応援よろしく!   作:冷奴with紅しょうが

24 / 25
UR葉月恋

 

 

 

 

メイは一人、病院の廊下を歩く。

そしていつもの病室の前まで来て、深呼吸。

扉を開ける。

変わらない景色、変わらない匂い。ここはいつ来ても静かだ。まるで時間が止まっているように。

時間が止まっているかのように、目覚めない兄、ハルト。

それも変わらない。

なのでメイは花を置くようにした。そして月に一度はこの病室に訪れるようにしている。

ここでは枯れた花だけが、過ぎた時間を教えてくれる。

 

「兄貴。Liella!もついに九人になったよ。スクールアイドルで九人だ。きっと奇跡を起こせるとおもうんだよ」

 

返ってくるのは、規則的に鳴る心電図の音だけ。

兄の様子を見ていると、エイジの言葉が頭をよぎる。

 

___俺のせいなんだ。メイちゃんには復讐する権利がある。

 

そんな風に言っていたか。だが眠り続ける兄を見ても、メイにはエイジが憎いとは毛ほども思えなかった。それよりも。

いつか怪人になると彼は言った。その事は、結局まだ誰にも話していない。それでいいのだろうか。

そもそも機密事項だ。自分が本来知れた事ではない。

共有されたところで、解決するわけではない。知らされても困るだけではないか?

知らせたとして、その反応は?

色々な考えが頭を巡る。答えは出ない。

自分は、どうするべきなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

応援部とLiella!はかのんの家、喫茶店に集まっていた。

だというのに暗い。いや、雰囲気ではなく単純に明かりが消えているのだ。

可可(クゥクゥ)は自撮り棒とスマホを使い、スポットライトのように自身を、照らした。

 

「ついに、ついに今年のラブライブが発表になりまシタ!」

 

その弾ける喜びを表すように、クラッカーを鳴らした。

拍手をしたのは千砂都(ちさと)とエイジだけだった。どうやら可可のテンションと状況に付いていけないらしい。

明かりが灯る。

 

「何やってんのよ。てか、何なのこれは」

 

電気を付けたすみれは、自分の頭を抱えてそう言った。

彼女はメロンと熊が合体したような被り物をしている。

 

「お土産」

 

「メロン好きって聞いたんですの」

 

「何だかんだ言いながら着けてくれるんですね、すみれ先輩」

 

四季(しき)夏美(なつみ)一実(かずみ)が言った。

一年生の北海道土産だ。なかなかファンシーな趣味である。

 

「にしても、こんな喫茶店貸し切りに出来るなんて」

 

「私の家だから」

 

メイの感想にかのんが答えた。

 

「因みに、この子がマンマルだよ」

 

千砂都が一年生にペットのマンマルを紹介する。

 

「お利口さんなんだよ。ほら、おいで」

 

エイジが手を差し出す。ピェと鳴き、その腕に止まる。

 

「本当に動物に懐かれるんすね、メイド先輩」

 

「なんて?」

 

きな子の台詞をエイジは聞き返した。

 

「動物に懐かれるんすねって」

 

「その後その後」

 

「一年生の間では、結構有名ですの、メイド先輩」

 

「うん、その呼び方辞めようか」

 

地味に傷つくから。

 

「わざわざ貸し切らなくても___

 

「そうですの!マニーがもったいないですの!」

 

「相変わらずだね……」

 

すみれを遮り言う夏美に、かのんが感心だか呆れだかわからない反応を返した。

そうは言っても、()()()()。これだけ押しかけたら、流石に営業出来ないだろう。

 

「当然ですの、スクールアイドルを夢と定めた以上、私のマニーとインフルエンサーの知識を総動員して、Liella!を全力サポートしますの!」

 

夏美は財布とスマホを握り締め掲げながら、虚空を睨み付けた。

 

「嬉しいような……」

 

「ちょっと怖いような……」

 

「期待してるぞ、鬼塚(おにつか)

 

千砂都、きな子、(あきら)が言った。

彼はいつの間にやら、夏美の良き理解者になっているようだった。

いやいや、頼もしい限りである。

 

「そんな事よりラブライブデスよ、ラブライブ!」

 

可可が夏美と千砂都を順番に睨みながら言った。

熱量があらぬ方向に向かっている。どうどう。

 

「ラブライブでしょ?去年もやったんだから、今年もやるわよそりゃ」

 

「む、そういう心構えだから、すみれはダメなのデス」

 

すみれまで睨む可可。

ラブライブの事となると、人が変わるのだ。

 

「それで、今年の大会の内容は?」

 

「そうでシタ!それではここで大会の詳細を___

 

かのんの質問に、襟を正す可可。

打ち終わったクラッカーをマイク代わりにしながら。

 

「なになに、今年の予選はリモートで開催。歌は全て自由」

 

「あー!先に言ってはダメデス!」

 

可可が発表するより先に、すみれが読み上げた。

 

「へえ〜。つまり去年のラップと独唱みたいな課題は無いって事?」

 

千砂都が聞いた。

 

「予選をリモートで開いて、東京大会に進出するチームを一気に絞り込むみたいだな」

 

「それだけ予選突破のハードルは上がった」

 

メイと四季が続く。

確かにリモートで出場チーム全てを審査するのは相当な手間だ。何か目を引く要素がなければ。

 

