コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
夜の街へと繰り出した一行。
「き、来ちゃいましたね…」
「どうですか?もう既に楽しくないですか?禁じられた行為をしているというこの背徳感。
そして、同時に皆一緒ということの安心感!
この2つが一緒になって…!」
別館を出てから終始ご機嫌な様子のハナコ。
「楽しそうだな」
「うふふ」
鼻唄でも歌い出しそうな軽やかな足取りでハナコは笑う。
年相応な面もあるんじゃないか、と、自分の年齢を完全に棚に上げて微笑ましく見守るルルーシュ。
その後ろにはキョロキョロと街を見回すアズサの姿もあった。
「深夜の街はこんな感じなのか…思ったより活気がある」
「そうなんですよ。24時間営業の店も多いですし」
「一日中開いている所があるのか。
…あれは、スイーツショップ?。喫茶店も開いているな」
「ここからもう少し行くとモモフレンズのグッズショップもあるんですよ。
その向かいには限定グッズだけを取り扱う隠れたお店もありまして」
「さすがはヒフミちゃん。お詳しいですね」
談笑する三人からルルーシュを挟んで少し離れた位置で歩くコハルはアズサとは異なる理由で辺りの様子を気にしているようだった。
「結局乗っちゃったけど、こんな所万が一ハスミ先輩に見られでもしたら、すっごい怒られそう…」
「そうなのですか?ハスミさんは後輩達に優しい方だと聞いていましたが…?」
ハナコに呟きを聞かれていたとは思っていなかったのか、一瞬方を竦めるコハルだったが、即座に反駁する。
「もちろん優しいわよ!それに文武両道、さいしょくけんび…?で、品もあって、すっごい先輩なんだから!」
しかし、そこまで言ってから最後に「でも怒るときはホントに怖くて…」と小さく呟いた。
「意外だな。長い時間関わったことがない、というのもあるだろうが、余り想像出来ない」
「前に一回すっごく怒っている時に私も居合わせたの」
「何に怒っていたんだ?」
「ゲヘナと、そこの生徒会、万魔殿に怒ってた。
ツルギ委員長たちもびっくりしてたわ」
「あら、それは激しいですね…いったい何が?」
ルルーシュはまだツルギの事を知らないので、それがどういう状況かの想像は付かなかったが、ある程度理解しているハナコはそれだけでハスミの怒りようが凄まじいものだったと察せていた。
「エデン条約の件で、ゲヘナの首脳部と会談をした時で…ハスミ先輩はこう言ったの」
『今度こそ私はダイエットをします!』
「だ、ダイエット…?」
話の振り出しから想像していた事態の斜め上の話題に、ルルーシュ達は困惑を浮かべる。
「ゲヘナとの会談で何があったらそうなったんだ…?」
「ツルギ先輩と間違われた挙句デカ女呼ばわりされた上、連呼されたって」
「……??」
万魔殿、一体どんな連中なんだ…?
というかどういう会話の流れでそうなったんだ…。
「それでその会議自体ダメになって…それ以来ハスミ先輩ご飯も余り食べないから心配で…」
「それはゲヘナに怒るのも分かりますね…」
「年頃だし気にもするのだろうな」
コハルは「でも大丈夫!」と何処か誇らしげに言う。
「あれから、自分との約束を守って一日2食、おやつも食べないでいるんだから!」
「へえ。それは凄いな」
そんな話をしながら散策をしていると、アズサが「あ」と視線を止め、指をさす。
「ここにもスイーツショップだ。随分頻繁にあるんだな」
「人が多いとそれだけ需要が高まるからな」
「なるほど。そういう事か」
「なんだか食べ物の話をしていたらお腹が減ってきました。ここで何か食べましょうか?」
ハナコの提案を反対する者はいない。
そのまま店の方へと向かっていき、看板をしっかりと認識出来る所まで来ると、ヒフミが「あっ」と声を上げた。
「ここ限定パフェがすっごくおいしいんですよ!24時間やってるとは知りませんでした!」
どうやら馴染みの店だったらしく、目を輝かせて紹介する。
「パフェか…悪くない。行こう」
三人はノリノリで店へと入っていったが、コハルは未だ、逡巡しているようだった。
