応援よろしく!   作:冷奴with紅しょうが

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二年生編
ようこそ新入生!


 

 

 

 

 

 

季節は巡り、桜の頃。春休みがやって来た。

今日も今日とて、Liella!は練習に全力だ。エイジ達もそれに応えるように着いていく。基礎的な筋力トレーニングを終え、小休止。

 

「見てくだサイ!フォロワー数がこんなに!」

 

可可(クゥクゥ)はLiella!のSNSの画面を示した。その数は十万を超えている。

 

「記事にもなってたな。次回ラブライブの優勝候補つって」

 

差し出された画面を眺めながら、(あきら)が呟いた。

 

「当然ったら当然よ」

 

「違うよ。これは___

 

自慢げなすみれに、かのんが異を唱えた。

Liella!がここまで名を馳せたのには、二つの理由がある。

一つはベルゼブブ事件の折、ライブ映像が全国区で流された事。さらにもう一つ、こちらのほうが大きい。

今回のラブライブの優勝者、サニーパッションはこんな質問を受けた。一番強かったグループはどこだったか、と。

 

「「Liella!です!」」

 

二人は迷いなくそう答えた。

 

___サニパさん達のお陰だよ」

 

「アリガタきシアワセ!」

 

可可は紅顔を両手で掴むようにして喜んだ。

 

「まあ、あの二人が優勝したわけだから、実質準優勝みたいなものじゃない?」

 

「いいえ。私はまだ大会で何も結果を残していません。実質ではいけないのです」

 

「そうだね。名前だけ一人歩きしてもね」

 

エイジの意見に、(れん)千砂都(ちさと)は首を横に振った。

少し楽観的過ぎたか。確かに今の五人の目標は高いのだ。

 

「私達は今度こそ優勝する。勝って、学校のみんなと喜ぶんだ」

 

かのんは屋上から学校を眺めながら、強く言い切った。

 

「そうだね。じゃあ練習再開しようか。フォーメーションの確認。ちぃちゃんも入って。俺達で見るから」

 

「分かった」

 

こういう役割は千砂都がやるのが常なのだが、最近ではエイジと章が代われるようになって来た。

エイジがカウントをとり、章が注意深く五人を観察する。

矯正箇所を見つけては章が指示を飛ばす。二人がかりでやっと千砂都の代わりが出来るかどうか、という具合だった。

一通り踊り終わった。

 

「どうかな?」

 

かのんが聞く。

 

「うん、いい感じだと思う。強いて言うなら、ちぃちゃん周り気にしすぎかな?」

 

「バレちゃったか」

 

自分も踊りながら、他四人の採点もしていたようだ。流石である。

 

「じゃあもう一回___

 

「はにゃぁ!?」

 

エイジが言いかけた時、扉が開き、何かが落ちたような音が聞こえた。出入り口を振り返る。

誰かが倒れ込んでいた。

 

「は、しまった……」

 

全員の注目が、普通科の制服を着た一人の少女に向けられた。

だが妙だ。エイジは彼女に見覚えが無かった。数が少ないからと言って、生徒全員を覚えているわけではない。

だがLiella!と応援部の活動を通して、ほぼ全員と顔見知りくらいにはなっていた。だがこの少女は記憶にない。

問題は自分の頭のほうだろうか。そう考え始めた時。

 

「もしかして、新入生?」

 

かのんが聞いた。

 

「あの、その、はいっす」

 

少女を除いたこの場の全員が色めき立った。だがふと思う。なぜ新入生が春休みの中、学校に?

 

「後輩!後輩デスよね!?可愛いデス〜!」

 

興奮した可可が中国語で話しかける。

 

「待ちなさいよ!何さきに話しかけてるの!」

 

「まずは生徒会長である私が___

 

「もしかして、スクールアイドル部に入部希望?」

 

すみれ、恋、千砂都が話し掛ける。

 

「すくーるあいどる?」

 

「だって、新入生でしょ?スクールアイドル部は、れっきとした部活だよ」

 

ポカンとしている少女をよそに、千砂都が続けた。

 

「この子が……」

 

かのんが感慨深そうに呟いた。

 

「ありがとうございます……」

 

「え?」

 

「ずっとこの時を待ってたよ……」

 

「え?」

 

恋と千砂都がホロリ呟いた。

 

「一緒に光を追い求めまショウ……」

 

