コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐   作:ライト鯖

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Archive-064 束の間の平穏

 

「どういうこと?」

 

エデン条約をどう思うか、その質問の意図を掴みかねたヒナは首を傾げる。

 

「なに。色々な見方があるようだな、と思ってね。

例えば…エデン条約は軍事同盟、とか」

「……軍事同盟、ね。

誰がそんな事を言っていたの?」

「それは秘密だ。ただ、ナギサではない」

「あんまり候補者は多くはならないわね」

「かもね」

「……軍事同盟、興味深い見方ではあると思う。

でも、少なくとも私はそうは思わない。

あれはれっきとした平和条約。私はそう考えている」

「やはり、ETOをナギサが単独で統制する、というのは難しいのだな」

 

ええ、とヒナは頷く。

 

「万魔殿のマコトもナギサと同等の権限を持つことになる。

それだけじゃなく、他のティーパーティーメンバーや万魔殿のメンバーに対してもある程度の権限が分割される。

誰か一人の意志で、本来の目的を失って暴走するようなことは考えにくい」

 

勿論、とヒナは彼女自身、あり得ないと断言出来る仮定を上げる。

 

「全員が協力する、なんてことがあれば、理論上はあり得るのかもしれないけれど」

「まあ、そんな事が可能なら、そもそもこんな条約必要ないよな」

 

或いはギアスを使いでもしなければ、と内心に過ぎらせつつ言う。

 

「そうね。それに、マコトは誰かと協力することだなんて出来ない質だから」

「それはそれで…何でエデン条約に賛成しているんだ?」

 

しかも、単なる協力、などではなく、長年対立してきた学園との協力だ。

そんな性格ならば、中々賛同するようには思えない。

何か狙いがあるのだろうか。

 

「…賛同というか、多分何も考えてないんじゃないかしら」

 

ルルーシュの思考を無碍にするかの如き切り捨て方に思わずルルーシュは苦笑してしまう。

 

流石に何も考えていないということはないだろう。

若干個人的な好悪が混じっているようにも思える。

ヒナを信用はしているが、楽観的に過ぎる見方に偏るべきではない。

 

「そもそもエデン条約をゲヘナ側で推進したのは私だったから」

「!…ヒナが?」

 

それまでの思考が前提から覆る情報に、ルルーシュは思わず思考の流れを堰き止め、吃驚したように顔を上げていた。

 

「…色々面倒だし、引退するのもありかなって」

「引退?」

「ETOが出来れば、今より遥かにゲヘナの秩序は多少マシになるはず。

そうなったらもう、私が風紀委員長じゃなくても良いでしょう」

「──なるほど」

 

引退?

ヒナが引退を考えていたとは。

いや、彼女は三年生。不思議なことではない。

 

それでエデン条約の推進を…。

いや、そうなると万魔殿は何故積極的なんだ。

風紀委員との関係は良くない上に、ヒナのマコト評が正しいとすれば、協力してやる理由が見当たらないように思える。

 

……マコト、万魔殿、まだ会ったことはないし、一度挨拶はしておくべきだろうな。

今のままでは何もかも不確定な推測にしかならない。

だが、恐らく、何か裏の理由がありそうだ。

 

やはり、ヒナに話して良かった。

新たな情報も得られたことだし…。

 

「じゃあお疲れ様。先生…」 

 

セナから呼ばれたヒナは「今行く」と返事をしてから、ルルーシュへ最後に問う。

 

「この時期にトリニティへ長期間先生を拘束している。それも、表向きは補習の為だけに」

「………」

「トリニティで、先生は何をしているの?」

「──エデン条約を阻む、裏切り者を探してくれ、だとさ」

 

数秒の逡巡の後、ルルーシュはそれを口にする決断を下した。

ヒナという一個人への信用だけではない。

彼女の立場、エデン条約を推進している、とちう立場。

それが故に、彼女がこの情報を悪用はしないだろう、と判断したのだ。

 

「なるほどね。思ってたより、複雑な状況に置かれてるみたいね」

「まったく、状況だけが複雑になっていくよ」

「──その補習授業部のことは、先生が守るのよね?」

 

