応援よろしく!   作:冷奴with紅しょうが

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CHANCE WAY

 

 

エイジはトーストを恐る恐る口に運ぶ。

千砂都(ちさと)も、その様子を固唾を飲んで見守っている。

一口、サクリと音が鳴った。

 

「美味しい!」

 

「本当!?」

 

千砂都が身を乗り出して聞いてきた。

バターの塩味とパンの甘みが確かに感じられる。前まではパンの香りしかしなかったが、味覚が戻ってきたのだ。

 

「ありがとうちぃちゃん。今朝もごはん作ってくれて」

 

「ううん。どうせなら、一番最初は私の作った物食べて欲しくて。なんたって___

 

彼女は頬をポリポリ掻いた。

目玉焼きにウィンナー、サラダとトースト。全て部屋まで来てくれた千砂都が用意した物だ。

 

___彼女ですから」

 

そう言い、千砂都は笑った。守りたい、この笑顔。

十年以上、仲の良い幼なじみとして過ごして来た。その壁を破り、二人は晴れて恋人となったのだ。

エイジも自分の頬が緩んでいるのを感じた。

二人で過ごす時間も、今までとはまるで意味が違う。

ああ、本心を共有しているというのは、こうも心地よいものか。

 

「そんなにゆっくり食べてたら、遅刻しちゃうよ?」

 

「それもありかもね」

 

「もう、緩み過ぎ」

 

そう言う千砂都も急ごうとする様子は無い。この時を共有出来る事を、嬉しく感じてくれているのだろう。

 

「でも今日は遅刻出来ないでしょ?」

 

「え?何かあったっけ?」

 

「生徒会の結成式。ようやくメンバーが決まったって、恋ちゃん言ってたよ?エイジくん庶務なんだから、ちゃんと出ないと」

 

「ああ、そうだったね」

 

そうだったねじゃないよ、と千砂都は呆れながらもやはり笑っている。不味い、心地良すぎて二人共終わらせる気がない。

流石に良くないと思い、朝食をかき込んでいく。

 

朝食を終え、支度を済ませ、玄関先。二人だけの時間は終わりを迎える。

 

「ちぃちゃん、今日は学校休みだっけ?」

 

「うん。BOARD(ボード)で話聞かせて欲しいって」

 

何でも、テロリストと直接会話したらしい。その情報は貴重だ。是非とも提供して貰いたい。

捕らえたもう一人のテロリストとのすり合わせもある。

 

 

「練習には間に合うと思うから」

 

「うん。迎えにいくよ。それと何かあったら連絡して」

 

「……」

 

なんだろうか?彼女は何か言いたげである。

 

「何もなくても連絡しちゃダメ?」

 

その上目使いは反則だ。思わず顔を逸らしてしまう。

 

「い、いつでも連絡していいよ。俺もちぃちゃんの声聞きたいから」

 

「やった。じゃあはい」

 

千砂都は唇を差し出して来た。

 

「え、今ですか?」

 

「ん!」

 

逆らえず、流されるがまま、軽く口づけした。

女の子の唇は、なんでこうも瑞々しいのか。

 

「えへへ、行ってきます」

 

「途中までは一緒だけどね」

 

玄関を出て、どちらからともなく手を繋いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「〜♪」

 

「絵に描いたように浮かれてるわね……」

 

学校に程近い通学路。すみれが呆れたように呟いた。

見るとすみれ、(れん)可可(クゥクゥ)が居る。

 

「無粋デスよ、すみれ。十数年越しの恋が叶ったのデスから、浮かれるなと言う方が無理な話デス」

 

「ありがとう可可ちゃん」

 

エイジと千砂都の関係を、Liella!の皆は祝福してくれていた。

面倒をかけたのに、有難い話だ。

 

「ええ。改めておめでとうございます。ですが、その……。あまり人前で、接吻などは……」

 

「分かってるよ。二人きりの時だけにするから」

 

紅くなりながら恋に注意を促される。ファーストキスを間近で見たのが強く残っているようだった。

エイジも思い出すと照れてしまう。

話題を転換する。

 

「今日だったよね、生徒会の結成式」

 

「はい。本日からもよろしくお願いします」

 

「可可も会計やりたかったデス」

 

「まあ、その分部の方で頑張ってよ」

 

衣装作りにステージ作りと、可可の力が必要な場面は幾つもある。正直生徒会に取られなくて良かったとエイジは思っていた。

 

「また遠のく生徒会長の椅子……」

 

「まだ拘っていたのデスか」

 

すみれの呟きに可可がツッコんだ。

もし本当にやりたいのなら、二人目の副会長とかどうだろうか?

 

「嫌よ。完全にかのんの二番煎じじゃない」

 

仰る通りだった。

 

「そう言えば、他のメンバーって誰なの?決まった事しか聞いてなくて」

 

「ふふ、きっと驚くと思いますよ」

 

恋は悪戯っぽく笑った。

結成式まで秘密らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結成式は終わった。

書記にきな子、会計にナナミ、そして二人目の副会長に(あきら)を加えた計六人だ。

教室への帰り道、章と二人になった。

 

「何だか意外。章はこういう高いポスト嫌がると思った」

 

「男子も高い役職に就いた方がいいって、理事長の判断だ。直々に来られたら断われねえよ」

 

「直々だったんだ……」

 

章には悪いが、理事長にまで見込まれているのは応援部部長として鼻が高い。

 

「きな子ちゃんも生徒会入るんだね」

 

「ああ。何か声かけたら二つ返事だった。あいつ澁谷(しぶや)の事大好きだからな」

 

「……それだけじゃないと思うよ」

 

「?なんだよ、他に理由あるか?」

 

端から見ると、きな子は章にもよく懐いている。

それが恋なのか憧れなのか定かではないが、彼から声をかけられた、というのも大きいだろう。

流石に言わないが。

 

「お前こそいいのか?生徒会までやると嵐と過ごす時間、減るだろ」

 

「大丈夫!今はラブ!ラブ!ラブ!のラブコンボって感じだから」

 

変身ポーズを取りながら、ついでにドヤ顔も付けて言った。

 

「何言っとんだ」

 

頭をしばかれた。

 

「浮かれポンチめ」

 

「章はさ、彼女作らないの?」

 

良い機会なので聞いてみた。章への告白案件は、たまに応援部に来る。端的に言ってモテるのだ。

しかしその全てを彼は断っていた。

 

「好きでもないのに、義理で付き合われたら迷惑だろ」

 

「そこから発展する恋もあるんじゃない?もしかして好きな人、居る?」

 

「なわけねえだろ。お前と一緒にすんな浮かれポンチ」

 

頭を小突かれた。

けれどエイジは聞き逃さなかった。章の返答に、一瞬だが間があったのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スクールアイドル部部室。十二人は集まった。

薄暗い中、プロジェクターで映し出されたのはステージ、ステージ、ステージである。

ステージと一括りに言っても、どれも特色があり個性が光っている。共通しているのは中央のラブライブの文字。

 

「これも、これも、これも、全部ラブライブデス!去年使われた各校のステージなのデス!」

 

「へえ〜」

 

エイジは感心する。

よくもこれだけ集めたものだ。流石可可。

部屋の明かりがつき、プロジェクターの光が弱まった。

 

「またやってるの?」

 

すみれがスイッチを押したのだ。

そう言えば喫茶店でも照明落としてたね。

 

「勝手に付けるなデス!」

 

ぷりぷり怒る可可。中々彼女の思い通りのプレゼンテーションにならない。

 

