スクールアイドル部部室。今日も九人は集まっていた。
「招待されたの?代々木のフェス」
「はい」
エイジの問いに、
代々木スクールアイドルフェスティバル。クーカーが一位を目指したあの大会から、もう一年が経つのか。
「去年はあそこで歌ったのよね」
「歌ったのは
懐かしむすみれを可可が睨んだ。
「しかも今回は、一番最後をお願いしたいと」
「大トリか。特別待遇って感じだな。サニーパッションは?」
恋の言葉に、
「今回は出演されまセン。学園祭ライブに向けて、全力を尽くすそうデスから!」
可可は懐から神津島行きのチケットを取り出した。見に行く準備は万端らしい。
「最後、トリ、つまり私達が主役!」
「うるさいデス」
「あんただって同じようなもんでしょ!?」
二人の漫才は今日も冴えていた。
「あの〜、そのサニーサイドとか言うのは___
「サニーパッションデス!」
「サニーパッションです!」
サニパについて聞いたきな子に、可可と
「去年のラブライブを優勝した、今最も注目されているグループです!」
「その通りデス!そして当然、今年の最有力優勝候補でもありマス!」
「ひえ〜、そんなお方とはつゆ知らず〜」
「後で動画送りマス」
「ありがとうございます」
可可達の熱弁に、きな子は終始圧倒されていた。
「いいのかな、私達で」
「トリって事は優勝候補ってことだよね」
かのんの呟きに
「代々木フェスは、ラブライブとは関係ないんじゃ……?」
「直接はね。でも去年、そこで一位を取れって言われて大変だったでしょ?」
かのんの疑問に千砂都は冷静に答えた。
理事長の難題には苦労させられた。結局はただの発破だった訳だが。
「どうなったんすか?」
「新人特別賞だったよ」
「ほえ〜」
きな子の質問にエイジが答えた。
今にして思えば、あれも奇跡ような結果である。
「そう考えると私達、実はまだ一度も勝ってないんだよね」
かのんのその一言で部室は静まり返った。
「だからこそ、ここでビシッと勝利を決めるのデス!」
「そうそう。ギャラクシーな優勝候補だと知らしめてやるのよ!」
可可とすみれは前向きだった。
「そうですね。息の合ったお二人のいう通りです」
恋は手を合わせながらそう言った。
言われた二人は視線を合わせると。
「「フン!」」
互いにそっぽを向いた。
帰り道、章は
『珍しいじゃん、そっちから掛けてくるなんて』
「敵情視察だ」
『なるほど。サニパのことが知りたいわけだ』
錬はサニーパッションと同じ高校で、Liella!と応援部の事情を大体把握していた。
なので二人の共通の話題と言えばBOARDかスクールアイドルに落ち着くのだ。
『別に隠すような事じゃないから言うけど、あいつらが狙うのはもちろん連覇だ』
「簡単に言ってくれる」
ラブライブ連覇。口で言うほど簡単な目標ではない、高い高い壁だ。
『知ってるか?ラブライブも結構な歴史になるけど、その中で連覇を成し遂げたグループは一つもないんだぜ』
「そうなのか?」
てっきりそういうレジェンドグループがあったりするものかと思っていたが。そうか、無いのか。
『ああ。だからこそだ。それが達成されれば、サニパの名前はラブライブの歴史に深く刻まれるだろうな。学校と島の名前も』
「……島を盛り上げたいっつってたもんな」
『ああ、だから悪いが、Liella!さんにはまた負けて貰うぜ』
章はフッと笑った。
「そう簡単にいくと思うなよ?」
応援部の三人は、Liella!の練習に合流しようとしていた。
「大分良くなってきたよね」
「桜小路か?」
「そうそう」
「まあ、あの頃の可可と比べると、だな」
中々辛辣な章であった。
「本当なんですね。可可たんが運動苦手だったなんて」
「苦手どころか運動神経ゼロだったぞ」
信じられません、と一実。
確かに今の彼女の姿からは想像出来ないだろう。
そこでふと、一実が閃いたように何かを察知した。そして来たるその何かから距離を取った。
