「これは」
「多いな」
オーズとバースが呟いた。
ここ最近では最も大規模な戦闘だろう。
怪人の数が違う。十や二十ではきかない。
既に黒影トルーパーとライオトルーパーの集団。更に警察のライダーG-3も数人見受けられる。
即興で集められる最大戦力といった具合だ。
それに対して蟻のような怪人が、列をなして襲いかかっている。
流石に数は敵のほうが圧倒的に多い。押されているようだ。
『目標、アントロードと断定。指揮を執る隊長格と女王格を探してください』
「了解。オーズバッシュの許可を___
『もう出してるわ』
「ありがとう志摩さん!」
『司令官と呼びなさい!』
これだけの数が相手なら、建物を切る心配もないだろう。
『カッターウィング』
「俺は上から援護する」
背中にカッターウィングを展開したバースが飛び立った。
オーズは最前線へと繰り出す。
「下がってください!」
『スキャニングチャージ!』
メダジャリバーへセルメダルを装填。
オースキャナーに刀身のメダルを読み込ませ、エネルギーを解放。
バースの上からの掃射で敵集団に隙が生まれる。
「せいやー!」
全体の後退を確認し、刀身を抜き放つ。
アントロードの前衛をぶった斬る。
だが屠れるのは一列だけ。後続は前進してくる。
特にこちらへ目掛けて突進してくる。メダジャリバーを封じるつもりだろう。
他ライダー達と連携しながら斬りまくる。
一体一体はそう大したことはない。
せいぜいズ級程度だろう。
怪人にはある程度のランク分けがある。下からズ、メ、ゴ級と呼ばれる大まかな三段階が基本だ。
ゆえにこの怪人達は最弱ランクだ。
問題なのは数と統率の取れた動き。これがアントロードの危険度を大きく引き上げている。
だがこのままなら押し切れる。
前衛に徹し、後衛からの射撃で隙が生まれたらオーズバッシュ。これを繰り返せばいい。
油断はない。はずだった。
敵の壁から、突如鎌が突き出された。
まともにくらい、吹き飛ばされてしまう。
体表が赤い、大鎌を持ったアントロードが現れた。
「隊長格か!」
今の一撃は他とは明らかに違った。威力もそうだが、仲間を巻き添えにしてまでこちらを狙って来た点が特異だ。
指揮を執る個体に間違いないだろう。
応戦しようとすると、アントロード二体に組み付かれた。
隊長格は構わず大鎌をふりおろした。
「ぐあっ!」
地面に転がる。アントロード二体は爆散した。
数に任せて、味方の被害は考えないつもりか。
立ち上がろうとすると、地面を突き破り、アントロードが纏わりついてきた。
隊長格からの斬り下ろし。再びたたき伏せられる。
周囲を見ると、味方全体が地面からの奇襲に崩されていた。
陣形はもはや機能していない。
バースの上空からの射撃で何とか繋がれているが、あと一歩で敵は溢れだすだろう。
『避難区域の拡大を___
「待ってください!」
纏わりついた敵をメダジャリバーで叩き、バッタの脚力でバックステップ。大鎌の横薙ぎを回避。
「まだガタキリバがあります」
かのんの、
水泡に帰させはしない。
『待ちなさい!』
司令官の制止を無視し、頭部と胸部のメダルを交換。オースキャナーでスキャン。
『クワガタ、カマキリ、バッタ』
『ガータガタガタキリバ、ガタキリバ!』
昆虫系コアメダルのコンボ、ガタキリバ。
オーズの全身を緑色系に染め上げた。
「おおおおおおおおおおおおおっ!!!」
衝撃波を伴う雄叫び。
漲る力が行き場を失い、全身が痺れるように痛む。
タトバコンボ以外のコンボ、同色系コンボの力は使用者自身も傷つけるほど強力だ。
なればこそ、この状況を打開できる。
◀挿入歌 Tiny Stars▶
ガタキリバコンボの固有能力は分身、ブレンチシェイド。
一人から二人、二人から四人、四人から八人と次々とオーズが増えていく。
増えすぎて身動きが取れなくなってはいけないので、三十を超えたあたりで増殖を一旦停止。
オーズ集団を二つに割って運用する。
片方は前線の食い止めに。片方は味方の救出だ。
地面から這い出て来たアントロードを強襲する。
やはり一体一体は大した戦闘力はない。数で勝ればすぐに撃破できた。
そして前線へと合流する。
これで数で押し負ける事はない。
個体の質もこちらの方が上だ。
隊長格は二人がかりで相手をする。
振り下ろしてきた大鎌をカマキリソードを交差させ受け止める。
その隙にもう一人が脇腹を切り裂く。
崩れた所に後ろ蹴りを見舞い、吹き飛ばす。
更に二人が合流。四人で囲み、文字通り袋だたきにする。
蹴り、切り裂き、殴り、叩き、突く。
隊長格は爆散した。これが真の数の暴力である。
しかし隊長格を倒しても、敵の統率は乱れない。まだ女王格がいるからだろう。
「ぐわっ!!?」
そして一人のオーズが槍に串刺され、叩きつけられた。
茶褐色の体表。三叉の槍。女性型のフォルム。女王格のお出ましだ。
再び四人でかかる。一人がカマキリソードで斬りかかるが、簡単に弾き飛ばされてしまった。
この膂力。明らかにゴ級だろう。
更に分身を増やす。女王格に対して十六人で挑む。
八人が跳び上がり頭頂部を真下、女王格へ向ける。
クワガタホーンからの雷を投下する。ゴ級といえども、これだけの数の雷撃は十分なダメージのようだった。
残りの八人はバッタレッグの脚力で、跳ぶように踏み込み、すれ違いざまに攻撃を仕掛ける。八連撃。
更に雷撃後、着地したオーズ達も同じように攻撃をする。
二度目の八連撃。
