なお、作者は豆腐メンタルですので批判、アンチコメント等はご遠慮ください。
歌が聞こえる
バイクは走る。夜の闇を引き裂くように。
バイク、ライドベンダーは疾走する。怪物の咆哮めがけて。
『対象、更に巨大化!ほんとうに一人でやるんですか!?』
「大丈夫、よく知ってる相手だから。それより」
『オーズバッシュ、許可おりました!』
「了解!」
仮面ライダーオーズはオペレーターとの会話を終えた。
20メートルはゆうに超えようという巨大な怪物、オトシブミヤミーの踏みつけを掻い潜り背後へ通り抜ける。
自身の剣、メダジャリバーへそのエネルギー源となるセルメダルを三枚投入し、レバーを引く。そしてオースキャナーで刀身のメダルをスキャン。
『スキャニングチャージ!』
メダジャリバーに力が漲る。
そしてオーズは届くはずのない距離から振り被り。
「せいやー!!!」
振り抜いた。刃が通った軌跡は空間ごときり裂かれた。
オトシブミヤミーの巨体さえ一刀両断する。
「あ……」
その後ろのビル含めて。
結ヶ丘高等学校。
表参道、青山、原宿の間に出来た新設校で、今日から木野エイジが通う高校である。
その通学路、見知った背中を見つける。
「
伊藤章は振り返った。やはり不服そうである。
昨日の、オーズとしての単独行動にお冠なのか。
頭を小突かれた。
「昨日の事、怒ってる?」
「少なくとも俺を待って連携してやれば、ビルぶった切りにはならなかったろうな」
「時間が無かったんだよ。更に巨大化するかもだったし」
「まあいいが」
態度ほど怒っているわけではないようである。
ビルを切り落とした件も緊急性が認められ、始末書さえかかずに済んだ事も既に知っているのだろう。
「で、本当にやるのか?」
「うん。作るよ、人助けの部活」
エイジがこの高校を選んだ様々な理由の一つ、新設校ゆえに一年生でも自由が効くだろうとの見込みがあった。
「
「せっかくの三年間だからね。それだけにはしたくないから」
章もエイジも当然ここに所属している。
「章もやってくれるでしょ?」
「へいへい。お前一人じゃ危なっかしいからな」
エイジは思う。
ここからだ。ここから
入学式も部活の発足も、ついでに勧誘も終えた。
「まあこれから新生活!って時にボランティアします、なんて人のほうがめずらしいのかなあ」
与えてもらった小さい部室でエイジは一人ごちる。
結局、人助けの部活こと学校生活応援部のメンバーはエイジと章だけだった。
マンパワーは多いに越したことはないがしかたない。二人でも出来る事はあるだろう。
「入るぞ」
「はーい」
章である。二人しかいないんだから声をかける必要もないだろうに。と思ったがそうでは無かった。
「早速だが依頼人を連れて来た」
流石、仕事が早い。初めての依頼人に気持ちを切り替える。
章とともに入室した少女。
「はじめまして。
中国出身だそうだ。少し訛りのような発音を差し引いても、上手な日本語だった。
「可可はスクールアイドル部を作りたいノデス」
「部活の勧誘ってこと?」
はい、と可可は頷いた。
スクールアイドル。今や世界中で知られる中高生の部活としてのアイドル活動。毎年開催される全国大会は、それはそれはすごい熱気と人気、らしい。
エイジほど関心が無くても、これくらいの知識はある程度には有名である。
「探してほしいのデス。スバラシイコエノヒト!」
可可のそれは懇願と呼べるものだった。
素晴らしい声の人、とはそういう能力が期待出来る人物を探すのではなく、どうやら特定の個人らしかった。
可可曰く、通学中にその人の歌を聴いて引き込まれてしまった。ぜひスクールアイドルに!とのことだ。
「可可と同じクラスでした。青い制服デス」
結ヶ丘には普通科と音楽科、二つの学科が存在する。
普通科は青の、音楽科は白の制服。
従ってその人物は意外にも普通科なのだった。
というか、同じクラスなのに逃げられたのか。勧誘の門が高い。
「普通科で歌が上手い、かあ」
エイジには一人心当たりがあった。だがまず彼女ではないだろう。だって歌えないのだから。
「あ!あの人デス!」
