ダンジョンに儲けを求めて何が悪い!   作:ケツアゴ

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リヴェリア様(99)ファンさん、ごめんなさい


第十九話

 魔法において魔法大国(アルテナ)こそが至高であるべきだ。そしてエルフは群を抜き、他の種族はまさしくその他。

 

 排他的で自国至上主義な国に所属し、更にエルフへの圧倒的な自信を持ったその女は、若くして暗部の小隊長にまで上り詰めていた。

 

 Lvも3とオラリオ外では十分過ぎる実力者であり、オラリオに潜入した目的は高名な魔導士の暗殺若しくは誘拐。

 種族の特性として帰属意識が強い彼女にとってエルフ以外が魔法によって名を広める事は決して許せる事ではない。

 

 オラリオの二大ヒーラーであるヘイズとアミッド、特に正体を伏せた協力者はヘイズを優先的に狙う様に要求して来た。

 彼女からすれば当然の予定であり、いまはその想いが強くなり続けていた。

 

 その理由は個人的な物が大きいのだが……。

 

 

「アストレア・ファミリアと揉めたとか毒物を盛られたとの噂が有りましたが、そんな理由だったとは……」

 

「俺としては力が逆転したし、逆恨みで妹を狙う気が無くなる程度に仕返しをして今まで取られた金を取り戻す程度の予定だったんだけれどな。それをポンコツが勘違いして……」

 

「強盗と間違われたなんて何処までやったんだか……」

 

「手足へし折って身包み剥いだだけだぞ? 生きてるならヒーラーを頼れば良い。入院してりゃ酒も抜けるだろ」

 

「やり過ぎよね?」

 

「明らかにやり過ぎです」

 

「……えー」

 

 女は許せなかった。趣味の範囲外である明らかに気の強そうで実際は兎も角気怠げで不真面目そうな少女が守備範囲内である少年少女とキャッキャウフフしている、実際は彼女がそう見ているだけなのだが、思い込みとは怖い物だ。

 

「むー」

 

 其処代われ! 私が二人を愛でる! ナデナデペロペロする! と叫びそうになったのを部下が咄嗟に口を塞ぎ、その際に肘を喰らって肋骨にヒビが入る。

 呻き声を押し殺した部下に押さえられ女が大人しくなる中、キリア達は家の中へと入っていった。

 

「それで碌に食べてないって知って弁当を差し入れてはくれたんだが……あれは食材への冒涜だわ。お陰で反面教師にして料理スキル上がったと思う」

 

 既に尾行としては下の下だが、それを自覚せずに一団は三人を追い続ける。時折懐に手を入れて存在を確かめるのは魔剣。

 内包する魔力以外にも隊長である女の魔力が刀身を包んでいた。

 

 

「は? あの二人を連れて家の中に入って行った? 後はベッドでお楽しみですってかぁああああ!!?」

 

「落ち着いて下さい、隊長!?」

 

「駄目だ、こりゃ……」

 

 そして嫉妬の炎はその身を包んで燃え上がる中、部下の一人が思い出した様に呟いた。

 

 

「……もしかして小人族(パルゥム)、神々が作った【玉の輿を狙うなら今!】【将来有望】【お姉ちゃんと呼ばせたい】のランキングで上位なのに【外道】や【正直怖い】ランキングでも上位のキリア・アーデでは?」

 

「確かLvは5。此処は慎重に……って、隊長!?」

 

 部下達が慎重な構えを見せるも隊長だけは違った。顔からは表情が抜け落ち、ハイライトの消えた瞳を家の扉に向けながらフラフラと歩く姿は幽鬼の類い。

 指の間には部下から擦り取った魔剣を挟み込み、千鳥足で首を激しく揺らし始める。

 

「……は? 私なんて『ちょっと近付きにくい』とか『エルフって真面目過ぎそうで気詰まりする』とか言われ続けてこの歳まで彼氏も居ないのに、今年で九十過ぎで行き遅れも行き遅れで交際経験も無いのにぃ! あの小娘は……は? 【起きろ毒蛇 鎌首をもたげ、その牙から雫を垂らせろ 犯せ 蝕め 今こそ魔の剣を毒剣へと変えん】」

