応援よろしく!   作:冷奴with紅しょうが

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君のためなら

 

 

 

 

 

 

「これで最後、かな」

 

生徒会室、エイジはファイルを閉じて戸棚へと収納した。

結ヶ丘高等学校生徒会庶務。つい先日増えた肩書きにふさわしい仕事が出来ているだろうか。

 

「仕事量多くないですか?(れん)たん、これを一人で?」

 

一実が辟易していた。

三人でようやく何とかなる量だ。流石の生徒会長である。

しかし恋たんか。イントネーションを間違えると危ない雰囲気である。

 

「あいつの弱点、生真面目くらいしか無いからな。基本何でも出来る」

 

「それ(あきら)が言うんだ……」

 

章も出来る側の人間のでは?

しかしだからこそ、ゲームの実績収集もほぼ完璧だった。

生来の真面目さ故だろう。

そんな話をしていると、エイジのスマホが鳴った。SNSのメッセージだ。かのんからである。スクールアイドル部部室に応援部全員ですぐ来て欲しいとのこと。

 

「何かあったかな?」

 

「さあな。作曲は順調らしいが……」

 

こちらの用事もちょうど終わったところだ。軽く駆け足でスクールアイドル部部室へとやって来た。

ノックをするが返事が無い。

もう一度ノック。だが返事は無い。妙だ。気配はするのだが。

 

「応援部来たよ。入るね」

 

着替え中とかだといけないので、一呼吸置いてから入室する。

やっぱり全員居た。だがまだ制服な上に、黙って座っていて空気が妙に重い。

 

「何かあった?」

 

「……エイジくん」

 

千砂都(ちさと)が口を開いた。

 

「怪人になっちゃうって本当?」

 

ゾクッと心臓が跳ねた。

彼女は信じられない、信じたくないという雰囲気だ。

それを知っている人物は限られる。章が話す筈は無いので、消去法で。

 

「メイちゃん、話ちゃったか」

 

「悪い。でもみんなも知っておいた方が良いと思ったんだ」

 

メイはバツが悪そうだった。しかしその上で、声色には確固たる芯を感じさせた。

全員の視線を感じる。千砂都へ向き直った。

 

「本当だよ。このままなら、俺はいずれ怪人になる」

 

もう誤魔化す意味もない。エイジははっきり答えた。

千砂都の目が見開かれる。

はあー。と大きな溜め息。章が頭を掻いている。

目が言っている。勝手に喋りやがって、と。ごめんね。

 

「つまりエイジ先輩は、本当にオーズで、そのオーズが怪人に?ビックニュースですの!」

 

夏美(なつみ)がスマホを手にわなわなと震える。

そのスマホは四季(しき)に取り上げられた。

 

「撮影、禁止」

 

「一応、これBOARD(ボード)の機密事項だから、ネットとかに上げらると流石に庇えないよ?」

 

だがエイジにも分かる。夏美は場の雰囲気を明るくしようと振る舞っているのだ。

あの、と一実(かずみ)が手をあげた。

 

「俺もBOARDですけど、話に付いていけなくて、どういう事ですか?」

 

「きな子もっす。いまいちよく分からなくて……」

 

二人が疑問を呈した。

それもそのはず。別にBOARD隊員に必須の知識という訳でもない上、メイに話したのは限定的な部分だけ。改めて説明が必要だろう。しかし何と言ったものか。

エイジが迷っていると、章が前に踏み出した。

 

「オーズの変身に使うアイテムはコアメダルって言うんだがな、これはグリードっつう怪人の核なんだわ」

 

「グリード、ねぇ」

 

「強欲、デスか?」

 

すみれと可可(クゥクゥ)が言った。

 

「その核がエイジの中には入り込んでる」

 

「手術で取り出すとか出来ないの?」

 

「無理だな。エイジの精神と強く結びついてる。物理的には取り出せない」

 

かのんの質問に章はキッパリと言い切った。

実際その通りで、外科手術等は意味をなさない。

 

「何故エイジさん何です?強欲とは程遠いように思えますが」

 

今度は(れん)からの質問だ。

なんだか少し照れるな。

 

「入り込んでる紫のコアメダルはな、虚無っつう特性を持ってる。つまり満たされない欲望の欠落を抱えた奴を宿主にする」

 

「満たされない欲望……」

 

かのんが呟いた。

 

「欲望の欠落って何よ?私にはエイジに不満があるように見えないわよ?」

 

「違うよすみれちゃん。そうじゃない、そうじゃなくてね」

 