「朝っすか〜……」

 

机に突っ伏していたきな子が大きく伸びをした。

そう言えば、昨日は緊張して寝られなかったと言っていたっけ。

 

「寝てたのかよ……」

 

メイが突っ込む。彼女は比較的真面目に可可のプレゼンを聞いていた。

 

「Me too」

 

四季(しき)の同意はきな子に向けられたものだ。どうやら彼女も眠っていたらしい。

可可の情熱は完全に空回りしている。

 

「つまり、それだけステージが重要って事?」

 

千砂都が尋ねる。

 

「そうデス。今年は地区予選がイキナリのリモート大会。去年よりもたくさ〜んのグループの中で、目立つことが重要なのデス!」

 

やはり可可のラブライブへの熱量は凄まじい。

しかしどうするか。

 

一同はトレーニングウェアに着替えて、ランニングしながら話す。一実との距離も着実に縮まっていた。

 

「去年以上かあ」

 

かのんが呟いた。

去年は原宿表参道近くの通りで行ったのだったか。あれを超えるのは骨が折れそうだ。

 

「具体的に、アイデアあるの?」

 

「どうせ、すみれがそんな身も蓋もない事を言うと思って、可可は用意してマシタよ〜?」

 

すみれの質問に、意味深なニヤつきで返す可可。どうやら考えがあるらしい。

 

「ズバリ、外苑球場貸し切り計画!」

 

ランニングでやって来たのは外苑球場。

え、貸し切り?ここを?

 

「……行くよー」

 

先頭にいた千砂都が方向を変え、走り出そうとする。

 

「待つデス!」

 

「そうだよ。話だけでも聞いてあげよう?話だけでも」

 

「む、エイジ。ハナから無理だと思っていまセンか?」

 

「……いや?そんな事ないよ?」

 

確率的には厳しいと思うけど。

園内地図を指しながら、可可は熱弁する。

 

「球場の中央にステージを配置して、三百六十度Liella!を生中継!」

 

「素敵〜!」

 

「全方位から……いいですね!」

 

これに共感したのはメイと一実(かずみ)だった。

いや、どれだけの費用が掛かるんだ、それ。

 

「あんた、前に一度断れて無かった?」

 

「費用対効果が全く釣り合っていませんの」

 

「流石に無理じゃねえか?」

 

すみれ、夏美(なつみ)、章が反対を表明する。

 

「大丈夫、地元の学校デスよ。それに、優勝候補!」

 

サムズアップする可可。その泊がここで活きるのかどうか。

 

「そうだよな!スクールアイドルなら、試してもみずに無理なんて言うなー!」

 

メイがすみれに叫んだ。

 

「やりましょう!可能性が少しでもあるなら!」

 

ウキウキと一実が出てきた。

三百六十度生中継とか、ドルオタならテンションが上がるはずである。

 

「分かってくれマスか?」

 

「当たり前だろ!」

 

メイと可可が熱い握手を交わした。一実はそこに人差し指の先だけ乗っけている。

 

「頑張れば必ず出来る!」

 

「はいデス!」

 

「諦めない気持ちこそスクールアイドルだぁー!」

 

メイと可可は肩を組み、猪突猛進、外苑球場内へと走って行った。

 

「俺もお供しますよ〜!」

 

その後ろを一実が駆けていく。

かくして、三人の諦めない気持ちによって、外苑球場の使用許可が、下りなかった。

 

三人は肩を落として帰って来た。

 

「駄目、デシタ……」

 

「すっげー怒られた」

 

「本当なんででしょう……」

 

「当たり前でしょうが!」

 

三人は更にすみれに怒られた。

 

「無念っすね……」

 

真面目に残念がっているのは、きな子ぐらいのものだ。

 

「三人共、意外と似てるね……」

 

「でも、そうなると、何処がいいのかな?」

 

千砂都の感想に、かのんが疑問を投げた。

 

「ここは無駄にマニーを使うより、効果的な作戦を考えるべきですの」

 

夏美が怪しく笑った。

 

「効果的?」

 

「何かあるんですか?」

 

千砂都と恋が聞いた。

 

「よーく考えるんですの。勝者は視聴者の人気投票で決まる。つまり、いかに視聴者の興味を引くかが重要ですの」

 

「それは分かってるっす」

 

「問題はその方法」

 

夏美のもったいぶる言い回しに、きな子と四季が言った。

 

「簡単ですの。例えばLiella!に投票してくれた人全員に、メンバーの秘蔵写真を配布。そして更に、マニーを追加してくれた人にはなんと___

 

「無理!」

 

すみれのチョップで、夏美の作戦は中断された。

 

「まだ何かは言ってないんですの」

 

鬼塚(おにつか)、お前自分の秘蔵写真も公開されるの分かってるか?」

 

「夏美は加入して日も浅いですの。人気は当然ありませんの」

 

何故か自慢げな夏美だった。

 

「え?俺夏美たんの秘蔵写真欲しいですよ?あ、もちろん出来れば全員分がいいですけど」

 

欲張りさんが居た。

一実はさも当然と言うようにケロッとしている。

 

「夏美のグッズなんて集めても、面白くないですの……」

 

「それが面白いんですよねえ!推し活は心のオアシスですから!」

 

赤面する夏美に猛る一実。

 

「まあそういうこった。どこでも何にでも需要はある」

 

章が無難に纏めた。

おっと、話が逸れてしまった。

 

「とにかく、みんなで考えて見つけるしかないよ。Liella!と結ヶ丘、そして私達の事がちゃんと伝わるシンボルになるような場所」

 

千砂都が皆に呼び掛けた。

 

「シンボル……」

 

 

四季が呟く。きっと思考を巡らせているのだろう。

エイジも考える。どこが良いだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とは言ったものの、はっきりしないよね」

 

後日、生徒会室で、座ったままペンで机をノックしながらかのんが呟いた。

 

「シンボルの話?」

 

「そう」

 

エイジが聞くと彼女は悩ましそうに答えた。

 

「例えば、雪国の学校なら雪のイメージだし、海の近くにある学校なら、海だろうし……」

 

「雪も海もねえしな」

 

かのんの言葉を、資料に目を落としたまま、バッサリ切る章。

確かに、この大都会に自然は少ない。

 

「結ヶ丘も、近くに有名な所がいっぱいあるっすよ。大きな通りに、お店に___

 

「でも、それが結ヶ丘を表してるかって言うと……」

 

きな子の意見にかのんは否定的だった。

結ヶ丘の名前が入っているとか、お店をやっているとかなら話は簡単なのだが、そのどれでもない。

 

「確かに、有名過ぎて、結ヶ丘を表してるって感じじゃないよね」

 

多くのファイルを持ったナナミがそう言った。ファイルの山はかのんの前に差し出される。

 

「これは?」

 

「オープンキャンパスの各部活の企画案だよ」

 

かのんの質問にナナミは自慢げに答えた。

 

「こんなにあるんだ……」

 

「それだけ、みんなこの学校の事を……」

 

驚くエイジと恋。恋に至っては、目に涙を滲ませている。

 

「うん。みんなどんどん好きになってるんだと思う」

 

ナナミの返答が全てだろう。

去年の学園祭の、普通科と音楽科の対立が遠い昔のように感じる。

 

「スクールアイドル部は、オープンキャンパスどうするんすか?」

 

「す、すっかり忘れてた……。エイジくん達はどうするの?」

 

「俺達は生徒会と他の部の応援で手一杯だよ」

 