「えっ…えっ?!うぅぅっ…だ、誰も見てないよね…?」
辺りに知り合いがいないかと確認しながらコハルはゆっくりと店へ近付いていく。
「大丈夫か?コハル」
「?!…せ、先生。まだ入ってなかったの?!」
「それはこっちのセリフじゃないか。
…まあ、そんなに嫌なら無理しなくても良いんだぞ。一緒に本屋にでもいって待っていたって──」
「嫌って…わけ…じゃない…んだけど…」
気恥ずかしそうにゴニョゴニョと言うコハルに可愛らしさを覚え、「フフッ」と笑いを思わず漏らしたルルーシュ。
「わ、笑わないでよ!」
「ごめんごめん。…でも、良かったよ。それなら、行こうか」
ルルーシュは扉を開け、コハルへ先に入るよう促す。
コハルは、まだ少し辺りを気にしながらも、店の扉を潜るのだった。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「あ、5名です」
「ではこちらへどうぞ」
店員に促され、先んじてヒフミ達が着座したテーブルに、少し遅れてコハルとルルーシュも座った。
「ご注文はお決まりでしょうか」
「えっと…限定パフェってまだありますか?」
ヒフミの確認に、店員は申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「申し訳ありません…限定パフェはつい丁度さっき、別のお客様が三つ購入されたのが最後でして…」
「あ…そうなんですか…」
「遅かったか…こんな時間まで狙われているなんて、侮れないな」
「残念だったな」
ヒフミとアズサの残念そうな声。
そんなやり取りをする声に気付く影。
どうやら最後のルルーシュの声に反応したらしい。
「…せ、先生?」
「ハスミ…?奇遇だな」
「ハスミ先輩?!」
コハルは全く想像もしていなかった場所での先輩との邂逅に飛び上がらんばかりであった。
しかも、ハスミのいるテーブルには大きな山盛りのパフェが並んでいた。
「それが限定パフェですか?何やら沢山…」
しかも三つも。
「先生…それに補習授業部の皆さん…」
気まずそうにハスミはスプーンを小皿に置く。
「あ、あぁあぁ…」
コハルは目の前の現実に混乱中のようで、よく分からない鳴き声を上げていた。
「あら、真夜中にパフェを3個も。ハスミさん、ダイエット中と伺いましたが?」
ハナコがクスクスと楽しそうに笑いながら問われ、ハスミは「うっ…これは…」と目を逸らす。
「はい。心中お察しします。真夜中に襲ってきた悪しき欲望に導かれ、ここまで来てしまったのですよね?」
「え?!…い、いえ…その…」
「まあ誰にだって誘惑に抗えないこともあるよな」
先程聞いた話も含め、ルルーシュは落差に苦笑していた。
「せ、先生…。こほん!自分のことを棚上げするようですが、補習授業部の皆さんは合宿中の外出は禁じられていたはずでは?」
「確かにな。おやつを抜くと皆の前で宣言したハスミ副委員長には敵わないようだ」
「…先生は意外と意地悪な方なのですね」
「冗談だよ。しかし、ここはお互い、見なかったことにしないか?」
実際に少しばかり意地悪な笑みを浮かべるルルーシュの提案に、「そうするとしましょう」とハスミも同意した。
「は、ハスミ先輩…」
「コハル。お勉強頑張っていますか?」
「あ。えっと…それはその…」
「コハルは最近、随分成績が上がっているよ」
まだ現状を呑み込みきれていないのだろうコハルがしどろもどろとなったところを、ルルーシュが助け舟を出した。
「は、はい!コハルちゃんはこのままいけば全然合格出来るくらい頑張っていて…!」
「なるほど。そうですか。やはり、コハルはやれば出来るのですね。あの時も言った通り…」
「あの時というと…」
「ええ。先生と一緒に正義実現委員会へいらっしゃった時のことです」
『応援してますよコハル。お勉強、頑張って下さい』
『本来の目的を忘れないでください。ただ目の前の勉強の話だけをしているわけではないのです』
『でもそんな…私には到底無理です…先輩と一緒にいたい気持ちは本当ですが、私には余りに難しいことで…』
『それではダメなんです!
