スクールアイドル部の部室に忘れ物をしてしまった。
小走りで駆け上がっていくエイジ。
扉は明け放たれ、中には
「恋ちゃん?どうかした?」
部屋の外から声をかけたが、反応がない。
少し心配になってきた。
「恋ちゃん?」
すぐ背後まで近づく。
どうやらパソコンの画面に釘付けになっているようだ。肩口から画面をそっと覗いてみた。
濃かった。
彼女の名誉の為に、何がとは言わないが濃かった。
恋の肩をポンと叩く。
「恋ちゃん」
「は!?」
「こういうのは家に帰って、一人の時にね」
恋は跳び上がった。
流石にこの内容は部のパソコンでは不味いだろう。
「ち、ちち違うのですエイジさん!」
「うん。分かってるよ。間違えて変な広告押しちゃっただけだもんね。間違えて」
「そ、そうなのです!だから決して好奇心や興味本意で自分から押したわけではないのです!」
あたふたとらしくない言い訳を並べる恋。よほど動揺しているのだろう。
取り敢えず閲覧履歴は消しておいた。
「あのエイジさん、この事は誰にも____
「うん、言わないから。安心して」
いよいよ今日が地区予選の結果発表だ。
スクールアイドル部部室。七人でパソコンを凝視する。
「大丈夫よ、手応えあったんだから」
「そうデス、きっと通っていマス!」
すみれと
言葉とは裏腹に二人共不安そうだった。
「十二時だよ」
「じゃあ、いくよ?」
結果発表画面へと進んだ。
「東京大会進出は八組」
「たったのか?」
かのんの呟きに驚く章。
競争率で言えば相当なものだろう。
最初に画面に映ったのはサニーパッション。
「妥当デスね」
「そりゃそうだよね」
可可と千砂都が呟いた。
その後、進出グループをかのんが読み上げていく。
「ああ、神様……」
恋が目をつむり両手を組む。
そんな五人の様子を見ても、エイジは特に動揺は無かった。
何故か通っているという確信があった。
「あれ、あれ?」
「どうしたの?」
不穏な声を漏らすかのんにエイジが聞いた。
「パソコン、固まっちゃった……」
「みんなが同時にアクセスしているからでしょうね」
動揺するかのんに恋が声をかけた。
そこでかのんのスマホにメッセージが届く。
「サニパさんからだ。……おめでとう?一緒に良いステージにしましょう?」
「と、言うことは!」
かのんの台詞に可可が飛びついた。
パソコンはフリーズから解放され、スクロールした画面には大きくLiella!の写真と文字が表示されていた。
「「「「「やったー!!」」」」」
「おめでとう!」
喜び合う五人。エイジは後ろ手に持っていたクラッカーを空中に構え、鳴らす。
「通るって信じてたよ!」
「ありがとうエイジくん。章くんも」
エイジの言葉にかのんが礼を述べた。
「俺達は何もしてないよ。五人の頑張りだから。MVPはすみれちゃんかな?」
「当然ったら当然よ!私のギャラクシーな輝きのお陰でしょ」
得意げに胸を張るすみれ。
やはり今回の課題、彼女がセンターで良かった。
「浮かれてる暇ねえぞ。東京代表になれるのは、更にこの中の一組だからな?」
「まあまあ。そんな難しい顔しないで、今は喜ぼうよ」
「そうです。初出場初通過なのですから」
苦言を呈する章に、千砂都と恋が言う。
だが彼の言う通り、この後もきが抜けないのも事実だった。
そして翌日。Liella!の地区予選突破はクラスでも祝われた。
すみれのセンター担当も評判は上々で、ファンも増えたらしい。
出来たての学校だけに、ここまでの成果を上げているのはスクールアイドル部だけだろう。
結ヶ丘の希望だ。出来ることがあるならなんでも手伝うとナナミ達は言ってくれた。ありがたい限りである。
そうしていると校内放送が入る。
スクールアイドル部は理事長室へ来るようにとの事だ。
表彰だろうか?五人は心当たりがないらしい。
すると恋がはっとしたような顔をする。