 

「は? まさかこんな時間から都市内部で魔法を使う気ですか!? 寝静まった頃に使って混乱に乗じて逃げる計画じゃ……」

 

 彼女の扱うのは毒のエンチャント。付与する対象は魔剣であり、付与の詠唱【毒蛇よ 眠れ】で包んだ魔力を開放詠唱で炸裂させる事で魔剣から放つ物に術者が好む毒を付け足す。

 

 炎の魔剣ならば燃え広がる炎全てが毒炎と化すのだ。そして、その毒の強さは魔剣の性能によって変わる。

 もし伝説のクロッゾの魔剣ならば高ランクの【耐異常】さえも易々と貫通するだろう。

 

 

「せめて麻痺毒なのを願おう」

 

「いやー、多分無理じゃね?」

 

「ベノム……」

 

 魔剣を指に挟んだ両腕を振り上げ魔法と共に開放しようとした瞬間、背後の建物から飛び出した人影がその後頭部を殴打し、顔面から倒れた所で気を失うまで後頭部を踏み続ける。

 

 

「あぅ……」

 

「隊ちょ、ぎゃ!?」

 

 残る部下も続いて飛び出した二人が攻撃して意識を奪い取った。人影の正体はキリア達。入った家の玄関に隠した通路を通って道を挟んだ先の建物へと移動したのだ。

 

 

 

「まさか無断で地下道を作っているとは……」

 

「こっちの建物も所有物件なのよね? ……一体幾つの隠れ家を用意しているのやら」

 

「その辺は防犯上の秘密なので言えないな。偽名と変装で他人名義のを逐一増加中とだけ。何せ巻き上げまくってるものでね」

 

「見た目ショタに触れられちゃったぁ。えへへ……」

 

 恍惚の表情で呟きながら気絶する女に対し、何か気持ち悪いとはキリアとアミッドの感想であり、ヘイズは他所から見ればこんな風に見えるのが居ると頭を痛めるのであった。

 

 

「この手の拗らせたポンコツとは関わりたくねえが……剥ぎ取れるだけ所持品貰っちまって良いよな」

 

「良いよな? じゃなくて、良いよな、なのが相変わらず……」

 

「全部証拠品なので盗んだらガネーシャ・ファミリアに言い付けますよ。……はぁ。今日は同僚に恨まれそうですね」

 

 襲撃者のローブを引き剥がし、魔剣を懐に入れようとした所で二人の手が両側からキリアの耳を摘むとそのまま通報すべく通りへと歩く二人であった。

 

 

 

 

 

「……そう。そんな事があったのね」

「些事によりご所望の品を届けるのが遅れてしまい、誠に申し訳御座いません」

 

 襲撃者を引き渡し、無断で掘った地下通路については誤魔化しつつオラリオメリーとメリーウコンがフレイヤの元へと届けられたのはその夜。

 晩酌前には辛うじて間に合った。

 

 フレイヤの目の前には三本の酒瓶が置かれ、瓶の蓋を外せば濃厚で芳醇な香りが部屋の中へと広がって行く。

 

 フレイヤが美の女神ならオラリオメリーは美味なる酒。酒の味を知る物ならば鼻腔を擽られただけで頬がだらしなく弛みそうになる程だ。

 

「上級冒険者すら酔わせる美酒。最初は酒であって酒でない物の予定だったのよね?」

 

「は、はい。酒が飲めない者でも楽しめる物にする予定だったそうですが、稼ぎからして一番に飲ませるべき相手が香り自体を嫌っているので酒のままにしたとか」

 

「趣味神らしい話ね。それにしても……」

 

 フレイヤが思い出すのはキリアを初めて目にした時の事。生まれと環境に恵まれなかった者特有の澱んだ目と魂の色をした取るに足らない存在。

 