現れたのは。
「ちぃちゃん。ああ、なるほど」
「?何がなるほどなの?」
ソーシャルディスタンス。一実と千砂都の間には絶妙な距離があった。具体的に言うと彼が気絶しないくらいの距離だ。
「ふ、どうですか。俺も成長したでしょ?」
「出来れば近づく方向で成長して欲しいな……」
自慢げな一実に、エイジは苦笑いした。
四人で、間隔があるので三人と一人といった具合で階段を登る。
「やや?」
千砂都が両手で眼鏡のようにマルを作り、覗きこんだ。
「どうしたの?」
「紙袋がおいてあるよ」
彼女の肩口から見てみると、確かに何かが置かれている。
中を確認するとペットボトルに入ったジュースだった。それとメッセージカード
『Dear Liella!様 応援しています。頑張れLiella!様』
と書かれている。可愛らしい猫の絵も付いている。
屋上には既に、かのんときな子が居たので聞いてみた。
「今さっき来たら、部室の前に置いてあってさ。二人は知ってる?」
「いや、私達が来た時には無かったよ」
エイジが問うと、かのんはメッセージカードをしげしげと見つめながら答えた。
その間にそろりそろりと、一実は屋上の端まで逃げていく。
「きっと一年生っす!」
「待て待て。一応検品してからな」
紙袋の中身を触ろうとしたきな子に、章が言った。
確かに二年生とは関係が出来上がっているので、可能性としては薄いだろう。しかし章の言う検品とは?
「何って、イタズラかもしれんだろ。中に何か入れられてたりな」
「えー。疑い過ぎじゃない?」
「お前は少しは疑え。だったら何で直接渡さないんだよ」
エイジにこのお人好しが!みたいな視線を投げた後、章はペットボトルを逆さまにしたり、キャップの辺りを注視したりした。
「一実くんみたいなタイプとか」
「どうだかな。人気になるのは良いことばかりじゃないだろ。やっかみ、そねみ、ねたみ。後は行き過ぎたファンとかか。一応プレゼントの類は気を付けろよ」
かのんの可能性の示唆に、章は淡々と答えた。
検査を終えたのか、まあ大丈夫だろ、と彼はペットボトルを紙袋に戻した。
「でもこれだとお礼が出来ないね」
「何とか特定できないかなぁ」
かのんの言葉に、エイジは頭を悩ませた。
バタバタバタ!と階段を駈け上がる音。可可とすみれが飛び込んで来た。二人は息を切らせている。
「すみれが、競争しようなんて言うカラ」
「あんたがムキになるからでしょ!」
「はいはい。危ないからもうやっちゃダメだよ?」
エイジは注意を促した。
はい、と二人に千砂都がジュースを差し出す
「な、なんデス?」
「心して飲んでよね。後輩の想いがこもったジュースなんだから」
千砂都に言われ、可可達は感謝を述べながら受け取り、飲んだ。
「?」
「どうかしたんすか?」
「いや、何でもないよ」
視線を感じたような気がして、辺りを見回すが、当然誰も居ない。そりゃそうだここは屋上なのだから。
帰り道。公園できな子のステップを確認する事になった。
千砂都がカウントを取り、かのんが見守り、エイジが撮影だ。
「うん!基礎はバッチリ!よくここまで頑張ったね」
「ありがとうございます〜!」
千砂都の言葉に、きな子は泣いて喜んだ。
撮り貯めたきな子の映像は、Liella!の新メンバー成長記録として、のちのちアップする予定である。
「ただし、今日はもうちゃんと休む事。怪我しないのも練習の内だよ」
「はいっす!」
ダンス歴の長い千砂都の言葉には重みがあった。
「じゃあ送るよきな子ちゃん」
「あー。……いえ、大丈夫っす。きな子も都会に慣れないといけないので」
「そう?」
エイジの申し出に遠慮、という感じでもなくきな子は答えた。本人がそういうなら無理強いはしないが。
「それじゃあ、失礼しますっすー!」
彼女は元気に駆けて行った。
「何だか久しぶりだね。この三人だけなの」
「うん。いつもみんな一緒だからね」
