コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
その日は、滝の側にいるかのような激しい水音と、轟く雷鳴がモーニングコールになって、ルルーシュは目を覚ました。
「朝か…随分と、荒れているな」
カーテンを開け、窓外を見るとバケツをひっくり返したような土砂降りの雨が振り続いていた。
「サイクロンか何かか?…まあ屋内で勉強する分には問題はないが」
ルルーシュは洗面を済ませ部屋へと戻ると、いつものように目覚ましのコーヒーを飲もうと電気式のサイフォンを起動する。
「今日は午前に数学と…昼からは其々の苦手分野、といった所か。
次の試験も近いことだし、苦手を潰す自習を増やす方が良いだろう」
コーヒーを待つ間、それぞれの計画と現在の進行度を脳内で整理、比較し、予定の修整を行うのがルーティンの一つとなっていた。
「…ハナコはまあ、一先ず成績を心配する必要はないことだし、とりあえず重点的に見るべきはコハルだな」
沸騰するコーヒーを眺めながら、ルルーシュはふう、と息をつく。
「さて…」
コーヒーを淹れようとサイフォンに手を伸ばすルルーシュ。
彼は、外から聞こえてきた音に、ピタリと一瞬手を留めた。
「嘘ぉ?!」
「ま、まずいです…!」
バタバタと廊下を走っていく三つの足音。
それに遅れてもう一つ。
全員が何やら慌てた様子で走っていく音が漏れ聞こえて来ていたようだ。
「全く…朝から何を騒いでいるんだ」
やれやれとため息を吐きながらコーヒーを淹れ、一口、口にする。
それから少しすると、再びバタバタと廊下を駆ける音が近付いてきた。
ルルーシュは腰を上げ、廊下を覗く。
「どうした?」
「先生?!お、おはようございます?!」
「おはよう。…ではなく、何があったんだ?」
余程慌てていたのか、突然のルルーシュの登場にヒフミは反射的な挨拶で返答してしまったようだった。
「随分濡れているな…。外に行っていたのか?」
「え、ええ。実は…」
四人が揃って抱えているものに気が付き、ルルーシュは事態を察する。
「出しっぱなしだったのか」
「はい…すっかり失念していまして…。申し訳ありません」
ハナコが本当にすまなさそうに謝る。
「いや、ハナコのせいじゃない。洗濯はもう一度すれば良いし、服は着替えれば良い。そんなに気に病む事でもない」
「そうですよ!濡れたままだと風邪を引いてしまいますし、まずは早く着替えてしまいましょう」
アズサのヒフミに慰められ、ハナコは「…ありがとうございます」と微笑みを浮かべる。
「髪も乾かさないとですね」
「…温かいコーヒーを淹れておこう。皆、着替えたら教えてくれ」
ルルーシュの言葉に、ヒフミがありがとうございますと言い残し、そのまま四人は部屋へと戻っていった。
それから暫くして、再びバタバタと慌てた足音がし始めたので、ルルーシュは今度は何だと腰を上げる。
しかし、それを制止するような声が扉越しに響く。
「先生は部屋にいてください!!」
「あ、ああ。…どうしたんだ?」
「いえ…その…」
「着れるものが全部濡れてしまったから洗濯しなくてはならなくなった」
「アズサちゃん…!」
「今、皆下着なんです♡」
「何で言っちゃうのよバカ!!」
騒がしい声が遠ざかるのを聞きながら、ルルーシュは小さくため息を付く。
「まあ、仕方がない。こういう事もあるか」
予定の修整を考えつつ、彼は四人分のコーヒーを淹れた。
皆が部屋に戻ったのを音で確認してから、ルルーシュは扉をノックし、呼びかける。
「身体を冷やすといけない。誰か受け取ってくれないか。部屋の中は見ないようにしてるから」
恐る恐るといったゆっくりな動きで開かれる扉。
ルルーシュは部屋に背を向け、目を廊下の奥へと向けたまま、その隙間に片手で四人分のマグカップを載せたプレートを差し入れる。
「あ、ありがとうございます」
「いや。…洗濯が終わるまで休んでおくと良い」
「先生。こっちを向いても良いんですよ」
「ダメに決まってんでしょ?!」
「あら。でも別に裸と言うわけではないですよ」
「下着でもダメ!!当たり前じゃない!!」
騒がしい室内を見ることなく、ルルーシュは扉を閉じた。
想定外に時間が空いてしまったな。
ルルーシュは恐らく数時間は最低でも必要になるだろう突然の空き時間に何をするべきかと考えつつ、自室へと戻るのだった。
しかし、話はそこで終わりはしない。
数十分程経過した頃のこと。
真っ黒な雲に覆われ、薄暗い世界が瞬間、白く瞬き、一瞬遅れて、爆発音のような巨大な雷鳴もが轟く。
そして次の瞬間、突如、部屋に、別館に灯る光が消え、彼らの視界に景色を届ける光は、薄暗い外から漏れ入る僅かな自然光のみとなってしまった。
「停電…?!」
夜中のように暗くなった室内でルルーシュは、備え付けていた懐中電灯を手探る。
「チッ。こんな時に限って…!」
まだ彼女らの服は洗濯中だったはずだ。
最悪電気を使わないストーブでも探して、あれば手洗いするしかないか。
状況が状況だけに仕方がないとルルーシュは、皆の安全確認と現状把握の為に洗濯室へと向かった。
「と、扉も開きません…!」
洗濯室の近くまで来た時、彼の耳に不穏な言葉が届く。
不味いな、取り出すことも出来なくなっているのか?