コハル、私たちがこれからも一緒にいるためには、今頑張って貰わないとダメなのです』
『はい。…精一杯頑張ります…』
何ともまあ、拍子抜けな話だったな。
経緯を聞いたルルーシュはある程度危険性のないことと確信していたとは言え、それが確定したことに無意識で安堵し、小さく息を吐いていた。
ハスミと敵対するハメにはならず済んだのは何よりだ。
「えへへっ…。ハスミ先輩の期待を裏切りたくないですから!」
「はい。引き続き応援していますよ。早く正義実現委員会へ戻ってきて、一緒に任務を遂行できる日を楽しみにしていますから」
「頑張ります…!」
すっかりパフェの件はコハルの頭から抜けていそうだな。
まあそれならそれで良いか、となんだかんだ丸く収まりそうな事態を見守っていると、談笑を中断させる着信音がハスミのテーブルに置かれていたスマホから鳴り響いた。
「こんな時間に?…はい。イチカ。どうかしましたか?」
『ちょっと問題が発生しちゃいまして。…今、どちらに?』
「問題?詳しく聞かせて頂けますか?」
『学園近郊にゲヘナ生と推測される生徒達が無断で侵入。さらに無差別に銃撃を行いつつ、トリニティの施設を襲撃しているとの情報が』
なっ、とハスミは眉をつり上げる。
「ゲヘナの風紀委員会ですか?!それとも万魔殿がついに本性を…?!」
『あ、いえ…それが…』
「誰であれ、エデン条約を邪魔しようとする意図に違いありません!規模は何個中隊ですか?!場所は、その施設は何処ですか?!」
…前回の会談時の件は最終的にこうして平和裏に終わってはいるが、やはり、トリニティ生の反ゲヘナ感情というのは根深いのだな。
冷静さを欠くハスミの様相に、ルルーシュは何だかんだ笑い話に落ち着きそうな一件から少し油断しかけていた精神の糸を張り直す。
『落ち着いて欲しいっす先輩。とりあえず、ゲヘナの風紀委員会とかではなく、兵力も全然少なくて、確認されているのは4名と…拘束されている子が一人っすね』
「4名…?いえ、それより拘束されているのはトリニティの生徒ですか?!」
『いや、角とかの感じから多分ゲヘナの子っすね』
「何故拘束を……?」
『さあ…。あと、とりあえず、襲撃されたのはアクアリウムっす』
「アクアリウム…?どうしてそんなところを…?」
『あたしたちもよく分からないっすけど、展示中だった"ゴールドマグロ"を強奪して逃げてるとかで』
「ゴールドマグロ…?」
ゴールドマグロ?そう言えばそんな話をヒフミたちもしていたな。
高い希少種を狙った強盗、と言ったところか。
何にせよこの時期にゲヘナ生とは、厄介なことをする奴らがいたものだ。
漏れ聞こえる電話の相手の声と、ハスミのリアクションから大体の状況を推察していくルルーシュ。
『何でもめっちゃ高いらしくて、何処かに売り飛ばすとかそんな感じじゃ…あ、追加で情報来ました』
えーっと、と電話口から書類を読み上げる声が届く。
『連中の正体はゲヘナのテロリスト集団、"美食研究会"らしいっす。
首謀者は黒舘ハルナ。ゲヘナの中でも要注意人物とされているやつっすね。…で、どうします?先輩』
「美食研究会…?」
「食べるつもりか…?」
展示品を食べようとしているのでは、という頓狂な、しかし、首謀の組織からするとそう考えざるを得ない推測に、ルルーシュは思わず声に出してしまっていた。
「…!!」
『先輩、因みに今何処にいますか?早くご命令頂かないとツルギ先輩が発射…飛び出ちゃいそうですけど』
「つ、ツルギは一先ず止めてください!今、私は少々私用で外に…」
『いやー。無理っすよ。ハスミ先輩以外に止められそうに──あっ!待ってツルギ先輩!そっちはドアじゃな……』
轟音が電話口を通して僅かに届く。
凄まじいまでの勢いで破壊されたのだろう。
『あー…とりあえずあたしらも一旦追いかけて、出撃しますね』
そこで電話は切られ、ハスミは唖然としたままスマホを耳から降ろした。
そんな状況にまるで追い打ちをかけるかのように、爆発音が、大きくはないが、しかし、小さいというわけでもない音量で店内へと届いて来た。
