応援よろしく!   作:冷奴with紅しょうが

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Song for all

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

可可(クゥクゥ)ちゃん肩で息しない!」

 

「はいデス!」 

 

「すみれちゃん位置ちょっとズレてる!」

 

「え、嘘!?」

 

千砂都(ちさと)はカウントを取りながらそれぞれの改善点を指摘する。

 

「はい、今日はここまで!お疲れ様……あれ?」

 

余裕そうなのは(れん)だけで、他の三人はへたり込んでいた。

実際、BOARD(ボード)で鍛えているはずのエイジでも少しハードに感じるレベルだ。

 

「まだまだ。外周に行こう!」

 

「「えー!!」」

 

更に追い込みをかけようとするかのんに、すみれと可可が不満の声を漏らした。

東京大会も近い。熱が入っているのだろう。

 

「待て待て。少し休憩挟もうな。がむしゃらにやればいいってもんじゃねえぞ?」 

 

(あきら)の言う通り、オーバーワークになってはいけない。怪我の元だ。

 

「うん。分かってるんだけどね。 やればやるだけ出来る事が増えるのが楽しいなって」

 

かのんは笑顔で答えた。

 

「なんだかかのんさん、変わりましたね。前向きになったと言うか」

 

「そんな事ないよ」

 

「え?」

 

恋の言葉に、さも当然という風に返す千砂都。

 

「これが私達の知ってるかのんちゃん。ね?」

 

「うん。熱血って感じだよね」

 

千砂都と二人で頷き合う。

そこにヤエがやって来た。彼女はナナミやココノと共にLiella!と応援部を支援してくれている。

 

「恋ちゃん、理事長が呼んでるよ」

 

再びの呼び出し。今度も何かのイベントだろうか。

 

「恋ちゃん、またパソコンで見ちゃいけないものを?」

 

「見てません!忘れてください!」

 

かのんの疑惑の眼差しに恋は強く言った。

 

「いいんだよ。趣味は人それぞれだから」

 

「だから見ていないと言ってるではないですか!」

 

千砂都の温かな眼差しにも反発する恋だった。

全くもう、と彼女は扉の向こうへ行ってしまった。少しからかい過ぎたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部室に戻ってきた恋は上機嫌だった。

 

「みなさん聞いてください!来年の入学希望者数が増えました!これで結ヶ丘は来年も続いていきます!」

 

「本当!?良かった〜!」

 

恋の報告にかのんが安堵の声を上げた。

理事長からもたらされたのは吉報だった。学園祭の頃から気にしていた問題が一つ解決した。それもLiella!の力で。

 

「私のラップが人々の心を掴んだのね!」

 

「うぬぼれるなデス。みんなの力デスよ」

 

得意げに言うすみれを可可がばっさり切る。

 

「でも実際、地区予選からみんな興味持ってくれたみたいで、フォロワー数も、ほら」

 

「五万三千!?」

 

千砂都が見せた画面にすみれが驚いた。

練習風景の動画もアップしているが、やはりライブ動画が一番効果がある。

 

「私がセンターの曲で、五万三千……」

 

すみれは絵に描いたように悦に浸っている。弱気の虫はもう何処にも居ないようだ。

 

「このままラブライブも突っ走るのデス!」

 

「東京大会の概要はいつ頃発表ですか?」

 

堪えきれないとばかりに足踏みする可可に恋が聞いた。

 

「今夜デス!」

 

「今夜かぁ。七人で集まれる場所……」

 

可可の返答に思案するかのん。

 

「よかったらうちはどう?そこそこ近いよ」

 

「そう言えばエイジくん、一人暮らしだっけ?」

 

エイジの提案に千砂都が聞いた。

応援部で何か使えるかもしれないと、一人では持て余す程の部屋を借りているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてエイジの部屋に集まる事になった。

 

「どうぞ、上がって」

 

「「「「お邪魔しまーす」」」」

「お邪魔しマス」

 

エイジに招かれた五人が言った。

 

「これ、四人世帯くらいの部屋だろ?」 

 

「うん。正直やり過ぎたと思ってる」

 

章の質問にエイジは笑いながら答えた。

 

「トイレとお風呂も別々デスー!」 

 

可可が驚いている。彼女も一人暮らしなので、自分の部屋との違いが気になるのだろう。

 

「ベッドルームはどこデスか?」

 

「こっちだよ」

 

