「応援するの?仮面ライダーを?」
「そうそう。ステージとかはこっちで準備するから、好きな曲を歌って欲しいんだ」
仮面ライダーへの継続的な応援要請。それがBOARDとしてのお願いだった。
「ニュースとかで取り上げられてるの時々みるけど、意味あるのあれ?」
「あるよ。ライダーは応援されると本当に強くなるから」
今度はすみれの疑問に答える。
様々なライダーのエッセンスを取り入れ、改造されたドライバーは、人々の希望や願いをエネルギーに変換する機能を持つ。
つまり応援はそのまま力になるのだ。
「毎回戦闘の度となると対応しきれないと思いますが……」
「大丈夫。要請は来るだろうけど、みんなの都合が良い時だけでいいから」
恋の懸念はもっともである。だがこれは応援やライブを強制するモノではない。
最優先はやはり避難である。それが出来た上で余裕があれば、というのが前提だ。
「わかった。やるよ応援。エイジくん達はいつも私達を守ってくれてるんだもん。いいよね?」
かのんは三人に聞いた。三人ともが頷いた。
「じゃあ登録しておくね。グループ名はクーカースーチーレーでいい?」
「「「「え?」」」」
「え?」
クーカーから付け足していくものとばかり思っていたが、違ったらしい。
そこへ
「ラブライブデスよ!この命を賭ける瞬間が来たのデス!」
「大げさだろ」
ラブライブ。部活でいうところの全国大会か。
「大げさではありまセン!ラブライブは数々の奇跡と感動が詰まったスクールアイドルの夢そのものデス!」
誰よりもスクールアイドルに熱い可可だ。滾っているのだろう。
「可可ちゃん。あのね___
「さっそくエントリーしまショウ!学校名を入れて!」
かのんの声も聞こえていない。
可可はスマホをスクロールしながら急に止まった。そして今度は震え出す。
「グループ名が決まっていまセン……」
「うん、そうなんだよね」
グループ名。スクールアイドルとしての象徴。この五人はそこがまだ空白だった。
「では、全員の頭文字を取って、こういうのはどうでショウ?」
みんなが帰った後の教室で、黒板を使いながら名付けを考える。
「チクレカス……」
千砂都が呟いた。
五人の頭文字を使ったアナグラム。
「カスねえ」
「なんデスと!?」
「ここに書いてあるじゃない!」
すみれと可可がまたバチバチやっている。いつもの風景だ。
「なんか、ネットスラングみたい……」
かのんが呟いた。確かに何のこっちゃという感じではある。
「ちぃちゃんは?何かある?」
エイジは千砂都に振ってみた。
「私?私はねぇ〜。マルマルサークル!」
「……その心は?」
「マルは円で、サークルって言うのも円でしょ。世界はマルで溢れてる。ボールも、まんまるの目も、地球も、太陽も」
彼女はくるくる回転しながら足を高く持ち上げた。
「まるなんだYO!」
「ちぃちゃん、スカート気にして」
割と際どい状態だ。足を高く上げすぎている。
「……エッチ」
「えー……」
千砂都からのひと言がサクッと胸に刺さる。
え、こっちが悪いのか。
「恋ちゃんは?何か思いついた?」
「私は、その、あまり趣旨を理解していないので……」
かのんの問いに、恋は持っていた手帳を後ろ手に隠した、ような?
「なんだよ、書けてんじゃねーか」
「ああ!」
章がひょいとその手帳を取り上げた。
それを見た彼は何とも言えない顔になった。
「すまん、俺の早とちりだったわ」
「そうです!これは全然、全く、これっぽっちも関係ないメモです!」
全く関係メモをなぜ今取っていたのだろう。
作詞とかだろうか。
「そういえば、今日の恋ちゃん何か違和感が……」
「むむむ……」
「な、なんですか?」
かのんと千砂都がまじまじと恋を見つめる。
来た。汚名返上のチャンス。
「普通科の制服だよね。似合ってるよ、可愛いね」
これでどうだ。変化に気付き、さりげなく褒める。
千砂都の時は上手くいかなったが、今回はそこそこではないか?