「え?」

 

「素直じゃない子ね……」

 

「え?」

 

可可とすみれもホロリ呟いた。

 

「ようこそ、Liella!へ!」

 

「ち、違うっすよ〜!?」

 

かのんの歓迎の言葉に、少女は叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「道に迷った?」

 

エイジが聞いた

部室に戻り少女、桜小路(さくらこうじ)きな子の話を聞くと、どうやら入部希望ではないらしい。

 

「ごめんね、勝手に勘違いして」

 

「いえ……」

 

千砂都が謝る。きな子はうなだれたまま答えた。

 

「もしかして、東京初めて?」

 

かのんの質問に、きな子はビクッ、と顔を上げた。

 

「そんなわけねえっす!東京は庭、庭っすよ!何度も検索したし。あ〜、ヒルズ族っすよね、ヒルズ族、ヒルズ族……」

 

知識が古い。なんだかとても心配になってきた。

 

「これは送ってあげたほうが良さそうだね」

 

「私行くよ」

 

千砂都の提案に、かのんが名乗りを上げた。

 

「俺も行くよ。こういうのは応援部の仕事でしょ」

 

「おうえんぶ?」

 

エイジの言葉を、きな子はなんだろうとばかりに繰り返した。

 

「学校生活応援部。生徒の困り事を解決する部活だよ。それじゃあ早速、住所分かる?」

 

「……はいっす」

 

 

 

 

 

 

 

エイジはかのん、きな子と共に正面玄関から続く桜並木を歩く。

 

「どこから来たの?」

 

「北海道っす。周りに何もないような場所で、今も雪でいっぱいだと思います」

 

かのんの質問に、答えるきな子。

彼女は北海道出身だった。春先の雪景色はエイジには想像しにくかった。

 

「呼び方はきな子ちゃん、でいい?」

 

「はい。桜小路きな子っす。都会に憧れてやってきました」

 

エイジの確認にもハキハキと答える。

どうやら先ほどは先輩達に圧倒されていただけらしい。

 

「私はかのん。澁谷(しぶや)かのんっていいます」

 

「俺は木野(きの)エイジ。宜しくね」

 

「はい。かのん先輩、エイジ先輩」

 

その時、エイジに電流が走った。そうか、自分は先輩になったのか。

 

「そっか〜私達、先輩かぁ〜」

 

「はい!先輩っす!」

 

かのんは身体をクネクネさせて悶えている。

 

「ねえ、もう一回呼んでくれない?」

 

「?はい、かのん先輩!」

 

「う〜、なんかむず痒いけど、いいよねその響き〜!」

 

きな子からの先輩呼びに、かのんはご満悦だった。

いいなぁ。

 

「俺も!俺も呼んでくれない?」

 

「エイジ先輩!」

 

「くうぅ〜!」

 

五臓六腑に染み渡る。これが合法ってマジ?

 

「それじゃあ行こう!先輩の家も案内しちゃうぞー!」

 

「荷物は俺が持つよ。なんせ先輩、だからね」

 

きな子から黄色のキャリーケースを受け取り、ドンドンと進んで行くかのんの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました」

 

「おお、これが東京。なんとハイカラな……」

 

注文の品が運ばれてきた。

かのんの家は喫茶店だ。きな子も歩きづめで疲れているだろうし、目的地に行く前にここで休憩していく。

 

「ありがとうありあちゃん」

 

「エイジ君、久しぶりだね。千砂都さんとは上手くやれてる?」

 

「うん。仲良しだよ」

 

「うーん。駄目そう」

 

「え、何が?」

 

そういうところが、と言われた。

かのんの妹、ありあが給仕を担当してくれていた。だがエイジは何を指摘されたのかよくわからない。

 

「こちら、新入生の方?」

 

「俺達」

「私達」

 

「「先輩、だから……」」

 

「はあ」

 

ありあからの質問に、かのんと二人で答えた。彼女は何のこっちゃという表情だった。

 

「美味しいっす!……なにからなにまで、ありがとうございます」

 

「いいえ〜」

 

お礼を言うきな子に、かのんは何でもないと言うように言った。流石だ。既に先輩風を吹かせている。

 

「ところで、さっきのすくーるなんとかって……」

 

「スクールアイドル。すっごく楽しくてやり甲斐あるよ。エイジくん達もサポートしてくれるし。って言っても私も始めてまだ一年しか経ってないけど」

 

