応援よろしく!   作:冷奴with紅しょうが

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歌と正体とクーカー

 

 

 

 

「曲出来たんだ、良かった!……って感じじゃないよね」

 

学校生活応援部、その部室。

エイジはかのんに言った。

当の彼女は、机に突っ伏すして見るからに落ち込んでいた。

 

「かのんサン、また歌えなくなってしまったデス」

 

「え、そうなの?」

 

「エイジくん、ちぃちゃん、どうしよう〜」

 

顔を上げたかのんは既に涙ぐんでいる。 

 

「大丈夫。まだ時間はあるから、試せる事試してみようよ」

 

「うん。諦めるのはまだ早いよ」

 

「ソデス。アンチキショウの言う事なんて気にしてはいけまセン」

 

エイジ、千砂都(ちさと)可可(クゥクゥ)が続けて言った。

こんな時こそ応援部の出番である。

 

「何か策はあるのか?」

 

「ふっふっふ、私にいい考えがあります」

 

(あきら)の問いに千砂都が答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言えば、千砂都のたこ焼き作戦は失敗した。

常にお客さんの視線に晒されながらたこ焼きを作れば、プレッシャーに強くなれるはず、という考えだったようだが、歌にはあまり貢献できなかったようである。

 

そして三人は次の作戦に向かった。そう、三人である。

エイジと章はアパレルショップ前で待機していた。

 

「今回は男子禁制デス!」

 

と可可に言われ、店内に入っていく三人を見送った。  

 

「上手くいくと思うか?」

 

「うーん。まあ本番では衣装を着るわけだしね」

 

「趣旨ずれてんじゃねーか」

 

「気分転換だと思えば」 

 

章のツッコミをかわしながら、エイジもあまり期待はしていない。

どうしたらいいのだろうか。

 

「何をしてあげられるかな」

 

「俺達に出来ることなんて、たかが知れてる。結局のところ、本人が乗り越えるしかないだろ」

 

「それは……そうなんだけど」

 

それでも何かをしてあげたかった。何の力にもなれないという結論は、もう少し先でもいいはずだ。

 

「今何か聞こえなかったか?」

 

「そう?」 

 

「たまんねー!みたいな」

 

そうしてしばらくして、三人は店から出てきた。どうやら何も購入していないらしい。紙袋などは持っていない。

 

「どうだった?」

 

「かのんサン、とってもかわいかったデス!」

 

上機嫌な可可だった。本筋はそこではない。

 

「……それは良かったけど、歌は?」

 

「いやー成果無しかな」

 

「そっか……え!?ちぃちゃん!?」

 

エイジの質問に答えたのは千砂都だった。

どういう心変わりなのだろうか。

 

「いや、私も流石に良くないかな、とは思ってたんだよ?だからちゃんと言うね」 

 

「うんうん!」

 

これでようやく知る事が出来る。自分は何をしでかしていたのか。

 

そこで直感。エイジの意識は人混みの方へむいた。

 

「私が怒ってたのは___エイジくん?聞いてる?」 

 

「みんな、逃げて」

 

人混みの真ん中で、不審な動きをしている人物がいる。

章も気付いたのだろう。中腰になった。

 

「うああああああああああああっ!!?」 

 

男の絶叫が響く。そしてカマキリのような怪人が姿を現した。

悲鳴を上げ、逃げ惑う人々。

その波に呑まれ、三人を逃がし損ねてしまった。

 

怪人はゆっくりとこちらへ向かってくる。

 

「三人とも、隠れてて」

 

「ここは俺達の仕事だ」

 

エイジはオーズドライバーを、章はバースドライバーを腰に当てた。

ベルトが出現。装着者に密着する。

エイジは三枚のコアメダルを装填。オースキャナーでスキャン。

章はセルメダルを空中へ飛ばし落下してきたそれをキャッチ。  

 

「「変身!」」

 

章はバースドライバーにセルメダルを装填。つまみ部分、グラップアクセラレーターを回転させる。

 

『タカ、トラ、バッタ!タ・ト・バ!タトバタ・ト・バ!』

 

エイジはオーズタトバコンボへ。章はバースへと変身した。

後ろで驚愕の声が聞こえるが、今はそれどころではない。

三人を守らねば。

 

『ゲームエリア展開しました。標的はマンティスマルガムと断定』

 

