したの。
余りに大きな力を持ち過ぎると、その強さを確認したがる、なんてのはよくあるお話で…」
「丁度良いターゲットだった、と」
「悲しいことにね。…そして、アリウスは潰された」
「記録上はそうなっていたな」
「実際は…詳細は分からないけど、キヴォトスの何処かに隠れてるみたい。
連邦生徒会もその自治区が何処にあるのか把握してないんじゃないかな」
アリウスが現存していること。
そして、アリウスはトリニティから弾圧を受け、今も隠れ住んでいる事。
アリウスはきっと、トリニティを憎んでいるだろう。
自らの苦境の原因なのだから。
そして、ミカはそこから来たアズサを守って欲しいという。
これで理由の方にも合点がいった。
アリウス、トリニティ双方に示す象徴としたいのか。
二つは同じなのだ、と。
「和解の為の転校だった。
しかし今はエデン条約の時期。
ナギサは条約を破壊しようとする裏切り者がいるという情報を得て、アズサにも目を付けた」
「驚いたな。先生、ひょっとしてエスパー?」
「まさか。…しかし、分からないな。
ナギサには知らせなかったのか?アズサの転校の事」
ミカは少し痛い所を突かれたとばかりに苦笑を浮かべる。
「書類とか色々偽造して秘密で入れたんだ。
…ナギちゃんやセイアちゃんには反対されたから。政治的な理由でね」
それも分からないわけじゃないんだけどね、とミカは残念そうに眉を下げた。
「確かに、エデン条約を結ぼうというこの状況で、不確定分子は入れたくない。
その一つとっても、反対するには充分な理由だったろうな」
「うん。でも、私はアリウスと和解がしたかった。
トリニティからのも、連邦生徒会からのも、救いの手は拒絶され続けているの。過去の憎しみのせいで。
私達が青春を謳歌しているその裏でね」
「確かに、弾圧した過去がある以上、今更何を、と思われるだろうな」
ミカは悲しそうに「そうだね」と頷く。
「その憎しみは簡単には拭えないほど大きくて…これまでに積み重なった誤解と疑念は余りに大きい。私の手には負えないくらいに」
「私は不器用だから、政治とかはちょっと得意じゃないんだけど…でも、また今から仲良くするのってそんなに難しいのかな?
前みたいにお茶会でもしながら、お互いの誤解を解くことは出来ないのかな?」
だから、とルルーシュは頷く。
「彼女を通して、両校に見せたいわけだ。
共に暮らしていけるのだ、と」
「うん。そうなんだ。ナギちゃんを頼って正式に、って手があったのは否定しないよ。
反対されたのもあるけど、正直そこは疑っちゃたんだ」
先生は、とミカは遠くを見るような目で尋ねる。
「エデン条約の目的って、何だと思う?」
「ナギサの言葉を借りるなら、和解だな」
「そうだね。トリニティとゲヘナ、二つの争い合っていた学園が和解する。
でも、本当にそれだけ、かな?」
ルルーシュは答えない。
しかし、彼の頭にも浮かんでいたことがある。
対立していた二つの巨大学園が手を結び、互いに協力関係になる。
単なる和平ではない。
それはエデン条約を詳しく調べれば直ぐに辿り着いた事だった。
それでも、ナギサの言う和解、和平。
話し合いによってそれが成されるならば、喜ばしい事でもある。
杞憂だと、そう考えるようにしていた事。
「条約では、ゲヘナ、トリニティの武力を合わせたエデン条約機構という武力集団が出来ることになってる」
両者の武力紛争解決の為に、両校が兵力を供出し、結成する、和平維持軍とでも呼ぶべき存在。
それがETO。
少なくとも、名分はそうだ。
だが、確かに、悪用すれば、キヴォトス最大、最強の武力組織となる可能性を持っていることは事実。
「トリニティとゲヘナ、二つの巨大な武力を合わせた圧倒的な力が誕生するの。
連邦生徒会長が行方不明のこの時期に」
そして、ナギサは生徒会長行方不明後もこの条約を推進し続けていた、か。
「その力を使って、ナギちゃんは果たして何をしようとしてるのかな?
