応援よろしく!   作:冷奴with紅しょうが

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告白とすれ違いとチョコレート

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

内々でベルゼブブ事件とよばれる大規模テロから早一ヶ月。散発的な怪人犯罪や災害あれど、盗み出されたアイテムよる事件などは一切ない。街はおおむね平和だった。

真夜中や日も昇らない早朝の怪人アラートなども少ない。

おかげでエイジの生活習慣は改善傾向だった。早めに寝て、千砂都(ちさと)が来るより早く起きる。朝ご飯の準備をする時間が確保出来るようになってきた。今日はご飯を炊ける。そんな朝だった。

インターフォンが鳴った。彼女は合鍵を持っているので、鳴らす必要はないはずだが。

 

「ちぃちゃん?どうか___

 

「おはようございマス、エイジ」

 

「残念だったわね、千砂都じゃなくて」

 

玄関の先に居たのは可可(クゥクゥ)とすみれだった。

 

「どうしたの二人とも」

 

「どうしたの?ではありまセンよ。エイジの食生活改善はみんなの依頼デスから」

 

「当然私達も協力してあげるわ」

 

これまた有難い。ついでに心臓も休まる。

 

「「心臓?」」

 

「いやいや、こっちの話」

 

朝食作りはすみれ指導の元で行われた。

 

「豚汁を作るわ」

 

冷蔵庫の中身を一通り確認すると、彼女はそう宣言した。

豚汁。お店みたいで豪華だ。

すみれは作るのも上手いが、教えるのも上手かった。

豚汁だけでなく、目玉焼きをふっくら焼き上げる、ウィンナーをパリッと仕上げるコツ等も教えてくれた。

三人での朝食作りは、すみれと可可が時々衝突することを除けば、すいすい進んだ。

 

「「いただきます」」

「いただきマス」

 

三人で手を合わせる。

豚汁にご飯。少しのサラダとウィンナーと目玉焼き。

 

「二人ともありがとうね」

 

「あんた意外と手際は悪くないのよね」

 

「最初は自炊する気あったから」

 

「あのインスタントと冷凍食品の山から信じられまセンが……」

 

「出動が続くと出不精になっちゃうんだよね」

 

他愛もない話のなか、すみれが何か言いたそうにしていた。

料理の感想が気になるのだろうか。

 

「可可ちゃんどう?豚汁のお味は?」

 

「……美味しいデス」

 

心底認めたくなさそうだった。可可は何かに付けてすみれに対抗心を燃やすところがある。

 

「私が教えたんだから、当然でしょ……そうじゃなくて」

 

「何か悩み事?俺でよければ話してみて」

 

「そう?じゃあいい機会だからはっきりさせたいのだけど」

 

「うん」

 

「エイジは千砂都のこと、どう思ってるの?」

 

意を決したように彼女は言った。

なんだ、そんな事か。

 

「無粋なグソクムシデス。デリカシーはないのデスか?」

 

「やかましいわ!だってもう二月よ。あの季節じゃない!」

 

いつも通りのやり取りをする二人だった。

しかしあの季節とはどの季節だろうか。針供養とか?

 

「何って、バレンタインに決まってるじゃない」

 

察しが悪いわね、とすみれは少し照れた。

ああ。もうそんな季節か。

 

「ちぃちゃんのことは、もちろん好きだよ」

 

「エイジ、そういう意味ではないのデス。すみれが言っているのは___

 

「うん、分かってる。幼なじみとしても、恋愛的な意味でも好きだよ。思い出せないくらいずっと前から」

 

エイジは努めて平静を装ったが、やはり顔が熱くなる。

すみれも頬を赤らめているし、可可は彼女に責めるような視線を向けていた。

 

「やっぱり口に出すのは恥ずかしいね……」

 

「イエ、誰かを好きなる気持ちは素晴らしいデス!」

 

「で、どうするの?伝えないの?その気持ち。千砂都だって待ってるんじゃないの?」

 

