応援よろしく!   作:冷奴with紅しょうが

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誘拐と東京タワーと君の願い

 

 

 

翌朝。千砂都(ちさと)はエイジの部屋にはやって来なかった。それもそうだ。昨日の今日である。

エイジは洗面所の鏡の前で笑顔を作る。

 

「はあ」

 

ぎこちない。

何かあったのが丸分かりである。

正直学校に行きたくない。けれど休んだり遅刻したりすれば、余計に何かあったと疑われる。

エイジは足取り重く、登校した。

 

正門の辺りで一実(かずみ)夏美(なつみ)の後ろ姿を見つけた。

第一関門である。

 

「おはよう」

 

こちらから声を掛けた。

 

「おはようございます」

「おはようございますですの」

 

二人は至極普通に挨拶を返してくれた。と思ったのだが。

 

「俺達が帰った後、何かありました?」

 

「え?何もないけど……どうして?」

 

「い、いえ、何となくですのー」

 

後輩にまで察せられる程とは。気を付けなければ。

一実と夏美とは玄関で別れ、教室へ。

可可(クゥクゥ)(あきら)と目が合った。挨拶を交わすと、二人は首を傾げた。

 

「何かあったか?」

 

「何かって?」

 

「エイジ、いつもと雰囲気違う気がするデス」

 

じー、とこちらを見てくる可可。

ここはあえて視線を外さず、見返した。

そうしていると、千砂都がやって来た。

 

「おはよう!……ん?何?どうかしたの?」

 

「イエ、エイジの雰囲気が……昨日、可可達が帰った後、何かあったデスか?」

 

「ううん。何もないよ」

 

流石ちぃちゃん。あんな事があってもいつも通り振る舞えている。たがあちらがそうでも、こちらはそうはいかない。痛ましく感じて、つい視線を逸らしてしまう。

その一瞬を見逃さなかったのだろう。章に肩へ手を回され、ガッチリ掴まれた。教室の外へ連行される。

 

「……お前ら、ヤッたのか?」

 

耳打ち。一瞬何を言われたのか分からなかったが、直後昨夜のベッドでの光景が蘇る。

 

「ち、違うよ!?」

 

「じゃあなんだよ今の間は?」

 

章は真面目な顔をしている。からかいとかでは無い。ないが言うべきかどうか。やはり躊躇われる。

 

「何かはあったんだな?」

 

「いや……その……」

 

けれど一人で考えるのも手詰まりだ。誰かの知恵が要る。

どうすれば千砂都に報いる事が出来るだろうか。

 

「あとで話すよ」

 

とはいえ中身はデリケートだ。しっかり整理しなければ。

 

「報連相、ちゃんとやれよ」

 

それだけ言うと章は席に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱ何かはあったらしい。澁谷(しぶや)から見てどうだ、二人の様子は」

 

「いつも通り……じゃないね、二人とも。エイジくんは何故かちぃちゃんを避けてるし、ちぃちゃんは元気だけど、空元気って感じだから」

 

「やっぱりそう思うか」

 

昼休み。章はかのんときな子を呼び出して、意見を聞いた。

あの二人、やはり何かおかしい。

 

「エイジからはこっちで聞き出す。澁谷達は(あらし)のフォロー頼めるか?」

 

「うん。任せて」

 

「章先輩の頼みとあらば」

 

きな子は綺麗な敬礼をした。

役割分担。

何分、センシティブな話題になるかも知れない。性差で分けておいたほうが無難だろう。

 

 

 

 

 

 

 

放課後。屋上にLiella!の八人が集まった。最後の一人可可が、男子禁制!と書かれたフリップを扉に立てかけ、施錠する。九人が揃った。

かのんが問う。

 

「やっぱり変だよちぃちゃん。エイジくんと何かあったの?」

 

かのんの問いに、千砂都は悩むような仕草を見せた。

 

「うーん。やっぱりかのんちゃんにはバレちゃうよね」

 

たはは、と千砂都は苦笑いした。

 

「フラれちゃった、私」

 

「「「「「「「「え!?」」」」」」」」

 

そしてかのんは聞いた。千砂都が自分から誘い、断われたという話を。

一同はそれぞれに赤くなる。

簡潔に話終えると、千砂都はポロポロと涙を流し始めてしまった。

 

「ごめんね、部長なのに。しっかりしなくちゃいけないのに……」

 

すみれがスッと扉へと向かう。

 

「何処に行くデスか!?」

 

「決まってるでしょ!?エイジを問い詰めるのよ」

 

「すみれ先輩、落ち着くっす!」

 

「そうです。それにまだ袖にされたと決まったわけではないでしょう?その……肉体関係を拒否しただけです」

 

(れん)達が赤面しながらすみれを止める。

 

「そうだよ。エイジ先輩は、千砂都先輩が嫌いって、言ったわけじゃないだろ?」

 

「私も好きな人と、好きな人だからこそ身体だけの関係は嫌」

 

「夏美もですの」

 