生徒会長不在の連邦生徒会を襲撃して連邦生徒会長にでもなるとか?
それとも、ミレニアムっていう新しい芽を潰しておくこと?」
勿論、とミカは首を振る。
「細かい目的は知らないよ。
でも、これだけははっきり言える。
そんなに大きな力を手に入れたら、きっと自分が気に入らないものを排除する。
昔、トリニティがアリウスにしたように、ね」
少し杞憂なようにも思える。
懸念は理解出来るし、無論、ナギサの本心など、分かるはずもない。
だが、話している限りでは、そんな企みの為に条約を進めているようには見えなかった。
そして、黒の騎士団が資金源という形で制約を作っていたように、エデン条約にも一種の制約がある。
犬猿の仲たる両校の首脳が一致していなければETOを自在に動かす事は出来ない。
条約を結ぶ以上、関係が改善されることは間違いないだろうが、それでも、ナギサの一存で動かせるものではない。
ただ、懸念は理解出来るものでもある。
黒の騎士団のそれ程に厳格な制約は確かに存在していないのも事実。
ミカがナギサを頼れない事は、なるほど頷ける。
「もしエデン条約が締結されたら…その時はもう今度こそ本当に、アリウスとの和解は不可能なものになっちゃう。だから、どうにかしてその前に実現させたかった。皆に証明したかった」
でも、とミカは目を落とす。
「そんな時に、ナギちゃんがトリニティに裏切り者がいるって言い始めて…」
「アズサの事が何処かから漏れた、とかかな?」
「かもしれないね。それで、ナギちゃんは条約締結の邪魔はさせまいと、補習授業部を作ったの。
…あ、そう言えば先生、何であの子達なのかって、聞いたことある?」
いいや、とルルーシュは首を振る。
「ただ、何となくは予想が付く。
ナギサが疑う理由も、ヒフミ以外は凡そな」
「先生、本当にエスパーじゃないんだよね…?」
「一応違う。…ここ数日見ていれば分かることだ」
ハナコは、とルルーシュは例をあげる。
「本来優秀なはずなのに落第生を演じている」
「うん。前は色んなところから声がかかってたらしいよ。ティーパーティーのホストに、って声もあったくらい」
「けれど、少なくとも、周りの者達にとっては、突如として変わってしまった」
「それに、色々なところと交流があったから、秘密も多く知っているんだ。
だから、探りを入れたくなる気持ちは分かる」
「まあ、ナギサの立場からすれば、疑わしいだろう。
そしてコハルだが、彼女は彼女本人というより、正義実現委員会だろ?」
ミカが否定しないのを確認し、ルルーシュは言葉を続ける。
「ゲヘナを嫌う者の多い、巨大な武力組織。
ナギサの完全な統制下にあるわけでもない。
まあ悪く言えばそんな彼女らへの万一の際の人質、と言った所か。
そして、純粋に成績が悪かったからこれ幸いとコハルが選ばれた」
「そ。正義実現委員会がエデン条約に反対するのは火を見るよりも明らか。
あのゲヘナと同盟なんてーって」
……。ハスミも、あの時はチナツと普通に共闘していたが、チナツが理知的なのもあっただろうし、そも、そんな場合でもなかったろうからな。
結局の所、本心は分からない、か。
「アズサはまあ、さっきの通りとして…」
「ヒフミちゃん?…あの子、優しくて、可愛くて、良い子だよね。ナギちゃんもすっごく気に入ってる」
そう、彼女に頼み込まれて、砲兵をハイキングさせてくれるくらいだ。
かなり気に入っているはず。
そんな彼女を何故…。しかも、監視役、としてだけならともかく、他の者達と同じ条件に放り込んだのか…。
「それでも、ナギちゃんに疑われちゃったの。
どうやら、こっそり学園の外に出て、怪しい所に行ってたみたい。
トリニティの生徒は出入り禁止になっているブラックマーケットとかあちこちにね」
「………」
「それに、何処かの犯罪者集団と関わりがあるって情報も流れてきた。
あんなに善良そうで、純粋な子に見えるのに…」
ルルーシュは思わず目を逸らしてしまっていた。
唐突に予想外の方向から心当たりのある話をぶつけられ、一瞬、動揺してしまったのだ。
「んんっ!しかし、元はトリニティに裏切り者がいるかも、だったのだろう?
