応援よろしく!   作:冷奴with紅しょうが

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蝿の王 前編

 

 

 

 

 

 

 

夢を見ていた。

紫の怪物が全てを蹂躙する。

その前に立ち塞がるのは白銀の魔法使い。

怪物と魔法使いの戦いは苛烈を極めた。街を破壊しながら地を、空を駆ける。そして終局の一撃がぶつかり合う。

思い出せないが、無意識が覚えているのだろう。あの日の記憶。

 

「エイジくーん。起きて」

 

「むにゃ……?」

 

夢から醒めてもまた夢か。千砂都(ちさと)の声がする。影が見える。

こういう時、目覚める鉄板はやはり眠ることだろう。

グッナイちぃちゃん。

 

「二度寝しないで。今日も練習なんだから」

 

「……おかしいな。夢が覚めない?」

 

「えい」

 

千砂都に両頬を摘まれた。痛い。感覚がある。

 

「夢じゃないよ?」

 

感覚夢(ふぁんふぁくむ)?……いやいやいや!?」

 

意識がハッキリして来ると共に驚きが駆け込んで来る。

 

「ちぃちゃん!?なんで居るの!?玄関閉め忘れたかな……」

 

いや、そういう問題では無いか。

千砂都はキョトンとしている。

 

「なんでって、合鍵、渡してくれたじゃない?」

 

「え、いつ!?」

 

「鍋パーティーの時だよ。忘れちゃった?」

 

「?……あ!」

 

そう言えば、合鍵を持っていっていいと言ったような。

だとしても、合鍵を持っている事と一人暮らしの男子の部屋に、女子が一人で来る事とは別の問題である。

 

「ちぃちゃん、色々言いたい事が___

 

「さ、朝ごはんにしよう。その前に洗面所かな?相変わらず癖っ毛だね」

 

千砂都はカラカラ笑った。どうやらエイジの髪の毛は爆発しているらしい。

OK、一旦はおとなしく彼女の言う事を聞いておこう。もしかしたらワンチャン夢かもしれないし。自分もまだ冷静じゃないかもしれないし。

顔を洗い、歯を磨き、髪を梳かして、鏡の中の自分と見つめ合う。

ウィンナーが焼けるいい香りがしてきた。やっぱり夢では無いらしい。食卓へ向かう。

ウィンナーと目玉焼きをメインに、ご丁寧にサラダボウルまでついている。

 

「パンでいいよね?て言っても今からご飯は炊けないけど」

 

「……ありがとうちぃちゃん」

 

色々と問題はあるが、目の前に用意してくれた朝食。そのお礼は言わなくては。

とりあえず席に着く。手を合わせる

 

「「頂きます」」

 

「の前に!」

 

危ない。流されるところだった。問題提起をしなくては。

 

「なんで居るの?」

 

「だから合鍵を___

 

「いや、それは思い出したんだけどね?そういう事じゃなくて、なんで一人暮らしの男の部屋に、一人でやって来て朝ご飯……は有難いけど、作ってるのって質問だよ」

 

少し早口になってしまった。

聞いた彼女は笑顔になった。怒っている時の笑顔だ。

 

「逆に聞くけど、エイジくん、朝ご飯何食べるつもりだった?」

 

「……」

 

ぐ、見透かされている。

鍋パーティーの時、千砂都は鍋に使わない食材ばかり選択していた。

あの時は少し妙だな程度にしか思っていなかったが、今ならわかる。この時の為の布石だったのだ。

 

「……カップ麺、です」

 

「ほらー。放っておくとすぐそんな粗食するんだから。成長期にそれは駄目だよ」

 

「でも、だからって___

 

「それにね」

 

千砂都は両手の人差し指を立てた。

 

「一人暮らしの男、じゃ無いよ。木野エイジくんち。女子一人じゃなくて、嵐千砂都が、やって来たの」

 

そう言いながら立てた指で円を描いた。軌跡はフリーハンドだと言うのに綺麗な丸だ。

 

「その上で聞くよ。何か問題がある?」

 

「……無いです」

 

千砂都の目には強い信頼が伺えた。そんな目をされたこれ以上何も言えない。敵う気がしない。

 

「でも、申し訳ないよ。こんな朝早くから来てくれて、ご飯まで作ってくれるなんて」

 

「そう思うならちゃんとしたもの食べてね。さ、冷めないうちに食べちゃおう」

 

そう言って千砂都はいつもの笑顔に戻った。

エイジも箸を取り、有難く頂くとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当然、千砂都と二人で登校した。そして一旦別れる。