「そうだな、特に企画は無え」

 

章と答える。生徒会に入った以上(応援部の延長みたいなものだが)そちらも蔑ろにできない。

オープンキャンパスに向けた準備の依頼も着々と届いている。対応していかなくては。

 

「やはりここは、ライブを行った方が」

 

恋が提案する。

だがもうすぐ地区予選が始まる。二つもライブを掛け持ち、出来るだろうか。

 

「それなんだけど___

 

ナナミは申し訳なさそうに言った。

 

 

 

 

 

「やらないんデスか!?ライブ!?」

 

可可の悲鳴のような声が教室に響く。かのんが座る机に両手を置いた。

 

「うん」

 

かのんは微笑を浮かべ、平然と答えた。

 

「生徒会で話したんだけど、私達は地区予選に集中しようって」

 

「いいの?」

 

千砂都が聞いた。多分の今のいいの?は部長としての物だろう。

 

「そうデスよ!可可なら平気デス!一つくらいライブが増えたって」

 

「私もそう言ったんだけどね」

 

かのんは少し苦笑いをした。

 

「何があったのよ?」

 

「ナナミちゃんが言ってたのは、ライブをやるとLiella!だけに注目が集まり過ぎるんじゃないか、って」

 

すみれの質問にエイジが答えた。

 

「それは……」

 

「オープンキャンパスは学校を知って貰う機会だからな。Liella!一色は良ろしくないだろ」

 

逡巡する千砂都に、章が言った。

 

「学園祭でもライブやれたし、学校の事を考えたら、ここは色々な部で盛り上げるのも大切なんじゃないかって」

 

かのんの言う事に三人は納得したようだった。

 

「そうなると、私達は……?」

 

「ライブで歌わナイとなると……?」

 

すみれと可可が呟いた。

スクールアイドル部はオープンキャンパスの企画案が無い事になる。

 

「何しようか?何でも応援するよ」

 

エイジが笑顔で言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BOARD東京本部基地。

エイジは研究施設へとやって来た。

やっとこの日を迎えられる。

司令官、志摩郁代(しまいくよ)に紫のコアメダルを手渡す。

 

「永らくお借りしてすみませんでした」

 

「良かったわ、あなたを怪人として倒す未来が無くなって」

 

郁代は差し出された手を包み込むようにして受け取った。

彼女はそれを職員が広げたトレイへと置く。

その職員は更にそれを、丸型の石板のような装置へとはめていった。

 

『それではこれより、オリジナル、紫のコアメダル封印措置を行います。司令官、許可を』

 

イズミ七号が封印許可を求めた。

 

「封印、許可します」

 

郁代が全体に通達した。

封印措置。危険な変身アイテム等の影響を、この世から抹消する作業だ。

時間や空間に影響を及ぼすものがよく該当するらしいが、一部は本部の許可付きで運用されている。

だがこのメダルが再び使われる事はないだろう。

紫のコアメダルが入った石板に、さらに同じ大きさの丸型の石板が重なっていく。

ぴったりと重なり、閉じられた。

これからはこの力に頼らず、戦い抜かねばならない。

一部始終を眺めたあと、郁代からコアメダルを渡された。

 

「レプリカだから性能は劣るけど、きっと力になるわ」

 

「これなら暴走の危険も無いですしね」

 

紫のコアメダルそのレプリカだった。しっかり受け取る。

この日を無事に終えられたら、行く所は決まっていた。

 

 

 

 

夕焼けが差す病院の廊下が、やけに長く感じられた。

本当はお見舞いも許可されていないのだが、今日くらいいいだろう。

いや、今日こそ行かなくてはならない。紫のメダルの影響が無くなった今、ともすると米女(よねめ)ハルトが目を覚ますかも知れないのだから。

 

病室の前に着く。ゆっくり五秒かけて息を整える。ノックした。返答はない。扉を開ける。

病室は時が止まったかのように静かで、白かった。その中で枯れかけた花だけが異様な存在感を放っている。

 

「お久しぶりです、ハルトさん」

 

当然返事は無い。人工呼吸器と心電図の音だけが木霊する。

はずだった。静かな病室にノックの音が響く。

しまった。秘密で来ているのに、誰かと鉢合わせなどしたら___。

 

悩んでいる内に扉は開かれた。

 

「エイジ先輩?」

 

「メイちゃん?」

 

来客は花を携えたメイだった。

BOARD関係者でなくて、ホッと胸を撫で下ろす。

椅子が一つしかないので、メイに譲る。

 

「良いのか?米女家との接触、禁止されてるんだろ?」

 

「本当はダメなんだけどね。えーと、俺の中から紫のメダル出たんだ」

 

「千砂都先輩から聞いたよ。嬉しそうに話してた。おめでとう、でいいのか?」

 

メイは迷うような表情を見せた。

 

「うん。ありがとう。それでね、今日そのメダルを封印したんだ」

 

「待った!」

 

「ん?何?」

 

彼女から疑惑の眼差しを向けられた。

 

「それ、私に喋って良いことなのか?」

 

「あ!そう言えば良くないね」

 

「おい!」

 

ツッコまれた。

 

「機密情報をホイホイ私に話すなよ!」

 

「いやいや、メイちゃんにも知る権利があるよ」

 

「権利だろ?ならせめて、聞きたいかどうか聞いてくれよ……」

 

「ごめんね?」

 

『エイジは割と人の話聞かないからなぁ』

 

「そうなんだよ。結構猪突猛進と言うか……え?」

「え?」

 

くぐもった声で、会話に入って来た人が居た。

 

『悪い。今どういう状況?』

 

「お兄ちゃん!?」

「ハルトさん!?」

 

米女ハルトが、確かに意志を持ってそこにいた。

ナースコール、と思ったが、今は兄妹二人にしてあげた方がいいだろう。

 

「看護師さん呼んで来る!」

 

それだけ言い、エイジは病室を飛び出すふりをした。

扉の隙間から二人の様子を伺った。

 

『メイ、背が伸びたか?』

 

「当たり前だろ?二年も寝てたんだから」

 

『そうか、そんなにか。て事は、もうメイも高校生か』

 

「ああ。聞いてくれよ。私スクールアイドルになったんだ」

 

『そうなのか!?……ふふ、楽しみが増えたなぁ』

 

「それだけじゃない、聞いて欲しい話がたくさんあるんだ」

 

『ああ。ゆっくり聞くよ』

 

エイジは扉を音を立てないよう、そっと閉じた。

二年間、刺さったままだった心の棘が、スッと抜けるような気がする。

夕日は沈み、もうすぐ夜の帳が下りる。星が出る。

エイジは出来るだけゆったりとした足取りで歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日々は過ぎ、あっという間にオープンキャンパス当日。

章は生徒会と応援部の活動を何とかこなしていた。

周囲からはやれ要領が良いだの、卒なくこなすだの言われるが、自分などこんなものである。別に万能ではない。

また一つ仕事を終わらせて、次は、と。

肩を叩かれたのは、そんなタイミングだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きな子は演劇部の手伝いを終え、恋達生徒会と合流しようとしていた。

その道中、章を見かけた。中庭で誰かと話込んでいる。制服が違うので他校の女子だ。キリッとした顔立ち、ポニーテールの美人。少し恋に似ている。

二人がこちらに向きそうになったので、思わず校舎に隠れた。

いや、なぜ隠れた?章の知り合いなら、普通に後輩として声をかければ良いじゃないか。

しかしなぜが、それが今は出来ないときな子は確信する。胸のモヤモヤがいつも通りの振る舞いを阻んでいた。

校舎の影からそっと覗く。

二人はとても親しげだった。少女は肘で章を二、三度小突いていた。スキンシップ!?あの章に!?