ゲームエリア。

建造物等を守るために現実の上に貼り付けられるテクスチャ。

これがあればこそライダーの力を気兼ねなくふるえるのだ。

 

マンティスマルガムへ接近。

鎌の大振りを避け、爪を立てるような掌底、更にバッタレッグのキックを腹へ叩き込み、吹き飛ばす。

距離が空いたところで、バースバスターの射撃で体勢を整えさせない。

そこへメダジャリバーで斬りつけるが、両手の鎌で止められてしまう。鍔迫り合いは押し負けた。弾き飛ばされる。

そこで敵は浮かぶ斬撃を六枚展開、投擲してきた。

 

「ぐああっ!」

 

全段受け切り、膝を付いてしまう。

避難が完了していない以上、飛び道具は回避出来ない。

 

『ドリルアーム』

 

その脇を右腕をドリルに換装したバースが駆け抜ける。連携のスイッチだ。

 

「鎌ならこっちにもある」 

 

真ん中、胸に相当するメダルを交換。再びスキャン。

 

『タカ、カマキリ、バッタ』

 

逆手持ちの二刀流、カマキリソードを展開。

バースと敵の間に飛び込み、斬りつけた。

再びの切り合い。押し負けそうになるとバースと交代、ドリルによる刺突、殴打で押す。

バースが押されそうになれば、今度はオーズが前へ出る。両人前衛時の連携だ。

 

『ショベルアーム』

 

「決めるぞ!」

 

左腕をショベルへ換装したバースが叫んだ。

敵の片腕をショベルでガッチリ固定。もう片腕での反撃をドリルで弾き返す。

この間にオーズは再度メダルをスキャン。

 

『スキャニングチャージ!』

 

「せいやー!」

 

エネルギーを解放したカマキリソードでX字に切り裂く。

マンティスマルガムは爆散した。

 

「ブランクカードはっと、……あった」

 

オーズがカードをかざすと、光の玉がその中へと吸い込まれる。

人工生命体ケミーが回収された。

これで戦闘終了だ。

 

「みんな、怪我はない?」

 

隠れた三人に声をかける。 

 

「これが、仮面ライダー……」

 

可可は目をパチパチさせている。

だが、かのんと千砂都はジトーと睨んでいる。主にオーズを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確認だけど、あのオーズなの?」

 

「はい、そのオーズです」 

 

かのんの問いにエイジは、年貢の納め時とばかりに素直に白状する。

戦闘があった現場から離れ、公園へとやって来た。

先ほど怪人警報が出たばかりだからか、人っ子一人いない。

 

「有名なのデスカ?」

 

「うん、東京じゃあね。確か一年くらい前に大きな事件を平定した立役者だって、よくニュースとかでも報道されてる」

 

可可の疑問にかのんが答えた。

エイジもその頃からメディアでの露出が増えた自覚がある。とは言ってもそのほとんどは戦闘シーンの切り抜きで、インタビュー等ではないのだが。

 

「黙っててごめん。でもライダーになると、そういう守秘義務みたいなのがあって、ね?」 

 

「今回みたいなケースと、まあ特殊な事情がない限り、人前のでの変身はしないのが原則だな」

 

エイジの懇願を込めた眼差しに、渋々章は返答してくれた。

だが一人、不機嫌を隠そうともしない少女がいた。

 

「……ふーん、エイジくんがあの、まんまるのオーズねえ」 

 

千砂都はぶっすーというような具合の表情である。 

まんまる、とは胸のオーラングサークルのことだろうか。

彼女は丸が好きである。愛していると言ってもいい。

そんなまんまるヒーローが知り合いだとは思わなかっただろう。

さぞ落胆しているに違いない。

 

「と、ところでちぃちゃん。さっきの話の続き、聞かせてくれない?」

 

「……」

 

「ちぃちゃん?」

 

不機嫌そうなまま、彼女は黙っている。

せっかく糸口を掴んだのに、これではまた振り出しだ。

 

「ちぃちゃんが言わないなら、私から言っていい?正直すれ違ってる二人、見飽ちゃったから」

 

膠着した状況の中、かのんが声をあげた。

 

「それに私もちょっと怒ってるし」 

 

「えー?」

 

怒らせていたのは千砂都だけでは無かった。

何をしたんだ、自分。

 