応援部部室で章と共に制服から練習着に着替えて、五人と合流する。

なんだろう。すみれがニヤニヤしながらこちらを見てくる。

 

「良かったじゃない。ラブコールで起きられて」

 

「心臓に悪いよ……ちぃちゃん、次からは事前に言ってね?」

 

「はーい」

 

次があるのかどうか知らないが。

いや、ちょっと待って欲しい。皆の反応がおかしい。

 

「もしかしてみんな、知ってたの?」

 

「いや〜」

 

かのんがあはは……と笑った。

そもそもの発端はかのんらしい。

エイジの食生活改善を(あきら)に相談、つまり依頼したら、なぜか今朝の形になったそうだ。

 

「私は止めたんですよ?でもエイジさんなら信頼出来ますから」

 

「言わない方が、エイジの教育の為と言う結論に至りまシタ」

 

(れん)可可(クゥクゥ)が言った。

教育て。男として見られていないどころか、子ども扱いである。

しかも知らないのは自分だけ。

 

「なんだか仲間外れみたいで少しショックです……」

 

「ほらー、だからエイジくん拗ねちゃうって言ったんだよ」

 

かのんはほら見た事か、と言わんばかりである。

これに異を唱えたのは章だった。

ずかずかとエイジに詰め寄った。

 

「何がショックだ!可愛い幼なじみが朝起こしに来てくれるとか、憧れのシチュエーションだろうが!」

 

「否定しないけどサプライズが過ぎるよ……」

 

どれだけ驚かされたことか。ライブを見た時とは別の、色んな意味で心臓バクバクしてたんだからな。

その元凶(?)の可愛い幼なじみさんはニコニコしていた。なんでそんなに機嫌がいいんだ?

 

「さあ、そろそろ練習始めるよ」

 

かのんが呼びかけた。

東京大会での惜敗直後だ。皆いっそう練習に熱が入っていた。

 

「……」

 

「章?どうかした?」

 

エイジは章に聞いた。

少し難しい顔をしている。

 

「ちょっとな」

 

明確な返答は無かった。

 

 

 

 

 

 

練習終わりの帰り道。やっぱり千砂都はついてきてくれた。

 

「スーパー寄ろう。食材の補充しなきゃ」

 

「あの、ちぃちゃん。ご両親にはなんて言ってるの?」

 

確かに嵐千砂都と木野エイジの仲であれば問題はないが、それは二人に限ったことだ。

親の立場になればそうもいかないだろう。

玉のように育てた娘が、男の部屋においそれと上がり込むのは心象が悪いはずだ。

 

「なんてって、エイジくんちに行くって」

 

「それ絶対実家だと思ってるよ……」

 

正直過ぎて逆に嘘みたいになっている。

いや、いいのか?実際嘘ではないのだし。

 

「エイジくんは私がずっと居るの嫌?」

 

「そんなわけない!むしろ嬉しいよ」

 

「よかった〜」

 

彼女は心底安堵したようだった。

そんな不安を抱いていたのか。

 

「私達、仲良しだとは思うけど、踏み込み過ぎもどうかと思って」

 

「ちぃちゃんなら大歓迎だよ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「部活の他にも、ダンスの個人練習もしてるでしょ?その時間を取っちゃったら申し訳ないから」

 

「知ってたんだ」

 

「そりゃちぃちゃんが努力家な事くらいはね」

 

彼女はスクールアイドルとしての目標以外にも、将来の夢としてダンサーを目指している。

ならば当然そのための努力も惜しんでいないだろう。

 

「じゃあさ、晩御飯終わったら私の練習に付き合ってくれない?」

 

「ちぃちゃんのレベルについていけるかな?」

 

「大丈夫だとおもうよ。エイジくんも大分上手くなってるから。それにほら、私は練習出来て、エイジくんは監督のレベルが上がる」

 

「「一石二鳥だね」」

 

声が重なり、二人で笑い合った。

 

 

 

千砂都は次の日も、その次の日もやって来た。

 

「ちぃちゃん?まさかとは思うけど、冬休みの間ずっと来るつもり?」

 

「いや?そんな事ないよ」

 

ほっ。流石にそこまでではないか。

 

「私達の依頼はエイジの粗食を直すことだから、それまでは来るつもり」

 

「ずっとって事じゃん!」

 

びっくり横転。千砂都の意思は想像以上に固かった。

 

「え、何エイジくん、もしかして直す気ないの?」

 

