応援よろしく!   作:冷奴with紅しょうが

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マニーと差とオリジナル

 

 

スクールアイドル部部室には、新たなスペースが設けられた。

 

「じゃじゃーん!新たなメンバーを迎えるに当たり、部室を拡大いたしまシタ!」

 

大きなハンマーを掲げ、自慢げに言う可可(クゥクゥ)

 

「あんた一人でやったわけじゃないでしょ」

 

「強力してくれた理事長に感謝ですね」

 

「私達、期待されてるのね!」

 

すみれと(れん)が言った。

流石に部室の増改築となると、一人の生徒の身に余る。学校全体の後ろ盾があってこそだ。

 

「ごめんね。あんまり手伝えなくて」

 

「エイジくんも(あきら)くんも、怪我人なんだからそんな事気にしないで」

 

エイジの台詞にかのんがそう答えた。

エイジ達が退院直後という事もあり、応援部の稼働率は低かった。まだ包帯も取り切れていない。

一実(かずみ)がもう少し二年生に接近できればいいのだが。

「ふふ、言いましたね、見ててください、俺の成長!可可たん!」

 

「はいデス!」

 

そういうと二人は距離を取った後、身を乗り出すようにしながら近づき腕をギリギリまで伸ばして、人差し指どうしをくっつけた。

 

「何と触れられるようになりましたよ!」

 

「ET?」

 

章がツッコんだ。

なんか未知との遭遇みたいになってる。

まあ以前と比べればかなりの進歩だろう。

 

「練習メニューもリニューアルしてみたよ。一年生も増えたし、それぞれに合ったところから、始められたらいいかなって」

 

「流石ちぃちゃん!」

 

千砂都の言葉に、かのんが感嘆の声をあげた。

一年生が本格的に入部してきて、Liella!は変わろうとしている。やはり部長は彼女で良かった。

そんな話をしているところに、一年生組が合流する。早速練習開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上。ステップを繰り返し練習する。念の為エイジと章は見学していた。そして一段落する。

 

「ふえ〜!さっきのステップ、難しいっす〜!」

 

「私も〜!」

 

きな子とメイが尻もちを着いた。

 

「難しいよね。ここは手と足の連動が___

 

「ちょいちょいちょい!」

 

エイジが出て行って手本を見せようとすると、メイに止められた。

 

「エイジ先輩は怪我人なんすよ。もっと自覚を持ってください!」

 

「そうだぞ。見ててくれればいいからさ」

 

「そう?」

 

二人から言われて、渋々見学に戻る。

もう結構全快に近いんだけどな。

 

「でも四季(しき)ちゃんと一実くんは余裕そうだね」

 

「推しと踊れる幸せを噛み締めてます……」

 

「私は結構ギリギリ」

 

一実はBOARDだとして、四季だけ立って居られるのは何故だろうか。

 

「ダンスやってたの?」

 

「何も」

 

千砂都の質問に四季はそう返した。

科学好き=インドアみたいなイメージだが。ますます謎である。

 

「デハもしかして、スクールアイドルの動画を見て家で練習したことが___?」

 

「……それは」

 

可可の疑問に少し恥ずかしそうにする四季。

なるほど、自主練の成果だったか。

 

「恥ずかしがらなくて大丈夫。ここに居る全員、みんなやってることだから」

 

応援部も真似まではしないが、他のスクールアイドルのリサーチや研究も行っている。

 

「全員ってことは、メイちゃんも?」

 

「嗜む程度には、な」

 

メイは、きな子の言葉に少し照れたように答えた。

 

「でも、メイはそれだけじゃない」

 

白いタオルを鍵盤を叩くようになぞる四季。この動きはつまり。

 

 

 

 

全員で音楽室へとやって来た。ここにはピアノがあるからだ。

滑らかに鍵盤を叩き、演奏するメイ。

どうやら彼女はピアノが特技らしい。

演奏が終わった。

 

「メイちゃんすごい!」

 

「これは、作曲の新たな力になりますね!」

 

かのんと恋が言った。

見ている限り、弾いている間は詰まったり、淀んだりしていなかった。中々のスキルなのではないだろうか。

 

「ムリムリムリ!勘弁してくれよ……」

 

反面、本人はあまり乗り気ではないようだった。

確かに、いきなり作曲しろ、はハードルが高いか。

 

「羨ましいっす!」

 

「メイ、音楽とアイドルが大好きだから」

 

「だからちょっとだけだって言ってるだろ!」

 

盛り上がる一年生。だが突然きな子が暗い顔をした。

 

「それに比べて、きな子は……」

 

何も比べる必要は無いと思うが。

それに彼女にも強みがある。

 

「何言ってんだ桜小路。お前だって地道にやってるじゃねえか」

 

「そうよ。ノートに歌詞書き留めてるの、しってるんだから」

 

章とすみれが言った。

そうだ。きな子は時々、何かを思い付いたようにメモを取ることがある。きっと歌詞だろうと思っていた。

 

「あれは、いい言葉が思いついたら、書き留めてるだけで全然___」

 

「だったら、私のピアノだって、恋先輩に比べたら、全然」

 

「私のダンスも」

 

きな子につられて一年生皆が暗くなってしまった。

 

「いいんだよ、それで」

 

かのんが朗らかに言った。

 

「既にみんな上手だったら、私先輩の立場が無いでしょ?」

 

「練習して、少しづつ上手くなっていけばいいんだよ」

 

すみれと千砂都が言った。

まだ一年生達は始まったばかり。焦る必要などないだろう。

 

 

 

 

 

帰り道。一年生四人はベンチに座り込む。

 

「とは言ってくれているものの……」

 

「二年生はみんな凄い人達ばかり……」

 

「っすねえ……」

 

三人が落ち込んでいる。ここは応援せねば。

 

「大丈夫ですよ。先輩達も言ってたでしょ?差があって当然です」

 

一実は立ち上がり、全体に声をかけた。

 

「きっと来年の今頃は、先輩達みたいになれますよ」

 

「だといいけどな」

 

「予測してみる?」

 

