エイジは取り敢えず、
「お疲れ様」
「待っててくれたの?」
千砂都が驚いたような顔をする。
「みんなから任されてるからね。……これは助けるに入らないよね?」
「気にしすぎだよ」
彼女は笑った。帰り道を二人で歩く。
「こんな時間まで練習なんだね」
「うん。追い込みの時期だからね。かのんちゃん達は?」
「今日は観光したって」
「いいね、楽しそうで」
ここまではいつも通りに見える。
ここで一つ実験をしてみる。千砂都の目の前に一本のドリンクを取り出した。
「ここに一本、ジュースがあります」
「そうだね」
「これをちぃちゃんに渡しちゃうと?」
「ぶぶー」
彼女は両手でバツを作った。これは助けるに入るらしい。
「もったいないので、今回だけは受け取ります。次はないからね」
「ありがとう」
「お礼を言うのは私のほうだって」
キャップを開けて、口を付けてくれた。どうやらそこまで強硬な態度ではないようである。
「あ、見て。月が綺麗だよ」
千砂都は盛大にむせた。背中をさする。
やはりどこか具合がよくないのだろうか。
「大丈夫、大丈夫……あのねエイジくん。女の子に軽々しく月が綺麗とか言っちゃだめだからね」
「え、そうなの?」
「だめだからね?」
「は、はい」
有無を言わせぬ圧がある。なぜとはとても聞けなかった。
「まんまる満月……じゃないねまだ。きっと明日には満月だよ」
「流石まんまる博士」
まんまる大好きな彼女は、丸いものには少々詳しかった。
嵐邸へと到着。
「じゃあね」
「うんまたね」
そして扉はしまった。
どこまで聞いていいものか思案している内に終わってしまった。今日は聞けなかったが、明日こそ彼女の真意を確かめなければ。
千砂都は夢を見た。幼い頃の夢だ。引っ込み思案で気も弱かった自分は事あるごとにいじめられていた。
「「ちぃちゃんをいじめるなー!」」
そんな時、守ってくれたのがかのんとエイジだった。
二人に付いていけば、何も怖くなかった。世界が広がっていった。
けれどそれと同時に、このままでは嫌だという思いが育っていった。守られるだけは嫌だった。
「かのんちゃんができないこと、できるようになる!かのんちゃんのうたとおなじくらい、だいすきでむちゅうになれるものもてるようにがんばる!」
そうかのんには宣言した。
そしてエイジとは。
「おおきくなったら、けっこんしよう!」
まだよく分かっていなかったが、何か大切な儀式に選ばれた事は素直に嬉しかった。かのんではなく自分が選ばれた事も。
でも素直に差し出された手を取る事は出来なかった。
「わたし、つよくなるね。エイジくんとおなじくらい、かいじんにもまけないくらいつよくなるから」
エイジにはそう宣言した。
そして目が覚めた。
宝石のように綺羅びやかで大切な思い出。
今も大事にしまい込んでいると知ったら、かのんは笑うだろうか。エイジは笑うだろうか。
怪人にも負けないくらい、とは我ながら大きく出たものだと思う。それでも気持ちだけなら何とかなるはずだ。心は強くなれるはずだ。一人でもきっと。
観光から一夜明け、宿の前に六人は集まっていた。
イベント当日まで、サニーパッションの練習に付いていくことになった。
「ジョギング十km……」
「熱中症だけは気を付けてな」
かのんの呟きに
「君もやるんだよ?」
「はい?」
「なんでって、サポーターなんでしょ?だったら出来たほうがいいと思うわよ」
確かに
そしてランニングを終えたあたりで、案の定
天井のあるベンチで休ませる。
「なんか、あんたの看病ばっかりしてる気がするんだけど……」
「そう言ってやるな。ほれ、首筋冷やしとけ」
呆れるすみれを宥めながら、可可をパタパタと扇ぐ。
「君は全然疲れてないね。昨日の飛び込みも上手だったし」
「まあ
悠奈からの質問を返した。BOARDに入れば基礎体力強化を目的とした訓練を受けさせられるし、断続的なトレーニングも必要になってくる。
そのおかげで大抵のスポーツは出来るようになった。
部活の助っ人では役に立つ程度には。
「うちの学校にもBOARD隊員居るわよ。ちょっと変わり者だけどね」