今のナギサはまるで──」
「裏切り者がいるのは、ナギちゃんの中では確定路線の現実問題。色々と裏切り者に関する情報を集めていく中で、"あの中の誰が裏切り者なのか?"になったんじゃないかな」
それが今の状況、と話を締めたミカ。
しかし、ルルーシュは一つ、ここまで話題に出ていなかった、もう一人の権力者の存在を思い出す。
「なあ…セイアは入院中って言ってたよな?」
「え…。う、うん。それがどうしたの?」
「入院中とは言え、話せるのなら、彼女に助けを求めても良いんじゃ………いや」
ルルーシュは自らの思い付き即座に否定した。
思い至った事があったのだ。
ナギサは裏切り者がいるかもしれない、という情報を掴んでいた。
しかし、今のナギサは疑心暗鬼が加速している。
何故──?
そう、何故、そこまで思い詰めるに至ったのか。
セイアは入院中……。
そうか、まさか──。
「セイアは今、どういう状態なんだ?」
ミカは、これまでで一番、困ったように眉を歪めていた。
「本当、先生には敵わないね。
うん。セイアちゃんはただ入院しているわけじゃない。
けれど、これ以上は聞かない方が良いよ」
「今更だろう。既に引き返せないところまで来ている」
「…それもそっか」
ミカは大きく息を吸ってから、ルルーシュを見据え、口を開く。
「ヘイローを、壊されたの」
「…………それはつまり…」
いや、とルルーシュは頭を振った。
「分かりきった事だな。すまん。…いつのことだ?」
「去年。突然何者かに襲撃されたの。
対外的には入院中ってことになってるけど…そっちが真実」
「知っている者は…君達だけ、といったところか」
「ティーパーティーだけ。このことはまだ、誰も知らない。
もしかしたら、情報網の凄いシスターフッド辺りには勘付かれてるかもしれないけど」
ナギサの疑心暗鬼。
その理由に触れられた気がする。
そうか。ティーパーティーのホスト、その一人が…。
彼女はきっと今、周りの全てが信用出来ない事だろう。
本来、厳重な警備下に置かれているだろうティーパーティーのホストが突然襲撃され…ヘイローを破壊された。
次は自分か、という恐怖。
そんな真似の出来る奴ならば、ティーパーティーに限らずとも、どんなテロを仕掛けてくるか分からない。
きっと、全てが敵に見えていることだろう。
ルルーシュは母を殺され、日本に追放された頃の自らを思い起こし、ナギサの心情を推し量っていた。
かつての自分のように、全てを疑い、全てを敵と見ているだろう少女の事を、思っていた。
「犯人は?」
「分かってない。捜査中っていうか…何も分かってないっていうか…元々セイアちゃんは秘密の多い子だったこともあってね」
「……そうか。残念だ」
「うん。…ねえ、先生」
ミカが、何処か不安げな色を湛えながらルルーシュを呼ぶ。
「こんな事を話したって知られたら、先生が裏切ったら、私は終わっちゃうのだけれど」
「裏切る筈ないだろう」
「ちゃんと、私の味方、でもあるんだよね?」
「ああ。勿論だ」
ナギサの味方でもある。
それは呑み込み、ミカの目を見据え、断言した。
「もし…もしこれで裏切られたって…なんて言うのかな。…うん。それはそれで悪くないと思う。
えへへっ」
何にせよ、とミカはくるり、と背を向けた。
「これが、私から話せる今の状況。
…裏切り者っていう言葉が何を指すのかをはっきりさせた上でなら、解答は出せるの」
