「なあ、彼奴って……」
「【銭ゲバ】だな」
労働を終え、入って来るであろう金額に肩の荷が降りた気分で歩く中、悪い意味で有名な俺の耳にヒソヒソ声が届くんだが、別に良いや。
「聞けば第一級なのに平団員だとか。第一級とかも怪しいもんだな」
「所詮はソーマ・ファミリアだし、インチキだよインチキ」
大抵の場合は俺より年上で大柄で稼いでなくて、ずっと弱い連中なんだから。故に俺は何も言わないんだが、横を歩く妹はご立腹の様子。
口には出さなくても視線で言い返すべきだって訴えてくるが兄想いで嬉しいもんだ。
でもなあ……。
「
嫉妬なんてものは大抵の場合、相手の方が自分より下だと思っているからこそ発生するもんだ。んで、俺を見下す最大材料は種族だ。
頑丈な身体も魔法適性も持たず、高名な冒険者なんてフィンとガリバー兄弟程度なんだ、そりゃ見下すだろうさ。
千年前の“お前らの信仰対象居ねえから事件”(俺が命名)が没落の理由だって主張するのも居るが、どんだけ前だと思ってるんだか。
「兄さんは呑気過ぎます!」
「へいへい、兄ちゃんの事大好きな妹で幸せですよっと」
俺の事を俺以上に怒るリリルカの頭を軽くペシペシ叩いていると目の前には根暗そうな神の姿が見える。
ああ、丁度良い所に。ウチのアホ神ことソーマ様だわ。
酒の材料を自分の目で見たいのか市場で何やらブツブツ呟きながら商品を眺めているソーマ様に近付けば一瞬だけ視線を向け、直ぐに戻す。
ウチの主神は基本的に眷属への関心が薄い。精々が金を稼ぐ働き蟻程度の認識じゃねえの?
酒で狂う姿に絶望したとかザニスが笑いながら言ってたっけか。
俺は酒の匂いが生理的に無理だから初めて差し出された神酒を飲まなかった。だって嫌いなもんは嫌いだし。
「ソーマ様、ちょっと外に出たいから形式上の許可くれ。上納金は普段通り団長に渡してっから」
「……好きにしろ」
そんな訳でファミリアでは自由にやれている。許可を求めれば面倒臭そうに返事をするだけで後はガン無視。
これだからウチのファミリアは自由に動きやすい。
5迄ランクアップしたら他のファミリアじゃ責務が発生するからな。金さえ多めに出しときゃザニスとかに運営丸投げで良いし、実に快適だ。
……俺が魔法に目覚めた時、最初に興味を持ったのが【啓示】って奴だった。半年に一度の制限付きで精々が卵の安売りとか十ヴァリス拾える場所とかの役に立つが微妙なアドバイスをしてくれるんだが、最初の一回だけは違った。
大きな戦いに妹共々巻き込まれるから力を磨け、それが魔法に目覚めたばかりの俺に授けられた予言であり、何故か人に話せないが俺が金を求める理由だ。
いや、抽象過ぎだろ。それこそ世界の命運を左右する戦いを終えない限り不安が続くって。
力も運命からの脱却も金さえ有ればどうにかなるかも知れないのが俺の持つ才能なんだよ。
「世の中ってやっぱり運だよな。妹は当たりだけれど両親やら主神は大外れだったし」
人種、才能、環境、立場、そして死後に魂を管理する神の性格。生まれてから生まれ変わるまでに運に左右される要素が多過ぎるだろ、この世界。
思わず本神の近くで呟いちまったが、どうせ尊敬されてないのは分かってるんだから別に良いだろうさ。
「リリルカ、ソーマ様の護衛頼む。何があるか分からないからな。……それと借りてくぞ」
「別に良いですが、また出掛けるんですね。今度も早く帰って来て下さいよ?」
「運が良かったらな。まあ、軽く儲けて帰って来るさ」
「……酒の材料になる珍しい物があれば土産に買って来てくれ」
おっと、話はちゃんと聞いていたんだな、ソーマ様。
一応俺の力はこの神が恩恵授けてくれたからだし、その程度は別に良いんだよ。気に入った場合、 定期的に取り寄せる為に奔走するのは俺じゃねえし。
俺は話を切り上げると差し出されたリリルカの手に軽く触れ、額面が減るのを感じ取りながら路地裏へと駆け出して行った。
「ロキ・ファミリアが遠征失敗か。こりゃラキアが調子づきそうな話題だな」
数日後、オラリオの外にて耳に入った噂に呟く。結局、あの後でクソうざい階層無視の砲撃で荷物を失って帰還したとか。
ラキアが調子に乗れば戦火に巻き込まれて泣く連中が多く出る。
なのに国民は主神であるアレス大好きなんだから笑えねえ。次にオラリオに攻めて来たら両腕を切り落とせば良いんじゃねえ?