「へー。その人がこの島を守ってるんですか?」
「そう。小さい島だけど、怪人災害とは無縁ではいられないから」
摩央は遠くを見た。
やはりどの土地にも怪人は出るし、そうとなれば仮面ライダーの出番なのだろう。
そんな話をしていると、アラートが鳴り響いた。噂をすればである。
「これ色々と使えるもん入ってるから、持っといてくれ」
「う、うん」
バックをかのんに託し、ライドベンダーを展開。乗り込んだ。
出現ポイントは山間部である。バースは位置情報を頼りに森の中を進んでいく。
普段の戦闘は都市部なだけに、より一層の注意が必要だろう。
足元に絡みついた蔦を射撃し、強引に進もうとした。
が、突如その蔦に引っ張られ、倒れ込んでしまう。
蔦は怪人の触手だったのだ。
敵の本体を見つけ、射撃するも木々を盾にされ届かない。
さらにもう一本の触手がバースの上半身を拘束。締め上げる。
「ぐううっ!」
『キャタピラレッグ』
キャタピラレッグを展開し足の触手を強引に引き千切る。
そしてキャタピラベルト、ヘイズクローラーを回転させ、敵まで接近、蹴り上げる。
敵は吹き飛ばしたが、触手はまだ強く絡みついたままだ。
「とりゃあ!」
飛び込んできた斬撃が、絡みつく触手を断ち切った。
援軍である。緑色の二刀流のライダーだ。
「俺は
「俺はバース。援護する!」
『敵はプラントアンデッドと断定。アンデッド種のため不死身です。封印してください』
「「了解」」
剣斬が敵が振り回す触手を枝や林ごと切りまくる。その間を縫ってバースバスターを放つ。
キャタピラレッグで移動しながら最適な間合いを保つ。
ついに敵は膝をついた。
『
『セルバースト』
バースバスターを必殺技モードへ変形。剣斬の攻撃と同時に放つ。爆発がおこる。だが敵は健在だ。当然だろう。不死身なのだから。
だが戦闘不能である。弱点のバックルが開いている。封印出来る証拠だ。
バースはまだアンデッドを封印していないカード、コモンブランクを投擲。プラントアンデッドに突き刺さり、吸収されていく。それが終わるとカードは手元に戻ってきた。
「へーい!」
剣斬にハイタッチを求められる。断る理由もないので右手を上げた。パンッと快音が鳴る。
「いい腕してるね!」
「そっちもな」
「本土の人だよね?観光か何かで?」
「そんなとこ」
「どう?うちに来ない?」
「ありがたい申し出だけど、あっちに相方残して来てんだ」
「じゃあしょうがないね」
断われたというのに特に気落ちした風でもない、どころかさっぱりしている。そういう気風なのだろう。
剣斬は変身を解除した。
制服を着ていた。学生のようである。
こちらも変身を解除する。
「あれ?もしかして学生?俺も俺も!」
「伊藤章。高一」
「
こういうお人柄らしかった。ちょっと苦手かもしれない。
全員宿に戻っているとのことなので、章も宿に戻ってきた。
するとキッチンから異臭が漂ってきた。
「このダークマター何……?」
章は目を丸くする。
キッチンに立つ可可の前には黒く焦げた三品が並んでいた。
「時間配分を間違えまシタ……。今日はお二人の為に可可が夕食をつくろうと思ったのデスが」
「しょうがないわね。私に任せなさい」
いつの間にか居たすみれが自信満々に言った。
「作れるのか?」
「簡単なものならね」
「手伝うぞ」
すみれの手際は見事なもので、簡単なものどころか可可の望みである中華まで難なくこなしてみせた。 それも六人前。
「て言うか章、あんた料理できたのね」
「一通りはな。BOARDだし」
「いや、BOARD関係ないでしょ。」
料理教室じゃないんだから。と呆れるすみれだった。
その後の食事は少々賑やかだった。
三人で作ったことにしたいすみれと実質なにもしていない事を告白したい可可。ふたりが激突したせいだ。
もっとも、章としては騒いでくれたほうが冷静に男女比に意識がいかなくて助かったのだが。
そして食後、サニーパッションの二人に浜辺へ連れ出され、月を見る。
「綺麗なお月様デス!」
「天体観測にも向いてそうだな」
辺りは街灯が少なく、夜空には星の光が満ちていた。