「…近いな。音からしてここから1km以内のところか」
耳を澄ませたアズサが分析する。
「直ぐそこか…」
「え、ええっ?!」
フーッと息を吐いたハスミは「皆さん」と補習授業部の一同に声をかけた。
「突然のことですみませんが、皆さんの力が必要です。お願い出来ますでしょうか?」
「エデン条約を控えた今、この過敏な時期に、傍から見て、トリニティの正義実現委員会とゲヘナの衝突、と捉えられてしまうと、不利に働くことは想像に難くありません」
つまり、とルルーシュは頷きながら確認する。
「一部活に過ぎない補習授業部、そして"シャーレ"という外部勢力が協力するという構図を作り、正義実現委員会が主となる印象を避けたい、と言うわけだな」
「その通りです。お願い出来ますでしょうか?」
「まあ、私としては断る理由もないが…。
補習授業部、出動といこうか?」
アズサは真っ先に頷き素早く戦闘態勢に移る。
「了解した。先生の指示に従う」
「ええっ?!いきなり戦闘ですか?」
ヒフミはビビった様子ながらも、背負っていた銃を降ろし、手に握る。
「ふふっ…まあ、先生が仰るのであれば」
ハナコも頷き、同行の意思を示した。
「わ、私も…?…ハスミ先輩と一緒に…?」
「いつかこうして肩を並べる時期が来るとは思っていましたが、思ったよりも早かったですね」
コハルはハスミの言葉に嬉しそうに頷くのだった。
「そう言えば先生の指揮の下で戦うのは初めてか。遠慮はいらない。私のことは存分に使って」
「そいつは頼もしい。まあ大事な時期だ。ケガには気を付けるんだぞ」
通りを幾つか挟んだ先で、正義実現委員会の先遣隊が既に"美食研究会"を包囲下に置いていたが、戦線は押されつつあり、突破されるのも時間の問題という状況となっていた。
「たった4人でこれほどとはな」
「先生!対象と思われる集団の車です!」
「足は止めているようだな。流石は正義実現委員会だ」
ルルーシュはシッテムの箱を起動し、周囲の環境をスクリーニングさせる。
「車を停めてくれているのはありがたいが、いつでも動かせそうだな。
ハスミ、タイヤを狙ってくれ」
「はい」
数十メートル先、突破口を作ろうと一点集中で攻撃を仕掛けていた"美食研究会"の乗っている車両。
その車輪が破裂する。
「タイヤが?!」
「くっ…!警戒はしていたのですが!何処から狙われたのでしょうか?!」
「あ、あっち!新手だよ!」
「くっ!不味いですわね。車は捨てましょう!ジュンコさん。マグロとフウカさんを台車に!」
「もー!なんでこんなことに!」
使い物にならなくなった車両を素早く捨てる決断を下し、"美食研究会"の面々は荷台から人を一人と、マグロの入った水槽を降ろした。
「鮮度が落ちるのは防がねばなりません。アカリは水槽の防御を!」
「了解です★」
美食研究会は使い物にならなくなった車両を背にして一点へ火力を集中させている。水槽はその後方、アカリが銃を構えて守り、ハルナは中央で全体を見渡すといった陣形となる。
ルルーシュは彼女らの動きを見ながら誰が司令塔かを分析する。
「あの黒い制帽の子。恐らくあれが黒舘ハルナだな。
ハスミ、2時の方向、マグロの水槽付近に私が合図したら狙撃。当てないようにな。
アズサはハスミの狙撃後、黒舘ハルナと思わしき者へ突貫。
ヒフミはその援護だ。コハルとハナコは他の者を牽制してくれ」
全員の了解を確認すると、ルルーシュは美食研究会の動きを注視する。
此方に注意を向けこそしたが、包囲されている以上、ルルーシュ達の方にばかり注力してもいられない。
ルルーシュ達への注意が最も薄まった瞬間を狙っていた。
「…よし!今だ!」
ハスミの狙撃。
意識の外から水槽近くを襲った弾丸に、アカリの注意が向く。
「マグロが…!?」
他の者も目的のものが危ないと思わず一瞬、注意をそちらへと向けてしまっていた。
そこに、アズサが一点突破を図る。
真っ直ぐに全速力でハルナへと向かい、駆ける。
ヒフミがその後に続く。
即座に向かってくるアズサの存在に気付き、ハルナ達は「しまった!」と注意を向け直す。