千砂都の台詞にエイジが答えた。幼なじみの三人だけ、というのはいつ以来だろう。
「ねえ、勝てるかな?私達」
「不安?」
かのんの問いかけにエイジが聞いた。
「ちょっと。やっぱり学校のみんなやサニーパッションさんの話を聞いてると、結果出したいなって。期待に答えたいなって」
「分かるよ」
かのんの想いに千砂都が共感した。
「私ね、ラブライブのステージは本当に素敵だったと思うんだ。全員で一つのステージを作り上げることが出来た。でも、終わった後にあったのは、もう少しだったとか、残念だけど仕方ないとか、そういう想いばっかりで、みんなで喜ぶ為には勝つしかないんだって」
かのんの目には決意の色が見えた。
「そう考えると大変だよね、ラブライブって」
「うん。みんながそういう想いで臨んで、でも最後に勝ち残るのは一校だけ」
千砂都とエイジが言った。
「でも、そうやって色んなグループと競い合って、一つのものを目指して高め合っていくのは楽しい。すごくワクワクする」
「「それでこそかのんちゃんだ」」
不意に声が重なり、三人で笑い合った。
千砂都のスマホが鳴った。
「親からだ。遅くなるって伝えるね」
彼女は公園の隅へ行った。
「で、最近はどうなの?」
「どうって?」
かのんの抽象的な質問に聞き返した。
「ちぃちゃんとに決まってるじゃない」
「決まってるんだ……」
「バレンタインのお返しはした?」
「したよ。タオルとリストバンドのセット」
「そう言えば新しいリストバンドしてたね。それで?」
「それでって……それだけ」
ふう、とかのんは残念そうな視線を向けて来た。
期待が重い。そんな簡単に今の関係を壊せるなら苦労はしない。
「そんな事より今は代々木フェスの___
「澁谷かのん」
凛とした声だった。見れば滑り台の上から、一人の少女が声をかけて来た。淡い紫の髪をたなびかせ、翡翠色の瞳がこちらを射抜いていた。同い年くらいだろうか。エイジの知り合いではない。
「かのんちゃん、知り合い?」
「いや、知らない子」
彼女も知らないと言う。しかし相手はかのんを名指ししている。
「優勝候補なんでしょ?歌ってみせてよ」
初対面で歌え、とは。これが章の言っていた行き過ぎたファンだろうか。
「出来ないの?」
違う。彼女はファンではない。声の中に嘲りの色が混じっている。一体何のつもりだ?
「お待たせー。……どうしたの?」
千砂都が帰ってきた。困惑した表情のかのんに疑問を抱いている。
「何というか、___あれ?」
エイジが説明しようとした矢先、滑り台の上にいたはずの少女の姿は無かった。千砂都に視線を移した一瞬の内である。
かのんと顔を見合わせる。まるで狐に抓まれたようだった。
「……ううん。何でもない」
かのんがそう言い、その場は解散となった。
「で、さっきは何があったの?」
「うん。実は___
千砂都を送る道すがら、隠す事でもないので説明した。とはいえ、話しているエイジも現実味が無かった。
___っていう事があって」
「……それって怪人とかじゃないよね?」
彼女は恐る恐るという雰囲気で聞いてきた。
「いや、そういう嫌な感じは無かったよ。直感でしかないけど違うと思う」
「じゃあやっぱりファンの子?」
「ファンであの態度はないと思いたいけど……」
結局何だったのだろうか。
ファンだとしたらよほど屈折している事になるが。千砂都の心配そうな顔が視界に入った。
「大丈夫。何があってもかのんちゃんの事は守るから。もちろんちぃちゃんもね」
「うん。頼りにしてるよ、オーズさん」
「外でそれ言っちゃダメだって」
そうだった、と彼女は舌を出してイタズラっぽく笑った。
BOARD東京本部基地。
応援部の三人はムチリの情報の聞き取りに呼び出されていた。
「一実くんは来るの初めて?」
「いえ、二回目です。こっちに引っ越して来た時に一度司令官を訪ねました」
若い方ですね、と彼は驚いていた。
そしてオペレーションルームに入る。そこには既に先客がいた。
「