少しの苦笑いを挟んで、かのんは明るい、確信のある表情になった。

 

「でも、私はスクールアイドルと出会って、人生が変わった。頑張ろうって、前向きな気持ちになれたの」

 

「かのんちゃん……」

 

1年前。歌えずに絶望していた彼女が、ここまで変われた、あるいは本来の自分を取り戻せたのは、間違いなくスクールアイドルがきっかけだろう。それを通して得た出会いと経験が、かのんをここまで成長させた。

 

「あの、サポートと言うのは?」

 

きな子の質問は、今度はエイジに向いた。

 

「学校生活応援部。さっきも話したけど、生徒の色んな依頼に応える部活だよ。スクールアイドル部の、Liella!の応援もその一環なんだ。きな子ちゃんも、困ったことがあれば何でも言ってよ。何時でも何でもとはいかないけど、出来る限り応えるから」

 

「エイジくん達はBOARD(ボード)隊員でもあるから、忙しいんだ」

 

BOARD。日夜怪人と戦い、人々を守る人類基盤保全組織。

 

「BOARDも!?凄いっす!」

 

「まだ訓練生だけどね」

 

ジロリ、とかのんの視線を感じるが、自分がBOARDの正隊員、仮面ライダーオーズであることは基本的には秘密なのだ。

既にLiella!の全員にはバレているが。

 

「お二人は、その、特別な、関係なんすか?」

 

視線で会話しているのが珍しかったのだろう。きな子は目を泳がせながらそんな事を言った。

 

「「違うよ」」

 

「ほへ?」

 

「私とエイジくんとちぃちゃん、髪をお団子にしてた子ね。私達三人、幼なじみなんだ」

 

「は〜なるほどッス」

 

きな子は納得いったようにうんうん、と頷いた。

 

「もちろん依頼だけじゃなくて、入部も大歓迎だよ」

 

「あ、エイジくんずるい、私も勧誘しようと思ってたのに」

 

「ごめんごめん」

 

「スクールアイドル部はいつも屋上で練習してるから、興味があったら来てみてね」

 

「はいっす」

 

その後、食べ終えたきな子を、かのんと共に新居へと無事送り届けることが出来た。

エイジの直感として、きな子の興味は応援部よりスクールアイドルにありそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。エイジはLiella!のリモート会議に参加した。

 

『無事お家まで送れましたか?』

 

『うん。結構近くだったから』

 

恋の心配にかのんが答えた。

 

「俺の感想だけど、スクールアイドルに興味持ってくれたみたいだよ」

 

『じゃあ六人目のLiella!の誕生?』

 

『まだ気が早いよ』

 

千砂都の言葉にかのんが笑った。

 

『でも不思議な感じ。私はこの五人で優勝を目指すんだと思ってたから』

 

かのんはそんな感想を述べた。

 

『正直俺は反対だけどな。ゼロからお前らのレベルまで叩き上げるのは骨が折れる』

 

『その為のサポーターではないデスか。それに新しい人が入れば、新しい発見を得られマス。可可達もレベルアップできるはずデス』

 

『そうよ。章は本当すぐ悪ぶるんだから』

 

『悪ぶるとかじゃねえよ。現実的に優勝を考えるなら、って話だ』

 

章の意見に可可とすみれが反論した。だが確かに彼の言う事も一理ある。

 

『私も、大会直後はこの五人で優勝を目指すのだとばかり』

 

恋もかのんと似たような事を言った。

 

『じゃあ三人は入って来て欲しくないの?新入生』

 

千砂都が聞いた。

 

『私、きな子ちゃんと話してる内に思ったんだ。新入生と一緒に頑張りたいって』

 

『ええ。そうやって一つの紐と紐とが繋がって結ばれていく。それが母の願いでもありましたから』

 

大方の結論は出ただろう。

 

「章もそれでいいよね?」

 

『Liella!のことはLiella!で決めるべきだろ。俺らの意見は参考程度だ』

 

「だってさ」

 

章もなんだかんだ言いながら、新入生が入ってくれば甲斐甲斐しく世話を焼くはずだ。

 

『じゃあ明日から、新しい仲間を見つけられるよう、改めて頑張っていこう!』

 

『『『『『「おー!」』』』』』

 

