一年生達は、自分を見つめ直すためにも、別行動させて欲しいと。
その意見は聞き入れられた。共感した
エイジは去年の夏を思い出す。そういえば彼女も、一人で大きな目標を成し遂げようとしていた。一人でやる事に意味があると。
「じゃあ応援部も分かれようか。
「ちょっと待ってください!」
待ったの掛けたのは
既に
「章先輩が来たら、一年生だけじゃ無くなっちゃうでしょう?俺に行かせてください。責任もって応援しますから」
「一実くん……分かった、一年生のみんなをよろしくね」
そうして本当に一年生だけの強化合宿が決まった。
下級生のいない夏休みがやって来る。
夏休み初日。家に来てくれた千砂都と、朝食を済ませ登校する。
「なんかデジャヴだね」
「何が?」
「一年生達の事。去年のちぃちゃんも同じような事言ってたよね。あの時は驚いたなあ」
「うん。一人で何とかしなきゃって思ってたから。一年生も同じ気持ちなんだと思う。二年生に追いつきゃなきゃって」
そういえば、二年生と差を感じるという話をしたのだった。
なるほど。それが発端か。
「でも、私は心配してないよ。だって、みんなは一人じゃないから」
彼女はそう言い、朗らかに笑った。
部室に到着し、勢いよく扉を開く。
「うぃすー!___
「おはよう___
___あれ?」」
スクールアイドル部、その部室の雰囲気は暗かった。
「「どうしたの?」」
千砂都とエイジのハモリに章が顎で示した。
「隣が空気を重くしてるのよ」
すみれも答えてくれた。彼女の隣、かのんは両手で顔を覆い、俯いて唸っていた。
「ここは幼なじみの出番デス」
かのんと千砂都、三人で屋上にやって来た。
「何が悪かったのかなって……」
可可と応援部で作った大きなサンシェードの下、かのんは呟いた。
「悪い?」
千砂都が聞いた。
「うん。せっかく一年生も入って来て、夏休みはみんなで賑やかに練習だーって思ってたのに……」
どうやらかのんは八人全員で練習したかったようだ。その上、今回の合宿を、二年生に何か問題があったのではないか、と考えているらしい。
「一年生、言ってたでしょ?二年生が悪いとかじゃないって」
エイジが言った。
別行動の話が出た際、真っ先に恋とかのんが、自分達が悪かったのではないか?改善するので言って欲しいと言った。
だが一年生全員がそれを否定したのだ。
「心配しなくても、みんなは良い先輩出来てると思うよ」
「でも……」
かのんは座りこんだ。顔はまだ浮かない。
「とう!」
「あだ!?」
見かねた千砂都が、かのんの頭にチョップした。
「自分達だけでやってみたいって言ったんだよ。私ね、それは凄い素敵な事だと思う」
「その通りデス!」
ドアから可可が顔を覗かせた。どうやらこっそり聞いていたらしい。可可だけではない。皆が入って来た。
「何も言わずに待つのも、上級生として必要な事です」
「私達も更にレベルを上げて、ギャラクシーな目標になるのよ!」
恋とすみれが言った。
「それに、夏休みが明ければいよいよ地区予選。その前に学園祭もあるのデスよ」
「みんな……うん!」
かのんはようやく笑顔になった。
「しかし、澁谷は意外と気にしいだな」
「む、それ章くんにだけは言われたくないかも」
「はあ?」
予想外の反撃を受けた章はキョトンとしている。
「夏美さんの同行、最後まで渋ってましたものね」
「『待て、そいつが居るなら話が違ってくるだろ』ってね」
すみれが章の真似をする。
「よっぽど一年生が大切なのデスね?」
「俺は現実的なリスクの話をしてんだよ。ここはどうにも能天気な奴が多いからな」
ジロリと彼はエイジとかのんの方へ視線を向けた。
ふふん。凄んだって無駄である。
「章が心配性なの、もうみんな知ってるから、誤魔化さなくて大丈夫だよ」
「誤魔化すとかじゃねえよ、このお人好し共め」
章の睨みに皆が笑った。
今頃一年生達はどうしているだろう。北海道へ行った彼彼女らは。