すみれの意見を千砂都が否定した。

 

「エイジくんにはずっと夢があったの。ヒーローになりたいって」

 

「それは、もう叶っているのではないデスか?」

 

「メイちゃんの話を聞いて分かっちゃった。エイジくんは、メイちゃんのお兄さんを取りこぼした事が許せないんだね?」

 

千砂都の問いにエイジは頷いた。

 

「俺はヒーローじゃない。だからもっと強くなりたい。もっと力が欲しい、もっと人を救いたい。そんな隙間に入り込んだんだと思う。そういう意味では、俺は十分強欲だよ」

 

心の奥底からの欲望に、コアメダルが応えたのだ。

 

「ねえ。応援部を作ったのってまさか……」

 

「そうだ。エイジの欲望の欠落を埋める目的もあった。今のところ、効果は上がってないけどな」

 

かのんの質問に章は溜め息混じりに応えた。

 

「そうだったの!?」

 

エイジも初耳だった。

 

「なんでテメーが驚くんだよ。つーかなんで俺が協力してると思ってたんだ?あぁ?」

 

「いや、てっきり章も人助けに目覚めたのかと……」

 

章に襟首を掴まれ、前後に揺すられる。まさかそんな考えがあったなんて。

 

「えっと、つまり怪人化は、エイジ先輩が満足すれば解決するって事ですか?」

 

「まあ平たく言えばな。とは言え今のところは手詰まりだぞ。人助けはそれなりやったしな」

 

一実の質問に答える章。

別に今すぐどうこうなるわけではないので、そこまで考えてくれなくてもいいのだが。しかもラブライブの予選を控えたこんな時期に。

 

「簡単ですの」

 

四季からスマホを取り戻した夏美が声を上げた。

 

「遊び倒せばいいんですの!」

 

スマホのカメラをエイジに向けながら、夏美は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一行はバッティングセンターへとやって来た。

体を動かして遊ぼう、というメイの発案だ。どうやら夏美は遊ぶ案を募集しては、それを実行するという考えのようだ。

ついでにLiella!の撮影も捗るし。

三グループほどに分かれていざプレイボール

 

「私はいいよ……ほら、ちぃちゃん」

 

「マルが等速で飛んでくる……美しい競技だよね」

 

千砂都がバッターボックスに立った。最初は最低速から。

初球から彼女のバットは快音を鳴らし、ヒットを叩きだした。

流石の運動神経である。

 

「じゃあちょっと早くするよー」

 

設定速度を上げる。

それでも千砂都は問題なく打ち続けた。

その様子を夏美がカメラに収める。

十球ほど打ち終わったところで交代。

 

「かのんちゃんは?」

 

「いや、そもそもエイジくんに楽しんで貰おうって趣旨なんだから」

 

ほら早く、とかのんに急かされ、千砂都と入れ替わりでバッターボックスに入る。

夏美のカメラはまだ此方を向いていた。

 

「俺は撮らなくてよくない?」

 

「何言ってるんですの!?メイド先輩の人気の凄まじさ知らないんですの!」

 

「……そうなの?」

 

夏美が見せてくれたエルチューブの(不本意だが)メイド先輩の動画は既に十万回再生を突破していた。

 

「ええ……」

 

「『エイジたん可愛いよエイジたん』『エイジたんはあはあ……』『エイジたんの再登場はいつ頃ですか?』『本職メイド、メイド服が自分より似合ってて溜め息しか出ない』」

 

「読み上げなくていいから!」

 

千砂都のコメント読み上げを止める。

こんな動画が好評とは。世の中わからないものだ。

 

「エイジくん、始めるよ」

 

「う、うん!お願い!」

 

かのんの呼び掛けに応えた。

意気消沈している場合ではない。皆が自分の為に準備してくれたのだ。楽しまなくては。

バットを構える。

 

一通りバッティングを終え、集合する。

 

「どう?出た?」

 

「そんな便秘みたいに」

 

すみれの質問にツッコんだ。そんな簡単に出てきたら苦労しない。

 

「確かに問題。口からなのか、お尻からなのか」

 

「もっとファンタジーな感じだから、心配しなくていいよ……」

 

大真面目な顔をする四季にもツッコむ。無表情だから冗談だと分かりづらい。

 

「では次に行くデス!」

 

 

 

可可の案内でやって来たのはアパレルショップ。

しかしここは女性の向けのお店だ。

 

「キラキラやフワフワを纏えば満たされるハズデス!」

 

「……纏えば?」

 

待って欲しい。キラキラやフワフワを纏った女子を見るのではなくて?纏う?誰が?俺が?