「「「「はあ〜」」」」
「えー」
恋を除く女子四人からため息をつかれた。なんで?
「エイジくんって、誰にでもそういう事言うんだ?」
「え、駄目だった?」
かのんがやれやれといった雰囲気で言う。
「そうだよ恋ちゃん、エイジくんは誰彼構わずこういう事言うからね。騙されちゃだめだよ?」
「騙すだなんてそんなあ〜」
千砂都が恋に言った。
ただ褒めただけなのに。
「取り敢えず褒めとけば良いというものではありまセンよ?」
「そんなつもりじゃ……」
続いて可可が言った。
そんな雑な気持ちでやったつもりは無かったのだが。
「すみれちゃ〜ん、なんで〜」
「あんたはもう少し乙女心を理解しなさい」
すみれに泣きつくと、チョップを喰らった。
乙女心。難解過ぎる。
「で?
「いえ、理事長から制服は科ごとではなく、個人で選べるようにしてはどうかと、提案がありまして」
章が恋に聞いた。
成る程。それなら制服による差異も少なくなるだろう。
「私も音楽科の制服、作ってもらおうかな」
「いっそみんなで音楽科の制服着ちゃう?」
「いいねそれ、絶対楽しい!」
「話が彼方に逸れていマス」
かのんと千砂都が盛り上がっているところ、可可が釘を刺した。
そうだった。グループ名を決めるのだった。
「エイジは何かありマスか?」
「これなんてどうかな?ユイガニオン!」
結ヶ丘とユニオンを合わせた造語だ。
歌で結んでいくならばちょうどいい名前ではないだろうか?
しかし、中々受けは良くない。
「なんかほら、戦隊ヒーローみたいだよね」
「スクールアイドルって感じじゃないわね」
千砂都とすみれが言った。
そうか。あまり女の子向けな語感では無かったか。
「章さんは?何か思い付きましたか?」
「無難に結ヶ丘ガールズとかじゃ駄目なのか?」
恋が章に振った。
結ヶ丘ガールズ。無難も無難である。
「普通すぎマス。もっと五人の要素を考えてくだサイ」
「……エイリアンガールズ」
章以外の全員がずっこけた。
一応理由を聞かなければ。
「いやなに、グソクムシってエイリアンぽいよなって」
「誰がエイリアンよ誰が!」
「誰も平安名のことだとは言ってねえよ。それとも自覚があるのか?」
「何をいけしゃあしゃあと!」
笑う章とキレるすみれ。やいのやいのと言い争っている。
そういえば、ここまででかのんの意見が一つも出ていない。
「かのんちゃんは?」
「そうデス!このグループを創ったのはかのんなのデスから!」
「え?えーと……」
エイジと可可がかのんに振った。
彼女はやはり悩んでいるようだった。
「結ヶ丘、スクールアイドルとかじゃ駄目なんだよね。分かってる分かってる」
どうやら妙案は浮かんでいないらしい。
「ふっ、任せなさい。私がギャラクシーな名前を___
「思い付きまシタ!」
すみれが二度目のずっこけを披露する。
可可についに天啓が降りてきたか。
可可が思いついたのは名前ではなかった。
グループ名募集の小箱を設置するという、手段の方である。
これで生徒から名前を募ろうという算段だ。
「かつて伝説となったスクールアイドルは、こうしてグループ名を決めたそうデス」
「伝説ねえ……」
「信じていまセンね!でもこうしておけば週末には___
可可の言葉にすみれが疑念を抱く。
そして週末。
「入ってまセン!?ゼロデス!?」
箱の中身はすっからかんだった。
その結果に恋が悲しそうな顔をする。
「私がスクールアイドルに反対していたから、みなさん遠慮して___
「それはないよ。みんな恋ちゃんの気持ちは学園祭で分かってるから」
自責の念にかられる恋を千砂都がフォローする。
エイジもその説はないだろうと考える。恐らくもっと別の理由だ。
しかし公募がないのも事実。もっと他の手段を考えなければいけない。
その夜。リモート会議が行われた。
エイジは自室で一人、スマホと向き合う。
『本当に俺達も居ていいのか?』
