九人は屋上でストレッチしながら話す。
入念に。急な運動は怪我の元だ。
「部長?」
「はい。部活動も多くなってきた事ですし、今度部長会を開こうかと」
かのんの疑問に
部長。言われてみれば応援部もいないな、部長。
「そういえば、まだ決めてまセンでしたネ」
「そうだよねー」
「「「「「「「「じー」」」」」」」」
まるで自分には縁がないと言わんばかりのかのんの呟きに、全員の視線が注がれる。
「決まりだね」
「え?え?ちょっ、ちょっと待ってよ!?」
「多数決とる?かのんちゃんが部長___
「待ってって!」
続けて千砂都が多数決を行なおうとしたところ、慌ててかのんが止めた。
「きな子は、入った時からかのん先輩が部長なんだと思ってたっす」
「俺もてっきりそうなのかと」
きな子と
「当然の流れでしょうよ」
「可可もかのんが良いと思いマス」
「決定ですね」
「あっさり纏めないで!」
二年生組の意見に、やはり反対するかのん。
「まあまあ、かのんちゃんの話も聞こうよ」
「そんなに嫌なの?」
エイジの言葉に、千砂都が聞いた。
「嫌って言うか……」
かのんは口ごもった。
「きな子も賛成っす。恋先輩には生徒会がありますし、残りの先輩方だと部長の候補は大分限られるかと」
「あんた今、さらっと酷い事言わなかった?」
「天然ってこえぇ〜」
すみれのツッコミに、
「と言う事で、みなさんの意見は纏まっているようなのですが」
恋がそう言うと、かのんは困ったような顔をした。
「エイジくん達は?部長どうするの?」
「え?俺達?」
かのんのあまりに大味な話題転換に、少し面食らう。
「そりゃあ決まってるだろ」
「うん。と言うわけで章、よろしくね」
「はあ!?」
「「「「「「「え!?」」」」」」」
エイジの一言に、章と一実、ついでにLiella!が驚いていた。
章に両手で襟を掴まれた。
「お前が始めた物語だろ!責任持ちやがれ!」
「いや、だってどうせやるなら、ハイスペックな人の方がいいでしょ?」
ぐわんぐわんと前後に揺すられる。
能力で考えたら章一択だと思うのだが。
「きな子はエイジ先輩が部長なんだと思ってたっす」
「俺もです」
きな子と一実がまた同じような事を言った。
「エイジさん、それは良くないのではないですか?」
「あんたが人助けしたいって言うから、章は付いて来たって聞いたけど?」
「そうだよ。エイジくんが始めた事でしょ?」
恋、すみれ、千砂都から反対されてしまった。
うーん。そういうものか。
はあー。と章がため息をつき、頭を掻いた。
「先練習しててくれ。このアホの責任感を問いただしてくる。
「はい」
「えー?」
章に後ろの襟首を掴まれ、ズルズルと引きづられながら屋上を後にした。
バタン。章は何故か扉がしっかり閉まっていることを確認していた。
「本当に俺で___
「盗聴されてる」
「「え?」」
章は静かに言った。
「ど、どういう事ですか!?」
「声がデケェ。何処のどいつか知らんが、屋上にマイク仕掛けてやがる」
「それでわざわざあんな芝居したの?流石だね」
では部長うんぬんは方便だったのか。やはり章はよく周りを見ている。
「お前の意識に物申したいのは事実だがな。……サイズからみて犯人は学校内で盗み聞きしてると見ていいだろう」
「その不届き者を見つけ出すんですね!任せてください!」
「まだ不届き者だって決まったわけじゃないよ。見つけたらちゃんと事情は聞こうね」
章にまた溜め息をつかれた。
「甘ちゃんが。盗聴なんてマトモな奴のする事じゃねえだろ」
「そうかもしれないけど、もしかしたら熱烈なファンかも。そしたら勧誘できるでしょ?」
スクールアイドル部でも応援部でも。
まだ犯人に悪意があると決まったわけでは無いのだ。
「……エイジ先輩って、常識人かと思ってましたけど、結構ぶっ飛んでますよね」
「そんな事ないよ」
「あるわ。いいか、こいつは無自覚だから巻き込まれないよう注意しとけよ」
そこまで言われるか?