「ただ、自分達のやりたい曲で勝負が出来る」

 

かのんの言う通りだ。

目を引く要素は自分達の選択次第。

 

「もう、可可が話そうと思った事、全部話されてしまったデス」

 

可可はむっと拗ねてしまった。ごめんて。

 

「問題は、曲をどうするか、だね」

 

エイジがマンマルを撫でながら呟いた。ピュルル、と気持ち良さそうに鳴く。

 

 

 

 

翌日。練習中、柔軟中にも話し合う。

 

「部長としては、やっぱりかのんちゃんが作詞、恋ちゃんが作曲が良いと思う」

 

「せっかく一年生が入ったのに?」

 

千砂都の意見にかのんが聞いた。

 

「でも、きな子達は初めてっす。ラブライブ出るの」

 

「me too」

 

「むしろ私達は居るだけで新鮮と言えますの」

 

「それもそうだね」

 

夏美の意見にエイジが同意した。

ふとそこで全員の視線が一人に集まる。

 

「実___あと___」

 

ベンチで意識を失いそうになっている(れん)だ。

 

「寝てるんですの?」

 

「スヤスヤ〜?」

 

「すねえ」

 

夏美、可可、きな子が聞いた。

うたた寝だろうか。寝言のように何かを呟いている。

 

「お〜い、恋ちゃん、恋ちゃ〜ん」

 

千砂都が目の前で手を振ってみる。

すると恋はばっ、と顔を上げた。

 

「ロー___後ろに___パリィ___」

 

目が開いていない。まだ目覚めていないようだ。

 

「何言ってんだ?」

 

メイが怪訝な顔をする。

 

「寝不足かしら?昨日の喫茶店、来なかったわよね」

 

すみれが聞いた。そうなのだ。昨日のミーティングを恋は欠席している。

 

「最近、生徒会のほうはどうなの?」

 

かのんがエイジ達応援部に聞いた。

 

「ちょくちょく手伝いには行ってます」

 

一実は遠くから答えた。夏合宿で離れた分、抗体が無くなったらしい。

 

「ただね、本当に手伝いだけなんだ。何と言うか、恋ちゃんの中で線引きがされてて、ガッツリはやらせてもらえなくて」

 

昨日一緒に居たのは、確か章だったはず。

 

「どうだった?やっぱり忙しい?」

 

「まあ一年生も入ってきたしな。労働量は明らかに増えてる。ただ、別に夜まで残ってはないぞ。こっそり仕事を持ち帰った、とかなら可能性はあるが」

 

「そっか……」

 

章の返答に、かのんは考え込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

章は生徒会室へ向かっていた。昨日使った資料を返す為だ。ついでに恋に生徒会を作るよう具申するつもりである。

彼女はまだ生徒数が少ないからと、一人で業務を回そうとする。

章は思う。それもそろそろ限界ではないか?

応援部が手伝っても、恋の厳格さからか、深くはやらせて貰えない。

だがそれがオフィシャル、生徒会になったらどうだ?恐らくは彼女も観念するとおもうのだ。

生徒会室に着いたが、誰もいない。既に作曲の話は通したようなので、音楽室か。

近くまで行くと、確かに鍵盤の音色が聞こえてきた。

音楽室がある廊下へ向かうと人影が見えた。

 

「米女か」

 

「章先輩」

 

メイだった。恋に何か用だろうか。

 

「どうした?」

 

「いや、ちょっと音が聞こえてきたから様子見に」

 

そこで音が止んだ。小さいが、別の音が聞こえて来るような。

メイと硝子越しに覗き込む。

 

「なにやってんだ、 あいつ?」

 

「さあ?」

 

ピアノの前に座ってはいるが、聞こえて来るのは鍵盤からは程遠い音。

 

葉月(はづき)?」

 

音楽室に入って呼びかけるが、反応が無い。

側まで寄ってみた。

スマホを横持ち両手で操作している。つまり。

 

「何だそりゃ?」

 

「はい。深淵の王プニロードです。ここが全く進めなくて……」

 

メイの質問に恋は残念そうに答えた。

つまりはソシャゲである。

 

「は……?メイさん?章さん?」

 

恋はぐぎぎぎぎ、と音が鳴りそうな具合で振り向いた。

見られたくないものを見られた人の反応である。

 

「お願いします!誰にも言わないで下さい!この事は誰にも……」

 

大きなポニーテールを勢いよくふり乱しながら、彼女は頭を下げた。腰は美しい直角。

 

「いや、ちょっと___

 

「葉月、落ち着___

 

「メイさんスクールアイドルが好きなのですよね!?わかりました、今すぐサニーパッションさんに連絡して、写真の手配を!」

 

二人の声を遮り、恋はまくし立てる。

 

「違うと言うのですか!?章さんはお金ですよね!?生憎持ち合わせはこれだけしか……」

 

「現生だしてくるんじゃねえよ生々しい!」

 

「これも違うのですか!?……わかりました。カルボナーラパンですね、購買部へ行って参ります」

 

踵を返した恋は、スタスタと迷い無い足取りで出入り口へと向かう。

 

「待て!待て待て待て待て!」

 

メイが必死で引き止め、ようやく振り返った。

 

「一体何があったんだよ?」

 

 