「エイジさん、ちょっと!」
「え、何!?」
エイジは腕を引っ張られ、廊下の隅へと連れ出された。
「エイジさん、理事長に話したのですか!?」
「?何を?」
「とぼけないでください!あの事ですあの!」
そこでようやく数日前のパソコン事件を思い出す。
「あ。あーあの事ね。いやいや、言ってないよ?」
「だったら何の呼び出しだと言うのです!?」
「表彰とか?」
「まだそこまでのレベルの話ではないでしょう!」
確かに。まだ都内の強豪になれただけだ。誰もが頷く結果を出したわけではない。
そこへ心配した五人がやって来た。
「ああ、停学です退学です終わりです」
「恋ちゃんどうしたの?」
縮こまりうなだれる恋を見たかのんが聞いてきた。
こちらとしても誤魔化す他無かった。
「いえ、もう隠し立ていたしません。生徒会長ともあろうものがあんなものを……」
「えーと、話がみえないんだけど」
すくっと立ち上がり謎の宣誓をする恋に困惑する千砂都
「えっとね、部室のパソコンで、ちょっとアレなサイトを見ちゃって」
「エッチ!」
「スケベ!」
「変態!」
「痴漢!」
「恋ちゃんが!」
千砂都、かのん、すみれ、可可が順繰りに罵倒してきた。
というか痴漢はおかしくないか?
「なんだ、恋ちゃんかぁ」
「俺との反応違い過ぎない?」
かのんが安心したように言った。
こっちはもう泣きそうなんだけど。
「生徒会長失格です……」
「そんな事で呼び出されるわけないでしょ?」
落ち込む恋にすみれが声をかけた。
「ああ。別件に決まってる。俺達も着いてってやるから」
章が続いた。七人で理事長室に向かう。
そして五人を見送り、部屋の外で待つ。
五分と経たない内に、安心しきった顔の恋を先頭に皆が出てきた。
「どうだった?」
「素晴らしいお話でシタ!かのん達の母校の小学校で歌って欲しいとのお願いデス!」
可可のテンションは高かった。
スクールアイドルを布教できるとあらばさもありなん。
「へぇ。母校って言うと……」
「
エイジが思い出せないでいると、千砂都が教えてくれた。
「いや、あんたも通ってたんでしょ?」
「あはは、うっかり」
「うっかりで母校忘れる?」
すみれに指摘された。気を付けねば。
ただ母校の名前は忘れても、エイジには忘れられない事件があった。
「じゃあ私、バイトあるから。お疲れ様」
練習終わり。千砂都は一番に上がろうとした。
「待って。送るよ」
エイジは千砂都に話があった。そそくさと荷物を纏め、千砂都を追いかける。
「ねえちぃちゃん___
「分かってるよ、エイジくんが言いたい事」
部室には聞こえないであろう、十分な距離で千砂都は言った。
「だからみんなと話し合おうと思ってる」
そう言って、彼女はスマホの画面をこちらへ向けた。
既にかのんには内緒で集まるよう、メッセージを飛ばしていた。
千砂都のバイト先のたこ焼きカーに四人はやって来た。
たこ焼きを囲みながら話す。
「倒れたのですか!?」
「うん。それがかのんちゃんが人前で歌えなくなった最初の事件」
千砂都が語ったのは、小学生の頃の合唱での出来事だった。開始直後に彼女は倒れたのだ。
エイジにとっても忘れられない出来事である。
「で、またあの場所に立ったら、ぶり返すかもしれないと」
章が言った。
かのんのトラウマの原点だ。万が一、よりも高い確率であるかもしれない。
「大丈夫じゃない?むしろ率先して歌ってるんだから」
「同意するのは癪デスが、可可と一緒にステージに立ってから、歌えなくなったことはありまセン」
すみれと可可が言った。
「そうだと良いんだけど、かのんちゃんすごく繊細なところあるから」
千砂都が心配そうに呟いた。
かのんには感性の豊かさと同時に繊細さも合わせもっている。だからこそ心配なのだ。
「……正直俺は今回の話、断った方がいいんじゃないかとも考えてる」
