ダンジョンに儲けを求めて何が悪い!   作:ケツアゴ

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第二十話

 金じゃ命は買えないが、金の有無が命に直結するのが冒険者だ。優れた装備にポーション類、そして戦いに万全の状態で挑む為にも生活費は削れない。

 ベル達だってアドバイザーに許可された階層じゃ日々の食費は別として装備の為の貯金とまでとなったら難しいので俺達の家に呼んで飯を食わせてやっている。

 

 食費? ツケだよ、ツケ。ちょーっとややこしい文章の契約書に一応神のヘスティアが熟読するより前にベルのサインを貰って上級冒険者になるまでの貸しにしておいた。

 

 ツケっつったらザルドからもそろそろ回収しねぇとな。複利だから現在の額が三億を軽く越えちゃってるんだが、ロキ・ファミリアにその数倍の値段で売れるダンジョンの情報でも良い。

 

 閑話休題、だから危ない時にボッタクって命懸けで集めた魔石やドロップアイテムやらを持って行った連中は命より金が軽いとは思ってないのか不満を持つのも居るんだが、ギルドはロイマンに鼻薬嗅がせているし、クレームなんてどうとでもなる。

 

 

 問題は……。

 

 

「久し振りじゃないの、キリア。今日も商売の仕入れ?」

 

「相変わらず恨み辛みの籠ったみたいな目をしてるわね。其処も可愛いんだけれど」

 

「ちょっと抱っこさせて」

 

 皮肉な事に自分の死とは無関係な神々からすれば稼いだ金程度で団員が助かったのは嬉しい事でしかなく、こうして買い物に出た時に遭遇したら寄って来るんだ、主に女神が。

 

 男神は気さくに話し掛けて来るだけだから別に良い。勧誘も致し方無いんだろうが、女神のスキンシップってどうして激しいかね?

 悪ふざけもあるんだろうが囲んで揉みくちゃにされて頬っぺたにキスをされる事も。良い匂いはするし柔らかいんだが、どうもそれだけだ。

 

 なんかなー、女神だからその辺の価値観が人間と違うから恥じらいが無いんだろう。

 処女神のヘスティアさえ痴女みてぇな格好だし。貞淑と潔癖を履き違えた何処ぞのポンコツエルフなら着た瞬間に卒倒するんじゃねえのか?

 

 

 

「買い物の途中だから……」

 

 神の見た目は人と同じ(ウラノス様はでっけぇらしいが)、そして女神は美しいから抱き締められたり密着されたりが嬉しいと思う奴は多いんだろう。

 それは知っている。今も周囲から嫉妬の視線を感じているからな。

 

 

 でも、神は神だろ? 美しいとは思っても俺は女神には異性へのドキドキはあんまり感じない。大自然の壮大な景色とか……高名な彫刻家や画家の手掛けた裸婦画とか裸婦像とかと同じ? 

 新緑の大樹や裸婦画と恋愛したいと思うか? しないだろ。

 

 

 それで只でさえ評判が悪くて女にモテないのに女神に囲まれる事が多いから人間の女にはモテないし。

 お陰で普通に話せるのは商売のお得意様の一部やら付き合いの長いヘイズやアミッド。その連中も守備範囲外だったり他に意中の相手が居るとかで対象にはなり得ない。

 

 

 まあ、金の有無が他よりも命に直結するから振る舞いを変える気は無いけれどな。

 

 だが出来れば女に囲まれてチヤホヤされたい。身長が違い過ぎるのは趣味の範囲外な。アマゾネスみたいにガツガツしたのも駄目で、金目当ては論外だ。

 

 

 それと……。

 

 

 

 

 

 

 

「九十越えて行き遅れ拗らせたエルフに襲われちまってさ。変態は怖いよ、変態は。エルフだから見た目は若くて綺麗だったが、中身は完全に行き遅れ過ぎて焦った見苦しいババアだぜ」

 

「お前、ウチのエルフ達には聞かれるなよ。絶対に酷い事になるんだから」

 

 

 

 女神の包囲網から抜け出して仕入れを終えた俺が直行したのはダンジョン深層五十階層。普段ならポーションやら以外にも個人相手に売る物も持って来るんだが、どうも今回の商売は大儲けとは程遠い気がして、取り敢えず安価だが貴重となる新鮮な食料だけにした。

 

 確かにダンジョン内部でも野草や果物はあるが、美味い飯は士気に直結するもんな。お陰で行き帰りに掛かる費用をさっ引いても結構な儲けになった。

 

 但し……。

 

「総員、警戒を強めておけ。異変があれば直ぐに知らせろ!」

 

 俺の直感はそれなりに信用されている。フィンの親指の疼きっつう例が身近だからか? 自分達の到着に合わせて商売に来る俺が儲けが大した事にならないと言ったせいで何かあると思ったみたいで、商品のチェックを他の団員に任せてハイエルフは警戒指示の真っ最中。

 