「それは駄目!言う!言います」

 

千砂都はエイジの目の前まで詰め寄った。

少したじろいてしまう。

 

「私が怒ってたのはね、エイジくんがBOARD(ボード)に入ったことだよ」

 

「え……そ、そうなんだ?」

 

えーと、どういう事なのだろうか。

エイジには今一つ繋がりが見えない。

 

「今そんなことでって思った?」

 

「い、いいえ。……どういう事なんだろうなとは思ってるかな」

 

「だって、エイジくん私に、て言うか私たちになんの相談もしなかったじゃない」

 

千砂都の目が潤んだ。

確かにエイジが相談を持ちかけたのは両親だけで、二人の幼なじみには何も伝えてはいなかった。 

 

「『俺BOARDに入ったんだ』って自慢げにさ、私達の気持ち考えてくれた?自分が危ない事してる自覚ある?」

 

「ご、ごめん……」

 

エイジの記憶にはもう無いが、彼女が言うならそうなのだろう。

 

「でも俺、結構強いからさ、ちぃちゃんがしんぱ___

 

「そういう問題じゃない」

 

大声でこそないが、挟み込む余地の無い強い語気だった。

 

「エイジくんだって、私達がBOARDに入るって言ったら心配じゃない?」

 

「そりゃまあ……」

 

「なのに自分がなったら心配ない?心配するに決まってるじゃない」

 

ついに千砂都は落涙した。そして頭をエイジの胸に頭を預けた。

 

「心配くらいさせてよ……」

 

涙する少女に何が出来るのか、エイジは困ってしまっていた。

千砂都の後ろから可可とかのんが「抱き締めて!」というジェスチャーを送ってくる。

 

「ごめんね、ちぃちゃん達の気持ちも考えないで、調子のって」

 

でもそれは出来ない。BOARDも仮面ライダーも辞められないのだ。なぜなら。

 

「でもこれが俺のやりたい事で、やるべき事なんだ。二つが重なった、たった一つなんだよ」

 

千砂都の頬に両手を添えて、涙を拭う。

 

「だから約束するよ。言えない事もあるけど、大事な事はちゃんと相談する。二人ともね」

 

「本当?」

 

「本当。指切りしよ?」

 

彼女の手を取り、こちらも小指を出し絡める。

 

「嘘付いたらまる千個、だからね?」 

 

「どのくらいのサイズでしょうか……」

 

マーブルチョコくらいだといいなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして一行は元の目的、かのんが歌えるようになる助けへと戻ってきた。

 

「荒療治でもよければな」 

 

そう呟くのは章。

エイジとしては出来る限り、飴の作戦が好ましいのだが。

 

澁谷(しぶや)、ここで歌えるか?」 

 

「そりゃあまあ人居ないし……」

 

「よし他三人、耳貸せ」

 

章はどうやら、怪人警報が出た直後の人気の無さを利用するようだった。

 

「俺達は客引きだ。少しづつな」

 

章の作戦はこう。

まずはかのんに無人の状態で歌わせ、そこに少しづつオーディエンスを集めるというものだ。

だが、人気が出始めたところで。

 

「かのんサン、逃げちゃいマシタ!」

 

作戦は失敗した。

 

次はエイジの番だ。

内容は極めてシンプル。楽しく歌おう、である。

という訳で、やって来たのはカラオケボックス。

 

「いや、いくらカラオケで歌えても……」 

 

「いいからいいから」

 

尻込むかのんにマイクを握らせる。

やはり人前でなければ歌えるらしい。自慢の歌声を響かせてくれた。可可達も盛り上げてくれる。

そして何曲か歌ったところで、楽しい気分のまま外へ出て、歌ってもらう算段だった。

しかしやはりと言うべきか、かのんは歌い出そうとした瞬間に固まってしまう。

作戦は失敗した。

 

「やっぱりまぐれだったんだよ。これが本当の私なんだ」 

 

かのんはやさぐれたようにそう言い、肩を落とした。

 

「でもかのんサン、あの時は歌えてました。それに可可約束しまシタ。歌えるようになるまでトコトン付き合いマス!」

 

可可はどこまでも前向きだった。

 

「もし歌えなかったとしても、その時は可可が一人で歌いマス!かのんさんは堂々としてステージに立ってくだサイ」

 