冗談めかしたルルーシュであったが、ヒナから大切な事を確認する、と向けられた目に気付くと、深く、一度頷き、しっかりと目線を合わせた。

 

「無論だ」

 

それを確認したヒナは「分かったわ」と頷いた。

 

「彼女らの平穏な学園生活の為に呼ばれたわけだしな」

 

最後に皮肉混じりに言ったルルーシュ。今度はヒナもフッと微笑を零す。

 

「そうね。なら……またね」

「ああ。ヒナも気を付けて」

 

そうしてヒナ達は美食研究会を連行していくのだった。

 

「夜の散歩程度のつもりだったのに、何だか怒涛だったな」

 

学舎に戻り、先に戻らせていた補習授業部の皆に出迎えられたルルーシュのため息に、ヒフミが苦笑を返す。

 

「あはは…なんだか大事に巻き込まれちゃいましたね」

「でも、楽しかった」

 

アズサは満足そうに微笑む。

その横で、「えへへ…」と更ににやけ顔となっているのはコハルである。

 

「なんだか嬉しそうだな。ハスミと共闘出来たからか?」

「そうよっ!悪い?!ハスミ先輩と一緒に戦えるなんて初めてだったし…」

 

にへら、と再び頬を緩ませる。

 

「私が役に立てたなんて嬉しい…!えへへっ…!」

「それは何よりだ。後は、ハスミの期待に応えるためにも、落第を免れるだけだな」

「わ、分かってる…!大丈夫よ!私はエリートなんだから…!」

 

怒涛の一日が終わり、また、次の一日が始まる。

 

「遅い!おはよう!」

 

元気の良いアズサの声が教室へとやって来た他の皆を出迎える。

 

「随分早いな。アズサ」

「陽が昇る前からここで予習と復習をしていた」

「どうりで朝から見かけないと。探したんだぞ?」

「ごめん。声をかけるべきだったかも」

「うふふっ。やる気満々ですね」

 

ハナコに言われ、アズサは「当然だ」と頷く。

 

「何せ今日も模擬試験がある。そうだろ?ヒフミ、先生」

「ああ。しっかりと準備してあるぞ」

「その様子ですと、アズサちゃんは模試への準備は万端といった感じですね」

「うん。第二次試験まであと2日しかないし、いつまでも皆に心配をかけるわけには行かない」

 

「そして、今度こそ…!」と、アズサは鼻息荒く意気込む。

 

「す、すごい気合入ってるじゃん…」

「試験問題の予想問題ももう何周もしてある。

準備は完壁だ」

 

コハルは、アズサの力の入り方に驚きつつも、「わ、私も負けないんだから…!」と意気込みを見せる。

 

「正義実現委員会エリートの力、見せて上げる!」

「では、私も精一杯頑張るとしましょうか♡」

 

フッと、皆のやる気にルルーシュは笑みを零す。

 

「やる気満々って感じだな。早速、模試をやってみるか?どうかな、ヒフミ」

「はい…!折角の勢いですし、始めちゃいましょう…!」

 

熱意の冷めぬ内にと始まった模試。

ルルーシュは直ぐにこれまでとの違いに気付く。

 

コハルも、アズサもよくペンが動いているな。

止まっている時間が格段に短くなっている。

 

それに、ハナコ。

定型文を書き写しているかのようなスピードだ。

止まるどころか、問題文を読んでいるのかと思ってしまう程に早いな。

まさかこれほどまでとは。

 

ヒフミも着実に実力が上がっていっている。

これまでの3回の模試は、2年生用、つまりヒフミのものに関しては徐々に難易度を上げてきているが、そのどれもにおいて、周りの様子にも気を配っている。

それだけの余裕を持てているという証拠だ。

 

 

ルルーシュはそんな手応えを感じながら、試験の終了を待つのだった。

 

そして──。

 

「先生…発表をお願いします…!」

 

採点を終えたルルーシュは皆に点数を開示した。

 

「ハナコ、69点。合格だ」

 

まあ、アズサ達にはまだ全員退学の件だったりは言っていない以上、急に満点を取るわけにもいかんだろうしな。

むしろここまで自在に点数を調整できるなら、成績そのものを心配する必要はないだろう。

 