案内すると彼女はベッドの脇に正座した。気の所為だろうか、照れているような。

 

「せんえつながら可可めが行わさせていただきます」 

 

「?何を?」

 

可可はベッドの下を除きこんだ。

 

「可可ちゃん?何してるの?」

 

「日本では男子の部屋に上がったら、やんごとなき本を探すのがマナーだとききまシテ」

 

「うん、そのマナー投げ捨てようか」

 

女子達の前でやんごとなき本を晒されるとか、どんな罰だ。

いや無いのだが。

 

「ち、こっちにもねえじゃん」

 

「ノリノリで探すの止めてくれる!?」

 

章が学習机周りを物色しながら吐き捨てた。

と言うか変なマナー教えたのお前だろ。

 

「エッチ」

「スケベ」 

「変態」

「破廉恥です!」

 

「だから持ってないって!」

 

千砂都、かのん、すみれ、恋から罵倒される。

前にもあったなこんなこと。

 

「ご飯とか自分で作るの?」

 

「いや全然。インスタント食品に頼りっぱなし」

 

「あれ?でもお弁当はちゃんと作ってたよね?」

 

「冷凍食品って偉大だよね」

 

千砂都とかのんの質問に答えた。

すると千砂都は冷蔵庫を開けて中身を確認し始めた。

 

「ねえエイジくん。ご飯ちゃんと食べてる」

 

「ち、ちぃちゃん?なんで怒ってるの?」

 

「質問の答えになってないよ?インスタントとか冷凍食品は除いて答えてね?」

 

千砂都は怒っている時の笑顔で詰め寄ってきた。そこまで限定されると。

 

「食べてない、です」

 

こう答えるしかない。

うんうんと彼女は頷いた。その後、調理器具等を確認して千砂都は言った。

 

「じゃあ今夜はお鍋にしようか」

 

 

 

そして最寄りのスーパーへとやって来た。

 

「各自好きな食材をぶち込めー。俺の奢りだぞー」

 

「「「「「はーい」」」」」

 

章の呼びかけに五人は良い返事だった。

どうしてこんな事に。と言うか章、お金大丈夫?

 

「サポーターがお世話されちゃ駄目じゃない?」

 

「エイジさん、新型栄養失調をご存知ですか?」

 

「いや、知らないけど……」

 

「偏った食事ばかりで、必要な栄養素が欠けている状態をそう呼ぶそうです」

 

「つまりエイジには栄養ある食事がすぐ必要デス!」

 

恋の力説に可可が乗っかる。

 

「そんな緊急性は無いよ?」

 

「でも、ちぃちゃんは本気で心配してるよ。エイジくんの体。もちろん私もね」

 

かのんの言葉に、食材を選んでいる千砂都の背中を見つめた。 そうか。心配をかけてしまったのか。

 

「つべこべ言わず、場所を提供すればいいのよ。そしたら私達がギャラクシーな料理を作ってあげる」

 

「うん、わかった。ご馳走になります」

 

すみれの発言に素直に頷いた。とりあえず鍋パーティーだと思う事にする。

かごの中はすぐに材料等でいっぱいになった。そう、等だ。

 

「……それはそれとして、食玩入れたの誰ー?こんなの買いませんよー」

 

 

食材にお菓子にアイスクリームにと、大量に買い込んだ。

鍋の準備が始まる。エイジが何か手伝おうとすると、家主だからと座らされてしまう。

調理は主にすみれと章主導で行われているようだった。

 

「でもそれでよく許可が降りたわね」

 

すみれが手を止めずに言った。

 

「可可も最低限の生活能力を見せなければ、許可しないと言われまシタよ?」

 

「一人暮らしの?いやぁ最初は自炊する気満々だったんだけどね」

 

「だけど?」

 

かのんの疑問に答えるようにアラートが鳴る。

怪人警報だ。

 

「こういう事になるからね」

 

コートを翻し、章と共に急いで支度する。

 

「先食べてろよ!」

 

「玄関の合鍵、持っていっていいからね!」

 

颯爽と、とはいかない。バタバタと駆ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の怪人はベルゼブブとは関係無かった。

たまに出る酔っ払いの怪人案件だった。彼女に振られたショックから泥酔、その勢いで非合法のアイテムを購入し、突発的な犯行に至ったようだ。

犯行と言っても死人、怪我人、共に零である。飲み屋街で暴れていた所を討伐、確保した。

だが宥めるのに時間がかかってしまった。 

時刻は二十時を回っている。

皆は無事に帰っただろうか。

 