ジトーとした目で千砂都に睨まれた。

 

「いや、そんなことないけど___

 

「それに私と居るのは嬉しいって、この間言ってくれたばっかりじゃない」

 

「それもそうなんだけど……」

 

「けどけどばっかり、何が不満なの?」

 

彼女はその目のまま詰め寄ってきた。

 

「いえ、不満とかは無いです。全然、全く」

 

流石にドキドキして心臓が保たないとは言えなかった。

嬉しい悲鳴、ということで耐える他なさそうだ。

 

 

 

 

 

 

その日の練習終わり、章が全員に呼びかけた。

 

「大晦日と三が日は練習休みな」

 

さも当然という風に。これには皆が驚いた。

 

「どうして?私達もっと練習しないといけないのに」

 

「だからだよ。全員力みすぎだ。このところオーバーワークなんだよ」

 

かのんの疑問に章はハッキリと答えた。

 

「それに可可。どっか異常があるだろ」

 

「イエ、そんな事は___

 

「正直に言え」

 

章は眼光鋭く可可を詰めた。

 

「……足が少し痛みマスが、問題ありまセン!」

 

「問題大有りだ。典型的なオーバーユース。お前は特に練習禁止な」

 

仮面ライダーになると、適合者になると、その元のライダーだった人物の記憶と経験を引き継ぐ事になる。

章の適合元は医者だった。彼には医学的知見がある。

 

「オーバーユースって?」

 

「そのままです。使いすぎですね」

 

すみれが恋に聞いた。

エイジもわからなかったので解説は助かる。

 

「私達だけでも練習しちゃ駄目?」

 

「私は章くんの意見に賛成。みんな動きが悪いとは言わないけど、疲れが溜まってるみたいだし、リフレッシュも大事だよ」

 

かのんに答えたのは千砂都だった。

皆が焦燥を抱えている中、彼女は冷静だった。

 

「もし誰かが隠れて練習した時は___

 

「「「「「「時は?」」」」」」

 

___可可のサニパポスターに、俺のサインを書く。大きくな」

 

「皆さん!絶対安静デスよ!」

 

掌返しが早い。可可の顔には必死と書いてあるようだった。

 

「分かってるかエイジ。お前もだぞ?」

 

「え、俺?なんで?」

 

あくまでLiella!を対象とした休暇のはずだ。それに五人が休めば当然応援部も練習しなくなる。わざわざ名指しで釘を刺される理由がわからない。

打っても響かない奴だな、と章は続けた。

 

「もし澁谷(しぶや)にこっそり練習みてくれって言われたらどうする?」

 

「そりゃやるよ?」

 

「そういう事だよ!」

 

「だって、バレなきゃいいわけだし……」

 

「そういうとこだよ!」

 

章に激しく突っ込まれる。

つい本音が出てしまった。

 

「エイジが監督、補助しても同じ量刑を科すからな?」

 

「わかってマスねエイジ!応援、ダメ、デスよ?」

 

「わかったよ。大人しくする」

 

章はとにかく全員を休ませたいらしい。医者の言う事は素直に聞いておくとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BOARD東京本部基地。その大会議室には大晦日だと言うのに、多くの隊員達が集まっていた。エイジと章もその一人である。

 

「みんな、こんな時期によく集まってくれたわね。まずは感謝します」

 

司令官、志摩郁代(しまいくよ)がマイクの前に立った。

年末年始は、というより、世間一般でいう連休期間はやはり怪人犯罪も増加傾向にある。

そんな中で、これだけの隊員達を集めるのは異例と言える。

 

「この会議を開いたのは他でもないわ。対ベルゼブブの作戦が決まったからよ」

 

会議室はざわめいた。

それもそのはず。ベルゼブブの厄介な点として、怪人レーダーに引っかからない事があげられる。

蝿一体一体の反応自体は極めて微弱なので、常にその姿でいるものと考えられるが、隠れているであろう本体を、どう探すのかさえ分からない状況だ。

 

「そうね。まずどう敵を見つけるのか。これが最初にして最大の難問だけど、簡単な方法があるわ」

 

会議室前面の大型モニターに映像が映し出される。

捕らえたベルゼブブのサンプルだ。

 

「この五体のサンプル達を解き放つ。恐らくは本体に戻ろうとするはずだから、みんなにはそれを追いかけて貰うわ」

 

会議室が再びざわめく。

成る程、と言う声。いやしかし、と言う声。様々だった。

 

「あの」

 