珍しく雄弁な四季(しき)に同意する夏美。

かのんは千砂都の涙を拭った。

 

「ちぃちゃんはエイジくんの事になると、昔のちぃちゃんに戻っちゃうね」

 

「昔の、私?」

 

「うん。泣き虫だった頃のちぃちゃん。分かるよ、それだけエイジくんを想ってるんだ」

 

きっとエイジは告白だとは思っていない。千砂都の自己犠牲だと考えているだろう。だとしたら、こんな事で終わっていいわけがない。

 

「ちょっとしたボタンの掛け違いだよ。順番を間違えただけ」

 

「順番?」

 

千砂都はキョトンとしている。

流石にいきなり過ぎたのだ。段階を踏めばこんな事にはならない。

 

「ちぃちゃん、告白しよう。エイジくんに。そしたら堂々とハグもキスも出来るよ」

 

「でも!目だって合わせてくれないし、もう気持ち悪いって、思われちゃったかも……」

 

「そんな事思わないよ。ちぃちゃんが想ってるのと同じくらい、エイジくんもちぃちゃんを想ってるよ」

 

「……本当?」

 

「本当。私が保証する」

 

腫れた目で周りを見回す千砂都。皆頷いている。

 

「それじゃあ早速行こう!」

 

「ハイ!善は急げデス!」

 

「ちょ、ちょっと待って!私まだ、目だって腫れちゃってるだろし……」

 

「いいのよ別に。そんな事に文句付けるなら、私が引っ叩いてやるわ」

 

皆で、千砂都の手を引き、背中を押す。出入り口へと向かう。

虫の羽音が聞こえたのは、そんな時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

章、一実と中庭のベンチに座る。

 

___って事があったんだ」

 

「「……」」

 

「俺、どうしたらいいんだろう」

 

俯くエイジの問いに、章は沈黙していた。

一実がキョロキョロしながら口を開いた。

 

「えーと、エイジ先輩、それはもう___

 

「エイジ」

 

一実の言葉を遮り、章が立ち上がった。

エイジは顔を上げた。

 

「歯あ食いしばれ」

 

ドゴォッと鈍い音が鳴る。

エイジは地面に転がった。目眩と左頬の痛み。殴られたのだ。

普段から章とは組手をするので理解した。本気の一撃だ。

 

「章先輩!?」

 

「どうして嵐を受け入れてやらなかった?」

 

まだ起きられない。目線だけを章の方にやる。

冷たい目が見下ろしていた。

 

「ちぃちゃんを()()()になんて出来ないよ。それに好きでもない相手となんてさせられ___

 

章の踏みつけが鳩尾に突き刺さる。肺の空気が一気に抜けた。呼吸出来ない。

 

「好きでもない相手に、身体差し出す女が居る分けねえだろ!」

 

怒号。二発目の踏みつけを転がって避ける。

 

「ちぃちゃんは優しいから、自分を犠牲にするんだよ!」

 

「お前は嵐の事、何も分かってねえよ」

 

膝立ちのエイジの頭を狙ったローキック。

跳んで躱す。

 

「そんな事___

 

「あるだろ!嵐の気持ちを知りもしないで決めつけて!」

 

ジャブ二発を見切り、右ストレートを両手で受け止めた。

 

「お前、実は嵐の事好きでも何でもないんじゃねえの?ただ届かない想いを抱えてる、悲劇のヒロインぶりたいだけじゃねえか?ああ?」

 

「違う!」

 

章の襟首を掴み、跳んだ。首を両足で締め付ける。

飛びつき三角絞め。

 

「本気でちぃちゃんが好きだ!傷つけたくないから!大事だから!」

 

だから受け入れる事が出来なかった。恋人でもないのに、そんな真似出来ない。

視界が空一色になる。片腕で持ち上げられた。本気で締めているはずなのに。何というフィジカル。

叩き付けられる前に三角絞めを解除。飛び退く。

 

「だったら求めろよ!欲しろよ!それがお前の願いなんだろ!」

 

「怪人がそんな事、望んでいいわけ無い!」

 

殴り合いに移行。

背丈と単純な筋力に差があり、力比べでは章に部がある。

次第に追い詰められていく。だが策はある。

 

「お前は人間だろうが!味覚が無い事に苦しんで、幼なじみに恋する普通の人間だ!」

 

章のパンチを出来る限りギリギリでさばく。ここだ。

身体をたたみ、手足の前後を入れ替える。

 

「……ありがとう、章」

 

相手の視覚から消えるように沈み、上段、顔面を狙う蹴り。

卍蹴り。

章の顎にクリーンヒットした感触があった。彼は立ち上がらない。

 

「大丈夫!?」

 

すぐに駆け寄った。

すると章は倒れたまま、片腕をヒラヒラさせる。程なくして立ち上がった。

 

「もう立ち上がれるんだ。流石だね。実はあんまり効いてない?」

 

「効いたわアホ。いつの間にあんな技覚えたんだよ」

 

「コソ練してたんだ。成功するとは思わなかったけどね。……しかしこれ、どうしようか?」

 