「可可ちゃんがここまで言ってくれてるんだよ?」

 

可可の覚悟に千砂都が口添えした。

 

「うん、私も最後まで頑張ってみる」

 

決意を新たにしたかのん。それでこそだ。

ここで更に応援だ。

 

「可可ちゃん、あれ見せようよ」

 

「あれ、デスネ!」

 

エイジと可可は頷きあう。

 

 

 

所変わって代々木ステージ前。

 

「「クーカー!!」」

 

エイジと可可が、ブレードことペンライトを振りかざし叫ぶ。

章はブレードこそ持っているが、ほぼ棒立ちだった。もっと乗れよ。

背後にはKuuKaaと描かれた可愛らしい看板も立つ。

 

「練習の合間にこんなの作ってたんだね!」

 

千砂都が感嘆の声を上げた。

 

「エイジサンと章サンにも手伝ってもらいまシタ」

 

「いや、ほとんどは可可ちゃんだよ」

 

可可の手際が良すぎて、むしろ足手まとい気味だったが。

 

「このクーカーって言うのは?」

 

「可可ちゃんのクーと」

 

「かのんサンのカーで」

 

「「クーカー!」」 

 

かのんの質問に二人で分割し答える。要はグループ名だ。

 

「……とりあえず看板は仕舞おうか」

 

かのんにはあまり刺さらなかったらしい。残念ながらお蔵入りだった。

 

そして帰り道。

 

「エイジくんはちぃちゃん達を送るんだよ?いい?」

 

かのん、章と別れ、三人になった。

そこで可可が大声を上げた。中国語だったのでよく聞き取れない。

 

「どうしたの?」

 

「見てくだサイ!」

 

エイジの質問に、ずいと差し出されたスマホの画面はこんな記事だった。

 

「サニパ、代々木フェスに電撃参戦……?」

 

読み上げるが早いか、可可は来た道を駆けて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五人は可可の部屋に集められた。

壁にはサニパこと、サニーパッションの巨大ポスターが額縁に入れて飾られていた。

可可はそのポスターに礼拝した。

 

「で、このサニーパッションってグループがフェスに参加するんだよね?やっぱり凄いの?」 

 

「凄いなんてモンじゃありまセン!去年のラブライブ東京代表デスヨ!今年の優勝候補デスヨ!」

 

エイジの疑問に答える可可の熱量は、それは凄まじかった。

ラブライブとはスクールアイドルの全国大会。

東京代表ということはつまり、数多あるスクールアイドルの中で決勝まで進んだファイナリスト、と言うことだろうか。

聞けば可可が日本まで来たきっかけは彼女達らしい。

 

「サニパ様と同じステージに立てるなんて、感無量、デス」

 

「不味いことになったな」

 

「壁だね。それもうんと高いやつ」 

 

章と言い合う。可可の頭には疑問符が浮かんでいるようだった。

 

「はっ!?可可達の活動条件は、フェスで一位……」 

 

「今気づいたんだ?」

 

かのんが苦笑いしながら言う。

可可の顔はみるみる青ざめた。

歌えないかのんに体力に不安が残る可可でどこまで通用するのか。

 

「フェスまであと五日。レッスンを厳しくすればいいってものじゃないしね」

 

「同感だ。これ以上はオーバーワークだろうよ」

 

千砂都と章は同意見らしい。

応援部としてこれ以上に何が出来るのか。

 

「見ててくだサイ」

 

すると可可は腹筋運動を始めた。それも連続で。

当初の彼女からは考えられない成長ぶりだ。

 

「フェスまでにもっと練習すれば、もっと完ぺきになれマス」

 

だから心配しないでほしい。彼女なりの励ましだった。

つんつん、と千砂都に肩をつつかれた。

二人きりにしてあげよう、という意図らしい。

 

「じゃあ私達は帰るね。二人の時間も大事にしなきゃ」

 

「当事者は二人だもんね。俺達もお暇するよ」

 

三人は部屋を出て、階段を降る。

 

「千砂都サン!」

 

その途中、踊り場で可可が声をかけてきた。

 

「こんな事を言うのは変だと分かっているのデスが、スクールアイドルには興味ありませんか?」

 

勧誘だった。成る程、千砂都のダンスがあれば、サニーパッションに対抗出来るかもしれない。

 