今度は章の方からぐっと肩を掴み、引き寄せた。

スキンシップ!?あの章が!?

付き合って、いるのだろうか。だとしても不思議はない。

章はモテる。モテるがその告白を受けた事は一度もない。それが他校に彼女が居るから、というのであれば納得である。

そのはずなのに。

どうして胸がこんなにもざわつく?胸が締め付けられるように痛む?

自分は一体、どうしてしまったのか?

 

桜小路(さくらこうじ)?」

 

「あ……!」

 

章に見つかってしまった。

 

「どうした?体調が悪いのか?」

 

「あ、いえ、えっと、その、」

 

校舎の影でかがみ込んでいたので、そうも見える。

彼は医療モードで話しかけて来た。

体調はどこも悪くないけれど、胸が痛いです、とは言えなかった。

本当になぜ___?

 

「桜小路!?」

 

「ヘ___?」

 

章が駆け寄ってくる。

遅れて自分が泣いている事に気付いた。

 

「大丈夫だ。ゆっくりでいい、どこが痛むか、教えてくれ」

 

きな子の肩を抱き、彼にしては珍しい、優しい笑みだった。

けれど今はその全てが痛々しい。

 

「あ!」

 

はた、と。さっきの少女が戻ってきた。

しまった。こんな瞬間を見せたら、きっと困らせてしまう。

章の彼女を。

 

「お兄ちゃんがかわいい女の子泣かしてるー!」

 

「手え貸せスカポンタン。保険室まで運ぶぞ」

 

スカポンタン?いや、それよりもっと重要な事を聞いたような。

 

「お兄ちゃん?へ?章先輩の妹さん、っすか?」

 

「初めまして!妹の十香(とおか)です!兄になにされたんですか?」

 

心配そうな目の十香に、両手を包まれた。

するとその手をパシッと章が叩き、離させる。

 

「痛い!?なにするのさー!」

 

「下心が透けて見えてるんだよ。もういい、保険室までは俺が運ぶ、お前は人払いやれ」

 

「ちぇー」

 

「だ、大丈夫っす!どこも痛くないので!」

 

「なんもねえ奴がそんなポロポロ泣かねえわ。いいから乗れ。肉体でも精神でも、悪い時は素直に悪いでいいんだよ」

 

章は屈んで、背中を向け手招きした。

彼も強情な所があるので、これ以上は無理だろう。乗っからせて貰う。

章の背中の温度。それだけで安心感で満たされた。

 

保険室には誰もいなかった。確か一実も担当していた筈だが、出払っているのだろうか。

 

「ベッドは……空いてるな。取り敢えずここでいいか?」

 

「は、はいっす」

 

ベッドに降ろして貰う。十香のお陰で誰とも会わずにやってこれた。

 

「少しは落ち着いたか?」

 

「申し訳ないっす。ご心配をお掛けして」

 

「気にすんな」

 

章はそう言い片手を振った。

 

「お兄ちゃんの後輩さん?かわいいですね!」

 

「かわ……!?」

 

「ほっぺたプニプニ、肌スベスベ、おお、黒タイツがエロい……!」

 

「えろ……!?」

 

十香のマシンガントークは章の手刀によって遮られた。

 

「うちの後輩をやらしい目で見るんじゃねえよ」

 

「えっと、章先輩の妹さんすか?」

 

「お恥ずかしながらな。こいつは伊藤十香(いとうとおか)。可愛くない妹。一応、ここを受験する気らしい。変態だから気を付けろ」

 

「兄がお世話になってまーす。あと変態じゃないよ紳士だよー」

 

紳士?淑女じゃなくて?

 

「こっちは桜小路きな子。可愛いい後輩だ。天然でたまに毒舌だがな。スクールアイドルやってる」

 

「スクールアイドル!成る程、道理でビジュが良い訳だ」

 

「そ、そんな事ないっすよ」

 

「よろしくお願いしますね、きな子先輩」

 

せん、ぱい……?

きな子に衝撃が走る。

そうか。まだ自分は一年生だが、来年になれば新入生が来る。そうなれば。頬が緩む。

 

「ふふ、ふふふ」

 

「泣いたり笑ったり忙しい奴だな」

 

章が呟いた。

 

「ところで、きな子先輩はうちの兄と付き合ってるんですか?」

 

「はあ?」

 

「付き、合う……?」

 

きな子は宇宙を見た。

その中で星が生まれ、海に生命が生まれ、大地は芽吹き、動物は陸へと上がっていった。おお、陸上革命。

きな子は聞いた事もない、強大な足音を聞いた。生命の躍動。それはつまり。

耳まで熱くなるのを感じた。

 

「ち、違うっすよ!そんなきな子なんかが、恐れ多い……!」

 

落ち着いた筈の胸が、また高鳴った。これは。

 

「なんだ、そうなんですか?兄がやたら焦ってるからてっきり」

 

「俺は冷静だ」

 

「でもきな子先輩が泣いてる時、目が泳いでたよね?」

 

章はペチンと十香の頭を叩いた。

 

「しばくぞ」

 

「もうしばいてる!」

 

兄妹のやり取りを微笑ましく見ながら、きな子は確信する。

章に彼女が居ると、あんなに動揺したのは。

それが妹と分かると、こうも安堵するのは。

ああ、自分は___。

 

「お前はもういいから、どっか別のところ見に行け。せっかくのオープンキャンパスなんだから」

 

「あ、ひどーい。人払いした妹に労いの言葉一つないの?」

 

「はいはい、よくやった」

 

「うわ、テキトー。いいもん。次の美少女はもう見つけてるし。たこ焼き屋台のところに美少女がたむろしててさ。たこ焼きはアレだったけどそこにさ、白髮でお団子にしてるちっちゃくて可愛い先輩がいたんだよね」

 

「……そいつもう彼氏いるぞ」

 

「またお兄ちゃんの知り合い!?」

 

十香はガーンッと肩を落とすと、トボトボと保険室から出て行った。

 

「全く、あいつはオープンキャンパスで何を見に来てるんだ」

 

「楽しい妹さんっすね」

 

「馬鹿なんだよ」

 

きな子のフォローはバッサリ切り裂かれた。苦笑いする。

ベッドから立ち上がった。

 

「まだ立つなよ。寝ててもいいんだぞ?」

 

「いえ、もう大丈夫っす」

 

「……顔色は良くなったが___

 

「本当に平気っす。章先輩が居てくれたから」

 

「運んだだけだぞ?」

 

章は不承不承と言うか、理解が追いついていないようだった。

今はいいのだそれで。

 

「章先輩、明日も会えますか?」

 

「?そりゃそうだろ。生徒会でも部活でも」

 

「えへへ。そうすっよね」

 

「お前本当に大丈夫か?頭とか打ってないだろうな?」

 

「むしろ元気なくらいっす。さあ行きましょう!生徒会の仕事はまだ残ってますから!」

 

章は疑問そうにしながら、自分が側に居れば良いと判断したのだろう。無理に止める事はしなかった。

今はまだしっかり者の先輩とおっちょこちょいな後輩でいい。

いつかあなたに認められるくらいの、先輩達のステージを超える程のスクールアイドルになった時。

あなたの恋人になりたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイジは朝から応援部と生徒会の業務に追われていた。お昼になってようやく時間が取れたので、スクールアイドル部のたこ焼き屋台を覗きに行く。