「章もうち寄ってきなよ。まだお鍋の具材はあるし」 

 

「そうさせて貰うわ。鍋の口になってんだよな」

 

そして帰り着くと。

 

「あ、お疲れ様。怪我はない?」

 

千砂都が声をかけてくれた。どころか皆いる。

トランプで遊んでいる。

 

「え、あれ、帰ってないの?」

 

「今日の趣旨を忘れたのですか?」

 

「東京大会の詳細発表……」

 

「それもそうだけど、エイジくんに栄養あるもの食べて貰わないと、終われないよ?」

 

かのんはやれやれといった風だ。

 

「その為にみんな残ってくれたの?なんだか申し訳ないね」

 

「何言ってるのデスか。二人はもうずっと仲間なのデスから、水臭いデスよ」

 

可可がそう言ってくれた。

 

「はーい。机空けて。この私のギャラクシーなお鍋よ。心して食べなさい」

 

「みんなで作ったのデス。誇大広告はやめろデス」

 

すみれが机の真ん中に鍋を運んで来た。蓋を開くと湯気と香りとが一気に立ち昇る。

 

「「「「「「「いただきます」」」」」」」

 

皆で声を揃えて。

 

「ギャラクシー鍋っつっても寄せ鍋だがな」

 

「寄せ鍋こそ原点にして至高でしょ」

 

「実は私、とても楽しみにしていたのです。友人と鍋を囲むなんて初めてで……」

 

「このつみれ、美味しいデス!」

 

「私が作ったんだよ。まんまるでしょ?」

 

「さ、エイジくんも遠慮しないで___エイジくん?」

 

「?」

 

かのんが目を丸くしている。

どうしたのだろうか?

 

「ど、どうしたの?」

 

彼女の言葉でようやく自分が落涙している事に気づいた。

 

「すみれ!何を入れたのデスカ!?」

 

「私じゃないわよ!章!」

 

「常識の範囲だぜ?闇鍋じゃあるまいし」

 

「に、苦手な物がありましたか?」

 

「いや違くて……」

 

ハラハラと周囲が心配してくれる。

違うのだ。

 

「胸がいっぱいになっちゃって……。誰かが作ってくれた温かいものが久しぶりで、それをみんなで食べられるのが嬉しくて」

 

自分でも気付かない内に摩耗していたのか。

エイジの発言にかのんは優しく笑った。

 

「いつもエイジくん達がしてくれてる事だよ。きつい時に励ましてくれて、逃げ出したい時に応援してくれる。ほんの少しだけど、恩返しだから」

 

「そうそう。大げさだよ。エイジくんがやりたいならいつでも出来るんだから」

 

千砂都はエイジの取り皿を取ると、具材をよそってくれた。

 

「嬉し涙はLiella!のライブまで取っておいてくだサイ。最高のパフォーマンスを約束しマスので」

 

「そうだね。東京大会のライブ楽しみにしてる」

 

 

 

皆の思いやりのこもったお鍋は空になった。締めのうどんまで綺麗さっぱりいただいた。

 

「それで?東京大会の日程はきまったのか?」

 

「十二月二十五日。クリスマス当日です」

 

章の質問に恋が答えた。

冬休みの真っ只中である。

 

「各学校ゆかりの場所からリモートでつないで、リレーするんだって」

 

「ゆかりの場所、か。候補はあるの?」

 

千砂都の発言にエイジが聞いた。

 

「外苑球場」

 

「いくらかかるんだよそれ……」

 

すみれの呟きに章が突っ込んだ。

 

「そこは可可にお任せくだサイ。交渉してみマスので」

 

「熱意に任せて突撃しちゃダメだよ?ちゃんとアポ取らないと」

 

「心配するな。俺も同行する」

 

可可と章が会場確保に向かう事が決まった。

ここで決められる事はこれくらいだろう。

 

「じゃあそろそろお開きにしようか。一人ずつバイクで送るから準備してね」

 

「私は大丈夫です。サヤさんとチビが迎えに来てくださるので」

 

それもどうだろう。

夜分に若い女性だけなのは気にかかる。

 

「もう遅いんだからちんたら送ってらんねえだろ。お前は嵐だけ送ってやれ」

 

「え、でも___

 