二人は葉月邸のある部屋へと招かれた。

大きな机を、埋め尽くすゲーム機群。ゲーミングチェアに巨大スクリーンとスピーカー。圧巻である。

 

「嘘だろ……」

 

「お前の家、去年まで金無いとか言ってなかったか?」

 

驚くメイと疑問を呈する章。

 

「父のお陰で、それは解決しました」

 

その節はどうも、と恋は頭を下げた。

 

「私もまさかこんな事になるとは思っておらず……」

 

「こんなゲームマニアだったのか……」

 

メイは様々あるゲーム機を眺めながら呟いた。

 

「いえ、元を辿ればこの前、サヤさんに相談してみたんです。羽を伸ばしてみては、と言われ、私も少しだけならと思って始めたのですが、気がつけば夜中になるほど熱中してしまい……」

 

「真面目な奴ほどハマるとは言うがなぁ」

 

なるほど。恋のようなタイプなら納得である。

 

「また私がゲームにハマったのを知ったお父様が、よくよくゲームを送ってくれるようになりまして」

 

「それでこの充実のラインナップか」

 

章でも分かるハードから、見た事のないハード、希少そうなハードまで。恐らくソフトもセットで送られているだろう。だとすると見た目以上の量だ。

 

「だからってやり過ぎだろ……」

 

「お父様から送られてくるゲームが、どれもこれもとても面白く、例えばそれなんかも!」

 

呆れたように言うメイ、が握ったコントローラー。それを指差し、恋は目を輝かせた。

しばしの間、恋オススメのゲームを様々遊ぶメイ。

章はそれを後ろから眺めていた。

 

「章さんもやりませんか?対戦や協力プレイのゲームもありますよ」

 

「結構楽しいぞ!」

 

「いや、俺は……」

 

百聞は一見にしかず、か。

口で説明するよりやったほうが早い

章はメイと対戦型格闘ゲームをすることにした。

 

「「弱い……?」」

 

勝敗はすぐに決した。メイのキャラのHPを一割も削ることができず、章のキャラは力尽きる。

 

「章先輩?手抜きなんてしなくていいんだぞ?私はゲームの勝敗くらい気にしない___

 

「勝ちに行った」

 

「え?」

 

「俺は今、米女に全力で勝ちに行った。その結果がこれだ」

 

彼女達は言葉を失ったのか、顔を見合わせた。

 

「あ、章さん、レースゲームもありますよ。運転得意ですよね?」

 

「そうだよな、BOARDだもんな!」

 

今度もメイとレーシングゲームをプレイ。

章の車は盛大にクラッシュし、炎に包まれた。

 

「そうだハンドル!ハンドル型のコントローラーもありますよ!」

 

章の車は盛大にクラッシュし、炎に包まれた。

 

「ゲーム、下手くそなのか……?」

 

「何故です!?現実に運転してますよね!?」

 

「感覚が違うんだよ!……だからゲームは嫌いだ、人生で積み上げた能力が何一つ役に立たない」

 

章は自分でも、なんでも卒なくこなせる方だと思っているが、事ゲームに置いては話が変わる。

章も弟や妹とゲームをする機会はあったが、いつもボコボコにされるか役に立たないかの二択だった。

章はコントローラーを置いた。

 

「とにかく、葉月が充実したゲームライフを送ってるのはわかった」

 

「はい。そうしている内に……」

 

「すっかり寝不足ってわけか」

 

納得したように言うメイ。

娯楽に興じるなとは言わないが、流石にやり過ぎだろう。

 

「あの、この部屋の鍵を預かって頂けませんか?」

 

恋は苺のストラップが着いた鍵を差し出した。

 

「作曲が終わるまでで良いのです。ゲームさえ無ければ、作業に集中できると思うので」

 

メイとアイコンタクト。

 

「かのん先輩にでも持ってて貰えばいいだろ?」

 

「エイジならチビに会う口実が出来るし、喜んで引き受けると思うぞ」

 

二人に共通しているのは、別に自分じゃなくてもいいだろうと言う思いだった。

だが恋は両手で顔を覆った。

 

「そういう分けにはいかないのです!仮にも私は生徒会長、この学校を纏める存在で無ければいけません。こんな事がバレた日には___

 

以下、恋の妄想。

 

「生徒会長がゲームに夢中の学校が?」

 

かのんが言った。声音には侮蔑の色が濃く滲んでいる。

 

「ラブライブで勝てるわけないデス……」

 

泣きそうな声で可可が言った。目に涙を貯めている。

 

「ガッカリだわ」

 

すみれが言った。恋の方を見てすらいない。

 

「チビを放っておくなんてヒドい!」

 

エイジが憤慨しながら言った。温厚な彼が怒るなんて。

 

「まる、じゃない!」

 

千砂都は両手で大きなばってんを作り否定した。

トドメのかのんの一言。

 

「恋ちゃん、嫌い」

 

以上、妄想終了。

 

「あ〜!!スクールアイドル部は終わりです!応援部からも見放されます!」

 

「なんか千砂都先輩だけキャラ違う気がするけど……」

 

「そんな分けねえだろ。全員説明すりゃ理解くらい得られる」

 

「そうはおっしゃいますが章さん、実際どう思いました?」

 

キリっと表情を変え、恋は睨むように見据えて来た。

顔立ちが整っているせいで余計に怖い。

 