察して逃げ出そうとした矢先、メイときな子に腕をガッチリ掴まれる。

 

「諦めてくださいっす」

 

「行くぞ、メイド先輩」

 

「嫌だ〜!」

 

視線で章と一実に助けを求めるも、章は笑いを堪え、一実は敬礼でどちらも見送りの姿勢だった。

 

「やはり、エイジにはゴスロリも似合うと思ったのデス」

 

「エイジさんは何でも着こなしますね。羨ましいです」

 

「嬉しくない……」

 

ゴシック・ロリータスタイルに包まれ、エイジは嘆く。

趣旨からズレてない?

 

「ところで、なんで二人も?いや、俺は一人じゃないだけマシだけど」

 

かのんと千砂都もゴスロリスタイルだった。

かのんは案の定、恥ずかしそうにソワソワしている。

 

「幼なじみ三人で着替えれば、撮れ高も鬼上がりですの!」

 

スマホを向け、ノリノリの夏美であった。

 

「かのん、似合ってるんだからもっと堂々としなさい」

 

「う〜。そんな事言ったって……」

 

その気持ち、分かる。まさかこんな形で共感する事になろうとは。

 

「千砂都先輩も似合ってるっす!」

 

「お嬢様みたい」

 

「そう?ありがと」

 

きな子と四季に褒められ、千砂都は上機嫌である。

 

「どうかな、エイジくん」

 

「そりゃあ俺が言うまでもなく可愛いよ」

 

「私はエイジくんに言って欲しいんだよ?」

 

成る程、唯一の男子目線と言うこともあるし、気になって当然か。

 

「かのんちゃんもこっち来て。三人で撮らなきゃ」

 

「うん。死なば諸共だよ」

 

「いや、私は……エイジくん、目が死んでるよ?」

 

この三人で固まってカメラに収まるなんて、何時ぶりだろう。

きっと幼い時以来だ。

成る程、可可の狙いは郷愁の念を満足させることか。故郷を離れた彼女だからこその発想だろう。

……絶対違うか。

 

やはりと言うか、案の定と言うか、コアメダルは出てこなかった。

 

「では次へ参りましょう!」

 

今度は恋が案内してくれるようだ。

彼女が意気揚々と向かった先はゲームセンター。

 

「一度来てみたかったのです。ここには多種多様なゲームが置いてあるのでしょう?」

 

「多分恋ちゃんちの方が凄いよ?」

 

「落胆しねえといいけどな」

 

ウキウキの恋に、かのんと章が言った。

 

「俺のことは気にしなくていいから、みんな自由に遊んできなよ」

 

「いいんすか?」

 

「うん。俺も気にされてたら遊びづらいし」

 

そんな訳で自由行動となった。

さて、何をしようかと考えながら歩いていると、千砂都が隣に並んだ。

 

「エイジくんは何するの?」

 

「お菓子でも取ろうかな。後でみんなに配る分」

 

「もう。そういうんじゃなくて、エイジくんがやりたい事やらなきゃ」

 

千砂都は唇を尖らせた。

彼女はどう思っているだろうか。自分が怪人になる事を。

怒っているだろうか。恐れているだろうか。悲しんでいるだろうか。今のところ、大きな感情の発露は無い。無いがしかし、黙っていた事には怒っているのではないだろうか。

また彼女を傷つけてしまっただろうか。

 

「あ、あれ」

 

ぐるぐると悩んでいると千砂都が声を上げた。

二台のダンスゲームの筐体の周りに人だかりが出来ていた。

 

「行ってみようか」

 

「うん」

 

千砂都を誘い見物に行く。

ダンスゲームの上には、一人の少女が立っていた。人だかりの原因は、純粋に彼女のダンスの上手さらしい。

黒髪のショートボブ。身長は小柄で、同年代くらいだろうか。

エイジは彼女に見覚えがある気がした。

 

(なぎ)ちゃん」

 

千砂都が名前を呼んだ事ではっきり思い出す。

確か千砂都とこんな会話をした。

 

 

「ちぃちゃんは今年はダンス大会出なかったの?」

 

「うん。ダンスもやるけどスクールアイドル最優先だから」

 

「でも、大会自体はあったんだよね?招へいとかされなかった?」

 

「そういう話はあったけど、丁重にお断りしたよ」

 

「そっか。そうなると出場者は気が楽かもね。前年度優勝者が居ないわけだから」

 