とにかく今は盗聴者を探すのが先決だ。三人で手分けをする。
幸い、エイジには心当たりがあった。
心当たりと言っても、盗聴ではなく、最近感じる視線の方だが。屋上にいると、一定の方向から見られていると感じるのだ。その方向へ向かう。
「ここか……」
辿り付いたのは科学室である。
一応ノックをしてみる。返答はない。藪蛇にならなければいいが。思い切ってドアを開けた。
「失礼しまーす」
科学室には二人いた。
その内の一人がこちらに気付いた。青い髪に白衣を着ている。エイジは一度勧誘したので覚えていた。
「君は……確か科学部だったね」
「木野先輩」
「俺の事知ってるの?」
「あなたは結構有名人」
そんな、有名人だなんて。少し照れてしまう。
反対に彼女は無表情だった。
ただ、今はそんな事よりももう一人の方だ。
双眼鏡で窓の向こうを熱心に見ており、こっちには気付いていない。
その方向は、ちょうど屋上だった。
「メイ」
白衣の少女が呼んだが、全く聞こえていない。彼女にしー、とジェスチャーをした。
屋上を見るのに夢中になっている、赤髪の少女に後ろから近づいて。
「みんなは何してるの?」
「ステップの練習だよ。嵐さんがカウントとってる。今日は応援部の人がいな___ぎゃー!?」
メイと呼ばれた少女は、素っ頓狂な声を上げて飛び退いた。
彼女が着けていたイヤホンが転がってきた。
もしかして。
エイジはそれを耳元へ持っていった。
『……ツー、スリー、フォー』
イヤホンからは千砂都の声が聞こえた。
思わぬところで犯人を見つけてしまった。
彼女はバツが悪そうな顔をしている。
「これを仕掛けたのは君?」
「……そうだよ。悪かったな。こんな盗聴まがいの事して___
「違う。仕掛けたのは私。実験のつもりだった」
自白した赤髪の少女を、白衣の少女が庇った。
二人の繋がりは固いようだ。
「そんなに警戒しないで。何もとって喰おうなんて考えてないから」
二人は顔を見合わせた。
悪気がないこと、反省していることが重要であって、真偽などはどうでも良かった。
なのでここからは応援部の仕事を果たす。
「二人とも興味があるんだよね、スクールアイドル部。もっと近くで見てみない?」
「ひ、暇つぶしに見てただけだ。興味なんて___
「行く」
「そうそう、行く……は?」
エイジは体操着に着替えた二人を連れて屋上へ戻って来た。
「はい、というわけでこちら体験入部の
八人に紹介する。
「一年生っす!きな子と同じ一年生っす!」
涙ながらに喜ぶきな子。それを見てうんうんと頷く可可。
「凄いよエイジくん!二人も連れて来てくれるなんて!」
「凄いのは勇気を出してくれた二人だよ」
喜ぶかのんにそう返した。反面、章は虫の居所が悪そうである。明らかに納得していなかった。
「おいエイジ。説明しろ」
「え?メッセージ見てないの?」
「見たわ!その上でだよ」
章と一実には、盗聴の犯人は捕まえたこと、もう反省していること、そして体験入部と見学にくることを簡潔にメールした。
章は耳元で音量を落とした。
「あの二人が犯人なんだろ?問題だらけじゃねえか」
「大丈夫、大丈夫。二人とも興味があっただけだから。ちゃんと反省もしてるし」
「……お前の大丈夫は当てになんねえよ。見張らせてもらうからな」
「どうぞどうぞ」
きっと問題はないだろう。悪気があったわけではないのだ。
「米女さん、やっぱり興味あったんじゃないですか」
一実がニヤニヤしながらメイに話かけた。
「な、ちげーよ!四季が行くつーから付いて来ただけだ!……ところで、なんでお前はそんなに遠いんだ?」
「これが紳士の距離なんです」
「はあ?」
Liella!に近づいたら倒れるから、とは言えなかった。まさか実演する訳にもいかない。
まずはストレッチから入る。
「いいデスねー。可可くらい柔軟性はあります」
「割と、余裕」
四季の柔軟は可可を軽く上回っていた。
「今日はせっかく来てもらったし、軽いステップとフォーメーションを体験して貰おっか」
「いいですね」
千砂都の提案に恋が同意した。
「みんなで踊るのは、本当に楽しいっすよ!」
「うん」
興奮気味のきな子に、四季は軽く頷いた。