『サポーターなんだから、変な気使わないで』
及び腰な章に千砂都が言った。
リモートだとそれぞれの部屋から繋がれる分、プライバシーが心配な部分もある。ましてや相手は年頃の女の子達である。
ただこの心配は杞憂だった。
皆そんな事は気にしていないらしく、しっかり顔出ししてくれている。恋を除いて。
「で、かのんちゃん。何かアイデアがあるの?」
『動画配信してみようかなって』
エイジの問いにかのんは答えた。
「『『『『『動画配信?』』』』』」
『そう。私達歌とダンスしかして来なかったから。スクールアイドルって色んな事やってるみたいで』
全員の疑問にかのんは答えていく。
「なるほど。そこで名前も募集するわけだ」
『そうそう。いい名前が見つかるかもしれないし』
『あの……』
エイジとかのんの会話に、おずおずと言った具合で恋が入って来た。
『つかぬ事をお聞きしますが、動画配信とは何なのでしょう?動画を配るのですか?何処かに?』
「『『『『『え?』』』』』」
『レンレン、知らないのデスか?』
『はい。あまりそういうモノに近づかないよう言われていた事もあり……』
可可の質問に恋は控えめに答えた。
今どき珍しい若者である。
『じゃあ、やってみようよ』
そのかのんの一声で撮影が決まった。
そして後日。スクールアイドル部部室にて撮影会が行われた。だが結果は散々だった。
何の準備も無しに、恋一人での撮影が始まり困惑。
その後五人全員での撮影が始まったのだが。
「恥ずかしいから、やめよっか」
かのんのこの一言が不味かった。
「そんな事を言うのはどの口ですか!?この口ですか!」
と恋が怒り、かのんの両頬を引っ張る。
それを何とか誤魔化そうと三人が奔走する。
平たく言えば混沌だった。
視聴数自体はそこそこ伸びたものの、肝心のグループ名の募集までは至らなかった。
「結局今日も練習出来なかったね」
「まあそういう日もあるよ」
千砂都とエイジが話す。
今日は動画配信うんぬんで一日つぶれてしまった。
「そんな事ではいけまセン!ラブライブでは新曲を披露しなければならないのデスから」
そうだ。ラブライブ出場には新曲を準備しなければならない。
かのんが作詞。恋が作曲の手筈である。
「かのんさん。作詞の進捗はどうですか?」
「え?曲が先じゃないの?」
恋とかのんがやり取りする。
なんだか空気が怪しくなってきた。
「私は歌詞ができたら、それに合わせた曲を作ろうと……」
恋が言った。
「私は曲が出来たら、それに合わせた歌詞を作ろうと……」
かのんが言った。
そして沈黙。
破ったのは章の笑い声だった。
「ま、まあそういう事もあるよね。問題は___
「問題は、どっちが先に作るか、でしょ」
エイジの言葉をすみれが引き継いだ。
曲か歌詞か。
どっちが先か問題は作詞が先で決着した。
そんなわけで、かのんの作詞待ちとなる。
しかし、その間も練習は続けられる。
「ほとんど運動部ですね……」
「中々ハードだよね」
「そう言うエイジさん達は、あまり疲れているようには見えませんが」
「一応BOARDで鍛えてますから」
恋とエイジがやり取りする。
だがスクールアイドルの練習となると、普段使わない筋肉を使っているようで、新鮮である。
「他に練習メニューないの?」
「仕方ないよ。曲も振り付けも出来てないから、基本的なトレーニングしか出来ないから」
すみれの問いに千砂都が答える。
そして全員の視線が、かのんへと集まった。
「作詞ね!分かってる!でもこの五人と学校を象徴するような曲ってなると、難しいんだよね」
「そんなの、ギャラクシーに決まってるわ」
「えーマルだよ。名前だってマルマルサークルだし」
「その名前は拒否されました」
「だったら、何なら良いと言うのデスか?」
四者四様、答えは纏まらない。
これでは書けないのも頷ける。
「二人から見たら、どんな感じ?」