エイジは先客の名を呼んだ。
「お、高校生ズじゃない。元気?」
「どうしてここに?」
「君達と同じです。私達は例のゴ級グリードと交戦しました」
章の質問に、警察官であり数少ないG3-Xの装着者である
「全員揃ったわね。それじゃあ聞かせて頂戴。どんな危険を孕んだ相手だったのか」
司令官、
会議が始まる。
___そう。本来持たないはずの能力を使っていたのね?」
「はい。恐らくは他のグリードのコアメダルを取り込んでいるんだと思います」
郁代に水流弾を放っていた事をエイジは報告した。
ムチリはどうやら都内各所に現れて、ライダーと交戦するとすぐに消えているらしい。
「正一くんはどう?」
「嫌〜な相手でしたよ。毒をびゃーって吐いて」
「毒属性が主なのは分かってるわ。それ以外は?」
「不味そうだなって。煮ても焼いても食べられそうにありません」
「……」
郁代がこめかみを押さえた。あれ?と正一は笑っている。
「志摩司令官。やはり我々よりグリードをよく知る二人の意見のほうが参考になるのでは?」
「そうね。最初からそうしておくべきだったわね」
真の意見に郁代は深く頷いた。
彼女の視線は章に向いた。
「グリードは他のグリードのコアメダルを取り込んで能力を拡張したり、あとは複数属性のヤミーを生み出したりします。ただ、それ以上に厄介な事が二つ」
視線を受けて章が説明する。
「一つは、各グリードが持つ三種三枚ずつのコアメダルを得た完全体になる事。八枚と九枚とでは戦闘力の次元が違います。そして奴は、恐らくまだ完全体ではありません」
「え、あんな硬かったのにですか!?」
一実がぎょっとした。エイジも章と同意見である。まだ完全体でないのにゴ級とは。末恐ろしい。
「二つ目は暴走です。コアメダルを取り込み続けたグリードは、世界規模の災害に成り果てます。その時はきっとン級認定されるでしょう」
ン級。それはゴ級を超え、世界の均衡を壊す、ないし国を破滅させる程の怪人のカテゴリである。
「そこまで危険なのね、グリードという種は」
章の意見を聞き、郁代は深く思考しているようだった。
「こっちも分かったことがあるわ。三人が奪取してくれたコアメダル、あれはやはりオリジナルだったわ。以前BOARDで管理していた物よ」
成る程。レプリカとは違う、世界に九枚しかないムカデ、ハチ、アリのコアメダル。
道理であれだけの戦闘力を持つわけだ
「ベルゼブブ事件の時に盗まれた物なんでしょうか?」
「……タイミングから考えて、恐らくね」
エイジの質問に、渋々という様子で郁代は答えた。
彼女はエイジに握り拳を差し出した。何かを受け取れという事らしい。右手を持っていく。
チャリンチャリン、とメダルが落ちてきた。
「!?これ……」
ついさっき話題に上がったムカデ、ハチ、アリのコアメダルだ。
「あなたが持っておきなさい」
「志摩さん!そんな事したらエイジくんが狙われちゃいますよ!」
正一がハラハラという具合に声を上げた。彼だけでなく真も反対の表情をしている。
「司令官と呼びなさい。……いい?これは作戦よ。敵が最初にあなたの前に現れたのは、コアメダルを狙っていた可能性が高いわ。それを逆手に取る。これは切り札として持っていなさい」
今エイジが持っているコアメダルは全てレプリカだ。当然である。オリジナルは貴重だ。だからこそ戦力強化にも繋がるだろう。
「了解しました」
エイジはぐっとメダルを握り締めた。
代々木スクールアイドルフェスティバル当日。九人は会場を見回していた。
「スクールアイドルがたくさん居るんすね!」
「シアワセデスー」
「まさにスクールアイドル天国ですね……」
可可と一実は感じいっていた。彼女は去年はそれどころでは無かっただろうから、余計にだろう。
「じゃあ撮影するぞー」
章がスマホを取り出し、Liella!へと向ける。
「ちょ、ちょっと何これ!?」
「後でライブの裏側をアップしようと思いマス」