「可可達は大丈夫デス。いざとなったらすみれを盾にするのデ」

 

「なんでよ!?」

 

そんな分けでエイジは千砂都だけを送っていく事になった。

 

 

 

 

「本当はBOARDが辛かったりしない?」

 

帰り道。千砂都が顔を除きこむようにしながら言った。

 

「あはは、大丈夫だよ。変な心配かけちゃったね」

 

「ならいいけど、とはならないよ」

 

「まだ俺が仮面ライダーやるのは反対?」

 

千砂都は立ち止まり、俯いた。

 

「だって、エイジくんは自分を顧みないでしょ?いつか大事な物を引き換えにして、ヒーローになっちゃう気がして……」

 

エイジはかじかんだ彼女の両手を温めるように取った。

 

「考えすぎだよ。そんな事にならない為にBOARDがあるんだから。それに俺、今すごく充実してるんだ。Liella!の応援は楽しいし、学校の為にもなってやりがいがあるし。そんな日々を手放すなんてあり得ないよ」

 

千砂都を安心させられるよう、努めて笑った。

 

「……そっか。うん、そうだよね」

 

彼女は逡巡の後、そう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校の敷地内、池のほとりにあるベンチに、かのんは疲れたようにど、と腰掛けた。

 

「どうしよう〜」

 

「何かあったの?」

 

困ったように呟くかのんにエイジは聞いた。

 

「みんなから体育館はダメだ。欲が無さすぎるって言われちゃって」

 

ステージ探しはまだ結論が出ていない。早ければ早い方が良いのは分かっているのだが。

とりあえずは可可と章を待つ。

 

「そりゃそうでしょ。Liella!は今や学校の代表なのよ。ちょっとくらいわがまま言うのでちょうどいいのよ」

 

「わがままかどうかはともかく、派手なステージの方が有利なのは間違いないよね」

 

すみれの発言に乗っかる。

かのんは少し俯きかげんだ。

 

「有利、か……」

 

「かのんちゃん?どうかした?」

 

そこへ杖を突いた可可とそれを介助する章がやって来た。

 

「ダメだったデス。パタリ」

 

可可はかのんの腕の中に倒れ込んだ。

 

「全滅だ。俺達の知りうる限りのライブ施設にあたったんだが、スクールアイドルには不向きだろうだとよ」

 

「確かにこの辺りはスクールアイドルに馴染み無いよね」

 

お手上げポーズの章にかのんが言った。

 

「どうするの?あんまり時間ないわよ?」

 

「帰って一晩考えてみるよ」

 

急かすすみれにかのんが答えた。

 

「俺達も出来そうな事探してみるよ」

 

 

 

 

 

 

応援部部室にナナミ、ヤエ、ココノの三人トリオに集まって貰った。

 

「もう知ってると思うけど、東京大会のステージが決まらないんだ」

 

「その件だけど私達、考えがあるの」

 

ヤエが言った。

正直行き詰っているので、意見があるのはありがたい。

 

「街にステージを作ろうと思うの」

 

「街に?」

 

ナナミの言葉を聞き返した。

 

「出来るだけ近くて広い所にしてあげたいじゃない」

 

「移動の負担もかからないしね」

 

ココノの意見に同意する。

 

「まとめると、街の人達にお願いして、特定の時間だけ使わせてもらう、みたいな?」

 

「「「そう!」」」

 

三人が同時に頷いた。

ご近所にお願いする。その発想はなかった。

ならばまずは交渉しなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日。

交渉と言う程の事は無かった。

すんなりとOKを貰えた。街の人達にもLiella!のことは知られていたらしい。クリスマスの街のイベントとしてなら是非とまで言われてしまった。協力も惜しまないとも。

流石Liella!である。様々である。

早速五人に報告に行こうと思ったのだが。

 

「当日まで秘密にしとこう?驚かせたいじゃない」

 

「サプライズ、だね」

 

ヤエの意見に皆が賛成した。

その辺りの企画も練りたいところ。

 

 

「そういう訳だから、俺達はステージ作成に合流するね。みんなは練習に集中して。ちぃちゃん、負担増えちゃうけどお願い」

 

「任せて。とは言っても詰めの段階だから、そこまで大変じゃないよ」

 

Liella!の五人には、応援部はステージの準備に取り掛かる事と、順調である事だけ伝えてある。

当日の反応が楽しみだ。

おっと。忘れてはいけない。ステージの要望を聞かなくては。

 