「それは極端すぎませんか?」
恋が流石に、という風な表情をしている。
「珍しく弱気ね。そこは気兼ねなく歌えるようにするのが応援部なんじゃないの?」
「う……」
すみれのごもっともな正論に返す言葉もない。
するとすみれの脇腹を可可が肘で小突いた。
「無粋デスよ。それだけかのんが大事なのデス」
「そんな事分かってるわよ。だからこそなんじゃないの」
何故か二人の争いに発展しそうになる。
エイジはどうどうと治めた。
「すみれちゃんの言う事は正しいよ。後ろ向きになってた。サポーターなんだから、憂いなく歌ってもらえる努力をすべきなのにね」
両手で自分の頬をパンパンと強くはたく。
しかし具体的にどうすればいいかは浮かばない。
「リハさせて貰え、よ」
章が残ったたこ焼きを爪楊枝で突き刺し、はふはふとほうばった。
なるほどリハーサルか。
「そうですね。下見に行かせてもらいましょう」
「リハーサル。下見かぁ」
章と恋の意見を千砂都は噛み砕いているようだった。
休日。七人は青山南小学校へとやって来た。案内は流石に知っている先生では無かったが。
「スクールアイドルって言うの?興味持ってる子も多くて」
「嬉しいです」
教師の言葉にかのんが返した。
そして一つの教室へとやって来た。
「あ、ここ私とちぃちゃんの教室だ。いつもここでちぃちゃん踊ってたよね」
教卓の隣でくるくると回るかのん。
「えー。かのんちゃんだっていつも歌ってたよ」
「そうだっけ」
笑い合う千砂都とかのん。
二人はあまりあの頃と変わっていないのかもしれない。いい意味で。
「エイジはどんな小学生だったの?」
「俺の話はいいよ……」
すみれは話の流れとばかりに聞いてきた。
「「喧嘩ばっかりしてたよ」」
「「「え?」」」
「ほう?」
かのんと千砂都の返答に、四人はやはり驚いているようだった。
「弱いものいじめとかそういうの見るとすぐ飛んでいって、上級生相手でも殴りかかっちゃうんだから」
千砂都はやれやれと言う具合に両手を広げた。
「おかげでいつもこっちはヒヤヒヤしてたよ」
そう言うかのんは、両手を組んでうんうんと頷いている。
「やめて〜。黒歴史だから〜」
「何というか、意外ですね。温和なエイジさんが」
恋がまじまじと見つめてくる。
だから知られたく無かった。
「で?不良のエイジくんはいつ頃改心したんだ?」
「不良じゃないよ!」
章がニヤニヤしながら聞いてきた。
「それこそ中学でBOARDに入った頃だよ。急に棘が抜けたみたいにまんまるになったんだよね」
「人に歴史あり、デスね」
千砂都の説明に、ほうほうといった具合で可可が言った。
まんまるて。
「そうかな?自分じゃよくわかんないなぁ」
「……成る程。そういう影響が出てるのな」
妙に真剣な面持ちで納得したように章は言った。
そして講堂へとやって来た。
「思ったより広いわね」
「当然デス。生徒全員が集まるのデスから」
驚くすみれに可可が言った。
久しぶりに来たはずだが、何だか初めての気もする。だがステージは覚えている。あの真ん中で、かのんは。
「少しリハーサルさせて頂いても?」
「ええ。構いませんよ」
恋が教師に許可を得た。七人で舞台袖へと向かう。
「あの頃のままだ」
かのんが呟いた。
エイジはこの舞台には全く縁が無かったので、今度こそ初めてのはずである。
ステージへと歩いていく五人を見守る。
「かのんちゃん。ちょっと歌ってみてよ」
千砂都の声が聞こえた。
「う、うん」
既に躊躇い気味なのが分かった。すぐに歌い出しは聞こえなかった。
「ごめん。ちょっと待って」
すーはーと大きく呼吸するかのん。
やはり歌えないのだろうか。
その時、千砂都がかのん手を握った。もう片方の手を可可が握る。
千砂都の空いている手をすみれが、同じように可可の手を恋が握った。
「みんな……」
かのんが呟いた。