「トリニティを騙そうとしている者。
そう捉えるならば、経歴を偽るアズサ、ということになるな」
「うん。…あの子はアリウス出身だからね。
私のせいで何も知らないまま、こんな複雑で政治的な争いのど真ん中に立つことになっちゃって…。でも、こんな形であの子を退学になんてさせちゃいけない」
だから、とミカは再びルルーシュに向き直り、請う。
「あの子を守って欲しいの。それは今、先生にしか出来ない事だから」
「それから、ある意味では"裏切り者"は私でもある。私は、ナギちゃんが進めてるエデン条約に賛成の立場じゃないから」
「………」
「ホストじゃない私には、邪魔することも出来ないんだけどね」
ルルーシュは何とも言えない表情のミカを見つめる。
「…それと、別の観点からはこうも言えるよね?
"トリニティの裏切り者"…それはナギちゃんだって言うことも出来る。そうは思わない?」
「トリニティで保たれていた調和を崩し、巨大な"
そういう見方も出来るよね」
──ナギサだけではない。
恐らくミカも…。
「まあでも、これも含めて全部、私からの一方的なお話でしかないよ」
だから、とミカは屈託のないように見える笑顔を浮かべた。
「最終的には先生が決めて。白洲アズサを守るのか。裏切り者を見つけるのか。…ナギちゃんを信じるのか。それとも、私を信じるのか」
「ミカは、それで大丈夫なのか?」
「あの子の事には私に責任があって…。でも、私にはただお願いすることしか出来ないから…」
そうじゃない、と言われ、ミカは「ん?」と首を傾ける。
「あれ?もしかして今のって、私を心配してくれてる?
あはっ。優しいね、先生は」
大丈夫、とミカは胸を張ってみせる。
「こう見えても私、結構強いんだから」
「………そうか。まあ、無理はするなよ」
「ありがと。じゃ、今日はこんなとこかな。
また先生とお話出来て楽しかったよ」
それに、とミカはわざとらしく悪戯っぽい笑みを浮かべてみせる。
「あんまり2人でずっといると、変な噂が立っちゃいそうだもんね。
ふふっ。まあ私はそれでも全然構わないんだけど」
「あのなぁ…。というか誰もいないだろこの辺」
「あはっ。じゃ、またね。先生」
ミカを見送りながら、ルルーシュは思考を整理する。
セイアの襲撃。
アズサは和平の為の象徴。
となれば、アズサは下手人ではない?
いや、アリウスの意図が読めない以上…。
勿論、アリウスにもミカのような、和平を望む勢力がいる、という可能性がある以上、断定はしきれない。
…彼女の事を詳しくは知らない。
だからこそ、分からない。
しかし、もし、アズサがそうだとすれば、彼女は世紀の大役者だな。
ルルーシュはその瞬間、モモフレンズのぬいぐるみに目を輝かせるアズサを思い出していた。
今ある情報を勘案すると、最もあり得る可能性。
それは、ナギサの思う容疑者の中に、本命はいない、ということ。
セイアを襲撃した下手人は、全くの別人による犯行。
少なくとも、主犯はまだ──。
補習授業部以外のトリニティに潜伏している。
「……くそっ。どうしてこう面倒が大きくなっていくんだ。
何れにせよ、補習はさっさと終わらせなければならんな…」
ルルーシュは深呼吸を一度してから、皆の、補習授業部の待つ教室へと戻るのだった。
今回も読んで頂き、ありがとうございます。
まだ次回もよろしくお願い致します。