「メイちゃんは本当に見学だけでいいの?」
「いきなり名前呼びかよ」
「ごめん。米女って知り合いに居て」
複雑そうな表情をするメイに話かけた。
「……メイちゃんって、お兄さん居る?」
「ああ。そう言えば応援部はBOARD訓練生の集まりでもあるんだったな。……眠りっぱなしのアホ兄貴だよ」
やはりそうだったか。米女と聞いた時からそうなんじゃないかと思っていた。
「そんな事ないよ。お兄さんには、ハルトさんにはお世話になったから。立派なライダーだよ」
彼女の兄、米女ハルトは二年近く昏睡状態にある。原因は不明とされているが、恐らくは___
「エイジくん。カウントとって貰っていい?」
「わかった」
簡単なステップと振り付けを覚える段は終わったらしい。千砂都に呼ばれた。彼女は手本となってもらわなければならない。
章は目を光らせているし、一実もそこまでは近づけない。
「四季ちゃん。先輩達をみながらで全然良いからね」
彼女は軽く頷いた。
科学室でも思ったがこの子、全く表情が変わらない。大丈夫とみて良いのだろうか。
「ゆっくりいくよ。ワン、ツー、スリー、フォー___
四季には一通り体験してもらった。
だが端から観ていたメイの表情は険しい。
「どう?スクールアイドル、楽しいでしょ?」
「……」
かのんの問いかけに、考え込んでいる、のだろうか?四季の表情からは何も察せなかった。
「メイちゃんはどう?やってみたくない?」
「……私が、スクールアイドル……」
千砂都の質問に、こちらは迷うような表情を見せた。
しかしその後、メイは四季を睨んだ。
「四季はどうするんだよ。本当に、スクールアイドル始めるのか?」
「……私はまだ、決めてない」
「嘘つくな。帰る」
「へ?」
突然のメイの帰宅宣言に、千砂都がキョトンとした。
「そんな、まだ___
「帰るって言ってんだ!」
千砂都の言葉を遮り、叫ぶようにそう言うとメイは屋上から飛び出していった。
「何か気に障りましたでしょうか?」
「いや、俺が悪いよ。割と強引に連れ出したところあるから」
心配する恋にエイジが言った。
遠くから眺めているだけが、間近で見学。急過ぎたのかもしれない。
「先輩達は、悪くない」
そう言ってくれたのは四季だった。
「着いてきて欲しいところがある」
彼女の表情はやはり変わらなかった。
四季に連れられて一行が辿り付いたのはマンションだった。
「ここは?」
「見て。二階の端の部屋」
かのんの質問に、四季は指を差しながら答えた。その部屋のカーテンは明け放たれていた。
「ここからじゃ、よく見えないね」
千砂都の言う通り、何だか棚の周りが賑やかな雰囲気だな、と言うくらいである。
「待つデス、あれは」
「ちょっと、あんたねえ」
すみれにのしかかるようにして、可可が覗き込んだ。
四季が何処から取り出したのか、双眼鏡を手渡した。
「やっぱりそうデス、Liella!のポスター!」
「え!?本当ですか!?同好の士!」
一実が近づいて来た。自分の設定を忘れたのだろうか。
「その下は三年前、限定で出た歴代スクールアイドル大全!」
「マジですか!?レアものじゃん!」
設定どころか敬語も忘れたらしい。
「棚の上にも何かあるわよ」
すみれに促され、視線を移す可可。
「なァーーー!!」
「急に大声だすんじゃねえよ」
「どうしたの?」
エイジが問いかけても返事は無かった。代わりに可可は涙を流す。
「伝説の……デン、デン、デン……」
「嘘、でしょ……?アレが……?ほんとに……?」
視線を交わし、涙を流し合う可可と一実。マニアには垂涎のアイテムらしい。
「一体誰の部屋なのデスか!?」
「教えてください!」
二人が四季に詰め寄った。
「誰か入ってきましたよ」
恋が言った。扉から入って来たのは、メイだった。
「隠れて」
四季の言葉で、皆が姿勢を低くした。
メイは窓を開け、周囲を見回している。
「は、は、はっくちゅん!すみません!」
きな子がくしゃみをしてしまった。
メイがこちらを睨みつけるように凝視している。
こっちから声をかけた方が得策ではないだろうか。エイジがそれを行動に移そうとした時。
窓は閉められた。
え?気付いていないのか?