有り体に言うと閑古鳥が鳴いていた。

 

「お疲れ様。客足はあんまり?」

 

「エイジくん。お疲れ様。こんなに丸いのに、何故か売れないんだよね」

 

千砂都は不思議そうに呟く。

 

「どう思う?これ」

 

「う〜ん」

 

すみれに尋ねられ、困ってしまう。

ネオレインボーたこ焼きと銘打たれたそれは、生地とマヨネーズが文字通り虹色だった。

逆にそれが毒々しい。正直美味しそうには見えない。

だが自分は応援部。修正が必要なら提言し、商品として充分なら宣伝する。それくらいはしなければ。

 

「一つ貰っていい?」

 

「ああ。いくらでもあるから」

 

メイから一つ受け取り、食べてみる。

 

「あ、美味しい」

 

味は普通のたこ焼きだ。こんな見た目なのに不思議である。

 

「これも飲んでみて」

 

「?これは?」

 

「オニナッツ特製スムージーですの」

 

四季に勧められたそのスムージーの中には、たこ焼きが入ってる。

人類が到達していい食べ物なのか?これは?

だがこれも応援部の務め。太いストローを突き刺し、たこ焼きごと吸う。

 

「!?いける……!?」

 

「本当に!?」

 

すみれが訝しんだ。

スムージーのクリーミーなまろやかさと、たこ焼きの旨味、塩味が絶妙にマッチしている。

見た目の問題さえクリア出来れば、売れる!

 

「よう。やってるかい?少年少女」

 

「ハルトさん!?」

 

「兄貴!?」

 

焦ると、ストローが変な音を立てた。熱々たこ焼きが喉奥にダイブ。エイジはむせた。

目の前には米女ハルトが居た。もう退院していたのか。

 

「もう出歩いて大丈夫なんですか?」

 

「ああ。むしろ筋肉量取り戻す為に、積極に外に出ろってさ」

 

二年間も寝たきりだったのに、数日でここまで回復するとは。

流石BOARDといったところか。

 

「来んなって言ったじゃんか」

 

「そう言われると来たくなるのが人情だろ。それにな、可愛い妹が無事に学校生活を送れてるかどうか、気になって気になって夜しか眠れないんだから」

 

メイは不機嫌そうに唇を尖らせた。が、まんざらでもないのか赤くなっている。

 

「メイちゃんのお兄さん?」

 

「そう。ハルトさん。BOARDの正隊員だよ」

 

千砂都達にハルトを紹介する。

 

「米女ハルトです。いつも可愛い愚妹がお世話になってます」

 

「何回も可愛いとか言うな!シスコンだと思われるだろ!」

 

学校に身内がやって来て、嬉し恥ずかしなメイが反発する。

そんな様子を見ていた四季が、ハルトの前に出てきた。

 

「よろしく、お義兄さん」

 

「!?……なんか今寒気がしたような……?」

 

四季の挨拶に何故かハルトは震えていた。

友達の兄をお兄さんと呼ぶのは一般的な気がするが。

 

「そうだハルトさん、これ食べてみてください」

 

「え、なにこれ?……普通のたこ焼きはないの?」

 

ハルトはネオレインボーたこ焼きの色味に引いていた。

まあまあ、そう言わず。

 

「美味しいですから、騙されたと思って」

 

「俺また入院するの嫌なんだけど……」

 

劇物扱いされた。まあ見た目に毒を連想するのは確かである。

観念したのか、ハルトはたこ焼きを頬張った。

 

「あ、旨い。て言うか普通のたこ焼きなんだな」

 

「でしょう!こっちもどうぞですの!」

 

「今度は何?スムージー?たこ焼きの?……いやいや、食べ物で遊んじゃ駄目でしょ?」

 

ハルトは夏美から差し出されたスムージーを、しばらく怪訝な顔で眺めたあと、ズズッと強く吸った。

 

「なんで旨いの!?」

 

ハルトは驚愕した。

スムージー✕たこ焼きは新感覚過ぎるか。

 

「ところでお願いがあるんですけど」

 

「ん?何々?」

 

「客引き、手伝って貰えませんか?」

 

「俺が?」

 

エイジの提案にハルトは目を丸くしている。

試食を兼ねた広告を打ち出し、それを客のふり(つまりはサクラだ)をしたハルトが食べて、出来る限りオーバーリアクションで美味しさを伝えてもらう。

それがエイジの作戦だった。

メイに同行して貰い、学内の人目に付きそうなところで片っ端から行う。

 

「美味し〜!こんなたこ焼き、食べた事な〜い!」

 

ハルトの演技力は、まあ及第点だった。

メイが小脇を肘でつついき、小声で言う。

 

「わざとらし過ぎるだろ!」

 

「これくらい大仰な方がいいんだよ!」

 

そう、目立つくらいでいい。そうすれば、怖い物見たさ、好奇心、あるいはお腹が空いた誰かを誘引できる。

 

「すみません、試食いいですか?」

 

ほら来た。

 

「「どうぞどうぞ」」

 

メイと共に、営業スマイルを張り付ける。

入部初期と比べると、彼女の笑顔も随分自然になった。

人通りが多いところで、何度も行った結果、試食は空になった。

 

「一度補給しに戻るか」

 

「そうだね。客入りも見たい___

 

そこでエイジは見知った人影を見かけた。

 

「ごめんメイちゃん、ハルトさんと先に戻ってて!」

 

「おい、エイジ先輩!」

 

プラカードなどの荷物をメイに任せて、人影を追う。校舎を曲がったところで追いついた。

 

(なぎ)ちゃん!」

 

「!あなたは……」

 

凪一(なぎはじめ)の顔には驚愕の色が滲んでいた。

 

「オープンキャンパス、来てくれたんだね」

 

彼女はツカツカと歩んでくる。

至近距離、話すには近すぎる位置で止まった。

まるで。

 

「どう結ヶ丘は?いい学校で___

 

一は殴り掛かってきた。

確かに殴るにはいい位置取りだ。

咄嗟にエイジは避ける。

二発目。

エイジは片手で受け止めた。

だがダンスが出来る運動神経はあれど、格闘は素人だと分かる。

 

「ど、どうしたの凪ちゃん?そんな風に殴ったら手を怪我しちゃうよ」

 

「あなた、BOARDなんですってね」

 

「うん。そうだよ」

 

「ならどうしてそう呑気にしてられるの!」

 

一は激昂していた。

 

「千砂都は攫われたんでしょう!?自分達の失態を恥じもしないの!?」

 

そうか。彼女はずっと、怒っていたのか。

 

「オーズが犯人を捕まえて、いい気になってるの?被害者の苦しみはどうなるのよ!」

 

「……凪ちゃんは、ちぃちゃんが大切なんだね」

 

「あなたは違うの!?あの才能は怪人なんかに傷つけられていいものじゃない!」

 

「概ね凪ちゃんの言う通りだと思うよ」

 

「概ね?」

 

ギロリ、と一はエイジを睨んだ。

 

「才能があるから大事なんじゃないよ。人間だから、そこに命があるから大事なんだよ。ごめんね、側に居るのに守れなくて」

 

「綺麗ごとよ。結局BOARDも自分達の保身と手柄しか興味ないんだから。私は許さない。怪人も、仮面ライダーも」

 

拳を引いた彼女は、それだけ言うと踵を返した。

 