「それは無いよ。ちぃちゃんは幼なじみだから仲良しってだけじゃないかな。それに好きな相手を年単位で無視したりしないでしょ?」 

 

「それは、そうかもだけど……」

 

すみれはどうやら、千砂都が自分のことを好きだと勘違いしているらしかった。それは無いだろう。仲が良いのは否定しないが。

 

「でも、日本にはこんなコトワザがありマス。嫌よ嫌よも好きの内、と」

 

「ことわざではないけどね」

 

「そうよ、それに好きでもない相手の家に毎朝通ったりしないでしょ!」

 

「二人も来てくれてるじゃない?」

 

「「うっ……」」

 

勘違いはすみれだけでなく可可もだった。

ここははっきり言っておいた方がいいだろう。

 

「告白はしないよ。答えがどうあれ、ちぃちゃんは真剣に悩んでくれると思うし、今はそんな事で煩わせたくないから」

 

ラブライブ優勝。その目標に向かってLiella!は今全力だ。要らない悩みの種を増やしたくはない。

 

「さ、食べちゃおう!遅刻しちゃうよ」

 

三人で作った朝食をかきこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ついにこの手の依頼が来たか……」

 

「そうだね」

 

応援部部室。エイジは(あきら)と共に腕組みで隣り合い、座る。対面には今回の依頼者、新田良二(にったりょうじ)が座っている。

彼はBOARDの訓練生なので、二人も知っていた。確かかのん達と同じクラスである。

 

「で、新田くん。Liella!の誰に告白したいの?」

 

「はい。(あらし)千砂都さんです!」

 

真っ赤な顔で彼はそう言った。

エイジの心臓はドクンっと跳ねる。

 

「会話は挨拶程度しかしたことないんですけど、ライブとか見てる内に、自然と目が追うようになっちゃって」

 

「気づいたら好意を抱いていた、と」

 

「はい」

 

章が聞き取りをする。その合間に視線をこちらへ投げ掛けていた。良いのか?と。

エイジは頷いた。

 

「本当はいけないとは分かってるんですけど、どうしても気持ちだけは伝えたくて」

 

「それはどうして?」

 

今度はエイジが聞いた。

 

「え、だってお二人は付き合ってるんですよね?よく一緒に登下校してますし」

 

良二はエイジを見ながら言った。

 

「いや、ちぃちゃん゙!?」

 

章に足を踏まれた。結構強めに。

黙っていろ、という事だろうか。

 

「そうだな。後悔を残さないようにするのは大事だ。その依頼受けよう。恋の成就じゃなくて、告白のセッティングだけでいいんだな?」

 

「はい、お願いします!」

 

良二はバッと頭をさげた。

そして簡単な打ち合わせをした後、彼は出て行った。

 

「章、なんでさっき本当の事言わなかったの?」

 

「この告白、どうなると思う?」

 

「……多分ちぃちゃんは受けないと思う」

 

「だろ?だったら分かりやすい理由があったほうがいい。本人に下手な希望を持たせるよりかはな。それよりもだ」

 

ぐるりと首を回し、章は睨むようにこちらを見た。

 

「お前は良いのか?万に一つでも嵐が他の男に獲られる可能性を潰さなくて」

 

「俺に誰かの恋路を邪魔する権利はないよ」

 

「だったらさっさと告白しようとはならんのか?」

 

「章も知ってるでしょ。俺はもう人間じゃない」

 

エイジは自分の胸に手を当てた。()()()から自分の中で、自分の物ではない鼓動を感じる。

 

「怪物だから恋をしちゃいかん、なんて事はないだろ」

 

「ありがとうね。でも自分で決めた事だから」

 

章は天井を仰いだ。

 

「……揺さぶってみるか」

 

小さな声で彼は呟いた。

 

「何を?」

 

「エイジ、この依頼お前がやれ」

 

「いいけど、章は?」

 

「俺はあっちの依頼を片付ける」

 

「ああ、あれね。手伝わなくていいの?」

 

「お前菓子作れるのか?」

 

「いや全然」

 