かのんの号令に、章を除く全員が息を合わせた。彼はやれやれと言わんばかりの顔をしている。お前も乗れよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春休みが終わり、入学式当日。

エイジは可可、すみれと共に正門の飾り付けをする。といっても、ほとんどは可可のお手製だが。

 

「よくもまあ、こんなバカデカいもの作ったわね」

 

「他校に負けてないとアピールする為デス」

 

すみれの呆れだが感心だがつかない発言に、脚立の上から可可が言った。

 

「流石だよね。一年経ってもここは真似できないや」

 

「真似しなくていいわよ別に」

 

「あの……」

 

すみれと話していると、新入生の女生徒に声をかけられた。それも一人ではない。三人いる。

 

「Liella!のすみれ先輩ですよね。サイン貰えませんか?」

 

「え!?」

 

頬を紅潮させながら色紙を差し出す女生徒。

すみれは照れながら当惑していた。

 

「良かったじゃない!ほらサイン。早く早く!」

 

「わ、分かってるわよ」

 

すみれはすぐに切り替え、たまに見せる営業スマイルを貼り付けた。

見れば脚立から降りてきた可可も新入生に囲まれている。

エイジは邪魔にならないよう、そっと脚立を抱えてその場を後にした。

 

他に手が必要なところは無いだろうかと見回りをしていると人だかりを見つけた。

その中心を注視すると、恋と千砂都がこれまた新入生に囲まれているようだった。

勧誘の手伝いを考えていたが、どうやら必要なさそうである。この分ならスクールアイドル部には、わんさか新入部員が集まるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学式も終わり、新しいクラス分けが発表された。

スクールアイドル部の四人と応援部の二人は同じクラスになった。

 

「素晴らしい席順デスこと〜!」

 

可可はかのん後ろになれてご満悦だった。

 

「席順くらいで、呑気ねぇ」

 

そう言うすみれは千砂都の右隣。そしてその左隣がエイジの席だった。素直に嬉しいが、可可のように喜びを露わにして不審がられても困る。ここは努めて冷静に。

 

「よろしくね、ちぃちゃん」

 

「うん。エイジくんと隣の席なんて、小学校以来だね」

 

「そうだっけ?」

 

「そうだよ。小学校低学年の頃、よく私のまんまるお絵かきに付き合ってくれてたじゃない」

 

エイジはまるで思い出せないが、千砂都が言うならそうなんだろう。

ちなみに章の席はすみれの前だ。

 

「変なちょっかいかけるんじゃねえぞ」

 

「やらないわよ、子どもじゃないんだから」

 

「未成年はまだ子どもだろ」

 

既に章とすみれの間で、火花が散りそうになっていた。もっとも、これもいつもの光景といえばそうである。

退屈しない二年目になりそうだ。

 

ふと教室の外を見ると、恋が手招きしている。六人全員を呼んでいるらしかった。

 

「今年は普通科のクラスも増えたので、音楽科の設備を普通科にも開放することにしました」

 

スクールアイドル部部室で、恋はそう言った。

 

「新しい部活も増えるんでしょ?」

 

「ええ。多様な活動を行って頂けたら、と。とはいえ、他の高校に比べたらまだまだこれから。みんな部員集めには苦労しているようです」

 

千砂都の質問に、恋が答えた。

生徒会長視点からの情報共有は有難い。と、いっている場合では無かった。自分達も部員集めをしなくては。

 

「一応聞くけど、部員集め手伝ったほうがいい?」

 

「私達は大丈夫。心配しないで」

 

エイジの疑問にかのんが答えた。

そりゃあれだけ新入生に囲まれていたら心配いらないだろう。

 

「行こう章」

 

「……そんな簡単にいくもんかね」

 

「章?」

 

「何でもねぇ。今行く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイジと章は新入生勧誘を終え、スクールアイドル部の様子を見に部室へと戻ってきた。

 

「ただいま。どうだっ……あれ?」

 

五人の雰囲気は沈んでいる。新入生と覚しき人物は一人も居ない。

 

「どうしたの?」

 

「それが新入生、誰も来なくて」

 

「今朝あんなに囲まれてたのに?」

 

「うん、おかしいよね」

 

エイジの質問にかのんが俯きかげんに答えた。

 

「やはりすみれのせいデス」

 

「どうしてそうなる」

 

可可とすみれの漫才もいまいちキレがない。

 

「他の部はそれなりに集まっているらしいのですが、何故でしょう?」

 