そう言い、四季はタブレットを取り出した。

画面には二本の折れ線グラフが表示された。一本は理想の成長速度、もう一本は現在の成長度合いから算出された成長速度。

時間が経てば経つほど、二つの間は開いていった。

 

「到底……無理」

 

「よ、予測でしょう?成長度合いが一定とは限りませんよ。何かのきっかけでぐっと伸びるかも」

 

「カズミンは章先輩達と差を感じたりしないんすか?」

 

きな子の質問に、一実は考える。

オーズとしてリスクを抱えるコンボを果敢に使用するエイジ。

バースとして様々な武装を的確に使いこなす章。

怪人犯罪・災害共に多発する東京において多くの現場を経験した彼らは、既に歴戦の猛者と言えるだろう。

比較的平和な地元で、一実もそれなりにキャリアを積んだが、まだまだ二人には及ばない。確かに差を感じる。

だがそんな話をするわけにもいかない。

 

「エイジ先輩はペット探しとか超得意ですね。と言うか動物の方から寄って来ます。章先輩は……あの人なんでも出来るんですよね……部活の助っ人にしろ、生徒会の手伝いにしろ。まあでもスクールアイドルみたいに同じステージに立つわけじゃないので」

 

「そうだよな……何とかしないと」

 

差があってもそれで実害が出る事はない。協力し合えばいいだけだ。だがスクールアイドルとなるとそうも言っていられない。

一人の遅れが、全体の支障となる。それを思えばこそ、一年生は皆焦っているのだ。

 

「前向きに行きましょう。俺も協力しますから」

 

だからこその応援部。一実は自分の役割を理解していた。取り敢えず今は、無理をさせない事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。スクールアイドル部に一人のお客さんがやって来た。

来客、鬼塚夏美(おにつかなつみ)は満面の笑みだった。

 

「新たな……」

 

「一年生……」

 

「急に次々と」

 

「それだけ一年生にも浸透した、と言う事でしょう!」

 

かのん、千砂都、すみれ、恋が口々に言った。

 

「ついに、ついに来たデスか……!」

 

「ついに九人なんだな!」

 

「この日を生きている内に迎えられるなんて……!」

 

可可は咽び泣き、メイは興奮し、一実は万歳でもしそうな勢いで喜んだ。

 

「そりゃそうでしょ?八の次なんだから」

 

「九って何かあるの?」

 

すみれは当然のように言い、エイジは素直な疑問をそのまま口にした。

 

「だからすみれは何も分かっていないと言うのデス!スクールアイドルにおける九は絶対数!」

 

「そう!数々のレジェンドスクールアイドル達が作り上げた九の奇跡!」

 

「九!それはスクールアイドルにとって究極にして至高なんです!」

 

そうなのか。

可可、メイ、一実が熱弁する。似たような事を言ったのにすみれだけ怒られていた。

 

「これでついに!」

 

「Liella!もレジェンドスクールアイドルの資格を得たのデス!」

 

座る夏美を、メイと可可が挟みこんだ。

 

「さあ鬼塚さん、いや夏美たん!共にラブライブを駆け上がりましょう!」

 

さらに正面から一実は手を差し出した。三人共、熱いほどの期待の眼差しを向けている。

 

「あの〜、盛り上がってるところ、申し訳ないのですが……」

 

本当に言いにくそうに夏美は言った。

 

 

「入部希望じゃないの?」

 

「はい」

 

かのんの疑問に、はっきり彼女は答えた。

 

「糠喜びかよ」

 

「非常に残念です……」

 

「あんた達が早合点しただけでしょ!」

 

悲しみに沈む三人は、すみれに怒られた。

 

「それでは、どういったご要件で?」

 

恋の質問に、夏美はスッと立ち上がり、眼鏡をかけた。

 

「私、こういう者ですの」

 

彼女は名刺を差し出した。

 

「株式会社、オニナッツ……?」

 

「CEO……?」

 

「それ、きな子も昔貰ったっす」

 

千砂都とかのんが不思議そうに名刺を読み上げた。

 

「知らないの?代表取締役社長、ショウビジネスの世界では常識よ」

 

名刺を一瞥もしていないすみれが説明した。

 

「つまり……?」

 

「はい、動画配信を中心とした株式会社、オニナッツの社長を務めさせて頂いてますの!」

 

四季の質問に、夏美はハキハキと答えた。

 

「社長!?高校生なのに!?」

 

「へえ〜。凄いね。実業家だ」

 

「別に最近では珍しいことではないですのよ〜?」

 

かのんとエイジの感嘆に、夏美は大した事ないと言わんばかりだった。

 

「あの、ですからご要件は?」

 

恋が再び質問した。そうだった。それをまだ聞いていない。

 

「はい!今日来たのは、ご相談がありまして」

 

「相談……?」

 

「はい、実は___

 

かのんが聞き返した。夏美はニコニコしている。

 

___我が社で、Liella!さんのプロデュースを担当させて頂きたいんですの!」

 

ヒュー、パチパチパチ、と彼女は一人で効果音を担当した。

 

「プロデュースってなんすか?」

 

「簡単に言うと、企画と宣伝」

 

きな子の疑問に四季が答えた。

 

「YES!はい!その通り!動画を配信したり、ネットを使ってLiella!の魅力を外に向かって広げたり!」

 

夏美はタブレットを使い、自身の動画やグッズの画面をスクロールして見せた。

 

「なんか、大人の世界だね……」

 

「そんな事ありませんですの!今や高校生でも、自分でプロデュースしている人はたっくさん居る時代!」

 

自分達とは縁遠いように言う千砂都に、夏美が詰め寄った。

 

「確かに。そういった事を誰かにお願い出来れば、練習に集中出来ますね。応援部の負担も減りそうです」

 

「悪い話じゃなさそうっす!」

 

恋ときな子は乗り気だった。

確かに応援部でも、Liella!の撮影やSNSの発信を行っている。これを代行して貰えるならば、有難い話である。

 

「却下だ」

 

今まで黙ってスマホをいじっていた章が、冷たく言い放った。

 

「ふぇ……?」

 

突然の事に夏美は呆然としている。

 

「聞こえなかったか?断るって言ってんだよ」

 

「章?どうしたの急に?」

 

エイジの質問には答えず、彼の視線は夏美に向けられていた。

 

「今見さして貰ったけどな、鬼塚つったか?お前の動画全然伸びてねえじゃん。三週間で百単位とか埋もれてるだろ。木っ端じゃねえか」

 

「それは……その」

 

さっきまでハキハキ喋っていた夏美が、初めて口ごもった。

 

「Liella!の配信にしたって、SNSて事足りてる。エルチューブに手を出す理由もない。そのSNSだって応援部がいれば回していける。わざわざ部外者に頼る必要は無い」

 

「でも、俺達だって四六時中Liella!に着いて行けるわけじゃないですよね?そこをフォローして貰えるなら、みんなを繋ぐって目標の助けになるんじゃないですか?」

 

一実の言う通りだ。歌で皆を繋げていくならLTUBE、やってみてもいいのではないか?