少し歩調を早めて洗濯室に足を踏み入れる。
「せ、先生?!」
「え?…えっ?!」
「あら」
どうやら、先に到着していた彼女達の反応。
ルルーシュはその意味に、視界へ飛び込んできた光景によって遅れて気が付いた。
「うわあっ?!す、すまん…!」
そう言えば着るものがないからと下着だと…!
慌てて目を逸らし洗濯室から飛び出す。
「へ、変態!バカ!何堂々と入ってきてんのよ!!」
「わ、悪かったって…!」
「ごめんですめば警察も私達もいらないの!!」
「コハルちゃん落ち着いて…」
「わざとじゃなさそうですし…まあ、私はどちらでも構わないのですが」
「あんたは黙ってて!!」
騒がしくなる洗濯室。
ひとしきりコハルが怒った後、ヒフミが「今はそれより」と洗濯機へと向き合う。
「扉が開かないということは…今日私達が着れるものって…」
コハルも、思い出した現実で、すっかり勢いが削がれてしまうのだった。
少ししてから──。
「それでは第一回補習授業部水着パーティを始めます♡」
ハナコはが楽しそうに音頭を取る。
そう、結局彼女らが着られるものは学校指定の水着くらいしか残っていなかったのだ。
全員が水着を着て、そうして停電もしている以上、勉強も出来ない。
どうしたものかという状況で、ハナコが皆を体育館へと集めていたのである。
そうして、水着の生徒達が暗い体育館に集っている奇妙な図が誕生したのであった。
「こうとなっては、パジャマパーティならぬ水着パーティくらいしかすることはありません♡」
「な、何か他にもありそうな気がしますが…」
「なるほど。下着パーティとかもありそうですね。確かによく考えると他にも幾つかあると思いますが、それで本当に良いんですか?…ふふっ」
ハナコの怪しげな笑みに、ヒフミは「あうう…」と押し負けてしまう。
「しかし、こんな落雷くらいで全機能が停止するなんて…酷いセキュリティだ」
さすがのアズサもこの事態には多少の不満があるのか、そう愚痴を漏らした。
「まあな。…とは言っても、古い建物だからな」
ルルーシュも、使われなくなったからといって非常電源の類が整備されていない事に思う所があり、アズサに同調しつつ苦笑する。
「…っていうか!流されないわよ!水着パーティって何なの?!卑猥!」
コハルがしれっと開催されようとしていた謎のパーティに異議を唱える。
「授業も出来ないし着る服もないところまでは同意だけど、だったら大人しく部屋で休めば良いでしょ!普通に考えて!」
しかし、ハナコは至って真面目そうな顔で「あら」とコハルの目を見る。
「ですが、こういう時こそ、合宿の花だと思いませんか?