三人で廊下を歩きながら捜索していると可可が声を上げ、指さした。
「エイジくん……?」
「かのんちゃん……」
その方向にはエイジの心当たりこと、幼なじみの
視線が交差すること約三秒。苦笑いを浮かべると、彼女は逃げ出した。
全速力の逃亡である。それを追おうとする可可をエイジは制止した。
「なぜ止めるんデスカ!?」
「可可ちゃん。ちょっと話をしよう」
一度部室に戻って可可にかのんの、逃げる理由を説明した。
「歌えない、ノデスカ?」
「うん、必要な場面でね」
歌う事が大好きだったかのんは、ある時から大会などで歌うことが出来なくなった。
それはスクールアイドルとして致命的だろう。それでも勧誘したいのかどうか、エイジは可可に問う。
「それでも、可可はかのんサンの歌声にミリョウされマシタ。一緒にスクールアイドルしたいデス!」
「そっか。じゃあ無理のない範囲でお願いしてみようか」
可可の決意は固いようだ。エイジとしてもかのんが歌を取り戻す手伝いができたら、と前々から思っていた所だった。
章に視線を移すと、好きにしたらいい、と肩をすくめた。
決まりだ。
大変なのは、逃げ回るかのんを捕まえることだった。
廊下ですでにスクールアイドルの勧誘だと察知されてしまっている。その上章に至っては初対面。警戒度は高いだろう。
そこで三人で包囲網を敷くことになった。
そうすると自然。
「うぃっす」
「エイジくん……」
幼なじみのエイジが接触することになる。
中庭のベンチにかのんは腰掛けていた。
彼女は観念したのか、一つため息をついた。
「部活の勧誘だよ。ってもう分かってるか」
「スクールアイドル部、でしょ。アイドルなんてガラじゃないって〜」
「そう?かのんちゃんかわいいし、歌も上手だから適任だと思うけど?」
かのんは恨めしそうな顔をしている。歌えないと知っているクセに、とでも言いたげだ。
「他に入る部活、決めてたりする?」
「そういうんじゃないけど……」
「じゃあ、話だけでも聞いてあげてくれないかな」
「……エイジくん、変わったね」
かのんは空を仰いだ。
「前はもっとこう、トゲトゲしかったじゃない。すっかりまるくなっちゃって」
「そうかな」
「BOARDに入ると人が変わるって噂、本当なんだね」
「変?」
「ううん、すごいよ。ヒーローになる夢、叶えてるもんね。訓練生とはいえ」
訓練生。表向きはそうだ。オーズであることは、その適合者であることは基本的に隠さなければならない。
「そうでもないよ。なってみると思っていたのとは全然違う。責任も使命もずっと重かった。俺なんてまだまだだよ」
自分は大した事ないのだ。取りこぼした自分など。
「じゃあ可可ちゃんの話、聞いてあげてね」
「まってまって」
会話を切り上げようとするとかのんにとめられた。
「そっちこそ、ちぃちゃんとちゃんと話してよね」
「うっ……はい」
その名前を出されると笑うしかない。
かのんは説得したので、あとは可可作のチラシを、章と二人で手分けして配る。
「スクールアイドル、興味ありませんか?」
金髪に赤いカチューシャをした、一人の女生徒に差し出した。
「そんなアマチュアの部活動、興味無いわ」
「あまちゅあっ……!」
女生徒は立ち去った。厳しいご意見である。
しかしめげるわけにはいかない。可可の情熱は本物だったのだから。
「木野さん」
そこで呼び止められた。
「あ、
まだ存在しない生徒会を代行する
学校生活応援部設立の際に少し話をしていた。
「このチラシを配るのは止めてください」
「え、なんで?」
彼女は何か怒っているようだった。
「スクールアイドル部は理事長の許可を取っていません」
「それ、部員集めてからってわけには……」
「まいりません」
ピシャリと言われてしまった。
仕方ない。物事には順序というものがある。
「もっとも、許可がおりたとしても、私は認めませんが」
「スクールアイドル部?どうして?」
「この学校にふさわしくないからです」
またもピシャリ。
彼女はそれだけ言うと踵を返して去っていった。
スクールアイドルの何かが癇に障ったのだろうか。