「アズサ、73点。よく頑張ったな。ボーダーを10点以上超えている」

「コハル、61点。合格だ。まだ油断は出来ないが、流石だ。よく頑張ってくれた」

「そしてヒフミ。75点。合格だ。順調に成績を伸ばしていっているな」

そして、彼は微笑み、宣する。

 

「全員合格ライン達成だ。おめでとう」

「─や、やりました…!?」

「ほ、本当?!嘘ついてない?!」

 

皆の顔がパッと明るくなる。

特にヒフミは心からの安堵の息を思わず漏らしてしまっていた。

 

アズサも、珍しく分かりやすく浮かれた表情を浮かべていた。

 

「…アズサちゃん!凄いです!60点どころか70点を超えてしまいました…!

本当にすごいです…!頑張りましたね!」

「……うん!」

「コハルちゃんも先生の言う通り、ギリギリではありますが、これは紛うことなき合格です!すごいです!」

「…あはっ!これが私の実力よ!見たか!」

「はい!これぞ正義実現委員会のエリートです!流石です!」

 

そして、ヒフミはハナコにも目を向ける。

 

「ハナコちゃんも…」

「うふふっ。運が良かったですね」

「良かったです。ハナコちゃん…うう…」

 

こみ上げるものがあったのだろう、小さく嗚咽を漏らすヒフミに、ハナコは彼女の想いに思わずたじろいでしまう。

 

「ヒフミちゃん…?」

「ハナコちゃんに以前何があったのか、何を抱えているのかはまだ分かりませんが…良かったです…」

「ヒフミちゃん。…はい、ありがとうございます。そして、ごめんなさいご心配をおかけしてしまって」

 

「さて、それじゃああとは、2日間の間に追い込みだな。確実に合格出来るよう、少しでも地力を伸ばすぞ」

 

ルルーシュはわざとらしく明るい声を出し、場を取り持った。

 

「…そうですね!より確実に合格できるよう、皆、頑張りましょう」

 

あ、そうだ、とヒフミはそこで思い出したとばかりに、教室のロッカーへと走る。

 

そして、"彼ら"を取り出し抱えて、教壇へと運んで戻って来た。

 

「約束通り、モモフレンズ授与式を始めますっ!」

 

珍妙な見目のぬいぐるみ達がずらりと並ぶ。

ハナコは何とも言えない笑みを浮かべ、コハルは怪しいものでも見るような目付きであったが、アズサだけは、キラキラと目を輝かせていた。

 

「そう言えばそんな話もあったな」

「ええ!とっても大事な事ですよ!ご褒美なんですから」

 

「さあ、どうぞ!」とヒフミは楽しげにぬいぐるみ達に向けて腕を広げる。

 

「皆さん好きな子を選んで良いんですよ…!」

「なるほど…!そうなると…」

 

真剣な表情で悩み始めるアズサ。

その横でハナコは「私は謹んで辞退しますね」とモモフレンズを選ぶ権利を返上した。

 

「わ、私も…」

 

コハルもついでとばかりに辞退し、アズサの選択を待つばかりとなる。

 

「ど、どうしよう…私は…私は…!」

 

「ダメだ!」とアズサはこれまでに見せたことのない悶え方で悩んでいた。

 

「この中から選ぶなんてそんな難しいこと…!」

「ま、まあゆっくり選ぶと良い」

「あの黒い角が生えたのも良いし、メガネのカバも…!」

「か、カバではなくペロロ様は鳥なのですが…」

 

ぐうっ…とアズサは二つのぬいぐるみを交互に見交わす。

 

「このどちらかを選ぶなんて私には…!