 

「鬼塚の目的が同じならな。そうだろ?」

 

「うっ!?」

 

夏美の目は泳いでいた。

 

「お前の目的は何だ鬼塚?聞かせてくれよ?」

 

「そ、それはもちろん、我が社と結ヶ丘のさらなる発展と成長ですの!その為にLiella!さんは広告塔、もといカリスマになる逸材だと思っておりますの!」

 

眼鏡をかけ直しながら夏美は答えた。

 

「くせえ。嘘くせえ胡散くせぇ。これはビジネスの話だ。だったら信頼と実績は必要だろ。そのどっちもお前は欠けてる。金儲けがしたいなら他所を当たれ」

 

「章くん!」

 

かのんが叱るように章を呼んだ。

 

「夏美ちゃんはLiella!の魅力を見て、見込んできてくれたんだよ。そんな子相手に言い過ぎだよ!」

 

かのんは章を見据えた。

 

「ごめんね夏美ちゃん。章はちょっと疑り深いところがあるから。夏美ちゃんの動画や会社が駄目ってことじゃ全然無いんだよ」

 

エイジはすかさずフォローを入れる。

 

「章。Liella!のことはLiella!で決める。夏美ちゃんの相談を断るかどうかはかのんちゃん達が判断することだよ」

 

「とにかく俺は反対だからな」

 

エイジの台詞に、章は意志表明だけすると黙りこくってしまった。

 

「ですが、受ける受けない以前に、受けられないのではないですか?」

 

「そうよね。私達、お金なんてないわけだから」

 

恋とすみれが言った。

確かに、会社との契約となれば、当然金銭が絡むのは当然だ。

どうしたものか。応援部のポケットマネーで何とかなるだろうか?

 

「そ、それはわかっておりますの。ご心配なく」

 

夏美はタブレットの画面を切り替えた。

既に契約書面も完成済みらしかった。準備がいい。

そこにはこうあった。

 

「報酬は受け取らない。ただし、動画作成の実費として、動画収入を株式会社オニナッツが受け取る事とする!?」

 

書面の一部をすみれが読み上げた。

 

「あー、なるほど。動画収益がそのまま報酬になるんだね」

 

「なるほどじゃないわよ!割合十対ゼロじゃない!」

 

感心するエイジにすみれがツッコんだ。

 

「でも私達、お金儲けしたいわけじゃないし、これでいいと思うな」

 

「一応多数決とっておこうか。応援部の皆も投票してね」

 

かのんが言い、千砂都が部長として決をとった。

賛成多数で株式会社オニナッツとの契約は締結された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイジの部屋に十二人は集まった。

Liella!による大富豪が行われていた。Liella!の日常というコンセプトで動画撮影である。

 

「オニナッツ〜!あなたの心の鬼サプリ、オニナッツこと鬼塚夏美ですの!今日は何と、夏美の通う高校のスクールアイドルが登場しますの!エルチューバーとしてずっと思っていた、Liella!に会いたい、その人気の秘密を探りたいんですの〜!」

 

オープニング。ハイテンションで固定したスマホにまくし立てる夏美。そしてスマホを手に持ち替えた。

 

「では、Liella!の日常に潜入してみますの〜!」

 

カメラはまずかのんを捉えた。

 

「ええ!?私じゃなくてすみれちゃんの方撮ってよ〜」

 

「あんた、本当にこういうの苦手ね……」

 

「さあ、貧民と大貧民はいいカードを寄越すデェス!」

 

既に二回、大富豪となった可可は態度まで大きくなっていた。

因みに富豪は恋、貧民はかのん、大貧民はすみれ、他が平民といった具合だ。

八人での大富豪は、流石に運に偏り過ぎるかもしれない。

カードの交換が終わり、三度戦いの火蓋は切って落とされた。

 

「あの、俺が撮影係でいいんですか?」

 

一実が夏美とは別角度から録画し、素材集めしてくれている。

 

「いいのいいの。むしろごめんね、混ぜて上げられないけど」

 

「あ、それは大丈夫です。あの輪に混ざったら昇天しちゃうんで」

 

「そっか……」

 

まだ一緒には遊べないか。

大富豪はまたも可可の優勢で進んでいく。盛り上がって来たところで、章の肩を叩く。こっそり寝室に呼び出した。

 

「で、章は何を感じたの?」

 

エイジも章が無闇に夏美を否定したとは思っていない。彼しか見えていない何かがあるはずだ。

 

「あいつからは俺と同じ匂いがする。間違いなく守銭奴だ」

 

「章は言うほど守銭奴じゃないでしょ……」

 

「いんや、俺の金の優先度と執着、舐めるなよ」

 

そこまで言うなら別に何も言わないが。

彼は壁に寄りかかり、腕組みをした。

 

「契約書見たか?」

 

「いやあんまり」

 

「確認しろよ……動画収益全部が鬼塚一人の物になるんだぞ」

 

「それは聞いた。でも大した額じゃないでしょ?そもそも夏美ちゃんの動画の再生数が低いって言ったの、章じゃない」

 

「Liella!が出演すれば話は変わる。恐らく今回からは再生数が比にならんくらい伸びる。Liella!のフォロワー数覚えてるか?」

 

「確か、十一万くらい?」

 

「それが一気に流れ込んでくれば、な?鬼塚もそれを狙って近づいて来たはずだ」

 

そうなのだろうか。エイジも腕組みをして考える。

エイジとしては収益が高かろうが低かろうがどっちでもいいのだが。と言うか、高いほうがLiella!の事をより多くの人に知って貰えるのではないか?