そうしたら新しい恩恵の授与も更新も出来ないんだしさ。
さて、思考が逸れたし、今は仕事に集中するか。
周囲は荒野、目の前には打ち捨てられたのを不恰好に補修した砦。中に居るのは犯罪組織の構成員だ。
強奪に焼き討ち、密輸に人攫いと、よくも此処迄欲望に忠実に生きられたなって感じだよ。
つまり溜め込んだ物を奪われようが四肢を欠損しようが……それこそ命を落としたって文句を言われる筋合いは無い連中ってな。
「【万民よ、金の前に頭を垂れて平伏せよ。この世に金に勝る物は無し。時も情も命さえも金の前には無価値なり。我が財を見よ。我が宝を讃えよ。開け、黄金郷の門】、エル・ドラド」
マジで酷い詠唱文だよなあ、ソーマ様でさえ“うわ……”って反応だったし。酒カス製造機の癖に。
足元に出現する魔法円が強く輝けば空間が歪み、中に口を開いた穴から金色の怒涛が溢れ出した。
太陽光を反射して少し眩しいので手で目を庇いつつ意識を集中させれば目の前の全てを押し流す勢いで流れるだけだった黄金の怒涛は姿を変えて行き、この時になって組織の連中は危機に気が付いたのか外に出て大騒ぎだ。
「ひーふーみー……先に始末したのを含めてほぼ全員か。丁度良いな」
【エル・ドラド】は一応召喚魔法に分類される。先にヴァリスなり宝石なりを消費して市場価格の半分の量の金が今後召喚可能になり、蒸発させられる等で失われない限りは蓄積し続けるリーズナブルな魔法。
魔法でリーズナブルとは? ってツッコミは受け付けていない。
砦の周囲を囲う様に黄金が流れ、やがて表面が鋭く隆起する。この時になってヤバいと思ったのか構成員達は逃げ出すが……遅え。
空へと向かって飛び出すのは数百数千もの黄金の矢。砦上空で折り返し、逃げ出した連中を追尾して命を刈り取って行く。
この連中の被害者と違って一撃で死ねているんだから俺って慈悲深いな。装備は後で剥ぎ取って無事なのを叩き売るとして……。
「後は中に残った連中か。【貴方の刻印は私のもの。私の刻印は私のもの】、シンダー・エラ」
俺より便利なリリルカの魔法を使えば姿が一瞬で変わる。身長はグッと伸び、オッタル並の体格を持つアマゾネスへと変貌した俺は本来の獲物とは違う巨大なメイスを肩に担ぐと砦へと向かって行った。
「テメェ、まさか噂の“盗賊狩り”!?」
「逃げっ、ぎゃっ!?」
中に残っているのは昼間から酒を飲んで事態の把握にも動かなかった結構な身分の連中。実際、近くの国のお偉いさんらしいのもいたが、慈悲深い俺は命は奪わない。
殺さない様に死なない様に、手足を潰して傷口は焼き潰して止血をして、うっかり舌を噛み切らない様に下顎を潰して放置する。
これで犯罪組織を潰して回ってるのはアマゾネスだって噂が残る。じゃないと俺が姿を見せない間に起きてるって勘付く奴は出るだろうからな。
「……うへぇ」
地下牢に向かえば正気を失った目の女に覆い被さって腰を動かしてるのがいたんだが汚いケツを見せられた不愉快さから頭を潰しちまった。
捕えられてる中に貴族の娘とか居たら礼金が期待出来そうなんだが面倒も多そうだから放置で良いや。見つけたら惜しいって思っちまうし。
あらから始末したし、後は近くの騎士団にでもちゃんと仕事して貰おうと思ったら奥の檻に鎖で繋がれているモンスターを発見した。
怪物趣味が好む人間っぽい見た目を持つモンスターの一体であるアラクネ、しかも通常より人間に近いし幼い見た目。
「助け…て……」
あれ? 今、喋った?
「良いや。どっちにしろ殺すだけだし」
言葉を真似するだけでも厄介。実際に理解して使うなら通常より複雑な思考と情報伝達が可能って事で……繁殖されたら面倒だし。
容赦無く頭にメイスを叩き込んで潰す。言葉が通じる人間同士でも此処やラキアの連中みたいなのが居るんだ。
言葉が通じるからって容赦する必要は無いだろう?
さっさと金目の物を掻き集めたら近くに知らせに行って帰るか。猫ババ? 手数料だよ、手数料。戦いで被害出ないんだから俺も向こうも得しか無いだろ?
なんでリリルカの魔法が使えるかは……今後