恋は首をかしげている。

エイジはてっきり、新入部員が殺到し過ぎて困るくらいをイメージして、早めに戻ってきたのだが、その真逆をいく結果だった。

 

「二人はどうだった?」

 

「うん。おかげさまで。一人だけだけど入ってくれたよ、新入生」

 

千砂都は人助けしようって子もいるんだね、と笑った。

その新入部員を紹介しようと連れてきたのだが、一向に入ってくる気配がない。

 

「おーい。入っておいでよ」

 

エイジの呼び掛けに反応はない。章が部屋の外に出て行った。引っ張り出すつもりだろう。

あ、いや、まだ心の準備が、と声が聞こえてくる。

章に背中を押されながら、ようやく姿を現してくれた。

 

「紹介するね。こちら応援部新入部員、申川一実(さるかわかずみ)くんです」

 

入ってきた一実は両手を口にあてオロオロしている。

 

「生Liella!だぁ〜!」

 

安定しない音程で、彼は叫ぶように言った。

 

「ほら一実くん、これからサポーターもやって行くんだから、よろしくしないと」

 

「そ、そうなんですけど、感動で、喉が閉まっちゃって!」

 

これは一実からは無理そうだった。

かのんに目配せすると、彼女はスッと立ち上がり此方へ来てくれた。

 

「Liella!の澁谷かのんです。宜しくね、一実くん」

 

「か、かのんたん!?」

 

「「「「「「「かのんたん?」」」」」」」

 

一実は差し出された右手を、震えるばかりで取れないようだった。

はわぁ、と声を上げて倒れた。

全員が駆け寄った。章が状態を確認する。

 

「気絶してるだけだな」

 

バッチリ白目を剥いている。

Liella!の大ファン、申川一実が入部したのは十分ほど前のことだった。

 

応援部部室で居れば、新入生の方から訪ねて来てくれる。これはいいのだが、その意識にエイジは困っていた。

今まで来た新入生はその全員がこう言うのだ。

 

「この部に入れば、Liella!のサポーターになれるんですよね」

 

こんな具合で、学校生活応援部の本質である、日々の雑用や人助けが全く浸透していなかったのだ。

確かに言う通り、サポーターにはなれるけれど、応援部はこれこれこういうものだよ、と説明すると全ての来訪者は踵を返してしまった。

 

「Liella!の名前が売れ過ぎたな」

 

「そうだね。この分だと今年も二人かも」

 

一実が訪ねて来たのは、章とそんな話している時だった。

 

「失礼します。こちらのに入部するとLiella!のサポーターになれると聞いたのですが……」

 

またである。エイジはほぼ諦めていた。

 

「うん。なれることにはなれるけど、それだけじゃないんだ。先生からの雑用とか、生徒からの色んな依頼をこなさないといけないんだよ」

 

「そうなんですか!?てっきりサポーター専門かと……」

 

へえ〜、と一実は頭を掻いた。

 

「サポートなら無理に入部しなくても出来るだろう。ボランティア精神?みてーなもんがねぇならやめといたほうが___

 

「いえ、やります!」

 

章の言葉を遮り、彼は言い切った。

 

「Liella!を一番近くで応援出来るなら自分、何でもやります!」

 

一実の目は真剣だった。

こうして彼は学校生活応援部の新入部員として迎えられた。

 

その真剣な眼差しは、今や真っ白だった。

まさか握手だけで倒れるとは。

 

「おーい。一実くーん」

 

エイジが両肩を揺さぶると、は、っと目を覚ました。

 

「エイジ先輩。いい夢でしたよ。かのんたんともう少しで握手を___

 

「うん。夢じゃないよ、それ」

 

「へ?」

 

一実の上体を助け起こす。

 

「Liella!がこんな至近距離にいぃーー!!」

 

しまった。五人が覗き込んでいるのだった。

一実は仰天し、再び気を失ってしまった。

芸能人を前にして失神するというのは聞いたことがあるが、まさか目の前で見ることになるとは。

 

「どうするのよ、これ」

 

「保健室に運んだほうが良いのではないですか?」

 

すみれと恋が言った。

どうなのだろう。すぐ目を覚ましたので、重体ではないだろうが。

 

「大丈夫だろ。こいつもBOARDだ。身体は頑丈なはずだぜ」

 

「そういう問題でショウカ?」

 