 

「どうでもいいって顔だな」

 

「いや、そんな事は……あるけど」

 

「それに契約書にゃあ、契約の破棄についてペナルティが一切書かれていない。鬼塚自身の資産の問題もあるんだろうが、恐らくはLiella!に人気がなくなれば、さっさと切り捨てるつもりだぞ」

 

「えー?そうかなぁ?」

 

「総括して、鬼塚は金儲けのことしか考えていない。そんな奴Liella!に近づけさせても、百害あって一利なし、だ」

 

「……いつもありがとうね」

 

「何だよ急に?」

 

気色悪い、と彼は顔を逸らした。

 

「いや、いつも損な役回りばっかりして貰って。本当助かってる」

 

「そう思うなら、少しは疑う事を覚えやがれ!」

 

言いながら、章はアイアンクローを極めてきた。

あいたたた。

 

「エイジくーん!」

 

扉の外から呼ばれた。かのんの声である。

 

「はーい。今行くー」

 

出ていくと、夏美から至近距離でスマホを向けられた。Liella!の撮影じゃなかったか?

 

「短刀直入にお聞きしますの。Liella!の嵐千砂都さんとは、どういった関係ですのー!?」

 

「……幼なじみです?」

 

状況がよく分からない。周りを見渡すと、二年生組が困ったように笑っていた。

 

「嘘ですの!ただの幼なじみの家に、どうして千砂都先輩の歯ブラシやお箸があるんですの!?」

 

「二人は付き合ってる?」

 

「と言うか同棲じゃねえかー!?」

 

四季の質問。メイが顔を両手で覆い、ビターンと倒れた。

ああなんだ、そういう話か。

 

「よくちぃちゃんが来てくれるからだよ。他のみんなも来てくれるけど、ちぃちゃんが一番頻度が高いから」

 

週に二、三回ほど彼女はこの家を訪れる。もっぱらご飯を作りにだ。頻度は違うが、他のメンバーも同じである。やましいことは一つもない。

 

「それだけですの〜?本当は二人の愛の巣なのでは___

 

「夏美ちゃん」

 

「ひぇっ!?」

 

千砂都が笑顔で夏美のスマホをガシッと掴んだ。当然怒っている時の笑顔である。

 

「私とエイジくんは仲の良い幼なじみ。それだけだよ」

 

ニコニコと。まあここまで的外れな勘繰りを受ければ怒りもするか。

 

「夏美ちゃん。二人には何もないから、撮れ高にはならないよ」

 

かのんがそう言い、その場を治めてくれた。

 

「あ、そうだ。エイジ先輩、あれ使ってもいいっすか?」

 

話題転換。きな子が指さしたのはゲーム機である。少し前に実家から持ってきたのだ。

 

「これが、ゲーム機!?」

 

驚いたのは恋である。見た事も聞いた事もないといった雰囲気だ。

では早速やってみよう。こんな事もあろうかと、話題のパーティーゲームを買っておいたのだ。

 

Liella!は今ちょうど八人。二人づつの四チームに分かれて対戦した。大富豪よりは盛り上がったので、良い撮れ高になっただろう。

そうこうしている内にいい時間になった。

 

「それでは、今日はお疲れ様でした〜」

 

夏美が皆に言った。全編通して、本当に遊んでいるだけだった。

 

「案外、ゲーム楽しかったね」

 

「恋ちゃんの意外な一面も見られたし」

 

千砂都とかのんが話す。

恋に視線を移すと、スマホゲームに集中していた。

 

「やりました!また一位です!」

 

「すっかり夢中だね……」

 

喜ぶ恋にかのんが言った。

 

「では、お先に失礼するっす」

 

「ああ、待って、送るよ」

 

エイジは今日は一年生組を送ることになっていた。夏美を一実が、二年生は章の担当である。彼はこの後詰められるんだろな、というのがよく伝わって来た。だが誰も章が理由も無しにそんな事を言わないと分かっているだろう。怒ったり嘆いたりはしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は楽しめた?」

 

「はいっす!」

 

自販機で人数分のジュースを買う。部活ではLiella!の二年生が頼りになる分、こういうところで先輩風を吹かさなければ。

三人に手渡すと皆律儀にお礼を言う。それくらいいいのに。

 

「先輩達、みんな割と普通」

 

「え?何が?」

 

四季の言葉に聞き返した。

 

「練習の時は凄くて、ちょっと近寄りがたいんすけど」

 

「遊んでる時は普通だったなって」

 

きな子とメイが引き継いだ。

そんな風に感じていたのか。

 

「みんな普通だよ。可愛いくて凄い特技をもってるだけの、普通の女の子」

 

「その凄い特技ってのが」

 

「敵わないんすよね……」

 

「可愛さも」

 

「「「はあ……」」」

 

三人して肩を落とした。どうしたのだろうか。

 

「可愛いさは一年生のみんなも凄いよ?鏡見てきて?」

 

「可愛くは、ない……」

「可愛くはねえよ……」

 

またも三人とも、照れたようにそっぽを向いてしまった。

 

「エイジ先輩は誰にでもそう言う事言うの、良くないと思うっす。千砂都先輩だけにしてあげてください」

 

「あはは。章と同じ事言うんだね。でも事実だし、スクールアイドル続けるなら、可愛いって言われるのは慣れなきゃね」

 

「章先輩とおんなじ事言うんすね……」

 

本当?思考が似てきたのだろうか。

そこでふと思う。

 

「もしかして気にしてる?二年生との差」

 

「気にするなってほうが無理だろ」

 

「Me too」

 

きな子も頷いた。

なるほど。でもエイジはそれほど心配していない。

ジュースのキャップを開け、一口飲んだ。冷たい感覚が下っていく。

 

「大丈夫だよ。みんな二年生に追い付く要件は持ってるから」

 