青い空、白い雲、広い大地。五人は北海道、それもきな子の実家へと向かっていた。
「ようこそ!きな子の故郷へっす!」
最寄り駅に着くと、きな子は両手を広げて歓迎してくれた。
「一応俺の故郷でもあるので、歓迎は不要ですよ」
「へ!?カズミン出身北海道なんすか!?」
「あれ?言ってませんでしたっけ?」
「初耳だぞ」
「Me too」
「と言っても北海道はでっかいどうなんで、きな子たんとは関わりないですけど。しかしいいところですね」
一実は一つ深呼吸をした。東京よりも少しだけ冷たい新鮮な空気が肺を満たしてくれる。
「うん。空気が美味しい」
「そうなんす!のどかで、食べ物も美味しいっすよ。ではまず、きな子の家までランニングっす!」
「待つですの!」
何が気に入らないのか、
「荷物なら先に送ってありますから、心配ないですよ?」
「そういう問題ではありませんの!何故こんな事に!?」
「なんだ。覚えてないのか?きな子の家で集中合宿するって決めただろ?」
科学室に一年生だけで集まり、相談した結果だ。
「それは分かってますの!なぜ私まで!?」
「撮影するって言ったからっすよ」
「プロデュースの為なら、どんな所にでも着いて行って、記録残すって」
「言った」
メイと
四季がスマホを取り出すと、その時の夏美の音声が再生された。
しっかり録音していたらしい。
「あれはその、言葉の綾と言うか、そこまでではないと言うか___
「じゃあ、一人で帰りますか?あ、でもそしたらまた立て替えたないといけないですかね?旅費」
「こんな所から一人で帰らせるなんて薄情ですの!しっかり着いていきますの!」
「お前が嫌がるからだろ……」
メイが呆れたようにツッコんだ。
一実は気になっていたのだが、さっきから四季が首を傾げている。
「四季たん、どうかしましたか?」
「寝違えた。あのバスのせい」
「触ってもいいなら、整体しますよ」
「出来るの?」
「昔、父に習ったので」
「お願い」
一実は四季の首筋に両手で触れた。
「ここをこう!」
「あん!♡」
メイの鉄拳が飛んで来た。
「何やってんだお前!?」
「違っ、ただの整体ですよ!」
「嘘つけ!絶対そんな声じゃ無かっただろ!」
メイの二発目が来そうなところを、きな子と夏美が抑えてくれていた。
「……治った」
「本当っすか!?」
「首が軽い」
コリコリと快音を立てて、首を回す四季。
「ほらね!?言ったでしょう!?だからもう殴らないで!?」
「マジかよ……」
「じゃあきな子ちゃんちまでランニング」
四季がそう言うと、メイと二人、夏美の両手足と胴に金属の帯のような物を取り付けた。
「な、何ですの?」
「ランニング、マシーン」
四季はニヤリと笑い、スマホを操作した。
すると夏美は、彼女の意志とは関係無く走り出した。
「ちょちょちょっと〜!!」
「きな子ちゃんの家、どっち?」
「あっちっす」
夏美が走って行った、否走らされた方向とは逆を示す。
「どうするんだよ?」
「Reverse」
もう一度四季がスマホを操作すると、同じ動き、同じ速度で夏美が戻って来た。
「止めて〜!」
夏美の悲鳴は、誰にも届かない。
彼女を追いかける形で、四人は走り出した。
きな子の、ペンションを経営している実家に到着した。
「死んだですの〜」
木陰に敷かれたレジャーシートの上に夏美は倒れこんだ。
「大丈夫か?」
「大丈夫なわけないですの。いったいどれだけ練習すれば気が済むんですの〜」
「仕方ないだろ。Liella!の力になるって決めたんだから」
それがメイ達の覚悟だった。
二年生と居ると、どうしても足を引っ張ってしまっている。だからこの合宿で、成長した姿を見せる。
「だからって___う〜!?」
きな子のペットの仔山羊、クロミツに頬を舐められた夏美は飛び起きた。
エイジなら飛びつきそうな愛らしさだった。
「元気出せって言ってるっす」
「分かるんですか?」
「もちろんっす!」
動物の言葉が分かる、だと……?