「ねえねえ。今日本土から来た仮面ライダーさんが居たんだって。確かバースって言ったかな」
「それが何か?」
悠奈の話に平静を装いつつ相づちを打つ。
「BOARD隊員の貴方が来て、同じタイミングでバースも来た。偶然にしては出来すぎよね」
「何が言いたいんです?」
摩央が話を引き継いだ。助けを求めようと視線を巡らせる。
かのんは電話すると言っていない。
可可は下手くそな口笛を吹いている。
すみれは目を泳がせながら「何の話?」と言った雰囲気。誰も有効には使えなさそうだった。
「君がバースなの?」
「……まさか。それに万が一そうだったとして、はいそうです、なんて言いませんよ」
悠奈の確信をついた質問に嘘をつく。致し方ないのだ。おいそれと正体は明かせない。
「そりゃそうだよね。じゃあ」
彼女は大きく息を吸った。
「バースさん!私達の島を守ってくれてありがとう!」
海に向かって、大声でそう言った。
「……きっとその人も満足してますよ。こんだけ感謝されればね」
お金以外の、きっと動機になるやりがいはここにもあった。
「ほら、今日はまんまる満月だよ」
「ほんとだ。綺麗だね……とか言っちゃだめなんだっけ?」
「月が綺麗ですね、とかじゃなければ大丈夫」
「そうなんだ?」
千砂都に教えられるも、いまいち違いがわからないエイジだった。
「あ、公園。ちょっと寄っていかない?」
「いいよ」
幼い時から何度も通ったはずの公園。こういうところに来ると自分の記憶が欠けていっているのを実感する。
千砂都は月の写真を取っていた。まんまるコレクションに加えるのだろうか。
「かのんちゃんに送ろうと思って」
「なるほど。向こうからも見えてるかな」
「向こうのほうがきっと綺麗だよ」
都内はなにぶん街灯が多い。夜でも星や月が霞んでしまうほど明るいのだ。
写真を送って、しばらくするとかのんから千砂都へ電話が掛かってきた。
邪魔をしないように離れておく。
その間を公園を軽く見回した。あそこではこんなにことがあった。あんな事があった。そんな風には思い出せない。確かにここに居たはずなのに。
通話が終わったらしい。
やはりと言うべきか、千砂都は不安げに見えた。
「ねえエイジくん。エイジくんは一人で頑張らないといけない時、どうしてる?」
「ちぃちゃんの事を思い浮かべてるよ」
「私の事?」
彼女はキョトンとしていた。
「ちぃちゃんだけじゃない。かのんちゃん、可可ちゃん、すみれちゃん、みんなの事。そうするとね、力が湧いてくるんだ」
守るべき者が居る。それが明確になれば力を引き出してくれるのだ。
「だからありがとうちぃちゃん。俺はいつもちぃちゃんに助けて貰ってるよ」
「……そうなのかな」
「そうだよ。だから忘れないで。一人でも一人じゃない」
少しでも、彼女の不安を取り除けたらいい。少しでも応援する仲間がいるという事実が届いたらいいと思う。
そしてダンス大会当日。
結局エイジには千砂都の不安を拭いさることは出来なかった。今出来るのは観客の一人として千砂都を応援することだけである。
「エイジくん!」
「え!?かのんちゃん!?」
会場のエントランスで駆けつけたであろうかのんとばったり会った。
「ちぃちゃんどこ!?」
「二階にいるはずだよ。お願い!」
何をしに来たのかは聞くまでもない。千砂都を直接励ましに来たのだ。やはり彼女はヒーローだ。
そして大会は圧巻のパフォーマンスで千砂都が優勝した。
ダンスで結果を出した彼女の次の目標は、もちろんスクールアイドルである。
かのんが来た理由のもう一つは、千砂都を迎えに来たのだろう。
「エイジくんも一緒に行こう?強くなった私を見て欲しいんだ」
「?ちぃちゃんはずっと強かったじゃない。少しの事でもめげずに負けずに頑張って来たでしょ?」
「そんな風に思ってくれてたんだ」
千砂都は気恥ずかしそうにしていた。本当の事だろうに。
そしてこれから船に乗ろうというところで、エイジの携帯からアラートが鳴った。
「俺は俺のやるべき事をやるよ。二人は二人のやるべき事をやって」
「「うん!」」