「……うーん。むしろ逆に張り合いが無いって怒られちゃった」

 

「怒られた?誰に?」

 

「ライバル、かなぁ。今年優勝した___

 

 

凪一(なぎはじめ)

千砂都曰くライバル。今年のダンス大会の優勝者だ。

誰とでもすぐ仲良くなる千砂都が苗字で読んでいるのは、本人の希望らしい。

 

「あら、千砂都___ふーん?いいご身分ね」

 

ダンスを終えた一は千砂都を見つけると、敵愾心を隠そうともしなかった。

 

「彼氏とデート?スクールアイドルって恋愛自由なんだ?本気でダンス、やる気あるわけ?」

 

「本気だよ。ダンスも、スクールアイドルも」

 

彼氏じゃないと訂正する間もなかった。視線でバチバチに火花が散っているが、こういう関係性なのだろうか。

 

「なら他は全て捨てなさい。この天才を打ち負かしたあなたには、その責務がある」

 

自分で天才と言ったか今。千砂都が何も言わないのを見るに、実力は確かなようだ。

 

「捨てないよ。どっちも取りに行くって決めたから」

 

「ならリベンジ、受けて立って貰えるかしら?私が勝ったらそこの凡庸そうな男とは別れなさい」

 

「いいよ。でも私が勝ったら、もう私達の関係に口出ししないでね」

 

千砂都も何故か好戦的になっているし。付き合ってません、の一言で済まないだろうか?

しかし千砂都は制服、一は如何にもなダンスウェア。フェアとは言えないのでは。

 

「大丈夫。スパッツ履いてるから」

 

「見せなくていいから!」

 

スカートを捲くろうとする千砂都の手を止める。パンツで無ければいいという話ではない。

千砂都も筐体の上へと上がる。対戦モードで難易度は当然最上級。

曲が始まった。

千砂都と一の動きはシンクロしたように重なっている。

エイジが見る限り、二人のレベルは近いところにあるようだ。だが分かるのはそれくらいで、二人とも自分より余程上手い、という小並感しか出てこない。

しかしこれ、一が勝ったらどうなるんだ?別れろと言われたが、そもそも付き合っていない。それで彼女が納得するとも思えない。

ともすると今後千砂都に近づくなとか、そんな話にまで発展しそうで恐ろしい。

だが。

だがどうなのだろう。千砂都を傷つけてばかりの自分が、彼女の側に居ていいのだろうか。端から見れば、とても不釣り合いなのではないだろうか。

厚顔無恥に千砂都を応援していいのだろうか。

エイジがそんな逡巡をしている内に、勝負は決した。

数ポイント差で千砂都が一を上回った。

 

「……完敗ね。ギアも上げて、シューズも準備してるのに、これじゃあ言い訳の余地がない。いいわ。今日のところは潔く引いて上げる。でも千砂都、あなたは本物よ。望めばいくらでも上を目指せる」

 

「認めてくれるのは嬉しいけど、私の大切な人を馬鹿にしないで」

 

「いいえ。天才と凡夫は切って然るべきよ。あなたの才能が褪せてしまう前に、ね」

 

一は此方を一瞥すると、筐体から降りていった。

それと同時にオーディエンスも散り散りになる。

 

「凪ちゃん!」

 

「馴れ馴れしく呼ばないで」

 

その背中に呼びかけると、彼女は振り向いてくれた。

 

「Liella!の動画、見てみてよ。キラキラしてるから」

 

「興味ないわよ、そんなもの」

 

本当に心底どうでもよさそうに、一はそう吐き捨てると去って行った。

 

「ちぃちゃんお疲れ様。でもどうしてあんな勝負受けたの?」

 

「だって、エイジくんを馬鹿されたから……」

 

モジモジとしながら千砂都は答えた。

 

「俺の為に?」

 

「エイジくんだって、私を馬鹿にされたら怒るでしょ?」

 

「そりゃそうだけど、後先も考えようね。負けたらどうするつもりだった___

 

「負けないよ」

 

はっきりと此方の目を見据えて。

 

「エイジくんが見てるんだもん。負けないよ」

 

ニコッと彼女は笑った。

そうだ。見守ってくれている誰かは、確かな力になる。千砂都はそれをよくよく分かっているのだ。

 

「趣旨から逸れちゃったね。何しよっか?」

 

「ユーフォーキャッチャーとかあるよ。ぬいぐるみとか要らない?」

 

「だから、そういうんじゃなくて、エイジくんのやりたい事だよ」

 