章の台詞に可可が突っ込んだ。

どちらにせよ、Liella!とは距離を取ったほうがいいだろう。物理的に。

 

「……って、え?一実くんもBOARDなの?」

 

「うん。俺達もさっき知ったんだけどね。なんでも高校進学で上京してきたみたい」

 

かのんの疑問にエイジが答えた。

入部前、「BOARDやってても入っていいですか?」と聞いてきたのだ。

BOARD側からは何の連絡もないので驚いた。

 

「は!?ここは一体……」

 

「おう、起きたか」

 

「章先輩。いい夢見ましたよ。Liella!のみなさんが___

 

「だから夢じゃねえって」

 

今度は充分距離を保って、部室の隅と隅である。

かのん達は軽く手を振っている。

あ、と言い一実はなんとか立ち上がった。

 

「そうでした!挨拶の途中で。初めまして!自分は申川一実と言います!カズくんでもカズミンでもクソでも、好きなように呼んでください!こき使ってください!」

 

「クソはダメだよ……」

 

一実の挨拶にエイジは突っ込んだ。

アイドル的にもコンプライアンス的にも良ろしくない。

 

「早速だけど一実くん、聞きたいことがあるんだ」

 

「はい!千砂都たんの質問なら何でも答えます!」

 

千砂都たん。エイジは心の中で反すうした。

愛らしい響きである。今度使ってみようか。

 

「スクールアイドル部に新入生が来ないんだ。何か心当たりない?変な噂な流れてる、とか」

 

「ああ。それはもちろん、みんな敬遠してるんですよ。いや、悪い意味じゃなくて」

 

Liella!が敬遠されている?どういう事だろう。

 

「だって、みなさんレベルが高いでしょう?東京大会二位、次回の大会の優勝候補。この学校のスター。練習について行けないだろう、って声、結構聞きますよ」

 

さも当然、という風に一実は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実際の一年生声を受け、二年生組は考える。

練習終わり。かのんが身体を屋上の床へと投げ出した。

それを見たLiella!の四人が同じように寝そべっていく。五人は大きな輪になった。

 

「レベルが高そう、かぁ」

 

かのんがポツリ呟いた。

 

「とはいえ、練習キツくないです、と勧誘するのも……」

 

「優勝、目指してるんだもんね」

 

恋と千砂都が言った。

実際、練習はかなりハードだと思う。質は千砂都や恋が引き上げているし、その上で量もかなりのものだ。

練習キツくない、は明らかな嘘になってしまうだろう。

因みに、一実は部室で休ませてある。Liella!への接触に慣れさなければならないので、一旦フェードアウトだ。

 

「デスが、それでは新入部員は……」

 

可可の呟きはもっともだった。

このままでは新入生は一人も入ってこない事になる。

エイジは五人の視線を追うように、空を見上げた。春の空は晴れ渡っており、夕暮れが綺麗だ。

そこでふと思い出す。

 

「そう言えば、章は気付いてる風だったよね」

 

「……まあ、可能性としてはあるだろうなくらいに考えてた」

 

「どうして言わないのよ」

 

章の返答に、すみれが聞いた。

 

「お前らが凄いから、新入生部員は来ねえよって?それ言われて信じてたか?」

 

確かに。五人の返答はだいたい想像できる。そこまでではないよ、とか、結果は出していない、とか。

 

「いっそのこと、章くんが言うように五人で頑張る?」

 

千砂都が言った。

 

「新入部員を諦める、と言う事ですか?」

 

「寂しいけど、章くんの言う事も一理あるし……」

 

恋の質問に、千砂都は控えめに答えた。

ここに来て、章の意見が現実味を帯びてきた。

だがすみれが言う。

 

「でもそれって、自己満足になっちゃうんじゃないの?私、スクールアイドルはそういうんじゃ無いって聞いてたけど」

 

結ヶ丘の代表、スター。けれどまだ何も成し遂げていない。その道を、新しい仲間と、一年生と共に歩いて行けたら、どれ程良いだろうか。

エイジは誰もこない、屋上の扉、その先を見つめた。

 

 

 

 

 

その週末。屋上で今度のライブのリハーサルをやる事に。

機材や飾り付け等の準備をする。

 

「俺、こういう事がやりたかったんです!」

 

一実も生き生きしている。

以前までは二人だったが、一人増えるとやはりマンパワーが違う。

文字通り、舞台は整った。

 