「まあ、正直やり過ぎだろとは思ったが」

 

「そうでしょう!お願いします!ゲームさえ視界に入らなければ、今までの私に戻れるのです!」

 

そんな事で嫌ったりしない、と言おうと思ったが、彼女も何分思い込みが激しい部分がある。

ここは頼みを聞いておくか。

 

「「分かったよ」」

 

受け取ろうとした鍵を、恋はスッと胸元に戻してしまった。

 

「でも……あと一時間、あと半日、明日、とかでも……?」

 

「あのなぁ」

 

必死に時間を引き延ばそうとする恋を、メイが凄んだ。

恋のその行動が、章の中の医療人としてのスイッチを押した。

 

「葉月、根本的に解決できる良い方法があるぞ」

 

「本当ですか!?それは一体……?」

 

「売れ」

 

「……へ?」

 

恋は目をパチパチさせている。

鳩が豆鉄砲を喰らったような顔、であった。

 

「そんな!それはあんまりです!」

 

「そうだよ章先輩、それはいくらなんでも___

 

「いいや、ゲーム障害に発展する前に、完全にゲーム断ちする」

 

ゲーム障害、ゲーム依存とも言う。

ゲーム時間のコントロールが出来なくなり、生活に支障を来し、人格が変わったような攻撃性を表す。

症状は様々だが、恋はすでに夜更かし、生活リズムの崩れが現れていた。

今はまだ本人の能力の高さもあって何とかなっているが、これ以上深化する前に止めておくべきだろう。

 

「ソシャゲもあったな?あれもアンインストールすれば万事解決だ」

 

「どうかご勘弁を!積み上げてきた実績があるのです!」

 

「どうかじゃねえよ。いいのかこのままで。この部屋を閉め切っても、ソシャゲが入ってるんじゃ意味ねえだろ。ゲーム障害は怖えぞ。現実の大事なもん、失いたくねえだろ?」

 

目一杯、恋を脅かしてみる。

彼女は深く逡巡しているようだった。

 

「待ってくれよ。本人が変わろうとしてるんだ。応援部的には、その歩幅に合わせるべきじゃないのか?」

 

む、確かにメイの言う事は正しい。

いきなり全面禁止しても、その反動が出たりするものだ。

 

「ひとまず私達で鍵を預かって、それで様子見するのでどうだ?娯楽全部を取り上げるのは、まだ早いだろ」

 

「分かった。だが最終手段として残しておくからな。作曲が出来なきゃ……だぞ?」

 

「はい!」

 

恋は何度も頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

章と話し合った結果、恋には内密にメイが鍵を預かる事になった。

 

「俺だと故意に紛失しそうだからな」

 

故意の紛失はもう隠してるだろ。故意と(こい)とかけた駄洒落のつもりか?

 

「困ったなぁ」

 

朝の教室。預かった鍵を眺めながら呟いた。

正直エイジの秘密だけでお腹一杯である。そこに更に恋の秘密も抱え込まなければならないとは。

そうだ。いっその事、エイジの件を章に話してみるのはどうだろうか。

いや、駄目だ。機密の話したのは恐らくエイジの独断だ。

章がそうするとは思わないが、万が一何らかの考えありきで、あるいは杓子定規に報告されたら、エイジが処分されてしまう。

今の所、黙っているのが賢明なような。

 

「何が困ったんですか?」

 

独り言は聞かれていたらしい。いつの間にか登校していた一実が後ろに居た。きな子も一緒である。

 

「ん?なんすかその鍵?」

 

「な、何でもない!」

 

咄嗟に鍵を隠す。

恋の意志を尊重するなら、誰にもバレてはいけない。

夏美と四季も登校して来た。

 

「今日は恋先輩、元気っすかねぇ」

 

「ま、まあ、見守るしかないんじゃないか?恋先輩なら何とかするだろ」

 

「だといいですの……」

 

言えない。ただのゲームのやり過ぎによる寝不足だなんて。

すると四季がこちらを覗き込んできた。

 

「メイ、何か隠してる」

 

目ざとい。

四季は額に着けたレンズが複数枚重なったゴーグル(なんだそれは)を掛けた。

 

「か、隠してなんか……」

 

「本当に?」

 

ゴーグルのレンズは自動で調整され、こちらへピントを合わせてくる。

 

「やめろー!」

 

悲鳴のような声を上げてしまう。

メイは隠し事が得意なタイプではない。あれもこれもなど、到底誤魔化しきれる気がしない。

この時はすぐにホームルームが始まり、事なきを得た。

早く恋には曲を完成させて貰わなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一実は一年生三人とすみれ、可可でメイを尾行する。

物陰に隠れて、気付かれないよう。五人で一緒に、とは言え、すみれと可可とは接近出来ない一実は少し離れて付いて行く。

 

「ちょっと!」

 

身を乗り出す可可をすみれが掴んだ。

 

「引っ張るなデス!」

 

「気付かれるっつーの!……で?」

 

すみれが一年生に聞いた。

 

「はい。四季ちゃんが、メイちゃんには必ず何かあるって」

 

きな子が答えた。

四季の勘では、何か隠し事をしているとの事だった。

 

「確かに昨日、困ったな、って呟いてましたけど、何かあった___

 