「あれ……?」
きな子もポカンとしている。
「メイ、視力あんまり良くないから」
「もしかして、いつも睨みつけてるのは……」
「目が悪いだけ。眼鏡かけろって言ってるんだけど」
「それで、クラスでちょっと怖がられてるんすね」
きな子の疑問に、四季が答えた。
どうやらメイはクラスでもやや浮いた位置に居るらしい。
「ちゃんと言えばいいのに」
「口下手だから」
千砂都の呟きに、四季は少し呆れたように言った。
「四季ちゃんとメイちゃん、昔から友達なんだ」
「友達……?」
「違うの?」
「わからない……」
かのんの言葉に四季は困惑しているようだった。
「聞かせてくれないかな?二人の話」
エイジは四季に笑いかけた。
「どのみちここから動けねーしな」
「どうしてよ?」
すみれの問いにほら見ろ、と章は指差した。そこには意識を失って倒れている一実の姿があった。
テンションが上がっている間は問題無かったのだろうが、いざ我に帰るとダメだった。Liella!に近づき過ぎた代償である。
それから四季は話してくれた。
メイとは中学からの間柄で、いつも一人でいた四季と、グループ付き合いに疲れたメイは一緒にいるようになったこと。
科学部を立ち上げた時も、ついてきてくれたこと。
「メイがこの学校を選んだのは、スクールアイドルをやってみたいって思ったから。Liella!がいたから」
「なのに、いつまで経っても始めない」
すみれの言葉に四季は頷いた。
「四季ちゃんは?スクールアイドル部に体験入部してくれたのは、メイちゃんだけの為?」
「……ごめんなさい」
千砂都の質問に、四季は気まずそうに謝った。
「気にしないで」
かのんは両手の平を振った。
「だとしたら、メイちゃんは四季ちゃんを独りにしたくないんだと思うよ」
「何故?」
千砂都の推測に、四季は首を傾げた。
「だって科学部は、四季ちゃんとメイちゃんしか……」
「……訳わかんない」
ほぼほぼ回答を言うかのんに、四季は当惑していた。
「私はメイに、何もしてあげてないのに……」
「それはきっと、独りにされる辛さを知ってるからだと思うよ」
戸惑う四季に、エイジは優しく言った。
「メイちゃんのお兄さんの話は聞いたことある?」
「……昔BOARDに入ってるって言うのは聞いたある。でもそれだけで、あんまり話たがらない」
「そう。BOARDの仮面ライダーなんだけどね、二年くらい、昏睡状態なんだ」
四季は目を見開いた。
「そんな事があったから、きっと他の誰かに同じような思いをさせたくないんだよ」
「……私は、一人でも平気」
「最初はね、でも___
言いかけた時、四季の携帯が鳴った。誰かからのメッセージらしい。
「メイから。呼び出された」
「私達も着いて行っていい?」
「見てるだけなら」
かのんの質問に、静かに四季は答えた。
「で、今どういう状況ですか?」
「かくかくしかじか、だよ」
目覚めた一実にエイジは説明した。
今は物陰に隠れて二人、メイと四季を見守っている。
「成る程、あそこは米女さんの部屋だったわけですか」
「そこから!?って言うかなんでそれで伝わるのよ……?」
便利だよね、かくかくしかじか。
二人は話だした。
「ずいぶん遅いな。どこ寄り道してたんだ?」
「何?」
四季はメイの質問には答えなかった。早く本題に入れ、ということだろうか。
「どうするつもりなのか、聞いておこうと思ってな」
「素直になった方が良い。スクールアイドル部も応援部も、みんな良い人」
「私のことじゃねえ、お前のことだよ!」
「……私は一人が好き。一緒に居てなんて、頼んだことない」
雲行きは怪しかった。その言い方で四季の真意が伝わるとは到底思えない。