「ホントか!?」

 

「一体何っすか!?」

 

「それはね、情熱」

 

エイジは端的に答えた。

 

「可可ちゃんも、見てて不安になるくらい体力無かったけど、スクールアイドルが好きだー!っていう情熱で乗り越えてきたんだ。みんなも好きでしょ?動画とか見てても、真似して練習しちゃうくらいワクワクするんでしょ?だったら大丈夫だよ」

 

「エイジ先輩……」

 

きな子が呟くように呼んだ。

 

「落ち込んでても、何も始まらない」

 

「そうだよな。もしかしたら、私達が思ってる程差なんてないのかもしれないよな」

 

「っすね!」

 

三人はジュースをぐっと飲んだ。

 

「その意気その意気。でも無茶しちゃ駄目だよ。もう熱中症が怖い時期だからね。あ、それと___

 

エイジもエイジで、少しだけ話があった。

 

___章の事、嫌わないであげてね。あれで居て、みんなの事、一番心配してるから」

 

彼は今頃、二年生から問い詰められている頃だろう。

 

「それは分かってます。きっと何か理由があるんすよね」

 

そう言うきな子は、株式会社オニナッツとの契約に賛成も反対も投じていなかった。恐らくは章の意図を汲んでくれたのだろう。

 

「夏美ちゃんの件は、正直現段階では判断は難しい」

 

そう言う四季も、無効票ならぬ無投票だった。

急な話なのだから、さもありなん。

 

「ちょ、やめろよ。賛成した私が考え無しみたいじゃねえか」

 

「分かってるよ。俺達の負担を軽くしようとしてくれたんでしょ?」

 

「ま、まあ、そういう考えも無いことも無いけど……」

 

口とは反対に優しい彼女の考えはちゃんと伝わっている。

 

「明日は俺と一実くん居ないから。章と仲良くね」

 

「何かあるんすか?」

 

BOARD(ボード)の用事が、ちょっとね」

 

三人の一番後ろにいたメイが、え?という顔をした。

大丈夫だよ。とジェスチャーする。

とは言え、エイジも呼び出しの理由は知らされていない。ともするとオーズドライバーを取り上げられるかもしれないが。

二度目の暴走を起こした以上、文句は言えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BOARD東京本部基地は物々しい雰囲気だった。いつもより警備が厳重なような。

一実と共に歩いて行く。

 

「ごめんね一実くん。こんな事に巻き込んで」

 

「謝罪はもう何回も聞きましたよ。俺は気にしてません。それにまだ処分されると決まったわけじゃないでしょう?」

 

一度目の暴走は政治的な目論見があって免れたが、今回は特に大きな事件というわけではない。

人的にも物的にもこれだけの被害で済んだのは奇跡だが、だからと言って処分を免れるとは思えない。

 

「強いて言うなら、先に話して欲しかったですけど、機密じゃ仕方ないですよね。それに俺、暴走するライダーなら、もっとおっかないの知ってますから」

 

彼は今回の戦闘で肋骨を折っていた。BOARDならすぐに治癒出来るとはいえ、痛い思いをさせられたはずなのに。

 

「そっか……。ありがとうね」

 

「それも、何回も聞きましたよ」

 

一実のフォローは身に沁みた。しかし世の中には自分意外にも暴走するライダーは居るのか。

もし処分されなければ、その話も聞いてみようか。

オペレーションルームの扉、その前に立ち、深呼吸。

 

「失礼します」

 

一歩踏み出すと、扉は自動で開いた。

中では業務をこなすオペレーター陣と司令官、志摩郁代、その後ろに四人のスーツにサングラスを掛けた男性がいた。

 

「時間通りね」

 

郁代が言った。

四人の男は微動だにしない。その立ち姿から、恐ろしく訓練を積んできたのがエイジには分かった。

この人達に連行されるのだろうか。出来ればお手柔らかにお願いしたい。

 

「まずは二人、いや三人共か。怪我こそ酷いけど命があって何よりだわ」

 

「いえ、全部俺のせいですから。どんな処分でも受けます」

 

「処分?」

 

郁代はキョトンとしていた。

 

「え?あの、それで呼び出したんじゃないんですか?」

 

「違うわ。責任があるとすれば司令官の私。あなたを、オーズをヒーローとして祀り上げると決めた時から、こういう可能性は承知の上よ。こんな時の為に章にオリジナルを持たせてたんだから」

 

それは承知していた。章とエイジが組まされたのは、万一暴走した時の為だ。

しかし、暴走してもお咎め無しとは。いや、責務を果たす事が最優先か。

 

「じゃあなんで呼び出されたんでしょう?」

 

一実の質問に、郁代はピースをした。

 

「大きく分けて二つよ。一つ、仮面ライダーデュークの身元が判明したわ」

 

違った。数字の二であった。郁代は二本あげていた指の一本を折る。

 

「バットショットの映像を解析して判明したわ。名前は仙石竜馬(せんごくりょうま)。元BOARDの仮面ライダーよ」

 

「「元BOARD!?」」

 

エイジと一実は驚く。

元BOARDの人間が大規模テロの実行犯など、世間にバレればスキャンダルどころではない。

 

「数年前に行方不明になって以来、生死不明だったんだけれど、まさかこんな形で見つかるなんてね」

 

「そんな人がどうしてハンドレッドで研究なんか……」

 

「人格障害の可能性は?」

 

エイジの言う人格障害とは、心理学的な意味ではない。

仮面ライダーに成る際、適合者は適合元の記憶と人格を継承する。だがそれは善人ばかりではない。

中には性根の腐った者、つまりは悪人も含まれる。それの影響をモロに受けるのだ。それによって人格に支障を来たす例は少ないが存在する。

つまり今の状態が本意ではないと言う可能性だ。

 

「診断しない事には何とも言えないわね。何度か接触してる身としてどう?」

 

「そうですね。あんまり支離滅裂な感じは受けませんでした」

 

あくまで自分の意志が確立していたように思う。捕まえれば分かる事だが。

デューク、レモンエナジーアームズ。

オリジナルを使ったあのライダーの戦闘力は高い。怪人で言えばゴ級に匹敵しかねない。

 