「恥ずかしがらないで。ほら、笑顔笑顔」
当惑するかのんの肩を抱き、前へと突き出す千砂都。
「すみれちゃん、お願い!」
かのんは秒でフレームアウトした。
任されたすみれはまんざらでもなさそうに前に出て来た。
「しょうがないわね〜。こういうのは___ギャラクシー!平安名すみれでーす!」
「あ、まだ録画ボタン押してなかったわ」
「あんたねえ!」
噛みついて来たすみれに、わざとヘラヘラする章。今日も二人は元気である。
そんなやいのやいの言っている時、ふときな子が目に入った。
表情が固い。
「緊張してる?そりゃそうだよね、初めてのライブだもん」
「エイジ先輩」
きな子に声をかけた。初ライブ、それも同級生の居ないステージだ。不安で当たり前だ。
「いいんですよ。私達がついています。きな子さんはライブを心から楽しんでください」
「恋先輩……、はいっす!全力で楽しみます!」
少しは肩の荷が降りたのか、きな子は笑顔を見せてくれた。
「かのんちゃん」
「あ、来てくれたんだ」
ナナミ、ヤエ、ココノが来てくれた。彼女達は去年もクーカーを応援してくれていた。
「今日のフェス、すごく人気みたいでね、うちの生徒でも入れなかった子いっぱいいるんだ」
「そうなの?」
ナナミの言葉に、かのんは驚いていた。
ナナミ達が言うには、代々木フェスは去年よりその規模を拡大しているらしい。
「みんなネットからも応援してるから、頑張ってね!」
「うん!」
ココノの声援に、かのんは頷いた。
そしてかのんは何処かを見据えるような表情をする。
「実は、一番緊張してるのはかのんちゃんだったりして」
「あはは……」
千砂都の指摘に、図星とばかりにかのんは苦笑いした。
「自分達のやって来た事、信じよう?」
「うん」
そして六人はピースを突き合わせる。
「「「「「「うぃす、うぃす、うぃすー!」」」」」」」
フェスも終盤に近づいて来た。
今のところ、Liella!を超えると断言出来るようなパフォーマンスを見せたグループはない。これなら優勝できそうだ。
「セトリ貰ってきました」
「あと何グループくらいかな?」
「あと三グループですね。あ、でも個人で出てる人がいますよ」
一実にセットリストを見せてもらう。様々なグループ名が並ぶなかで、たった一人、個人名義で出場している。
「ウィーン・マルガレーテ。聞いたことあるか?」
「いいえ。今やスクールアイドルもグローバルなんですよ」
可可しかり、スクールアイドルの為に海を超える時代のようだ。
そんな唯一の個人出場者、ウィーン・マルガレーテがステージに現れた。
「え、あの子!?」
「エイジ先輩、知ってるんですか?」
間違いない。公園でかのんに声をかけてきた少女だ。
彼女はひらりと跳んで舞台に着地する。その所作だけで、観客を虜にしたのがわかった。
◀挿入歌 Butterfly Wing▶
九人は歩道橋の上で黄昏ていた。
「いつまでこうしてるつもり?」
痺れを切らしたようにすみれが問うた。
「いいから黙っているデス」
可可はそれだけ言うときな子を心配そうに見つめた。
彼女は目に涙を貯めていた。
「元気出して?きな子ちゃんのせいじゃないよ」
「でも……」
「そうですよ。優勝は出来ませんでしたけど……」
「そうだよ。二年続けて特別賞だって、立派な事だと思うよ」
エイジ、恋、千砂都が言った。
「もう記事になってますよ、代々木フェス。優勝したウィーンマ・ルガレーテは、中学三年生!?」
いつも通り少し離れた位置で一実は驚いていた。
ウィーン・マルガレーテ。声をかけてきたのはファンではなく、ライバルだったのだ。
「すみません……」
突然きな子が謝った。
「やっぱりきな子のせいですよね、きな子が上手くなかったから。先輩達だけで歌ってたらきっと……」
きな子は涙ぐみながらそう言った。
「何言ってるのきな子ちゃん、そんな事___
「てい」
「あいた!?」