 それがある日、月の様な輝きを放っていた。

 

 両親を亡くし、幼き身で幼い妹の手を引いて歩く瞳に宿っていたのは諦めではなく使命感。やがて妹の方も兄に影響されてか光輝き始めて、フレイヤは二人に注目をする事にした。

 

「気紛れで外から眺める事にしたのは正解だったわね」

 

 あの輝きはフレイヤが大きく関われば凡庸な物へと変わってしまうかも知れない。自分という光の側でも輝きが続く気もするのだが、行動を見聞きするだけでも面白い二人を変えてしまうのは惜しい気がするのだ。

 

 

「あら? 本当に美味しいわね、このお酒。ロキ達に分けるのは勿体無いわね。……ああ、そうだわ。アレンも一杯どうかしら? ヘイズも後でお飲みなさい。正確には私じゃなく貴女にくれたものだもの」

 

 襲撃者達の所属、そして侵入を手引きしたであろう相手には心当たりがあるのだが、今はそんな事がどうでも良いと思える多幸感に包まれながらフレイヤはグラスに酒を注いでアレンへと差し出した。

 

「いえ、フレイヤ様の護衛中ですので」

 

「そう? だったら……」

 

 フレイヤは徐に瓶を手に取ると静かに数口だけ喉に流し込んだ後で蓋をした。

 

「残りはお仕事のご褒美にあげるわ。幹部の皆で分け合うなり一人で飲むなり好きにしなさい」

 

「しかし基本的に外には出せない貴重な酒では?」

 

「そうね。ソーマは兎も角、管理をしている子は格上の問題児二人を抱えてよくやっているわ。確かにヘイズへの恩義を利用して何度も貰うのは情け無いけれど美味しい物は分け合った方が美味しいし……」

 

 それに欲しくなったら別の手段で手に入れるから、と妖艶に微笑みながらグラスを傾ける姿にヘイズとアレンは思わず見惚れてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「それはそうと酒の席の余興で漫才でもしてちょうだい。ほら、や〜る〜の〜! ま〜ん〜ざ〜い〜!」

 

「もう酔ってますね。恐るべし美酒……」

 

「酔い醒ましの準備をするか。こんな姿なんざ他に見せられねえ……」

 

 

 

 

 

 

 

「成る程。既にかなりの経験を積んでいる。惜しむらくは……」

 

 訓練以外の実践経験か、と呟きながらもオッタルは容易にベルの猛攻を防ぎ切る。廃教会の前の開けた場所を利用しての訓練。大剣と短剣を織り交ぜつつ縦横無尽に動き続けて繰り出される方向も高低も全く違う連続攻撃さえも現オラリオ最強の前では無力。

 

 訓練で防御に回っている事を前提にすればL v2の成り立て、後衛特化の者なら中堅にさえ一矢報いる事さえ有り得る技量だが、才能は感じ取れない。

 これは愚直に積み上げた物、幼き頃からの弛まぬ修練による物だ。

 

「やあっ!」

 

「フェイントが甘いな。それと相手の目に注意しろ。熟練の戦士なら兎も角、今の手加減した俺やモンスターならば視線と足運びで動きは読めるだろう」

 

「はい!」

 

「俺が相手をしてやれるのはあの御方のお許しが出るまでの間だけ。それ程期間は無いだろうが……」

 

 それまでは相手をしてやる、とオッタルが言った時、リリルカが思い出した様に呟いた。

 

「……神様の時間感覚ですからね。ソーマ様も団長が商売の規模拡大の為に酒造りを眷族に教えて欲しいとメリットを挙げて説得したのですが、ソーマ様も納得してその内に教えると仰ったそうで……既に一年が経過しました」

 

「……そうか」

 

 食事の席でヘスティアがヘファイストスのホームに居候しつつ眷属を探すと言いつつ数ヶ月ダラダラし続けた事も思い出し、オッタルは少しだけ不安になった。

 

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