「ちぃちゃんには会った?」

 

ピタリ、と一の足が止まる。

 

「たこ焼き屋台に居るから、会ってあげてよ。ネオレインボーたこ焼き、美味しいから」

 

聞こえただろうか。返答は無く、彼女は行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

オープンキャンパスも終わり、エイジはたこ焼き屋台へと戻って来た。たこ焼きはある程度売れたらしい。スムージーの方は全然だが。

 

「凪ちゃん、来た?」

 

「あ〜……。うん。来てくれたよ」

 

片付けをしながら千砂都に尋ねると、反応は芳しく無かった。どうしたのだろうか。

 

「凄い高飛車だったわよ。『あなた達、スクールアイドルなんてものに千砂都を縛らないでくれる?』って」

 

すみれが一のモノマネをする。そうだった。彼女は千砂都のスクールアイドル活動に反対していたのだ。

この人数相手でも揺らがないとは。本当に意志は固いらしい。

ふと見るとメイが俯いていた。

 

「どうしたのメイちゃん?」

 

「いや、スクールアイドルを見る人の中には、ああいう人もいるんだろうなって」

 

「SNSでも、どうしてか感情的で批判的な人はいるんですの」

 

メイと夏美が言った。

確かに、誤解ややっかみなんかで、反感を持つ人はいるのかも知れない。でも。

 

「大丈夫。皆が歌っていけばきっとその輪は広がっていく。凪ちゃんだって、まだ本当のスクールアイドルを知らないだけだよ」

 

「エイジ先輩の言う通り。Liella!には、その力がある」

 

エイジの言葉を、四季が肯定してくれた。

そうだ。スクールアイドルには、Liella!には人と人との繋がり、その輪を広げる力がある。

片付けもあらかた済んだか。

 

「かのんちゃん達に差し入れしてくるよ」

 

「私も行く!」

 

「じゃあ一緒に行こうか」

 

千砂都と共に、たこ焼きスムージーを複数持って校舎へ入って行く。

生徒会室、居ない。体育館、居ない。どこだろうか。

と言うか。

 

「ちぃちゃん?流石にそこまで寄られると歩きづらいよ」

 

千砂都は肩どころか胸が当たりそうな位置まで寄って来ていた。

お化け屋敷じゃないんだから。

 

「だって、学校で二人きりになる事ってまずないじゃない?」

 

確かに、Liella!か応援部の誰かが居るのが当然だ。二人きりになる事は基本無い

 

「帰ったら存分にイチャイチャ出来るから……」

 

「違うの!私は学校でも一緒に居たいの!……何年待ったと思ってるの?」

 

千砂都はふてくされたような、照れたような表情を見せた。

そうだ。自分だけでは無い。千砂都も十年以上好きで居てくれたのだ。それをちゃんと想像出来ていなかった。

 

「……そうだね。一分一秒、大事にしないとね」

 

寄って来る千砂都と歩きやすいよう、歩幅を小さくした。

 

いつも以上に時間をかけて到着した図書室に、かのんは居た。

何やら本を複数広げている。

 

「居た!」

 

千砂都が声を上げる。

 

「あ、ちぃちゃん、エイジくん。そうだ!片付け___

 

「もう終わったよ。心配しないで」

 

急いで立ち上がるかのんに、エイジが言った。

 

「はい!」

 

「……何これ?」

 

「売れ残り」

 

千砂都はネオレインボーたこ焼きスムージーを手渡す。

かのんは怪訝な表情をした。これを見て笑顔になる人間は居ないか。

 

「この街の歴史調べてるの?」

 

「うん。この学校がなんでここにあるのか、それがステージを決めるヒントになればって」

 

千砂都の質問に、かのんが答えた。

 

「見つかった?」

 

「残念ながら、まだ」

 

エイジが聞くと、かのんは首を横に振った。

すると机に置かれたかのんのスマホが振動する。表示された名前は優奈(ゆうな)

 

 

 

 

 

 

十二人はスクールアイドル部部室に集まった。

サニーパッション、柊摩央(ひいらぎまお)聖澤優奈(ひじりさわゆうな)が連絡をくれたからだ。

折行って話があるそうだが。

 

「ステージ?」

 

かのんが聞いた。

パソコンとスマホをリモートで繋ぎ、お互いの映像を共有する。

 

『せっかくなら、一番信頼してるスクールアイドルに、まずはお披露目したいなぁって』

 

『自信作なの』

 

優奈と摩央が言った。

二人は既にステージを作り上げたようだ。

 

「サニパ様の……」

 

「ステージ……」

 

「生きてて良かった……」

 

可可とメイと一実が恍惚と言った表情で呟いた。

 

「これはバズりますの!一足先にネットに___

 

スマホを取り出し、パソコンの画面へと向ける夏美。だがそのカメラはたこ焼きスムージーによって阻まれた。四季だ。

 

「信頼関係」

 

「わ、分かってますの」

 

四季の一言で、夏美はスマホをしまった。

 

『では、本邦初公開、これが今年のサニーパッションのステージです!』

 

映されたのは海の上のステージだった。

両脇には花で飾られたドラゴン。更に海上だというのにヤシの木が一対。更に中央には太陽の光をイメージしたであろう水晶のようなゲート。その中心にはルビーのような巨大な宝石が埋め込まれていた。

Liella!は歓声を上げた。

 

「素敵なステージデス!」

 

「リモートじゃなくて生で見てえ!」

 

「激同!」

 

可可、メイ、一実が興奮した様子で言った。

はげどうって、よくそんな言葉知ってるね。

 

『島のみんなが、私達をイメージして作ってくれたの。最後だからって』

 

「最後?」

 

摩央の言葉にかのんは疑問を呈した。

 

『この地区予選を仮に突破出来たとしても、次は東京大会、更には決勝。会場は、東京の大きなステージになる可能性が高いでしょ?』

 

優奈が言う。

 

『そしたら私達が、この島でスクールアイドルとしてステージに立てるは……』

 

摩央が言った。

皆理解しただろう。スクールアイドルは部活動だ。部活である以上、期限がある。高校卒業という期限だ。

 

『この島と共に生きて、仲間が居たからここまで来られた』

 

『この学校と、この島をもっと盛り上げたい!みんなに来て欲しいって』

 

摩央は海を眺めた。優奈はウィンクした。

 

『お互い、素敵なライブにしようね〜!』

 

「はいデス!」

 

「ありがたきお言葉〜!」

 

「お約束します!」

 

優奈の言葉にまた、可可、メイ、一実が答えた。

 

「私達も、見つけなきゃ」

 

かのんが呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。日曜日は秋晴れだった。

顔を洗いながら考える。ステージ、ステージかあ。去年を超えるとなると、何処が良いだろうか。

ピンポーンと呼び鈴が鳴った。

千砂都は合鍵を持っているので、彼女ではない。

二年生の誰かだろうか。まだエイジの食生活改善の依頼は続いているようだし。

 

「はーい」

 

扉を開けると、そこに居たのは私服のメイと四季だった。

よう、とメイが言い、それに合わせて四季が目を伏せるように簡単に頷いた。

 

「あれ?二人共どうしたの?」

 

「どうしたの?って、朝ごはんだよ。作りに来るのが通過儀礼なんだろ?」

 

「……誰から聞いたの?」

 

「可可先輩」

 

四季は端的に答える。

何やら間違って伝わっているようだった。

エイジは事の経緯を簡単に説明する。

 

___と言う分けだから、別に通過儀礼とかじゃないよ」

 