___章くん!?」
否定しようとしたかのんを遮り、章がきな子へ、チョップを喰らわせた。
「見た限り、ウィーンの実力は本物だった。お前一人の上手い下手で変わる程じゃない程度にはな。だから思い上がりだそれは」
章の言い方の悪い励まし。
確かに彼女のスキルは本物だった。圧巻だった。だがエイジはなぜか引っかかりを覚えていた。
「キナキナをいじめるなデス!」
可可がきな子を抱きしめ、章を睨んだ。
「でも実際、誰のせいでもないわ。全員でステージに立ってるんでしょ?誰のせいとか、誰のおかげとかじゃない。みんなで作り上げるものでしょ、スクールアイドルって」
すみれは何処か遠くを眺めながらそう言った。
「すみれが言うと説得力ありまセンが、その通りデス。失敗は成功の準備運動。次はきっと上手くいきマス!」
「可可先輩……はい!」
章とは違い、ストレートな励ましにきな子は笑顔を取り戻した。
かのんのスマホが鳴った。誰かからのメッセージらしい。見た彼女は少し暗い表情になった。
「また気を使わせちゃったな……」
「かのんちゃん?」
エイジが聞くとかのんは画面を見せてくれた。
そこにはナナミ、ヤエ、ココノからの応援や励ましが届いていた。
だがそれは見方を変えると、必死に慰めようとしているようにも見えた。
けれどエイジは知っている。応援する立場だからこそ知っている。
「慰めじゃない。本心だよこれは。だからそのまま受け取ってあげて?」
「うん……」
かのんの憂いはやはり晴れなかった。
ようやく歩道橋から解散し、章はきな子を送っていく事になった。
「悪かったな
「いえ、分かってなかったのはきな子のほうなので」
可可達からさっきの物言いを謝るよう、きつく言われていた。
「一応言っとくが、お前のパフォーマンスは一定のレベルに達してる。卑下するこったねえよ」
「!ありがとうございます!」
きな子は存外に喜んでいた。自分よりも千砂都やかのんに褒められる方が嬉しくないか?
突然、車が歩道近くを走ってきた。とっさにきな子を抱き寄せ、庇う。
「はわわわわ?!」
「っと、危ねえな。悪い、女子に車道側歩かせるなんてな。こっち来い」
「い、いえ!きな子なんて女子扱いしなくていいんす!」
手を引くと、ピタリと引っ張り返されてしまった。
今卑下するなと言ったばかりなのに。
「……桜小路の家には鏡がねえのか?お前レベルで可愛い女子、そうそういねえだろ」
「か、可愛い!?きな子がすっか!?」
この程度で動揺し過ぎじゃないか?心配になってきた。
「スクールアイドル、続けるんだろ?可愛いなんてこれから山程言われるだろ。今の内に慣れとけよ?」
「それは、ちょっと難しいっす……」
きな子は顔を両手で覆い隠してしまった。見える耳は真っ赤である。まあこれはおいおいでいいだろう。
またぞろ恋や可可に伝われば、詰め寄られるのは必至なのだから。
翌日の朝。エイジは正門前で章と一緒になった。
「きな子ちゃん、どうだった?」
「……まあ問題ねえよ」
「今ちょっと間が無かった?」
「もう自分のせいとか言ってなかったぞ。それよりも
「うん」
一番責任を感じているのはかのんだろう。昨日の時点で彼女の顔は晴れていなかった。
エイジもそれが気がかりだった。
「エイジくん」
後ろから声をかけられた。
ナナミだった。ヤエとココノもいる。
「私達、応援部に依頼があるの」
「ここで聞いても大丈夫?」
三人は頷いた。
「お祝いしたいんだ、Liella!の事。二年連続特別賞なんて凄い事だから」
ヤエが言った。
どうだろうか。優勝を目指していただけに、学校の皆に申し訳ないと思っているのでは無いだろうか。
「分かってる。でも私達、どうしても伝えたい事があるんだ。応援部も一緒でしょ?」
ココノが言った。彼女達の目は真剣である。
その通りだ。応援する側として、今Liella!に伝えなければならない事がある。章と二人、頷きあった。
放課後、応援部部室に集まったメンバーは十人を超えていた。