「あるよ」

 

千砂都は笑顔で答えた。

これは好感触だ。クーカーチー誕生か。

 

「でも私には、ダンスがあるの。ダンスで結果を出す事が今の一番の目標だから」 

 

「かのんちゃんも真剣だし、かけ持ち出来るほど余裕はないんだ」

 

二人がスクールアイドルに本気なように、千砂都は今ダンスに本気なのだ。

 

「スミマセン、無理を言って。千砂都サンが入ってくれれば、かのんサンもとっても喜ぶと思いまシテ」  

 

「ふふ、ありがとう」

 

千砂都は階段を降りていった。

これでフェスで一位を狙える具体策は潰えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り道。エイジは千砂都を家まで送っていく事にした。いや、なった、と言うべきか?

 

「お前は(あらし)を送ってやれ。いいな?」

 

章にも念押しされてしまった。よほど甲斐性なしだと思われているのだろうか。言われなくても、である。

 

「エイジくんも、私に入って欲しかった?」

 

「ちぃちゃんが居れば、百人力だからね」

 

久しぶりの、何でもない会話。

それだけで安心する。

 

「そういえば、さんに何か言われたの?」

 

アンチキショウの言う事など気にするな、そんな風に可可は言っていた。

 

「あー、フェスで醜態を晒すくらいなら、出ない方がいいんじゃないかって」

 

「……なんであんなに頑ななんだろう」

 

「学校が大事なんだよ」

 

「?」

 

エイジの中で学校が大事な事と、スクールアイドルを冷遇することが繋がらなかった。

 

「結ヶ丘って葉月さんのお母さん、葉月花って人が創ったんだって」

 

「ああ、それで」

 

それで母は、と言っていたのか。

なるほど、学校の誇りに執着するわけだ。

 

「葉月さんのこと、気になる?」

 

「うん。仲良くできたらいいのにね」

 

エイジには、恋は危うい緊張感の上にあるように見えてしまうのだ。それをほぐせたらいいと思う。

 

「ふーん、ああいう子がタイプなんだ?」

 

千砂都はジトーとした目を向けてくる。

 

「ああ、いや、そういう意味で仲良くしたい訳じゃなくてね」

 

「分かってるよ、冗談。」

 

彼女はいたずらっぽく笑った。

冗談を言ってくれるなんて。何だか少し泣きそうである。

話している内に、嵐邸へと到着した。

 

「じゃあね。二人に無理させちゃダメだよ」

 

「うん。しっかり見張ってる」

 

思い詰めた可可とかのんが、無茶な行動に走らないよう注意する必要があるだろう。

 

「あ、あと私、エイジくんが仮面ライダーやるの、賛成した訳じゃないからね!」

 

「分かってるよ。ありがとう心配してくれて」

 

そして扉は閉まった。

 

「……強くなりたいなあ」

 

一人呟いた。

心配をかけないほど強く。

困っている人を誰でも助けられるほど強く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残りの五日は早かった。

かのんも可可も懸命にレッスンに取り組んだ。練習初日から振り返れば、二人のレベルは格段に上がっただろう。

だが肝心の歌。結果からいえば、かのんは歌えるようにはならなかった。

なので、可可が一人で歌う調整版も準備される事に。

 

そしてフェス当日を迎える。

 

「ナナミちゃん達来てくれるって」

 

「そうか。こっちは興味ありそうな男子が何人か、だな」

 

エイジと章はクーカーを応援してくれそうな人を探してから、代々木ステージ前で落ち合った。

既に大勢の観客が詰めかけている。

 

「……始まるね」

 

「自分を責めるのは筋違いだぞ。出来るだけのことはやったさ」

 

思考を読まれてしまった。

結局、かのんに歌を取り戻させてはあげられなかった。

もっと他に出来ることは無かっただろうか。

そんな風に考えてしまう。

 

「俺達が今出来ることは、本人達を信じてやるくらいだろ」

 

章はステージを見据えた。

そして二人のスマホから警報が鳴る。

 

「結構近いぞ」

 

画面を確認すると、怪人はもう少し動けば、代々木も警報範囲に含まれそうな位置に居た。

行かなければ。

フェスが中止になれば、全ての努力が水の泡だ。

 

「行こう」

 

怪人の反応は既に十を超えていた。

 

 

 

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