中庭にはいつの間にか多くの人が集まっていた。

男子二人が殴り合っていれば、皆足を止めるか。どう言い訳すればいいだろう。

悩んでいると、パンパンパン、と拍手の音が聞こえてきた。

 

「いや〜ありがとうございます!迫真の組手を見せて頂いて!」

 

一実が大きなリアクションと共に周囲に呼びかけた。

凄かったですよね、ね?と。

するとまばらに拍手が聞こえてきた。「なんだ〜」とか「喧嘩じゃないの?」とかそんな声もちらほら。

取り敢えずオーディエンスへ向けて礼をする。

人混みを見回すと、その奥で理事長が手招きしていた。凄く笑顔である。

 

 

「本当にただの組手だったのね?」

 

保険室に寄って治療を受けた後、理事長室にて、三人揃って事情聴取を受ける。

 

「はい。俺がお願いしたんです。二人ってどっちが強いんですか?って」

 

一実の機転の利いた説明だった。

 

「それで熱が入り過ぎた、と?」

 

「「はい」」

 

章と二人、揃って返事する。

理事長はふう、と溜め息を付いた。

 

「……わかりました、今回は信じましょう。次はありませんよ?」

 

「「「ありがとうございます!」」」

 

三人で腰を直角に曲げた。

理事長室から出てくると、一実が口を開いた。

 

「エイジ先輩、強かったんですね。荒事苦手なイメージでしたけど」

 

「強くないし、そのイメージは合ってるよ」

 

「?でも章先輩からダウンを___

 

「章、全然本気じゃなかったから」

 

「え、そうなんですか!?」

 

驚いた一実が章を見る。章は答えない。

本気だったのは最初の一撃だけで、それ以外は多分に手加減が加わっていた。

そうでなければ、エイジが章に一発お見舞いすることなど出来はしない。それくらいには彼の体術は優れている。

 

「章、改めてありがとう。俺を人間だって言ってくれて」

 

「何回も言うな、気色悪い」

 

「俺、ちぃちゃんに告白するよ」

 

二人は目を丸くした。

 

「断われるかも知れない、同情で付き合ってくれるかも知れない、それでも俺は、ちぃちゃんが欲しい。それが俺の願いなんだ」

 

「……そうか」

 

「いいですね!応援しますよ!」

 

「そうだな。応援部だからな」

 

章も一実も、背中を押してくれる。

思考は晴れた。今なら何でも出来そうだ。

アラートが鳴り響く。怪人出現か。マップを確認する。

 

「めちゃくちゃ近くないですか!?」

 

「校内だと!?」

 

出現ポイントは距離にして百メートルもない。

というか、この位置。

 

「屋上だ……!」

 

急いで向かう。が、放課後とはいえまだ部活中だった生徒達がパニックになっており、なだれ込んでくる。そこを逆走しなければならなかった為、到着まで、時間を要した。

屋上への扉を明け放つ。怪人は居ない。Liella!のメンバーが倒れている。

 

「かのんちゃん、大丈夫!?」

 

一番近くに居たかのんを助け起こす。

 

「エイジくん、ちぃちゃんが!」

 

彼女はケホケホ、と咳込んだ。

千砂都?言われて気づく。八人だけだ。千砂都の姿がない。

 

「ちぃちゃんが攫われた!」

 

何かが切れる音がした。

かのんをそっと寝かせると、すぐ変身の体勢に入る。

 

『タカ!クジャク!コンドル!タ〜ジャ〜ドル〜!』

 

オーズは熱風で上昇し、周囲を見渡す。

タカアイが、遠くを飛行するムチリを捉えた。小脇に千砂都が抱えられている。

ムチリに飛行能力があったかは、記憶が定かでは無いが、現に今飛んでいるのだから考える必要は無い。

見たところそこまでの速度はない。タジャドルなら追いつける。

全速力で飛翔する。

約三百メートル、二百、百、五十。

 

「ちぃちゃん!!」

 

「!エイジくん!」

 

こちらに気付いた千砂都が手を伸ばした。

当然ムチリも気付く。毒霧を吐いてきた。

構わない。直進する。

毒が身体を蝕むが、一瞬のことだ。

後少し___

脇腹に衝撃。ナイトローグの両足蹴りだ。蝙蝠のような翼を広げ飛行している。

姿勢制御を一瞬失うが、すぐ立て直す。

 

「かはっ!?」

 

吐血。さっきの毒か。

視界がぼやけてくる。

ナイトローグがトランスチームガンで煙を撒いた。

不味い!