そして全てのオーズが、オースキャナーに再びメダルをスキャン。
『スキャニングチャージ!』
『スキャニングチャージ!』
『スキャニングチャージ!』
「せいやー!」
「せいやー!」
「せいやー!」
オーズ全員が高く跳び上がり、流星群が如き跳び蹴りを放つ。
必殺技ガタキリバキック。女王格に十六連撃。
だが雑兵は狩ったものの、女王格はまだ息がある。
「バース!」
「任せろ!」
『ブレストキャノン』
既に地上に降り、ブレストキャノンを展開していたバース。
ブレストキャノンシュートが炸裂。女王格は爆散した。
オーズが一人に戻り、変身が解除される。
「久々のコンボは、堪えるね……」
コンボの影響か、頭がグラグラして立っていられない。
「おっと!お前はもう休んでろ」
倒れそうな所をバースが支えてくれた。
「二人はどうなったかな……?」
「さあな、気にするのは後だ」
クーカーはどうなっただろうか。ライブは中止になっていないはずだが。
翌日。通学路で背中から肩をポンと叩かれた。
「ちぃちゃん」
「うぃすー!」
「うぃすー!」
千砂都である。
むこうから挨拶してくれるなんて、ちょっと前まで考えられなかった。
いちいち感動してしまう。
「昨日のライブ凄かったんだってね」
「うん。かのんちゃんバッチリ歌えてた。可可ちゃんも踊れてたし、私ちょっと泣いちゃったよ」
彼女は目をシパシパさせた。
エイジも代々木フェスのサイトから、アーカイブでライブを視聴した。
その中で、かのんは堂々と歌えていたし、可可はスタミナ切れすることなく踊り切れていた。
「俺も生でみたかったなあ〜!」
「そっちは?大変だったんでしょ?」
昨日の戦いは既にニュース等で報道されている。またオーズがフィーチャーされてしまっていた。
「うん。そこそこか____
「えい」
「あ痛!?」
千砂都のチョップは的確にエイジの怪我を捉えた。
「やっぱり怪我してる!どこがそこそこ、なの?」
「何で分かったの……?」
「歩き方。ちょっとだけ庇ってるように見えたから」
ダンスが上手いと観察眼も育つようだった。
彼女への隠し事は難儀しそうである。
「はい……。結構大変な現場でした」
「うん。素直でよろしい」
千砂都は腕組みし、うんうんと頷いた。
「あんまり無理しないでね」
「これくらいなら大丈夫。ピンピンしてる内だよ」
笑ってみせるが、彼女は少し不服そうだった。
いずれは信頼を勝ち得たいが、それはまだまだ先のようである。
そんなやり取りをしていると、かのんの背中が見えてきた。
出来るだけいつも通りを意識して声をかける。
「かのんちゃん、うぃすー!」
「おはようかのんちゃん」
「二人とも、昨日はありがとう!」
エイジの心配をよそに、かのんの顔は晴れ晴れとしていた。
「おめでとう、が先かな?新人特別賞だってね」
「これもみんなのおかげだよ。本当にありがとう」
クーカーは出来たてほやほやのグールプながら、そのパフォーマンスが評価され新人特別賞を受賞した。
そう、一位は逃したのである。やはり一位はサニーパッションがさらっていった。
このままでは、スクールアイドルは続けられない可能性が高い。
「二人が心配してくれてるの、わかるよ。でも私全然後悔してない。だって可可ちゃんと約束した最高のライブが出来たんだもん」
かのんの顔は清々しかった。全て本心なのだろう。
だからこそ、何かをしてあげたい。
応援したい。
「やっぱり俺、もう一回話してみるよ。理事長だってスクールアイドル嫌いってわけじゃないだろうし」
最後の悪あがきだ。
そして理事長室。
呼び出された可可とかのんに続いて、エイジと章も入室した。外では千砂都も待機している。
「呼び出したのは
「自分達も一緒に聞かせてください」
「二人が良いなら構いませんが」
「「はい」」
かのんと可可は頷いた。
「まずは結果からですが、お二人は私の出した課題。代々木フェスでの一位を達成できませんでした」
「ちょっと待ってください」
エイジが口を挟んだ。
「条件は一位またはそれに準ずる成果でも良いと仰ってました。新人特別賞は該当しませんか?」
「そうですね、そう言いました。そして新人特別賞はそれには含まれないと私は考えます」
そんな。
それではやはり最初から、諦めろと言っていたのか?
何かないか、ここから逆転できる要素は。
「しかし、わが校の、それも普通科の生徒が音楽で結果を残したのも事実。よって澁谷さん、唐可可さん」
理事長は二人をキッと見つめた。
「二人には同好会としての活動を認めます。練習場所には屋上の使用許可も出しましょう」
「本当ですか!?」
かのんの驚嘆に、理事長は勿論ですと答えた。
部ではなく同好会ならいいと。言質の穴をついたような理屈だが、二人がスクールアイドルを続けられるなら、何だっていい。
理事長室を退室し、千砂都に報告。
「俺もか!?」
五人で、否、四人で
ようやくと言うべきか、これで晴れて依頼は終了だろう。
「俺達はお役御免かな」
「まあ澁谷達が活動できるようになった訳だしな」
「その事なんだけど」
かのんはエイジと章の手を握った。
「これからも私達をサポートしてくれないかな。私達のサポーターになって欲しい!」
「名案デス!」
そんな風に頼まれたら、断れるわけがない。
だって学校生活応援部なのだから。
「わかった。出来る限りサポートするよ」
「うん!応援よろしく!」
かのんの眩しい笑顔を、エイジは久しぶりにみたような気がした。