なんなら味見役にすらならない。確かに二手に分けた方が効率的か。エイジは早速千砂都の元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の練習もやりきった。千砂都は汗をタオルで拭った。

 

「今日も一段とハードでしたね」

 

「まだやれるよ!外周とかどう?」

 

(れん)の言葉にかのんが返した。

 

「かのんちゃん、やり過ぎは駄目だよ。章くんが居たら怒られちゃう」

 

「ごめん。つい熱くなっちゃって」

 

応援部の二人は別の依頼を片付けるらしく居なかった。

東京大会での敗退から一ヶ月半。悔しさはかのんの、皆の心に残り続けていた。

逸る気持ちもわかる。

 

「可可ちゃん、足の方は大丈夫?」

 

「ハイ、すっかり良くなりマシタ」

 

千砂都の質問に可可は元気よく答えた。

 

「ところで千砂都、大事な質問があるのデスが……」

 

「え、何?」

 

そんな風に改まって聞かれると、こちらも身構えてしまう。一体なんだろうか。

 

「エイジの事、どう思っていマスカ!?」

 

「まあ!」

 

「可可ちゃん!?」

 

恋とかのんが驚いた。

なんだ、そんな事か。

 

「可可、あんた私には無粋とか言っといて!」

 

「状況は切迫しているのデス。理解しろくだサイ」

 

何故かすみれが可可に詰め寄っている。まあこれ自体は別に珍しい事でも何でもない。その辺は放っておいて、質問に答えるならば。

 

「好きだよ」

 

「千砂都、可可が言ってるのはそういう意味じゃなくて___

 

「うん、分かってるよ。私はエイジくんに恋してる」

 

すみれの説明を遮り、答える。

また恋がまあ!と驚いた。

 

「かのんちゃんは知ってると思うけど、小さい頃、いじめられてる所を助けてもらった時から、ずっと好きだよ」

 

「告白はしないのデスか?」

 

「う〜ん」

 

少し説明が要りそうだった。

 

「エイジくんが私の事、大切に思ってくれてるのは分かるよ。けどそれは、昔の私を忘れてないからだと思う」

 

「昔の千砂都、デスか?」

 

「そう。昔の私はね、内気で泣き虫でよくいじめられてたの。それをかのんちゃんとエイジくんが助けてくれた。きっとエイジくんの中ではその時のままなんだよ。だから大切にしてくれる」

 

「ちぃちゃん……」

 

彼の中では、自分はまだ泣き虫のままなのだ。だからこそ、ここまで近い関係でいられる。そう思う。

 

「だからエイジくんに恋愛感情とか無いよ」

 

「そんな事はありまセン!エイジもきっと千砂都の事が好きなはずデス!」

 

「ちょっと可可!」

 

熱くなる可可をすみれが諭す。二人はなんだかあたふたしているようだった。

 

「ふふ、可可ちゃんの言う通りだといいな」

 

「あの、」

 

ほとんど静観していた恋が声を上げた。

 

「でしたら、チョコレートを送りませんか?もうすぐバレンタインデーですし。それでエイジさんの反応を見てみてはどうでしょうか?」

 

「恋ちゃんそれ良い!」

 

恋の発案にかのんが賛同した。

 

「みんなで作ろう!Liella!を支えてくれる日頃の感謝もあるし、一石二鳥だよ」

 

かのんは既に乗り気だった。確かに皆で作ったものならば渡しやすい。

そこで、コンコン、とノックが鳴る。

 

「エイジだけど入って大丈夫?」

 

全員が一瞬固まる。

 

「ど、どうぞー」

 

かのんが答えると、エイジはいつも通りの様子で入って来た。

 

「エイジさん、いつからそこに?」

 

「え?今さっきだけど」

 

「何か聞きまシタカ!?」

 

恋と可可が詰め寄った。彼は目を丸くしている。

 

「いや、何も……出直そうか?」

 

「大丈夫、大丈夫!」

 

かのんが言った。皆が時間を稼いでくれている間に、千砂都は平静を取り戻す。落ち着け私。

 