皆寄り添って、お互いの深い部分を曝け出し合う。…雨も降っている上停電で何も見えませんし、雰囲気は最高です!」
うふふふ、とハナコは楽しげに笑う。
「折角の休み時間なんですし、そうやって有意義に過ごしません?」
「あ、あはは…確かに合宿の定番という感じはしますね」
「なるほど。それが水着パーティ、と」
「いやいやいや!納得するか!水着とかけ合わせる意味は?!」
流されかけるヒフミと納得したように頷くアズサ。
だが、コハルは流されずすかさずツッコミを入れていた。
「あうう…確かに…」
「まあまあ、折角なんですし、楽しむとしましょう。
そうは言っても、ただのおしゃべりなんですし、話題も何でもありということで」
「フッ…」
様子を見ていたルルーシュは思わず笑みを漏らしていた。
「先生?」
「いや。ハナコ、何だか随分楽しそうだな」
「ええ。ふふっ。私、こういうことすっごくしてみたかったんですよね。なので、ちょっとテンションが上がっていると言いますか…」
確かに、ここまで浮かれているハナコを見たことはなかった気がする。本当に楽しそうだ。
ルルーシュは、そう、ハナコがいつも以上に、おふざけを言い放っている時よりも、遥かに浮かれて楽しげな表情を見せていた事に気が付き、思わず微笑してしまったのだ。
「気持ちは分かる。私も何なら、補習授業部に入って以来ずっとそういう気持ちだ」
アズサはそう頷き、ハナコに同調する。
「あら、そうなんですか?」
「うん。何かを学ぶということも、みんなでご飯を食べることも、洗濯も掃除も、その一つ一つが楽しい」
「あら…」
思わずといった調子でハナコは嬉しそうに笑った。
「水着は泳ぐ時だけに着るものだと思っていたのに、こんな活用方法があるなんてことも初めて知った。知らなかったことを知れるというのは、楽しいことだ」
「水着の件はちょっと違うと思いますが…」
「でも、動きやすいし通気性も良い。ハナコがこれを着て学校を歩いていたというのも納得出来る」
アズサが得心がいったと頷きながら言うのを聞いた、ハナコがコハルに向き直った。
「そうですよね。だから言ったじゃないですか。コハルちゃん」
「いやそれで外を歩くのは犯罪だから!納得しちゃダメ!公然淫猥罪だよ?!」
当然納得するわけもなくツッコミを飛ばすコハル。
そんなコハルであったが、「コハルと一緒に勉強するのも楽しい」とアズサに真っ直ぐと言われ、顔を真っ赤に照れたのか、一瞬押し黙った。
「…き、急になに?!何でそんな急に恥ずかしいことを?!」
「あらあら…♡」
「ま、まあ。私みたいなエリートと一緒に勉強してダメになることはないと思うけれど?」
「うん。本当にそうだ」
ヒフミはそんなアズサの様子に、感無量といった様相であった。
「最初はあまり表情の変化も読み取れなくて心配でしたが…良かったです!」
「勿論ヒフミもだ。本当にいつも世話になっている。ありがとう」
「あ、アズサちゃーーんっ!」
ヒフミはたまらずアズサに抱き着く。
「ひ、ヒフミ。ちょっと息苦しい…」
意外、と言うべきか。
アズサがここまで心中を顕にすることは余り無かった。
…ハナコの目論見が成功した、というわけか。
水着パーティと言い出した時はどうするのかと思ったが、存外、皆リラックス出来ているようだ。
楽しげに談笑する四人を見守りながら、ルルーシュは小さく安堵したような息を吐く。
「!…先生も、いつもありがとう」
それでルルーシュの気配に気付いたのか、アズサはルルーシュへと身体を向けた。
「あら…それでは私からも、ありがとうございます。先生」
「ま、まあ一応感謝はしておくわ」
「本当に、助けていただきありがとうございます…!」
思わぬ不意打ちに、ルルーシュはアルカイックスマイルも崩れ、「どういたしまして…?」と疑問形の混じった妙な返答を返してしまっていた。
「うふふ。先生も此方に来て下さい。
後ろで見ているだけと油断していたのでしょう」
ハナコに袖を引かれ、ルルーシュも一歩下がった場所から、輪に入る。
「…まったく」
ルルーシュはやれやれと腰を下ろした。
そして、談笑を再開した補習授業部の皆の作る、暗闇の中であるはずなのに、明るく見えるその輪に目を細め、微笑を漏らす。
「……」
「何だハナコ。人の顔をじっと見て」
「いえ…。何だか初めて、先生の笑顔を見た気がします」
「そうか?そんな筈はないと思うが」