二人はしばし考え込んでから、口を開いた。

 

「それじゃあやっぱり私達の役目だろ。入部したての頃とか、よく個別練習付き合ってもらったし」

 

「日頃お世話になってるから、その恩返し」

 

メイと四季はそう言った。

 

「大げさだよ。応援部として当然の事してるだけ」

 

「それでも、私はエイジ先輩には恩を感じてるよ。Liella!に入るきっかけを作ってくれたんだからな」

 

「Me too」

 

「二人とも……。ありがとう」

 

後輩が慕ってくれるのは、同学年が来てくれるのとまた違った温かさがあった。

二人を台所まで招き入れる。

 

「ここが……」

 

メイが呟いた。四季も部屋を見回している。

以前、二人ともが来てからそう様変わりした事もないはずだが。

 

「そりゃ見た目は変わらないけど、関係が変わっただろ。だから、その……」

 

「愛の巣」

 

「「!?」」

 

四季は顔色一つ変えず呟いた。

 

「千砂都先輩とエイジ先輩の愛の巣」

 

「どストレートに言うな!」

 

メイの方が顔を赤くしていた。

 

「そう言われると照れちゃうな」

 

エイジは頭をポリポリ掻いた。

 

「だから、正直どうかと思った。来るのは迷惑じゃなかった?」

 

四季が心配そうに尋ねてきた。

そんなところにまで気を使ってくれたのか。

 

「大丈夫だよ。二人共、と言うかスクールアイドル部なら誰でも歓迎。ちぃちゃんだって喜ぶし。何かあったらおいでよ。泊めてあげられるから」

 

「うん」

「ああ」

 

さて、今朝のおかずはどうするか。

せっかく後輩が二人も来てくれているし、ここは奮発して。

 

「銀鮭、焼きます」

 

メニューは焼き鮭、味噌汁、玉子焼き、サラダに決定。

きっちり分量を測ろうとする四季と、感覚派のメイで、三人での作業は難航するかに思われたが、そんな事は無く。

お互いがお互いの動きを受け入れていた。四季なら、あるいはメイならこうするだろうという予測が常にあった。

作業はスイスイと進んだ。

配膳も済み、皆で食卓へ座る。

 

「「「いただきます」」」

 

うん、美味しい。

お米も粒立ってるし、鮭の塩気も丁度いい。いい鮭を使って良かった。お味噌汁もパックだがちゃんと出汁の味も感じる。

塩味が多いので、玉子焼きは甘め。これで正解だろう。

ふと視線を感じた。二人がこちらをじーと眺めている。

 

「どうしたの?何か苦手な物あった?」

 

「あ、いや、美味しそうに食べるなぁって」

 

「少し前まで味が分かんなかったからさ、ありがたみを感じるよね」

 

メイの感想に笑って返す。

 

「味を感じなかった時、どうだった?」

 

「おい四季!」

 

「いいのいいの、振り返れば貴重な体験だしね。香りは感じるから、物にもよるけど、味のないガムみたいだったよ」

 

四季の質問に、正直な感想を述べた。

 

「だからって訳じゃないけど、やっぱり食に無頓着になって行ったよね。粗食になっていったよね。今はみんなの助けもあって、ご飯は丁寧に食べなきゃな、ってなってるけど」

 

「食は大事」

 

「仰る通りです」

 

四季の意見に同意する。

食は人の心身の健康、全ての源だ。

 

「二人とも遠慮なく食べてね。ご飯のお代わりもあるから」

 

「そんなに食べられねえよ……」

 

それから他愛もない話をした。学校ではお昼ごはんちゃんと食べてる?とか。同じクラスだからスクールアイドル部で固まって食べる、とか。そんなこんなで朝食を食べ終わる。

そうだ。大事な事を聞いていなかった。

 

「ステージ、何処か良い案無い?二人とも出身東京だよね?」

 

二人は悩む仕草を見せた。

 

「そりゃ私達もこの辺詳しくないわけじゃないけど。有名なお店だっていっぱいあるしな」

 

メイが答える。

 

「けど、結ヶ丘のシンボルとなると話は別」

 

四季が続けた。

 

「ああ。正直シンボルって言われると、それは違うよなってなって、結局名案はないよ」

 

メイは言い切った。どうやら一年生も同じく手詰まりらしい。これは案を広く募集した方がいいかもしれない。

 

「ナナミちゃん達の力を借りた方がいいかなぁ……」

 

エイジがそう呟いた時、三人のスマホが鳴った。

Liella!と応援部、共通のグループチャットに連絡が入る。

かのんからだ。

 

「喫茶店に集合?」

 

メイが呟いた。

更にナナミ達から話があると送られて来ていた。

三人で喫茶店へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かのんの実家、喫茶店にはナナミ、ヤエ、ココノ、応援部にLiella!の十五人が集まった。流石に迷惑ではないだろうか。

 

「後は私達に任せて」

 

ナナミは胸を張った。

 

「どういう事ですか?」

 

恋が不思議そうに聞いた。

 

「ラブライブが終わるまで、かのんちゃん達は練習に集中」

 

「その間、生徒会の仕事は私達が頑張ります」

 

「去年もステージ作り、手伝ったでしょ?」

 

ナナミ、ココノ、ヤエが続けて言った。

有難い申し出だ。しかし。

 

「嬉しいけど、もし全国大会まで行けたとしたら……」

 

かのんは可能性の話をした。

 

「かなりの長期間、頼る事になります。そこまで甘えるのは……」

 

恋は生徒会長として、あまり乗り気ではないようだった。

だが三人の熱量は高い。

 

「私達もかのんちゃん達と、一緒に喜び合いたいの」

 

ヤエが言った。

 

「だから出来る事、手伝える事があったら、全部やりたい!」

 

ココノが言った。

 

「悔いが残らないように」

 

ナナミが静かに、だが確信を持って言った。

ナヤコトリオの望みは、確かにLiella!と重なる。

かのんと恋は、顔を見合わせ頷き合った。

 

「ふぇ〜ん。ふぇ〜」

 

力の抜けるような泣き声が、店内に響いた。

可可が泣いている。

 

「泣くのはまだ早いよ」

 

「そう言う千砂都も泣いてるデス」

 

千砂都の目にも涙が浮かんでいた。

 

「泣き虫なんだから」

 

「って言ってる、すみれ先輩も泣いてますの」

 

夏美に指摘されたすみれは、ふいと顔を逸らした。

 

「有難いです」

 

涙目で恋は感謝を述べた。

 

「それじゃあ、みんなで生徒会の仕事がんばろう!」

 

「「「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」」」」

 

エイジの掛け声に、応援部以外はキョトンとしていた。

 

「「「え?」」」

 

それに対して、応援部の三人もキョトンとする。

 

「言ったじゃない、『かのんちゃん達には練習に集中して欲しい』って」

 

「うん。聞いたよ?……あ!もしかして応援部も入ってる?」

 

ココノの台詞に、エイジが聞いた。

 

「当然だよ。応援部にはしっかりLiella!を応援して貰わないと」

 

ヤエは何を言っているんだ、と言わんばかりだった。

 

「しかしよ、正規役員が七草(ななくさ)一人じゃ流石にきつくないか?」

 

章が当然の疑問を投げ掛ける。

 

「大丈夫。そこはマンパワーで何とかします」

 

サムズアップするナナミ。

ナヤコトリオの顔は広い。一年生を含めて、ほぼ全校生徒と知り合い以上にはなっているんじゃないかと思う程に。

しかしだからと言って、応援してくれる人を後回しにするのも違う気がする。

 