「見るですの!」

 

一実が言い終わるよりも早く、スマホを構えた夏美が声を上げた。

 

「恋?」

 

「章先輩もっす」

 

メイに声を掛けたのは恋だった。その後ろから章もやって来た。

 

「三人で密会ですの?」

 

密会て。まだ先輩と後輩が話ているだけのような。

 

「何デス?何の相談デス?」

 

「なんか、深刻そうっすけど……」

 

きな子の言うように、恋の表情は憂いを帯びていた。

三人は裏庭へと移動していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

裏庭。池の辺のベンチに、恋とメイが座る。章はその後ろに陣取る。

 

「出来ない?」

 

「はい。曲を作らねばと、考えれば考える程、ゲームが脳裏を過ぎり……」

 

メイの反すうに、恋は正直な所を打ち明けた。

 

「予想より重症だな。ゲームの事を考えて他の作業が手に付かない、と」

 

「ひい〜。私はどうすれば……」

 

章の事務的な物言いに怯える恋。

恋としては、いつゲームの完全断ちという強行手段(彼女にしてみれば凶行、か?)に出られるかと気が気でないのだろう。

 

「重く考え過ぎだよ。そういう時は誰だってあるさ」

 

落ち込む恋をフォローする。

今の所、作曲という創作活動以外は何とか回っているのだ。章もそれは理解しているだろう。

 

「そんな。許されない事です」

 

俯いたまま、彼女は言った。

少し真面目過ぎないか?だからこそこんな事態になっているのか?

 

「私だって、テスト勉強中にスクールアイドルの映像、見たくなったりする事あるぞ?」

 

「そういう時、どうしているのです!?」

 

想像以上の食いつきだった。恋の必死さが伝わってくる。

彼女はメイの片手を両手でギュッと握り締めた。

 

「どうか、ご教授ください〜!」

 

先輩からの懇願に、たじろいてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一実達には、何を話しているのかまでは聞こえなかった。

ただ、恋が必死にメイの手を握り締めて何かを訴えかけているのは理解出来た。それとそれを困ったように見つめる章。

 

「見た感じ、あの目は……」

 

夏美が言い淀む。それもそうだろう。先輩と後輩、それも女子同士だ。予想通りなら口にし辛くて当然である。

 

(こい)

 

「「「「「!?」」」」」

 

全員が四季の方を見た。言葉を失う。

 

(こい)

 

四季はもう一度言った。

六人は部室へと駆け込んだ。

 

「どうするんデスどうするんデス!?」

 

可可がすみれの肩を大きく揺さぶる。

メイと恋が恋愛関係に発展し、それを知った章が何とかしようとしている図、なのだろうか。

 

「ショウビジネスの世界では、恋愛は格好のスキャンダル!止めなさいったら止めなさい!」

 

「いえ、ここはむしろ一気に炎上してあえて注目を浴びる作戦ですの!ええと、Liella!メンバーに___

 

「止めなさい!」

 

SNSに投稿しようとする夏美を叱るすみれ。だが夏美のスマホは、四季のマジックハンドによって没収されてしまった。

 

「禁止」

 

「返すですの!」

 

夏美はスマホへ飛びつくが、ひょいと躱されてしまった。

 

「恋たんの(こい)……ハハ、駄洒落かよ……」

 

「カズミンが壊れたっす」

 

そうか。遂にこの日が来てしまったか。メンバー同士というのは少し意外だが、これを境に百合営業とかどうだろうか。ハハ。

 

「お待たせー」

 

渦中の人、メイがやって来た。

何をどう聞いたものだろうか。

 

「お、おはようっす!」

 

「練習始めないのか?」

 

あんな事があった後だというのに、いつも通り過ぎる。これがポーカーフェイスか。

 

「もちろん始めマスよ?でもその前に___

 

「でや!」

 

切り出そうとした可可をすみれがチョップした。

そしてメイから距離を取らせる。

 

「痛いデス。何するんデスか!」

 

「なにいきなり聞いてんのよ!」

 

「ほっとけと言うのデスか!」

 

「デリケートな問題よ!エイジと千砂都とは違うんだから順番があるでしょ順番が!」

 

二人の先輩の態度に、メイは怪訝な顔をした。

そんな彼女にツカツカと、四季が歩み寄った。

 

「メイ。好きなら好きだって、正直に言って」

 

「鬼直球〜!」

 

「どうするんすか〜!」

 

四季の言動に困惑する夏美ときな子。もちろん一実もだ。そんなはっきり聞くとは。流石と言うか何と言うか。

 

「うぃーす!」

 

何も知らない千砂都が、元気よくやって来た。

 

「……ん?どうしたの?」

 

部室の雰囲気察して、彼女は聞いた。

 

「実は、かくかくしかじかでして……」

 

一実は事情を説明した。

 

「付き合ってる!?私と恋先輩が!?」

 

「禁断の世界!?」

 

千砂都が驚く。

何だろうか、禁断の世界とは。

 

「正直に言って」

 

四季がなおも問うた。

 

「なんでそんな話になるんだよ!?」

 

え、なんでも何も。

 

「だって、裏庭で熱く語り合ってたっす!」

 

きな子が言った。

この際尾行がバレるのは仕方ないだろう。

 

「手を取り合って……」

 