先生として、怖い顔をしていてはいけないと笑顔を余り崩さないよう意識していたのだし。
等と、ズレた事を考えるルルーシュ。
「あ、でも分かる気がします」
「おいおい。別に嘘の笑顔を作ってるわけじゃないぞ」
「あ、いえ!そういうわけじゃなくて…。
力の入ってない感じ、と言いますか…」
「何だか安心したような感じに見えました」
よく分からないが、そうなのだろうか。
まあ、確かに、幾つか懸念が消えたことだし、少しばかり力が抜けたのかもしれないな。
だが、まだ安堵してられないのも事実…。
──とは言っても、今、この空気を壊す理由もあるまい。
ルルーシュは、彼女らの分析を否定することもなく、曖昧に「そうかな」と苦笑を浮かべるのだった。
そんなこんなで談笑は続く。
「そう言えば、今、トリニティのアクアリウムに、"ゴールドマグロ"という希少なお魚が展示されているらしいですね」
「あ、私もそれパンフレットで見ました。"幻の魚"と呼ばれているんですよね?」
「はい。どうやら近くの海で発見されとか。
見に行きたいのですが、入場料も安くないので」
ハナコとヒフミの会話から、はた、と思い出したようにアズサは言う。
「海…そう言えば一度も行ったことがないな」
「そ、そうなんですか?!一回も…?!」
他愛もない話。
しかし、皆楽しげであり、既に皆が水着であることなど忘れてしまったようだった。
「そう言えば、アズサちゃんはもう少ししっかり眠ったほうが良いと思いますよ」
「…うん。今朝は寝坊して迷惑をかけてしまった」
ふとした会話のついでにハナコに言われたアズサはすまなさそうに頷いた。
「慣れない場所で寝坊なんて今まで殆どなかっまのに…」
「もうここは、"慣れない場所"ではないってことじゃないか」
「…そうかもしれない」
とにかく、とハナコは真面目な様相で言う。
「もっとしっかり寝た方が良いです。深夜の見張りは減らしていただいて」
「見張り…?何それ」
コハルはアズサが毎晩見張りと称して寝室を抜け出していることを知らず、不思議そうに尋ねる。
「ああ。毎晩夜中にちょっと見張りを…」
「何で?!それじゃあ寝不足になるじゃない!」
「だな。ハナコが随分と心配していたぞ」
アズサは「そうなのか…?」と、ハナコにチラリと目を向け、小さく呟く。
「ごめん」、と。
「実は、見張りは言い訳で、ブービートラップとかを設置していたんだ」
「トラップ…?」
「どうしてそんなことを…?」
アズサは「心配しないで」と首を振る。
「ここに悪意を持って侵入しようとするルートだけに設置してあるから、普通の生活をする上では心配ない」
アズサの言。
しかし、ルルーシュは先日のマリーの一件を思い起こす。
そうでもない気がするが…。
まあ、この際ツッコむのは野暮か…。
「なるほど…ですが、それならそれで教えてくれると嬉しいです。
どうしても心配しちゃいますから」
「…そうか。うん。これからは気を付ける」
アズサは俯き気味に言う。
「私のせいで先生とみんなが被害を受けるのは望むところじゃないから」
「…アズサは優しいな」
「なっ…子供扱いしないで、先生…!」
「悪い悪い」
思っていたよりも可愛らしい反応が返ってきて、ルルーシュはつい、謝りながらも、フッと笑ってしまう。
しかし、アズサは直ぐに目を落としてしまった。
何かを思い出したようにして。
「私は別に…そんなのじゃない」
寂しげに彼女はポツリポツリと、呟くように続ける。
「だって…この世界は、全てが無意味で…虚しいものだ…。
だから、もしかしたら…」
何かを恐れるように、アズサは恐らく無意識だろう内に、拳を握っていた。
「私はいつか裏切ってしまうかもしれない。
…みんなのことを、その信頼を、心を…」
「アズサちゃん…?」
「アズサ…君は…」
瞬間、皆の視界が白く染まり、全員が目を瞑る。
「な、何?!」
「雷?!」
突然のことで視界を奪われた皆だったが、少しすると、目が慣れてきて、光の正体を知る。
雷が落ちたり、というわけではなかった。
体育館の照明が点灯。
煌々とした明かりが、体育館全体を明るく照らす。
「電気が…」
「治ったみたいですね」
「あ、雨もいつの間に…!」
コハルが窓外を指さし、はしゃぐ。
確かに、既に雨も止んでいるようだった。
陽光も窓から漏れ込み、ついさっきまでとは打って変わって、様々の光が学び舎を包み込んだ。