それはもう、一種のESP、超能力なのでは?
呆気に取られる一実に、さも当然という風なきな子だった。
「さあ、着替えたら練習っすよ!」
ついに本格的に、強化合宿が始まる。
初日の練習を終え、ペンションに戻ると豪華な夕食が用意されていた。きな子の母親の手によるものだ。
「わざわざ遠くからありがとう。遠慮なく食べてね」
「ありがとうございます!」
「でも男の子もいるなんて意外だったわ」
礼を述べる一実に、母親はあらあらといった視線を投げ掛けて来た。
「申し遅れました。自分、こういう者です」
コミュニケーションは始めが肝心だ。
一実はビッと腰を折り曲げ、名刺を差し出した。
「学校生活応援部……?」
「はい。平たく言えば、生徒を支援する部活です。きな子た……きな子さん達のサポートもその一環です」
「まあ。若いのに立派ねぇ」
「いえいえ、そんな事は」
きな子の母親は感心してくれた。
「そんなもの、いつの間に作ったんだ?」
「入部した時、校外の人とも関わるからと、先輩達が作ってくれたんです」
メイの質問に答える。
応援部は校外活動、学校を介して地域の人からの依頼をこなす場合もある。自己紹介を円滑に済ませようとのエイジの判断だった。
「しかし、大きなお家ですね」
「ペンション経営してるっすからね」
「合宿に、持ってこい」
四季の感想は最もだった。寝泊り出来る広い部屋に、広い自然。合宿場所には最適だろう。
「それにしても夏美ちゃん、遅いっすね」
「なんか、部屋には居たみたいだけどな」
夏美だけがまだ部屋から降りてきていなかった。
彼女は練習に着いて行くだけでなく、編集作業もある。それで忙しいのかも知れない。
一実はあまり悪巧みをしていると思いたくなかったし、そういう風に見たくなかった。
だが、たった一人の応援部という都合上、監視という意味も含めざる負えなかった。
「きな子が呼んでくるっす」
そう言い、彼女はパタパタと走って行った。
このまま何事も起こらなければいいのだが。
夕食も終え、部屋で一人。章へと電話を掛ける。
『おう。お疲れさん。そっちはどうだ?』
「初日は順調です。練習も撮影も」
章への定期報告、のようなもの。夏美の事を信用しない章から頼まれたのだ。
『
「全く。むしろ四季たんやみんなに振り回されてますよ」
夏美を疑いたくない半面、これはこれでスパイ映画のようでドキドキする。
『悪いな。こんな事頼んで』
「いいえ、章先輩の憂慮は理解出来ますから。それでも俺は、鬼塚さんにLiella!に入って貰えるよう動くつもりですけど」
『そこまでは強制しねえよ。お前が思う通りにやればいい』
「ええ。そうさせて貰います。東京の方はどうですか?出動ありました?」
『幸い今日は無かったな。申川、正直お前が抜けたのは痛手だ』
「え?」
突然の告白に驚く。
そこまで認めてくれていたのか。
『その上で言うが心配するな。東京の仮面ライダーの数は多い。安心して合宿に臨め』
「……はい!」
『じゃあな。また何かあったら、いや、無くても鬼塚の事は報告してくれ』
「了解です」
通話は切れた。一実は一息つく。
夏美をLiella!にする。とは言ったものの、このまま入れば章との摩擦は避けられない。何とか彼を説得出来る材料が必要だ。
悩んでいると、ドアがコンコン、と鳴った。
はい、と返事をする。
「カズミン起きてるっすか?きな子っす」
ドアを開けると、寝巻き姿のきな子が立っていた。
「今の、章先輩すか?」
「すいません夜中に」
「いや、そうじゃなくて、夏美ちゃんの事で話があるんす」
「鬼塚さんの?」
取り敢えず二人で並んでベッドに座る。
「夢が無い?」
「はい。強いて言うなら、お金をたくさん稼ぐことだって」
一実はその言い回しが気になった。
強いて言うなら?儲けるとかではなく、稼ぐと言ったのか?