「ステージのイメージとかある?」

 

「「「星!」」」

「星デス!」

「星です!」

 

五人が同時に答えた。

 

「満点の星空でステージをいっぱいに出来たらいいなって」

 

「OK、星ね」

 

かのんのオーダーを承る。

みんなに共有しなければ。

 

 

街を使わせてもらう許可は取ったが、そこでステージを組み立てるわけにはいかない。

学校でパーツごとに作り、それを当日に運んで組み立てる算段だ。

大掛かりな作業だが、心配ないだろう。なにせステージ作成班は普通科、音楽科問わず多くの生徒が参加している。

Liella!はこの学校の代表とはよく言ったものだ。実際その通りになっているのだから。

そこまではいい。だがここまで組織として大きくなると、責任者、全体の指揮をとる人材が必要になる。

エイジはてっきりナナミ達がそうなると思っていたのだが、その役割が応援部に回ってきた。

トリオ曰く。

 

「Liella!の一番の理解者は応援部なんだから。当然だよ」

 

との事。

 

「エイジくん。サプライズの件なんだけど」

 

「うん。妙案ある?」

 

「妙案って程じゃないけど、みんなでキャンドル持って、それを道標にしたらどうかなって」

 

「いいね。採用!」

 

ナナミが意見を出してくれた。そこから手招き。どうやら聞かれては不味い話らしい。耳を持っていく。

 

「ところで、BOARDの方は忙しくないの?あ、オーズだって事は誰にも言ってないから。安心して」

 

ニュースでもよく見るし、と小声で。

わざわざ気を使ってくれたようだ。そしてしっかり口も硬い。

 

「ありがとうね。スケジュールは問題ないよ」

 

そこで着信。かのんからだ。

ナナミに断りを入れ、通話する。

 

「もしもし」

 

『エイジくん?今大丈夫?』

 

「うん、大丈夫。何かあった?」

 

『何かって程じゃないんだけど……』

 

「?」

 

かのんは明らかに言い淀んでいた。

近くでだれかの声が聞こえてきた。

 

『ううん!やっぱり何でもない。忙しい時にごめんね!』

 

通話は途切れた。絶対何かあるやつじゃないか。

振り返ってみれば少し様子がおかしかったような。

 

「ごめん、今日は上がらせて貰っていい?」

 

「うん。私達に任せて、サポーターの仕事してきて」

 

「ありがとう!」

 

かのんと話してケアの緊急性を感じた。

後を章とナナミ達に任せて、かのんの元へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

練習を終えて、かのんは帰ってきた。

母もありあもいない。

 

「どうしようか、マンマル」

 

ペットのコノハズク、マンマルに話しかける。

どうしようも何もない。東京大会で、歌って勝つのだ。

わかってはいる。だが。

玄関のベルが鳴った。

 

「お邪魔します」

 

「エイジくん?」

 

「ごめんね。気になって来ちゃった」

 

エイジがやって来た。そりゃそうだ。あんな電話をすれば彼は気にかけるに決まっている。

 

「何かあったんだよね?俺で良かったら話してみて」

 

「……あのね、勝つってどういう事かなって」

 

かのんはポツリと漏らした。

 

 

 

「……なるほどね。ずっと引っ掛かってたのか」

 

「いや、私も勝ちたい気持ちはあるんだよ?」

 

「分かってる分かってる」

 

ライブで勝敗を競う事。なぜそこまで勝利に執着するのか。

かのんは胸の内を吐露した。

エイジはうんうんと聞いてくれた。

 

「確かにみんなには言いづらいよね」

 

「みんなで勝とうって、盛り上がってる時に駄目だよね」

 

「良いことだと思うよ?そもそも、に疑問を持つのは」

 

エイジと向かい合って座る。店内には他に誰も居ない。

彼は続けた

 

「こんな事言うのもなんだけど、アイドルがライブで優劣を競うのって、不思議な感じだよね」

 

 

かのんは座っているのにずっこけそうになった。

あはは、とエイジは特に気にした様子は無い。

ラブライブを根底から否定しかねない一言である。

 

「本当にこんな事言うのもなんだね……」

 

「でもかのんちゃんも、こういうのに近い感覚抱いてたりしない?別の感覚でもいいんだけど」

 

「……」

 

「いいんだよ。何でも」

 