 そんな最中の雑談で俺の発言に顔を青ざめさせたので思い出すが、あの女って百近い未婚だったっけな。そもそもこの派閥の構成員って恋愛弱者が多いし。

 

 どうも幹部陣は殆どがキャンプ地から先に進んでいるらしく、残った幹部であるリヴェリアだけが居る状態なんでイレギュラーが起きれば危ういわな、と思った所でイレギュラーの発生だ。

 

 

 

「何だ、あのモンスターは……」

 

 地響きあげて迫って来る芋虫に似たモンスターの大群。数百じゃ足りねえだろうって数の新種に対し、流石は最大ファミリアの構成員だ。

 吐き出した消化液に槍の穂先を溶かされながらも目に突き刺して蹴りを叩き込む。

 

 結果として少し逸りすぎたと言えるだろう。貫かれて蹴り飛ばされた芋虫は空中で爆発、消化液がその団員が立っている場所まで届く勢いでぶちまけられた。

 

「……貸しな。後程取り立てるから」

 

 イレギュラーの連続に流石に固まっていた馬鹿の前に降り立った俺はそのまま陣地へと蹴り飛ばし、消化液が振り掛かる前に飛び退いた。

 こりゃ黄金出しても溶かされて終わりだ。砕かれようが斬られようが問題は無いんだが、溶かされたら量が減っちまう。

 

 

「盾を用意しろ! 絶対に陣地には入れさせるな!」

 

 速攻で戦闘指揮に入るリヴェリアと戦闘体型に入る面々を見てるとオッタル達がどれだけ集団として駄目なのかがよく分かるぜ。

 

「さてと……魔法は駄目だが接近戦はもっと駄目だな、こりゃ」

 

 肉断ち丸の刃を鞘に納め腰を落として片膝を付いた姿勢で目を閉じれば感じるのは肌に触れる振動と風の音、そして迫り来る巨大な芋虫の気配。

 

 時間にして凡そ三秒、第一級冒険者同士の一騎打ちなら首を差し出して平伏するに等しい隙の中、脱力状態へと切り替え瞬時に全身に力を込める。

 

 僅かに響いたのは鍔鳴り。瞬間、群れの後列の中央を走っていた芋虫数匹に横一列の線が走り、溶解液を撒き散らして爆散した。

 撒き散らかされた溶解液を浴びた他の新種も体表から溶け始めて同じく溶解液を撒き散らかし、更にそれが連鎖を広げて行く。

 

「……今のは“残光”? あの様な技をよもや会得していたとはな」

 

「いーや? オッタルに見せて貰ったのとタケミカヅチ様に習った抜刀術を組み合わせてLv.6のステイタスで無理矢理劣化再現しただけだ」

 

 リヴェリアは俺の放った技を前にして驚いているが、こんな中途半端な技じゃ俺は満足出来やしない。

 何せ前最大派閥の力を目にした事があるからな。本来の残光は魔法による砲撃すら上回る。タケミカヅチ様に才能があると褒めて貰っていようが経験が足らない俺じゃ自惚れる余地なんて無いのさ。

 

 ……リリルカが居たら【結束強絆(ファミリア・チェイン)】の相乗効果でもう少しマシな威力になるんだが、本家本元に並ぶにゃ奥の手の禁断魔法を使わなきゃな。

 

 絶対に嫌だ!

 

「たった半年でランクアップしたのか……」

 

 公式記録の更新にリヴェリアは驚いた様子を見せるが詠唱は続けている上に的確に指示も飛ばしている。

 流石はベテラン冒険者、亀の甲より歳の……おっと、この辺で止そう。

 

「運が良かっただけさ。それよりもオーダーしてないお代わりがお出ましだぜ」

 

「運の良さだけでランクアップは出来ぬものだがな。……アイズが五月蝿くなりそうだ」

 

 あー、あの情緒幼女ならランクアップの理由を聞きにきそうだな。実際、成長促進や転移に使える魔法に目覚めた運を持っていたからだし、頑張って成長促進スキルにでも目覚めてくれとしか言えないけれど。としか、じゃなくって、と言えない、か。

 

 それでもムキになって聞き出そうとするのは

 

 さっきの一撃で倒せたのは大軍のほんの一部。連鎖に巻き込まれない場所に居た奴等は狂った様にロキ・ファミリアの陣地に向かって爆走中。

 攻撃したら武器を溶かす溶解液を撒き散らしながら爆発とか相手してらんねー。

 

 俺、帰って良いか? 商売しに来ただけだし……駄目かぁ……。

 

「安心しろ。ちゃんと手伝いの駄賃は私のポケットマネーから払ってやるから残光擬きを連発していろ。居るだけでも助かるが、第一級冒険者を遊ばせておく余裕は無いのでな」

 

「……見抜かれてたか」

 

 心の中で年増扱いした事、……ではなくて一人で帰ろうとした事と【結束強絆(ファミリア・チェイン)】の力にだ。

 