「実はちぃちゃんに大事な話があって。着いてきて貰っていい?」

 

「い、いいけど……」

 

全員の視線が千砂都に集まる。期待のような、応援のような視線。

エイジに着いて部室を後にする。まだ視線を感じる。

落ち着いたはずの心拍が、また早く脈打った。勘違いするな、自分。

彼の様子は普段通りに見える。告白とかではないだろう。

さっきまであんな話をしていたせいか、つい意識してしまう。

 

「エイジくん、話って?」

 

千砂都は努めて冷静に聞いた。

 

「正確に言うと、話があるのは俺じゃないんだ。大事な話がある人がいるから、その話を聞いてあげてほしいんだ」

 

ほっとする。期待と不安が入り混じったような感情は霧散した。

 

「OK。それが応援部の依頼?」

 

「そう」

 

連れて来られたのは旧校舎裏。そこでエイジは足を止めた。

 

「新田くん?」

 

千砂都は一瞬困惑した。だが良二の顔をみて確信する。

告白だ、これ。

 

「じゃあ俺は消えるね」

 

エイジは踵を返して行ってしまった。

それだけで千砂都はとても悲しい気分になった。やはりエイジには、自分に対する恋愛感情など、ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局エイジは、去った振りをして、校舎の影から二人を見守っていた。

章にはああ言ったが、正直気になって仕方がない。千砂都は何と答えるだろう。

タタタッと複数の足音が聞こえた。

 

「ちぃちゃん告白されるんだって!?」

 

「章かぁ」

 

かのん達四人が大慌てでやって来た。

恐らく章が報せたのだろう。

 

「止めないのですか?千砂都さんの事、好きなんでしょう?」

 

聞いて来たのは意外にも恋だった。

しかしおかしい。かのんは気付いているとしても、恋には打ち明けていないはずだが。

他の三人を見ると、三人共が首を横に振った。

 

「エイジさんを見ていれば、誰でも察しが付きます」

 

そんなに分かりやすいか、自分。

だとしても止める権利などないだろう。

 

「彼氏でもないのに、告白するな!なんておかしいじゃない」

 

「だったら彼氏になればいいんだよ。今から告白、いけると思うな」

 

かのんが無茶を言う。

しかし決めたのだ。今のLiella!にそんなノイズは持ち込まないと。

 

「エイジくんは自分の事を、自分の気持ちを蔑ろにしてる」

 

かのんが一歩、踏み出して来た。

 

「私も歌えない間、歌が好きって気持ちに蓋して、見ないふりしてきたから分かるよ。何がエイジくんをそうさせるの?」

 

「……そりゃあLiella!の邪魔にはなりたくないからだよ」

 

かのんと目が合う。彼女は軽く頷いた。

 

「嘘じゃないけど、それだけじゃないよね?私だって幼なじみだよ。そういうの、わかっちゃう」

 

「……」

 

進退きわまってしまった。真実を伝える訳にはいかないし、かといって適当な言い逃れは通用しないだろう。

 

その時、良二が脇を走り抜けて行った。一瞬だったが、彼は泣いていた。

 

「あれ、どうしたの?」

 

数秒遅れて千砂都がやって来た

彼女には特段変わった様子は無かった。

 

「なんと返事したのデスカ!?」 

 

「なんだ、みんな知ってたんだ」 

 

食い気味に聞く可可に、千砂都は笑った。

 

「申し訳ないけど、応えられないって。今はラブライブ優勝が一番の目標だから」

 

「そっか……」

 

いいながら、内心で胸をなで下ろした。

そんな資格などないというのに。

 

「それじゃあ帰ろっか」

 

「ちぃちゃん?」

 

皆を先導する千砂都は、かのんの呼び掛けに振り向かずに行ってしまった。少しの違和感を感じる。

 

「エイジくん」

 

かのんに肩をポンと叩かれた。さっきの話の続きだろう。

 

「ごめんね。言えないんだ」

 

その手をそっと取り、戻した。

かのんは心配そうな顔をしている。

誰も自分の事を責めない。きっと何か理由があるはずだと信じてくれている。その事に応えられないのがエイジは辛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