夜。エイジはかのんに教えられたある場所へ向かった。
「うぃっす、ちぃちゃん」
「……いらっしゃいませ」
ちぃちゃんこと
彼女がたこ焼き屋でバイトしていると連絡を受け、足を運んでみたのだが。
「遅くなったけど、音楽科合格おめでとう」
「……」
「ここでバイトしてるって、かのんちゃんから聞いてさ」
「……」
「たこ焼き、美味しそうだね。丸って感じで」
「……」
全部無視された。つらい。
BOARDに入った頃からだろうか。彼女は必要以上の会話をしてくれなくなった。
何かに怒っているのだろうが、その何かが分からない。
「たこ焼き、買うの、買わないの?」
「かっ買います買います」
催促に慌てて返答する。
「ねえちーちゃん。そろそろ教えてくれない?謝るよ。何か怒ってるんだよね?」
「はい、お待ちどうさま」
ぐいとたこ焼きを押し付けられる
これ以上の会話は無理そうだった。
「ダンス、頑張ってね」
去り際にそれだけ伝えたが、やっぱり返答は無かった。
翌日。スクールアイドル勧誘にかのんも加わった。部活にこそ入れないが、心当たりを探してくれるとのこと。
だが結局だれも入部希望者は現れなかった。
「明日は音楽科も周ってみようか」
エイジの提案に可可は俯いたままだ。
「かのんサン。やっぱりやりませんカ!?」
「え?」
「へ?」
「お?」
顔を上げた可可は言い放った。
「可可は、やっぱりかのんサンと一緒にスクールアイドルが___
その時、携帯からアラートが鳴り響いた。
怪人警報だ。
「二人ともごめん!俺たち行かなきゃ」
「気をつけろよ!」
章と二人駆け出す。
そして懐からロックシードを取り出し、展開。
それはライドベンダーとなった。愛用のマシンに跨り、スマホに示された現場へ急行する。
オーズとバースは目視出来る距離までは、五分と掛からなかった。敵は金属で出来たティラノサウルスのような巨体を震わせている。
『対象はティーレックスドーパント。機材等を飲み込み巨大化しました!』
「またデカブツか」
オペレーターの説明に、バースが呟く。
「じゃあまたオーズバッシュの許可申請で」
『許可下りません』
「えー」
ビルを切り落としたのが不味かったらしい。今回は使えないだろう。
「ブレストキャノンで吹き飛ばす。時間稼いでくれ」
バースの案に乗っかろう。
ドーパントは跳び上がり、こちらめがけて落ちてくる。
跳躍には跳躍、バッタレッグの力で回避。
続けてトラクローを展開。標的の足元めがけて突き刺した。
敵は暴れるがなんとか食らいつく。タカアイで脆弱なパーツを見つけ出し、更にえぐる。
左足首を崩し、転倒させる。
「オーズ、離れろ!」
ブレストキャノンを展開したバースが叫ぶ。
オーズが退避した直後、赤く太いレーザーがドーパントを焼き、爆散させた。
「よし、やって……ない!」
土煙の中から、ティラノサウルスの頭骨に人の手足を生やした怪物が飛び出して来た。これが本体か。
敵の噛みつきをオーズはすんでのところで躱す。
そして下顎へ蹴りをお見舞いする。体勢が崩れたところをトラクローで引き裂く。更にバースバスターの射撃もクリーンヒット。
「決めるぞ!」
「うん!」
バースはバースバスターの銃口にセルバレットポッドを接続。
オーズはオースキャナーで再びコアメダルをスキャン。
『セルバースト』
『スキャニングチャージ』
「おらっ!」
「せいやー!」
バースバスターの必殺技、セルバーストとオーズタトバコンボの必殺技、タトバキックがティーレックスドーパントに炸裂した。
爆発の中から一人の女性が倒れ込んだ。ガイアメモリは破壊されている。メモリブレイク完了だ。
「状況終了。一名保護をお願いします」
『了解。警戒は続けてください』
「了解」
「……ん?」
バースが呟く。
「何か聞こえないか?」
「え?あ、ほんとだ。この声……!」
変身して強化された聴覚が拾ったのは歌声。
それもかのんのものだ。どこまでも飛んでいけそうな、気持ちの良い歌声だった。
続けざまにオーディエンスの歓声もきこえてくる。
「歌えたんだ……」
空に向かい、オーズは呟いた。