なんだかお金好きというイメージから少し遠いような。
「お金を稼いだ先の事は何か言ってましたか?」
「年を取った時に、困らない為だって言ってたっす」
「え?それだけ?」
億万長者になるとか、ヒルズ族になるとか無いのか?
「きな子もそう思ったんすけど、それ以上深くは聞けなくて」
「うーん。気になりますね」
「そうっすよね!もしかしたら、章先輩を説得できるんじゃないかって」
「……バレてましたか?」
さっきの会話は全て聞かれていたのだろうか。そんなに大きな音量では無かったはずだが。
「あ、いや、章先輩ならそう言うだろうなと思っただけっす」
「当たってますよ、それ」
「えへへ……」
きな子はなぜか嬉しそうにはにかんだ。
「と言うか、それを言いにわざわざ?」
「はいっす。カズミンと章先輩に必要だと思ったんす」
「なんか通じあってますね」
「え?」
「章先輩ときな子たん」
そんなことないっすよ、ときな子はまた照れた。
これはつまり、そういう事だろうか。
今はそれよりも夏美の情報だ。こうして知った事を教えて貰えるのは有難い。
「また何か分かったら教えて貰えますか?俺も章先輩を説得したいので」
「了解っす!」
そうして彼女は部屋を後にした。
スクールアイドル部の部室で、パソコンを皆で注視する。
見ているのは先日エルチューブに上げられた動画だ。
北海道での一年生の合宿風景を収めたものだ。
「すご〜い!」
「これ、本気ったら本気!?」
「みたいです……」
かのん、すみれ、恋が驚いた。
一年生だけにも関わらず、動画の再生回数は既に三万回を超えていた。
「こんなに人気があるんだね」
エイジは感心する。それはLiella!の人気だけではない。夏美の編集技術があってこそだ。
「コメントも高評価ばかり。だから言ったのデス、恥ずかしがってないで、積極的に動画をアップした方がいいと」
「良かった〜」
安堵するかのんの耳には、可可の台詞は届いていないようだった。
「まあ、この収益も全部鬼塚一人の物になるんだがな」
章が不満の色を隠そうともせずに言った。
「これは夏美ちゃんの力あっての物だよ。どう?Liella!に、あるいは応援部に必要じゃない?」
「純粋に協力するような弾ならな」
エイジの質問に、そんな目は無いだろうと言いたげな章だった。
「でも、これなら一年生も自信つくかもしれないね」
「良いことばかりとは限らないわよ」
千砂都の言葉に、すみれが言った。
「逆に自信がつき過ぎちゃって『今日から二年生はサポートメンバー。一年生がLiella!だ!』みたいな事に__
「面白い冗談だね」
「そんな曲がった性格をしているのはすみれだけデス」
すみれの心配に、エイジと可可が答えた。
流石にそんな事はないだろう。だがすみれの心配はそれだけでは無かった。
「もっと気になるのは、あの夏美って子よ!章、どうなの?一実と連絡取ってるんでしょ?何か企んでたりするんじゃない?」
「今の所、変わった動きは無いらしい」
すみれの質問に、章は首を横に振った。
「私も気になっていました。企んでいるかは別として、一度夏美さんにちゃんと話を聞くべきだと思います」
「ちぃちゃんは、どう思う?」
恋の意見を受け、かのんは千砂都にも聞いた。
だが当の彼女からは返答がない。一年生の練習風景に見入っている。
「ちぃちゃん?」
「……あ、ごめん、聞いて無かった。なんの話?」
エイジが聞くと、千砂都はハッとしたように画面から顔を上げた。
「どうかしたの?」
「うん。一年生、ここまで出来るんだったら、自信付ける為にハードル上げていいかもって」
えへ、と千砂都は笑った。
彼女には何か考えがあるようだ。
一実はトレーニングウェアに着替えると外に出る。
北海道の朝は、東京より涼しかった。きょうは曇りなので、その影響もあるのだろう。大きく伸びをした。