本当はまだまだLiella!を祝いたい!という生徒はいるのだが、あまり多くて邪魔になってはいけないので、これぐらいが限度である。
一実からメッセージが送られてきた。合図である。
「じゃあみんな、クラッカー持ったね。行くよー!」
エイジが呼びかけ、皆が走りだす。スクールアイドル部部室目掛けて。
そしてなだれ込み、クラッカーを鳴らす。
「「「「「おめでとう!!」」」」」
「みんな……」
かのん達は呆気に取られているようだった。
「特別賞取ったんでしょ!」
「良かったね!」
「流石〜!」
ヤエ、ナナミ、ココノが言った。
だがかのんの表情は何処か憂いを帯びていた。
「ありがとう。でも本当は___
「いいんだよ」
「え?」
ヤエの返答に困惑するかのん。
「それでもいい。いいんだよ。みんな来て」
ナナミ達がLiella!を誘ったのは学校のある一室。そこには結ヶ丘が収めた部活動の成果、トロフィーや盾が飾られていた。
当然、そこには去年東京大会二位となったLiella!の表彰盾もある。だが数は少ない。スクールアイドル部を含めても四つだけだ。
「当然だよね。一年生しか居なかったんだもん」
「かのんちゃん達は自分達の事、まだまだって思ってるかもしれないけど……」
「この学校の生徒にとっては誇りなんだよ。自慢なんだよ」
ヤエ、ナナミ、ココノは目に涙を浮かべていた。
「「「Liella!はこの学校の、スーパースターなんだよ」」」
三人が声を揃えて言った。
「私達が……」
「スーパースター……」
かのんときな子が呟いた。
「この事は、忘れないでほしい」
ココノが言った。
「私達は、いつも誇りに思ってる」
ナナミが言った。
「いつか、一番輝くって信じてる」
ヤエが言った。
三人につられて、かのんの瞳にも涙が湧き出て来ていた。
「さて、ここで応援部を代表して、エイジくんから一言挨拶があります」
「え!?」
ナナミからの無茶ぶりだった。
この感動的な雰囲気をぶち壊してしまわないか?
「えっと、本日はお日柄もよく……」
「固い固い!」
ヤエに肘で小突かれた。だって急なんだから仕方ないじゃないか。
一つ深呼吸をする。想いのままを伝えよう。
「まずはありがとう。Liella!がみんなを結んでくれたから、この学校で良かったって、心から思える。だから約束するよ。今度こそ勝たせてみせる。俺達ももっと強くなるから」
ね、と章と一実を見た。二人ともが頷いてくれた。
「ライブしましょう!場所は決まり、ですよね?」
恋が発案した。
かのんは涙を拭う。
「……うん!」
三日後、新入生歓迎ライブという形となって実現した。
開催場所は体育館である。満員御礼だ。
応援部は全体の指揮を取る。
「ナナミちゃん、どう?」
『いつでもいけるよー』
ヘッドセットからナナミの声がしっかり聞こえる。機材の調子もバッチリだ。
「一実くん。みんなの様子見に行ける?」
『あはは、無茶をおっしゃる』
「そうだよね。俺が行くよ」
エイジはステージ裏まで走っていった。
「みんな、準備はいい?」
「もちろん!」
代表してかのんが答えてくれた。少し前までの憂いは毛ほどもない。
「みんな。今日はセンターは無しで行きたい」
かのんは突然、そんな事を言った。
「センターは、ここに居る全員。結ヶ丘の生徒全員。この、最高に素敵な学校全部!そういう気持ちを込めたいの」
そして六人はピースを突き合わせた。
もう大丈夫。彼女達はラブライブ優勝までひた走るだろう。その時まで、きっと折れない。
変身アイテムと適合者
一部を除いた変身アイテムは誰でも使用できる訳では無い。
そのアイテムに選ばれた、適合した者だけが使用できる。
また各フォームや形態にも適合率があり、複数フォームを持つライダーに適合したからと言って、その全ての形態を扱えるわけでは無い。それが出来るのは限られた人材だけである。
適合者とアイテムとは運命的に引かれ合う特徴がある。