私には無理だ。ヒフミ 頼む。私のかわりに選んで…」

「わ、私ですか?」

 

えっと…とヒフミはぬいぐるみ達に向き直り、アズサのお目当てを見比べる。

 

「スカルマン様とペロロ博士ですよね。

強いて選ぶとすると…」

 

ヒフミは一つを選び取り、アズサに提示する。

 

「こちらのインテリなペロロ博士でどうでしょうか!」

「…!よし、じゃあこの子だ!」

「実はこのペロロ博士は物知りで勉強も出来るという設定なんです」

 

フフン、と何処か誇らしげに微笑むヒフミ。

 

「なるほど。今のアズサに合っているな」

「はい!お勉強をがんばって成長中のアズサちゃんにぴったりです!」

「なるほど…そうなのか」

「ちょ、ちょっとだけ勉強し過ぎておかしくなっているという裏設定もあるのですが…」

 

何だその謎の設定。

…そこはまあ良いか。

 

「なにはともあれ、良かったなアズサ」

「うん。気に入った。本当に可愛い。好き。えへへ…」

 

緩みきった頬で愛おしそうにペロロを抱き締めるアズサ。

表情の読みにくかった彼女の子供らしい年相応な一面を見たルルーシュも、思わず口をほころばせていた。

 

「ありがとう。ヒフミ。これは一生大切にする」

「あ、ありがたいのですがそこまで言っていただけるとびっくりしてしまいますね…!

ですが私も嬉しいです!それはアズサちゃんがやり遂げたからこそですよ」

 

ヒフミもアズサの喜びように驚きながらも、嬉しそうに微笑む。

 

「うん。それでも同時に、友達からもらった初めてのプレゼントだから。

…これからはこのカバのことを、ヒフミだと思って大切にする…!」

「そ、それはちょっと恥ずかしいですね…?!それとカバではなく鳥で…」

 

その日はその後も、問題が起きることもなく、平和に勉強は進むのだった。

 

そして、試験を翌日に控えた日の早朝。

 

「…いよいよ明日です」

「第二次試験。…今の君達の実力なら合格ラインにはきっと届く。

今日は油断しないよう、半日は復習に時間を使う。

そして残りの時間で着実に弱点の克服、は時間が足りないが、応急処置をする時間にあてよう」「分かった。…何なら百点を取れるように頑張る」

「その意気だ。さて…」

 

ルルーシュは皆を見渡し、「悪いが」と口を開く。

 

「呼び出しを受けていてね。前半の復習はすまないが皆で協力してやっておいて欲しい」

「?…分かりました」

「…呼び出し、ですか」

「ああ。少し行ってくるよ」

 

ハナコの心配そうな反応に、ルルーシュは笑って何でもない事だと目で頷いて、そのまま教室を去るのだった。

 

ティーパーティーの茶会が開かれるテラス。

快晴の今日は、トリニティ総合学園の端々まで見渡せそうな澄んだ空と陽光に、茶会の席は照らされていた。

 

「…ご無沙汰しております。先生」

「やあナギサ。久しぶりだね」

 

ルルーシュを出迎えたのはナギサである。

にこやかな笑顔でティーカップを手に持ち、優雅に佇んでいる。

 

「あれからお変わりありませんか?合宿の方はいかがでしょう。何か困ったことなどありませんでしたか?」

「おかげさまで凡そ問題はないよ」

「それは良かった」

 

そう微笑んでから、ナギサは、口元へティーカップを寄せる。

一口、紅茶を啜り、ソーサーにカップを戻す。

 

「…この合宿は言うなれば、"生徒達をよく観察出来るように"、という配慮でした」

 

そういうことなのですが、とナギサはルルーシュへ目を向ける。

 

「何か判明したことなどはありますか?

…もっと直接的に言いましょうか。トリニティの裏切り者は、どなただと思いますか?」

「前にチェスをした時に言わなかったか?

私は私のやり方でいさせてもらう、と」

 

「そうでしたね」と頷きつつ、ナギサは再びティーカップを持ち上げ、口をつける。

 

「ただ、第二次学力試験を前にして、改めてそこを確認したかったのです。

そこで、本日もこうしてお越しいただいた次第で」

 

ふう、と息を吐き、ナギサは何でもないことのように言葉を紡ぐ。

 

「恐らくミカさんも接触してきましたよね?」

「へえ?何故そう思うんだ?」

 

ルルーシュはナギサの追求に対し、敢えて、挑戦的に笑ってみせるのだった。

 






今回も読んで頂き、ありがとうございます。
更新日は未定ですが、また次回もどうぞよろしくお願い致します。


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