足音がする。夏美がやって来た。すでに自撮り棒にスマホを取り付け、準備万端である。
「おはようございます鬼塚さん」
「おはようですの」
二人きり。ここは昨日のきな子の報告を、深堀りするべきだろうか。
「あの、一ついいですの?」
そんな事を考えていると、夏美の方から話を振られた。
「そんなに改まなくても、なんでも答えますよ」
「夢、はありますの?」
「夢ですか?」
こちらが聞こうと思ったことを聞かれてしまった。
夢、か。夢と言えるかどうか分からないが、一実には一つの目標があった。
「最強のドルオタになる事、ですかね」
「最強の、ドルオタ?」
「どんな怪人にも負けない仮面ライダーと、どんなライブにでもはせ参じるドルオタ、この二つの両立ですね」
一実はキメ顔でそう言った。
プ、と夏美は吹き出す。
「なんですの、それ」
「ふふ。 見てください」
ブレードことペンライトを二本取り出し、握り締めて舞う。
「ヲタ芸の練習だってしてるんですから!」
ぶんぶん振り回すと、夏美は更にお腹を抱えて笑った。
「何がそんなに面白いんですか」
「い、いえ、なんでもないですの。いい夢だと思いますの」
本当にそう思っているのか?
全く、こっちは大真面目だと言うのに。
おっと、ヲタ芸で舞いに舞っている場合ではない。今朝は東京と北海道とを繋ぐオンラインミーティングの予定だった。
スマホを機動し、ミーティング用のアプリを開く。
「鬼塚さんも入りますか?」
「いえ、私は___
そうこう言っているとミーティングが始まった。
スマホ三台とパソコン一台の計四台が繋がれる。
二年生側はスマホに千砂都、恋、可可、すみれが。
パソコンにかのん、エイジ、章が映っている。どちらも部室のようだ。
一年生側は一台のスマホにきな子、メイ、四季が。どうやら彼女達も外に出ているらしい。
一実もハウリングを避けようと思って出てきたので、考えることは同じである。
『みんな、お疲れ様』
かのんの挨拶。
『動画見まシタよ!練習は順調のようデスね!』
先輩達も動画はみてくれたらしい。
良かった。撮影には一実の協力したので、役に立てたようだ。
『それで千砂都先輩、話ってなんすか?』
『一年生の練習をみて思ったんだけど、みんな前よりレベルが上がってるなって』
『本当か!?』
『うん、本当』
千砂都の言葉にメイ達は喜んだ。
当然だろう。Liella!の力になりたいと頑張ってきたのだから。
『それでね、学園祭は一年生も私達と同じステップにしようと思うんだ』
『『『「え!?」』』』』
千砂都の提案に、一年生全員が驚いた。
『後で振り付け送っておくから、見てみてね』
「それは、まだちょっと早いんじゃ……」
一年生の驚愕を尻目に言う千砂都に、一実が口を挟んだ。
けれど千砂都は続ける
『うん。本当はね、プレッシャーになっちゃうから、後で相談しようと考えたんだけど、あの動画見て思ったんだ。大丈夫だって』
『でも!』
メイが何かを言おうとした。
『もちろん、今のままじゃ難しいと思うよ』
それを先回りして千砂都が言う。
『……はい』
きな子は納得したように、あるいは諦めたように答えた。
『夏休みの間頑張れば、学園祭にはきっと間に合うよ。私はそう思う』
『ファイトです!みんなが同じレベルに達すれば、全員の自信になりますし、ラブライブへの弾みになると思います』
『目標があった方が、計画は立てやすい』
かのんと恋の言葉に、四季が言った。
『まあな。ラブライブで優勝、目指してるんだよな』
『分かったっす、やれるだけやってみるっす』
『大丈夫?無理してない?』
メイときな子の返答に、エイジが聞いた。
『問題ない』
『私達だって役に立って見せるさ』
その疑問には四季とメイが答えた。