一人の男性隊員が挙手した。

 

「どうぞ」

 

「解き放った蝿が、再び怪人を造る可能性はないのでしょうか?」

 

起立した男性隊員はそう言った。

確かに。本体に戻らず、また別の宿主を探すかもしれない。

 

「それについては問題ないわ。蝿の中にアイテムは収納されていないし、蝿本体のエネルギーも残っていない。再び寄生する心配はないとの結論に至りました」

 

それなら解き放って一般人に被害が出る事は無いだろう。

 

「はい」

 

また別の隊員が挙手した。今度は女性だ。

郁代に促され、立ち上がった。

 

「解き放った蝿が本体に戻る確証はあるんでしょうか?」

 

「そこは賭けね。けど分が悪いとは思っていません。蝿達が一定の方向に向かおうとすると言う報告があります。これが根拠よ」

 

その方向と言うのが、本体の居る場所という訳か。

 

「作戦はこうよ」

 

モニターの映像が切り替わる。

地図上にデフォルメされた蝿の顔五つと、それを追うBOARDのマーク。

 

「五匹の蝿を同時に放ち、こちらも五つのチームに分かれてそれを追ってもらいます。恐らくは敵の拠点に辿り着くでしょう。応援を待ってベルゼブブを逃がされたらたまらない。拠点を見つけ次第、合流を待たずにそのまま突入して」

 

質問はある?と郁代は聞いた。

つまりはベルゼブブ討伐を最優先にして動く。

大掛かりな作戦だ。

 

「決行日は来年の三日。敵が来ないと思っている合間を狙います」

 

お正月などはBOARDの繁忙期だ。そこなら相手も大規模作戦を展開されるなど思わないだろう。

 

「大規模テロは起こさせない。必ず未然に防ぎます!」

 

「了解!」

 

会議室中の隊員達がそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして元旦。早朝から皆で初詣に行こうとの提案があり、エイジは千砂都を迎えに嵐邸前まで来ていた。

 

「う〜寒……」

 

雪こそ降っていないが、真冬らしい冷え込みだった。

そしてパタパタと足音がして、玄関がガチャリと開いた。

 

「ごめんエイジくん。待った?」

 

「いや、今来た……」

 

振り返ると同時に見惚れてしまった。千砂都は晴れ着姿だった。

優しいピンクのグラデーションの着物に、同系色のリボン。

彼女の品を普段より一段と際立たせていた。

 

「ど、どこか変かな……?」

 

「いやいや!大丈夫だよ。見惚れちゃっただけ。似合ってるね」

 

「そんなに褒められると、くすぐったいよ」

 

そうは言いつつも、千砂都はほっと胸をなで下ろしていた。

二人で歩き出す。集合場所はすみれの神社、初詣もそこで行う予定だ。

 

「主役は可可ちゃんなんだ。日本の文化を体験して貰おうって事で。でも『どうせならみんなとがいいデス!』って」

 

「じゃあみんな今日は晴れ着なんだ。ちぃちゃんはそれ、持ってたやつ?」

 

「ううん、レンタル。ネットで選んだんだ」

 

「へぇ」

 

着物という事もあって、彼女の歩調は緩やかだった。

そのテンポに合わせる。

 

「歩くの辛かったらいつでも言ってね。おぶるから」

 

「心配しすぎだよ。まあでもダンスは出来ないかな」

 

「晴れ着で踊ろうとするのはちぃちゃんくらいだよ。でも五人で揃って着替えなくて良かったの?」

 

「うん。一番にエイジくんに見せたかったから」

 

勘違いしそうな事をさらりと言う。

これは注意が必要だろう。

 

「ちぃちゃん、あんまりそういう事言っちゃだめだよ?」

 

「大丈夫。エイジくんにしか言わないから」

 

駄目押しだった。ずっこけそうになる体を何とか立て直す。

まあ休暇を楽しんでいるのは何よりである。

 

「ところでさ。三日とかどこか行かない?二人で。みんなと予定が合わないんだよね」

 

有難い誘いだったが、その日は作戦決行日だ。

適当な理由で断るほかない。

 

「あ〜。ごめんね。三日は家族と予定があって……」

 

「今嘘ついたでしょ?」

 

「い、いや〜?」

 

千砂都はジトーとした目で睨んできた。最近よく睨まれる。

なんでわかるのだろう。付き合いの長さはこういう所で仇になる。

 

「エイジくん、嘘つく時の癖があるんだよ」

 