「見つめ合って……」

 

「抱きしめ合って___

 

「勝手に盛るな!」

 

すみれ、可可、夏美の言い分にメイはツッコんだ。

 

「やはり禁断の世界!」

 

「信じるな!」

 

「えへへ……」

 

また驚く千砂都にもツッコんだ。

 

「じゃあ何を話していたの」

 

四季が語感を強めて聞いた。

 

「怒涛の追い込みデス……」

 

「緊張感あるわね……」

 

「メイたん、どう答える……」

 

四季の凄みに二三歩後ずさるメイ。

 

「恋先輩の相談に乗っていて……」

 

「相談?なに?」

 

詰め寄る四季に、背を向けるメイ。

 

「ちょっとした……」

 

「ちょっとした、何?言えない事なんだ?」

 

「そういうわけじゃないけど……」

 

まるで煮え切らないメイの態度に、痺れを切らしたのか、四季は何処からともなく試験管を取り出した。中には紫色の怪しい液体が揺らめいている。

 

「今、話したくなる飲み物あげる」

 

「やめろ」

 

危な過ぎる四季の発言にツッコむメイ。

四季たん、自白剤とか作れるんだ。

どこまでもつれないメイに、四季は見るからにシュンとした。

 

「四季……」

 

やや混沌とした状況にノックの音が響く。

はーい。と千砂都が答えた。

 

「おーす」

 

もう一人の当事者、章がやって来た。

 

「なんだ、まだ着替えてなかったのか?」

 

「丁度良かった。これ、栄養ドリンク」

 

「だからやめろって!」

 

メイが無理ならと、章に自白剤を飲ませようとする四季。

彼は周囲を見回すと、成る程、と呟いた。

 

「葉月の事なら話せないぞ。守秘義務だな」

 

流石の察しの良さだった。

しかし応援部案件なら、一実にも共有されてもよさそうだが。

 

「本人の希望だよ。俺も米女も元々関わるつもりは無かったんだ」

 

「恋ちゃん、何か悩んでるの?」

 

「こんな言い方も何だが、大した事じゃない。よくあるだろ、端から見たら些事でも、本人にとっては一大事、みたいな」

 

千砂都の質問に答える章。

そうなのか、という全員の視線がメイに向く。彼女は二度頷いた。

 

「私は、些細な事でも、悩んでるなら話して欲しいけどな」

 

「可可もデス」

 

「それは俺には判断出来ない。まあ、葉月の踏ん切りがつくまでは見守ってやれ」

 

少し悲しそうに言う二人。

章の発言で、取り敢えずメイへの追及は収まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイジはかのんと共に音楽室へと向かっていた。

あるものを携えて。

 

「恋ちゃん、驚くかな?」

 

かのんが聞いた。恋へのちょっとしたサプライズだ。

 

「どうだろうね。もしかしたら怒っちゃうかも。『ラブライブに集中してください!』って」

 

「えー?それは嫌だなぁ」

 

二人で話ながら歩いて行くと、美しい旋律が聞こえてきた。だが途中でピタリと止んでしまう。

どうやら苦戦しているようだ。

音楽室に入る。

 

「___ゲームは___」

 

そんな単語が聞こえた。

 

「ゲーム?」

 

かのんが聞いた。

 

「ええ!?かのんさん、エイジさん!?」

 

恋は驚いて立ち上がった。どうやら集中を邪魔してしまったらしい。

 

「驚かせちゃってごめん」

 

「い、いえ、何かあったのですか?もしかして、そろそろ練習、とか」

 

何だか恋は落ち着かない様子だった。曲の催促に来たと思わせてしまっただろうか。

 

「ううん。ちょっと話があって。急な話でびっくりするかもなんだけど」

 

躊躇いがちにかのんが言う。そんなに遠慮しなくていいのに。

 

「私に、副会長やらせて欲しい」

 

「俺は庶務希望」

 

「副会長?庶務?生徒会、ですか?」

 

恋はキョトンとしていた。

 

「力になりたいの。恋ちゃんがお母さんから受け継いだこの学校を、私も一緒に盛り上げていきたい。頼りない私だけど恋ちゃんを助ける事が出来たらなって」

 

「かのんさん……」

 

「頼りなくなんかないよ。みんな頼りにしてるのに。そこ以外は右に同じかな。俺も恋ちゃんの手となり足となるよ」

 

「エイジさん……」

 

二人で後ろ手に隠していた紙を差し出す。

副会長と庶務の任命書だ。既に理事長の許可は貰ってきた。

恋は二枚の任命書を受け取ると、じっと眺めた。

OK、ということだろう。

 

「じゃあ俺達、先に行って準備してるから。後で色々教えてね」

 

「あの!」

 

生徒会室へ向かおうとすると、恋に呼び止められた。

 

「いえ、ありがとうございます」

 

「気にしないで。応援部の本懐だから」

 

「私は応援部じゃないけどね」

 

「そうだった」

 

丁寧に礼を述べる恋に、二人で笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイジとかのんが立ち去るの待ってから、章は二人が出て行った方とは逆の戸を開いた。メイも一緒だ。

 

「いいのか?」

 

章が問う。

恋の様子を見に来たら、エイジ達と鉢合わせしそうになったのだ。

 

「今の話、全部聞いてた。正直に話した方がいい」

 