「一実くん、五人を呼んで来てみる?」

 

「え、いいんですか!」

 

「うん。衣装姿を最初に拝めるよ」

 

行ってきまーす!とウキウキで出て言った。

数十秒後、新しい衣装かわよー!と叫びと共に何かが倒れる音。

やはりまだ早かったか。

更に数秒後、衣装に着替えた五人が屋上へと入ってきた。

 

「いいんですか?置いてきましたけど」

 

「問題ねえ。どうせすぐ目を覚ますさ」

 

恋の質問に、章がさらりと返した。

一実の卒倒癖にもなれてきた。本人も構わなくていいと言っていたので、寝かせておく。

 

「来てくれるかな。きな子ちゃん」

 

「うん。きっとね」

 

エイジの呟きにかのんが頷いた。

そもここまでのリハーサルにしたのは、かのんがきな子を誘ったからだ。言葉では伝えられないのなら、生のライブを見て貰おうと。

 

「可可達はスクールアイドルなのデスから、想いはライブで伝えまショウ!」

 

「悪くないんじゃない?」

 

「私達なりの勧誘だね」

 

可可の決意に、すみれと千砂都が答えた。

これがスクールアイドル部流、Liella!流だ。エイジも賛成である。

 

そこで怪人警報が鳴り響く。自分たちの出番だ。

 

「ごめん!後よろしくね!」

 

「申川は無理に起こさなくていいからな!」

 

章と共に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は怪人災害である。オーズとバースが到着する前に、既に何人かの隊員がやられたようだった。

 

『ウォートホッグファンガイアとファントム、ミノタウロスが標的です。この内ファンガイアは推定メ級以上に分類されました。さらにグールも複数体確認されています。隊員の保護を最優先に動いてください』

 

「「了解!」」

 

推定メ級以上。つまりはゴ級の可能性もあるのか。その上隊員の救出。二人では手に余るかもしれない。コンボを切るなら早めがいいだろう。

そして現場は廃工場のような場所だった。

黒影トルーパー三人とライドプレイヤー三人、計六人が追い詰められている。

バースバスターの射撃で気を逸らす。その隙に隊員達と怪人との間に割り込み、トラクローで引き裂く。

 

「逃げてください!」

 

六人を守りながら、雑魚怪人、グールの群れを捌いていく。

巨大な角を生やした怪人、ミノタウロスがその角で突進して来る。状況的に避けられない。両腕で受け止めるが、押し切られてしまう。そのまま壁を突き破り、投げ出される。

その上にバースが落ちてきた。ウォートホッグファンガイアの攻撃だろう。

 

「思ったより強え。守りながらは無理だ。オーズ、コンボを___

 

その時、一台のバイクがライダーと怪人の間に割って入った。

 

「一実くん!?」

 

申川一実である。彼はバイクから降りると、怪人達に立ち塞がった。

 

「先輩。ここは俺に任せてくださいよ」

 

『スクラッシュドライバー!』

 

彼は懐からゼリー飲料のような物を取り出し、ドライバーに装填、左手を指鉄砲のようにし、敵へと向けた。

 

『ロボットゼリー!』

 

「変身!」

 

レバーを引くと同時に、挑発するように向けた指を自らへ振るう。

一実を囲うように巨大なビーカーが出現。その中を黒いゼリー状の液体が満たしていく。彼は見えなくなった。

 

『潰れる、流れる、溢れ出る!ロボットイングリス!ブラァ!』

 

金色に半透明な黒いアーマーの戦士が立っていた。

 

「仮面ライダーグリス。心火(しんか)を燃やして、ぶっ潰す!」

 

 

◀挿入歌 Welcome to 僕らの世界▶

 

 

 

グリスは叫び、ミノタウロスへと殴りかかった。敵が攻撃で屈んだところへ、膝蹴りを見舞い、角の片方をへし折った。

更にウォートホッグファンガイアへ飛び掛かった。今の所、互角に渡り合っているようだ。

 

「すごい……」

 

「オーズ!今の内に!」

 

「うん!さあこっちです!」

 

隊員達をグールの群れから引き剥がし、誘導する。取り敢えずの避難は完了した。

後は掃討するだけだ。

グール達はバースに任せて、オーズはミノタウロスの相手をする。

敵は大斧を振り回してくる。メダジャリバーで対抗する。タカアイで動きを見切り、斧を避けて、振るった後の隙に突きを繰り出した。クリーンヒット。更に踏み込んで切り上げた。