「新設校だから部員が一人でも科学部は無くならない。心配しないで。早くスクールアイドル部に行って」
「だから言ってるだろ、私は向いてないって!」
四季も強情だが、メイも中々だった。なんだか似た二人だとエイジは思った。
「じゃあ、科学室にも来ないで」
「え?」
メイは面食らっていた。
「興味も無いのにいつも居られると、むしろ迷惑」
それだけ言うと四季は立ち去った。
明らかにすれ違っていた。
「どうしまショウ……?」
可可の呟きに、誰も答えられなかった。
結ヶ丘は第一回部長会を開催した。
まずは順々に自己紹介をしていく。
「科学愛好会部長、若菜四季」
「学校生活応援部、部長、木野エイジです」
結局、応援部の部長はエイジになった。
「言い出しっぺがやらないでどうすんだよ。お前の欲だろ」
「欲うんぬんはともかく、エイジ先輩になら着いて行きますよ!」
二人に背中を押されたのだ。やらない訳には行かない。
そして、スクールアイドル部部長は。
「スクールアイドル部、部長、嵐千砂都です!」
千砂都がなった。
それは数日前に遡る。
千砂都のバイト先であるたこ焼き屋にかのんとエイジは訪れていた。
「上手くいかないなあ」
「何とかしてあげたいよね」
二人の一年生の事で悩むかのんに、エイジはそう言葉をかけた。
そもそもこんな風に拗れた原因は自分にあるのだ。何とかしてあげたい、ではない。
「二人ともー。たこ焼き出来たよ!今日は会心のマル、だよ!」
ありがとうちぃちゃん、と二人で礼を言いながら受け取った。
そこでふと思い出す。
「そう言えば、部長の件はどうなったの?」
「「あ」」
二人して忘れていたらしい。無理もなかった。
「かのんちゃんが始めたんだから。スクールアイドル」
「違うよ。始めたのは可可ちゃん」
「それでも、みんなを纏めてきたのはかのんちゃんでしょ」
千砂都の言葉に、うーん、とかのんは考え込んだ。
「だからこそ、新しくなろうとしてるLiella!には、自分じゃ無い人の方が良いと思う。例えば……ちぃちゃんとか」
「私!?」
千砂都は焦ったように驚いていた。
「私には無理だよ」
「どうして?」
「俺も良いとおもうんだけど」
「だって、私にはそういうの、向いて、ない、……」
千砂都は何かを思いだしたように、はっとしていた。
「決めちゃってたよね、メイちゃん。向いてないって」
「「え?」」
突然話が変わった。
「出来るって思えば、出来るかもしれないのに」
「そうだね?」
「ちぃちゃん?」
二人の困惑をよそに、千砂都は何か腹を括ったような表情だった。
「私やるよ、部長」
そして後日、全体の決を取った。
「嵐が部長を?」
「うん。迷惑かけるかもしれないんだけど、自分にも出来るんじゃないかって、チャレンジしてみたいんだ」
章の問いに千砂都ははにかみながら答えた。
「素敵デス!」
「着いていきます、先輩!」
「いいんじゃない?」
「ええ。千砂都さんには素質があると思います」
他の四人も好意的だった。
そうしてここにスクールアイドル部部長、嵐千砂都が爆誕した。
エイジはメイを探し、校内の小池のほとりにやって来た。
そのベンチで彼女は座り込んでいた。
「メイちゃん」
「……ああ」
顔をあげた彼女の表情は暗かった。
「科学室、行かないの?」
「もう来るなって」
「じゃあスクールアイドル部は?また見学に来ればいいよ」
「無理だろ、私じゃ」
メイは文字通り行き場を失っていた。
「ごめんね。無理に連れ出して。でも俺、メイちゃんが本当にスクールアイドル好きなら、挑戦してみて欲しいんだ」
「なんでそこまで」
「誰かの夢や願いを応援するのが
彼女は少し考えるような仕草をした。