「俺のやりたい事だよ。どう?」

 

「……ぬいぐるみのマルさ加減によるかな」

 

少し間を置いてから彼女は控えめに言った。

 

その後も千砂都と色々見たりやったりして回る。ぬいぐるみは千円くらい使ったところで諦めた。

皆の所に戻って来ると、シューティングゲームをやっていた。銃の形をしたコントローラーで直感的な操作が出来る。

 

「は、そんな所にも!?早いです!待って、待ってください!」

 

恋が叫びながら興じている。

襲い来るゾンビを撃ち倒し、ハイスコアを目指せ。

ゲームオーバーになってしまったらしい。恋は銃を置いた。

 

「気になる?」

 

視線を読んだ千砂都が聞いてきた。

 

「そう言えばBOARDでも銃は使った事ないや」

 

オーズには多種多様なコンボがあるが、その中に銃型の武器はない。メダガブリューが辛うじてバズーカモードに変形するくらいか。

 

「どうぞやってみて下さい。中々の没入感ですよ」

 

輝く目をした恋に勧められるがまま、銃を受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイジがシューティングゲームをプレイし始めたのを確認して、十一人は集まる。

 

「どうなのよ?効果出てる?」

 

「いや、あいつも別に遊べないとかで悩んではいないだろ」

 

すみれの疑問に章は首を横にふった。

エイジには私生活に不満があるようには見えない。

 

「ねえ。いつ頃からなの?怪人化が始まったのって」

 

「二年前くらいだな。ちょうど邪神事件の時だ」

 

かのんからの質問に正直に答える。

今更隠しても意味はないだろう。

 

「二年間も!?それは本当に大丈夫なのですか?」

 

「あくまでBOARDで出来るのは進行抑制までだ。どの程度まで進んでるかはわからん」

 

「チェックする方法とかないんすか?」

 

「一応指標がないこともないが……」

 

「どんな?」

 

四季の疑問に言葉を詰まらせる。

これを教えれば、全員が落ち込むのは目に見えていた。

 

「グリードは欲するだけで満たされない。感じるための五感が機能しないからだ。音は濁り、色は褪せ、味覚も触覚も嗅覚も無い」

 

「味覚……」

 

千砂都が呟いた。

 

「そんな……じゃあ怪人化が進めばエイジ先輩は五感を無くすのか?」

 

「そうだ。そのどれかの症状が出れば、ある程度は進行してる事になる」

 

グリードの宿命、欲深さと力の代償である。

しかしこの症状を把握するには問題があった。

 

「それ、全部自己申告ですよね?エイジ先輩なら隠すんじゃないですか?」

 

「そうデス。エイジはみんなに心配かけまいとするハズデス」

 

二人の言う通りだ。

エイジに聞いたところで、はぐらかされるか嘘を付かれるかのどちらかだろう。

 

「聞き出す方法ならいくらでもあるだろ」

 

「どんなですの?」

 

「例えば___

 

作戦会議が終了したところで、エイジが帰って来た。

 

「いやー、ヘッドショットって言うの?難しいねあれ。でも狙っていかないと弾がどんどん減ってちゃうし」

 

「そ、そうなんです!的確なエイムが必要とされるのです」

 

「ふふ」

 

エイジが笑った。まさか聞こえていた訳ではあるまいな?

 

「恋ちゃんの口からエイム、なんて少し前なら聞く事無かっただろうね」

 

エイジ以外の全員が胸をなで下ろした。

 

「エイジくん」

 

「何かのんちゃん」

 

「スーパー行こっか」

 

では作戦決行である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またみんなでご飯だなんて嬉しいよ。親御さんには連絡した?」

 

「それは確認した。みんな大丈夫だって」

 

エイジの質問にかのんが答えた。

スーパーで大量の食材を買い込みエイジの部屋へ。十二人だと流石に手狭である。

 

「じゃあ一人暮らし組、集まれ。手分けするぞ」

 

章とすみれの元に可可、きな子、一実、エイジが集まった。

 

「お前は遊んでろ」

 

「へ?なんで?俺の成長具合見に来たんじゃないの?」

 

「流石にキッチン狭えだろ」

 

「エイジは家主としてドーンと構えていてくれればいいのデス」

 

「エイジ先輩の食欲は俺達が満たしますから」

 

「っす」

 

「そう?」

 

前にもしたなぁ、こんな会話。

では成長の披露はまたの機会に。

 

「エイジくんは私達とトランプしよ」

 

千砂都に誘われ、寝室へ。

 