 

「ちぃちゃん!」

 

「エイジくん!」

 

伸ばした腕は空を切る。

敵も、千砂都も影すらない。

身体が痺れる。毒が回ってきた。飛行を維持出来ない。

オーズは堕ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーズは何とか滑空しながら、地面に叩き付けられないようにする。着地。

 

震える手で、コンボチェンジ。

 

『コブラ!カメ!ワニ!ブラカ〜ワニ!』

 

金色のメダル、爬虫類系コンボ、ブラカワニ。

体力の超回復と超再生能力。これで毒も幾分かマシになるはず。今は自分の体調などどうでもいい。

 

「くそ!」

 

握り締めた拳で道路を叩く。アスファルトが砕けた。

当たっている場合では無い、すぐに千砂都を追わなくては。

ふらふらと立ち上がる。

 

「落ち着け!」

 

空からバースが降りて来た。

 

「毒に突っ込みやがって、治療が先だ」

 

「落ち着いてなんて居られないよ!俺のせいでちぃちゃんが___

 

「俺達のせいだ」

 

バースに肩を掴まれた。仮面で顔が見えないが、その表情が伝わってくる。

 

「お前はいつでも動けるよう、万全の状態にしとけ」

 

「……うん。みんなは?」

 

「見たところ催涙ガスの類だな。念の為病院に運ぶ。俺達は本部に治療と報告に行くぞ」

 

「大丈夫、一人で行けるから。章は捜索を」

 

「ふらふらじゃねえか。お前も今は患者だ。手えかしてやるから」

 

「ごめん」

 

素直に肩を借りた。

バースは飛び立つ。そのままBOARD(ボード)東京本部基地屋上へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凪一(なぎはじめ)はフードを深く被り、澁谷の雑踏を歩く。今日のレッスンは終わった。だが昨日の惜敗が頭を離れない。あの凡夫のせいだ。

何がキラキラだ。

あんな男さえいなければ、千砂都はダンスの道にのめり込んでくれる筈だ。その才能がどれほど貴重か、理解するはずだ。

 

『速報です。今日午後、都内の学校に怪人が押し入り、生徒一人を連れ去ったとの事です。連れ去られたのは嵐千砂都さん。今も懸命な捜索が続けられています』

 

「……は?」

 

思わず振り返った。街頭の巨大モニターには、千砂都の写真が大きく表示されていた。

 

「許せない……!」

 

怒りが湧き上がる。

卑劣な怪人も、守れない無能なBOARDも。

奥歯を強く、噛み締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、そこはお寿司屋さんだった。椅子に座らされ、目の前には綺麗な寿司が十貫並べられている。綺麗なマルの集合体、イクラもあるではないか。

いや、どういう事だ?千砂都は自問する。

確か自分は、虫のような怪人に連れ去られ、煙幕に呑まれて、何処かの研究施設のような場所に一瞬で移動して。

その後の記憶が曖昧だ。

 

「おや、目が覚めたかい?」

 

長めの髪をポニーテールのように一結びにした男が、対面に座っていた。

この顔、見た事がある。

 

「指名手配の人……!」

 

「初めまして。仙石竜馬(せんごくりょうま)です。えっと、嵐千砂都ちゃん?」

 

指名手配犯、仙石竜馬は何故か疑問系で聞いてきた。

 

「念の為聞くけど、澁谷かのんちゃんじゃないよね?」

 

『どう見ても別人だろうが。だから言ったんだ、ムチリに人の判別は無理だと』

 

いつの間にか現れた、蝙蝠にたくさんのパイプを繋いだような怪人が溜め息を付いた。

 

「無知性のグリードではここらが限界かな」

 

『次のフェーズに進む必要がある』

 

しかし何だろう。まるで本当はかのんを連れ去りたかったかのような発言だ。

 

「そうだね。完全な人違いだよ。君は澁谷かのんちゃんと間違えて誘拐されたんだ。可哀想に」

 

竜馬はわざとらしく両手を振った。

 

「……何でかのんちゃんなんですか?」

 

今の状況はまるで飲み込めないが、かのんが危ない事は理解した。

自分に発言権があるのかどうか分からないが、意を決する。

 

「彼女が私の___

 

『私達、』

 

「私達の実験の協力者に最適だったからだよ。とは言え別に彼女じゃなくてもいいわけだが」

 

「実験……?」

 

それに協力者?どういう事だ。

誘拐したところでかのんがテロリストに協力するとは微塵も思え無いが。

 

「そう。君達は歌で仮面ライダーを強化するんだろう?なら逆も出来るんじゃないかと思ってね」

 

「怪人の為に歌えって事ですか?」

 

「その通り!だが実際はパフォーマンスは必要ない。それを省略する発明をしたんだ。是非試してみたくてね」

 

「そんなの、協力するわけないじゃないですか」

 

「そうでもないよ。君にも利がある」

 

「利……?」

 

竜馬は両手を組んだ。

 

「協力してくれれば君の彼、木野エイジ君の中のコアメダル、取り除いてあげてもいい」

 

「!?」

 

そんな事が、本当に?