「やっぱり駄目だ。この顔に、この性格だぞ。向いてないんだよ……」
「やってもないのに向いてないは禁止だよ」
後ろから声がした。振り向くとかのんが立っていた。
励ましの天才がやって来た。
「メイちゃんが迷ってるのは、四季ちゃんが居るからでしょ?一緒に居たいからでしょ?」
「そんなこと……!だいたいアイツは一人の方がいいって言ってるんだ。私が邪魔だって」
「そんなのウソ。メイちゃんだって気付いてる。だって二人はそっくりだもん」
「はあ!?」
メイは立ち上がって、かのんを睨みつけた。
「私と四季が!?冗談言うなよ全然違うだろ!」
激しく噛みついたが、尻すぼみになる。
かのんの微笑に、見抜かれていると悟ったのだろう。
「そうかな。恥ずかしがり屋でさみしがり屋で、そんな自分が嫌だから、ついつい私はこれでいいんだ、って、こうして居たいんだって自分に言い聞かせて」
「ひゃっ!?」
かのんがメイの手を優しく取った。
「屋上で二人を見てて、気付いたんだ。メイちゃんと一緒で、四季ちゃんも、メイちゃんが好き!」
かのんの言う通りだろう。二人は想い合うが故にすれ違っていた。
「だからきっと、四季ちゃんもスクールアイドルの事、ね?」
見つめるかのんに、メイはゆっくりと頷いた。
「決まりだね。じゃあもう一人も勧誘しに行こうか」
「なあ、私に任せてくれないか?」
三人で科学室に向かおうとした時、メイが言った。
「アイツのことなら私が誰より理解してる」
「うん。そうだね、お願いメイちゃん」
かのんはメイに任せる判断を下した。
走って行く背中をふたりで見送る。
「やっぱり凄いよ、かのんちゃんは」
「え?」
「俺の言葉じゃメイちゃんをその気にはさせられなかった」
「そんな事ないよ」
「そんな事あるよ。かのんちゃんの励ましの力は、きっとスクールアイドルとして一番の力だと思う」
「……どうしたの?急に?」
かのんが心配そうに顔を覗き込んできた。
「いや、思った事はちゃんと伝えないとって、あの二人を見てたらね」
「そうだね。……て言うか、そんな事言うなら、ちぃちゃんに本音伝えてきなよ」
「はは、手厳しい」
かのんにジトーと睨まれてしまった。
透き通るような初夏の熱気だった。
屋上には全員集まっている。九人ではなく十一人が。
「今日から、新たに二人が加わる事となりました」
恋が言う。
皆の視線の先には、メイと四季が居た。
「うん」
「よ、よ、よろしく!」
二人共もう体操着ではなく、自分用のトレーニングウェアを着ていた。やる気は満々である。
だが、方や無表情。方やガチガチ。
「これは、ステップの前に、二人とも笑顔の練習だね」
千砂都が苦笑いした。
「仕方ないわねぇ。お手本を見せてあげるわ。ギャラ___
「結構デス」
「最後までやらせなさいよ!」
二人のコントは今日も調子が良かった。
「部長!」
「うん。部員も増えた事だし、アレ、やろうか」
かのんに促され、千砂都はピースを突き出した。
「「アレ?」」
「私達の、ライブ前のおまじない!」
千砂都に合わせて、Liella!全員がピースを突き合わせていく。
「ひいいっ!恐れ多い恐れ多い!」
「わかりますよメイたん。俺も同じ立場なら昇天してます」
「お前と一緒にするなよ。近づいただけで気絶はねえよ」
「辛口!」
同じスクールアイドルファンのはずなのに、理解し合えていなかった。これがいわゆる同担拒否だろうか。
「大丈夫だよ」
メイを安心させるようにかのんが言った。
「結ヶ丘スクールアイドル部、Liella!、これからもたくさんの人に歌を届けよう!メイちゃん!」
「そ、Song for me!」
四季が続いた。
「Song for you」