「何するの?」

 

「「大富豪だよ」」

「大富豪ですの」

「「大富豪」」

「大富豪です」

 

「そこは変えないんだ……」

 

七人だとゲームバランスが悪い気がするが。

三回大富豪をプレイ。やはり上位は偏り、恋が大富豪に、四季が富豪に君臨し続けていた。スペ3返しありでも厳しいものがある。

そうして居ると刺激的な良い香りが漂ってきた。

今日は可可の故郷の料理、中華だと言っていたっけ。

 

「出来たぞー」

 

章の声だ。早い。

ダイニングキッチンに移ると、多様な料理が並べられていた。

 

「一実くんえらいね、気絶しなかったんだ」

 

「俺も早く抗体付けないといけないので」

 

「可可と平安名があからさまに避けたんだよ」

 

それでもこのスペースで倒れなかったのは成長である。

 

「エイジ先輩、味見、お願いしますっす」

 

「え?味見?」

 

きな子の頼みに動揺してしまう。

いや、ここで断るのも不自然か。差し出されたチャーハンを一口。

 

「うん。美味しいよ」

 

「え、嘘?砂糖と塩間違えたのよ?」

 

すみれが驚く。

大丈夫。まだリカバリーは効く。

 

「あ、そうなの?てっきり甘い味付けなのかと」

 

「間違えたのは『砂糖から塩』。つまり塩味が強いはずなんだがな?」

 

「あー……」

 

章のいつも通り鋭い目つきが、一段と光った。

こうなるともう誤魔化せないか。

 

「スミマセンエイジ!全部嘘なのデス!」

 

「へ?」

 

「料理は全て成功していマス……」

 

可可の告白にあっけに取られる。

周りをみると心配するような、困惑するような目を向けられいるのに気づく。

鎌をかけられたのだと理解した。

 

「二人は役者になれるね」

 

「エイジくん。正直に答えて。味覚、感じてないの?」

 

かのんからの詰問。けれど彼女の目は優しかった。

 

「うん。不思議な事に辛さ以外は全然感じないんだ」

 

「辛さは味覚じゃなくて痛覚だから」

 

流石科学同好会部長。そうだったのか。

 

「いつからだ?」

 

「一年と半年くらい前。びっくりしたよ。濃いめのソース焼きそばなのに、味しないんだもん。不良品かと思っちゃった」

 

笑ってみせるが、誰も彼もが暗かった。

 

「でもそんなに実害無いよ。匂いは感じるから美味しいって思ってるのは本当。ほら、食事には味覚より嗅覚が大事って言うじゃない?」

 

「……そういう問題じゃないよ」

 

千砂都の小さな、けれどはっきりした声だった。

 

「そんな、何でもないように言わないで。エイジくんが辛いはずでしょ?ごはんが楽しく無くなって、怪人化が近づいてきて」

 

彼女は目に涙を浮かべていた。

 

「私は、辛いって言って欲しい。怖いって言って欲しい。一人で何でも抱え込まないで」

 

「ちぃちゃん……」

 

千砂都の涙に、何も言えなくなる。

 

「エイジ先輩。私達は仲間なんだ。私達を助けてくれたように、今度は私達がエイジ先輩を助けたいんだ」

 

「メイさんの言う通りです。例え何も出来なくても、窮状くらいは知っておきたい。だって、私達は既に結ばれているんですから」

 

「結ばれている……」

 

恋の言葉を反すうする。新しい紐と紐とが出会って、結ばれて、絆になる。

既に自分は、その輪の中に居たのか。

 

「そうだったね。ごめん。今まで無自覚で。みんなを傷つけたよね」

 

「ううん。大丈夫。一番辛いのはエイジくんなんだから」

 

かのんはエイジの両手を取ると、ギュッと握った。

 

「他の症状は出てないんですの?色褪せて見えるとか、音が濁るとか?」

 

「うん。大丈夫。味覚だけだから」

 

「本当ですの〜?」

 

「本当だって。信用ないなあ」

 

「今さっき騙そうとしたんだから、当然でしょ?」

 

「それもそっか」

 

すみれに指摘され、苦笑いする。

あれ?でもエイジもすみれの演技に今さっき騙されたような。

 

「じゃあ冷めない内に食べちゃおうか」

 

自分の為に時間を割いてくれるのは嬉しいが、せっかくの料理が冷めてしまう。

 

「「「「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」」」」

「いただきマス!」

 

夕食を終えて、皆を見送る。

 