「……参りました。本当はBOARDで大っきな作戦があります。本当は言ったらダメなんだよ、これ」

 

嘘の時の癖は教えてもらえなかった。

だって次から直しちゃうじゃない、と。

 

「それって、二年前のじゃしん事件、だっけ?みたいなこと?」

 

「そういう事にならない為の作戦だよ。心配しないで」

 

「そりゃ東京は心配ないかもしれないけど、エイジくんには危険はないの?」

 

「危険の無い作戦なんてないよ。大丈夫、俺けっこう強いんだから」

 

彼女は不承不承といった具合で、いかにも不機嫌そうだった。

 

「ごめんね。今回の埋め合わせは絶対するから」

 

「そういう事じゃないよ……」

 

そうこうしている内にすみれの神社のへと辿り付いた。

先に五人は到着していたらしい。これで全員だ。

 

「エイジくん、ちぃちゃん、明けまして……ちょっとエイジくん。ちぃちゃんに何言ったの?」

 

千砂都が言った通りかのんも晴れ着姿だった。オレンジ色がよく似合っているが、今はそれどころではない。

千砂都はプクーと頬を膨らませ、ご機嫌斜めになってしまった

 

「ちょっと都合が合わなくて。本当ごめんねちぃちゃん」

 

BOARDの作戦です、とは言えないのでこう言って誤魔化した。

スッと千砂都は右手の小指を差し出して来た。

 

「ちゃんと帰ってくること。約束だよ」

 

「もちろん!」

 

エイジも右手の小指を差し出し、絡め合う。互いの指が冷え切っていた。けれど約束には関係ない。

かのんはその一部始終を眺めたあと。

 

「そっか」

 

とだけ言い、頷いた。きっと何かを察してくれたのだろう。

 

「かのんー、千砂都ー、エイジー、写真とるわよー」

 

すみれに呼ばれた。そうだ、せっかく皆晴れ着なのだから、Liella!のアカウントにアップする用の写真を撮らなければ。

 

「これがジャパニーズハレギ。とっても可愛いデス」

 

今回は嬉しそうな可可を中心に写真を撮る。

何枚か収められた。あとは動画も撮っておかなければ。

 

「ではお二人も入ってください」 

 

「え、いやこれはLiella!の___ 

 

「みんなの集合写真だって、思い出だって大事だよ?ほら、入って入って」

 

恋とかのんに言われるがまま、スマホスタンドにはめ込み、タイマーを設定した。そして五人の両端へ一人ずつ応援部は入った。

シャッター音。

撮れた写真を確認する。皆いい笑顔だ

こういう笑顔を守る為にも、大規模テロは防がなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦決行当日。当然オーズとバースはコンビで、何人かの黒影トルーパーを率いる事になった。

黒影トルーパー達は浮遊や高速移動が可能なマシン、ダンデライナーに乗っている。

 

『カッターウィング』

 

バースは背中にカッターウィングを展開。飛行能力を獲得しておく。

オーズはバッタレッグで跳躍力を保持しておく。

 

そして蝿が放たれた。五体のサンプルには超小型の発信器が埋め込まれており、オペレーションルームから常に位置を把握出来る。

が、万が一の事も考えて、リアルタイムでライダーが追いかける。

蝿は迷いのない軌道で一定方向へ向かって飛ぶ。

建物や人混みを飛び越えながらその後を追う。タカアイならば見失う事もない。

そうして追いかけて行く内に、蝿は廃ビルの中に入っていった。

躊躇わず突入する。当然だか誰も居ない。

蝿は床の隙間へと入っていく。

つまり、そういう事か?

俯瞰して見ると、その周りだけ床の色が違う。メダジャリバーで斬りつけた。

ガタンと音を立てて床、いや扉は落ちていった。その奥から広い階段が現れた。

ベルゼブブはこの先だろう。

 

「オーズ、バース組、不審な階段を見つけました」

   

『一番槍よ。十分気をつけて』

 

郁代の返答に頷き、オーズは先陣を切る。

階段を降りた先は、開けた通路になっていた。壁などは明らかに新しい、廃ビルとは打って変わっている。

通路の奥が目視できた。大きな扉だ。その前に二人、見覚えのある白服を着ている。財団Xだろう。

向こうもこちらに気がついた。まだ距離があるが、相手は何かしらのアイテムを使い、怪人へと変貌した。突進してくる。

 

「時間かけてらんねえぞ」

 

「分かってる」

 

既に許可は貰っている。

メダジャリバーにセルメダルを投入。レバーを引いて、刀身へ送り出す。それをオースキャナーでスキャン。

 