「「「「「「「「Song for all!!」」」」」」」」
蝉の鳴き声が聞こえる。まだ夏は始まったばかりだ。
三人は怪人アラートを聞きつけ、大きな立体駐車場へと駆け付けた。そこにはオーズの見覚えのある怪人が立っていた。
「カマキリヤミー!」
昆虫系グリードから生まれる怪人である。
次いでキュロロロ……と不快虫のような鳴き声が聞こえた。
ムチリである。
「これが欲しいんでしょ?」
オーズはムカデ、ハチ、アリのコアメダルを見せ付けた。
敵の目の色が変わった、ように見えた。
「悪いけど渡さないよ。むしろお前のメダルを返して貰う」
「それはどうかな?」
デュークとナイトローグが姿を現した。
「またお前らか」
「指名手配犯……!」
バースとグリスが呟いた。
「それはこっちの台詞だよ。私達が用があるのはオーズだけさ」
やれやれ、とデュークは言った。
「蝙蝠と蟷螂の野郎は俺が受け持ちます」
「ならデュークは俺だな」
「二人とも、油断しないで」
三人で視線を交わし合う。そしてコンボチェンジ。
『ライオン!トラ!チーター!ラタラタ〜、ラトラ〜タ!』
猫科系動物の黄色コンボ、ラトラータへ。
チーターレッグの高速で距離を詰め、トラクローで引き裂いた。
やはり相手はこちらのスピードに対応出来ていない。
翻弄しながら二回、三回と切りつける。
突如敵は咆哮あげた。同時に緑雷を周囲に放つ。
「ぐあああ!?」
感電し、足が止まる。そこへムカデの尻尾が打ち込まれ、吹き飛ばされた。
またもムチリは他のグリードのコアメダルを取り込んでいるらしい。これは緑、昆虫系のコアメダルだろう。
範囲攻撃があるなら、正面からぶつかる他ない。
トラカンドロイドを展開し、ライドベンダーと合体させ、トライドベンダーに。それに乗り込み、ムチリへ突進する。
トライドベンダーはムチリに喰らいつき、ムチリは全身でそれを引き剥がそうとする。
ここだ。オーズは大斧型武器、メダガブリューを取り出し、ムチリを斬りつけた。
このメダガブリューはアンチ欲望、つまりはグリードへの特攻を発揮する。強力な反面、コアメダルを破壊する力も持ち合わせている為、扱いには細心の注意が必要である。
だがゴ級怪人相手だ。そうも言っていられない。
ムチリはセルメダルをばら撒きながら仰け反った。コアメダルこそ奪取できなかったが、効いている。
トライドベンダーで轢き、吹き飛ばした。
「ムチリ!」
デュークが叫ぶと、それが合図なのか、ムチリは四方八方へ針を飛ばした。だがそういう訓練を受けているのか、デュークやナイトローグへの味方へは飛んでいかない。
「私も私を実験するとしようか」
デュークはベルトを外すと、別のベルトを取り出し、装着した。
『レモンエナジー!』
「実験開始だ」
『ロックオン!ソーダ!レモンエナジーアームズ!』
デュークが装備していたアーマーが消え、代わりに頭上に檸檬型の鎧が出現した。
それが落下し、頭から被る形になる。その檸檬が展開して新たなアーマーとなった。
『デューク、レモンエナジーアームズです!気を付けて下さい、強奪されたオリジナルが使われています!』
「ふっ!」
バースが射撃でけん制するが、避ける必要もないと言わんばかりに片手で防ぎきってみせた。
「お返しだ」
デュークは新たな武器、弓型の武装をバースに向け、射抜いた。
「が……!?」
バースを貫通し、後ろの車までも爆散した。バースの変身が解ける。
「章!」
「おや、オーズの相棒の正体が学生とは。これは大人気なかったかな?」
「この!」
トライドベンダーをデュークに向かわせる。最初の突進はひらりと躱された。
デュークは先ほどよりも長く弓を引き、貯めてから放った。トライドベンダーが爆発した。