「では、改めてもう一度、洗濯しなおしましょうか」
ヒフミに続き、皆も立ち上がる。
「うん。じゃあ、第一回水着パーティはここで閉幕か。2回目も楽しみにしている」
「2回戦とかないから!こんなの最初で最後だから!」
アズサは余程楽しかったのだろう、またもう一度という熱意を見せたが、コハルがそれにしっかりとツッコミを入れるのだった。
「まあ、水着じゃなくて別の形でなら良いんじゃないか?」
「そ、それはまあ…悪くはないけど…」
「あら、先生。水着じゃない、ということは今度は一糸纏わず…と?」
「やっぱダメーー!!2回戦は無しよ!無し!!」
そうしてその日の残りは休みとなり、ワイワイと過ごす内に一日が終わ──りはしなかった。
「まだです!このまま一日が終わりなんてそんな勿体ないことさせません!」
日も沈んだ頃、部屋に皆がいる時にハナコがそう叫んでいた。
「は、はい?!」
「な、何急に?!びっくりした…」
「どうしたんだ。藪から棒に」
皆の注目がハナコへと集中する。
「突然のことでしたが、折角のお休みじゃないですか。
皆で裸で交わったのに、このままはい、お休みなさい、なんて──」
「勝手に記憶を捏造しないで!裸じゃないから!」
それはともかく、といつものようにコハルの反応をいなすように話題を変える。
「このまま寝てしまうのは勿体ないです。
まだ火照っていると言いますか、物足りないと言いますか…」
「具体的には?」
アズサの問いかけに、ハナコはうふふっ、と喜色を浮かべる。
「合宿と言えば、やはり、合宿所を抜け出すこと…それも一つの醍醐味だと思いませんか?」
さあ!とハナコはまだ先程までのテンションが残っているのか、いつも以上のテンションで音頭を取っていた。
「今から皆でこっそり外に出てお散歩しましょう?」
「トリニティの商店街は夜遅くまで営業している店も結構ありますし、食べ歩きとかショッピングも出来ます!」
しかし、コハルがそんなハナコを止める。
「そんなの校則違反じゃん!ダメッ!」
「細かい校則は知りませんが、結構皆さんこっそりやってると思いますよ?意外とそういう方周りにいませんか?ヒフミちゃん」
「あ、あはは…そう、ですね?」
同意を求められ頷いたヒフミだったが、「で、ですが」と懸念を口にする。
「普段であればまだしも、今は補習授業部の合宿中ですし…良いんでしょうか?」
「遠出するわけではありませんし、直ぐそこですよ。コハルちゃん。いかがですか?楽しそうだと思いません?」
いつになく押しのつよいハナコに、コハルも押され気味であった。
「えっ…と。き、興味は…ある、けど…」
「ちょっと行って戻ってくるだけだから大丈夫ですよ。良いですか?先生」
ここまで粘るハナコは珍しいな。
余程今日のことが気に入ったのだろう。
それだけじゃない。恐らく、皆のことも──。
会長なら、むしろノリノリだろうな。
モラトリアム。
大人のような世界を強要されることもあるこのキヴォトスにおける学生。
その貴重な青春を、私が邪魔するなど。
「全く。先生の前で堂々と話すんもんじゃない、と言おうか迷っていた所だったよ」
聞かなかった振りで行かせてやっても良かったが。
あえて許可を求められたんだ。
俺も一緒に、ということなのだろうな。
「…良いんじゃないか。楽しそうだ」
「い、良いの?!」
コハルが驚くのと同時に、ハナコの方は嬉しそうにパッと顔を明るくさせる。
そして、アズサは話している間に着替えていたようで、「準備は出来た」と万全の態勢を整えていた。
「もうすぐにでも出発出来る」
「アズサちゃん?!いつの間に着替えて…!」
「では、決定ですね」
待てと言われた犬のようにワクワクとした様子でアズサが皆を待っている。
「皆も商店街も逃げないから落ち着け」
「落ち着いている」
いつもの済まし顔のつもりだろう表情も、随分と緩くなっており、ルルーシュもつい、吹き出してしまう程だった。
「アズサちゃんを待たせちゃいますますね。
早く準備をして行きましょう!
楽しくなってきましたね!深夜に裸で散歩…」
「さりげなくすり替えないで!服は着ろ!」
最早恒例となったやり取りを交えながら、皆も出かける準備を進める。
そうして、補習授業部、皆での夜の散歩が始まるのだった。
今回も読んで頂き、誠にありがとうございます。
また次回もどうぞよろしくお願い致します。