『怪我だけは注意しろよ』
章の言葉を最後にミーティングは終了した。
一実はすぐにきな子達三人と合流した。
「四季たん。ああ言ってましたけど、問題ないんですか?」
「問題ない、こともない」
やっぱり。二年生からの要望に、一年生は割と強がりで答えていたのだ。
「動画が好評だったのは嬉しいっすけど、ハードル上がっちゃったっすね……」
「千砂都先輩も急なんだよな」
「練習、まだ始めたばかりなのに」
きな子、メイ、四季が呟いた。
三人は下がり調子である。ここは応援部の出番なのだが。
何と声をかけたら良いだろうか。
そこにやたと元気な声が聞こえてきた。
「オニナッツ〜!あなたの心の鬼サプリ、鬼塚夏美ですの!今日も引き続き、Liella!の練習をお届けしますの!」
「鬼塚さん!撮影は一旦中止で!」
そう一実が言うが、夏美は聞く耳を持たない。カメラを向け続ける。
「練習はまだっすよ?」
「サボってるみたいだろ」
「……実際、サボってますの」
きな子とメイの言葉に、夏美は笑顔で言った。
「!色々あったんだよ!」
「知ってますの。一緒に聞いていたので」
確かに彼女は、一実の側にずっといたので、全て聞いている。
「じゃあ……」
あれを聞いて何故、と四季が問う。
「超えるのが夢なんでしょう!」
きな子がハッとした。
「先輩達のステージを超える。それがみなさんの夢だったはず!だったら……責任は持つべきですの!」
「それは__
メイを遮り、夏美は続けた。
「諦めるくらいなら、夢なんて語って欲しくない!……撮影していて思いましたの。みなさんの夢は、決して実現不可能な夢ではない」
「本当に……?」
きな子の問いかけに、夏美は頷いた。
「ええ。それはとても素晴らしい事ですの。頑張れば、手が届くかもしれない。そういう夢があるというのは」
「夏美ちゃん……!」
夏美の言葉に、きな子は感動しているようだった。
一実は走って室内に戻り、リュックサックにスポーツドリンクやうちわを詰め込み再び外へ出た。
「練習しましょう!Liella!の力になりましょう!」
「はいっす!」
「おう!」
「うん」
「……では、撮影再開するですの!」
四人が走れば、同じだけ夏美も走る。
体幹トレーニングや筋力トレーニングも、彼女は積極的に参加した。
もはや練習風景の撮影と言うより、やってみた動画である。
四人もそんな夏美を快く受け入れた。
曇天から晴れ間が差す。
「……鬼塚さん、遅いですね」
露天の五右衛門風呂に行ったきり、かれこれ一時間は経つだろうか。ここ数日、観察していたが、彼女は特に長風呂と言うわけではない。
「きな子ちゃん、何かあった?」
四季が聞いた。
「目標の、夢の話をしたんす」
「夢の話?」
メイがオウム返しした。
「昼間、あれだけ語ってたから、きっと夏美ちゃんにも夢があると思ったんすけど、夢がないから、こうしているんだって」
「夢がないから、老後資金を稼ぐ、ですか。でもそれで怒ったりしたわけじゃないんでしょう?」
「はいっす」
「私、見てくるよ」
メイはそう言い、風呂場へ駆けて行った。
帰ってきた彼女は慌てていた。
「風呂場に居ない!」
「お、お、落ち着きましょう。もう部屋かも」
「部屋にも居ない」
四季が既に確認済みだった。
「まさか、熊に連れて行かれたとか……」
「おい!変なこと言うなよ!」
一実の妄想に、メイがツッコんだ
きな子が電話を掛ける。電話は繋がった。どうやら緊急事態ではないらしい。簡単なやり取りだけで、通話は終わった。
「鬼塚さん、なんて?」
「かのん先輩が来てたそうっす。それで少し散歩したと」
「良かった〜」
安堵する一実。
お前が変なこと言うから、とメイに小突かれた。
「ところでみなさん、鬼塚さんの事で相談があるんですけど」
「何?」
四季が聞いた。