二人と別れ、エイジは現場へと向かう。
怪人は二本の剣を持ち、見境なく暴れ回っているようだった。
『怪人はミラージュスマッシュと断定、分身に気を付けてくだしい』
「了解」
オーズはメダジャリバーを構え、敵へ向かっていく。振り下ろしは回避され、同時に分身した。更に水平斬りも回避され、分身は待た数を増やした。
三対一。
「ぐあ!」
三方向から繰り出される斬撃に対応しきれず、背中を切られてしまう。背面を攻撃しようとすると他の分身にまた切られるという悪循環。
バッタレッグの脚力で包囲から抜け出し、コンボを使おうとした。
胸部に衝撃が走る。どこからか狙撃されたようだ。
「実験の邪魔は止めてもらおうか」
コウモリのような怪人?が空から舞い降りた。ライフル型の武器を持っている。
『ナイトローグ、未登録の疑似ライダーです!確保してください!』
「つまり敵ってことね。財団Xの人?」
「答えると思うか?」
「そりゃそうだ」
敵はライフルを撃ってくる。何とか躱すが、そこにミラージュスマッシュも襲ってくる。コンボを使う隙がない。
こうなったらもう
そこに空中から射撃が降って来た。
「バース!?どうして」
「来てみれば案の定だな。行くぞ相棒」
『カッターウィング』
『ショベルアーム』
バースは飛びながら突っ込んていく。
◀挿入歌 常夏☆サンシャイン▶
敵の陣列が乱れた。この隙に頭部と脚部のコアメダルを交換。オースキャナーでスキャン。
『ライオン、トラ、チーター!』
『ラタラタ〜ラトラーター!』
更にトラカンドロイドを展開。ライドベンダーと合体させ、トライドベンダーに。乗り込むとラトラーターの余剰エネルギーが吸収されていく。
そして機械らしからぬ咆哮を上げ、ミラージュスマッシュへ突進していく。
まずは分身を一体轢き飛ばした。そして巨大な前輪部分からメダル形状のエネルギー弾を発射二体目を撃破。そして最後に残った本体へ、トライドベンダーにサーフィンのように乗り、セルメダルを投入したメダジャリバーをスキャン。
「スキャニングチャージ!」
範囲を最小限に絞り直接斬撃を当てる。ミラージュスマッシュは三枚に下ろされ、爆散した。
バースの方をみると、敵も飛べるらしく劣勢だった。
トライドベンダーのエネルギー弾でけん制。回避したところへ、ヘッドライト部分に出来た口で翼に噛み付く。引き千切った。
ナイトローグは墜ちた。
トライドベンダーのタックルで轢き、更にバースのショベルアームで吹き飛ばした。
「流石にここまでだな」
敵はそう呟くと今度はハンドガン型の武器を振り、煙を撒いた。
一瞬視界が遮られ、煙が晴れた先には何もない。逃亡手段は確保していたらしい。
「くそ。逃げられた」
「まあまあ。被変身者の保護が優先だよ」
今回のスマッシュからは成分を抜く必要はなかった。フルボトルで直接変身したらしい。被変身者の側に転がっている。
「実験って言ってたんだ。もしかしたらアイツが操ってるのかも」
「そうか。だとしたら最優先で倒さないとだな」
夏の夕陽は沈んでいく。謎を残しながら。
「生で見たかったなあー!」
「前も言って無かったか?それ」
応援部部室。錬から送られてきた動画を視聴中、ブレードを握りしめながら、つい声が漏れてしまう。
結ヶ丘スクールアイドル同好会の神津島でのライブ映像だ。
「そりゃあ夢にまで見た光景だからね」
「嵐と澁谷か」
二人が協力して何かに向かっていく様は是非見てみたかった。
「そうそう。でも意外だね。章が向こうで友達作ってくるなんてさ」
「友達じゃなくて、BOARD関係者な。まあこうして動画送ってくれんのはありがたいが」
何にしても章の交友関係が広がるのは素直に嬉しい。
動画に見入っていると、扉がガチャリと明け放たれた。入って来たのは千砂都である。
「居たー。もう練習始めちゃうよ?」
「ちぃちゃん。本当に俺達も参加するの?」
「サポートしてくれるんでしょ?出来るに越したことないんじゃない?」
章の方を見ると、まあそういう事だ、という風に肩をすくめた。
夏休みはまだ終わらない。ラブライブへ向けて練習あるのみだ。