章はかのん達に呼び出され、スクールアイドル部部室へとやって来た。

そこには千砂都を除いた四人が居た。

 

「で?どうだった?」

 

「やっぱり章くんなんだね。エイジくんに告白の案内させたの」

 

もう、とかのんは怒ったように言った。

 

「どうしてそんな事を?」

 

「エイジに発破かける為に決まってるだろ?」

 

恋の質問に当然とばかりに答える。

エイジの危機感を煽る事自体は成功しただろう。

 

「それに告白したいってだけの依頼を断る訳にもいかねえ」

 

「それは、そうデスが……」

 

「そのせいで千砂都とエイジ、微妙な雰囲気になっちゃったじゃない!どうするのよ」

 

「それはマジで悪かった。まさか嵐の方にここまで影響が出るとは……」

 

千砂都は本気でエイジの事が好きらしかった。こんな形でその確証が得られるとは。

 

「じゃあこの状況を狙ってやった訳じゃないんだね?」

 

「まさかだろ」

 

かのんの質問に首を横に振る。

そこまで見越していたなら、エイジに任せなかった。

 

「それでエイジくんは告白しない理由を話せないって言ったんだ。章くん何が心当たりある?」

 

十中八九あれだろうが話す訳にはいかない。ここは白を切る。

 

「……いや、知らないな」

 

「今嘘ついたわよね?」

 

「ついてねえよ?」

 

「じゃあさっきの間はなんなのデスカ!?」

 

すみれと可可が食いついて来た。まさかこの二人に看破されるとは。

はあ〜、と章は大きくため息をついた。

 

「知る知らないで言えば知ってる。言える言えないで言えば言えない」

 

「どうしてったらどうしてよ?」

 

BOARD(ボード)の機密事項なんだよ」

 

「「「「?」」」」

 

四人は顔を見合わせている。そりゃそうもなる。話が繋がらないのだから。

 

「どうしてその機密事項と、エイジさんの行動が関係あると?」

 

「本人から聞いた」

 

「それ、こっそり打ち明けて貰えない?」

 

「そうデス。バレなければ問題ありまセン」

 

かのんのお願いには首を横に振るしかない。

 

「そういう問題なら、とっくに話してると思わないか?エイジの傷でもあるんだよ、これは。アイツが話さんなら俺から言うわけにはいかない。例えお前ら相手でもな」

 

「エイジくんの傷……」

 

四人は考え込んでいるようだった。そしてかのんが口を開いた。

 

「分かった。聞かない。話したくない事なのに、無理強いするのはよくないよね」

 

「では、どうするのです?」

 

「ちぃちゃんの背中を押そう」

 

それがいいだろう。

エイジは今の所動かせそうもない。何とかして千砂都の方からアプローチをかけなければ。

 

「嵐にチョコを作らせて、エイジに渡す。これだな」

 

「その辺りは私達に任せてください。章さんはエイジさんを」

 

「前科者は関与するなって?」

 

「違いマス。単純に乙女かどうかと言う話デス」

 

なるほど。要は女子会か。

それなら自分が触るのは野暮だろう。

 

「嵐は任せたぞ」

 

「言われなくてもそのつもりよ」

 

何か考えがあるのだろうか。すみれは自信満々に答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チョコレート作りは葉月邸で行われる事となった。皆で材料を持ち寄り、生クリームから作る。

 

「トリュフチョコでどうかな?」

 

かのんは提案した。

 

「いいね〜まんまるだし」

 

千砂都はうっとりしながら答える。だがやはり少し空元気にみえた。

 

「千砂都さん、ショックだったのではありませんか?」

 

「……そうだね。分かってたことなんだけど、いざ目の前にするとちょっとね」

 

千砂都は俯きがちに言った。

 

「怒っていいのよ?『なんで告白なんて通したの!?』って」

 

使っているハンドミキサーを角のように見立てて、すみれが言った。

 

「そんな事言ったら、告白してるのと同じだよ」

 