いや、待て。BOARDに出来ないことが何故テロリストにやれるだろうか。そもそもそんな取引、エイジが望まない。

 

『そんな取引、必要ない』

 

蝙蝠怪人が銃を向けてきた。

冷や汗が止まらない。しかし自分の命と、大勢の人の命。選ぶべきは。

 

「ちょっと、スマートじゃないね。そんなやり方」

 

竜馬が銃を押しのけた。すると蝙蝠怪人は銃を仕舞う。

 

『脅すのはお前だが被害はお前じゃない』

 

「え?」

 

『お前を攫ったムチリという怪人を外で待機させてる。もし逃げ出そうとしたり、協力を断るなら……』

 

暴れさせる、という事か。

 

「だからスマートじゃないって」

 

『お前は拘りが強すぎるんだ。人質でも何でも使えるものは使え』

 

「それは三流のやり方さ」

 

『貴様……』

 

千砂都そっちのけで衝突する二人。

だからといって逃げ出したりは出来ないわけか。取り敢えずは従うしかない。

 

「あの」

 

「『?』」

 

「なんでお寿司屋さんなんですか?」

 

正直一番気になっていた疑問を聞いた。

 

「私が好きだからだよ?もしかして苦手かい?生魚?」

 

「そういう意味じゃなくて、なんで指名手配の人が普通にお寿司屋さんに入れるんですか?」

 

「ああ、そういうこと。一流はね、客を選ばない一流を知っているものさ」

 

鮮度が落ちてしまう前に食べよう、と竜馬は寿司に手を着けた。

犯罪者に出されたものをホイホイ食べていいものか、悩んだ末に、千砂都は食べることにした。

いざ逃げる時、助けがきた時、力を出さなくてはいけない。お腹を満たさなければ。

エイジが助けにきた時の為に。

 

く、美味しい。得体の知れない男を怪人に囲まれているのに、過去最高レベルの味だ。一流と言うのは本当らしい。

 

「味わって食べるんだよ。最後の晩餐かも知れないんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Liella!の八人はかのんの実家、喫茶店に集まっていた。

病院に運ばれたが、全員特に目立った症状や後遺症は無く、すぐに検査は終わった。

だが誰も帰る気にならないのだろう。皆ソワソワしたり、手で顔を覆ったりしている。出した飲み物に誰も口を付けない。

 

「ちぃちゃん……」

 

一番、動揺しているのは自分なのだろう。

かのんは両手を組んで額にあてがう。

千砂都は無事だろうか。怖い思いをしてないだろうか。

 

「かのんさん、大丈夫です」

 

「そうよ。誘拐したって事は、BOARDを脅す気でしょ?要求が無い内は無事な筈よ」

 

恋とすみれが励ましてくれる。

 

「うん。そうだよね」

 

しかし何故。

 

「何でちぃちゃんなんだろう……」

 

あの虫のような怪人は、他の誰でもない千砂都だけを狙っていた。

 

「そうデスよね。仮面ライダーの関係者なら、Liella!の誰でも良かった筈デス」

 

「なのに、千砂都先輩を探してた」

 

可可と四季が話す。

怪人は個人を識別しようとしていた。

 

「何でだ?何で千砂都先輩だけを……」

 

メイの疑問に誰も答えられない。

静寂の後、もしかして、ときな子が言った。

 

「エイジ先輩と一番仲が良いって、バレちゃってるんすかね……」

 

「そんな事まで!?」

 

かのんは驚愕してきな子に詰め寄ってしまう。

 

「もしかしてってだけっすよ!?」

 

「……だとしたら、夏美のせいですの」

 

「そんな事ないだろ」

 

「どうしてそう思うのですか?」

 

恋が夏美に尋ねた。

 

「夏美がLiella!とエイジ先輩の動画を、エルチューブに上げたから。それで」

 

泣きそうな顔で夏美は続けた。

 

「ううん。夏美ちゃんのせいじゃないよ。悪いのは怪人とそれを利用する人。自分を責めないで」

 

かのんは夏美に語りかけた。

夏美だけではない。病院に訪れた時、エイジも章も一実も、責任を感じていた。自分を責めていた。

特にエイジは酷い。取り乱してこそいないが、静かな怒りが渦巻いているのを感じた。

きっと今も必死になって千砂都を探しているだろう。

 

一通のメールが届いたのは、そんな時だった。

全員がスマホを確認している。それはつまり。

 

「応援要請……」

 

すみれが呟いた。

BOARDから仮面ライダーを応援して欲しい時に来る通知だ。受けても受けなくてもいい。

 

「かのんさん、どうしますか?」

 

恋が問う。

今メンバーの一人を失っている。それでステージに立つのか、ということだろう。

 

「……行こう。私達の出来る事で、ちぃちゃんを助けないと」

 

今、エイジ達が戦っている。それを応援して、千砂都を救う一助になるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千砂都は東京タワーの先端、トップデッキの更に上へと連れて来られた。

仙石竜馬、蝙蝠怪人、さらに自分を攫った(ムチリと言ったか?)怪人に囲まれていた。

目の前には人一人入れそうな大きさの、ロッカーような金属の塊がある。

 

「今、ここを中心に、タワーから離れた位置で六体の怪人を暴れさている。それを君の力で強化して貰う。それが実験の内容さ。出来るだけ高い場所が良くてね、苦手だったら悪いね」