考える。もう言ってしまおう。大きな声では言えない事を。

 

「正直、私は歌えるだけで、歌えるようになっただけで十分なんだよね。もちろん学校の為にも勝ちたいけど、他の人を見てるとどうしてそこまでって思ちゃうんだよ。楽しく歌ってるだけじゃ駄目なのかなって」

 

歌えずに、ずっと終わったと思っていた日々。それを思えば今歌える奇跡のような毎日は、それだけで満足だった。

 

「エイジくんは勝つってどういう事だと思ってる?」

 

「俺かぁ。参考にならないと思うよ?」

 

「どうして?」

 

「俺にとって、と言うか仮面ライダーにとって勝つって事は当然の事だから」

 

エイジは真剣な顔になった。だがそれも一瞬。いつもの柔和な雰囲気に戻る。

 

「勝たなきゃ何にも守れないから。誰かの暮らしとか、日常とかそういうの。それを続けていく上で、勝つのが当然なんだよ」

 

「そうだよね。厳しい世界だよね」

 

根本的に意味が違う。

仮面ライダーは負ければ失うものが多すぎるが、スクールアイドルは負けても怪人に蹂躙されたりしない。

 

「まあライダーの話は別にするとして、一般的には勝てば得られるものが多いと思うよ」

   

「私達が得られるものってなんだろう?」 

 

「よりたくさんの人に歌を届けられる、とか。決勝まで行けば、神宮競技場いっぱいに人が集まるわけだから」

 

「そっか。もっとたくさんの人を私達の歌で結んでいける……」

 

「そうそう。ハングリー精神は大事だけど、もし乗りきれないならLiella!の歌を響かせる事だけを考えて」

 

勝利に貪欲になれないなら、歌うことだけを考える。

それでもいいのだろうか。

 

「歌を心から楽しんでるのが、かのんちゃんらしいよ」

 

「ありがとうエイジくん。ちょっと吹っ切れたかも」

 

「それなら良かった」

 

最後に彼は、マンマルをこれでもかと言うくらい撫でた。

マンマルに会いに来たわけじゃないだろうな。

 

「ついでだよ。ついで」

 

どっちがだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日々は過ぎ、十二月二十五日の朝を迎える。

エイジが起きる前から雪が舞っていた。

スマホで天気予報を確認する。どうやらこれ以上酷くはならなさそうだった。

 

「いい演出になるかな」

 

エイジは呟いた。

 

学校に向かい、ステージや撮影機材の最終確認をする。全て問題なし。

所定の場所にステージのパーツを運び込み、組み立てていく。

人数が人数だけに、暗くなる前には組み上がった。

機材の設置を終え、次はキャンドルの道しるべ。生徒に等間隔で並んでもらい、それをステージから学校の正面玄関まで繋げる。

あとは主役を呼んでくるだけだ。

 

ヤエと共に屋上に来たが、五人が居ない。

 

「体育館の方じゃねーか?ステージだと思い込んでる節あったろ」

 

章の読みが当たっていた。

五人は体育館に居て、かのんはその真ん中で嘆きながら四つん這いになっている。

 

「あんまりなんじゃない……!」

 

かのんにギロリと睨まれた。

 

「違う違う!ステージここじゃないから!」

 

「へ……?」

 

「仕上がってるから、ついてきて」

 

エイジと章で五人を先導する。

そしてキャンドルの道標、その入り口へと連れて来た。

五人はその灯りの道に見惚れているようだった。

 

「これを辿って行けば、ステージに着くから」

 

エイジの言葉にかのん達は頷き、走りだした。

 

「ほら、二人も走って」

 

五人を見送りかけた時、ヤエに肩を叩かれた。

 

「え、でもこれはLiella!の為の___

 

「二人の為でもあるよ。ずっとLiella!と一緒に走ってくれた二人なんだから」

 

「!ありがとう!」

 

かのん達の後を追いかけ、追いつき、七人で走る。

 

「頑張れLiella!ー!」

 

「応援部ー!Liella!を頼むよー!」

 

走る間に生徒の皆から様々な声援が送られる。

これだけの生徒がLiella!を、応援部を信頼してくれている。胸が熱くなる。

 

そしてステージに辿り付く。

その絢爛さに五人は息を飲んでいた。

 

「街の人達の協力も得られたから、ここまでの物に出来たんだ。みんなに魅せちゃって、Liella!の最高のステージを!」

 