「エイジは鈍感なので、そんな事では気付かないと思いマス」

 

板チョコを刻みながら、可可は確信をもっているようだった。

うーん、と悩む千砂都にかのんは言葉を重ねた。

 

「エイジくんも気になってたから見守ってたんだよ。きっと気が気じゃなかったはずだよ」

 

「そうかな?」

 

「そうだよ。ちぃちゃんが思ってるよりずっと、エイジくんはちぃちゃんのこと意識してると思う」

 

千砂都に自信を持たせてあげたい。流石に、本当はちぃちゃんのことが好きなんだよ、とは言えないが。

 

「分かった、踏み込んでみる。みんなに心配かけてばっかりいられないもんね」

 

「うん。その方がちぃちゃんらしいよ」

 

そうと決まれば、思いの丈を込めて作るのみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、完成だ」

 

家庭科室を貸し切って、章と共にチョコレートケーキを作った。共に、とはいえ殆どは章が、だが。

もちろんLiella!宛だ。

学校が存続できる感謝を伝えたい、とナナミ、ヤエ、ココノのトリオから、というより生徒全体からの依頼だった。

ここ数日の試作のお陰で、納得のいく完成度に仕上がった、と思う。

 

「じゃあ全員呼んで来てくれ」

 

「うん」

 

エイジがスクールアイドル部部室に入ると、居たのは千砂都だけだった。

足首を氷嚢で冷やしている。

 

「ちぃちゃん?それ、どうしたの?」

 

「うん、軽く捻っちゃって」

 

猿も木から落ちる、ではないのだろう。この所の千砂都は様子がおかしかった。得意のダンスで簡単なミスをするくらい。

恐らくは自分のせいだ。心優しい彼女は、告白を断ったことを気に病んでいるのではないだろうか。もしかしたらクラスの雰囲気も悪くなっているのかも知れない。

最初から依頼を断るべきだったのかもしれない。自分が彼女の防波堤になるべきだったのかもしれない。

 

「ねえエイジくん」

 

謝ろうとした時、千砂都のほうが先に口を開いた。

 

「私が告白された時、どう思った?」

 

彼女の目はまっすぐだった。責めも咎めもする気はないのがわかる。ただ聞きたいだけなのだろう。

これに嘘は付けない。

 

「……正直、嫌だった。ちぃちゃんに特定の誰かが出来ちゃうんじゃないかって思うの。気持ち悪いよね、ただの幼なじみなのに」

 

「……そっか」

 

千砂都は噛み砕くようにうんうんと頷いた。

 

「あのねエイジくん、それ、全然気持ち悪くないよ」

 

「え?」

 

「だって、私もエイジくんやのんちゃんに恋人が出来るの、嫌だもん。どこの馬の骨だー!って思っちゃう」

 

「そ、そうなの?」

 

「そうなの!」

 

千砂都の事だから、てっきり祝福するものだとばかり思っていたが、そんな頑固親父のような感情があったとは。

 

「それにね、ただの幼なじみじゃないよ」

 

「?」

 

「大切な幼なじみ。そんな風に思われてたなんて、ちょっとショック」

 

「ごめん!そこは訂正します」

 

平謝り。千砂都の言う通り、今の三人にはLiella!によって結ばれた絆がある。

 

「それでね、みんなとも話し合ったんだけど、これからもしまたLiella!の誰かに告白したいって依頼が出てきたら、申し訳ないけど断る前提でお願い出来る?」

 

「そうだよね。先にそういう事、話し合っておくべきだったよね。ごめん」

 

「ううん。私達こそわがまま言って、嫌な役回り押し付けてごめんね」

 

我儘なものか。既に五人の青春の賭け方は決まっているのだ。それを尊重する為のサポーターだ。

 

「私の言いたかった事はそれくらい。エイジくんは?何か用があったんじゃないの?」

 

「あ、そうだった。みんなに渡したい物があるんだ。本当は呼んで来いって言われてるんだけど、持ってくるよ」

 