 

竜馬は鼻歌を歌いだしそうな上機嫌だ。

彼がその装置に触れると、扉がガチャ、と開いた。

 

「君にはこの中に入って貰う。精神エネルギーを無理矢理搾り取るから、命の保証は出来ないけどね」

 

「!」

 

千砂都は恐怖する。この男にとって、人命などどうでもよいのだ。

ただ自分の研究さえ達成できれば、他は頓着しない。

やはりテロリスト。

この装置は、さながら棺桶代わりというわけだ。

 

『まだ東京タワー周辺は避難が済んでいない。逃げようなどと考えるなよ』

 

蝙蝠怪人が、ムチリを指しながら言う。

自分が逃げ出せば、ムチリを暴れさせるのだろう。

どうすればいい。

助けて、エイジくん___。

 

そう願った瞬間、一陣の風が吹いた。

それが千砂都にある確信をもたらす。

装置の側で手招きする竜馬達とは、反対方向に駆け出した。

 

「『!?』」

 

二人はあっけに取られている。それもそのはず。

千砂都が向かうのは昇降口ではない。先には何もない。虚空。

千砂都の選択は地上二百五十メートル超からの自由落下。

トップデッキ屋上、その端で踏み切り、跳んだ。

 

「ムチリ!捕まえろ!」

 

もう遅い。

浮くのは一瞬、跳躍力を失い、千砂都の身体は空へと落ちていく。

空気が肌を駆け抜ける。このままなら自分は、地面に叩き付けられ、いや、地面にさえ届かない。適当な鉄骨にぶつかり、ひしゃげた肉塊となって落ちていくのが関の山だ。

そう、このままなら。

 

流れ星のような赤い閃光が尾を引いている。急速にこちらへ向かって来た。

 

「ちぃちゃんー!!」

 

昔から、いつもそうだった。願えばいつでも駆けつける。私を助けに現れる。私の大好きな、私のヒーロー。

赤いオーズに抱き抱えられた。優しくギュッと抱き締められる。

東京タワーは急速に遠ざかっていく。

 

「ごめんよ、俺のせいで。怖かったよね」

 

ううん。そんな事ないよ。

さっきまで心を縛っていた恐怖は霧散した。安心感に包まれている。

 

「何かされなかった?痛いところとか、ない?」

 

今なら言える。本音を。本当の心を。

涙が溢れる。

 

「どこか痛む!?」

 

「ううん。エイジくん」

 

「うん?」

 

「大好き!」

 

今のやり取りの間だけで、もう結ヶ丘の屋上にまで飛んできた。

仮面の上からでも呆気に取られているのが分かる。

エイジはどう答えるだろう。意識したらドキドキしてきた。

ちゃんと意志は伝わっているだろうか。幼なじみとしてではない。一人の女の子としての好意。

千砂都には不思議と、エイジが優しい笑みを浮かべているのが分かった。

 

「……俺も大好きだよ、ちぃちゃん」

 

その言葉を理解するのに、数秒かかった。

その意味を理解するのに、また数秒かかった。

両手で口を押さえる。また涙が出てくる。

想いは通じ合った。結ばれた。

 

「泣かないで、ちぃちゃ___ん!?」

 

「エイジくん!?」

 

突如、彼は苦しみ出した。崩れ落ちそうな所を何とか支える。

チャリチャリン、とコインが落ちるような音。

千砂都の手には、三枚の紫のメダルが握られていた。

 

「これって、もしかして……?」

 

「あはは、出ちゃったね……それだけ君が欲しかったんだ、俺は」

 

欲望の欠落を埋めるほど、本心から求められていた。

それほど想われている事に照れてしまう。

彼は紫のメダルを受け取った。

 

「待ってて。すぐ終わらせて帰ってくるから」

 

「うん。待ってる」

 

オーズは飛翔し、再び星になった。

 

彼を見送った後、程なくして屋上のドアが開いた。

 

「ちぃちゃん!?」

 

「かのんちゃん!」

 

かのんがタックルのような勢いで抱き着いてきた。

 

「良かった……。無事?どこも痛くない?何もされなかった?」

 

「大丈夫。エイジくんが助けてくれたから」

 

かのんだけではない。Liella!の全員がいる。皆衣装に着替えていた。

バットショットも飛んでいる。

 

「応援するの?」

 

「うん。ちぃちゃんは無理せず休んでて」

 

「ううん。私もやる。大好きな人を、応援するよ」

 

「ちぃちゃん……。うん、一緒に歌おう!」

 

『ゲームエリア、展開』

 

バットショットから音声が流れる。

すると何の飾りもない屋上が、見る間に綺羅びやかなステージへと変わっていった。

 

「やろう、みんな!」

 

かのんの呼び掛けに、皆が頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六体の怪人が出現し、それが等間隔に並んでいること、その中心に東京タワーがあることを看破したのは、司令官の志摩郁代(しまいくよ)だった。