そして講堂に響きわたる五重奏。彼女は歌えたのだ。
だが。
ラブライブ東京大会へ向けて、練習も激しさを増す。
「一旦、休憩!」
ダンスがある程度完成してくると、レベルを上げねばならない。そうなると流石にエイジ達では見きれない。素直に千砂都に監督してもらう。
「こ、今回も難しいダンスだね」
かのんが息を切らしながら言った。
「東京大会で勝ち抜きゃなきゃだからね」
「勝てるかな?」
「このメンバーなら十分可能性はあると思うな。ね」
かのんとの会話の途中で、千砂都はこちらへ振って来た。
動画撮影を一旦停止する。
「うん。この五人は強いよ」
「異議無し」
エイジの言葉に章も同意してくれた。
「五人って言うけど、可可はどこ行ったのよ?」
「そういえば姿が見えませんね」
すみれと恋が言う。
五人のはずが一人足りない。
「大変デスー!」
「あんた何処行ってたのよ」
「次のラブライブの課題が発表されまシタ!」
扉を勢いよく開け、可可が飛び込んできた。スマホの画面を皆に向ける。
「独唱?」
「また難しい課題ですね」
エイジと恋が言った。
ただ、誰がやるかはもうこの時点で決まっている。
「問題は誰がやるかだよね」
「「「「「「じー」」」」」」
「え、え?」
的外れな議題を持ち出すかのんに、全員の視線が注がれた。
「異論はありまセンよ〜」
「他の課題なら、やってあげても良かったんだけどね」
可可とすみれが言った。
これ以上の適任はいないだろう。
「Liella!が始まったのは、かのんちゃんが歌ったから。かのんちゃんが可可ちゃんの想いに応えたから。かのんちゃんしかいないよ」
千砂都の確信ある言葉が、その背中を押した。
エイジと章は呼び出しを受け、怪人の解析やライダーの変身アイテム開発の研究部署へとやって来ていた。
「エイジが捕まえてくれたサンプルだけど、一応の解析が済んだわ」
分厚いガラスで仕切られた向こう側。何人もの研究員が、一つの試験管のような装置の周りを行き来している。その中にはあのハエがいる。
「結論から言うと、あの虫は多重怪人の一部よ」
「多重怪人……」
複数の怪人の能力や特性を上乗せされた怪人を多重怪人と呼ぶ。
そのほとんどは人為的に作られたもので、自然発生することはまずない。
「やっぱりナイトローグの背後には、財団Xが居るんでしょうか?」
エイジが質問した。
財団Xとは、死の商人と呼ばれる怪人の技術等を売り捌く集団。つまりは悪の組織である。
「ハンドレッドの可能性も捨てきれないわ」
ハンドレッド。仮面ライダーの力を悪用し、世界征服ないしは滅亡を企む集団。こちらもまた悪の組織である。
「でも困りましたね。本当にあれが怪人の、ほんの一部なら」
章が言った。
どういう事だろうか。このまま解析が進めば、対策もできるだろう。そんなに不味い事態だろうか。
「この楽観主義が。最悪も想定しろ。もしあれが怪人の一部で、何十、何百と飛ばせるとしたら。拡散されたら」
「!」
そうか。もし章の予想が当たっていたら。
「ええ。ナイトローグも気がかりだけど、喫緊の脅威があの虫なのは変わらないわ。何せ解析結果が本当なら、あれは大規模テロの主軸になる」
本人の意思に関係なく怪人にし操る。それを何十、何百と同時に起これば、対処しきれない。
「あの虫と大元の怪人を今後ベルゼブブと呼称。その撃破を最優先目標とします」
司令官として、郁代はそう宣言した。
「「了解!」」
一人のBOARD隊員として、仮面ライダーとして返答した。
「ところで、誠に言いづらいんですけど志摩さん」
「司令官と呼びなさい。」
おずおずとエイジは言う。
「今言った内容って、後で通知されますよね?なんで俺達呼ばれたんでしょうか?」
「そりゃあコンボの使いすぎに決まってるでしょ!」
「あだだだ!?」
郁代に両手の拳で頭をグリグリされる。
やっぱりお説教だった。