ギリギリのところで飛び降り、巻き込まれずに済んだ。
「はははははっ!素晴らしい性能だ!」
「野郎、調子にのりやがって!」
「グリス!」
突貫しそうなグリスをオーズは制した。
「章の保護をお願い」
「そしたら四対一ですよ!」
「大丈夫、俺にはこれがあるから」
コアメダルを全て交換し、スキャン。
『ムカデ、ハチ、アリ、ムカチリ〜チリッチリッ!ムカチリ〜チリッチリッ!』
「はああああ!」
雄叫びと共に衝撃波を発する。
有毒系昆虫のムカチリコンボ。オリジナルでもある。
「任せたよ」
「……はい!」
グリスは走って行った。
「新しいオーズかい?丁度いい。その性能も試させて貰おうか」
「そう上手くいくかな?」
デュークの台詞に、余裕ぶって返した。
頭部のセンターセンチピードを鞭のように伸ばして、全体へと攻撃する。
全員が跳んで避けた。
コンボ特性、細胞増殖によって、全身の各部を伸び縮みさせることが出来る。
ナイトローグの狙撃。左腕の六角形が集まったハチシールドで防ぐ。
ムチリの斬撃。右腕のハチニードルで受け止める。大丈夫、パワー負けはしていない。むしろ押し返せる。弾き返した。
カマキリヤミーが円形の斬撃を四つ飛ばしてきた。
ハチショルダーに内蔵された小型の羽根を展開し、低空飛行で躱す。
飛び回りながら手足を延ばして、中遠距離から全体へ攻撃する。
決定打こそ放てないが、膠着状態が続けば、援軍が来る。時間はこちらの味方だ。
「これで何とかしたつもりかい?」
デュークが嗤い、分身した。
「いや、ホログラムか!」
何体かのデュークはすり抜けるだけで手応えがない。
だがどれが本物かわからない以上、放置出来ない。ターゲットが急に五人も増えては、対応しきれない。
『スチームブレイク!バット!』
ナイトローグの必殺技で撃ち落とされた。
何とか立ち上がると、今度はムチリによって羽交い締めにされる。
「いい子だ」
『ロックオン』
弓型の武装にロックシードを装填、必殺技の構えだ。ムチリごと撃つ気か!?
デュークは弓を引き、放った。
『レモンエナジー!』
「ぐあああ!!」
矢を模したエネルギーが爆散する。
オーズの変身が解けた。エイジは這いつくばる。
「おやまあ、君も学生なのかい。心が痛むなあ」
デュークは言いながら、散ったムカデ、ハチ、アリのコアメダルを回収。オリジナルをまた奪われてしまった。
「ほら、お食べ」
倒れたムチリに与えた。自身のコアメダルを取り戻したムチリは、さっきまでのダメージが無かったかのように立ち上った。
「もういいな。殺すぞ」
「待ちなさいよ。まだ彼はレプリカのコアメダルを持ってる」
「回収は殺した後でいいだろ」
ナイトローグがエイジへ銃口を向けた。
不味い、このままでは。
「じゃあねオーズ君。君との戦闘データは後に生かさせて貰うよ」
「ぐううっ」
やめろ、出てくるな。
引き金は引かれた。
だが弾丸は到達しない。
「ぐあああ!?」
エイジが叫ぶ。
虚無の力が迸る。紫のコアメダルは自らオーズドライバーへ収まり、オースキャナーはひとりでにメダルをスキャンした。
『プテラ!トリケラ!ティラノ!プ・ト・ティラーノザウルース!』
太古に君臨した王者の力を宿したコンボ。あふれ出した虚無が空気を震わせる。
エイジの意識は闇に呑まれた。
適合者と適合元
仮面ライダーの適合者となった者は、その元の仮面ライダー、適合元の人格や記憶を継承する。適合率や使用頻度によってその人格の反映度合いは変わる。深刻になると精神汚染とされ、要治療対象となる。
どこまで把握出来るか、またどこまで思い出せるかは個人差がおるが、夢で見ることが多いようだ。