「そうね。だからこその二つ目よ。渡してちょうだい」

 

後ろに控えていたスーツの男達が、エイジと一実へ一つずつ、ジュラルミンケースを差し出し、開いた。

中にはコアメダルは十枚以上。数えてみると六✕三枚ずつの計十八枚。

 

「もしかしてこれって?」

 

「そう。オリジナルよ。何とか輸送成功ね」

 

このむくつけき男性達は、なるほど変身アイテムの輸送任務に当たってくれた隊員達だったわけか。

 

「任務達成だ志摩さん。俺達はこれで失礼するぜ」

 

四人の内の一人がサングラスを外しながらそう言った。

 

「司令官と呼びなさいエース。任務お疲れ様」

 

四人はオペレーションルームから退出して行った。

 

「俺達だけが呼ばれたのは、この受け渡しのためだったんですね」

 

「そうよ。章君はもうオリジナルを持ってるから。それに付いても使用許可を出しました」

 

エイジの質問に郁代はそう言った。

 

「これであいつらにも対抗出来る……!」

 

言いながら、一実はゼリーと水色のフルボトルを握り締めていた。

 

「しかしよくこれだけのオリジナルの使用許可が降りましたね」

 

「無論タダではないわよ。入って」

 

扉が開く。すると一人の女性が入って来た。十代後半から二十代前半と言った年格好のその人は、両手を前で重ね、目が合うとニコッと笑った。

いや違う、彼女は人ではない。

 

「ヒューマギア?」

 

一実が呟く。

ヒューマギアとは、BOARDで実用化された人工知能搭載人型ロボット。要は高性能なアンドロイドである。見た目は人間と遜色なく、両耳に白いヘッドギアが付いているので、それで初めて人間では無いと判断出来る。

主にBOARDで人手が不足している地域で運用される。だがここは東京。人材なら山程居るので必要ないはずだが。

 

『はじめまして。私はイズミ七号。志摩司令官の秘書にして、みなさんのお目付役です』

 

「……ああ、なるほど」

 

お目付役、か。

つまりオリジナルを運用させて貰う代わりに、監視が付いた分けか。

 

「宜しくね、イズミさん」

 

エイジは握手を求めてみた。

 

『はい。宜しくお願いします』

 

基本的なコミュニケーションのラーニングは済んでいるらしく、握手は淀みなく行われた。

お目付役とは言うが、今のところ敵愾心のような物も感じられない。ようは東京本部の新しい仲間である。

イズミの紹介も済んだところで、郁代は一つ咳払いをした。

 

「これは争奪戦よ。敵が持ってるコアメダルとあなたが持っているコアメダル。当然エイジ君は狙われる事になるけど、覚悟はいい?」

 

「その質問は、二年遅いですよ」

 

エイジの覚悟は決まっている。あの日からずっと、ヒーローとして祀り上げられた時からずっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。スクールアイドル部では夏休みに向けたミーティングが行われていた。

 

「それでは、夏休みの練習メニューを配りマス」

 

目を通してみると、中々ハードである。

 

「うわぁ……毎日?」

 

メイが引いたように呟いた。

そりゃあそうもなる。

 

「本当にこれだけやるつもり?」

 

「当たり前デス!サニパ様は今年も出場するのデスよ!」

 

すみれの質問に当然とばかりに返す可可。

 

「オーバーワークにならないよう、章くんとも話し合って、バランスは考えてあるんだ。どうかなエイジくん?」

 

「二人が考えたんなら、俺がどうこう言うレベルにないと思うけど……」

 

千砂都の質問の意図がわからず困惑する。

するとお尻を章に軽く蹴られた。あいた。

 

「バカヤロウ。お前も部長だろうが。全体の是非を判断しやがれ」

 

そういう意味だったか。

自分が部長かー。ともするといつも忘れてるんだよなー。

とはいえ、この間、次は勝たせると約束したばかりである。少し高いハードルも乗り越えさせてあげなければ。

 

「うん。良いと思う。サニパさんに勝たなきゃ、決勝へは行けないんだしね。多少厳しくても、ね」

 

かのんとアイコンタクト。彼女は頷いた。

因みにこのミーティングも夏美は撮影していた。今度はどんな動画を上げてくれるのだろう。

 

「そうっすよね、相手はサニパさんっすもんね」

 

「そんなに凄いの?」

 

サニパを知らない四季が、メイに聞いた。

 

「そりゃ去年のラブライブ優勝者だからな。ぱあ___」

 

メイは何かのジェスチャーをしようとして、途中でやめた。

その姿を見た一実がニヤニヤしている。

 

「それに、夏休み明けには学園祭があります」

 

「そっか。そこでも歌いたいよね」

 

恋の言葉に千砂都が同意した。

そうだ。すっかり忘れていたが、学園祭がある。今年は流石にメイド服を着させられたりしないだろう。

 

「て、事は別にもう一曲!?」

 

「Heavy……」

 

驚くメイと嘆く四季。

この長期休暇の間に、二曲も物にしなければならない。悲鳴も上げたくなるだろう。

 

「一年生にそこまで求めるのは、流石に可哀想じゃないの?」

 

聞いていたすみれが声を上げた。

きな子はまだしも、メイと四季は入ってまだ一ヶ月も経っていない。酷な話かもしれない。

 

「一年は地区大会に照準合わせて、学園祭は二年だけって手もあるぞ」

 

章が言った。

確かにその案なら、一年生の負担は大きく減るだろう。

しかし。

 

「俺は正直、全員のパフォーマンスが見たいですけど、無理は言えませんよね……」

 

一実の台詞の後、少しの沈黙が流れた。

 

「それは駄目だと思う」

 

それを破ったのはかのんだった。

 

「この八人でLiella!になったんでしょ?みんなの前で歌うんでしょ?みんな、それを楽しみにしてると思うんだ」

 

「私もかのんちゃんに賛成かな。出来る範囲でいいから、頑張ってやってみない?」

 

思いを語るかのんに、千砂都が賛同した。

 

「完璧じゃなくていい。大切なのは、学校のみんなに、八人で歌を届けるってことだと思うの」

 