 前に何度か商売途中やダンジョンでの戦闘に手を貸したりしただけだが、その際にステイタスが一時的に強化されてるってよく分かったもんだ。

 リリルカも持っている事や相乗効果で性能が上がる事まで気が付いてなきゃ良いが……。

 

「さっきの助け賃とは別計算な!」

 

 確かに俺の残光は劣化した物。範囲も威力も物足りないねえが、連射速度と飛距離には自信がある。響き続ける鍔鳴りの音。

 他の連中も魔法やら何やらで迎撃し、それを続けていると……。

 

「ちぃ!」

 

 それは一瞬の事だった。新種の大群に意識が向いて気が付いたのはギリギリ。相手が油断してか漏らした殺気を浴びて飛び退き様に刀を振えば伝わって来るのは硬質な感触。一寸遅れて俺が居た場所から響く破砕音。

 

 見慣れない赤髪の女が拳を地面に叩き付けながら忌々しそうに口を開いた。

 

「……あの神め。この実力とは聞いていないぞ」

 

「指全部持って行く気で振るったんだがな……」

 

 地面に落ちたのは女の子指一本。後は深い切り傷が刻まれているだけで平然としているが、口振からして俺を狙っての襲撃か? ロキ・ファミリアを巻き込んで?

 

「あの婚期逃した行き遅れエルフの仲間か? オーディンの命令で動いているのかよ、テメェ」

 

「答える義務は無い。そもそも前者は知らん。……む?」

 

 会話して隙と情報狙っても効果が無いのか女が構えを取った時、その動きが一瞬止まる。表情には明らかに動揺が浮かんで……。

 

「アリア……?」

 

 何か知らんが隙を見せたので残光擬き。リヴェリアの命令か矢も魔法も女に飛んで来る中、魔法は素手で弾かれるも斬撃は胸に深い傷を付ける。

 

「おいおい、本当に人間かよ……」

 

 それでも女は生きていた。傷口も無理矢理閉じる様に塞がり、ダメージは大きいが立っている。その姿に、何より胸の奥に一瞬見えた物に俺は絶句し、それが大きな隙になった。

 

 

「目当ての顔さえ拝めないのは惜しいが……今は退散だ」

 

 赤髪の女が高く跳躍して逃走を始める中、そこに掛けられた追撃を遮る様に緑の壁が地面から出現。

 その隙に女は階層の奥へと逃げ出した。

 

 

「何処の誰かは知らねえが……手掛かりは有るか」

 

 芋虫共を蹴散らしながら到着したアイズの姿に俺は安心する。遠くから彼奴の風に反応してたし、俺が襲撃に巻き込んだってのは免れそうだ。

 

 これで助っ人料は請求出来るな。やったぜ!

 

 

 あー、でも厄介なネタが残ってるんだよなぁ。情報共有しとくか?

 

 

「おい、先程の女との会話について少し話がある」

 

 先ずは団長のフィンに話すべきかって思っていると先にリヴェリアが話し掛けて来たんだが、どうも威圧感が凄い。

 俺と彼奴に因縁でもあると思ったのとは違う感じだが。

 

 

「話? さっきの女との会話……あー」

 

 婚期逃した行き遅れエルフって所か? やべぇ、勘違い解かずにいたらオラリオ中のエルフを敵に回すってレベルじゃねえぞ。

 

「奴がアリアと口にした事は絶対に黙っていろ。良いな? 口止め料はくれてやる」

 

「アリ……何だっけ? んな事を言っていた記憶がねえが、貰える金は貰っておく」

 

 ……よーし、助かった。一瞬、王族+第一級冒険者+母親役の三つで結婚の可能性が限りない低いのを気にしていると思ったぜ。

 

 

 

 

 

 

 

「それはそうとして今回は妹を連れて来てはいないのだな。直感か?」

 

「いや、確定申告の書類作業の残り全部押し付けたから。お宅の主神達に酒の事で絡まれたら兄ちゃん置いて逃げ出した薄情な妹への細やかな罰だ」

 

 俺の言葉にリヴェリアが頭痛を覚えた様子を見せた時、階層が大きく震えて巨大なモンスターが姿を表した。

 

 一見した所、あの芋虫を強化したみてえな見た目。それと粉をばら蒔いたと思いきや……爆発するのか。

 

 あれを倒しても溶解液をぶちまけるだろうし、最低限の荷物を持っての逃亡が無難か?

 

 誰かが足止めするにしても戦利品が結構オシャカになるのは勿体無いが……。

 

 

 

 

 

 

 

「相手が未知な以上は欲張り過ぎるのも悪手か。終わった頃に様子見に戻るから、その後の方針はそっちで決めてくれ」

 

 これはロキ・ファミリアの遠征で、俺は商売をしに来ただけ。最低限の手伝いはしたし、一旦上の階層で待機させて貰おうか。

 

 

 

 遠征続行の場合、物資補給を受けるとして手数料は何割にすっかな。

 

 

 

 

 

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