「みんな可愛いよね」
お尻に衝撃が走る。章に蹴り上げられたようだ。痛い
「何するの!」
「お前はそんなだから……見てみろ」
五人は、また言ってるよ……とでも言わんばかりの呆れ顔だった。
エイジの可愛いは信用されていなかった。
「えっと、どうだろう。みんな個性的だから、一纏めには出来ないかな」
「ほらね〜」
エイジの答えにかのんが言った。
しかしエントリーにも期限がある。
「まさか、諦めるの?」
「ありえまセン!こうなったら……」
すみれの台詞に詰め寄る可可。
またも何かアイデアを閃いたらしい。
葉月邸には広い部屋が幾つもある。その一室を借り、作戦は行われた。
「ジャパニーズ缶詰めデス。出来るまで帰れまセンよ〜」
「え」
驚愕するかのんをよそに、扉は閉じられた。
「……これほんとに大丈夫?」
「大丈夫デス!高名な作曲家達も、きっとこうして曲を作ったはずデス」
「どうかなあ……」
エイジにはどうしても上手くいくと思えなかった。缶詰めとかのんの相性は悪い気がする。
そこへチビが走って来た。エイジへと飛びついて来る。
「ねえ今からでも。よーしよしよし。今日はお菓子があるんだよ。食べる?もう一人作詞に。ジャーキーだよ。ほらお食べ」
「チビ撫でるか喋るか、どっちかにしなさいよ」
「チビをほっとけないでしょ!」
「なぜそんなに強火なのですか……?」
すみれと恋に突っ込まれるも、このモフモフは離さない。
葉月邸にまたいつ来れるともわからないのだ。この一瞬一瞬を大事にしなければ。
「すっかりチビにメロメロだね」
苦笑いする千砂都。
当然である。こんな利口な大型犬と巡り会えるのは奇跡である。
「チビにならいつ会いに来ても構いませんから。それより___
「本当!?」
「恋ちゃん。そんな事言ったら毎日来るよエイジくんは」
千砂都には見抜かれていた。
いつ来ても良いと家主が言っているのだ。構わないのではないか?
「流石に毎日は遠慮して下さい……」
「え〜。いつ来てもいいって言ったじゃん?」
「あんたキャラ変わってない?」
すみれの疑問も聞こえない。
やれやれといった具合に章が近づいて来た。
そしてチビを引き剥がそうとする。
「何するの!?止めて!」
「お前がその調子だと、話が進まないだ、ろ!」
大型犬を抱えるパワープレイで持っていかれた。
チビも暴れる事なくされるがままである。
「……今からでも、もう一人作詞した方がいいんじゃない?かのんちゃん今回は結構難産みたいだし」
「女の子に難産とか言わないの」
千砂都からチョップを貰った。
言葉選びとデリカシーね。了解。
「私は必要ないと思うな。と言うか、学校とグループを表現する曲なら、かのんちゃんに書いて欲しい」
「可可もデス。せっかくならかのんが書いた曲がいいデス」
ただ単にかのんに任せたわけではなく、信頼から来る願いなのだ。
「でもそれだと、かのんちゃんの負担大きくない?」
「……わかりまシタ。どうしても間に合わなければ可可も書きマス。でもギリギリまでかのんに任せて欲しいデス」
エイジの目を見据え、可可は言った。
これ以上言うのは野暮だろう。
そしてしばらくして、そろそろかのんの様子をみようとなった。
扉を開けると、机と椅子には彼女の姿はない。
ベッドの上だった。
寝ている。
少なくとも自分達が入ってきたのには気付かない程度には、寝ている。
「かーのんちゃん、歌詞できた?」
「ち、ちぃちゃん!?」
横になっていたかのんに千砂都が笑顔で詰め寄る。
そうなのだ。彼女の笑顔はたまにとても恐ろしくなるのだ。
「これは」
「監視の必要がありますね」
すみれと恋が言った。
そしてかのんを椅子に座らせ、監視体勢が始まる。
「いや、なにもみんなで監視しなくても」
かのんの後ろで四人がじっと見つめている。
章はチビと共に広い屋敷の何処かへ行った。ずるくない?