かのんの言葉に、一年生三人の目の色が変わった。

 

「きな子はいいっすよ!」

 

「Me too」

 

二人は参加表明した。

メイは少し俯いた後、前を見据えた。

 

「……わかったよ」

 

「メイちゃん、みんな……!」

 

情熱の共鳴に、かのんが感嘆の声を漏らす。

全員の意見は合致した。

 

「……なるほど、そういう構図になっているんですのね」

 

夏美が、何か呟いた。

 

「どうかした?」

 

「何がなるほどなの?」

 

「いえ、何も……ヒェッ!?」

 

すみれとエイジの質問に、何でもないと言う夏美。だが直後怯えだした。

彼女の視線の先には章が居た。

 

「ちょっと章、目が怖いよ」

 

「生まれつきだ」

 

そんな分けあるか。

章の極寒の視線は、養豚場の豚でもみているかのようであった。そこまで警戒しなくてもいいんじゃないか?

 

「それでは、ランニングに行きまショウ!」

 

「夏美ちゃんは、どうする?」

 

「あー。では、撮影しながら着いていきますの」

 

かのんの質問に、夏美は笑顔で応えた。

 

その笑顔は潰えた。夏場、炎天下の中、学校外へと走って行く。

二年生が前を、一年生がその後ろを、更にその後に夏美が。

彼女は既に肩で息をしていた。エイジは夏美と並走する。

 

「夏美ちゃん、大丈夫?」

 

「みんな、どうか、してるんじゃないの、」

 

「あはは、そうかも」

 

「エイジ先輩も、そんな荷物、抱えて、なんで笑顔、ですの?」

 

エイジ、章、一実は人数分のスポーツドリンクを分担してリュックサックに詰めていた。

 

「走る理由があるからね。それにみんなで一つの目標に向かうのは楽しいよ」

 

「理解、出来ませんの!」

 

夏美にとってはようやくだろう。目的地の公園へと辿り付いた。

応援部は全員にスポーツドリンクを配る。もちろん夏美にも

 

「夏美ちゃんも。はい」

 

「ありがとう、ございます、ですの」

 

受け取った彼女は喉を鳴らして飲んだ。

 

「しかし、これもマニーの為、再生回数為!」

 

「うんうん。お金は大事だよね」

 

「あ、いえ、その、再生回数が増えれば、Liella!のことをもっと多くの人に知って頂けますの!」

 

章が言っていることが嘘だと思わないが、夏美の心根がお金稼ぎだけとも思わない。きっとこれも本心の一つなのだろう。

木陰の石柱に座り込んで居た夏美が立ち上がった。

 

「は〜い。それでは、みなさんから一言ずつもらいますの」

 

夏美はそう言い、自撮り棒に取り付けたスマホを掲げた。

 

「え?今日はミーティングと練習風景だけのはずじゃ___

 

「固いこと言わず、Liella!のPRの為ですの。カメラ目線で明るく、画面の向こうのみなさんに思いを込めて、どうぞ」

 

スマホはかのんに向けられた。

 

「え、え〜と、Liella!の澁谷かのんといいます。好きな食べ物は……」

 

「自己紹介じゃないんですの。もっと自然に!笑顔ですの」

 

「え?え〜と、あはは……」

 

少しづつ後退して行くかのん。一目散に逃げ出した。

 

「全く、仕方ないんですの。では__ん?」

 

「これについて、話があるんだけど」

 

夏美に歩み寄った、否詰め寄ったのはすみれだった。彼女のスマホはエルチューブに上げられた、Liella!の動画を映している。

 

「エルチューブですか?」

 

「急に何の話デス?」

 

恋と可可が聞いたが、すみれは答えない。

 

「俺も見たよ。夏美ちゃん編集上手だよね!」

 

「そうそう、編集が……じゃないわよ!エイジは黙ってなさい」

 

怒られた。そういう話ではないらしい。

 

「これ、結構再生数稼いでるみたいね」

 

すみれは画面を見せ付けた。

この前のLiella!の日常と題した、遊んでいるだけの動画が、つい先日のアップにも関わらず五万回を突破していた。

 

「そ、それは、良かったですの……」

 

「あんた、章が言うように私達を使ってお金儲けしようとしてるんじゃないの?」

 

すみれが詰める。

 

「何を言い出すかと思えば、すみれみたいな卑しい考えと一緒にするなデス」

 

「そうだよ。今日だって、走る必要もないのにわざわざ着いて来てくれてるんだよ?」

 

可可と千砂都が言った。

うーん。正直それ自体は事実だろうが、それだけではないだろう。しかし黙っていろと言われたしなあ。

そこで四季が手を上げた。

 

「実は、私も調べた」

 

そう言って自身のスマホを二年生達に見せてくれた。

 

「このまま行くと将来的な収益は……」

 

右肩上がりのうなぎ上りだった。

 

「こんなにですか!?」

 

「知らないかったデス!」

 

「私達に内緒で」

 

「最初から言ってんだろ」

 

恋、可可、千砂都、章が言った。

二年生組が夏美を睨む。

 

「ちゃんと説明してくれる?ショウビジネス的にはあり得ない話なんだけど」

 

「それは〜、その〜」

 

すみれが代弁者となって、更に夏美を詰める。

エイジはその間に割り込んだ。

 

「まあまあまあ、そんなにカリカリしないで。この動画でLiella!を知ったって人も居るわけだし、着実にPRになってるよ」

 

「エイジさん!そういう問題ではありません!」

 

「そうデス!これだけの金額を、黙ってポケットに仕舞おうとしてたのデスよ!」

 

「そんな事しようとした相手を、あんたは信用出来るの?」

 

「信用はこれから築いていく。それに労働には報酬が必要だよ。それが少しくらい大きいだけ。そんなに問題かな?」

 

二年生組全員に溜め息を付かれた。

 

「楽観的過ぎるよエイジくん……」

 

「どけエイジ。お前の理屈じゃ誰も納得しねえ」

 

章に肩を掴まれ、押しのけられた。

彼は夏美に迫っていく。気圧された夏美が後ずさる。

 