メイが言い切る。

だが恋の表情は浮かない。

 

「ですが……」

 

俯く恋の前に、メイは例の鍵を差し出した。

やはりこれでは、根本的な解決にはならないと。章も同意見だ。

 

「かのん先輩達、本気で恋先輩の事考えてるんだぞ。力になりたいって」

 

「怒らないでしょうか?」

 

恋は鍵を受け取った。

 

「さあ。もしかしたら凄い怒っちゃうかもな。『こんなに心配したのに!』って」

 

少し甲高い声でかのんの真似をするメイ。その言葉に、恋は見るからにシュンとした。

 

「でも、それでも良いと思う。友達って、そういう部分を知って、たまに喧嘩して、仲良くなるもんだろ?な、章先輩」

 

「……かもな」

 

「なんだよ今の間は?」

 

章とエイジは、喧嘩らしい喧嘩をしたことがない。章に限らず、エイジのあの性格。人と衝突することがまずないのだ。

だが公私共に相棒になってしまっている。その日は必ずくるだろう。

 

「私も昔、四季と___」

 

メイは何かに気付いたような目をした。

 

「若菜にも礼言っとけよ?」

 

「わかってる」

 

メイは目線を逸らし、少し照れた。

 

 

 

 

 

 

 

スクールアイドル部部室。生徒会室で準備していたエイジ達は、恋に話があると呼び出されたのだ。

 

「ゲーム?」

 

「それで……」

 

「寝不足?」

 

かのん、千砂都、すみれが言った。

恋の話を要約すると、最近ゲームに熱中して、睡眠不足だそうだ。

 

「黙っていてすみませんでした!」

 

地面に着くんじゃないかと思う勢いで、恋は頭をさげた。

 

部室に笑い声が木霊した。

たったそれだけの事を、真剣に謝る恋が皆おかしかったのだ。

恋だけがキョトンとしている。

 

「なんだ、そうだったのか。良かったよ〜」

 

かのんは笑って出た涙を拭った。

 

「それならそうと、早く言いなさいよ」

 

すみれがやれやれという具合に言った。

 

「レンレンがそんなにゲームに夢中になっていたとは」

 

「いや、あの、その……」

 

和やかな雰囲気に、恋だけが付いて行けていなかった。

 

「恋ちゃんにも、そういう事があるんだね」

 

「なんだか嬉しいね」

 

エイジと千砂都が言った。

 

「ずっと遠い世界の人だと思ってたっすから」

 

「恋じゃなくて良かったです……」

 

きな子と一実の発言に、四季と夏美が頷いた。

 

「怒って、いないのですか……?」

 

「「怒る?」」

 

かのんと千砂都が顔を見合わせ笑った。

 

「じゃあ、黙ってた罰として……」

 

かのんは邪悪な笑みを浮かべた。

 

葉月邸のゲーム部屋。皆で様々なゲームを選り取り見取り。

 

「いいのですか?みんなでゲームだなんて」

 

「うん。みんなと思う存分やれば、スッキリするかなと思って」

 

後ろめたそうな恋に、かのんは答えた。

 

「チビ〜!久しぶり〜!」

 

エイジがそう言うと、恋の愛犬チビは走り、のしかかって来た。顔をペロペロと舐められる。

くすぐったいよ。

 

「このワンちゃん、エイジ先輩の事大好きって言ってるっす」

 

「本当!?嘘だったら針千本呑ますけど大丈夫!?」

 

「キャラ変わり過ぎだろメイド先輩」

 

「その呼び方は止めて……」

 

まさかメイにまで呼ばれるとは。本当に広まっているらしい。

 

「メイが言ってた。進めないところがあるって」

 

「はい。実は」

 

四季に促され、恋が起動したのはPUNIPUNI HUNTER。

倒したエネミーの素材を使い、装備品を強化していく有名なハンティングアクションゲームだ。ソロプレイ、マルチプレイ双方に対応している。

 

「これかぁ……」

 

かのんが納得したように呟いた。

 

「はい。どうしても倒せないボスが居りまして」

 

「これ、ソロプレイは苦行だって言われてるよ?」

 

「え、そうなのですか!?」

 

かのんの言葉に驚く恋。

ゲーム好きにはなったが、ゲームの評価やその周辺情報までは詳しくないらしい。

 

「協力プレイで打ち倒しまショウ!可可はサポートを担当しマス!」

 

「私は鬼ハンマーで雑魚を蹴散らしますの!」

 

「私もやったことあるから、一緒に頑張ろう?」

 

可可、夏美、かのんがコントローラーを掲げる。

役割分担は決まった。後は挑むだけだ。

 

「はい!行きます!」

 

ボス戦が始まった。複数の雑魚エネミーと共に襲来する。

 

「皆さん、まずは体力を半分まで削ります!」

 

「うん!」

「はいデス!」

「はいですの!」

 

夏美が雑魚を蹴散らし、道を開く。恋とかのんがボスへ攻め込んだ。

 

「かのんさん、後ろに回って!」

 

「任せて〜、あっ!?」

 

ボスの読んでいたかのような攻撃に大きなダメージを受けてしまうかのん。

 

「かのん、今行くデス!」

 

補助役の可可が回復させて、戦線維持。

 

「なつ〜!なつ〜!」

 