しかし、アズサの後を追っていたヒフミがその瞬間、立ち止まり、銃口をハルナの隣にいた
赤い髪の、ジュンコと呼ばれた生徒に向けた。
「わっ?!」
突発的な攻撃に反応しきることができず、ジュンコは数発の銃弾を受けながら、一旦物陰へと退避した。
アズサはその隙にハルナの間近へと被弾面積を縮めるような低い姿勢で近接し、そのまま銃口をその小柄な体躯と共に滑り込むようにしてハルナへと向けた。
「やりますわね…!」
放たれた弾丸をハルナは表情こそ余裕を感じさせる笑みだが、咄嗟に自身の銃身で受け、防いでいた。
「アズサ。無理はするな。一旦退け。
ハナコとコハルはハルナを狙え。アズサとヒフミの撤退を支援。
ハスミ!今度は10時の方向に向けて2秒後に発砲」
「……今っ!」
物陰から出てきたばかりのジュンコを狙撃が襲う。
「うわあっ?!」
済んでのところで回避されてしまうが、ジュンコの動きはそれで拘束されてしまうのだった。
「よし。ヒフミ、手榴弾か何かないか?」
「すみません。持ち合わせがなくて…!」
「あ、わ、私が持ってる!正義実現委員会の装備で一応…」
「よし。そいつを正面の敵陣に向けて投擲。
爆炎で視界を遮ってから…アズサ、もう一度行けるか?」
「問題ない」
「では、アズサはマグロを狙ってくれ。奪還するつもりでな。ただし無理はするな。
ハスミはアズサがマグロ奪還の為に戦闘を初めて、彼女らがこちらの狙いをそうと認識した頃にハルナを狙ってもらう。
ヒフミ、ハナコは各段階でカバーだ。個別に指示を出す」
「わ、わかった…。えいっ!」
投擲された手榴弾が爆炎を上げ、補習授業部一行と美食研究会の間を遮った。
「また何か仕掛けてきますわよ!」
バッと煙から飛び出したアズサ。
ハルナは一瞬身構えたが、即座に気付く。
「マグロを…!」
一目散に向かう先には、マグロ。
それを守るアカリも、アズサの狙いに気が付いたようで、「渡しませんよ〜★」と銃を構えた。
「ヒフミ!ハナコ!黄色髪を狙え!」
「は、はいっ!」
「了解です」
狙撃銃ではない故に、当たりはしない。
しかし、自身の近くへ着弾する銃弾には、どうしたって注意を向けてしまうものだ。
分散した注意の隙を付き、アズサは飛び上がった。
そうして、上から、アカリを狙う。
「なるほど★水槽に当たらないように、ですか」
連射。
幾発かの銃弾を受け、アカリは若干のふらつきを見せる。
「不味いですわね」
瞬間、ハルナに直撃するは、ハスミの狙撃。
「かっ……!」
その威力に、一瞬、ハルナはぐらりと身体を揺らした。
しかし、即座に意識を取り戻し、首を振る。
「危ない危ない。このままでは不味いですわね」
「少々手荒ですが…やり返してあげるのはどうでしょう★」
アカリが手榴弾を取り出し、笑顔で提案する。
「確かに、相手は5人。突破するならあそこでしょうし…良いですわね──」
チュインと銃弾の弾ける金属音が彼女らの耳元で鳴る。
「へ──」
アカリの手にあった手榴弾が撃ち抜かれ、そのまま地面へと落下。
「あ」
爆発。
煙と炎の中から彼女らはまだまだピンピンした様子で現れる。
「マグロがーーー!!」
しかし、マグロは無事ではなかったようで、"美食研究会"の誰かの悲鳴が響いてきた。
「マグロも巻き込んでしまったか…すまんなハスミ」
「いえ…撃ったのは私ですから…。非常事態ですし、致し方ありません」
「折角ならお造りで食べたかったのですが、天ぷらになってしまいましたわね…」
煙の中でハルナは残念そうに呟く。
「ところで、ピンチな気がしますが、どうしましょう?★」
「はっ。バラバラに逃げたら生存率上がるんじゃない?!」
ジュンコはそう言うが早いか駆け出し、正義実現委員会の隙間を縫うようにして一人、逃げていく。
「なるほど。良いアイデアですね。
では、足の速さ次第ですが弱肉強食ということで★」
アカリもさっさと逃げ出し、ハルナも「ふふふ」と楽しげに笑いながら駆け出す。
「運任せとなりそうですがそれもまたスパイスのようなもの…!それでは!」