『スキャニングチャージ!』

 

範囲を絞り、更にエネルギーを分割し連続して使用出来るよう調整。バッタの跳躍力で踏み込む。

一体目の怪人とのすれ違いざまに一閃。二体目の攻撃を避けながら一閃。最後に扉に向かって一閃。

怪人二体を撃破、扉は三枚に卸した。

 

「こちらオーズ、ルート確保。突入します!」

 

『ベルゼブブの反応はその先よ』

 

扉を超えた先はBOARDの研究施設と似通っていた。ここが拠点で間違い無いだろう。

侵入と同時に警報が鳴り響く。モタモタしていられない。ベルゼブブを逃がされる前に確保する。

スマートスタッグフォンが飛んできた。画面には蝿の位置情報が示される。それを頼りに壁を突き破りながら進んで行く。

 

「変身!」

 

『インクレディブルリョーマー!』

 

「!」

 

デュークが斬りかかってきた。レイピアをメダジャリバーで受け止める。

 

「お正月なんだから、もっとゆっくりしなよ?」

 

「生憎と、BOARDは年中無休だからね」

 

デュークの軽口に平然と返すオーズ。

鍔迫り合いはバースの射撃によって、デュークが崩れ、オーズが押し勝った。

斬りつけ後、バッタレッグのキックで壁向こうまで吹き飛ばす。

ベルゼブブもすぐそこだ。

 

「あー。仕方ない、私だ。計画を前倒しにする」

 

辿り付いた部屋でデュークと対峙する。

 

「レディース&ジェントルメン!今日ご覧に入れますのは珠玉の怪人ショー!私の研究成果を、特と目に焼き付けてください!」

 

「テロはショーなんかじゃ___!?」

 

その瞬間、狙撃が飛んで来た。この攻撃は知っている。

 

「私達の、だろうが」

 

闇の中からナイトローグが現れた。

そしてその後ろに一人の男。そしてその隣には怪人。

 

「ロイミュードか!」

 

バースが叫んだ。

ロイミュード。人間の感情を学習し、進化する機械生命体。

スマートスタッグフォンを確認すると、発信器の反応はその男とロイミュードから発している。

すぐにでも確保したいが、オーズはデュークに、バースはナイトローグに足止めされる。

黒影トルーパー隊の到着もない。

 

「さ、牛島くん、今生の別れだ」

 

「はい。世界を変える為に」

 

牛島と呼ばれた男はゾディアーツスイッチでゾディアーツに変身。

 

『パペティアー』

 

そしてロイミュードはガイアメモリを使い、ドーパントへ変身。さらにスライムように変化し、ゾディアーツとなった牛島を呑み込んだ。

そして生まれたのは白いタキシードを着た蝿のような怪人。

 

「これが君たちが探していた、私達の傑作ベルゼブブさ。ロイミュードの融合進化態を挟むことで、別種のアイテム同士のいいとこ取りを___おっと、人が話してる途中だよ?」

 

メダジャリバーを振り下ろすが、簡単に防がれてしまう。

相手には戦う気がないのだ。ただベルゼブブに近づけさせなければいいと考えている。

この余裕は崩せない。

 

「ベルゼブブ本体と接触、けど邪魔されて近づけません!応援はまだですか!」

 

『もう少し時間を稼いで!あと三分もすれば___

 

「……間に合わない」

 

オーズの呟きは現実となった。

ベルゼブブは無数の蝿となり、通気口へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BOARD東京本部基地オペレーションルーム。

 

『ベルゼブブが無数の蝿になって、解き放たれました!』

 

「!近隣県のBOARD、警察、それから自衛隊にも応援要請を出して!」

 

オーズの報告から志摩郁代は即座に判断する。もう大規模テロは始まったと。

その指示の直後、怪人出現のアラートが鳴った。

 

「怪人出現、十、二十、三十、まだ増えます!」

 

東京全域に怪人反応が複数、それが加速度的に増えていく。

五十を超えた辺りでさらなる段階のアラートが響いた。それは都の存亡が懸かっている、と報せるものだった。

 

 

 

 

 

 

 






スマートスタッグフォン

スマホからクワガタへ変形するガジェット。元ネタは仮面ライダーWのスタッグフォン。
通信だけでは情報が不足する場合に使用される。
オペレーターと画面を共有し、必要な情報を表示する。
また単体で怪人にダメージを与えられる程の攻撃力を持つ。











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