「___うん!」

 

エイジの言葉にかのんは強く頷いた。

 

「撮影班、準備いいかな?」

 

「いつでもいけるよ!」

 

「規制線班、問題はないか?」

 

「大丈夫!」

 

章と共に全体の指揮を取る。

撮影スペース確保の為の規制線。

ライン内には撮影班、機材班等の生徒達、外側には協力してくれた街の人々や見物客が集まっている。

衣装を着た五人がステージに現れた。

 

「みなさん初めまして。私達は結ヶ丘高等学校、スクールアイドル」

 

「「「「「Liella!です!」」」」」

 

「このステージに立って、この景色を見て、私は胸を張って言えます。結ヶ丘の生徒になれて良かったって。この学校が一番だって。私達の歌、聞いてください!」

 

ついにライブの幕が上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイジは感動した。

初めて生で見るLiella!のライブ。まだ胸がドキドキとしている。

視界が涙でぼやけて見えない。

 

「みんなお疲れ様!最高だったよ!」

 

ライブ終わりの五人に声をかける。

 

「エイジくん、もう泣いてるの?」

 

「だって初めて生でみたんだよ?そりゃ泣くよ」

 

千砂都に笑われてしまった。

ずっと見たい見たいと思っていた。念願がようやく叶ったのだ。泣きもする。

 

「気が早いデスヨ。結果発表はまだなのデスから」

 

「本当、エイジは泣き虫よね」

 

二人にも笑われた。

ここまでのパフォーマンスだ。きっと大丈夫。

 

「きっと通ってるよ。きっと」

 

「だとよいのですが……」

 

恋は不安げだった。

結果発表までの時間はともすると一番緊張するかもしれない。

するとお尻に衝撃が走る。章に蹴られた。

 

「気休め言ってんじゃねぇ。勝負事なんだからな。最後までわかんねえよ」

 

「ご、ごめん」

 

そうは言っているが、章の目もいつもより湿度高めだ。きっと来るものがあったに違いない。

街頭の大型ビジョンが、結果発表へと移っていく。

この場の全員が、固唾を飲んで見守っているだろう。

五位から順々に発表される。画面を祈るような気持ちで見つめた。

 

二位、Liella!。

一位、サニーパッション。決勝進出者は決まった。

 

唖然とした。司会者の言葉がまるで入ってこない。

 

「もう!何なのよったら何なのよ!?」

 

すみれの叫びで我に帰る。

そうだ。ショックを受けた皆のケアを。その前に軽弾みな発言を謝罪せねば。

 

「ごめんみんな。無責任な事言った」

 

「ううん。エイジくんは悪くないよ」

 

千砂都はそう言ってくれた。しかし少しでも糠喜びさせてしまったのは事実だろう。

 

「……こういう事だったんだ」

 

「「かのんちゃん?」」

 

かのんは俯き、唸るように言った。

 

「ちぃちゃん、エイジくん、私悔しい。せっかくみんなが協力してくれたのに、何もお返し出来なかった。二人はずっと応援してくれたのに、何も返せずおしまいになっちゃった!」

 

涙をいっぱいに貯めて、彼女は言った。

 

「それは違うぞ。ずっとコーチングしてきたんだ。勝たせてやれなかった俺達にも責任がある」

 

「……勝ちたい」

 

ポツリ、かのんは言った。

 

「私、勝ちたい!勝って、ここに居るみんなを笑顔にしたい。やったってみんなで喜びたい。私達の歌で、Liella!の歌で、結ヶ丘の歌で優勝したい!いや、優勝しよう!」

 

この場全員に向けて、かのんは言い放った。

抑えていた皆の涙が、ポロポロと零れ始めた。

 

「当たり前でしょう」

 

すみれが言った。

 

「Liella!は、こんなところで終わりまセン」

 

可可が言った。

 

「私は最初からそのつもり」

 

千砂都が言った。

 

「結ヶ丘は一番の学校です」 

 

恋が言った。

五人がピースを突き合わせ、星の形を作る。

 

「結ヶ丘高等学校、Liella!。これから、もっともっとたくさんの人に歌を届けよう!Song for me! Song for you!」

 

 

「「「「「Song for all!!」」」」」

 

冬の気温とは裏腹に、エイジの胸はじんと熱かった。

 

 

 

 






一年生編、もう少しだけ続きます。
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