イズミ七号の演算でもそこが怪しいと結論される。

彼女達の指示でオーズはタワー周辺を探し、天辺にいる千砂都を見つける事が出来た。

千砂都が飛び降りた時は、心臓まろびでるかと思ったが。

今は別の意味で心臓が飛び出しそうだ。まだドキドキしている。

戦場は東京タワーの足元へと変わっていた。

バースが敵三人に囲まれ、追い詰められている。

 

「オリジナルを使えば、対抗出来ると思ったかい?それだけじゃ数の利も、ムチリの進化にも追いつけないよ」

 

デュークがソニックアローを引く。放たれた矢と、バースの間に割り込み、タジャスピナーで防いだ。

 

「お待たせ!」

 

「遅えよ。さてはイチャイチャしてやがったな?」

 

「……」

 

「何とか言え、おい」

 

千砂都の救出と共に、奇襲をかけてくれたバースには感謝である。お陰で彼女と話す時間が出来た。告白を聞けた。

今なら何でも出来る気がする。

 

◀挿入歌 ビタミンSUMMER!▶

 

「やんちゃモードだ」

 

プテラ、トリケラ、ティラノのコアメダルをセットし、オースキャナーを掲げる。

 

「おいおい、また暴走する気かい?今度はどれだけ被害が出るだろうね」

 

「もう暴走なんてしない。みんなの心で、俺は運命を乗り越える!」

 

デュークの言葉に、強い意志をもって反論する。

スキャン。

 

『プテラ!トリケラ!ティラノ!プ、ト、ティラーノザウルース!』

 

虚無の力の本流は、自分の中でしっかり収まっている。意識を保てる。プトティラコンボをものにした。

 

『行けムチリ』

 

右腕に生えた剣の一撃を、左腕で難なく受け止める。空いた右腕で敵のガードの上からストレート。ムチリを東京タワーの根元まで吹き飛ばした。タワーが揺れる。

デュークのソニックアローによるエネルギー矢の速射。全弾両腕で弾きながら接近。

斬撃を避けてボディブロー。浮き上がった所へテイルディバイダー、ティラノサウルスの尾を叩き付ける。

背中が痒い。ナイトローグの狙撃だ。この程度なら、防ぐ必要もない。

バースの援護射撃がナイトローグの動きを止めた。

 

「こいつは俺がやる!」

 

バースは言い、ナイトローグへ殴りかかる。

 

「お願い!」

 

ではこちらはムチリとデュークの相手に集中__。

巨大なムカデが襲いかかる。片手で握って受け止めた。

ムチリの頭部から伸びるムカデである。それを更にもう片腕で握り、引き千切った。

ムチリが悲鳴のような鳴き声を上げた。セルメダルが飛び散る。

オーズは地面へ、まるで水面かのように手を突っ込む。紫色のひび割れからメダガブリューを取り出した。

地面に散らばるセルメダルの一枚を装填。

 

『ゴックン!』

 

バズーカモードへ変形させる。

 

『プ、ト、ティラノ必〜殺!』

 

必殺の破壊光線、ストレインドゥーム。

だが標的には避けられてしまった。東京タワーが傾く。

 

「やっちゃった!」

 

あわわわ。この規模の建物を倒壊させては、始末書は免れない。

動揺している内に、ムチリとデュークは距離を詰めてきた。

連携攻撃を躱し、同時振り下ろしをメダガブリューで防ぐ。

プトティラのパワーなら二対一でも充分押し返せる。弾き返した。

空いた胴へ横薙ぎを喰らわせた。コアメダルを割ってしまわないように、急所は避けた。

弾けたセルメダルを掴み、メダガブリューへ装填。

 

『ゴックン!』

 

今度はアックスモードで必殺技を発動。セルメダルの投入数に応じて無限大に威力が上がる斬撃、グランド・オブ・レイジ。

 

『レモンエナジースカッシュ!』

 

デュークも斬撃必殺を発動。それに合わせてムチリも右腕の剣にに様々な色のエネルギーを纏わせた。

必殺技がぶつかり合い、激しく発光したのは数瞬。

オーズが打ち勝ち、デュークとムチリを吹き飛ばした。

 

「ぐはっ……!」

 

デュークは変身解除され、仙石竜馬が姿を現す。

捕まえるなら今だ。

 

「ムチリ、撤退だ!」

 

物々しいマスクをしながら、竜馬が叫んだ。

ムチリは毒ガスを大量に吐き、こちらの視界を阻んだ。

オーズは頭部のプテラの翼を展開、突風で極冷気を送り、毒を凍らせ、砕いた。

既に敵の姿はない。もう少しだったのに。

意識を切り替え、空中戦をするバースの手助けに向かう。

 

一気に飛び立ち、ナイトローグへ接近。

 

『何!?』

 

気付いた時にはもう遅い。メダガブリューを振り上げ、翼の一方をもいだ。

バランスを失い、少しづつ落ちて行く敵に更に一撃、もう片翼も撥ね飛ばした。

完全に浮力を無くし、落下する。

落下地点に先回りし、メダガブリューで追撃。吹っ飛んでいく。

ナイトローグは変身解除され、眼鏡をかけた男が横たわる。

 