「そんなに見られたら、かのんちゃんも書きづらいでしょ?」
「エイジく〜ん」
「エイジくんはいっつもかのんちゃんに甘いよね」
涙目のかのん。
千砂都がふてくされた様に言う。
「そんな事ないよ。ただ状況見てると作詞が進みそうには見えないから」
「エイジは黙っててくだサイ。好きなだけチビと遊んできていただいて結構デス」
「そのチビが何処か行っちゃったんだよね……」
中々辛辣な可可だった。
「あー!!」
突然かのんが叫び、皆の背面の虚空を指さした。
「まんまるギャラクシーがー!!」
「「「「「え!?」」」」」
全員の意識がそちらへ向いた。当然だがなにも無い
気が付くとかのんはテラスだかベランダだかへと逃走しようとしていた。
だが何かに躓いてこけたようだ。
「いたた……」
「
「章くん!?と……チビ?」
躓いた何かはチビだった。両者に怪我がないようで何よりである。
「あはは……チビ、久しぶりだねー……わー!?」
かのんへとじゃれ着くチビ。顔をペロペロ舐められている。
いいなあ。
「も、もう大丈夫!思いついたから後は家で書いてくるね!」
チビを抱きながらサムズアップするかのん。
スイッチが入ったのだろうか。だとしたら彼女は無敵だが。
そのままその日は解散となった。さらばチビ。
翌日の朝。旧校舎で恋と鉢合わせする。
「恋ちゃん?こっちに何か用?」
「かのんさんに作詞の進捗を聞こうと思いまして」
それもそうか。恋も曲を作られねばならないと焦っているのだろう。
二人で歩く。
「あの、エイジさん」
「ん?何?」
「今までの事、謝らせてください。本当に申し訳ありません」
「え、え?え?」
深々と頭をさげる恋。
幸い周りには誰も居なかった。
「顔を上げて!俺は何も気にしてないから!」
「いえ、私の気が収まらないのです。エイジさんが伸ばしてくれた手を振り払ったのは事実ですから」
「誰も恋ちゃんが悪いなんて思ってないよ。だから顔を上げて?ね?」
そんな段階はとっくに過ぎたと思っていたのだが、彼女の中ではずっとつかえていたのだろう。
「エイジさんも優しいのですね。かのんさんと同じで」
「ちょっと違うけどね。本当にヒーローだから。かのんちゃんは」
「?エイジさんはBOARD、言わばヒーローのような立場では?」
「俺は違うよ。……守れなかった人がいるんだ。それでヒーローは名乗れないよ」
「そう、なのですか?でもそれは怪人と戦っていれば必然そうなるものなのでは?」
「ううん。俺のせいなんだ。だからその人に報いる為にも、俺はもっと頑張らないといけない」
恋の頭には疑問符が浮かんでいるようだった。
しまった。暗い話をしてしまった。何か明るい話題を。
そう考えていると、千砂都達四人がやって来た。
「あれ、恋ちゃん?もしかして歌詞が気になって来たの?」
「え、ええ。進捗を確認したくて」
「じゃあ一緒に行こう」
千砂都が誘ってくれたおかげで雰囲気は明るくなった。
少し喋り過ぎたかもしれない。気を付けよう。
かのんはナナミたちと話していたようだった。
「おはようかのんちゃん、歌詞出来た?」
「う、それは……その……」
エイジはできるだけフラットに聞いてみた。
かのんは不味そうに目を泳がせている。
いや、そんな気はしていたのだ。