「本当にいいの?送って行かなくて?」

 

「エイジくんも、色々あって疲れたでしょ?今日はゆっくり休んで」

 

かのんにそう促され、()()()()()()

 

「ではエイジ、電話頂ければ可可の故郷の子守唄を歌いマスので、快眠をお約束しマス」

 

「中国語で歌われてもわかんないでしょ」

 

「気持ちだけ受け取っておくよ」

 

睡眠欲求を満たそうという考えのようだが、異国語の子守唄はちょっと怖い。

 

「じゃあエイジくん、ちぃちゃんもまた明日ー!」

 

「「また明日ー!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一実は十人の一番後ろを歩く。二年生組が先頭で、一年生を挟み距離が空くからだ。

 

「まさか、エイジにあんな秘密があったなんてね」

 

「一年半前と言う事は、結ヶ丘に入学する前からですよね」

 

「うん。私も驚いた。ごはん食べてる時も、変わった風には見えなかったから」

 

すみれ、恋、かのんが話す。

一実もエイジとお昼ごはんを食べた覚えがあるが、まるで気付かなかった。

 

「でも、困ったな」

 

「味覚が無いなら、食欲で満たす作戦は効果が薄い」

 

メイと四季が言った。

 

「ごはんが美味しく食べられないなんて、怪人にもなりたくなるっす」

 

「なりたいんじゃなくて、なる過程ですよ?」

 

きな子の発言にツッコんだ。彼女はまだ話を理解出来てないらしい。

 

「あと満たせる欲求と言えば……承認欲求とかどうですの?メイド先輩の動画を積極的に上げていきますの!」

 

「オーズとして既に名声は得てますからね。それにそんなものに頓着する人でもないですから」

 

夏美の提案に一実は苦笑いした。

 

「エイジが満足するもの、というのがそもそも難しい気がするデス……」

 

肩を落とす可可。

確かに。章が難儀しながら応援部に入るわけだ。

 

「あるだろ、簡単なやつが」

 

「それは?」

 

至極当然と言った雰囲気の章に、かのんが聞いた。

 

「性欲」

 

「「「「「「「「「……」」」」」」」」」

 

章の発言に絶句する一同。

 

「性欲」

 

「二回言わなくていいわよ!」

 

すみれが恥じらいながらツッコんだ。

 

「エッチ!」

 

「スケベ!」

 

「破廉恥です!」

 

「セクシャルハラスメントですの!」

 

かのん、可可、恋、夏美が叫んだ。

章は面倒くさそうに頭をポリポリ掻いた。

 

「そう邪険にしたところで、三代欲求だぞ?それがなきゃ人類回っていかないからな?」

 

章の指摘に、少し考え込む。

正直、皆の頭の隅にはあったと思う。しかし声にするのは憚れた。

そんな言いづらい事を彼は率先して言ってくれたのだろう。

 

「そもそも、興味あるのかエイジ先輩は?」

 

「女の子をはべらせて喜ぶタイプに見えない」

 

メイと四季の言う事は最もである。

そもそも、毎日これだけの美少女達に囲まれながら、浮ついた雰囲気が少しもないのだ。

 

「別にハーレム作れとか言ってねえよ。俺が言いたいのは、あの二人をとっととくっつけるべきじゃねえかって話」

 

「二人って、エイジ先輩と千砂都先輩の事っすか?」

 

「ああ」

 

確かに、あの二人はそういう雰囲気があるし、両想いなら何の問題もない。

 

「でも、今のエイジくんは、例えちぃちゃんから告白されても受けないって、章くんが言ったんだよ?」

 

「自分が怪人になるって分かってたら、恋愛に後ろ向きになるでしょうね」

 

すみれは前髪をクルクル指に巻き付けながら、悩ましそうに言った。

 

「だから相談してる。エイジをその気にさせる、あるいはエイジから告白させるような手、ねえか?」

 

俺は殴るくらいしか思い付かない、と章は両手をヒラヒラさせた。

 

「章先輩、何か焦ってます?」

 

何となく思った事を口にした。

 

「俺がと言うより嵐だな。あいつはエイジの怪人化を重く受け止めてる。それに気づけなかったこともな。なんか無茶する可能性がある。まあそれで解決するならそれでもいいんだが。残して来た事が吉と出るか凶と出るか」

 

「ちぃちゃんが……?」

 

章は夜空を仰いだ。

一実もその視線を追ったが、街灯が明るくて星は見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残ってくれた千砂都と共に、片付けを済ませる。