一人、グレーっぽい髪の生徒だけが置いていかれ、「私だけ置いていかないで〜〜?!」と遅れて駆け出すが、転んでしまう。
「置いていかないでってばー!!うわーん!覚えてなさいよ!絶対いつか仕返ししてやるんだからー!」
確かに、一人ずつならこの包囲網でも網の目を抜けるようにして突破も可能なのかもしれんが…。
余りに素早く仲間も見捨てて逃げ去る"美食研究会"に思わず呆気に取られてしまっていたルルーシュ。
呆気に取られている場合ではないと直ぐに我を取り戻し、「各自!別れて追跡だ!」と指示を出す。
「くっ…小癪な…!」
「ハスミは正義実現委員会を統率して警戒網を!」
「そうですね。直ぐに。ここはトリニティ自治区。私たちから逃げることなんて不可能です!」
そこから少し離れた通り。
ジュンコは息を切らしながら後背を警戒しつつ駆けていく。
しかし、見覚えのある人影を見、立ち止まる。
「…え?アカリ?」
「あら、ジュンコさん…」
ボロボロの状態で振り返り、アカリは気さくにジュンコへ挨拶する。
「ど、どうしたのそんなフラフラの状態で?!」
そしてジュンコは気付く。
アカリの目の前に立つ、正義実現委員会の服に身を包んだ生徒に。
「……!」
「端的に言いますと…無理でした★」
もう限界とばかりに倒れるアカリ。
「アカリっ?!」
「くひひっ…きひひひ…」
不気味な笑い声を上げる正義実現委員会の彼女は、ゆっくりとジュンコへと近づいていく。
「えっ…?な、なにっ?!鬼?!」
「きゃははははぁっ!」
奇声と共にジュンコへ飛び込む彼女こそ、正義実現委員会のトップ、剣先ツルギであった。
「いやああああっ?!ごめんなさいいいい?!」
ジュンコの悲鳴が夜の通りに響く──。
そうして一先ず事態は収拾した。
「お疲れ様でした。先生、補習授業部の皆さん。お陰様で、事態を無事に収拾することが出来ました」
「あはは…途中からはもう無我夢中という感じでしたが…」
「正義実現委員会の戦術を間近で見れて良い勉強になった。
先生の指揮も知れたし、良い経験だった」
「役に立てたのかは分かりませんが…」
ハスミは微笑を浮かべ、コハルに笑いかける。
「コハルも的確に動いてくれたので助かりましたよ」
パッと顔を明るくさせるコハルを微笑ましげに見ながら、ハナコが「ところで」と言う。
「あの方達はこの後どうなるのですか?」
「本来なら私達のほうで処遇を決めるのですが、今は時期が時期ですので、ゲヘナの風紀委員会に引き渡そうかと」
「それが良いだろうな」
「はい。それで、先生にもう一つお願いがあるのですが」
ルルーシュは話の流れからお願いの内容を察する。
「引き渡し役を頼みたい、というところかな」
「ええ。その通りです。お願い出来ますでしょうか?」
「構わないよ」
「すみません。それでは、お願い致します」
そうした事情があり、ルルーシュは数時間後、正義実現委員会の手配した護送車の助手席に揺られていた。
運転は流石に、護衛を兼ねた正義実現委員会の生徒である。
「なあ。君達はなんでゴールドマグロを狙ったんだ?」
走行中、ルルーシュは彼女らのことを知ろうと声をかけた。
「なんでだろうね」
投げやりなジュンコ。
しかし、アカリは対象的に嬉々として語り始める。
「あのゴールドマグロと聞いては黙っていられません★」
ハルナも「ふふっ」と乗っかる。
「あの伝説のマグロをただの観賞用とするなんて、そんなこと美食に対する礼儀がなっていないと思いませんか?」
「…礼儀?」
「美食というものは孤高でありながら、普遍的でなくてはなりません。
ただ見世物としてお金稼ぎの手段に終わるなど、ゴールドマグロさんも望んでいなかったはずです」
私達はただ!とハルナは声量を上げた。
「その声に共鳴しただけ!そうですよね?フウカさん」
「私に話を振るな!というか同意するわけないでしょ!そんな理屈!」
随分と、良く言えば自由な連中だな。
しかし、全員が完全に同じ方向を向いているというよりは、協力関係にある、という方が近そうな感じか?