そして一実は語る。ある計画を。
そうして作戦会議は終了し、夏美が帰ってきた。
「ただいまですの。みなさん、かのん先輩からの差し入れですの」
「お帰りなさい。鬼塚さん、ちょっと話があるんですけど。座って貰っていいですか?」
「何ですの改まって」
リビングで五人は座った。ついにこの時がきた。
「鬼塚さん、いえ、夏美たん。Liella!に入りませんか?」
「……え?」
「きな子達と一緒に、スクールアイドルやりませんか?」
夏美は目をパチパチさせた。
「夢が無いなら、みんなと同じ夢を追いかけるのはどうだ?」
「みんなと一緒なら、きっと頑張れる」
夏美は少し俯いて、考えているようだった。
「かのん先輩にも同じ事を言われましたの」
「じゃあ……!」
きな子が期待の眼差しを向ける。
「本当に私でいいんですの?Liella!ならもっとふさわしい、夢を追いかける資格のある人を選ぶべきでは?」
目を伏せがちに、自嘲的な笑みを浮かべて夏美は言った。
「私も最初は自分がアイドルなんて、って思ってたよ。けど今なら言える。夢を追いかける資格は、誰にでもある!」
「俺達は夏美たんがいいんです。夢に責任を持てる、なんだかんだ言いながら、みんなと一緒になって練習してくれる、夏美たんが良いんです!」
きな子は夏美に手を差し出した。
既に確認した。四人の気持ちは一つだ。
「でも、章先輩は認めないんじゃないですの?」
「大丈夫っす。章先輩ならきっと理解してくれるっす」
「それでも駄目なら俺が説き伏せますから」
夏美はおずおずと、遠慮がちにきな子の手を取った。
九人目のLiella!は、北海道に誕生した。
その後、一実は章に電話をした。
最終局面だ。四度のコールの後、彼は出た。
『お疲れさん。誰も怪我してないか?』
「お疲れ様です。みんな元気ですよ。夏美たんも含めて」
ん?と章は怪訝そうに呟いた。
一実が夏美たんと呼んだ違和感をキャッチしたのだろう。
「夏美たんがLiella!に入ります」
『……そうか』
「どうか、許可してください!」
『許可も何も、それは俺が決める事じゃねえよ。Liella!の事はLiella!で決める。誰が入ろうとあいつらが認めたんなら、俺は何も言わない』
「へ?じゃあ認めてくれるんですか?」
『そう言ってるだろ』
意外とあっさり。もっと難航するかと思っていたのだが。
『お前、俺を石頭だと思ってるな?まあいいが。申川の見立てでも大丈夫なんだろ?』
「はい。夏美たんは、必ずLiella!の力になります!」
『なら、俺はお前を信用する。まあどっちにしろ、帰って来たらオニナッツとの契約は整理するけどな。鬼塚にも伝えてくれ』
「はい!」
言質も取り付けた。一実はほぼ何もしていないが、これで夏美は摩擦なくLiella!に入れるだろう。
そして、夏休みは矢のように過ぎ去った。
結ヶ丘の学園祭はスムーズに開催された。去年のような混乱が無かったのは大きい。
今回のライブは体育館で行われる。
エイジは舞台袖で、九人となったLiella!にスマホのカメラを向けた。
「オニナッツ〜!あなたの心の鬼サプリ、鬼塚夏美ですの!今日は何と、結ヶ丘の学園祭なのですの!」
こちらで撮っているにも関わらず、夏美は自撮り棒で自ら撮影していた。
「いいよ夏美ちゃん、こっちでやるから。夏美ちゃんはもう撮られる側なんだよ」
「……本当に、いいの?」
夏美はまだ戸惑っているようだった。
「まだそんな事言ってるんすか」
「合宿中あんなに練習したのに」
「むしろ一番張り切っていた」
「最後の追い込みは凄かったですね」
きな子、メイ、四季、一実が言った。
きな子が夏美の右手を、メイが左手を取り、四季が背中を押す。そしてそれを見守る一実。
合宿を経て、一年生の絆は深まったようだ。