「自殺願望でもあるのあなた!」
「い、いえ、そんなつもりは……」
「じゃあ消えてなくなりたいの!?」
「そんなつもりもないデス」
混乱して口調が可可のようになってしまった。
「……だったら自分の事は自分で大切にしなさい。じゃないとドライバー、取り上げるわよ?」
「そ、それだけはご勘弁を!」
エイジは颯爽と土下座のポーズを取る。
郁代は司令官だ。それくらいの権限がある。
「章もしっかり見張っててよ?」
「見張りがあろうと無かろうと、変わりませんよこいつは」
郁代に振られた章は、呆れたようにそう言った。
帰り道はすっかり暗くなっていた。
二人でライドベンダーを走らせる。
そこでふと着信音に気づく。適当なところに停めて、バイクをロックシードに戻す。
ビデオ通話だった。章にも着信があったらしい。
開くとかのんを除く四人が集まっていた。可可と千砂都は同じ画面である。
『やっぱり私、このままは良くないと思う!』
千砂都の第一声だった。
『えーと、何の話?』
「……かのんちゃんの事?」
困惑するすみれの後、エイジは尋ねた。
『そう。かのんちゃんが歌えてるのは一人じゃないから。みんながいるからだと思う』
『?それが問題なのですか?』
千砂都の言葉に恋が問うた。
それもそうだ。歌えているなら良いのではないか。普通はそう思う。
「ちぃちゃんが言いたいのは、それで本当に歌えている事になるのか、かのんちゃんの力を発揮しきれてるのか、って事?」
『そう。一人でも歌えるようにならなきゃ、今みたいな不安はずっと付き纏うとおもう』
「そして、それが
『うん』
エイジも正直千砂都と同じような事を考えていた。このままでいいのかと。
『厳しいのですね』
『そりゃそうできるのが一番良いんだろうけど……』
恋とすみれが言った。
『だから私、考えたんだ。もしかしたら反対されるかもしれないけど___
翌日。千砂都の案に従い、理事長にも話を付けた。
「え、ちぃちゃん来られないの?」
かのんが驚いた。
「うん。その日だけはどうしてもダメだって、親に言われちゃって」
千砂都の様子に白白しさは微塵もない。
「実は可可もやんごとなき事情がありまシテ」
「実は私も」
「私も神社の手伝いしろって」
可可、恋、すみれが次々に欠席を表明する。
「え、待って待って、それじゃあもうLiella!じゃないよ!?」
かのん一人なのだから当然そうなる。
「でね、小学校にも連絡したんだけど、かのんちゃん一人でもいい。むしろかのんちゃんの歌を聴きたいって……。ダメ、かな?」
千砂都がかのんの様子を伺いながら言った。
「うーん……二人は?二人は来てくれるよね?」
かのんの視線は応援部へと向けられた。
すがるような彼女の表情。行けるよと即答できたらどれだけいいか。
「……そもそも部外者だから、当日行けないんだよね」
「他の依頼も片付けなきゃならないしな」
章と二人、口裏を合わせる。
「そんな〜」
落胆するかのん。それでも話を断らないのは、彼女の責任感の現れだろう。
「それじゃあね」
「何かあったら連絡して。相談に乗るから」
帰り道の別れ際。
明らかに不安そうなかのんに千砂都が言った。
「可可も二十四時間体勢で受付ておりマス」
「普通に寝てくれ」
無茶を言う可可に章が言った。
「うぃすー」
「「「「「うぃすー」」」」」
挨拶。章だけは頑なにやらないが。
「……あんまりデス。可哀想デス」
「幼なじみなのでしょう?」
「そりゃ千砂都の言う事は理想だけど」
可可、恋、すみれが続けて言った。
やはり皆納得しきれてはいないらしい。だが。
「リスクは高い。でも超ハイリターンだよ。だよね、ちぃちゃん」
「うん。もし今のかのんちゃんが、悲しい事や上手くいかない事をたくさん経験したかのんちゃんが、あの頃の笑顔を、あの頃のかのんちゃんを取り戻せたら無敵になれる」