ジュンコの感じからして全員が乗り気だったわけではないようだし。
となると、ハルナを狙う戦術は成功していても大した意味はなかったのだろうな。
いや、それより一番気になるのは──。
「愛清フウカ…だったか?君は美食研究会じゃないんだよな?」
「違います!私はゲヘナの給食部部長です!」
「因みになんで拘束されていたんだ?」
「あら、フウカさんにマグロを調理していただくためですわ」
「………攫ったのか?」
「まさか。同行をお願いしたまでですわ」
済ました顔で答えるハルナにフウカがツッコむ。
「猿轡して手足拘束しといてよく言うわね!」
「災難だったな…」
何となく事情を理解したルルーシュは、理解はしても呑み込みきれず困惑のままに言うのだった。
キヴォトスにある程度慣れたと思っていたが…まだまだ理解の及ばない事態があるものだな。
そうそうあってほしくはないのだが…。
そうこうしている間に、ゲヘナとトリニティの自治区を結ぶ大橋へと車は到着していた。
ルルーシュたちが到着してから5分とせず、ゲヘナ側からも数台の車がやって来る。
1台は救急車らしき見目をしていた。
先ず最初に、その救急車然とした車体から生徒が降りてくる。
青っぽい看護服に身を包んだ白髮ショートの生徒がクールそうな目でルルーシュらを見据えながらやって来た。
「…お待たせしました。死体は何処ですか?」
「死体…?」
いきなりの物騒な質問に、つい聞き返してしまう。
「失礼。死体ではなく負傷者ですね。たまに混同してしまって」
ピラリと紙を取り出し、彼女は言う。
「納品リストには、新鮮な負傷者3名と人質1人、と書かれていましたが」
「新鮮な…」
「ところで貴方は?正義実現委員会ではなさそうですが」
彼女に問われ、ルルーシュが名乗ろうとしたのとほぼ同時、見慣れた人影が、看護服の彼女の後ろへやって来た。
「その方はシャーレのルルーシュ先生」
「久しぶりだね。ヒナ」
「ええ。久しぶりね。いつぶりかしら。
ところで、ここで何をしていたの?」
「まあ詳しく話すと長くなるから、手短に言うと」
そうルルーシュは前置きした。
「条約の締結が近い時期にトリニティでゲヘナの生徒が暴れた。
その処理に両校の風紀委員が当たった、となれば面倒になりそうだろ?だから私に依頼が来たんだ」
「ああ。なるほど。お互いの政治的な問題にならないよう先生が」
確かに、とヒナは頷く。
「問題にしたくないのはこっちも同じ。
だからこそ、今回は公的には風紀委員会ではなく、こっちの"救急医学部"が来たってことになってる。私は付き添いの形ね」
ヒナに手で紹介された看護服の生徒はペコリとルルーシュへ頭を下げた。
「救急医学部部長、氷室セナです。以後、よろしくお願い致します。先生。
死た…いえ、負傷者がいたらいつでもお呼びください。配送料は頂きませんから」
「よろしく…」
冗談で言っているのか本気なのか判別出来ず、当たり障りのない返答をするルルーシュ。
「救急医学部はゲヘナでも特に政治的な部分に関わりの薄い立場にいる。
だからこうして今回お願いしたの」
「政治ごっこは風紀委員長にお任せします。私は死体にしか興味がありませんので」
「負傷者でしょう。…それに、本物の死体なんて見たことないでしょうに」
「はい。負傷者でした。そのことについては、委員長もないでしょう?」
何とも言えない空気感の会話を打ち切り、ヒナが護送車の方へと寄る。
「とにかく、美食研究会はこの中?」
ルルーシュの頷くのを見て、同行していたセナ以外の救急医学部のメンバーに目を向ける。
「じゃ、移してもらえる?」