「どうしますか、部長?」

 

一実がエイジに聞いた。

そうだ。応援部部長は自分なのだ。

 

「うん。応援する人もされる人も、どっちも応援してこその応援部だから。そこに貴賤はないよ。生徒会の仕事もたまには手伝わせてね?」

 

エイジの言葉に、ナナミは溜め息を付いた。

 

「……エイジくんってこういう時、基本折れないんだよね」

 

「「「「「「「「「「「「「うん」」」」」」」」」」」」」」

「ああ」

 

「えー?」

 

そんな皆して。

人を頑固みたいに言わないで欲しい。

皆が笑った。

 

 

 

 

 

ある日の生徒会室、ナヤコトリオが集めたメンバーが生徒会の業務を代行してくれていた。

エイジもその中に入り、説明や指示役を行う。

 

「あれ、どうしても数字合わない〜!」

 

ヤエが嘆く。

 

「もう一度、一から計算してみたら?」

 

「もう何回もやったよ〜。なんで合わないの!」

 

「そういう時は、他の人の目を借りようか。俺が代わるよ」

 

ヤエがにらめっこしていた資料を貰い、一から計算する。

 

「葉月さん、ずっとこんな大変な事を……」

 

「たまに手伝わせて貰ってたけど、ほとんど一人でやってたよ」

 

ココノの呟きに計算しながら答える。

まさにハイスペお化けである。

 

 

 

 

 

 

 

またある日。

 

「神輿を作るぞ」

 

応援部部室で章が言った。

 

「確か次のライブはお祭りがテーマだっけ?」

 

「ああ。でけえ神輿で注目を集める」

 

「完成イメージはこの通りデス!」

 

机の上にバサッと可可が設計図のような物を広げた。

 

「あ、凄い!チビとマンマルが居る!」

 

神輿の最上部には二匹が並んで配置されていた。

これは担ぎたい!

 

「応援部みんなで担ごう!」

 

「アホか。現場を仕切る役が要るだろうが」

 

章にチョップされた。

身長的に、章を仕切り役に、エイジと一実は担ぎ役になった。

 

「有志で担ぎ手を募集しないとな」

 

「でもいいのかな?お神輿とだとLiella!以外の人も映っちゃうけど」

 

「それは大丈夫です。他の部活をバックダンサーとかコーラスにしてるスクールアイドルも居ますから」

 

エイジの疑問に、一実が答えた。

流石スクールアイドルには詳しい。

 

「後はお神輿のサイズだね」

 

「ハイ。室内か野外で大きさは変わってきマス」

 

エイジの意見を可可が補足した。

 

「もうステージって決まってましたっけ?」

 

「いやまだだ。先にそっち決めて貰ったほうがいいな」

 

一実の質問に章が答えた。

 

 

 

 

 

 

またまたある日。十二人はステージ候補の下見にやって来ていた。表参道の歩道橋から道路を眺める。

 

「こんなに?」

 

スマホをスクロールしながらかのんが呟いた。

 

「ステージの候補です。ナナミさん達がアンケートを取ってくれました」

 

恋が嬉しそうに言った。

ナヤコトリオがやってくれたのは、生徒会の業務だけではない。

ステージの候補、そのアンケートの人集めにも尽力してくれた。

お陰で多くのステージ候補や意見が集まった。

しかもそれをスマホで見られる。

 

「予想通り、表参道が多いんだな」

 

「百年以上前から、この道あるからねー」

 

「やっぱり目立つんですの」

 

メイ、すみれ、夏美が言った。

表参道と言えば有名な通りやお店が多いし、結ヶ丘からも近い。最有力候補となるのも頷ける。しかし。

 

「でも、去年歌った場所デス」

 

「あえて、同じところって選択肢もあるけど……」

 

可可と千砂都が言った。

そうなのだ。去年のクリスマスライブと被ってしまう。運営としては楽なのだが。

 

「インパクトとしては、弱いわよね」

 

すみれの言う通りだった。

視聴者投票で決まる以上、「またか」と思われるのは避けたい。

 

「難題」

 

「っすねぇ」

 

四季ときな子が呟いた。けれどそうも言って居られない。

 

「でも、そろそろ決めないと、他の準備に差し障りが出ちゃいますよ」

 

「それは、分かってるんだけどね」

 

一実の意見に、千砂都が答えた。

二人は普通の距離で話している。彼も大分慣れてきたようだ。

成長したなぁ。

少しの沈黙の後、皆が歩道橋からの景色を眺める。

 

「去年、ここにステージ作ってくれたの、学校のみんなだったよね」

 

「うん。応援部だけじゃ出来なかったよ」

 

懐かしむようなかのんに、エイジが答えた。

 

「きっと、この場所が良いってみんなが思ったんだよね」

 

「うん。誰からともなく、ここが良いってなったんだ」

 

目を細めるかのんに、エイジは小さく頷いた。

 

「表参道……道……。そうだ!さっきリストに」

 

何か思いついたのか、かのんはスマホをすいすいスクロールする。

そして駆け出した。

 

「かのんちゃん!?」

 

千砂都の呼ぶ声も聞こえていない。

皆で追いかける。

風のように走るかのんに、中々追いつけない。

けど分かる。彼女は確信を掴んだのだ。

 

ようやく追いついた。かのんは道を眺めている。

 

「かのんちゃん〜!」

 

千砂都が走りながら呼んだ。

 

「早いデス」

 

可可は息を切らしている。

 

「何なのよったら、何なのよ」

 

すみれは困惑していた。

 

「みんな?どうしたの?」

 

かのんはキョトンとしている。

 

「どうしたのじゃねえよ。そんなに走ったら危ねえだろうが」

 

「誰だって、あんなに急に飛び出していったら気になります」

 

章と恋はやや不満げだ。

歩行者も交通量も多いので、章の意見は真っ当である。

 

「何があったんだよ?」

 

メイが尋ねた。

 

「ううん。分かった気がしたんだ。私達のステージ!」

 

かのんは晴れやかな表情で言う。

 

「私達の……」

 

「ステージ……」

 

「何処、なんですの?」

 

四季、きな子、夏美が言った。

 

「ここだよ!」

 

「ここ、ですか?」

 

かのんの発言に、一実が聞いた。

ここは明治神宮外苑いちょう並木。

紅葉のスポットとして有名な場所だ。

 

「道。道が集まる場所だったから何じゃないかな、私達の学校が出来たのは。」

 

「道、ですか」

 

言い切るかのんに、恋が呟いた。

 

「道が集まり、人が集まる場所だったから、それぞれの夢や希望が集まり、繋がる場所だったから___

 

 

 

 

 

 

 

いちょうが舞い、そしてライブ当日を迎える。

 

___だから、私達はここにステージを作りました!」

 

集まったお客さんと、カメラの前のオーディエンスに向けて。

かのんは堂々としている。

 

「誰かと誰かが繋がり、結ばれていく。結ヶ丘はそんな学校です。道と道が結ばれるこの場所で、私達は歌います!」

 

Liella!の九人は手を繋いでいく。

 

「Liella!の道が、結ヶ丘の道が、あなたと交わりますように!」

 

◀挿入歌 Chance day Chance way▶

 

 

曲が終わり、九人は再び手を繋いだ。

 

「私達は結ヶ丘高等学校スクールアイドル部、」

 

「「「「「「「「「Liella!です!」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四季(しき)

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