「ビビるなよ鬼塚。ただ説明しろって言ってるだけだぜ?」

 

「あー!!あんなところに怪人が!!」

 

「なに!?」

「「「「「「「「「え!?」」」」」」」」」

 

 

突如夏美が叫んだ。

エイジはオーズドライバーを腰に当て、指さされた方向へ向くが___何もない。

章と一実もドライバーを巻いて、ポカンとしている。

夏美は走って逃げていく。

 

「待てコラ!走りで逃げられると___

 

章がそう言いかけた時、本当に怪人警報が鳴った。

 

「鬼塚の件任せた!行くぞエイジ、申川」

 

「うん!」

「はい!」

 

三人で、急いでその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

『目標はピーコックアンデッド。ゴ級怪人です。マインドコントロールに注意して、必ず三人で対処に当たってください』 

 

「「「了解!」」」

 

オーズ、バース、グリスが現場に到着すると孔雀の羽根が各所にあしらわれた怪人が暴れていた。

今回は怪人災害か。

敵は羽を手裏剣のように複数飛ばして来た。三人は分かれて躱す。

オーズ、タトバコンボが最前線を担当する。右手にメダジャリバー、左手にメダガブリューを構え、突撃する。

ピーコックアンデッドは手にした片手剣を振り下ろしてきた。

剣と斧を交差させ、しっかりと受け止める。

 

「おらぁ!」

 

オーズを飛び越え、上からツインブレイカーアタックモードで殴るグリス。怯んだ。ところへメダジャリバーの斬撃を浴びせる。

グリスと交互に斬撃と打撃をお見舞いする。

敵は再び羽手裏剣を空中に展開、さっきより数が多い。

だがそれが降り注ぐより先に、バースが全て撃ち落とした。

敵が狼狽えた瞬間を見逃さない。

 

『シングルブレイク!』

 

グリスはツインブレイカーへロボットフルボトルを装填。

オーズはそれに合わせてメダガブリューをぶつける。

敵を吹き飛ばした。

 

『セルバースト』

 

『スクラップフィニッシュ!』

 

『スキャニングチャージ!』

 

「はああ!」

「どりゃぁ!」

「せいやー!」

 

三人の必殺技が炸裂。ピーコックアンデッドは地に伏せた。

オーズが未封印のカード、コモンブランクを取り出し投げつける。ピーコックアンデッドが封印されるとカードは手元に戻ってきた。

 

「今の、本当にゴ級?」

 

「歯ごたえ無かったっすねー」

 

オーズの疑問にグリスが同意した。

三人の連携も巧くなったが、それ以上にオリジナルによる戦力強化は想像以上だ。まさかコンボを使わずに倒せるとは。

 

「ゴ級怪人っつても一番上ってだけでピンキリだからな。油断するなよ。いつ奴らがお前のコアメダルを狙ってくるか、わからねえんだから」

 

バースが言った。確かにゴ級怪人に乗じて襲ってきてもおかしくない。

だが警戒すれど、そんな気配は微塵もない。今回はこれで状況終了となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイジ達三人は、千砂都のバイト先であるたこ焼き屋を訪れた。

そこにはかのんも居た。夏美の件で電話すると、ここに居ると言われやって来たのだ。

 

「夏美ちゃん捉まった?」

 

「ううん。逃げて行っちゃったまま。メッセージは既読になるんだけど」

 

エイジの質問にかのんが答えた。

そうか、では話は出来ていないのか。

 

「図星だから逃げ出したんだろ。で、どうするつもりだ?」

 

「かのんちゃんとも話し合ったんだけど、もう少し様子見ようって」

 

「はあ!?」

 

千砂都の発言に、章は驚いてかのんを見た。

 

「どう考えても真っ黒だろうが!とっとと契約切っちまえよ!」

 

「いや、章くんやすみれちゃんが間違ってるって言ってるわけじゃないんだよ?ただ、それだけじゃない気がして……」

 

「平安名は?それで納得したのか?」

 

「一応はね」

 

「変なとこ甘いんだよなあいつ……」

 

章は両目を片手で覆い、天を仰いだ。

 

「ごめんね章くん。でも___

 

「分かってる。決定に口は出さない。そういうルールだ。揃いも揃ってお人好しが……」

 

「ありがとう」

 

溜め息混じりに言う章に、感謝を述べるかのん。

 

「一実くんもごめんね。不満は……そりゃあるよね」

 

「……まあ正直に言えば、どうなんだろうなとは思ってますよ。でもそれじゃあ器がちっせえですしね」

 

部長として謝る千砂都に、一実が言った。

 

「あーあ。いっその事、鬼塚さんがLiella!に入ってくれれば、全部丸く収まるんですけどね」

 

「「それいいね!」」

 

一実の呟きに、かのんとエイジが反応した。

 

「Liella!に入れば、動画活動も契約とか関係なくなるし」

 

「最悪Liella!じゃなくて応援部でも部費って形で置いておけるし」

 

「「うぃすー!」」

 

かのんとエイジはピースを合わせた。

 

「そんな簡単にいくか?なあ?」

 

「丸く収まる……いい言葉だよね」

 

「どこに感動してんだよ……」

 

千砂都の予想外の反応に、呆れる章。

彼の溜め息は深かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。一実が登校すると、肩を叩かれた。

 

「メイたん?」

 

「一実、ちょっといいか?」

 

メイだけではない。四季もきな子も居る。

 

「実は___

 

 

 

 

 

 

放課後、応援部とLiella!はスクールアイドル部部室に集まった。夏美はまだ来ていない。やはり章を恐れているのかもしれない。

 

「練習の前に、話がある」

 

四季が言った。

 

「夏休みの間、一年生だけで別行動させて欲しいんだ」

 

メイの言葉には、思いの重みがあった。

 

 

 

 

 





BOARDでの治療
基本的には医療機関を主軸に治療を行う。
変身アイテム由来の超常的な治癒も可能だが、患者の心身に負荷をかける為(シフトカー・マッドドクターなどがいい例だ)慎重に行われる。
なので緊急性がある場合や、現場復帰の為の治療期間の短縮が主だ。

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