今の千砂都の足で歩かせるわけにはいかない。章に頼んで何とか運んで来なければ。

 

「奇遇だね。私達も二人に渡したい物、あるんだ」

 

二人で笑顔を交わし合う。

中身はもう分かりきっているだろう。なにせ今日はバレンタインデーだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

力作だったチョコレートケーキは好評だった上、Liella!からチョコレートを貰えるとは。かなりの役得である。

章としては満足なバレンタインだった。

 

「二人は?」

 

「バイクで帰りまシタ」

 

章の質問に可可が答えた。

 

「こーんなにくっついてたわよ。本当、あれで付き合ってないんだから不思議なものよね」

 

すみれがハグするようなジェスチャーをした。

章も千砂都の足を触診したが、本当に軽い捻挫だった。念の為にエイジに送らせたが、一晩もすればよくなるだろう。

 

「いっそ私達で二人の想いを伝えてしまうのはどうでしょうか?」

 

「大胆だな葉月」

 

「そうよ。正直見ててヤキモキするし。今回みたいに調子くずされても困るわ」

 

恋の提案に、すみれは乗り気だった。

さもありなん。千砂都は特にダンスの全体指揮を取っている。影響は大きい。

 

「可可は反対デス。二人の恋は二人に掴み取ってほしいデス」

 

「俺も反対だ。と言うか、最悪エイジが断る可能性がある」

 

「それはやはり機密絡みで、ですか?」

 

「そうだ」

 

自分は怪物だから恋人になれない、なんかはいかにもエイジが言いそうな台詞である。

賛成、反対、共に二票づつ。視線はかのんに向いた。

 

「……見守ろう、二人を。すれ違いそうになったら止めて、結ばれそうになったら、背中を押そう。二人のペースがきっとあるから」

 

かのんの言葉に、全員が頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイジ達は無事嵐亭に到着した。

主に無事とは、彼の心臓の事を指す。千砂都が自分の背中にくっついている間、心臓がうるさかった。聞こえたりしないかとヒヤヒヤした。

 

「足元気を付けてね」

 

「大丈夫、もう痛くないから」

 

章も大丈夫だ、と言ってくれているので問題は無いだろうが、我慢したりしていないかと少し心配になる。

 

「あ、そうだ」

 

そう言い、彼女はバックの中身をゴソゴソし始めた。

 

「はいこれ」

 

可愛らしいリボンにラッピングされた小箱が差し出された。

 

「ハッピーバレンタイン」

 

「え?もう貰ってるよ?」

 

さっき部室で皆と一緒に、トリュフチョコを頂いたばかりである。

 

「さっきのはみんなから、これは私から君に、だよ」

 

「そんな、二つも貰っていいの?」

 

「私が渡したいんだから、受け取ってよ」

 

「ありがとう……」

 

内心の喜びを必死にひた隠す。人目がなければ踊り出しているだろう。

 

「大切にするね」

 

「いや、ちゃんと食べてよ?」

 

大事に取っておく、という意味が伝わってしまったらしい。彼女は苦笑いした。

 

「お返し何がいい?気の利いたもの、思いつかないからさ」

 

「あのチョコケーキで十分だけどね」

 

「そう言わずに、俺がお返ししたいんだよ」

 

うーん、と千砂都は腕組みして悩んでいるようだった。

 

「お菓子よりは、実用的なものがいいかなぁ。思いついたらメールするのでも良い?」

 

「分かった。金額は気にしないで。なんせBOARDですから」

 

「そんな高い物ねだらないよ……じゃあね」

 

「また明日」

 

彼女が家に入るまでを見送り、浮かれた手でエンジンをかける。

二月。バイクに吹き付ける寒風が、まるで気にならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





G4マイルド

オリジナルライダー。原作は仮面ライダーアギト PROJECT G4のG4。
装着者を死に至らしめる程の負荷を強要するシステムを排し、性能をダウングレードすることで量産化に成功した。
カタログスペックはG3とほぼ同様。だが多目巡航ミサイル「ギガント」など運用出来る装備に違いがある。

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