男はトランスチームガンを掲げた。不味い、距離が空いてしまった。また逃げられる。

しかしトランスチームガンは、的確な射撃によって弾き飛ばされた。バースである。

これで逃走は防げた。

オーズは男の腕を捻り上げ、取り押さえた。

 

「やめろ!触るな!」

 

「そういう分けにはいかないね」

 

ようやく大規模テロの主犯格を捕らえたのだ。離すわけない。

そうしていると、BOARD隊員や警察官が何人も集まってきた。

千砂都の捜索に駆り出された人員だろう。

黒影トルーパーのチームに男を引き渡し、周囲の警戒をする。

もしかすると、敵が取り返しに来るかも知れない。

そんな事を考えていると、バースに肩を叩かれた。

 

「後の処理は俺達でやる。お前は嵐のケアに回れ」

 

「え?でも……」

 

「俺も戻りましたから、任せてください」

 

別の怪人の相手をしていたグリスも合流した。

 

「分かった。危なくなったらすぐ呼んでね」

 

最も暗い、夜明け前の空に飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上にはLiella!全員が並んでいた。こちらを見つけたようで、手を振っている。

建物や人を傷つけないよう、ゆっくりと降りていく。

 

「紫色っす……」

 

「エイジくん、だよね?」

 

「そうだよ。この見た目だとちょっと怖いよね」

 

かのんの問いに頷いた。

変身を解除する。

するとすぐ千砂都が胸に飛び込んできた。

しっかり受け止める。

 

「エイジくん!もういいんだよね?我慢、しなくていいんだよね?」

 

涙声で千砂都が言う。

その気持ちに、全力で応え無ければ。

 

「いいんだよ。今度こそ、全部受け入れるから、我慢しなくていいんだよ」

 

彼女をギュッと強く抱きしめた。

黄色い歓声が上がる。

 

「今度千砂都を泣かせたら承知しないんだから」

 

「え?泣いてたのちぃちゃん?」

 

すみれの発言に驚いて聞いた。

 

「な、泣いてないよ!」

 

「すみれは余計な事を言うなデス」

 

否定する千砂都に、噛みつく可可。

 

「紫のメダル、使って大丈夫なのか?」

 

「うん。もう取り出せたから。ほら」

 

メイに紫のコアメダルを見せる。

取り出せた事も報告しなければ。

 

「これでもう、怪人にはならずに済むんですか?」

 

「検査とかやるだろうけど、もう大丈夫だよ」

 

「良かった」

 

恋とのやり取りに、四季が安堵する。無表情な彼女の豊かな感情が、最近は分かり始めた。

千砂都に脇腹をツンツンされる。

 

「もう、離さないで」

 

「いや、みんな見てるよ?」

 

「我慢、しなくていいんでしょ?」

 

プクーと膨れ面になる千砂都。

ああ、なんて愛らしい。再び抱きしめた。

 

「Liella!の熱愛報道ですの!ビックニュースですの!」

 

「ダメだよ夏美ちゃん。そっとしておいてあげなきゃ」

 

撮影しながらSNSに上げようとする夏美に、かのんが言った。

そしてかのんは千砂都とエイジの手を取った。

 

「おめでとう二人とも。何年越しかな?ようやく結ばれたね」

 

かのんは感慨深そうに呟いた。

 

「かのんちゃん、ありがとう。みんなもありがとう」

 

千砂都が答える。どうやら皆、千砂都の気持ちは知っていたらしい。

 

「こうやって想いが通じ合って、誰かと誰かが結ばれる。そんな素敵な瞬間を、私達は続けていくんだ」

 

かのんの言葉に皆が頷いた。

 

「ところで、お二人は、その〜……」

 

夏美が何か聞きたげにしている。

 

「キス、したの?」

 

「おい四季!」

 

「メイだって気になってた。メイだけじゃない、みんなも」

 

そうなの?という視線を皆に送るが、返ってくるのは苦笑いばかり。流石にその問答は恥ずかしいなぁ。

 

「ん」

 

「え?」

 

そんな風に考えていると、千砂都が突然目を瞑った。

唇を差し出している?

 

「ん!」

 

「え?え!?」

 

今、ここで!?

オーディエンスがキャー!と沸く。

さっき全て受け入れると言ったばかりだ。逃げられない。

エイジは目を瞑り、震えながら口づけした。

柔らかく、しっとりとしていて、自分の知る唇の概念にはない感触だ。まるで禁断の果実に触れたような。

一瞬だったが世界が変わったかのような衝撃。目を開けば、そこにははにかむ千砂都の顔があった。

白み出す空に、彼女の笑顔は星よりも映えていた。

 

「あ……」

 

きな子がポツンと声を上げた。

遂に日が昇り始める。夜明けだ。

誰もがその光景を無言で見つめていた。

 

千砂都と手を握り合う。もう離さない。この手が俺の一番欲しかったものだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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