「じゃあかのんちゃんから一言もらおうかな?」
エイジは二年生にカメラを向ける。
「私はいいよ……ほら、恋ちゃん」
「はい。今日は楽しんでいってください」
「今日のライブは一段と気合い入ってマス!」
「それよりも、オニナッツとの契約はどうなったのよ?」
すみれの指摘にう……と声を漏らす夏美。
「それは心配ないよ。ね、章くん」
「ああ。もうLiella!の動画収益は個人のものにはならない」
千砂都が章に聞いた。
エルチューブのLiella!関連の動画で得られた収益は、部費という形で全体の持ち物になる。
もし高額になるようなら、結ヶ丘への寄付に変換される仕組みに落ち着いた。
「では、行きマスよ〜!」
九人はピースを突き合わせ、星を描いた。
「これで九人。新しいLiella! ___1!」
かのんが。
「2!」
可可が。
「3!」
すみれが。
「4!」
千砂都が。
「5!」
恋が。
「6!」
きな子が。
「7!」
メイが。
「8!」
四季が。
「9!」
夏美が。
かのんが呼びかける。
「きょうは思いっきり___
「「「「「「「「「楽しんじゃおう!!」」」」」」」」」
学園祭は好評の内に幕を閉じた。
「はー……」
ステージを終えた。中庭のベンチに座り、夏美は恍惚の表情を浮かべていた。
「どうだった?」
かのんが初ライブの感想を聞いた。
「……ですの」
皆が夏美を見守る。
「最高だった、ですの!」
スクールアイドルは、彼女の心の穴を確かに埋めてくれたようだ。
「見つけたかも。私の夢」
夏美は夜空を見上げ、呟いた。
「……ところで、なんでエイジはまたメイド服なの?」
「ほら、うちのクラスお化け屋敷やったよね?怪しい洋館ってコンセプトの。その案内役だって」
「それは聞きましたが、何故まだ着替えていないのです?」
「クラスのみんなが着替えさせてくれないの……」
「今年は可可が腕によりをかけたのデス!」
可可は自慢げに胸を張った。
「エイジ先輩可愛いっすよ!そのまま帰っても大丈夫だと思います!」
「……きな子ちゃんは時々エグい事言うよね」
「凄い似合ってんな。自然っつーかなんつーか」
「自然過ぎて新鮮味がない」
「そんな新鮮味いらないよ!?」
メイと四季の言葉に涙目になるエイジ。
そこでさっきまで座り込んでいた夏美が、ふと立ち上がり、スマホを自身に向けた。
「オニナッツ〜!あなたの心の鬼サプリ、鬼塚夏美ですの!今日は結ヶ丘の名物生徒をご紹介!女の子よりも可愛い男の子、いや男の娘!木野エイジ先輩ですの!」
「何してるの夏美ちゃん!?」
言いながら夏美は、エイジへスマホを向けて来た。
「成る程、Liella!の動画は全体の収益だが、そうじゃなけりゃポケットマネーに出来る。その手があったか」
「その手があったかじゃないよ!助けて!?」
膝を打つ章に助けを求めたが、肩を掴まれ、むしろ押し出される。
「こいつは応援部の所有物だ。出演料くらい出るんだろうな?」
「それはもちろん、この動画収益の中から何割か、でどうですの?」
「悪くねえな」
章と夏美は悪い笑みだった。
犬猿の仲に見えた二人は、早くも意気投合していた。
というか所有物て。
章の手を振り切り逃げようとすると、Liella!のバリケードに阻まれた。
「何で!?みんなは何も得しないよね!?」
「いやー……あの二人が仲良くなるなら良いかなって」
かのんが答えた。その為の生贄になれと言うのか!?
「年貢の納めどきだよ。エイジくんの魅力を世界に発信する時がきたんだよ」
「ちぃちゃん……?」
何を言っているか分からない。何が魅力だこんなもの。
「観念しなエイジ」
「撮影再開ですの〜♪」
「嫌だあぁぁぁ!!」
学園祭には、幻の十人目のLiella!が現れる。少しの間、そんな噂がまことしやかに囁かれたとか。