千砂都は皆の顔を見ながら続けた。
「ラブライブどころじゃない。世界一、ううん。すみれちゃんが言うように銀河一にだってなれる。そう私は、嵐千砂都は澁谷かのんを信じてる」
そして当日。四人はこっそりと青山南小へと向かった。
かのんが万一倒れても、フォローできるだろう。
エイジと章は怪人警報が鳴ったのでそちらの対応へ。ベルゼブブの手がかりを掴まなくては。
オーズとバースは怪人が発生したビルへと踏み込んでいく。数階上がり座標に辿り着くが、誰もいない。
「うわっ!?」
「ぐっ!?」
突如爆発に見舞われた。
床から生えるように現れたのは潜水艦のような怪人。
『サブマリンマルガムです!あらゆる所に潜航します。ご注意を!』
「「了解」」
タカアイで全身を観察する。
「どうだ今回は?」
「うん。いる」
バースの質問に答えた。
右肩の当たりにベルゼブブが取り付いている。
サブマリンマルガムは再び床へと潜航した。が、頭部だけは露出している。あれで周囲を目視しているのだろう。
「釣り上げる!」
『クレーンアーム』
バースはクレーンアームを展開。シュプリンガーハーケンを射出し、敵頭部へと括りつけた。そして引っ張り上げようとする。
敵も抵抗し、二発の魚雷を撃ってきた。
『タカ、ウナギ、バッタ』
コンボチェンジ。放たれた魚雷を鞭型の武器、電気ウナギウィップを二本叩き付け、爆破した。
敵は力負けし、豪快に引き上げられた。
そこに鞭を打つ。さらにバースバスターの射撃。
敵は倒れ込んだ。
その時、窓ガラスを突き破り、ナイトローグが飛び込んできた。
「そいつは任せた!」
バースはサブマリンマルガムを引き寄せながら言った。
ナイトローグが拳銃型の武器で射撃してくる。
その全てを電気ウナギウィップではたき落とした。これは自分の意思通りに、自在に曲がりくねる。
敵へ向けてバッタレッグの跳躍力で突進。タックルをかまして壁を突き破り、隣の部屋へと移動した。
鞭の間合いで睨み合う。
ナイトローグは跳び上がり、天井へ両足でぶら下がった。蝙蝠っぽいことが出来るらしい。
「大事なサンプルだ。邪魔するな」
今度は真上からの射撃。飛び退いて、回避。上を取られるのは厄介だが、室内なら対応しようがある。
『タカ、ウナギ、タコ』
再びコンボチェンジ。こっちも跳び上がりタコレッグで天井へと張り付いた。
弾丸をはたき落としながら、鞭をまっすぐに伸ばし突くように攻撃する。
敵を落とした。さらにその上から両ウィップによる叩き付けを浴びせた。
攻撃は効いている。後は逃さないよう、常に鞭の射程に捉え続ける。
「やあナイトローグ。お困りかい?」
戦いの緊張感とは真逆の、優雅な声。
その方向を向くと、黄と青の騎士のような仮面ライダーが居た。
『仮面ライダーデューク!ハンドレッドの幹部です!気を付けてください!』
「お前達はハンドレッドだったのか」
「いや?彼は違うよ。財団Xさ」
「……何だって?」
財団Xとハンドレッド。別々の組織の怪人とライダーが並んでいる。つまりこれは。
「業務提携してるんだよね私達」
「おしゃべりが過ぎるぞ」
「おおこわい」
饒舌になるデュークをナイトローグが制した。
悪の組織同士の連携。事態は想像より遥かに進んでいた。
「ベルゼブブ、ハエの怪人は何処にいる」
「ベルゼブブねぇ。いい名前だ。頂戴しよう!」
デュークは手にしたレイピアで刺突して来た。ギリギリで避けれるがまだ終わらない。連続突き。胸を突き刺され、吹き飛ばされる。
「ついでにあのオーズの首も貰っていこうか」
更にレイピアを振るい、打撃の構えだ。
ウィップで応戦しようとするも、ナイトローグの弾丸が飛んで来る。肩周りを撃たれ上手く操作出来ない。レイピアの叩き付けを受け地面に転がされる。
二対一。単純な数的不利だ。故に覆すのは難しい。だがこういう時の為のコンボである。