「だって、そうでも言わないと帰れそうになかったから……」
「嘘を付いたのデスか!?それではグソクムシと一緒デス!」
「さらっと言うな!」
やはりかのんはスイッチが入ったわけでは無かったらしい。
嘆く可可に突っ込むすみれ。
やはり今回は難しそうだった。
「まあまあ。かのんちゃんの気持ちもわかるよ。だって___
まだ始まったばかりで色がない。特徴が無いといったら悪いけど、イメージしづらい。
それで名前も投書しづらかった。
ナナミ達はそう言っていた。
「特別凄いスターが集まってるわけでもない」
千砂都が言った。
皆スペックはそれぞれに秀でている部分はあるが、スター性と言われると未知数だった。
「普通の子が集まって、何かを突破しようという感じもない」
恋が言った。
普通と呼ぶにはあまりに個性的な面々である。それでいて一纏まりでは無い。
「ショウビジネス的には、致命的よねそれ」
すみれが言った。
個々として光ってもチームとしては継ぎ接ぎでは意味がない。
エイジは何とか励ましの言葉を探す。
「……そうかな」
かのんが呟いた。
「私今日、練習休む。みんなの話を聞いて、なんか見えた気がした」
「曲デスか?それともグループ名?」
「わからないけど……全部!」
可可の質問に、振り返ったかのんは笑顔だった。
今度こそスイッチが入ったようだ。
かのんは駆け出した。
「かのんちゃん!」
その背中を千砂都が呼び止めた。
「頼ってばかりでごめん」
「俺も解決策なにも提示出来なくてごめん」
千砂都と一緒にかのんに謝る。
「ううん。私のほうこそ時間かかっちゃってごめん」
再びかのんは走り出した。
「あの顔は」
「大丈夫そうだね」
千砂都と頷き合う。
自慢の幼なじみの無敵モードだ。
「では可可達はランニングから。ついてくるデス!」
「すぐバテるくせにー!」
「着替えが先だろ!」
制服のまま走り出す可可をすみれが追い、更に章が追いかける。こっちもこっちで、出来る事をするのだ。
そして翌日。かのんはさっそく歌詞を完成させた。
皆で目を通す。
「すごくいいと思う!」
「今の私達を、とてもよく表現出来ています!」
千砂都と恋が言った。
エイジもこれなら誰もが納得できるだろうと考える。
「それでね、グループ名も考えてきたんだ」
かのんはそう言うとホワイトボードにLiella!と書き込んだ。
「りえ、ら?」
「そう。フランス語で結ぶって意味の言葉から作ったんだ」
エイジのたどたどしい発音にかのんが答えた。
「ほら、恋ちゃんのお母さんって、色んな人が音楽で結ばれていくようにって結ヶ丘って名付けたんでしょ?私達も出会ったり、経験していく中で、色んな色の光で結ばれていくといいなって」
「光か〜」
生き生きと語るかのんに呟く千砂都。
そしてかのんは部室の窓を明け放つ。
「Liella!」
かのんが呟いた。
「Liella!」
千砂都が呟いた。
「Liella!」
恋が呟いた。
「Liella!」
可可が呟いた。
「Liella!」
すみれが呟いた。
皆思い思いにその名を噛み締めた。
「では早速登録しマス!」
可可がスマホを取り出し、受付フォームを開いた。
「私達の名前は」
「「「「「Liella!」」」」」
ラブライブ受付は無事完了した。
「それじゃあLiella!のみんな、応援よろしく!」