敵はよろめき、斧を地面に突いた。仕上げだ。

 

『スキャニングチャージ!』

 

「せいやー!」

 

大きく跳び上がり、赤、黄、緑の三色の輪を抜け放つ両足蹴り、タトバキック。ミノタウロスは爆散した。

後はグリスの援護に行かなくては。

 

 

 

 

 

グリスは押されていた。ウォートホッグファンガイアの猛攻の前に手も足も出ない。 

確かに強敵だ。だがこんなものでは満たされない。あの人の戦闘への熱狂は、まだまだ満たされない。

怪人のパンチを受け止めた。

 

「こんなもんかよ?」

 

押し返す。更にお礼とばかりに殴り返した。殴り、殴り、蹴り、ドロップキック。出来た間合いで武器を左腕に装着する。

 

『ツインブレイカー!』

 

ツインブレイカー。打撃で敵を貫くアタックモードと砲撃で敵を撃ち抜くビームモードの二形態を持つ手甲型の武装。

ビームモードで射撃しながら一気に間合いを詰める。右腕でのボディーブローを打ち込む。

 

「高揚!」

 

ツインブレイカーをビームモードのまま叩き付け、ゼロ距離射撃。

 

「動乱!」

 

右アッパーで敵を打ち上げた。

 

「熱狂!誰が俺を満たしてくれるんだよぉぉ!!」

 

スクラッシュドライバーのレバーをもう一度引く。トドメだ。

 

『スクラップフィニッシュ!』

 

マシンパックショルダーの噴出孔が背中を向き、勢いよくヴァリアブルゼリーを噴射した。その慣性に従い跳び蹴りを放つ。必殺技スクラップフィニッシュ。

グリスの右脚がウォートホッグファンガイアを貫いた。敵は爆散した。

 

「グリス!」

 

オーズが駆け寄ってきた。状況は終了しているので二人して変身を解除した。

 

「強いね一実くん!」

 

「いやいや、そんな事ないですよ」

 

「単独で推定メ級撃破は誇っていいだろ」

 

そこに章もやって来た。

 

「て言うか、エイジさんこそあのオーズなんですね」

 

「あはは、そんな大層なものじゃないよ。とにかくお疲れ様」

 

なぜかエイジは、あまりその事には触れて欲しくなさそうだった。なので一実もこれ以上は何も言わなかった。

 

「部活にBOARDに忙しいと思うけど、どう?やっていけそう?」

 

「はい!何度でも言います。Liella!を応援できるなら、何でもやります」

 

エイジと章は顔を見合わせ頷きあった。

 

「改めてようこそ!学校生活応援部へ!」

 

BOARDと部活と、そしてLiella!。その全てがある新しい生活が今始まるのだ。一実は自身の胸が高鳴るのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイジ達は学校へ帰ってきた。リハーサルの片付けを行う為だ。そこにはLiella!と一緒になって奔走するきな子の姿があった。

 

「きな子ちゃん、もしかして入ってくれるの!?」

 

「はいっす。よろしくお願いします、エイジ先輩、章先輩」

 

きな子ははにかんだ。

 

「申川くんもよろしくお願いするっす」

 

「カズミンでいいですよ。俺もきな子たんと呼ぶので」

 

「き、きな子たん?」

 

カズミンの独特な呼び方にきな子は困惑しているようだった。

それにしても。

 

「一実くん、倒れないね」

 

「さっきまでクラスメイトだったというフィルターのおかげですね。そうじゃなきゃヤバかった……」

 

何はともあれ、六人目のLiella!の誕生である。めでたい。

これが結ばれていく紐と紐、その一つなのだろう。

エイジは屋上から、正門まで続く桜の木々を見渡した。花が少しづつ散っていくように、エイジの周囲もまた変わろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





怪人の組み分け
下からズ、メ、ゴ級と分類される。基本的にはその怪人の強さを示す尺度となる。
ズ級……適合者のライダーが一人居れば大丈夫。
メ級……適合者のライダーが二人居れば安心。
ゴ級……適合者のライダー三人でも不安。
くらいの程度。
また戦闘能力は低くとも特殊な能力を備えていればゴ級に分類されることもある。

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