とはいえ洗い物はもうかのん達がやってくれているので、皿を仕舞う程度の作業だが。

 

「今日はありがとうね、俺の為に」

 

「それはさっき聞いたよ。楽しかった?」

 

「ゴスロリ以外は」

 

あはは、と千砂都は笑った。

流石に女装を楽しめるような趣味は無い。

 

「ちぃちゃんはちょっと大変だったよね」

 

「何が?」

 

「凪ちゃんのこと」

 

「あー……。誤解しないであげてね、悪い子じゃないの。ただ、あの子はダンスが全てだから、私がそれ以外の事するの反対なんだよね」

 

「認めているからこそ、なんだね」

 

「うん……いや、違うや。私そういう話がしたくて残ったんじゃないんだ」

 

「?」

 

何か特別用事があるのだろうか。

千砂都は微笑むと、寝室の方へ向かった。取り敢えず付いて行く。

彼女はベッドに座った。エイジはその隣に腰を下ろす。

 

「ごめんね、味覚の事。こんなに近くに居たのに気付かなくて。エイジくんはずっと苦しんでたのに」

 

千砂都は酷く落ち込んでいた。

 

「ちぃちゃんは悪くないよ。俺が隠してたんだから。それに言ったでしょ?実害はそう無いって」

 

すかさずフォローするが、彼女は顔を上げない。

 

「……ねえ。そのメダルって言うのは、エイジくんが満足すれば、出てくるんだよね?」

 

「う、うん」

 

千砂都が顔を上げた。

その微笑みは、触れたら溶けてしまいそうなほど、儚かった。

千砂都はエイジの両肩を掴み、一緒にベッドに倒れこんだ。

 

「ちぃちゃん!?」

 

両手を付いて、何とか千砂都の胸に落ちないようにする。

彼女に覆いかぶさる形になった。

 

「ど、どうし___

 

「いいよ」

 

うるさい心音の中でも、千砂都の小さな呟きのような声ははっきり聞こえた。

彼女のか細い指がエイジの指に絡まる。力は入っていないのに、振りほどく事が出来ない。

 

「エイジくんにそういう欲求があって、私で満たせるなら、何してもいいよ」

 

千砂都の声が、匂いが、眼差しが、脳まで入り込んで奥底から揺さぶられる。彼女の表情は慈愛に満ちていた。

 

「君のためなら、いいよ」

 

駄目だ、駄目だ、駄目だ。そう思うほど心はかき乱される。

けれど。

 

エイジの中のエイジでない記憶が、人格が、冷静さを欠く事は無かった。

自分の欲はそうではないだろう、と。

 

「……ダメだよちぃちゃん。自分のことはもっと大事にしないと」

 

千砂都の肩に腕を回し、ゆっくり抱き起こした。

 

「それにそんな事したら、かのんちゃんに怒られちゃうよ」

 

かのんの名前まで出して。ああ。なんて卑怯なのだろう。

千砂都はいつもの笑顔に戻った。

 

「……そうだよね。ごめん、変なこと言って」

 

「変じゃないよ。俺の為なのはよく分かってるから」

 

雰囲気はいつも通りに戻った。けれど何故だろう。彼女の目を直視出来ない。

向き合わなくていいように千砂都を先導する。

 

「じゃあ帰ろうか。送るよ」

 

「ううん。今日はいいや」

 

「いや、でも___

 

「エイジくんこそ早く休んだ方がいいよ。私は大丈夫だから」

 

「そう?」

 

言われた通り、玄関先で見送る。

 

「じゃあね、また明日。うぃすー!」

 

「うぃすー」

 

扉は閉まり、足音が遠ざかって行く。

両手で顔を覆い、大きく息を吐いた。

何を当然のように挨拶しているのだろう。あそこまでの自己犠牲を棒に振らせておいて。献身を水泡に帰させておいて。

倒れるようにその場にかがみ込んだ。

 

「どうするのが正解だったんだろう……」

 

心底からの問いに、誰も答えてくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千砂都は一人、夜の帰り道を歩く。

いつもはエイジが隣に居るとポカポカした気分になるが、今だけは辛過ぎた。

 

「あれ……?」

 

視界がぼやける。数秒して自分が涙を流している事に気が付いた。

エイジの、大人が子供を諭すような口調。加えて帰り際、目を合わせてくれはしなかった。

好きな人に女子として見られない、女として愛されない。その事実が胸に突き刺さった。

鼻をすする。トボトボと歩き、声を押し殺して泣いた。

 

 

 

 

 

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