「ふふっ。ヒナさん。お久しぶりですわね」
護送車から降りたハルナは、ヒナを見るなり、友人にでもあったかのような気さくな態度で挨拶する。
「ハルナ。相変わらず…いえ、詳しい話は帰ってからで」
はあ、と息を吐くヒナ。
そこに続々と護送車から美食研究会が降ろされてくる。
最後に「た、助かった…」と疲労の色を浮かべるフウカが丁重に降ろされた。
「あら、給食部の。今日一日見ていないと思ったらこんなところに。
…今、学園でジュリが…いえ、やっぱり説明は帰りながらで」
ゲンナリした様子のフウカを見、ヒナは一旦話を保留した。
「なんだか一人美食研究会が足りてない気がするけど…また、面倒だから良いわ」
ゲヘナ側の車両に移される直前、ハルナはルルーシュの方に声をかけた。
「先生。今度ゲヘナにいらっしゃった時には美味しいものでおもてなし致しますわね」
「はは。期待しておくよ」
単なる社交辞令のつもりでルルーシュは返答したが、彼はこの事を後悔する日が来るだろう。
「お疲れ様。じゃあ、道中気をつけて」
全員を詰め込み終えるのを見届けつつ、ルルーシュはヒナを労う。
「ありがとう。…ところで先生」
「うん?」
「トリニティで何をしているの?」
「補習授業部ってとこの担任をしてる」
ヒナは「それは知ってる」と頭を振った。
「色々と情報は入ってるから。
そうじゃなくて、シャーレは中立の組織な筈。
なのに、この時期にトリニティにいるとまるで…」
「…だろうな。分かってるよ」
「………ごめんなさい。今のは忘れて」
「いや。私の方こそすまないな」
多分、それも込みでナギサの狙いなのだろう。
その可能性はあるとは思っていたが、正直ここまでの対立だとは思っていなかった。
そこは俺のミスだな。
ヒナ…ゲヘナの側もトリニティに不信感を抱いているようだし。
根深いどころではない。
いつ爆発するかも分からない状況、の方が認識としては正しそうだ。
「風紀委員長、積み終えましたよ」
セナから声がかかり、踵を返しかけるヒナ。
ルルーシュはしかし、どうせならと、一つヒナへ尋ねる事とした。
情報をヒナに提供することにはなるが、ナギサに利用されぱなしの現状は確かにシャーレという組織にとって良くはない。
ナギサの心情はある程度理解はしているつもりだが、それでも、好き放題させて良いわけでもない事だし。
話すな、と言われ、約束した所はぼかすが。
俺は俺の立場を利用してみるのも手、だ。
誰に話すか、胸に留めるか、それはヒナ次第。
ナギサには悪いが、まあ、ヒナなら悪用もしないだろう。
それに、他の、ナギサやミカ以外の見方。或いは、ゲヘナ側の見方も少しは見えてくるかもしれない。
少なくとも、補習授業部の授業とテストに拘束されている状況では情報収集もままならんからな。
それもナギサの狙いの一つなのだろうか。
いや、それは流石に穿ち過ぎか。
俺まで疑心暗鬼を深めては世話ないな。
ただ、新しい情報の一つでも得られれば万々歳だ。
「少しだけ良いか?」
「?良いわ。……ちょっと待ってて貰える?少しだけ用事があるの」
ヒナは、セナに声をかけ、ルルーシュへと再び向き直った。
ルルーシュは慎重に言葉を組み立て、問う。
「ヒナは、エデン条約をどう思っている?」
今回も読んで頂き、ありがとうございます。
また次回もどうぞよろしくお願い致します。
頂いた感想は全て読ませて頂いております…!
先の内容に触れそうで中々返信が難しい事も多く、余り返信出来てはいませんが、とても嬉しく読ませてもらっています。
これからもお気軽に感想等頂ければ大変ありがたいです。
いつも本当にありがとうございます。