頭に相当するメダルを交換。もちろん敵もそんな隙を見逃さない。射撃されるが、タコレッグでぐっと踏ん張る。耐える。
オースキャナーでスキャン。
『シャチ、ウナギ、タコ!シャ、シャ、シャウタ、シャ、シャ、シャウタ!』
オーズシャウタコンボ。水棲生物系メダルのコンボで当然水中での戦いに強いが、地上でも十分な戦闘力を発揮する。
シャチヘッドから水流をジェット噴射。ナイトローグに当て、吹き飛ばす。
斬りかかってきたデュークのレイピアを片方の電気ウナギウィップで弾き、もう片方のウィップを巻き付ける。そして電撃。
「あばばば!?」
更に腰周りから八本のタコ足を展開。連続キックを見舞い、蹴り飛ばす。
「やっぱり、強いなぁ。欲張るものじゃないね、退散しようか」
「!逃さない!」
まだまだ余裕のありそうなデューク。だが本人には撤退手段がないのか、ナイトローグの方へと近づいていく。
すかさず必殺技の構えを取る。
『スキャニングチャージ!』
跳び上がり、タコ足の先端を合わせ、ドリルのように回転させながら放つキック、オクトバニッシュ。
『レモンスパーキング!』
『スチームブレイク、バット!』
対抗して敵も必殺技を発動。
デュークはレイピアによる強力な刺突を。
ナイトローグはエネルギー弾を合わせて放ってきた。
三つの必殺技はぶつかり合い、爆発を起こす。
床に降りたオーズは、すぐさまウナギウィップを煙の中へ叩き込んだ。が、手応えはない。
シャチヘッドのソナーで敵を探すが、そこにはもう何者も居なかった。
「オーズ!無事か!」
「うん。大丈夫」
怪人を倒したであろうバースが駆け込んできた。
もう少し粘れれば、二人でどちらか一人は確保できたかもしれないのに。
自分の力の無さに歯噛みした。
戦闘中に千砂都から着信があったようだ。急いでかけ直した。ともすると、かのんに何かあったかもしれない。
「もしもしちぃちゃん?どうだった?」
『歌えたよ!かのんちゃん歌えたんだよ!』
「良かった!」
最強の幼なじみの爆誕だ。その後、Liella!全員でのパフォーマンスもしたらしい。
「俺も見たかったなぁー!」
『あ、エイジくん。かのんちゃんが話したいって』
「うん」
はい、と言う千砂都の声が聞こえ、そしてほんの少しのノイズ。
「おめでとう、かな?」
『ありがとうエイジくん。私を信じてくれて』
「かのんちゃんの事ならいつも信じてるよ」
『うん。そうだね。それがいつも力になってた。私これからも歌を広げていくよ。一人でも、みんなが信じてくれる私の歌を』
「うん!楽しみにしてる!」
『章くんにもお礼、伝えておいてくれる?』
「任せて」
それじゃあまた学校でね、またね、と言い合い通話は切れた。その瞬間、ガッツポーズ。
「よっしゃあ!」
「……何がよっしゃあなんだ?本当に大丈夫か?」
戻ってきた章に心配された。今回の怪人の聴取は終わったようだ。
そりゃ敵を取り逃がした直後に喜んでいたら、おかしく思うだろう。
「かのんちゃんがありがとうって」
「そうか。歌えたのか。……長かったな」
「うん。でもあっと言う間だった」
春、可可の願いに応え歌ったあの日から、季節はもう冬に入っていた。
かのんを歌えるようにする。依頼と言うよりお節介だが、ついに完遂となった。
バイクと特別免許
BOARDでは様々な種類のライダーのバイクを取り扱い、隊員の基本的な移動手段もバイクである。
BOARDに入隊する際に教習も行われ、何歳でも(未成年は入隊からして親の同意が必要だが)特別免許を受け、乗ることが出来る。
体格の問題はマシン自体に備わったサイズ調節機能で解消される。(エイジと章は同じライドベンダーだが、サイズが微妙に異なる)
ほとんどのバイクはロックシードへと変形可能なよう改造されているが、中にはスマホ型等別種の携帯形態のバイクも存在する。