夏美は宣言通り、雑魚を三人へ近づかせない。今の所、プレイヤー側が優勢だ。

 

「一段階目、撃破!」

 

恋が叫んだ。

 

「なんか、いつもの恋とちょっと違うわね……」

 

「こういうのも良いと思うよ」

 

すみれと千砂都が話す。

いつもは見せないような表情。また一つ恋を知れた。

因みにエイジはチビを抱きながらゆったりと観戦させて貰っている。

 

「ボスの様子が変ですよ!」

 

少し離れた場所から、一実が手に汗握る雰囲気で言った。

ボスの姿が変わっていく。第二段階。ここからが本番だ。

四人は各々が指示を出したり、叫んだりしながら戦闘を進めていく。

チビをモフモフしながら観ていると、背中から声がした。

 

「ありがとな……」

 

「?」

 

メイの声。四季と話しているようだ。

 

「私の事、本気で気にかけてくれただろ?」

 

「!」

 

この二人、目を離すとすぐイチャイチャするなぁ。

エイジには見ずとも理解出来た。

少し意識が逸れた間に、戦況は佳境を迎えていた。

 

「いける、いける、いける!」

 

恋が呪文のように繰り返す。

ボスのHPはもう一割も残っていない。だが四人も危ない。回復が必要なところをギリギリ耐えている。

 

「あと一センチ〜!あと一ミリ〜!はっ!?」

 

画面が真っ白になる。

どうなった?戦闘画面からムービーへと切替わったようだ。ボスの復活もない。

つまり。

 

「「「「「「「「「「勝った〜!」」」」」」」」」」

 

画面右上には実績、PUNIPUNI HUNTERが表示される。よくぞここまでやり込んだものだ。

 

「ありがとうございます!」

 

「うん!」

 

恋がかのんに抱き着いた。

 

「皆さんも、やりました!」

 

振り返った恋が言った。

皆が口々に喜び合う。すると急に四季が、メイの肩に倒れこんだ。

 

「メイ、思わせぶり……」

 

頬が紅潮している。熱でもあるのかもしれない。

 

日も落ちたしゲームもクリア出来たので、ここで解散となった。

 

「四季ちゃん大丈夫?良ければ送っていくけど」

 

葉月邸の正門前。

のぼせた四季を背負うメイにエイジが言った。

 

「いや。私が送っていくよ。四季もその方が良いって」

 

「うん」

 

二人してそう言う。

本人達の希望なら仕方ないが、結構な重労働じゃない?

 

「葉月。鍵はどうする?預かるか?」

 

章がゲーム部屋の鍵について聞いた。

作曲に集中出来ないのが事の発端らしい。

 

「___いえ、大丈夫です。不思議なものですね。ちょっとした事で、こうも気持ちが変わるなんて」

 

「そうか。期待しないで待つ」

 

「もう!本当に大丈夫です!」

 

章の態度に頬を膨らませる恋。

悩みの雲は晴れたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二年生達と別れ、その次に一年生達と別れ、メイと四季だけになった。

 

「メイ、降ろして」

 

「もう大丈夫なのか?」

 

公園前に差し掛かった時だった。言われた通りにすると、四季はスタスタと公園内へと入っていく。

慌てて追うと、彼女はベンチに座ってその隣を叩いた。座れ、ということか。まだ何か話があるのだろうか。

 

「隠し事は本当にそれだけ?」

 

「!」

 

「スクールアイドル部に入って、少ししてから、ずっと様子が変」

 

四季は此方をスッと見据えた。

いつも無口な彼女からするとかなりの多弁だ。自分を本当に心配してくれている。

だからこそメイは考える。エイジの件を話すべきかどうか。

今日のように協力プレイで解決、とはいかない。

でも。

恋の事でよくよく分かった。スクールアイドル部も応援部も関係ない。この十二人は既に友達で、仲間だ。

良い事があれば喜び合いたいし、困っていれば助けたい。そんな風に既に結ばれている。

だとしたら、何も知らないままエイジが怪人に成ったとしたら、悔いしか残らないのではないか?

例え何も出来ないとしても、皆手を差し伸べたいのではないか?

否、既にメイはそう思っている。

彼がそれを望まないとしても。

 

「四季。相談があるんだ。聞いてくれるか?」

 

彼女はゆっくりと、確かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「言われた通り、応援部の皆さんには生徒会の仕事をお願いしましたけれど……」

 

恋は心配そうだ。

翌日。スクールアイドル部部室にLiella!のメンバーだけ集まって貰った。

 

「それでメイちゃん、話って?」

 

「まさかメイまでゲームにハマったとか言わないわよね?」

 

かのんとすみれが聞いた。

つい先日、恋の悩みを解決出来たからか、七人の雰囲気は明るい。それをこれから地に落とさねばならないと事を思うと申し訳なくなる。

 

「エイジ先輩のことで、大事な話があるんだ」

 

「エイジくんがどうかしたの?」

 

千砂都の表情が曇る。

エイジに想いを寄せる彼女には酷な話だ。

それでも伝えよう。四季とも散々、いや言葉数自体は少なかったが、話し合った結果でもある。

 

「結論から言うと、エイジ先輩は将来怪人になる、らしい」

 

部室の空気が、ハルトの病室のように静止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。